説明

シリコーングリース系潤滑剤組成物

【課題】 シリコーン油を基油とするシリコーングリース系でありながら、その耐熱性、温度−粘度特性、ダンパー特性を損なうことなく、機械的剪断に対して優れた安定性を有する潤滑剤組成物を提供する。
【解決手段】 基油であるシリコーン油に無機増ちょう剤と固体潤滑剤を添加したシリコーングリース系潤滑剤組成物であって、シリコーン油が25℃の動粘度が50〜100万mm/秒であるジメチルシリコーン油及びメチルフェニルシリコーン油から選ばれた少なくとも1種であり、無機増ちょう剤として細孔を有する疎水性微粉末シリカゲルを用いる。疎水性微粉末シリカゲルは平均粒子径が2〜15μmで、細孔容積が0.4〜2ml/gのものが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリコーン油を基油とするシリコーングリース系潤滑剤組成物、特にシリコーングリース系でありながら機械的剪断力安定性に優れた潤滑剤組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、各種機械類の潤滑剤として、グリースは潤滑油と共に汎用的に使用されている。グリースは、基油に増ちょう剤と固体潤滑剤を分散して各種潤滑特性を制御し、更に各種添加剤を使用目的に合わせて配合したものであり、その種類は上記各成分の組み合わせにより数多く存在している。
【0003】
基油の種類により分類される代表的なグリースの一つとして、シリコーングリースがある。シリコーングリースの基油として使用するシリコーン油は、温度変化に対する粘度の安定性、化学的安定性、耐熱性及び耐寒性等の多くの特長を有する。従って、シリコーン油を基油とするグリースは、上記の特長から広い温度範囲での使用が可能なだけでなく、粘着性を生かしたダンパー用やシール用、熱伝導性を生かした放熱用、及び導電性を生かした導電用など、その用途は多岐にわたっている。
【0004】
また、増ちょう剤の種類によって分類される代表的なグリースとして、金属石けんを増ちょう剤に用いたグリースが一般的に使用されている。この金属石けんを増ちょう剤とするシリコーングリースに対して、無機物を増ちょう剤に使用したシリコーングリースは滴点を持たないため、より高温での使用が可能である。尚、シリコーン油の増ちょう剤として用いる無機物としては、ポリテトラフルオロエチレン等のフッ素樹脂、カーボンブラック、金属粉、微粉末シリカ等が知られている。
【0005】
例えば、特公平02−021434号公報(特許文献1)には、増ちょう剤にカーボンブラックまたはシリカ等の無機増ちょう剤を用いたシリコーングリースが記載されている。このシリコーングリースについては、境界潤滑性が改善されること、またテトラクロロフタル酸ジアルキルエステルを添加することで耐荷重能性が向上することが記載されている。
【0006】
ところで、潤滑剤としてグリースを使用する利点として、垂れないこと、その特有の粘性による緩衝効果などがある。様々な形態の潤滑剤がある中で、グリースを選択する部位においては、潤滑剤が一定の部位にとどまっていることが要求されている。従って、使用するに伴ってグリースが軟化し、更には液状となって適用部から流れ出ることは、最も避けるべき事態である。例えば、機械の摺動部に使われた際に、剪断安定性の悪いグリースは増ちょう剤の繊維構造が壊れて軟化したり、油分離を引き起こしたりする現象が見られる。
【0007】
このように、剪断安定性は極めて重要な性能のひとつである。現在市販されている剪断安定性に優れるグリースでは、増ちょう剤として一般にウレアが使用されている。ウレアグリースの滴点は260℃以上であり、一般的なリチウム石けんグリースに比べると耐熱性を有している。しかしながら、ウレアグリースは一般的に高温では硬化するため、200℃以上での使用には適していないことが知られている。
【0008】
ウレアグリースの一例として、特公昭63−026798号公報(特許文献2)及び特開平02−006599号公報(特許文献3)には、耐熱性に優れたジウレアグリースについての記載がある。一般的なジウレアは220℃程度で分解を起こすことが記載されており、また上記公報記載のジウレアグリースにおいても200℃より高温での耐熱性試験についての記載は無いため、その効果は不明である。
【0009】
以上に述べたように、シリコーングリースは耐熱性に優れるが、剪断安定性には劣っている。一方、ウレアグリースは剪断安定性に優れるが、耐熱性はシリコーングリースに及ばない。そのため、基油に用いるシリコーン油の耐熱性という特長を損ねることなく、優れた剪断安定性を備えるシリコーングリース系潤滑剤が望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特公平02−021434号公報
【特許文献2】特公昭63−026798号公報
【特許文献3】特開平02−006599号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、シリコーン油を基油とするシリコーングリース系でありながら、その優れた耐熱性、温度−粘度特性、ダンパー特性を損なうことなく、機械的剪断に対して優れた安定性を有する潤滑剤組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は、上記の目的を達成するために、基油であるシリコーン油に対し無機増ちょう剤をどのように組み合わせるかについて鋭意検討を重ねた結果、特定のシリコーン油に配合する無機増ちょう剤として疎水性微粉末シリカゲルを組み合わせることにより、シリコーン油が有する優れた耐熱性、温度−粘度特性、ダンパー特性を維持しながら、同時に機械的剪断安定性を向上させたグリース状潤滑剤となることを見出し、本発明を完成するに至ったものである。
【0013】
即ち、本発明が提供するシリコーングリース系潤滑剤組成物は、基油であるシリコーン油に無機増ちょう剤と固体潤滑剤を添加したシリコーングリース系潤滑剤組成物であって、前記シリコーン油の配合量が50〜99.8重量%、前記無機増ちょう剤の配合量が0.1〜30重量%、前記固体潤滑剤の配合量が0.1〜49.9重量%であり、前記シリコーン油がジメチルシリコーン油及びメチルフェニルシリコーン油から選ばれた少なくとも1種であり且つ25℃の動粘度が50〜1,000,000mm/秒であって、前記無機増ちょう剤が細孔を有する疎水性微粉末シリカゲルであることを特徴とする。
【0014】
上記本発明のシリコーングリース系潤滑剤組成物において、前記疎水性微粉末シリカゲルは、平均粒子径が2〜15μmであり、且つ細孔容積が0.4〜2ml/gであるものが好ましい。また、上記本発明のシリコーングリース系潤滑剤組成物において、前記固体潤滑剤は、グラファイト、二硫化モリブデン、ポリテトラフルオロエチレン、窒化ホウ素、メラミンシアヌレートから選ばれた少なくとも1種であることが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、基油であるシリコーン油が本来有している耐熱性、温度−粘度特性、ダンパー特性などの優れた特性を損なうことなく、機械的剪断に対して優れた安定性を有するシリコーングリース系潤滑剤組成物を提供することができる。従って、本発明のシリコーングリース系潤滑剤組成物は、実際に機械類に使用したとき、軟化することがなく、従来よりもグリース寿命が延び、機械のメンテナンスの負荷を低減することができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明に係るシリコーングリース系潤滑剤組成物は、基油であるシリコーン油に対し、必須の成分として無機増ちょう剤及び固体潤滑剤を添加配合してなる。基油として用いるシリコーン油は、ジメチルシリコーン油あるいはメチルフェニルシリコーン油のいずれか片方、又はその両方を混合して用いることができる。尚、ジメチルシリコーン油とメチルフェニルシリコーン油以外のシリコーン油、例えば変性シリコーン油などは、耐熱性が劣るため好ましくない。
【0017】
また、基油として用いるシリコーン油、即ちジメチルシリコーン油及び/又はメチルフェニルシリコーン油は、25℃の動粘度が50〜1,000,000mm/秒であることが必要である。25℃の動粘度が50mm/秒未満のシリコーン油では、粘度が低すぎることから油膜強度が弱くなるため好ましくない。この油膜強度の低下は、より低粘度のシリコーン油において顕著となる。また、25℃の動粘度が1,000,000mm/秒を超えるシリコーン油では、粘性抵抗が大きくなりすぎ、本来の潤滑剤としての機能に問題が生じる可能性があるため好ましくない。
【0018】
上記シリコーン油の配合量は、シリコーングリース系潤滑剤組成物全量を100重量%としたとき、50〜99.8重量%とする。シリコーン油の配合量が50重量%よりも少ないと、グリースの流動性が悪くなり、適用部位へのグリースの流れ込みが悪くなる。また、油分が少なくなることで、グリースから油が滲み出し難くなり、本来の潤滑特性に問題を生じる恐れがある。シリコーン油の配合量が99.8重量%を超えると、潤滑剤を構成する増ちょう剤及び固体潤滑剤をはじめとする他の成分を加える余地がなくなり、グリース状を維持することが困難となる。
【0019】
本発明のシリコーングリース系潤滑剤組成物では、増ちょう剤として無機増ちょう剤を使用し、具体的には疎水性微粉末シリカゲルを用いる。この疎水性微粉末シリカゲルは、微粉末シリカゲルを有機ケイ素化合物で疎水化処理したものであり、粒子表面に細孔を有している。増ちょう剤としての疎水性微粉末シリカゲルは、その粒子径が細かいほど、また細孔容積が大きいほど、シリコーン油を増ちょうする能力が大きくなる。
【0020】
即ち、疎水性微粉末シリカゲルの平均粒子径が15μmを超えて大きいか、もしくは細孔容積が0.4ml/g未満の場合には、NLGI(米国グリース協会規格)に基づき稠度測定可能な形状までシリコーン油を増ちょうすることができない。疎水性微粉末シリカゲルの平均粒子径が2μm未満か、もしくは細孔容積が2ml/gを超えて大きい場合には、シリコーン油を増ちょうする能力が過剰となるため、満足すべき剪断安定性の発現に問題が生じる可能性がある。従って、疎水性微粉末シリカゲルの平均粒子径は2〜15μmの範囲が好ましく、2〜8μmの範囲が更に好ましい。また、細孔容積は0.4〜2ml/gの範囲が好ましく、1〜2ml/gの範囲が更に好ましい。
【0021】
上記疎水性微粉末シリカゲルの配合量は、シリコーングリース系潤滑剤組成物全量を100重量%としたとき、0.1〜30重量%であることが必要である。配合量が30重量%より多いと、固体成分量が増えるためにグリースの流動性が悪くなり、適用部位へのグリースの流れ込みが悪くなる。また、油分が少なくなることで、グリースから油が滲み出し難くなり、本来の潤滑特性に問題を生じる。逆に0.1重量%未満の配合量では、充分な増ちょう効果が得られず、満足すべき剪断安定性も達成され難くなるため好ましくない。
【0022】
ところで、一般的に使用されている微粉末シリカは、ナノサイズの細かい粒子同士が3次元ネットワークを形成し、油と接触する表面積が大きいために、グリース増ちょう剤として広く使用されている。一方、本発明で用いる疎水性微粉末シリカゲルは、微粉末シリカに比べて粒子径は大きいが、粒子表面に細孔を有するため大きな表面積を持っている。そのため、粒子同士のネットワークに加えて、細孔内部に基油のシリコーン油を取り込むことにより、増ちょうして機械的剪断安定性に優れたグリースを形成することが可能となる。
【0023】
即ち、一般に機械的剪断を受けると、通常の微粉末シリカを用いたグリースは3次元ネットワークが壊れ、グリースが軟化する。弱い剪断であればチキソトロピー性によって時間と共に稠度が復元するが、剪断が強く且つ長時間に及ぶと軟化した状態から戻らなくなってしまう。一方、本発明の疎水性微粉末シリカゲルを用いたグリースにおいては、シリカゲルが粒子表面に細孔を有するため、機械的剪断を受けると細孔内部に基油が取り込まれてゆくのでグリースの軟化が避けられる。
【0024】
次に、本発明で用いる固体潤滑剤としては、一般に潤滑剤に使用されているものであれば特に限定されないが、二硫化モリブデン、グラファイト、ポリテトラフルオロエチレン、窒化ホウ素、メラミンシアヌレートから選ばれる1種を用いるか、あるいは2種以上を混合して用いることが好ましい。
【0025】
上記固体潤滑剤の配合量は、シリコーングリース系潤滑剤組成物全量を100重量%としたとき、0.1〜49.9重量%の範囲であることが必要である。固体潤滑剤の配合量が0.1重量%より少ないと、固体潤滑剤本来の性能である耐荷重性能の向上効果を発現するには不十分である。また、配合量が49.9重量%を超えると、固体成分量が増えるためにグリースの流動性が悪くなり、適用部位へのグリースの流れ込みが悪くなる。
【0026】
本発明のシリコーングリース系潤滑剤組成物は、上記のごとく基油のシリコーン油と無機増ちょう剤及び固体潤滑剤を必須の成分とするが、シリコーングリース本来の性能を損なうことのない範囲で、フィラー、酸化防止剤、金属不活性化剤等の各種の添加剤を添加することが可能である。これらの添加剤は、剪断安定性能をグリースに付与する無機増ちょう剤成分の疎水性微粉末シリカゲルに対して影響を与えないため、問題なく配合することができる。
【0027】
尚、本発明のシリコーングリース系潤滑剤組成物は、通常のシリコーングリースの場合と同様に製造することができる。即ち、基油であるシリコーン油に、無機増ちょう剤と固体潤滑剤、必要に応じて添加剤を、それぞれ所定量秤量し、公知の各種撹拌機などを用いて混合することにより製造することができる。
【実施例】
【0028】
以下の実施例において、基油であるシリコーン油に無機増ちょう剤と固体潤滑剤を添加し、撹拌機により混練した後、コロイドミル処理を行うことによって、それぞれシリコーングリース系潤滑剤組成物を作製した。尚、シリコーン油、無機増ちょう剤、固体潤滑剤としては、次のものを使用した。
【0029】
[シリコーン油]
シリコーン油A:ジメチルシリコーン油(25℃での動粘度1,000mm/秒、信越化学工業製 KF−96 1000CS)
シリコーン油B:メチルフェニルシリコーン油(25℃での動粘度400mm/秒、信越化学工業製 KF−54)
シリコーン油C:ジメチルシリコーン油(25℃での動粘度500,000mm/秒、信越化学工業製 KF−96H 50万CS)
シリコーン油D:ジメチルシリコーン油(25℃での動粘度1,000,000mm/秒、信越化学工業製 KF−96H 100万CS)
シリコーン油E:ジメチルシリコーン油(25℃での動粘度10mm/秒、信越化学工業製 KF−96 10CS)
シリコーン油F:アミノ変性シリコーン油(25℃での動粘度1,300mm/秒、信越化学工業製 KF−867)
【0030】
[無機増ちょう剤]
増ちょう剤A:疎水性微粉末シリカゲル(平均粒子径4μm、細孔容積1.6ml/g、富士シリシア化学製 サイロホービック200)
増ちょう剤B:疎水性微粉末シリカゲル(平均粒子径6μm、細孔容積1.3ml/g、富士シリシア化学製 サイロホービック704)
増ちょう剤C:親水性微粉末シリカ(平均粒子径12nm、細孔なし、日本アエロジル製 AEROSIL200)
増ちょう剤D:疎水性微粉末シリカ(平均粒子径12nm、細孔なし、日本アエロジル製 AEROSIL R974)
【0031】
[固体潤滑剤]
固体潤滑剤A:グラファイト(ティムカル製、TIMREX KS6)
固体潤滑剤B:ポリテトラフルオロエチレン(住友3M製、ダイニオンTF−9207)
【0032】
また、作製したシリコーングリース系潤滑剤組成物は以下のごとく評価した。ちょう度は、JIS K 2220に準拠した試験方法により測定した。剪断安定性については、ASTM D 1831に準拠したロール安定度試験により、シェルロール試験機を用いて、試験温度80℃、回転速度165rpm、回転時間16時間の条件下で測定したロール安定度(試験前後のちょう度の差)をもって評価した。また、潤滑性に関する評価には、ASTM D 2596に準拠したシェル式四球耐荷重能試験により測定した融着荷重を用いた。
【0033】
[実施例1]
基油として上記シリコーン油A又はB、無機増ちょう剤として上記した増ちょう剤A又はB、及び固体潤滑剤Aを使用し、下記表1に示す組成となるように配合して混練した後、コロイドミル処理を行うことにより、試料1〜4の各シリコーングリース系潤滑剤組成物を作製した。得られた本発明の各シリコーングリース系潤滑剤組成物について、ちょう度とロール安定度を測定し、配合組成と共に下記表1に示した。
【0034】
【表1】

【0035】
比較のために、無機増ちょう剤として親水性の又は疎水性で細孔なしの微粉末シリカの増ちょう剤C又はDを使用し、下記表2に示す組成となるように配合した以外は上記実施例1と同様にして、試料5〜8の各シリコーングリース系潤滑剤組成物を作製した。得られた比較例の各シリコーングリース系潤滑剤組成物について、ちょう度とロール安定度を測定し、配合組成と共に下記表2に示した。
【0036】
【表2】

【0037】
上記の結果から分るように、基油のジメチルシリコーン油又はメチルフェニルシリコーン油に配合する無機増ちょう剤として、細孔を有する疎水性の微粉末シリカ以外を用いた比較例の試料5〜8では、ロール安定度が+180を超えている。これに対し、細孔を有する疎水性微粉末シリカゲルを用いた本発明の試料1〜4(表1)は、ロール安定度が+8〜+26の範囲であり、機械的剪断によるグリースの軟化を防止する性能が格段に向上している。
【0038】
[実施例2]
基油として上記シリコーン油C、D、E又はFを用い、下記表3に示す組成となるように配合した以外は上記実施例1の試料1と同様にして、試料9〜12の各シリコーングリース系潤滑剤組成物を作製した。
【0039】
得られた試料9〜12の各シリコーングリース系潤滑剤組成物について、ちょう度とロール安定度を測定し、配合組成と共に下記表3に示した。尚、参考のために、表3には、実施例1における試料1のシリコーングリース系潤滑剤組成物の配合組成及びちょう度とロール安定度も併記した。
【0040】
【表3】

【0041】
この結果から分るように、試料1、9及び10のように基油として25℃の動粘度が50〜1,000,000mm/秒のシリコーン油を使用することにより、機械的剪断によるグリースの軟化を防止する優れた性能が得られ、特に動粘度が高い試料9、10は試料1よりも性能が向上した。しかし、無機増ちょう剤と固体潤滑剤が同じであっても、基油のシリコーン油がジメチルシリコーン油もしくはメチルフェニルシリコーン油でない試料11や、ジメチルシリコーン油もしくはメチルフェニルシリコーン油であっても25℃の動粘度が50mm/g未満の試料9では、剪断安定性の低下が認められた。
【0042】
[実施例3]
固体潤滑剤として上記した固体潤滑剤A又はBを用い、下記表4に示す組成となるように配合した以外は上記実施例1の試料1と同様にして、試料13〜18の各シリコーングリース系潤滑剤組成物を作製した。
【0043】
得られた試料13〜18の各シリコーングリース系潤滑剤組成物について、ちょう度を測定すると共に、シェル式四球耐荷重能試験による融着荷重を求め、その結果を配合組成と共に下記表4に示した。尚、参考のため、表4には、実施例1における試料1のシリコーングリース系潤滑剤組成物の配合組成及びちょう度と融着荷重も併記した。
【0044】
【表4】

【0045】
上記の結果から分るように、試料1、13〜15と試料16〜18の比較から、基油のシリコーン油と無機増ちょう剤が同じであっても、固体潤滑剤を添加しない場合や固体潤滑剤の配合量が少なすぎる場合には、固体潤滑剤の配合量が0.1〜49.9重量%の場合に比べて耐荷重性能の向上が不十分であった。
【0046】
[実施例4]
基油としてシリコーン油A又はシリコーン油Cを使用すると共に、増ちょう剤Aと固体潤滑剤固体潤滑剤Aを用い、下記表5に示す組成となるように配合した以外は上記実施例1の試料1と同様にして、試料19〜21の各シリコーングリース系潤滑剤組成物を作製した。
【0047】
得られた試料19〜21の各シリコーングリース系潤滑剤組成物について、ちょう度を測定すると共に、ロール安定度を求め、その結果を配合組成と共に下記表5に示した。尚、参考のため、表5には、実施例1における試料1のシリコーングリース系潤滑剤組成物の配合組成及びちょう度とロール安定度も併記した。
【0048】
【表5】

【0049】
この結果から、試料19のように無機増ちょう剤の配合量が30重量%を超えたり、試料20のように基油のシリコーン油の配合量が50重量%未満になったりすると、固形成分量が多くなりすぎるためグリースの状態をなさなくなり、ちょう度及びロース安定度の測定は困難であった。また、試料21のように無機増ちょう剤が0.1重量%より少なくなると、機械的剪断によるグリースの安定化性能に低下がみられた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基油であるシリコーン油に無機増ちょう剤と固体潤滑剤を添加したシリコーングリース系潤滑剤組成物であって、前記シリコーン油の配合量が50〜99.8重量%、前記無機増ちょう剤の配合量が0.1〜30重量%、前記固体潤滑剤の配合量が0.1〜49.9重量%であり、前記シリコーン油がジメチルシリコーン油及びメチルフェニルシリコーン油から選ばれた少なくとも1種であり且つ25℃の動粘度が50〜1,000,000mm/秒であって、前記無機増ちょう剤が細孔を有する疎水性微粉末シリカゲルであることを特徴とするシリコーングリース系潤滑剤組成物。
【請求項2】
前記疎水性微粉末シリカゲルは、平均粒子径が2〜15μmであり、且つ細孔容積が0.4〜2ml/gであることを特徴とする、請求項1に記載のシリコーングリース系潤滑剤組成物。
【請求項3】
前記固体潤滑剤は、グラファイト、二硫化モリブデン、ポリテトラフルオロエチレン、窒化ホウ素、メラミンシアヌレートから選ばれた少なくとも1種であることを特徴とする、請求項1〜2のいずれかに記載のシリコーングリース系潤滑剤組成物

【公開番号】特開2010−275384(P2010−275384A)
【公開日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−127546(P2009−127546)
【出願日】平成21年5月27日(2009.5.27)
【出願人】(591213173)住鉱潤滑剤株式会社 (42)
【Fターム(参考)】