説明

シリコンインゴットの電磁鋳造方法

【課題】溶融シリコンの異物汚染を抑制できるシリコンインゴットの電磁鋳造方法の提供。
【解決手段】チャンバー1内を真空引きする際、シャッター30によって無底冷却ルツボ10の上端開口を遮蔽し、不活性ガス導入管4の遮断弁5を閉にし、通気管20、真空引き用配管23の各遮断弁21、25を開にした状態で、排気管7の排気ポンプ8を作動させることなく、真空引き用配管23の真空ポンプ24を作動させ、その後にチャンバー1内を不活性ガスで満たす際、ガス導入管4の遮断弁5を開に切り換えた状態にし、その後にシリコン原料14を溶解しながら連続鋳造する際、シャッター30を退避させてルツボ10の上端開口を開放し、通気管20、真空引き用配管23の各遮断弁21、25を閉に切り換えた状態で、排気ポンプ8を作動させ、その後にチャンバー1内でインゴット19を冷却する際、通気管20の遮断弁21を開に切り換えた状態にする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電磁誘導を利用して、太陽電池用基板の素材であるシリコンインゴットを連続鋳造するシリコンインゴットの電磁鋳造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
太陽電池の基板には、多結晶のシリコンウェーハを用いるのが主流である。その多結晶シリコンウェーハは、一方向凝固のシリコンインゴットを素材とし、このインゴットをスライスして製造される。したがって、太陽電池の普及を図るには、シリコンウェーハの品質を確保するとともに、コストを低減する必要があるため、その前段階で、シリコンインゴットを高品質で安価に製造することが要求される。この要求に対応できる方法として、例えば、特許文献1に開示されるように、電磁誘導を利用した連続鋳造方法(以下、「電磁鋳造方法」ともいう)が実用化されている。
【0003】
図7は、電磁鋳造方法で用いられる従来の電磁鋳造装置の構成を模式的に示す縦断面図である。同図に示すように、電磁鋳造装置はチャンバー1を備える。チャンバー1は、内部を外気から隔離し鋳造に適した不活性ガス雰囲気に維持する二重壁構造の水冷容器である。チャンバー1の上壁には、原料供給ホッパー2が連結されている。チャンバー1は、上壁に不活性ガス導入口3が設けられ、下部の側壁に排気口6が設けられている。
【0004】
不活性ガス導入口3には、チャンバー1内に不活性ガスを導入するための不活性ガス導入管4が接続され、この不活性ガス導入管4には、経路を開閉する遮断弁5が設けられている。排気口6には、チャンバー1内の雰囲気ガスを排出するための排気管7が接続され、この排気管7には、排気ポンプ8が連結されるとともに、チャンバー1内の圧力を調整する圧力調整弁9が設けられている。
【0005】
チャンバー1内には、無底冷却ルツボ10、誘導コイル11およびアフターヒーター12が配置されている。冷却ルツボ10は、溶解容器としてのみならず、鋳型としても機能し、熱伝導性および導電性に優れた金属(例えば、銅)製の角筒体であり、チャンバー1内に吊り下げられている。この冷却ルツボ10は、上部と下部を残して縦方向に図示しないスリットが複数形成され、このスリットにより周方向で複数の短冊状の素片に分割されており、内部を流通する冷却水によって強制冷却される。
【0006】
誘導コイル11は、冷却ルツボ10を囲繞するように、冷却ルツボ10と同芯に周設され、図示しない電源装置に接続されている。アフターヒーター12は、冷却ルツボ10の下方に冷却ルツボ10と同芯に複数連設され、冷却ルツボ10から引き下げられるシリコンインゴット19を囲繞する。アフターヒーター12は、冷却ルツボ10に近い上方から順に保温ヒーター12aと均熱ヒーター12bから構成され、インゴット19を加熱して、その軸方向に適切な温度勾配を与える。
【0007】
また、チャンバー1内には、原料供給ホッパー2の下方に原料導入管13が配設されている。粒状や塊状のシリコン原料14が原料供給ホッパー2から原料導入管13に供給され、原料導入管13を通じて冷却ルツボ10内に投入される。
【0008】
チャンバー1の底壁には、アフターヒーター12の真下に、インゴット19を抜き出すための引出し口15が設けられ、この引出し口15はシールされている。インゴット19は、引出し口15を貫通して下降する支持台16によって支えられながら引き下げられる。
【0009】
冷却ルツボ10の真上には、プラズマトーチ17が昇降可能に設けられている。プラズマトーチ17は、図示しないプラズマ電源装置の一方の極に接続され、他方の極は、インゴット19側に接続されている。このプラズマトーチ17は、下降により冷却ルツボ10の上部に挿入される。
【0010】
また、チャンバー1の中心軸を間に挟む両側壁には、それぞれチャンバー1の側壁の上部と下部に連結された通気管20が設けられている。これらの通気管20は互いに連通し、各々の上下の各端は、冷却ルツボ10の上方に相当する位置と、冷却ルツボ10の下方に相当する位置にそれぞれ開口している。各通気管20には、経路を開閉する遮断弁21が設けられている。
【0011】
さらに、通気管20からは、チャンバー1内を真空引きするための真空引き用配管23が分岐している。この真空引き用配管23には、真空ポンプ24が連結されるとともに、経路を開閉する遮断弁25が設けられている。この真空引き用配管23は、実質的な鋳造の前にチャンバー1内の雰囲気を空気から不活性ガスに置き換えるときのみに機能する。
【0012】
このような電磁鋳造装置を用いた電磁鋳造方法では、冷却ルツボ10にシリコン原料14を投入し、誘導コイル11に交流電流を印加するとともに、冷却ルツボ10の上部に挿入したプラズマトーチ17に通電を行う。このとき、冷却ルツボ10を構成する短冊状の各素片が互いに電気的に分割されていることから、誘導コイル11による電磁誘導に伴って各素片内で渦電流が発生し、冷却ルツボ10の内壁側の渦電流が冷却ルツボ10内に磁界を発生させる。これにより、冷却ルツボ10内のシリコン原料14は電磁誘導加熱されて溶解し、溶融シリコン18が形成される。また、プラズマトーチ17と溶融シリコン18との間にプラズマアークが発生し、このプラズマアーク加熱によっても、シリコン原料14が加熱されて溶解し、電磁誘導加熱の負担を軽減して効率良く溶融シリコン18が形成される。
【0013】
溶融シリコン18は、冷却ルツボ10の内壁の渦電流に伴って生じる磁界と、溶融シリコン18の表面に発生する電流との相互作用により、溶融シリコン18の表面の内側法線方向に力(ピンチ力)を受けるため、冷却ルツボ10と非接触の状態に保持される。冷却ルツボ10内でシリコン原料14を溶解させながら、溶融シリコン18を支える支持台16を徐々に下降させると、誘導コイル11の下端から遠ざかるにつれて誘導磁界が小さくなることから、発熱量およびピンチ力が減少し、さらに冷却ルツボ10からの冷却により、溶融シリコン18は外周部から凝固が進行する。そして、支持台16の下降に伴ってシリコン原料14を冷却ルツボ10内に逐次投入し、溶解および凝固を継続することにより、溶融シリコン18が一方向に凝固し、インゴット19を連続鋳造することができる。
【0014】
鋳造中、チャンバー1内を不活性ガス雰囲気に維持するため、不活性ガス導入管4を通じてチャンバー1の上壁の不活性ガス導入口3から不活性ガスが逐次供給され、チャンバー1内の不活性ガスは、チャンバー1の下部側壁の排気口6から排気管7を通じて逐次排出される。このとき、プラズマトーチ17からのプラズマアークにより溶融シリコン18からSiO(シリコン酸化物)が激しく蒸発しており、このSiOガスは不活性ガスとともに最終的に排気口6から排出される。
【0015】
このような電磁鋳造装置によれば、溶融シリコン18と冷却ルツボ10との接触が軽減されるため、その接触に伴う冷却ルツボ10からの不純物汚染が低減され、高品質のインゴット19を得ることができる。しかも、連続鋳造であることから、安価にインゴット19を製造することが可能になる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【特許文献1】国際公開WO02/053496号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
上述した従来の電磁鋳造方法では、シリコン原料14を溶解しながら連続鋳造する際、真空引き用配管23の遮断弁25を閉にするとともに、不活性ガス導入管4の遮断弁5および通気管20の遮断弁21を開にした状態、すなわちチャンバー1と通気管20を連通させた状態で、排気ポンプ8のみを作動させ、これにより、チャンバー1内を不活性ガス雰囲気に維持する。このような連続鋳造の際、チャンバー1内は高温のインゴット19が存在することから通気管20内よりも温度が高くなる。この温度差に起因し、チャンバー1と通気管20の間には、図7中の実線矢印で示すように、雰囲気ガスの自然対流が発生する。
【0018】
具体的には、チャンバー1内で冷却ルツボ10の上方に存在する雰囲気ガスは、ここに開口する通気管20の上端から通気管20内に導入され、通気管20内を下降した後、冷却ルツボ10の下方に相当するチャンバー1の下部内に送り出される。通気管20を通じてチャンバー1の下部内に導入された雰囲気ガスは、最終的には排気口6からチャンバー1の外部に排出されるが、大半はチャンバー1内を上昇し、冷却ルツボ10の外側からその上方に到達する。このような雰囲気ガスの自然対流が発生する。
【0019】
すると、対流する雰囲気ガス中に異物が含まれていた場合、その異物が雰囲気ガスの流れに伴って冷却ルツボ10の真上まで運ばれ、冷却ルツボ10内に落下して溶融シリコン18中に混入することがある。この場合、溶融シリコン18が異物で汚染されることから、この溶融シリコン18から鋳造されたインゴット19は品質が低下する。
【0020】
通常、アフターヒーター12は抵抗加熱式のヒーターであり、そのうちの保温ヒーター12aは、インゴット19を囲繞する発熱体としてカーボンが採用される。一方、均熱ヒーター12bは、インゴット19を囲繞する発熱体としてカンタル線などの耐熱合金の金属線が採用され、この金属線が金属枠体内に保持された角筒状の断熱材の内周面に設置されて構成される。このため、雰囲気ガスがチャンバー1内のアフターヒーター12に沿って上昇する過程で、カーボン製の保温ヒーター12aや金属製の均熱ヒーター12bから炭素やFeやNiやCrなどの異物が雰囲気ガス中に取り込まれ易い。
【0021】
また、鋳造に先立ち、チャンバー1内を空気から不活性ガスに置き換える際、先ず、不活性ガス導入管4の遮断弁5を閉にするとともに、通気管20の遮断弁21および真空引き用配管23の遮断弁25を開にした状態、すなわちチャンバー1と真空引き用配管23を通気管20を介して連通させた状態で、排気ポンプ8を作動させることなく、真空ポンプ24のみを作動させ、これにより、チャンバー1内を真空引きする。真空引き後、不活性ガス導入管4の遮断弁5を開に切り換えてチャンバー1内に不活性ガスを導入し、チャンバー1内を不活性ガスで満たす。
【0022】
このような連続鋳造前のチャンバー内ガス置換の際、真空状態のチャンバー1内に不活性ガスが急激に導入される。このとき、チャンバー1内の上部、すなわち冷却ルツボ10の上方には、先の連続鋳造で発生したSiOなどの異物が付着しているが、不活性ガスの急激な導入に伴う衝撃により、その異物が脱落し、冷却ルツボ10内に落下することがある。この場合、冷却ルツボ10内に落下した異物は、その後の原料溶解および連続鋳造で溶融シリコン18を汚染することから、この溶融シリコン18から鋳造されたインゴット19は品質が低下する。
【0023】
本発明は、上記の問題に鑑みてなされたものであり、操業中に溶融シリコンが異物で汚染されることを抑制できるシリコンインゴットの電磁鋳造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0024】
本発明者は、上記目的を達成するため、鋳造前のチャンバー内ガス置換および連続鋳造の際の操業条件に着目して鋭意検討を重ね、種々の試験を行った。その結果、ガス置換の際に、冷却ルツボ内に異物が落下するのを防止するには、冷却ルツボの上端開口をシャッターで遮蔽するのが有効であり、また、連続鋳造の際に、冷却ルツボ内に異物が落下するのを防止するには、チャンバー内の雰囲気ガスの流れを下向きに制御するのが有効であることを知見し、本発明を完成させた。
【0025】
本発明の要旨は、下記に示すシリコンインゴットの電磁鋳造方法にある。すなわち、チャンバー内に配置した導電性を有する無底冷却ルツボにシリコン原料を投入し、前記ルツボを囲繞する誘導コイルからの電磁誘導加熱により前記原料を溶解させ、この溶融シリコンを前記ルツボから引き下げながら凝固させてシリコンインゴットを連続鋳造する電磁鋳造方法であって、
前記ルツボの上端開口の直上にその開口を開閉するシャッターが配設され、前記チャンバーの上壁には不活性ガス導入管が連結され、前記チャンバーの下部側壁には排気管が連結され、前記排気管には排気ポンプが連結され、前記チャンバーの側壁には前記ルツボの上方と下方で開口する通気管が連結され、前記通気管からは真空引き用配管が分岐し、前記真空引き用配管には真空ポンプが連結され、前記ガス導入管、前記通気管および前記真空引き用配管には各々の経路を開閉する遮断弁が配設され、前記排気管には圧力調整弁が配設されており、
前記原料を溶解する前に前記チャンバー内を真空引きする際、前記シャッターによって前記ルツボの上端開口を遮蔽し、前記ガス導入管の遮断弁を閉にし、前記通気管および前記真空引き用配管の各遮断弁を開にした状態で、前記排気ポンプを作動させることなく、前記真空ポンプを作動させ、
その後に前記チャンバー内を不活性ガスで満たす際、前記ガス導入管の遮断弁を開に切り換えた状態にし、
その後に前記原料を溶解しながら連続鋳造する際、前記シャッターを退避させて前記ルツボの上端開口を開放し、前記通気管および前記真空引き用配管の各遮断弁を閉に切り換えた状態で、前記真空ポンプを作動させることなく、前記排気ポンプを作動させ、
その後に前記チャンバー内で前記インゴットを冷却する際、前記通気管の遮断弁を開に切り換えた状態にすることを特徴とするシリコンインゴットの電磁鋳造方法である。
【0026】
上記の電磁鋳造方法では、前記原料を溶解しながら連続鋳造する際、前記ガス導入管を通じて前記チャンバー内に導入する不活性ガスの流量を50リットル/分以上とすることが好ましい。
【0027】
また、上記の電磁鋳造方法では、前記通気管にはこの経路内のガスを下向きに送り出す送風機が配設されており、
前記チャンバー内を真空引きする際、前記チャンバー内を不活性ガスで満たす際、および前記原料を溶解しながら連続鋳造する際、前記送風機を作動させることなく、
前記チャンバー内で前記インゴットを冷却する際、前記送風機を作動させる構成とすることができる。
【発明の効果】
【0028】
本発明のシリコンインゴットの電磁鋳造方法によれば、鋳造前のチャンバー内ガス置換の際に、冷却ルツボの上端開口をシャッターで遮蔽するため、冷却ルツボ内に異物が落下するのを防止することができる。さらに、連続鋳造の際に、通気管への雰囲気ガスの流通を遮断することにより、チャンバー内の雰囲気ガスの流れが下向きとなるため、冷却ルツボの下方で雰囲気ガス中に取り込まれた異物が冷却ルツボの真上に運ばれて溶融シリコン中に落下するのを防止することができる。したがって、操業中に溶融シリコンが異物で汚染されるのを抑制することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明のシリコンインゴットの電磁鋳造方法を適用できる電磁鋳造装置の構成を模式的に示す縦断面図である。
【図2】シャッターのスライド移動機構の一例としてボールねじ機構を模式的に示す図である。
【図3】本発明のシリコンインゴットの電磁鋳造方法を説明するための模式図である。
【図4】シャッターのスライド移動機構の別例を模式的に示す図であり、同図(a)は電磁鋳造装置の横断面図を、同図(b)は同図(a)のA−A断面図を、同図(c)はシャッターによって冷却ルツボの上端開口を遮蔽した状態のときの縦断面図を、同図(d)はシャッターを退避させた状態のときの縦断面図をそれぞれ示している。
【図5】実施例1の試験結果を示す図である。
【図6】実施例2の試験結果を示す図である。
【図7】電磁鋳造方法で用いられる従来の電磁鋳造装置の構成を模式的に示す縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下に、本発明のシリコンインゴットの電磁鋳造方法について、その実施形態を詳述する。
【0031】
図1は、本発明のシリコンインゴットの電磁鋳造方法を適用できる電磁鋳造装置の構成を模式的に示す縦断面図である。同図に示す本発明における電磁鋳造装置は、前記図7に示す電磁鋳造装置の構成を基本とし、それと同じ構成には同一の符号を付し、重複する説明は適宜省略する。
【0032】
図1に示すように、本発明における電磁鋳造装置は、チャンバー1の側壁の上部と下部に連結された通気管20を有し、各通気管20の経路に送風機22が設けられている。送風機22は、作動することにより、通気管20内のガスを強制的に下向きに送り出す。送風機22としては、ファンやブロアを採用できる。
【0033】
また、チャンバー1内には、冷却ルツボ10の上端開口の直上に矩形板状のシャッター30が配設されている。シャッター30は、水平方向にスライド移動が可能に構成され、スライド移動により進出した状態で、冷却ルツボ10の上端開口の全域を遮蔽し、スライド移動により後退して冷却ルツボ10から退避させた状態で、冷却ルツボ10の上端開口の全域を開放させる。図1では、後者の状態を示している。
【0034】
シャッター30は、耐熱性と適度な機械的特性があればその材質に限定はなく、例えば、ガラス繊維を強化剤とし、無機物系バインダーを結合剤とするガラス繊維絶縁材料を採用したり、ステンレス鋼を採用することができる。実用的には、シャッター30は、ステンレス鋼を基板とし、この基板の下面にガラス繊維絶縁材料の補助板を積層した構成とするのが好ましい。
【0035】
シャッター30をスライド移動させる機構としては、ねじ軸とボールナットで構成されるボールねじ機構を採用することができる。また、ラック・アンド・ピニオン機構を採用したり、油圧シリンダを用いることもできる。
【0036】
図2は、シャッターのスライド移動機構の一例としてボールねじ機構を模式的に示す図である。同図に示すボールねじ機構32は、その主要な構成として、チャンバー1の側壁の外部に、支持部材35を介してねじ軸33が回転可能に支持され、このねじ軸33にボールナット34が挿入され互いに噛み合っている。
【0037】
ボールナット34には水冷構造の連結棒31が固定され、この連結棒31はOリング36を介在してチャンバー1の側壁を貫通し、チャンバー1内のシャッター30に接合されている。ねじ軸33の一端には、継手37を介し、駆動源として正逆回転の出力が可能なステッピングモータ38が連結されている。ステッピングモータ38の回転駆動により、ねじ軸33が軸回転し、これに伴いねじ軸33の軸方向に沿ってボールナット34が直線運動する。これにより、ボールナット34と一体の連結棒31およびシャッター30が進退し、シャッター30をスライド移動させることができる。
【0038】
なお、図2に示すボールねじ機構32は、手動によっても作動し、シャッター30をスライド移動させることができる。これは、ねじ軸33の他端にかさ歯車39を介してハンドル40を取り付け、このハンドル40を操作することにより実現できる。
【0039】
次に、このような構成の電磁鋳造装置を用いた電磁鋳造方法について説明する。
【0040】
図3は、本発明のシリコンインゴットの電磁鋳造方法を説明するための模式図であり、同図(a)はチャンバー内ガス置換の際の真空引き時の状態を、同図(b)はそのガス置換の際の不活性ガス導入時の状態を、同図(c)はガス置換後の原料溶解および連続鋳造の際の状態を、同図(d)は鋳造後のインゴット冷却の際の状態をそれぞれ示す。
【0041】
鋳造に先立ち、チャンバー1内の雰囲気を空気から不活性ガスに置き換える。その際、先ず、図3(a)に示すように、不活性ガス導入管4の遮断弁5を閉にするとともに、通気管20の遮断弁21および真空引き用配管23の遮断弁25を開にした状態、すなわちチャンバー1と真空引き用配管23を通気管20を介して連通させた状態で、排気ポンプ8を作動させることなく、真空ポンプ24のみを作動させる。このとき、予めシャッター30によって冷却ルツボ10の上端開口を遮蔽した状態にしておく。これにより、図3(a)中の実線矢印で示すように、チャンバー1内の空気が通気管20および真空引き用配管23を通じて強制排気され、チャンバー1内が真空引きされる。
【0042】
真空引きが完了すると、図3(b)に示すように、不活性ガス導入管4の遮断弁5を開に切り換え、チャンバー1内に不活性ガスを導入する。これにより、チャンバー1内が不活性ガスで満たされる。もっとも、このようなガス置換の際、プラズマトーチ17は、予め冷却ルツボ10の上方に退避させておく。また、冷却ルツボ10内には、予めシリコン原料14を装填しておいてもよいし(図3(a)および(b)参照)、連続鋳造に移行した段階で原料導入管13からシリコン原料14を投入してもよい。
【0043】
このように、チャンバー内ガス置換の際には、冷却ルツボ10の上端開口をシャッター30で遮蔽しているため、真空状態のチャンバー1内に不活性ガスが急激に導入され、チャンバー1内の上部から異物が脱落する場合であっても、その異物が冷却ルツボ10内に落下するのを防止することができる。
【0044】
ガス置換が完了すると、原料溶解および連続鋳造に移行する。このとき、図3(c)に示すように、シャッター30をスライド移動により後退させて冷却ルツボ10から退避させ、冷却ルツボ10の上端開口を開放させた状態にする。これと同時に、プラズマトーチ17を下降させて冷却ルツボ10の上部に挿入した状態にする。その上で、不活性ガス導入管4の遮断弁5を開にしたままで、通気管20の遮断弁21および真空引き用配管23の遮断弁25を閉に切り換え、この状態で、真空ポンプ24を停止させるとともに、排気ポンプ8を作動させ、シリコン原料を溶解しながら連続鋳造を行う。
【0045】
これにより、チャンバー1から通気管20へのガスの流通が遮断されているため、チャンバー1内に導入されて冷却ルツボ10の上方に存在する雰囲気ガス(不活性ガス)は、図3(c)中の実線矢印で示すように、チャンバー1内を下降し、排気口6からチャンバー1の外部に排出され、その結果としてチャンバー1内が不活性ガス雰囲気に維持される。その際、チャンバー1内の雰囲気ガスの流れが下向きとなるため、チャンバー1内の雰囲気ガスが冷却ルツボ10の下方から上方に到達することはない。このことから、冷却ルツボ10の下方で雰囲気ガス中に取り込まれた異物が冷却ルツボ10の真上に運ばれて溶融シリコン18中に落下するのを防止することができる。
【0046】
連続鋳造が完了すると、図3(d)に示すように、鋳造したインゴット19が全長にわたって均熱ヒーター12bの領域に収まるようにインゴット19を下降させ、適度な温度を保持しつつインゴット19を冷却する。このとき、不活性ガス導入管4の遮断弁5を開のまま、真空引き用配管23の遮断弁25を閉のまま、さらに排気ポンプ8を作動させたままで、通気管20の遮断弁21を開に切り換え、この状態で、送風機22を作動させる。
【0047】
その際、チャンバー1内の雰囲気ガスは最終的には排気口6からチャンバー1の外部に排出されるが、チャンバー1と通気管20が連通した状態に切り換わったため、チャンバー1内と通気管20内の温度差に起因し、さらには送風機22によるガスの送り出し作用により、図3(d)中の実線矢印で示すように、チャンバー1内を上昇して通気管20内の下降する雰囲気ガスの自然対流が発生する。これにより、インゴット19の冷却を促進することができる。
【0048】
以上の通り、本発明の電磁鋳造方法によれば、鋳造前のチャンバー内ガス置換の際、およびガス置換後の連続鋳造の際に、冷却ルツボ内に異物が落下するのを防止することができるので、操業中に溶融シリコンが異物で汚染されるのを抑制することが可能となる。その結果、品質に優れたシリコンインゴットを製造することができる。
【0049】
ここで、原料溶解および連続鋳造の際に、不活性ガス導入管を通じてチャンバー内に導入する不活性ガスの流量は、50リットル/分以上とするのが好ましい。不活性ガスの導入流量が50リットル/分未満であると、チャンバー内で下向きのガス流れが十分に形成されないからである。その上限は特に限定しないが、設備の能力を踏まえ実用的には300リットル/分程度とするのが好ましい。不活性ガスの導入流量のより好ましい範囲は、80〜200リットル/分である。
【0050】
また、チャンバー内に導入する不活性ガスとしては、HeやNeやArなどが好適であるが、これらの不活性ガスにH2やN2やO2などの活性ガスを少量混合したものであっても構わない。
【0051】
図4は、シャッターのスライド移動機構の別例を模式的に示す図であり、同図(a)は電磁鋳造装置の横断面図を、同図(b)は同図(a)のA−A断面図を、同図(c)はシャッターによって冷却ルツボの上端開口を遮蔽した状態のときの縦断面図を、同図(d)はシャッターを退避させた状態のときの縦断面図をそれぞれ示している。同図に示すシャッター30は、基板51の下面に補助板52を積層した2層構造の矩形板であり、冷却ルツボ10の上端に水平に設置されたガイドレール53によってその両側縁を支持され、ガイドレール53に沿ってスライド移動が可能に構成される。
【0052】
チャンバー1の側壁には、シャッター30が配設された高さの位置に貫通口50が形成され、この貫通口50にドラム収容箱54が取り付けられている。ドラム収容箱54には、外部のハンドル57を操作することによって回転するドラム55が収容され、このドラム55には、シャッター30の基板51に連結されたワイヤー56が巻き回されている。さらに、ドラム収容箱54の端面には、その内部のドラム55を視認できると同時に、チャンバー1内のシャッター30を視認できるように、監視窓58が設けられている。
【0053】
チャンバー1内の雰囲気を空気から不活性ガスに置き換える際は、図4(a)、(c)に示すように、予めシャッター30によって冷却ルツボ10の上端開口を遮蔽した状態にしておく。そして、ガス置換が完了し、原料溶解および連続鋳造に移行するときに、ハンドル57を操作し、ドラム55によってワイヤー56を巻き取る。これにより、図4(d)に示すように、シャッター30がワイヤー56で引っ張られてガイドレール53に沿ってスライド移動し、冷却ルツボ10の上端開口を開放させた状態にすることができる。
【0054】
なお、図4に示すシャッター30は、その基板51の四側縁が全周にわたって上方に突出している。このため、チャンバー内ガス置換の際に、チャンバー1内の上部から脱落した異物がシャッター30の上面に堆積した場合であっても、その後のスライドの際に、その異物が不用意に冷却ルツボ10内に落下するのを防止することができる。
【実施例】
【0055】
<実施例1>
前記図1に示す電磁鋳造装置を用い、一辺が345mmの正方形断面で全長が7000mmのシリコンインゴットを連続鋳造した。その際、本発明例1として、チャンバー内ガス置換のときに、冷却ルツボの上端開口をシャッターで遮蔽した。ただし、原料溶解および連続鋳造のときには、従来の操業条件と同様に、通気管の遮断弁を開にし、チャンバーと通気管を連通させた状態にした。また、比較例1として、従来と全く同じ操業条件を想定し、冷却ルツボの上端開口をシャッターで遮蔽することなく、チャンバー内のガス置換を行い、シリコンインゴットを連続鋳造した。
【0056】
その他の主な操業条件は下記の通りである。
・不活性ガスの種別:Arガス
・不活性ガスの導入流量:200リットル/分
・チャンバー内圧力:106.2kPa(1.08kgf/cm2
【0057】
本発明例1および比較例1の各試験で得られたインゴットから全長にわたってサンプルウェーハを採取し、各試験のすべてのサンプルウェーハについて、異物源の代表として炭素の濃度を測定した。炭素濃度の測定は、ASTM F121−1979に規定される赤外吸収法に準拠し、フーリエ変換型赤外分光光度計(FTIR)を用いた。そして、各試験で炭素濃度の測定値の平均値を評価した。さらに、各試験において、赤外透過型検査機を用いてすべてのサンプルウェーハを検査し、異物が検出されたウェーハの枚数を調査した。そして、異物検出枚数の全検査枚数に対する比率を不良率として評価した。
【0058】
図5は、実施例1の試験結果を示す図であり、同図(a)はシリコンインゴットにおける炭素濃度を、同図(b)は炭素起因の不良率をそれぞれ示す。同図に示す結果から、チャンバー内ガス置換の際に冷却ルツボの上端開口をシャッターで遮蔽した本発明例1では、シャッター遮蔽をしなかった比較例1と比べ、炭素濃度および不良率がともに低減し、溶融シリコンの異物汚染を抑制できることが明らかになった。
【0059】
<実施例2>
上記の実施例1と同様に、シリコンインゴットを連続鋳造した。その際、本発明例2として、原料溶解および連続鋳造のときに、通気管の遮断弁を閉にし、チャンバーから通気管へのガスの流通を遮断する状態にした。ただし、チャンバー内ガス置換のときには、従来の操業条件と同様に、冷却ルツボの上端開口をシャッターで遮蔽しなかった。また、比較例2として、従来と全く同じ操業条件を想定し、通気管の遮断弁を開にし、チャンバーと通気管を連通させた状態にして、シリコンインゴットを連続鋳造した。その他の操業条件および評価方法は上記の実施例1と同じである。
【0060】
図6は、実施例2の試験結果を示す図であり、同図(a)はシリコンインゴットにおける炭素濃度を、同図(b)は炭素起因の不良率をそれぞれ示す。同図に示す結果から、原料溶解および連続鋳造の際にチャンバーから通気管へのガスの流通を遮断する状態にした本発明例2では、通気管へのガス流通の遮断をしなかった比較例2と比べ、炭素濃度および不良率がともに低減し、溶融シリコンの異物汚染を抑制できることが明らかになった。
【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明のシリコンインゴットの電磁鋳造方法によれば、鋳造前のチャンバー内ガス置換の際に、冷却ルツボの上端開口をシャッターで遮蔽し、さらにガス置換後の連続鋳造の際に、通気管への雰囲気ガスの流通を遮断することにより、溶融シリコンが異物で汚染されるのを抑制することが可能になる。したがって、本発明の電磁鋳造方法は、品質に優れた太陽電池用のシリコンインゴットを製造することができる点で極めて有用である。
【符号の説明】
【0062】
1:チャンバー、 2:原料供給ホッパー、 3:不活性ガス導入口、
4:不活性ガス導入管、 5:遮断弁、 6:排気口、
7:排気管、 8:排気ポンプ、 9:圧力調整弁、
10:冷却ルツボ、 11:誘導コイル、 12:アフターヒーター、
12a:保温ヒーター、 12b:均熱ヒーター、 13:原料導入管、
14:シリコン原料、 15:引出し口、 16:支持台、
17:プラズマトーチ、 18:溶融シリコン、 19:インゴット、
20:通気管、 21:遮断弁、 22:送風機、
23:真空引き用配管、 24:真空ポンプ、 25:遮断弁、
30:シャッター、 31:連結棒、 32:ボールねじ機構、
33:ねじ軸、 34:ボールナット、 35:支持部材、
36:Oリング、 37:継手、 38:ステッピングモータ、
39:かさ歯車、 40:ハンドル、
50:貫通口、 51:基板、 52:補助板、
53:ガイドレール、 54:ドラム収容箱、 55:ドラム、
56:ワイヤー、 57:ハンドル、 58:監視窓

【特許請求の範囲】
【請求項1】
チャンバー内に配置した導電性を有する無底冷却ルツボにシリコン原料を投入し、前記ルツボを囲繞する誘導コイルからの電磁誘導加熱により前記原料を溶解させ、この溶融シリコンを前記ルツボから引き下げながら凝固させてシリコンインゴットを連続鋳造する電磁鋳造方法であって、
前記ルツボの上端開口の直上にその開口を開閉するシャッターが配設され、前記チャンバーの上壁には不活性ガス導入管が連結され、前記チャンバーの下部側壁には排気管が連結され、前記排気管には排気ポンプが連結され、前記チャンバーの側壁には前記ルツボの上方と下方で開口する通気管が連結され、前記通気管からは真空引き用配管が分岐し、前記真空引き用配管には真空ポンプが連結され、前記ガス導入管、前記通気管および前記真空引き用配管には各々の経路を開閉する遮断弁が配設され、前記排気管には圧力調整弁が配設されており、
前記原料を溶解する前に前記チャンバー内を真空引きする際、前記シャッターによって前記ルツボの上端開口を遮蔽し、前記ガス導入管の遮断弁を閉にし、前記通気管および前記真空引き用配管の各遮断弁を開にした状態で、前記排気ポンプを作動させることなく、前記真空ポンプを作動させ、
その後に前記チャンバー内を不活性ガスで満たす際、前記ガス導入管の遮断弁を開に切り換えた状態にし、
その後に前記原料を溶解しながら連続鋳造する際、前記シャッターを退避させて前記ルツボの上端開口を開放し、前記通気管および前記真空引き用配管の各遮断弁を閉に切り換えた状態で、前記真空ポンプを作動させることなく、前記排気ポンプを作動させ、
その後に前記チャンバー内で前記インゴットを冷却する際、前記通気管の遮断弁を開に切り換えた状態にすることを特徴とするシリコンインゴットの電磁鋳造方法。
【請求項2】
前記原料を溶解しながら連続鋳造する際、前記ガス導入管を通じて前記チャンバー内に導入する不活性ガスの流量を50リットル/分以上とすることを特徴とする請求項1に記載のシリコンインゴットの電磁鋳造方法。
【請求項3】
前記通気管にはこの経路内のガスを下向きに送り出す送風機が配設されており、
前記チャンバー内を真空引きする際、前記チャンバー内を不活性ガスで満たす際、および前記原料を溶解しながら連続鋳造する際、前記送風機を作動させることなく、
前記チャンバー内で前記インゴットを冷却する際、前記送風機を作動させることを特徴とする請求項1または2に記載のシリコンインゴットの電磁鋳造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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