説明

シリコンインゴット鋳造用積層ルツボ及びその製造方法

【課題】シリコンインゴット中への酸素の溶け込みを抑制可能なシリコンインゴット鋳造用積層ルツボを提供する。
【解決手段】鋳型2の内側に設けられた、500〜1500μmの粗大溶融シリカ砂31をシリカで結合した外層スタッコ層30を少なくとも1層含む外層シリカ層3と、外層シリカ層3の内側に設けられた、50〜300μmの微細溶融シリカ砂41をシリカで結合した内層スタッコ層40を少なくとも1層含む内層シリカ層4と、を備え、内層シリカ層4の最表面の内層スタッコ層40’が、平均粒径0.1〜0.01μmの水酸化バリウム又は炭酸バリウムを含有することを特徴とするシリコンインゴット鋳造用積層ルツボ1を選択する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリコンインゴット鋳造用積層ルツボ及びその製造方法の改良に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、光電変換効率の優れた太陽光発電用電池のシリコン基板を作製するためのシリコンインゴット製造用鋳型が開示されている。
【0003】
特許文献1に開示されたシリコンインゴット製造用ルツボは、図2の断面図に示されているように、石英ガラス又は黒鉛からなる鋳型102の内側に50〜300μmの微細溶融シリカ砂141をシリカで結合してなる内層104によって被覆された構造を有している。前記内層104は、一層詳細に示すと、図2の一部拡大図Bに示されるように、微細溶融シリカ砂141をシリカ105で結合してなる内層104で被覆されている。この微細溶融シリカ砂141を含む内層104は鋳型102の内壁から剥離しやすいところから、シリコン溶湯をシリコンインゴット鋳造用ルツボ101に注入し凝固させる際に、シリコンインゴットの外周が鋳型内壁面に引っ張られることにより剥離が発生してシリコンインゴットに内部応力が残留せず、シリコンインゴット製造時の内部応力割れが発生することはない。これにより、歩留まりが向上し、さらにこの内部応力残留の少ないシリコンインゴットを用いて作製したシリコン基板を組み込んだ太陽光発電用電池の光変換効率は大幅に改善されるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11−244988号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記シリカ105および溶融シリカ砂141を主体とした内層104を石英ガラス又は黒鉛からなる鋳型102の内側に形成した従来のシリコンインゴット製造用ルツボ101では、これを用いてシリコンインゴットを製造すると、内層の主成分であるシリカおよび溶融シリカ砂が溶解シリコンと反応してしまい、シリコンインゴット中に酸素が溶け込みやすいという問題があった。そして、酸素が溶け込んだシリコンインゴットを用いて作製されたシリコン基板では、これ以上の太陽光発電用電池の性能を向上させることが困難であるという課題があった。
【0006】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、シリコンインゴット中への酸素の溶け込みを抑制可能なシリコンインゴット鋳造用積層ルツボ及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するために、本発明者らは鋭意研究した結果、スタッコ層を形成する際にバインダーとして用いるコロイダルシリカ中にバリウム(Ba)を含ませることにより、より低い温度で結晶化させることができることを突き止めた。また、バリウムはシリカ層中に拡散するため、シリカ層の表層のスタッコ層にのみバリウムを含有させることにより、上記結晶化の効果が得られることを見出して、本願を完成させた。
【0008】
すなわち、本発明は以下の構成を有する。
[1] シリコン原料を溶解し、鋳造してシリコンインゴットを製造するためのシリコンインゴット鋳造用積層ルツボであって、
前記鋳型の内側に設けられた、500〜1500μmの粗大溶融シリカ砂をシリカで結合した外層スタッコ層を少なくとも1層含む外層シリカ層と、
前記外層シリカ層の内側に設けられた、50〜300μmの微細溶融シリカ砂をシリカで結合した内層スタッコ層を少なくとも1層含む内層シリカ層と、を備え、
前記内層シリカ層の最表面の前記内層スタッコ層が、平均粒径0.1〜0.01μmの水酸化バリウム又は炭酸バリウムを含有することを特徴とするシリコンインゴット鋳造用積層ルツボ。
[2] 前記内層シリカ層の最表面の前記内層スタッコ層以外の内層スタッコ層及び前記外層シリカ層の前記外層スタッコ層のいずれか1つ又は2以上のスタッコ層が、前記水酸化バリウム又は炭酸バリウムを含むことを特徴とする前項1に記載のシリコンインゴット鋳造用積層ルツボ。
[3] 鋳型の内側に、溶融シリカ粉末とコロイダルシリカからなるスラリーを塗布または吹き付けてスラリー層を形成し、このスラリー層の表面に500〜1500μmの粗大溶融シリカ砂を散布して外層スタッコ層を形成する工程と、
前記外層スタッコ層の上に、前記スラリーを塗布または吹き付けてスラリー層を形成し、このスラリー層の表面に50〜300μmの微細溶融シリカ砂を散布して内層スタッコ層を形成する工程と、
乾燥及び焼成する工程と、を備え、
前記外層スタッコ層を形成する工程を1回以上繰り返して行なうとともに、前記内層スタッコ層を形成する工程を1回以上繰り返して行ない、
最表面の前記内層スタッコ層を形成する際に、前記スラリーに平均粒径0.1〜0.01μmの水酸化バリウム粉末又は炭酸バリウム粉末を加えたバリウム含有スラリーを用いることを特徴とするシリコンインゴット鋳造用積層ルツボの製造方法。
[4] 前記外層スタッコ層を形成する工程及び最表面の内層スタッコ層以外の前記内層スタッコ層を形成する工程のいずれか1以上の工程で、前記スラリーに代えて前記バリウム含有スラリーを用いることを特徴とする前項3に記載のシリコンインゴット鋳造用積層ルツボの製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明のシリコンインゴット鋳造用積層ルツボによれば、鋳型の内側に設けられた1以上の外層スタッコ層からなる外層シリカ層と、外層シリカ層の内側に設けられた1以上の内層スタッコ層からなる内層シリカ層とを備え、内層シリカ層の最表面の内層スタッコ層が、平均粒径0.1〜0.01μmの水酸化バリウム又は炭酸バリウムを含有する構成となっている。最表面の内層スタッコ層中のバリウムは内層及び外層シリカ層に拡散し、シリカ層の変異点温度を低下させるため、これらの内層及び外層シリカ層の結晶化(クリストバライト化)を促進させることができる。これにより、シリコンインゴット鋳造用積層ルツボを用いて溶解したシリコン原料からシリコンインゴットを鋳造する際に、シリコン原料中へのシリカの溶解を抑制することができるため、シリコンインゴット中の酸素濃度を低減することができる。したがって、本発明のシリコンインゴット鋳造用積層ルツボにより製造されたシリコンインゴットを用いた太陽電池用セルでは、光電変換効率を向上させることができる。
【0010】
本発明のシリコンインゴット鋳造用積層ルツボの製造方法によれば、鋳型の内側に1以上の外層スタッコ層を形成し、外層スタッコ層の上に1以上の内層スタッコ層を形成し、乾燥及び焼成して外層シリカ層及び内層シリカ層を形成する構成となっている。そして、最表面の内層スタッコ層を形成する際に、溶融シリカ粉末とコロイダルシリカからなるスラリーに平均粒径0.1〜0.01μmの水酸化バリウム粉末又は炭酸バリウム粉末を加えたバリウム含有スラリーを用いることで、本発明のシリコンインゴット鋳造用積層ルツボを簡便に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明を適用した一実施形態であるシリコンインゴット鋳造用積層ルツボを説明するための図であり、(a)は断面模式図、(b)は(a)中に示すA領域の拡大断面図である。
【図2】従来のシリコンインゴット鋳造用ルツボを示す断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を適用した一実施形態であるシリコンインゴット鋳造用積層ルツボについて、詳細に説明する。なお、以下の説明で用いる図面は、特徴をわかりやすくするために、便宜上特徴となる部分を拡大して示している場合があり、各構成要素の寸法比率などが実際と同じであるとは限らない。
【0013】
図1(a)に示すように、本実施形態のシリコンインゴット鋳造用積層ルツボ(以下、単に「ルツボ」と記す)1は、シリコン原料を溶解し、鋳造してシリコンインゴットを製造するために用いられるものであり、鋳型2の内側に設けられた外層シリカ層3と、この外層シリカ層3の内側に設けられた内層シリカ層4とを備えて概略構成されている。
ルツボ1が、外層シリカ層3と内層シリカ層4とから構成される積層構造を有するため、シリコン溶湯をルツボ1のキャビティに注入し凝固させてシリコンインゴットを製造する際に、シリコンインゴットの外周がルツボ1の内壁面に引っ張られ、内層シリカ層4がシリコンインゴットに付着して外層シリカ層3から剥離する。これにより、凝固したシリコンインゴットに内部応力が発生せず、従来の石英ルツボにより得られたシリコンインゴットに見られるような亀裂および転位の発生を抑制することができる。
【0014】
鋳型2は、石英ガラス又は黒鉛から構成されている。また、鋳型2の内側には、任意の寸法および形状を有する空間(例えば、円柱状空間、六角柱状空間、立方体状空間または直方体状空間など)が設けられているが、特に限定されるものではない。
【0015】
例えば、上記内側空間として立方体又は直方体形状を有する鋳型2から構成されるルツボ1を使用してシリコンインゴットを製造する場合には、断面が正方形又は長方形を有するシリコンインゴットが得られることになる。そして、断面が正方形又は長方形を有する上記シリコンインゴットは、特に太陽光発電用電池のシリコン基板のような正方形または長方形を有するシリコン基板の製造に用いると、高価なシリコンインゴットを最も有効に活用することができる。
【0016】
外層シリカ層3は、図1(a)及び図1(b)に示すように、500〜1500μmの粗大溶融シリカ砂31をシリカ素地(シリカ)5で結合した外層スタッコ層30を1層以上含んで構成されている。
ここで、粗大溶融シリカ砂31の粒径を500〜1500μmに限定したのは、以下の理由による。すなわち、粗大溶融シリカ砂31の粒径が、1500μmよりも粗い溶融シリカ砂であると、ルツボ1の比重が低下して強度が下がるために好ましくない。一方、粗大溶融シリカ砂31の粒径が、500μmよりも細かくなると、外層シリカ層3の強度が小さくなると共に、内層シリカ層6との剥離性が劣化するために好ましくない。
【0017】
シリカ素地5は、10〜6000ppmのナトリウムを含有するシリカから構成されている。
ここで、シリカ素地5を構成するシリカのナトリウム含有量が、10〜6000ppmの範囲であることが好ましいのは、以下の理由による。すなわち、ナトリウム含有量が10ppm未満では、シリカの粗大溶融シリカ砂31あるいは微細溶融シリカ砂41に対する十分な密着性が得られないため好ましくない。一方、シリカのナトリウム含有量が6000ppmを越えると、ナトリウムがシリコンインゴットに許容範囲以上の不純物として含まれるようになるので好ましくない。シリカに含まれるナトリウム含有量の一層好ましい範囲は、500〜6000ppmである。
【0018】
外層シリカ層3の層厚は、シリコンインゴット製造時のルツボ1の強度を維持しなければならないため、少なくとも3mm程度の厚さが必要である。一方、外層シリカ層3の層厚が、あまり厚いとコストがかかるため、好ましくない。したがって、外層シリカ層3の厚さは、具体的には、3〜20mmの範囲内にあることが好ましい。
【0019】
内層シリカ層4は、図1(a)及び図1(b)に示すように、50〜300μmの微細溶融シリカ砂41をシリカ素地5で結合した内層スタッコ層40を1層以上含んで構成されている。
ここで、微細溶融シリカ砂41の粒径を50〜300μmに限定したのは、以下の理由による。すなわち、微細溶融シリカ砂41の粒径が、300μmよりも粗い溶融シリカ砂であると、外層シリカ層3から剥離しにくくなるために好ましくない。一方、微細溶融シリカ砂41の粒径が、50μmよりも微細であると、内層シリカ層4の剥離はしやすくなるが、ルツボ1の作製(製造)時に内層シリカ層4が剥離してしまうために好ましくない。
【0020】
本実施形態のルツボ1では、図1(b)に示すように、内層シリカ層4の少なくとも最表面に、50〜300μmの微細溶融シリカ砂41をバリウム含有シリカ素地6で結合したバリウム含有内層スタッコ層40’が設けられていることを特徴としている。
このように、内層シリカ層4の最表面にバリウム含有内層スタッコ層40’を設けることにより、内層シリカ層4及び外層シリカ層3の内部にバリウムを拡散させて、これらのシリカ層の結晶化を促進させることができる。なお、本明細書中では、シリカ素地5に代えてバリウム含有シリカ素地6を用いて形成したスタッコ層を「バリウム含有スタッコ層」と称することとする。
【0021】
バリウム含有シリカ素地6は、上記シリカ素地5に、0.1〜0.01μmの平均粒径の水酸化バリウム又は炭酸バリウム(以下、「バリウム含有化合物」と記す)61を1〜20容量%の濃度範囲となるように含有させたものである。
【0022】
ここで、バリウム含有化合物61の平均粒径を0.1〜0.01μmに限定したのは、以下の理由による。すなわち、バリウム含有化合物61の平均粒径が0.01μm未満であると、凝集し易くなるために好ましくない。一方、バリウム含有化合物61の平均粒径が0.1μmを超えると、均一に分散し難くなるために好ましくない。
【0023】
また、バリウム含有化合物61の濃度を1〜20容量%に限定したのは、以下の理由による。すなわち、バリウム含有化合物61の濃度が1容量%未満であると、結晶化度が少ないために好ましくない。一方、バリウム含有化合物61の濃度が20容量%を超えると、溶解しないために好ましくない。
【0024】
内層シリカ層4の層厚は、ルツボ1を用いてシリコンインゴットを製造する際に、シリコンインゴットの凝固収縮により、外層シリカ層3から剥離することのできる厚さであれば、特に限定されるものではない。上記層厚としては、具体的には、0.1〜5mmの範囲内にあることが好ましい。
【0025】
次に、本実施形態のルツボ1の製造方法について説明する。
本実施形態のルツボ1の製造方法は、鋳型2の内側に外層シリカ層3を形成する工程と、外層シリカ層3の上に内層シリカ層4を形成する工程と、乾燥及び焼成する工程と、を備えて概略構成されている。以下に、各工程について詳細に説明する。
【0026】
(スラリーの調製)
先ず、10〜6000ppmのナトリウムを含有し、平均粒径1〜10nmの超微細溶融シリカ粉末:30容量%を含有するコロイダルシリカ100部に対して、平均粒径:30〜100μmの溶融シリカ粉末200〜400部の割合で混合してスラリーを調製する。
【0027】
(バリウム含有スラリーの調整)
次に、上記スラリーに平均粒径0.1〜0.01μmの水酸化バリウム粉末又は炭酸バリウム粉末を加えたバリウム含有スラリーを調整する。
具体的には、上記スラリーに、平均粒径0.1〜0.01μmの水酸化バリウム又は炭酸バリウムを1〜20容量%の濃度範囲となるように混合する。
【0028】
(外層シリカ層の形成工程)
外層シリカ層3の形成工程は、先ず、鋳型2の内側に、調整した上記スラリーを塗布または吹き付けてスラリー層を形成する。次に、このスラリー層の表面に、500〜1500μmの粗大溶融シリカ砂31を散布して外層スタッコ層30を形成する。この外層スタッコ層30を形成する操作を、一回又は複数回繰り返して行なうことにより、外層シリカ層3を形成する。
【0029】
(内層シリカ層の形成工程)
内層シリカ層4の形成工程は、先ず、外層シリカ層3(外層スタッコ層30)の上に、上記スラリーを塗布または吹き付けてスラリー層を形成する。次に、このスラリー層の表面に50〜300μmの微細溶融シリカ砂41を散布して内層スタッコ層40を形成する。
【0030】
そして、内層シリカ層4の最表面の内層スタッコ層を形成する際に、調整した上記バリウム含有スラリーを内層スタッコ層40(あるいは外層スタッコ層30)の上に塗布または吹き付けてバリウム含有スラリー層を形成する。次に、このバリウム含有スラリー層の表面に50〜300μmの微細溶融シリカ砂41を散布し、再び上記バリウム含有スラリーを塗布または吹き付けてバリウム含有内層スタッコ層40’を形成する。
【0031】
このように、内層スタッコ層40を形成する操作を、一回又は複数回繰り返して行なうことにより、内層シリカ層4を形成する。
なお、内層スタッコ層を形成する操作が一回の場合には、外層スタッコ層30の上にバリウム含有内層スタッコ層40’を形成する。
【0032】
(乾燥および焼成工程)
乾燥および焼成工程は、まず、内側に外層シリカ層3、内層シリカ層4が積層された鋳型2を、温度20℃、湿度50%の環境下で24時間かけて乾燥する。次に、大気下で約1000℃、2時間かけて焼成する。これにより、鋳型2の内側に外層シリカ層3(外層スタッコ層30)と内層シリカ層4(内層スタッコ層40及びバリウム含有内層スタッコ層40’)とが形成される。
【0033】
次に、本実施形態のルツボ1を用いてシリコンインゴットを製造する方法について説明する。
【0034】
先ず、ルツボ1に、原料シリコンを装填し1500℃で溶解、或いは、1500℃のシリコン溶湯を注入する。
次に、下部を冷却して、下部から上部にかけて一方向凝固させてシリコンインゴットを製造する。
【0035】
ここで、本実施形態のルツボ1によれば、内側に外層シリカ層3と内層シリカ層4との積層構造を有するため、シリコンインゴットの外周がルツボ1の内壁面に引っ張られ、内層シリカ層4がシリコンインゴットに付着して外層シリカ層3から剥離する。これにより、凝固したシリコンインゴットに内部応力が発生せず、従来の石英ルツボにより得られたシリコンインゴットに見られるような亀裂および転位の発生が抑制されたシリコンインゴットを製造することができる。
【0036】
ところで、従来のルツボでは、1500℃の鋳造条件を用いてシリコンインゴットを製造する場合であっても、鋳型の内側に設けられたシリカ層の結晶化度は60%程度であり、十分な結晶化がなされなかった。このため、シリカ層の主成分であるシリカおよび溶融シリカ砂が溶解しているシリコンと反応してしまい、シリコン溶湯に酸素が溶け込んでしまうという問題があった。具体的には、製造されたシリコンインゴット中の酸素濃度は、約20ppm程度であった。
【0037】
これに対して本実施形態のルツボ1によれば、鋳型2の内側に設けられた内層シリカ層4の最表面にバリウム含有内層スタッコ層40’が設けられており、このバリウム含有内層スタッコ層40’から内層シリカ層4あるいは外層シリカ層3へバリウムが拡散するため、これらのシリカ層の結晶化が促進される。
【0038】
すなわち、1500℃の鋳造条件を用いてシリコンインゴットを製造する場合、鋳型2の内側に設けられた内層シリカ層4及び外層シリカ層3の結晶化度は90%程度となり、十分な結晶化がなされる。そして、シリカ層の主成分であるシリカおよび溶融シリカ砂と、溶融シリコンとの反応が抑制される。具体的には、本実施形態のルツボ1によって製造されたシリコンインゴット中の酸素濃度は、約10ppm程度に低減される。
なお、シリカ層の結晶化度は、例えば、XRD(X線回折装置)により測定することが可能である。また、シリコンインゴット中の酸素濃度は、例えば、FT−IR法によって測定することが可能である。
【0039】
以上説明したように、本実施形態のルツボ(シリコンインゴット鋳造用積層ルツボ)1によれば、鋳型2の内側に設けられた1以上の外層スタッコ層30からなる外層シリカ層3と、外層シリカ層3の内側に設けられた1以上の内層スタッコ層40,40’からなる内層シリカ層4とを備え、内層シリカ層4の最表面の内層スタッコ層40’が、平均粒径0.1〜0.01μmの水酸化バリウム又は炭酸バリウムを含有する構成となっている。最表面の内層スタッコ層40’中のバリウムは内層及び外層シリカ層に拡散し、シリカ層の変態点温度を低下させるため、これらの内層及び外層シリカ層の結晶化(クリストバライト化)を促進させることができる。これにより、ルツボ1を用いて溶解したシリコン原料からシリコンインゴットを鋳造する際に、シリコン原料中へのシリカの溶解を抑制することができるため、シリコンインゴット中の酸素濃度を低減することができる。したがって、本実施形態のルツボ1により製造されたシリコンインゴットを用いた太陽電池用セルでは、光電変換効率を向上させることができる。
【0040】
本実施形態のルツボ1の製造方法によれば、鋳型2の内側に1以上の外層スタッコ層30を形成し、外層スタッコ層30の上に1以上の内層スタッコ層40を形成し、乾燥及び焼成して外層シリカ層3及び内層シリカ層4を形成する構成となっている。そして、最表面の内層スタッコ層40’を形成する際に、溶融シリカ粉末とコロイダルシリカからなるスラリーに平均粒径0.1〜0.01μmの水酸化バリウム粉末又は炭酸バリウム粉末を加えたバリウム含有スラリーを用いることで、本実施形態のルツボ1を簡便に製造することができる。
【0041】
なお、本発明の技術範囲は上記実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。例えば、上記実施形態のルツボ1では、内層シリカ層5を構成する最表面の内層スタッコ層40’のみをバリウム含有スタッコ層とした例を示しているが、これに限定されるものではない。
具体的には、外層スタッコ層30を形成する工程及び最表面の内層スタッコ層40’以外の内層スタッコ層30を形成する工程のいずれか1以上の工程で、スラリーに代えてバリウム含有スラリーを用いることにより、内層シリカ層4の最表面の内層スタッコ層40’以外の内層スタッコ層40及び外層シリカ層3を構成する外層スタッコ層30のいずれか1つ又は2以上のスタッコ層をバリウム含有スタッコ層としてもよい。
これにより、内層シリカ層ならびに外層シリカ層全体を効率的に結晶化(クリストバライト化)することができる。
【実施例】
【0042】
以下、実施例によって本発明の効果をさらに詳細に説明する。なお、本発明は実施例によって、なんら限定されるものではない。
【0043】
(実施例1)
内径:170mm、外径:190mm、深さ:150mmの寸法を有する石英ガラス鋳型を用意した。
また、ナトリウムを0.5%含有する平均粒径10nm以下の超微細溶融シリカ粉末:30容量%を含有するコロイダルシリカ100部に対して、平均粒径:40μmの溶融シリカ粉末200部の割合で混合してスラリーを作製した。
さらに、上記スラリーに、平均粒径:0.1μm以下の炭酸バリウム:10容量%の割合で混合し、バリウム含有スラリーを作製した。
【0044】
上記スラリーを前記石英ガラス鋳型の内側に塗布してスラリー層を形成し、このスラリー層の表面に平均粒径:250μmの粗大溶融シリカ砂を散布して外層スタッコ層を形成し、この操作を3回繰り返して外層シリカ層を形成した。
【0045】
次に、上記スラリーを外層シリカ層の内側に塗布してスラリー層を形成し、このスラリー層の表面に平均粒径:100μmの微細溶融シリカ砂を散布して内層スタッコ層を形成し、この操作を2回繰り返した。
【0046】
次いで、上記バリウム含有スラリーを内層スタッコ層の内側に塗布してバリウム含有スラリー層を形成し、このスラリー層の表面に平均粒径:250μmの微細溶融シリカ砂を散布した後、再びバリウム含有スラリーを塗布してバリウム含有内層スタッコ層を形成して内層シリカ層を形成した。
【0047】
次に、大気雰囲気中、温度:1000℃で2時間加熱保持して乾燥し焼成することにより石英ガラス鋳型の内側に、合計厚さが3mmを有するシリカ層を形成し、本発明である実施例1のシリコンインゴット鋳造用積層ルツボ(以下、単にルツボという)を製造した。
【0048】
この実施例1のルツボに、単結晶引き上げ時に出るスクラップ(例えば、ボトム、テイル等)を原料として装填し、その後、温度:1500℃に保持し、原料を溶解した。このようにして得られたシリコン溶湯を0.3℃/min.の冷却速度で鋳型下方より冷却し、一方向凝固シリコンインゴットを製造した。
【0049】
得られた一方向凝固シリコンインゴットの表面を検査することにより内部応力割れの有無を目視観察したところ、内部応力割れは確認されなかった。
また、得られた一方向凝固シリコンインゴットに含まれる格子間酸素量を測定したところ、1.0×10−18(atm/cc)であった。
さらに、得られた一方向凝固シリコンインゴットをスライスして光発電用シリコン基板を作製し、その光電変換効率を測定した結果、光電変換効率は約15%であった。
【0050】
(比較例1)
実施例1と同様に、上記スラリーを前記石英ガラス鋳型の内側に塗布してスラリー層を形成し、このスラリー層の表面に平均粒径:250μmの粗大溶融シリカ砂を散布して外層スタッコ層を形成し、この操作を3回繰り返して外層シリカ層を形成した。
【0051】
次に、上記スラリーを外層シリカ層の内側に塗布してスラリー層を形成し、このスラリー層の表面に平均粒径:100μmの微細溶融シリカ砂を散布して内層スタッコ層を形成し、この操作を3回繰り返して内層シリカ層を形成した。
【0052】
次に、大気雰囲気中、温度:1000℃で2時間加熱保持して乾燥し焼成することにより石英ガラス鋳型の内側に、合計厚さが3mmを有するシリカ層を形成し、比較例1のルツボを製造した。
【0053】
この比較例1のルツボに、実施例1と同様にして単結晶引き上げ時に出るスクラップを1500℃で溶解し、0.3℃/min.の冷却速度で冷却し、一方向凝固シリコンインゴットを製造した。
【0054】
得られた一方向凝固シリコンインゴットの表面を検査することにより内部応力割れの有無を目視観察したところ、内部応力割れは確認されなかった。
また、得られた一方向凝固シリコンインゴットに含まれる格子間酸素量を測定したところ、2.0×10−18(atm/cc)であった。
さらに、得られた一方向凝固シリコンインゴットをスライスして光発電用シリコン基板を作製し、その光電変換効率を測定した結果、光電変換効率は約14%であった。
【符号の説明】
【0055】
1・・・シリコンインゴット鋳造用積層ルツボ(ルツボ)
2・・・鋳型
3・・・外層シリカ層
4・・・内層シリカ層
5・・・シリカ素地
6・・・バリウム含有シリカ素地
30・・・外層スタッコ層
31・・・粗大溶融シリカ砂
40・・・内層スタッコ層
40’・・・バリウム含有内層スタッコ層
41・・・微細溶融シリカ砂
61・・・バリウム含有化合物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリコン原料を溶解し、鋳造してシリコンインゴットを製造するためのシリコンインゴット鋳造用積層ルツボであって、
前記鋳型の内側に設けられた、500〜1500μmの粗大溶融シリカ砂をシリカで結合した外層スタッコ層を少なくとも1層含む外層シリカ層と、
前記外層シリカ層の内側に設けられた、50〜300μmの微細溶融シリカ砂をシリカで結合した内層スタッコ層を少なくとも1層含む内層シリカ層と、を備え、
前記内層シリカ層の最表面の前記内層スタッコ層が、平均粒径0.1〜0.01μmの水酸化バリウム又は炭酸バリウムを含有することを特徴とするシリコンインゴット鋳造用積層ルツボ。
【請求項2】
前記内層シリカ層の最表面の前記内層スタッコ層以外の内層スタッコ層及び前記外層シリカ層の前記外層スタッコ層のいずれか1つ又は2以上のスタッコ層が、前記水酸化バリウム又は炭酸バリウムを含むことを特徴とする請求項1に記載のシリコンインゴット鋳造用積層ルツボ。
【請求項3】
鋳型の内側に、溶融シリカ粉末とコロイダルシリカからなるスラリーを塗布または吹き付けてスラリー層を形成し、このスラリー層の表面に500〜1500μmの粗大溶融シリカ砂を散布して外層スタッコ層を形成する工程と、
前記外層スタッコ層の上に、前記スラリーを塗布または吹き付けてスラリー層を形成し、このスラリー層の表面に50〜300μmの微細溶融シリカ砂を散布して内層スタッコ層を形成する工程と、
乾燥及び焼成する工程と、を備え、
前記外層スタッコ層を形成する工程を1回以上繰り返して行なうとともに、前記内層スタッコ層を形成する工程を1回以上繰り返して行ない、
最表面の前記内層スタッコ層を形成する際に、前記スラリーに平均粒径0.1〜0.01μmの水酸化バリウム粉末又は炭酸バリウム粉末を加えたバリウム含有スラリーを用いることを特徴とするシリコンインゴット鋳造用積層ルツボの製造方法。
【請求項4】
前記外層スタッコ層を形成する工程及び最表面の内層スタッコ層以外の前記内層スタッコ層を形成する工程のいずれか1以上の工程で、前記スラリーに代えて前記バリウム含有スラリーを用いることを特徴とする請求項3に記載のシリコンインゴット鋳造用積層ルツボの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−56798(P2013−56798A)
【公開日】平成25年3月28日(2013.3.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−196017(P2011−196017)
【出願日】平成23年9月8日(2011.9.8)
【出願人】(000006264)三菱マテリアル株式会社 (4,417)
【出願人】(597065282)三菱マテリアル電子化成株式会社 (151)
【Fターム(参考)】