説明

シリコン含有材料の回収方法

【課題】クーラントが除去されたシリコン含有材料を回収する方法を提供する。
【解決手段】本発明のシリコン含有材料の回収方法は,水溶性クーラント,砥粒及びシリコン粒を少なくとも含有する,シリコンウエハの製造プロセスでの使用済みスラリーから水溶性クーラントを予め除去することによって固形分を得て,その固形分から,水溶性クーラントに対し相溶性を有しかつ水溶性クーラントよりも沸点が低い低沸点有機溶媒を用いて前記固形分中に残留する水溶性クーラントを抽出し,抽出に用いた低沸点有機溶媒を遠心分離によって除去し,遠心分離により得られる固形分を回収することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,マルチワイヤーソー(以下,「MWS」とする)やラッピング装置を使用し,例えば太陽電池用多結晶シリコン用や半導体材料用としてシリコンウエハ等を製造する際に用いられた使用済みスラリーの処理において,使用済みスラリーからシリコン含有材料を回収する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
シリコンのインゴットからウエハ(薄い板)にスライスする方法として,ワイヤソーを使用する方法があり,その際にはスラリーと呼ばれる砥粒とクーラントを混合したものを切断箇所に供給する方法が一般的である。またスラリーは繰り返し使用されるのが一般的であるが,スライス加工の度にシリコンの切屑などが混入し,徐々にワイヤソーの切削性能を低下させる。
【0003】
使用済みスラリーの中にはシリコンの切屑が含まれるが,これまでこれらのシリコン屑は利用されないまま廃棄処理されるか,もしくは特許文献1に示されるように,HFや無機酸を使用し,濾過や乾燥工程など多くの処理を施されて回収されていた。
【特許文献1】特開2001−278612号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら,使用済みスラリーに含まれるシリコンを回収する従来の技術では,設備が大掛かりになり,また工数も多く手間がかかっていた。特に,スラリーに鉱物油を使用している場合は,灯油や軽油などの石油系の有機溶剤や、HFなどの無機酸などが必要で,安全設備や環境汚染防止の処理に非常に多大なコストが必要となっていた。また,濾過装置を必要とするため濾過フィルター費用もコストUPの要因となっていた。
このため,使用済みスラリー中のシリコン屑の有効な処理方法が望まれていた。しかし,使用済みスラリーをシリコン含有材料として使用する場合には,スラリー中に含まれる有機物であるクーラントが種々の問題を引き起こすことがある。問題としては,例えば,有機物系有害物質を発生させることや,精製炉内での有機物の付着による汚染などが挙げられる。従って,使用済みスラリーをシリコン含有材料として使用するためには,クーラントを確実に除去することが重要である。
本発明は係る事情に鑑みてなされたものであり,クーラントが除去されたシリコン含有材料を回収する方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段及び発明の効果】
【0005】
本発明のシリコン含有材料の回収方法は,水溶性クーラント,砥粒及びシリコン粒を少なくとも含有する,シリコンウエハの製造プロセスでの使用済みスラリーから水溶性クーラントを予め除去することによって固形分を得て,その固形分から,水溶性クーラントに対し相溶性を有しかつ水溶性クーラントよりも沸点が低い低沸点有機溶媒を用いて前記固形分中に残留する水溶性クーラントを抽出し,抽出に用いた低沸点有機溶媒を遠心分離によって除去し,遠心分離により得られる固形分を回収することを特徴とする。
【0006】
本発明では,比較的蒸発しやすい低沸点有機溶媒を用いて,固形分に残留している水溶性クーラントを抽出し,抽出に用いた低沸点有機溶媒を遠心分離によって除去することによって,水溶性クーラントが除去されたシリコン含有材料を回収する。遠心分離により得られる固形分中には低沸点有機溶媒が含まれるが,低沸点有機溶媒は沸点が比較的低いので,容易に除去することができる。
回収されたシリコン含有材料中には,多くのシリコンが含有されており,水素ガスおよび珪酸ナトリウム製造の原材料として,又はポリシリコンの製造の原材料としてなど,種々の方法で使用可能である。さらに,特開2005−330149号公報で開示された方法によってハロシランを製造するための原材料として用いることができる。
また,この材料は,水溶性クーラントが除去されているので,有機物系有害物質が発生したり,精製炉内での有機物の付着による汚染が起こったりするといった問題を回避することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明の一実施形態のシリコン含有材料の回収方法は,水溶性クーラント,砥粒及びシリコン粒を少なくとも含有する,シリコンウエハの製造プロセスでの使用済みスラリーから水溶性クーラントを予め除去することによって固形分を得て,その固形分から,水溶性クーラントに対し相溶性を有しかつ水溶性クーラントよりも沸点が低い低沸点有機溶媒を用いて前記固形分中に残留する水溶性クーラントを抽出し,抽出に用いた低沸点有機溶媒を遠心分離によって除去し,遠心分離により得られる固形分を回収することを特徴とする。
【0008】
以下,各工程について詳述する。
1.固形分取得工程
まず,水溶性クーラント,砥粒及びシリコン粒を少なくとも含有する,シリコンウエハの製造プロセスでの使用済みスラリーから水溶性クーラントを予め除去することによって固形分を得る。
【0009】
使用済みスラリーとは,スラリーにシリコン粒が混入されたものである。
スラリーは,砥粒とそれを分散する水溶性クーラントとからなる。砥粒は,その種類は限定されないが,例えば,SiC,ダイヤモンド,CBN,アルミナなどからなる。水溶性クーラントは,その種類は限定されないが,例えば,エチレングリコール,プロピレングリコール又はポリエチレングリコールなどの水溶性の有機溶媒からなる。また,水溶性クーラントは,5%〜15%程度の水を含んでいてもよい。この場合,このクーラントが消防法上の危険物となるのを避けることができる。さらに,クーラントには,通常,砥粒やSi切り屑を分散させるための分散剤(ベントナイト)など(数%程度)が添加されている。本明細書において,「%」は,「重量%」を意味する。
【0010】
シリコンウエハの製造プロセスに含まれる工程の例としては,例えば,シリコンインゴットのスライス工程や,シリコンウエハのラッピング工程などが挙げられる。シリコン粒とは,例えば,シリコンインゴットをスライスしてシリコンウエハを作成するときに発生するシリコン切屑,又はシリコンウエハをラッピングするときに発生する研磨屑である。使用済みスラリー中のシリコン濃度は,例えば10%以上である。
【0011】
固形分は,使用済みスラリーから水溶性クーラントを予め除去することによって得る。水溶性クーラントの除去方法は,限定されないが,例えば,蒸留である。蒸留の方法は,使用済みスラリーから水溶性クーラントを蒸発させて固形分が得られる方法であれば,限定されない。蒸留は,常圧蒸留,減圧蒸留,真空蒸留の何れであってもよいが,エネルギー節約や安全性等の観点から真空(10Torr以下)蒸留が好ましい。固形分は,通常は,粉体状である。蒸発させた水溶性クーラントは,回収してスラリーの再生に用いることが好ましい。
【0012】
水溶性クーラントの除去は,蒸留以外にも,遠心分離又は濾過によって行ってもよい。(1)遠心分離と蒸留の組合せ,(2)濾過と蒸留の組合せによって行ってもよい。蒸留又は遠心分離によって得られる固形分を蒸留してもよく,液分を蒸留してもよい。蒸留又は遠心分離によって得られる固形分又は液分の一部のみを蒸留してもよい。遠心分離又は濾過は,1次であっても複数次であってもよい。
【0013】
水溶性クーラントの除去は,より具体的には,例えば,以下の方法で実施することができる。
1−1.第1の方法
水溶性クーラントの除去の第1の方法は,使用済みスラリーから水溶性クーラントを予め除去する工程は,使用済みスラリーを,1次遠心分離することにより,砥粒が主成分の固形分を回収し,1次遠心分離により得られる液分を2次遠心分離することにより,水溶性クーラントが主成分の液分の一部を回収し,2次遠心分離により得られる液分の残りとスラッジの少なくとも一方からなる試料から蒸留により水溶性クーラントを予め除去する工程を含む方法である。
【0014】
以下,第1の方法に含まれる工程について詳しく説明する。
(1)1次遠心分離工程
この工程では,上記使用済みスラリーを,1次遠心分離することにより,砥粒が主成分の固形分を回収する。
【0015】
1次遠心分離は,好ましくは,100〜1000Gで行う。1次遠心分離により,使用済みスラリーが,第1固形分と第1液分とに分離される。第1固形分は,砥粒が主成分である。砥粒は,一般にシリコン粒よりも比重が大きいので,シリコン粒よりも速く沈降する。このため,低速の遠心分離を行うと,砥粒が選択的に沈降する。第1固形分には,多くの砥粒が含まれているので,第1固形分は,スラリーの再生に用いることができる。一方,第1液分には,主に水溶性クーラント及びシリコン粒が含まれている。
【0016】
(2)2次遠心分離工程
この工程では,1次遠心分離により得られる液分を2次遠心分離することにより,水溶性クーラントが主成分の液分の一部を回収する。
2次遠心分離は,好ましくは,2000〜5000Gで行う。このような高速の遠心分離を行うと,1次遠心分離では,沈降しなかった固形分も沈降する。従って,2次遠心分離により,第1液分が,水溶性クーラントが主成分の液分(第2液分)と,固形分であるスラッジとに分離される。スラッジには,シリコン粒と,1次遠心分離で沈降しなかった砥粒が含まれている。第2液分には,砥粒及びシリコン粒も含まれている。第2液分は,通常,スラリーの再生に利用されるが,その全量をそのままスラリーの再生に用いると,再生したスラリーのシリコン質量比が大きくなりすぎて,好ましくない。そこで,本方法では,第2液分の一部のみを回収する。この回収された液分は,スラリーの再生に用いることができる。
【0017】
(3)蒸留工程
この工程では,2次遠心分離により得られる液分の残りとスラッジの少なくとも一方からなる試料を蒸留する。蒸留する試料は,例えば,(1)液分の残りのみ,(2)スラッジのみ,(3)液分の残りとスラッジの混合物の何れであってもよい。スラッジは,一部のみを試料に含めてもよい。スラッジは,蒸留を行う前に乾燥させておいてもよい。乾燥の方法は,特に限定されない。
【0018】
1−2.第2の方法
水溶性クーラントの除去の第2の方法は,使用済みスラリーから水溶性クーラントを予め除去する工程は,使用済みスラリーを,1次遠心分離することにより,砥粒が主成分の固形分を回収し,1次遠心分離により得られる液分の少なくとも一部からなる試料から蒸留により水溶性クーラントを予め除去する工程を含む方法である。
【0019】
以下,第2の方法に含まれる工程について説明する。1次遠心分離の方法,蒸留の方法は,第1の方法と共通する。第2の方法では,蒸留する試料が第1の方法と異なっている。第2の方法では,1次遠心分離により得られる液分の少なくとも一部からなる試料を蒸留して固形分を得る。蒸留する試料は,例えば,(1)液分の一部,(2)液分の全部の何れであってもよい。また,液分の一部を蒸留する場合,液分の残りを2次遠心分離し,それによって得られるスラッジ(全量又は一部)を蒸留する試料に含めてもよい。
【0020】
2.抽出工程
次に,上記固形分から,水溶性クーラントに対し相溶性を有しかつ水溶性クーラントよりも沸点が低い低沸点有機溶媒を用いて前記固形分中に残留する水溶性クーラントを抽出する。「抽出」とは,前記固形分中に残留する水溶性クーラントを低沸点有機溶媒中に溶解させることを意味する。
【0021】
水溶性クーラントの抽出は,例えば,上記低沸点有機溶媒を上記固形分に添加し,両者を攪拌することによって行うことができる。
上記低沸点有機溶媒の種類は,水溶性クーラントに対し相溶性を有しかつ水溶性クーラントよりも沸点が低いものであれば,限定されないが,例えば,炭素数が1〜6(好ましくは,1,2,3,4,5及び6の何れか2つの間の範囲)のアルコール又はケトンである。このようなアルコールの具体例としては,メタノール,エタノール,イソプロピルアルコールやブチルアルコールが挙げられる。このようなケトンの具体例としては,アセトンやメチルエチルケトンが挙げられる。低沸点有機溶媒は,複数種類の有機溶媒の混合物であってもよい。別の観点から,低沸点有機溶媒は,水溶性クーラントよりも,沸点が50℃以上(好ましくは,60℃,70℃,80℃,90℃又は100℃以上)低いものが好ましい。この場合,次に述べる遠心分離により得られる固形分に残留する低沸点有機溶媒を蒸発させやすいという利点と,遠心分離により得られる液分を蒸留することによって,低沸点有機溶媒を回収する際に,蒸留により得られる低沸点有機溶媒の純度を高くしやすいという利点がある。
【0022】
固形分中に残留する水溶性クーラントを低沸点有機溶媒に効率的に溶解させるために,抽出の前又は抽出の際に,固形分を粉砕する工程をさらに備えてもよい。
【0023】
3.遠心分離工程
次に,抽出に用いた低沸点有機溶媒を遠心分離によって除去する。遠心分離の方法やそれに用いる装置は,限定されない。遠心分離は,3000G以上(好ましくは,4000G,5000G,6000G,7000G又は8000G以上)で実施されることが好ましい。
【0024】
遠心分離により得られる固形分から,前記低沸点有機溶媒と同一又は異なる種類の低沸点有機溶媒を用いて前記固形分中に残留する水溶性クーラントを抽出し,抽出に用いた低沸点有機溶媒を遠心分離によって除去し,遠心分離により得られる固形分を回収する工程を1回以上さらに備えてもよい。言い換えると,抽出及び遠心分離工程を繰り返してもよい。繰り返し回数の上限は,特にないが,抽出及び遠心分離を10回行えば固形分中に残留する水溶性クーラントは,ほぼ完全に除去されると考えられる。複数回の抽出及び遠心分離は,互いに異なる条件で実施されてもよく,同じ条件で実施されてもよい。
【0025】
遠心分離により得られる液分を蒸留して低沸点有機溶媒を回収する工程をさらに備えることが好ましい。回収した低沸点有機溶媒は,再度,残留水溶性クーラントの抽出に用いることができる。
【0026】
4.乾燥工程
次に,固形分に残留している低沸点有機溶媒を蒸発させて固形分を乾燥させる工程を備えることが好ましい。
低沸点有機溶媒は,比較的沸点が低いので比較的蒸発しやすい。固形分の乾燥の方法は,固形分中の低沸点有機溶媒を蒸発させることができる方法であれば限定されない。乾燥は,自然乾燥であっても,加熱又は減圧による乾燥であってもよい。
【0027】
以上の実施形態で示した種々の特徴は,互いに組み合わせることができる。1つの実施形態中に複数の特徴が含まれている場合,そのうちの1又は複数個の特徴を適宜抜き出して,単独で又は組み合わせて,本発明に採用することができる。
【実施例1】
【0028】
図1を用いて,本発明の実施例1について説明する。図1は,本実施例のシリコン含有材料回収システムを示す。
本実施例ではスラリーを使用したスライス加工の対象物として太陽電池用シリコンを選択した。本実施例で使用した太陽電池用のMWSは,生産能力に主眼が置かれており,一回の加工で,4本のシリコンインゴット(125W×125D×400L)を一度に加工し,ウエハ(125W×125D×0.3L)を3200枚程度加工することが可能である。
【0029】
加工時に使用するスラリータンクは200L程度の大きさのものを使用し,砥粒(比重:3.21)と水溶性クーラント(比重:1)を1:1の質量比に混合して使用した。水溶性クーラントには,組成が,プロピレングリコール80%,水15%,分散剤5%であるものを用いた。一回の加工により約20kgのシリコン切屑を主とする固形物がスラリーの中に混入する。
【0030】
1.1次,2次遠心分離工程
まず,500kg(比重:1.72,290L)の使用済みスラリー1をデカンタ方式の遠心分離(1次遠心分離と呼ぶ,500G)により液分3aと固形分3bに分離した。
次に,液分3aの全量をさらにデカンタ方式の遠心分離(2次遠心分離と呼ぶ,3500G)により液分5aとスラッジ5bとに分離した。
1次遠心分離により発生した固形分(砥粒が多く含まれる)3bの全量を再生砥粒4として回収し,2次遠心分離後の液分5aの一部(30%)を再生クーラント6として回収し,両者を混合し,比重や粘度を調整し,新砥粒と新クーラントを追加して再生スラリーを作成した。スラリーの再生とスライスを繰り返すと,使用済みスラリー,再生スラリーに含まれるシリコンの濃度は,それぞれ,12%程度,6%程度になった。
【0031】
スラッジ5bと,液分5aのうち再生クーラント6として使用されないもの(余剰クーラント)7の発生量はそれぞれ100kg,80kgであった。スラッジ5bと余剰クーラント7の発生量及び成分を測定した。その結果を表1に示す。
【0032】
【表1】

【0033】
2.蒸留工程
次に,スラッジ5bと余剰クーラント7を混合した試料を真空蒸留し,液分9aと固形分9bを得た。真空蒸留は,真空蒸留装置(温度:160℃,最終到達真空度10Torr)を用いて行った。液分9aは,蒸留クーラント11としてスラリーの再生に利用した。固形分9bの発生量及び成分を測定した。その結果を表2に示す。
【表2】

【0034】
固形分9bの粒径分布を測定した。粒径測定は,まず,ふるいを用いて10mm以上,1mm以上,0.1mm以上の粒子を順に分離し,その後,粒度分布計を用いて残りの粒子の粒径を測定することによって行った。その結果を表3に示す。表3を見ると,1〜10mm程度の大きな粒が多数存在していることが分かる。これは,固形分9bに残留するクーラントによって微細な粒子同士が接着され,大きな粒子になっているためであると考えられる。
【表3】

【0035】
3.攪拌・遠心分離工程
次に,固形分9bに対して10倍量(980kg)のイソプロピルアルコール(以下,「アルコール」と呼ぶ。)12を添加し,30分攪拌した。その後,遠心分離(8000G)により,固液分離を実施した。これによって液分15aと固形分15bが得られた。この固形分15bに対して,再度同様の条件で攪拌及び遠心分離を行った。攪拌及び遠心分離工程は,全部で5回行った。
攪拌及び遠心分離工程が5回終了した後の固形分15bは,全体の重量が111.8kgで,28kgのアルコールを含んでいた。
【0036】
遠心分離後の液分15aは,蒸留した。蒸留の液分は,再生アルコール19として取り出した。再生アルコール19は,攪拌用アルコールとして再利用した。蒸留は,90℃で行い,蒸発した液分は,凝縮器を用いて回収した。収率を高くするため,凝縮器の温度は,0℃に設定した。液分15aに含まれるアルコール(イソプロピルアルコール)は,沸点が82.4℃であり,プロピレングリコールは,187.85℃である。従って,90℃での蒸留では,プロピレングリコールは,ほとんど蒸発せず,蒸留によって高純度のアルコールを回収することができる。
5回の遠心分離で回収した液分15aの合計重量は,4872kgであった。再生アルコール19の重量は,4500kgであった。蒸留後に残存した固形分は,主成分が,クーラント成分のPGで,微量成分として,SiC,Si,金属不純物,その他を含んでいた。
【0037】
4.乾燥工程
次に,固形分17bに対して乾燥(100℃で1時間加熱)を実施して,液分17aを蒸発させることによって固形分17bを取り出した。蒸発した液分17aは,凝縮器で回収した。凝縮器の条件は,常圧で0℃に設定した。回収量は,25kgであった。回収した液分17aは,そのまま再生アルコール19とした。固形分17bの発生量及び成分を測定した。その結果を表4に示す。
【表4】

【0038】
さらに,固形分17bの粒度分布を測定した。粒径測定は,粒度分布計を用いて行った。その結果を表5に示す。表3と表5を比較すると,蒸留後の固形分9bにアルコール12を添加して攪拌を行うことによって,粒径0.1mm以上の粒子が消失し,ほとんどの粒子の粒径が0.1mm未満になったことが分かる。これは,蒸留後の固形分9bに残留しているクーラントがアルコールに溶かされ,クーラントによって接着されていた微細粒子同士が分離したためであると考えられる。
【表5】

【0039】
以上の工程によって,クーラントが実質的に含まれていないシリコン含有材料21を回収することができた。シリコン含有材料21は,多くのシリコンを含有しており,ポリシリコンやハロシランの製造の原材料として利用可能である。
【0040】
本実施例では,遠心分離後の液分15aからアルコールを回収し,さらに乾燥工程で蒸発したアルコールも回収している。従って,使用したアルコールの大部分を回収し,再利用することが可能になっている。
【0041】
上記実施例では,1次遠心分離の液分3aの全量に対して2次遠心分離を行ったが,図2に示すように,再生クーラント6を得るのに必要な分量のみに対して2次遠心分離を行い,液分3aの残りをスラッジ5bと混合し,これを蒸留してもよい。この場合,2次遠心分離での負荷を減少させることができる。
【0042】
さらに,上記実施例ではスラッジ5bを乾燥させずに余剰クーラント7と混合したが,図3に示すように,スラッジ5bを乾燥させた後にスラッジ5bと余剰クーラント7を混合してもよい。この場合でも,上記実施例と同等の効果が得られる。
【0043】
さらに,上記実施例では1次・2次遠心分離を行ったが,図4に示すように,1次遠心分離のみを行い,その液分3aを蒸留する試料としてもよい。この場合,設備コストを低減することができるという利点がある。
【実施例2】
【0044】
図5を用いて,本発明の実施例2について説明する。本実施例は,余剰クーラントのみからなる試料に対して蒸留を行う点において,実施例1と異なっている。
【0045】
1.1次,2次遠心分離工程
この工程は,実施例1と共通しているので説明を省略する。但し,スラッジ5bは,廃棄し,余剰クーラント7のみを,蒸留する試料とした。
【0046】
2.蒸留工程
次に,余剰クーラント7からなる試料を真空蒸留し,液分9aと固形分9bを得た。真空蒸留は,実施例1と同一の条件で行った。液分9aは,蒸留クーラント11としてスラリーの再生に利用した。固形分9bの発生量及び成分を測定した。その結果を表6に示す。
【表6】

【0047】
固形分9bの粒径分布を測定した。その結果を表7に示す。表7を見ると,1〜10mm程度の大きな粒が多数存在していることが分かる。これは,固形分9bに残留するクーラントによって微細な粒子同士が接着され,大きな粒子になっているためであると考えられる。
【表7】

【0048】
3.攪拌・遠心分離工程
次に,固形分9bに対して10倍量(128kg)のイソプロピルアルコール(以下,「アルコール」と呼ぶ。)12を添加し,30分攪拌した。その後,遠心分離(8000G)により,固液分離を実施した。これによって液分15aと固形分15bが得られた。
この固形分15bに対して,再度同様の条件で攪拌及び遠心分離を行った。この攪拌及び遠心分離工程は,全部で5回行った。
攪拌及び遠心分離工程が5回終了した後の固形分15bは,全体の重量が14kgで,3kgのアルコールを含んでいた。
【0049】
遠心分離後の液分15aは,蒸留した。蒸留の液分は,再生アルコール19として取り出した。再生アルコール19は,攪拌用アルコールとして再利用した。蒸留は,90℃で行い,蒸発した液分は,凝縮器を用いて回収した。収率を高くするため,凝縮器の温度は,0℃に設定した。
5回の遠心分離で回収した液分15aの合計重量は,632kgであった。再生アルコール19の重量は,550kgであった。蒸留後に残存した固形分は,主成分が,クーラント成分のPGで,微量成分として,SiC,Si,金属不純物,その他を含んでいた。
【0050】
4.乾燥工程
次に,固形分17bに対して乾燥(100℃で1時間加熱)を実施して,液分17aを蒸発させることによって固形分17bを取り出した。蒸発した液分17aは,凝縮器で回収した。凝縮器の条件は,常圧で0℃に設定した。回収量は,2.5kgであった。回収した液分17aは,そのまま再生アルコール19とした。固形分17bの発生量及び成分を測定した。その結果を表8に示す。
【表8】

【0051】
さらに,固形分17bの粒度分布を測定した。その結果を表9に示す。
【表9】

【0052】
以上の工程によって,クーラントが実質的に含まれていないシリコン含有材料21を回収することができた。
【実施例3】
【0053】
実施例3は,攪拌の際に添加するアルコールの重量を半分(つまり,5倍量)にした点,及び攪拌及び遠心分離の回数を変更した以外は,実施例2と同じ条件で行った。蒸留後の固形分9bと,毎回の遠心分離後の固形分15bにそれぞれ含まれているクーラントの重量を測定した。残留クーラント重量の測定は,各固形分を100℃に加熱して低沸点有機溶媒を除去した後に重量を測定し,その後,300℃で加熱してクーラントを除去した後に重量を測定し,300℃での加熱の前後での重量変化量を残留クーラントの重量とすることによって行った。その結果を表10に示す。表10によれば,攪拌及び遠心分離を繰り返すことによって残留クーラント重量が減少することが分かる。攪拌及び遠心分離を行う回数は,表10を参照して,シリコン含有材料の用途に応じて適宜決定すればよい。通常は,2回行えば十分である。
【表10】

【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】本発明の実施例1のシリコン含有材料回収システムを示す。
【図2】本発明の実施例1のシリコン含有材料回収システムの変形例を示す。
【図3】本発明の実施例1のシリコン含有材料回収システムの変形例を示す。
【図4】本発明の実施例1のシリコン含有材料回収システムの変形例を示す。す。
【図5】本発明の実施例2のシリコン含有材料回収システムを示す。
【符号の説明】
【0055】
1:使用済みスラリー 3a:1次遠心分離後の液分 3b:1次遠心分離後の固形分 4:再生砥粒 5a:2次遠心分離後の液分 5b:2次遠心分離後の固形分 6:再生クーラント 7:余剰クーラント 9a:蒸留後の液分 9b:蒸留後の固形分 11:蒸留クーラント 12:アルコール 15a:遠心分離後の液分 15b:遠心分離後の固形分 17a:乾燥後の液分 17b:乾燥後の固形分 19:再生アルコール 21:シリコン含有材料

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水溶性クーラント,砥粒及びシリコン粒を少なくとも含有する,シリコンウエハの製造プロセスでの使用済みスラリーから水溶性クーラントを予め除去することによって固形分を得て,
その固形分から,水溶性クーラントに対し相溶性を有しかつ水溶性クーラントよりも沸点が低い低沸点有機溶媒を用いて前記固形分中に残留する水溶性クーラントを抽出し,抽出に用いた低沸点有機溶媒を遠心分離によって除去し,遠心分離により得られる固形分を回収することを特徴とするシリコン含有材料の回収方法。
【請求項2】
使用済みスラリーから水溶性クーラントを予め除去する工程は,
使用済みスラリーを,1次遠心分離することにより,砥粒が主成分の固形分を回収し,
1次遠心分離により得られる液分を2次遠心分離することにより,水溶性クーラントが主成分の液分の一部を回収し,
2次遠心分離により得られる液分の残りとスラッジの少なくとも一方からなる試料から蒸留により水溶性クーラントを予め除去する工程を含む請求項1に記載の方法。
【請求項3】
使用済みスラリーから水溶性クーラントを予め除去する工程は,
使用済みスラリーを,1次遠心分離することにより,砥粒が主成分の固形分を回収し,
1次遠心分離により得られる液分の少なくとも一部からなる試料から蒸留により水溶性クーラントを予め除去する工程を含む請求項1に記載の方法。
【請求項4】
遠心分離により得られる固形分から,前記低沸点有機溶媒と同一又は異なる種類の低沸点有機溶媒を用いて前記固形分中に残留する水溶性クーラントを抽出し,抽出に用いた低沸点有機溶媒を遠心分離によって除去し,遠心分離により得られる固形分を回収する工程を1回以上さらに備える請求項1に記載の方法。
【請求項5】
遠心分離は,3000G以上で実施される請求項1記載の方法。
【請求項6】
低沸点有機溶媒は,炭素数が1〜6のアルコール又はケトンからなる請求項1に記載の方法。
【請求項7】
低沸点有機溶媒は,メタノール,エタノール,イソプロピルアルコール又はアセトンからなる請求項1に記載の方法。
【請求項8】
遠心分離により得られる固形分を乾燥させる工程を備える請求項1に記載の方法。
【請求項9】
遠心分離により得られる液分を蒸留することによって,低沸点有機溶媒を回収する工程をさらに備える請求項1に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−246367(P2007−246367A)
【公開日】平成19年9月27日(2007.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−75174(P2006−75174)
【出願日】平成18年3月17日(2006.3.17)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【出願人】(000198352)石川島汎用機サービス株式会社 (27)
【出願人】(000002071)チッソ株式会社 (658)
【Fターム(参考)】