説明

シリコン又はシリコン系材料を含む構造化された粒子の製造方法

【課題】Liイオン電池のアノード材料として、ピラーを形成するためのシリコンのエッチングプロセスを提供する。
【解決手段】銀を堆積したエッチングされたシリコン粒子に存在する銀は硝酸処理により除かれる。ひとつの実施態様においては、粒状又はバルク材料のシリコンを、HF、Agイオン及び硝酸イオンを含むエッチング溶液で処理し、それによりシリコンをエッチングして表面にエッチングされたピラーを含むシリコンとし、前記シリコンは銀の表面堆積を含み、前記エッチングされたシリコンを使用済みエッチング溶液から分離し、前記エッチングされたシリコンを、硝酸を用いて前記エッチングされたシリコンから銀を溶解してAgイオンと硝酸イオンを含む溶液を形成し、Agイオンと硝酸イオンを含む前記溶液とさらにHFを混合してさらにエッチング溶液を形成し、前記さらなるエッチング溶液をさらにシリコンを処理するために使用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面にエッチングされた、ピラーを含む粒子の製造方法、かかる粒子から前記ピラーを剥がすことによるシリコン繊維の製造方法、かかる粒子又は繊維を活物質として含む電極、電気化学電池及びリチウム再充電可能電池のアノードに関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン再充電可能な電池セルには、最近はグラファイト系アノードが使われている。シリコンは、グラファイトの代わりに活性アノード物質として用いることができることが知られており(例えばInsertion Electrode Materials for Rechargeable Lithium Batteries, M. Winter, J. O. Besenhard, M. E. Spahr, 及び P.Novak in Adv. Mater. 1998, 10, No. 10参照)、シリコンアノード物質がシリコンのピラー形状(又は繊維形状)であり得ることが提案されている。
【0003】
かかるシリコンピラーの製造方法は、Peng K−Q, Yan, Y−J, Gao S−P,及び Zhu J., Adv. Materials, 14 (2002), 1164−1167, Adv. Functional Materials, (2003), 13, No 2 February, 127−132 及び Adv. Materials, 16 (2004), 73−76に記載されている。Peng等は、化学的方法でシリコンにナノピラーを製造する方法を示した。この方法によれば、シリコンウエハ(n又はp型の{1,1,1}面を溶液に晒す)を、50℃で次の溶液:5MのHFと20mMのAgNOを用いて、エッチングする。この論文で仮定されるメカニズムは、最初の段階(核生成)で銀の分離されたナノクラスタが、無電気的に表面に堆積されることである。次の段階(エッチング)で、銀ナノクラスタ及びそれを囲むシリコンの領域が、局所電極として作用し、銀ナノクラスタを囲む領域のシリコンの電気的酸化が生じ、SiFイオンを形成し、エッチングサイトから拡散して離れていき銀ナノクラスタの下にあるシリコンをピラー形状で残すというものである。
【0004】
K. Peng 等の Angew. Chem. Int. Ed., 44 (2005), 2737−2742; 及び K. Peng 等の, Adv. Funct. Mater., 16 (2006), 387−394は、Peng 等の以前の論文に記載されたことと類似しているシリコンウエハのエッチング方法に関するものであるが、核化/銀ナノ粒子堆積ステップ及びエッチングステップは異なる溶液で行われる。初めのステップ(核化)では、シリコンチップが4.6MのHF及び0.01MのAgNOの溶液に1分間置かれる。次のステップ(エッチング)は異なる溶液即ち、4.6MのHF及び0.135MのFe(NO溶液中、30から50分間で実施される。この論文では、エッチングステップについて、以前の論文とは異なるメカニズムが提案されている。すなわち、銀(Ag)ナノ粒子の下にあるシリコンは動かされ、ナノ粒子が徐々にバルクシリコンに沈みこみ、その領域(直接銀粒子の下ではない)にシリコンの柱を残すというものである。
【0005】
シリコンウエハ上のピラーの均一性と密度及び成長速度を増加するために、WO2007/083152ではアルコールの存在下で処理する。
【0006】
WO2009/010758には、リチウムウオン電池に使用するシリコン物質を作るためにウエハの代わりにシリコン粉末のエッチングが開示されている。得られるピラー粒子は、例えば図2に示され、表面にピラーを含み、得られる粒子の全体を電池のアノード物質として使用され得る。又はピラーは粒子から剥がされることが可能でありシリコン繊維を形成する。そしてシリコン繊維のみがアノードを作るために使用される。使用されるエッチング方法は、WO2007/083152に開示されたものと同じである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、表面がエッチングされた、ピラーを含む粒子の製造方法、かかる粒子から前記ピラーを剥がすことによるシリコン繊維の製造方法、かかる粒子又は繊維を活物質として含む電極、電気化学電池及びリチウム再充電可能電池のアノードを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の第1の側面は、ピラー形成のためのシリコンエッチングのプロセスを提供することであり、かかるプロセスは、前記エッチング手順の一部として銀の堆積を含む。銀は、シリコンがエッチングされた後でも存在し、硝酸処理により除かれ得る。本発明のプロセスは、この除かれた銀のリサイクルを可能とし、従ってプロセス全体のコストを下げることができるものである。
【0009】
本出願人は、シリコンから銀を硝酸中で溶解してリサイクルし、回収された銀溶液が、さらにシリコンのエッチングに直接再使用可能であり、かかるリサイクル手順は繰り返し実行できることを見出した。
【0010】
本発明のプロセスは、次のステップ:
例えば粒状又はバルク材料のシリコンを、HF、Agイオン及び硝酸イオンを含むエッチング溶液で処理し、それによりシリコンをエッチングして表面にエッチングされたピラーを含むシリコンとし、前記シリコンは銀の表面堆積を含み、
前記エッチングされたシリコンを使用済みエッチング溶液から分離し、
前記エッチングされたシリコンを、硝酸を用いて前記エッチングされたシリコンから銀を溶解してAgイオンと硝酸イオンを含む溶液を形成し、Agイオンと硝酸イオンを含む前記溶液とさらにHFを混合してさらにエッチング溶液を形成し及び
前記さらなるエッチング溶液をさらにシリコンを処理するために使用することを含む。
【0011】
前記使用された溶液はまた、リサイクルされ得る。即ち前記使用された溶液とHFと混合し、さらにAgイオンと硝酸イオンを含む溶液と混合して再生し、さらなるエッチング溶液を作る。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】図1は、ピラー粒子の電子顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下の明細書では、本発明は粒子状シリコンをエッチングしてエッチングされたシリコン粒子を形成することを参照して説明される。しかし同じ考えが、例えばシリコンウエハのようなバルク物質の形状のシリコンにも同じく適用可能である。
【0014】
本プロセスは2つの段階、核化とエッチングで起こる。核化では、銀の島が無電気的に次の反応によりシリコン粒子状に堆積する。
4Ag + 4e −>4Ag(金属)
核化は通常、約1分までに起こる。
【0015】
エッチングは、主に、特定の結晶平面に沿って起こり、シリコンエッチングは柱状にエッチングされる。シリコンが次の式に従ってエッチングされる。
Si + 6F −>SiF2− + 4e 半反応(1)
半反応(1)で生じた電子は、シリコンを通じて堆積した銀に伝達され、溶液中の銀イオンが元素状銀に還元される対向反応が起こる。
4Ag 4e― −>4Ag(金属) 半反応(2)
堆積された元素状銀は、最初に堆積した銀の島から伸張して樹状突起を形成する。この樹状突起は、同じ粒子及び他の粒子の樹状突起とお互いに固定し合ってマットを形成する。樹状突起のお互いの固定化は電気プロセスの速度を増加させる。というのは、還元半反応(2)が起こり得る、より多くのサイトが生じ電荷が非局在化するからである。このプロセスでガスが発生するかもしれないが、これは前記マットを溶液に浮かせる原因となる。
【0016】
本プロセスは攪拌してもよいが、その必要はなく、攪拌が前記マットを壊す場合かえって不利である。
【0017】
粒子状シリコン出発物には、ドープされていないシリコン、又はシリコンーアルミニウムドープシリコンのような、ドープされたp又はn型又はその混合のシリコンが挙げられる。好ましくはシリコンはドープされており、従ってエッチングプロセスの際に導電性が改良されるものである。我々は、pドープシリコンであって1019から1020キャリア/ccのものが良好に作用することを見出した。かかる物質は、例えばIC工業のシリコンからのドープシリコンを研磨し、得られた粒子から望ましいサイズの粒子に篩い分けて得ることができる。
【0018】
又は、粒子は、市販品の、相対的に低純度の冶金グレードシリコンであってよい。冶金グレードのシリコンは特に好ましい。というのは相対的に欠陥がより高密度(半導体工業で使用されるシリコンウエハに比べて)であり、これにより低抵抗及び高伝導性をもたらすからであり、シリコンピラー粒子又は繊維が再充電可能な電池のアノード物質として使用される場合に有利であるからである。そのようなシリコンは、粉砕され、等級化されてもよい。冶金グレードシリコンの例は、ノルウェイのエルケム(Elkem)社「シルグレイン(Silgrain)」であり、ピラー粒子製造のためには、平均粒径が、5から500μmの範囲、例えば15から500μm、好ましくは15から40μmであり、及び繊維を作るためには、50から500μmの範囲である。(必要ならば)粉砕して篩い分けすることができる。
【0019】
粒子は、通常の又は特別の断面をもっていてよい。シリコン繊維を作る場合、繊維が除かれた後残る粒子はさらなるエッチングのためにリサイクルできる。
【0020】
粒子は、シリコン純度90.00質量%又はそれ以上、好ましくは99.0%から99.99%である。シリコンは、ゲルマニウム、リン、アルミニウム、ホウ素及び/又は亜鉛などのいかなる物質でドープされてもよい。
【0021】
エッチングのために使用される粒子は、例えば単結晶又は多結晶のような結晶性であってよく、結晶子サイズが望ましいピラー高さと同程度又はより大きいものであってよい。多結晶性粒子は、いかなる数の、例えば2又はそれ以上の結晶を含んでいてよい。
【0022】
本プロセスは、0℃から70℃の温度で実施することができる。ただし室温で行うことが最も容易である。というのは、かかる温度範囲の上限付近での温度では非常に高価な容器のみが、高腐食性HFに耐え得るからである。この理由で、温度は通常40℃を超えない。必要ならば、反応混合物は、プロセスの際に冷却する必要があるかもしれない。というのはこの反応は発熱反応であるからである。
【0023】
反応容器の材料は、好ましくはポリプロピレンであるが、他のHF抵抗性材料であれば代わりに使用することができる。
【0024】
エッチング手順は、高さが1から100μmの範囲、例えば3から100μm、より好ましくは5から40μmの十分に定義されたピラーが得られる十分なシリコンがエッチングされた場合に停止される。ピラー粒子のピラー高さは、通常5から15μmであり、繊維を作る場合はより大きく、例えば10から50μmの範囲である。プロセスの最適時間は、溶液中の物質の濃度、前記シリコンの導電性、温度及びシリコン量に対してエッチング溶液の量に依存する。
【0025】
ピラーは、通常それらのベース(即ちピラーはその下にあるシリコンに付着されている)から離れるにつれ先細りになる。ピラーの直径はベースでは一般的に0.08から0.70μmのオーダー、例えば0.1から0.5μm、例えば0.2から0.4μmであり、例えば0.3μm又はそれより大きい。ピラーは従って一般的に、10:1より大きいアスペクト比を持つ。ピラーは、実質的に円形断面であり得るが、それに限られるものではない。
【0026】
ピラー表面密度は、粒子の表面のピラーの密度を定義するため使用することができる。ここでは、F=P/[R+P]として定義され、Fはピラー表面密度を表し、Pはピラーで占められる粒子の全表面積及びRはピラーで占められない粒子の全表面である。
【0027】
ピラー表面密度が大きいほど、シリコン粒子電極の単位面積当たりのリチウム許容量が大きくなり、繊維を作るためのピラーをより多量に得ることができる。例えば、エッチング前平均粒子直径400μmのノルウェーのエルケンから入手の前記シリコン粉末を用いると、約10から30μmの高さ、約0.2から0.5μmの直径を有するピラーを表面全体に有し、ピラー表面密度Fは、10から50%、より通常では30%であるピラーを製造できる。
【0028】
他の例では、エッチング前粒子直径約63から80μmを持つ粒子を用いた場合は、約10から15μmの高さ、約0.2から0.5μmの直径を有するピラーを表面全体に有し、ピラー表面密度Fは30%であるピラーが得られる。
【0029】
核化段階及び樹状突起の成長には溶液中に銀の存在が必要であるが、これらが完了した場合は、エッチングは、溶液中に還元され得るイオンの存在のみが必要である。これは、銀(半反応(2))であってよいが、必ずしもそれが必要であるわけではなく、銀以外の特定の他の反応を使用することが好ましい。WO2007/083152において本出願人は、対向溶液中で2価鉄に還元され得る3価鉄を硝酸第一鉄に添加することを示唆した。また、可能な代替対向反応として水素イオンの還元を示唆した。
【0030】
我々は、最適化対向反応は、溶液中で硝酸イオンの還元であり、さらなるエッチング溶液を形成させるための硝酸銀のリサイクルにまさに適合することを見出した。WO2007/083152には、硝酸イオンが、エッチングプロセスで添加され、硝酸銀又は硝酸第2鉄を形成することが示唆されている。これらは高価であり、特に前者は高価である。リサイクルされる銀溶液に硝酸塩に加えて、エッチング開始の際又はエッチング中に、前記エッチング溶液にさらに硝酸塩を加えることも可能である。エッチングプロセスの間にさらなる硝酸塩部分を加えることが好ましく、我々は、エッチング溶液に硝酸塩をアルカリ金属硝酸塩、特に硝酸ナトリウム又は硝酸アルミニウムとして加える。というのはこれらの物質は、高い溶解性を持ち、また硝酸第二鉄よりも安価であり、さらに不活性カチオン(Na及びNH4)が、数回のリサイクルを経た溶液中に堆積されても、有害でないからである。
【0031】
ひとつの実施態様によれば、エッチング溶液は、実質的に鉄イオン(2価鉄、3価鉄)は存在しない。「実質的に存在しない」とは、本プロセスの効果を奏するには十分ではない濃度を意味し、一般的に0.05重量%よりも少なく、5mMよりも少なく、例えば2.5mMよりも少ない濃度である。
【0032】
アルコールが1から40%の量で核化に存在するべきであるということは、WO2007/083152の構成である。WO2007/083152のプロセスは、チップ又はウエハ上で実施されているが、我々はシリコン粒子状で実施される本発明プロセスの内容においてはアルコールの存在は必要なくむしろその存在はプロセスを複雑にすることを見出した。というのは、溶液中の濃度を制御する際に考慮されるべきは他の成分であるからである。従って、本発明で使用される溶液は、本発明のひとつの実施態様によれば、実質的にアルコールは存在しない。この意味は、いかなるアルコールの量も、本発明の意味ある効果を奏する濃度よりも少ないということであり、0.5体積%より少ない濃度であり得る。
【0033】
本発明のエッチングプロセスの開始で使用される溶液は、5から10Mの濃度、例えば7Mから9Mの濃度及び通常は約7又は7.5Mのような6から8Mの濃度のHFを含む。プロセス中にさらにHFを追加する必要はないが、溶液に体積に比べて大量の物質がエッチングされる場合は、追加してもよい。
【0034】
銀の島及び銀の樹状突起を堆積させるために、Ag濃度は、0.01Mから0.1Mの範囲、例えば0.02から0.06Mの範囲、及び通常は約0.03Mの濃度である。Agイオンの量は、プロセス中のすべてのシリコンのエッチングに関わるには足りない量が好ましいが、島及び樹状突起の形成を引き起こすだけの量にむしろ制限されるべきである。エッチングの半反応に対向する半反応は従って、硝酸イオンの還元により引き起こされる。銀は好ましくは、エッチング反応が開始された後は溶液に添加されない。
【0035】
指摘したように、NOの還元は、シリコンのエッチング(半反応(1))に対する対向反応を提供し、0.02Mから0.2Mの濃度範囲、例えば0.04Mから0.08M、例えば約0.06Mの濃度で存在することができる。銀は、一般的に、その硝酸塩の形で添加される。というのは他の塩は通常難溶性であるからである。このことで、特定の硝酸イオンが必要性となり場合があるが、そのバランスは、アルカリ金属硝酸塩、例えば硝酸ナトリウム又は硝酸アルミニウムの添加により達成される。エッチングのための追加の硝酸イオンを供給するために、硝酸イオンはエッチングプロセスの間に添加されてもよい。
【0036】
SiF2−は、シリコンエッチングの結果エッチング溶液に存在する。エッチング溶液はまた、リサイクルされた硝酸銀溶液から硝酸を含む。
【0037】
エッチングの前に、エッチング溶液の成分が、塩基、好ましくはNaOH又はNHOHを添加して調節されてもよい。というのは、これらは安価でありそのカチオンが非常に高い溶解性であるからである。硝酸を、溶液を酸性化するために使用してもよい。
本発明のひとつの実施態様によれば、水は別として他の成分は含まなくてよい。かかるプロセスの開始の際の溶液は:
5から10M(例えば6から8M)のHF、
01から0.1MのAgイオン、
02から0.2MのNOイオン、
水、水素イオン及びヒドロキシルイオン、及び
偶然添加された成分及び不純物を含む。
【0038】
エッチングが完了した後、エッチングされた粒子は使用されたエッチング溶液から分離される。エッチングプロセスの間銀が堆積したままである。この銀をエッチングされた粒子から硝酸を用いて溶解し、Agイオンと硝酸イオンを含む溶液を形成する。この溶液はさらなるエッチング溶液を調製するために、さらにHFと混合され、直接リサイクルされることができる。またさらなる硝酸銀を添加してもよい。
【0039】
銀のリサイクルに加えて、使用されたエッチング溶液は、追加のHFまた、Agイオンと硝酸イオンを含むリサイクル溶液を加えて、さらなるエッチング溶液を調製するために再生される。
【0040】
使用されたエッチング溶液がリサイクルされる場合、SiF2−イオンがエッチング溶液中に蓄積され得るが、これはいつもそうであるとは限らない。というのは、エッチング溶液のいくらかは、エッチングされたシリコン生成物とともに運ばれ、通常はシリコン生成物を洗浄した後に廃棄されるからである。
【0041】
ここで説明するプロセスは、ナトリウム塩、例えば水酸化物や硝酸塩をエッチング溶液に添加することを開示する。これらのナトリウム塩は、対応するアンモニウム塩と交換可能であり、有利である。というのは(NHSiFはNaSiFよりもずっと可溶性であり、従って、SiF2−イオンの蓄積がある場合、かなりの量が沈殿することなく溶液中にとどまるからである。
【0042】
使用されたエッチング溶液から分離されたエッチングされた粒子は、洗浄され、エッチングされた粒子から銀を溶解する前に完全に脱水される。
【0043】
シリコン粒子の量に対して使用されるエッチング溶液の量は、必要なピラーをエッチングするために十分でなければならない。我々は、20gのシリコン粒子のため、3リットルのエッチング溶液が良好な結果を与えることを見出した。しかしかかる相対的比率は、スケールアップ又はスケールダウンされる場合には調節される必要があるかもしれない。
【0044】
以下本発明を、ひとつ又はそれ以上の次の非限定的実施例に従って説明する。
【実施例1】
【0045】
ピラー粒子の製造
反応は、8リットル容積のポリエチレン容器で行った。成分添加用及び攪拌のための孔を設けた蓋を配置した。
次の反応材料を用いた。
【0046】
【表1】

反応は、室温で行った(10から25℃)。
(第1サイクル)
それぞれ、2.56M及び3.65MのAgNO/HNOを含むAgNO/HNO溶液35mlを、3リットルの7MのHF溶液と共に反応容器に入れて混合し、その後30mlの水に溶解した5.1gのNaOH(又は4.5gのNHOH)を添加した。反応混合物は0.0299MのAgNOを含む。AgNO/HNO溶液は、以前のエッチングプロセス(以下参照)からのリサイクルされたものでもよいが、それがない場合、市販品として入手可能な硝酸銀及び硝酸から調製してもよい。
【0047】
篩い分けされ洗浄されたSi粉末(40μm)の20gを反応容器の蓋の孔から漏斗を用いて添加し、その後混合物を、手動で蓋の孔から棒を用いて1分間ゆっくりと攪拌した。反応混合物を40分間放置した。シリコンプラス銀の「マット」が最初の1,2分間でエッチング溶液の表面に形成された。
【0048】
40分後、15gのNaNO(又は13gのNHNO)を添加する。NaNO(又は13gのNHNO)は50mlの水に溶解し、漏斗を通じて添加した。NaNO(又はNHNO)添加終了後、溶液を約1分攪拌した。混合物をさらに50分間放置した。その後プロセスの開始から90分で、エッチングがほとんど完了し、使用されたエッチング溶液を貯蔵チャンバに約4,5分かけて貯蔵チャンバに移して、全時間は約95分であった。
【0049】
前記マットを、3回、3から4リットルの水で洗浄した。最初の2回は、水を5分間接触させ、3回目は1分間接触させて洗浄した。
【0050】
エッチングされた粒子と銀を含む濡れたマットをできるだけ迅速に脱水し、次いで300mlのガラスビーカに移した。20mlの水と20mlの濃硝酸(68%、GPR RECTAPUR、VWR)を加えて、数時間放置した後、溶液は2層に分かれた。上層は透明溶液(AgNOの希釈HNOで以下「AgNO/HNO溶液」とする)及び底の層はエッチングされたSi粒子であった。上層のAgNO/HNO溶液を注意してデカントし、さらなる使用にために保存した。全溶液は約120mlであった。
(第2サイクル)
第1サイクルから使用されたエッチング溶液を、35mlのAgNO/HNO溶液及び150mlの40%HFを添加しさらに30mlの水に溶解した5.1gのNaOH(又は4.5gのNHOH)を添加することで、完全に活性を元に戻して再使用した。
【0051】
その後、20gのシリコン粒子を、再活性化されたエッチング溶液に第1サイクルと同様に添加した。40分後、15gのNaNO(又は13gのNHNO)を添加した。混合物をさらに50分放置した。シリコンを添加後90分でエッチングがほとんど完了した。使用された溶液を貯蔵チャンバにポンプにて4から5分間で移送し、全エッチング時間は約95分であった。
【0052】
前記マットを、3回、3から4リットルの水で洗浄した。最初の2回は、水を5分間接触させ、3回目は1分間接触させて洗浄した。
【0053】
エッチングされたシリコン粒子と銀を含む濡れたマットを迅速に硝酸で処理して銀を除去し、さらに洗浄して、濡れた状態で保存した。硝酸処理は第1サイクルと類似であったが、エッチングされた粒子から銀を除去するために20mlのHNO+20mlのHOを加える代わりに、第1バッチからの20mlのHNO+20mlのAgNO/HNO溶液を、再使用されたAgNO/HNO溶液中の水の量を減らすために用いた(即ち、再使用溶液中のAgNO及びHNOの濃度を増加するために)。
【0054】
銀硝酸塩/硝酸溶液は、次のサイクルに再使用する。
(第3及びそれ以上のサイクル)
第2サイクルと同様。
(変法)
それぞれのサイクル後にAgNO/HNO溶液を回収し、次のサイクルに使用する代わりに、HNO3処理生成物(エッチングされたシリコン及びAgNO/HNO溶液)のバッチをまとめて一緒にされ、さらなるシリコン粒子のエッチングに共に使用することができる。
【0055】
HNO処理生成物のいくつかのバッチ(例えば10バッチ、約1000mlの量)を回収し遠心分離容器に入れた。バッチ混合物を15分遠心分離し、上層としてAgNO/HNO溶液(#1)を回収する。その後、底部のエッチングされたシリコンの層へ200mlの脱イオン水を遠心分離容器に入れ、混合物を30分放置した。その後15分遠心分離した。上層の透明溶液(#2)を回収し、リサイクル使用のために先の溶液(#1)と混合した。
【0056】
エッチングされたシリコン生成物から溶液の残渣を除くために、さらに2回洗浄と遠心分離を用いてもよい。さらなる処理からの溶液はそれぞれ、#3、#4と呼ぶ。通常95%又はそれより少し多い量の銀が、#1及び#2に存在する。#3及び#4は一緒にして保存し、回収のためにNaClにより処理され銀をAgClとして沈殿させる(再使用ではない)。
(コントロール)
#1及び#2の混合物中の銀及びHNOの濃度は、それぞれ分析されてもよい。銀イオン濃度は、Fe(NOを指示薬としてNHSCNで滴定して求められる。HNO濃度は、メチルレッドを指示薬としてNaOHに対して滴定することで求められる。最後にリサイクルされるAgNO/HNO溶液の成分は上で説明したように調節されることができる。必要ならば、リサイクルされるAgNO/HNO溶液中のAgNO及びHNOの濃度を一定にするために固定のAgNO及び/又は濃硝酸を、毎回添加することで調節されることができる。
【実施例2】
【0057】
繊維の製造 反応容器と反応試薬は実施例1と同じである。反応は室温で行った。
40mlのAgNO/HNO溶液を、3リットルの7MのHF溶液と、反応容器に入れて混合した。その後30mlの水に溶解した5.9gのNaOH(又は5.2gのMHOH)を加えた。最終溶液は0.0033MのAgNOを含む。
【0058】
20gのSi粉末(J272.1)を容器の上から漏斗を用いて加え、全体を蓋の孔から手動で棒を用いてゆっくりと攪拌した。反応混合物を40分間放置した。シリコンプラス銀の「マット」が、最初の1、2分間で溶液表面に形成された。
【0059】
40分後、14gのNaNO(又は12gのNHNO)を添加する。NaNO(又はNHNO)は50mlの水に溶解し、漏斗を通じて添加された。NaNO(又はNHNO)添加終了後、溶液を約1分攪拌した。混合物をさらに50分間放置した。その後プロセスの開始から90分で、エッチングがほとんど完了し、使用されたエッチング溶液を貯蔵チャンバに約4から5分かけて貯蔵チャンバに移し、全時間は約95分であった。
【0060】
前記マットを、3回、3から4リットルの水で洗浄した。最初の2回は、水を5分間接触させ、3回目は1分間接触させて洗浄した。エッチングされたシリコン粒子と銀を含む濡れたマットは、実施例1で記載されたように、銀を除くために迅速に硝酸で処理された。その後(再び実施例1の手順に従って)粒子を銀/硝酸溶液から分離し、エッチングされたシリコンをさらに洗浄し濡れた状態で保存した。硝酸銀/硝酸溶液はリサイクル可能である。
(第2サイクル)
第1サイクルから使用されたエッチング溶液を、35mlのAgNO/HNO溶液及び150mlの40%HFを添加しさらに30mlの水に溶解した5.1gのNaOH(又は4.5gのNHOH)を添加することで、完全に活性を元に戻して再使用した。
【0061】
その後、20gのシリコン粒子を、再活性化されたエッチング溶液に第1サイクルと同様に添加した。40分後、14gのNaNO(又は12gのNHNO)を添加した。混合物をさらに50分放置した。シリコンを添加後90分でエッチングがほとんど完了した。使用された溶液を貯蔵チャンバにポンプで4から5分間で移送し、全エッチング時間は約95分であった。
【0062】
前記マットを、3回、3から4リットルの水で洗浄した。最初の2回は、水を5分間接触させ、3回目は1分間接触させて洗浄した。第1サイクルと合わせて説明したように、エッチングされたシリコン粒子と銀を含む濡れたマットを迅速に硝酸で処理して銀を除去し、さらに洗浄して、濡れた状態で保存した。
(第3及びそれ以上のサイクル)
第2サイクルと同様。
【0063】
繊維は、得られたピラーが付いた粒子から、この粒子をビーカ又は適当な容器にいれ、エタノールや水のような不活性な液で覆い、超音波振動により超音波攪拌に晒して取得することができる。液体は数分で濁りだすことが見出された。また、電気顕微鏡により、この段階でピラーが粒子から除かれていることを観察することができる。
【0064】
ピラーは、2段階で粒子から除かれ得る。最初の段階では、粒子は数回水で洗浄され、必要ならば低真空圧システムで乾燥して水を除く。次の段階で、粒子は超音波容器内でかき混ぜられ、ピラーを脱着する。これらは水中で分散しており、遠心分離を用いて分離される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリコンをエッチングするプロセスであり、前記プロセスは:
例えば粒状又はバルク材料のシリコンを、HF、Agイオン及び硝酸イオンを含むエッチング溶液で処理し、それによりシリコンをエッチングして表面にエッチングされた構造を含むシリコンを形成し、前記シリコンは銀の表面堆積を含み、
前記エッチングされたシリコンを前記使用されたエッチング溶液から分離し、
前記エッチングされたシリコンを、硝酸を用いて前記エッチングされたシリコンから銀を溶解してAgイオンと硝酸イオンを含む溶液を形成し、Agイオンと硝酸イオンを含む前記溶液と、HFをさらに混合してエッチング溶液を形成し、前記さらなるエッチング溶液をシリコンを処理するために使用することを含む。
【請求項2】
前記さらなるHFが、前記使用された溶液と追加のHFを含む、請求項1に記載のプロセス。
【請求項3】
前記使用されたエッチング溶液から分離された前記エッチングされたシリコンが、前記エッチングされたシリコンから銀を溶解する前に、洗浄される、請求項1又は2のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項4】
前記エッチング溶液が、
5から10MのHF、
0.01から0.1MのAgイオン、及び
0.02から0.2MのNOイオンを含む、請求項1乃至3のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項5】
前記シリコンが粒状シリコンであり、粒子サイズが5から500μmの範囲、例えば15から500μm、好ましくは25から40μm(ピラー粒子を生成するため)又は50μmより大きい(繊維を形成するため)範囲である、請求項1乃至4のいずれかに記載のプロセス。
【請求項6】
0℃から70℃、好ましくは室温で実施される、請求項1乃至5のいずれかに記載のプロセス。
【請求項7】
1又は数ステップで前記エッチングプロセスを行う間に前記エッチング溶液にさらにNOイオンを添加する、例えば全プロセス時間の35%から65%経過後にさらに添加する、請求項1乃至6のいずれかに記載のプロセス。
【請求項8】
前記さらなるNOイオンが、例えば硝酸ナトリウム又は硝酸アルミニウムのようなアルカリ金属硝酸塩の形で添加される、請求項1乃至7のいずれかに記載のプロセス。
【請求項9】
前記エッチング工程が、少なくとも10分、例えば少なくとも1時間、実施される、請求項1乃至8のいずれかに記載のプロセス。
【請求項10】
前記エッチング溶液が、濃度7から9M又は6から8M、例えば約7又は7.5Mのような、6.5から7.5Mである、請求項1乃至9のいずれかに記載のプロセス。
【請求項11】
前記エッチング溶液中のAgイオンの濃度が、0.02Mから0.06Mの濃度、例えば約0.03Mである、請求項1乃至10のいずれかに記載のプロセス。
【請求項12】
前記エッチング溶液中のNOが、0.04Mから0.08Mの量、例えば約0.06Mである、請求項1乃至11のいずれかに記載のプロセス。
【請求項13】
前記さらなるエッチング溶液の成分を調節して、前記最初のエッチング溶液とほぼ同じ成分のAg、NOイオン及びHFである、請求項1乃至12のいずれかに記載のプロセス。
【請求項14】
前記溶液が:
5から10MのHF、例えば6から8MのHF、
0.01から0.1MのAgイオン、
0.02から0.2MのNOイオン、
水、水素及びヒドロキシルイオンを含む、さらに場合により
SiF2−イオン、
アルカリ金属及び/又はアンモニウムイオン及び
偶然添加物及び不純物を含む、請求項1乃至13のいずれかに記載のプロセス。
【請求項15】
2又はそれ以上のプロセスで使用されたエッチング溶液を一緒にして集め、それにより得られる集められたエッチングされたシリコンが、硝酸のバッチで処理される、請求項1乃至14のいずれかに記載のプロセス。
【請求項16】
1又はそれ以上のさらなるこすり合わせ、かきまぜ(特に超音波振動による)又は化学エッチングして、前記得られるエッチングされたシリコンから前記構造を引き剥がすステップをさらに含む、請求項1乃至15のいずれかに記載のプロセス。
【請求項17】
前記1乃至16のいずれかに記載のプロセスから得られる例えば粒子及びシリコン繊維のようなエッチングされたシリコン。
【請求項18】
請求項17に記載のエッチングされたシリコンをひとつの活物質として含む、電極。
【請求項19】
請求項18に記載された電極を含む電気化学電池。

【図1】
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【公開番号】特開2012−114091(P2012−114091A)
【公開日】平成24年6月14日(2012.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−266157(P2011−266157)
【出願日】平成23年12月5日(2011.12.5)
【分割の表示】特願2011−530548(P2011−530548)の分割
【原出願日】平成21年10月2日(2009.10.2)
【出願人】(509040226)ネグゼオン・リミテッド (19)
【氏名又は名称原語表記】Nexeon Ltd
【住所又は居所原語表記】136 Milton Park,Abingdon,Oxfordshire OX14 3SB,United Kingdom
【Fターム(参考)】