説明

シリコーンゴムブレンド組成物及び口紅用成型型

【課題】棒状口紅等のエラストマー成型型として使用し得、特にフロロシリコーンゴムを使用した時に得られにくい口紅表面の光沢感や、ジメチルシリコーンゴムを使用した時に問題となる耐油性の欠点を補完することができ、また光沢感は棒状口紅を成型する時の離型性に優れている必要があり、耐油性と離型性の両方に優れるシリコーンゴム組成物を提供する。
【解決手段】ジメチルシリコーンゴム組成物とフロロシリコーンゴム組成物を特定割合でブレンドし、更にジメチルシリコーンゴム組成物中に使用する充填剤の表面活性の度合いに上限を設定したものを用い、更にフロロシリコーンゴム組成物中に使用する充填剤の表面活性にも上限を設定したものを用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、油脂、ワックス、又はその混合物を主成分とする棒状口紅成型用の型材料に好適な、耐油性と離型性に優れるシリコーンゴムブレンド組成物及び該組成物を硬化成型してなる口紅用成型型に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、種々の成型品を製造する手段として、金属製の成型型が広く使用されているが、近年では、天然ゴム、クロロプレンゴム、シリコーンゴムに代表されるエラストマーで造られた成型型を用いて成型する方法が知られている。このエラストマーで造られた成型型を用いる方法はチョコレート、かまぼこ、ゼリーの成型に採用されているとともに、棒状口紅、スティック状リップクリームなどの化粧品の固形化にも採用されている。
【0003】
油脂、ワックス、又はその混合物を主成分とする棒状口紅を成型する方法としては、型をポリスチレンに代表されるプラスチックを主素材としてカプセル状にして、それに溶解させた口紅成分を流し込み冷却して成型する方法が現在の主流である。しかし、この方法だと口紅表面に商品名や社名を入れる等、意匠性による付加価値を生み出すことができない。プラスチックの代わりに金型を使用することで意匠性の問題は解決できるが、金型を設計するのに労力がかかり、少量生産の場合コスト的なデメリットが生じやすい。また、天然ゴム、クロロプレンゴム、フロロシリコーンゴムに代表されるエラストマーを使用することで、意匠性は保ちながら、金型よりもコスト的に有利に成型が可能である。特にフロロシリコーンゴムは耐油性に優れているため、繰返し使用している間に膨張しづらく、形状変化を起こしにくい。
【0004】
しかしながら、特開2000−290139号公報(特許文献1)にあるようなフロロシリコーンゴムを用いても、口紅成分中にワックス分が多くなると、型からの離型性が悪くなり、表面に傷がついたり光沢感を失ったりしてしまうことがあり、製造できる処方に制限が生じる。また、特開2001−038740号公報(特許文献2)に示されるように、シリコーン変性フッ素化ポリエーテル骨格を持つエラストマーの場合も、フロロシリコーンゴムと同様に製造できる処方に制限が生じる。特に近年、棒状口紅は軟らかい触感のものが好まれる傾向にあり、エラストマー材料において、これらを成型する型用に適しているものは存在しなかった。特開2007−130844号公報(特許文献3)では、光沢性において優れるエラストマー材料が得られるが、ポリマーがジメチルシリコーンゴムであり、耐油性に乏しいため、繰返し使用している間に膨張し、形状変化を起こしやすいことが欠点として挙げられる。
【0005】
【特許文献1】特開2000−290139号公報
【特許文献2】特開2001−038740号公報
【特許文献3】特開2007−130844号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記事情に鑑みなされたもので、棒状口紅等のエラストマー成型型として使用し得、特にフロロシリコーンゴムを使用した時に得られにくい口紅表面の光沢感や、ジメチルシリコーンゴムを使用した時に問題となる耐油性の欠点を補完することができ、また光沢感は棒状口紅を成型する時の離型性に優れている必要があり、耐油性と離型性の両方に優れるシリコーンゴム組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するためには、単純にフロロシリコーンとジメチルシリコーンをブレンド、あるいはフロロシリコーンとジメチルシリコーンの共重合体を用いることが考えられるが、任意のフロロシリコーンとジメチルシリコーンを用意してブレンドしても、耐油性と離型性を兼ね備えた組成物を得ることはできない。耐油性はフロロシリコーンとジメチルシリコーンのブレンド比で決定されるので、フロロシリコーンの比率を高くすることで耐油性は得られるが、離型性は追従してこない。
【0008】
本発明者は、鋭意研究した結果、ジメチルシリコーンゴム組成物とフロロシリコーンゴム組成物を特定割合でブレンドし、更にジメチルシリコーンゴム組成物中に使用する充填剤の表面活性の度合いに上限を設定したものを用い、更にフロロシリコーンゴム組成物中に使用する充填剤の表面活性にも上限を設定したものを用いることで、上記目的を達成できることを見出した。
【0009】
即ち、ジメチルシリコーンゴム組成物に、充填剤として比表面積(BET法)が20〜220m2/gである補強性シリカ粉末を用い、ジメチルシリコーンゴム組成物中における補強性シリカ粉末の配合量が30質量%以下であり、かつ下記式(2):
補強性シリカ粉末比表面積(m2/g)×補強性シリカ粉末質量比≦40 …(2)
(ここで、補強性シリカ粉末質量比とは、(A)成分の総質量に対する(A−2)補強性シリカ粉末の質量割合である。)
の条件を満たすように活性点、シラノール基を相対的に少なくした組成物(A)と、フロロシリコーンゴム組成物に、充填剤として比表面積(BET法)が20〜220m2/gである補強性シリカ粉末を用い、フロロシリコーンゴム組成物中における補強性シリカ粉末の配合量が15質量%以下であり、かつ下記式(4):
補強性シリカ粉末比表面積(m2/g)×補強性シリカ粉末質量比≦30 …(4)
(ここで、補強性シリカ粉末質量比とは、(B)成分の総質量に対する(B−2)補強性シリカ粉末の質量割合である。)
の条件を満たすように活性点、シラノール基を相対的に少なくした組成物(B)とを用いることで、それぞれのシリコーンゴム組成物中の充填剤による活性点、つまりシラノール基を相対的に少なくしたものを用意し、それらを組成物全体100質量部に対するフロロシリコーンゴム組成物の割合を83〜95質量部の範囲でブレンドすることで、耐油性に優れ、かつ離型性にも優れた、例えば口紅を成型した時の光沢感のある成型型を提供できるシリコーンゴムブレンド組成物となることを見出し、本発明をなすに至ったものである。
【0010】
式(2)及び式(4)で示したような、シリカ活性量の目安となる、比表面積(BET法)と補強性シリカ粉末質量比(即ち、(A)、(B)それぞれの組成物において、ベースポリマーと補強性シリカフィラーとの合計質量に対する該補強性フィラーの質量比率)の積により求められた数値を、本明細書では「シリカ指数」と表現する。このシリカ指数は一般的なものではなく、本発明を補足説明するための手段である。
【0011】
従って、本発明は、下記シリコーンゴムブレンド組成物及び該組成物を硬化成型してなる口紅用の成型型を提供する。
〔請求項1〕
下記の(A)〜(C)成分を必須成分とするシリコーンゴムブレンド組成物。
(A)(A−1)下記平均組成式(1)で示される、平均重合度100〜10,000のオルガノポリシロキサン、
nSiO(4-n)/2 …(1)
(式中、Rは同一又は異種の非置換の1価炭化水素基又は水酸基であり、1分子中の全R基のうち少なくとも2個は脂肪族不飽和基である。nは1.95〜2.05の正数である。)
(A−2)比表面積(BET法)が20〜220m2/gの補強性シリカ粉末:(A)成分中30質量%以下、かつ下記式(2)の条件を満たす量、
補強性シリカ粉末比表面積(m2/g)×補強性シリカ粉末質量比≦40 …(2)
(ここで、補強性シリカ粉末質量比とは、(A−1)成分と(A−2)成分との合計質量に対する(A−2)補強性シリカ粉末の質量割合である。)
を含有してなるシリコーンゴム組成物:3〜15質量部、
(B)(B−1)下記平均組成式(3)で示される、平均重合度1,000〜7,000のオルガノポリシロキサン、
1a2b3cSiO(4-a-b-c)/2 …(3)
(式中、R1はトリフロロプロピル基、R2は炭素数2〜8の一価脂肪族不飽和炭化水素基又は水酸基、R3は炭素数1〜8の非置換の一価脂肪族飽和炭化水素基又は炭素数6〜10の芳香族炭化水素基を示し、a,b,cは0.96≦a≦1.01、0.0001≦b≦0.01、0.96≦c≦1.06、1.98≦a+b+c≦2.02を満足する正数である。)
(B−2)比表面積(BET法)が20〜220m2/gの補強性シリカ粉末:(B)成分中15質量%以下、かつ下記式(4)の条件を満たす量、
補強性シリカ粉末比表面積(m2/g)×補強性シリカ粉末質量比≦30 …(4)
(ここで、補強性シリカ粉末質量比とは、(B−1)成分と(B−2)成分との合計質量に対する(B−2)補強性シリカ粉末の質量割合である。)
を含有してなるフロロシリコーンゴム組成物:83〜95質量部、
(C)下記一般式(5)
【化1】

(式中、R4は炭素数2〜8の一価脂肪族不飽和炭化水素基、炭素数1〜8の非置換の一価脂肪族飽和炭化水素基、炭素数6〜10の芳香族炭化水素基又は水酸基を示し、xは0、1又は2、p,q,rは互いに独立な正の整数である。)
で示される、25℃における粘度が2,000mPa・s以下であるオルガノポリシロキサン:0.05〜2質量部
(但し、(A)〜(C)成分の合計は100質量部である。)
〔請求項2〕
(C)成分が、下記式(6)で示される分岐構造のオルガノポリシロキサンである請求項1記載のシリコーンゴムブレンド組成物。
【化2】

(ただし、式中のx’は0又は1であり、R4、p,q,rは前記と同じである。)
〔請求項3〕
(A)成分のシリコーンゴム組成物に、更に、(A−3)25℃における粘度が30〜500mPa・sの範囲にある非反応性シリコーンオイルを含有してなる請求項1又は2記載のシリコーンゴムブレンド組成物。
〔請求項4〕
(A−3)成分の配合量が、(A−1)成分100質量部に対し1〜12質量部である請求項3記載のシリコーンゴムブレンド組成物。
〔請求項5〕
更に、硬化剤を配合してなる請求項1〜4のいずれか1項記載のシリコーンゴムブレンド組成物。
〔請求項6〕
硬化後の硬度(デュロメータータイプA)が20〜40である請求項1〜5のいずれか1項に記載のシリコーンゴムブレンド組成物。
〔請求項7〕
棒状口紅成型用である請求項1〜6のいずれか1項記載のシリコーンゴムブレンド組成物。
〔請求項8〕
請求項1〜7のいずれか1項記載のシリコーンゴムブレンド組成物を硬化成型してなる棒状口紅用の成型型。
【発明の効果】
【0012】
本発明のシリコーンゴムブレンド組成物は、耐油性及び離型性に優れる硬化物が得られ、特に耐油性及び離型性を要求される油脂、ワックス、又はその混合物を主成分とする棒状口紅の成型型の材料として好適である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明につき更に詳述すると、本発明のシリコーンゴムブレンド組成物は、下記(A)〜(C)成分を含有してなるものである。
〔(A)成分〕
(A−1)下記平均組成式(1)で示される、平均重合度100〜10,000のオルガノポリシロキサン、
nSiO(4-n)/2 …(1)
(式中、Rは同一又は異種の非置換の1価炭化水素基又は水酸基であり、1分子中の全R基のうち少なくとも2個は脂肪族不飽和基である。nは1.95〜2.05の正数である。)
(A−2)比表面積(BET法)が20〜220m2/gの補強性シリカ粉末、
好ましくは、更に
(A−3)25℃における粘度が30〜500mPa・sの範囲にある非反応性シリコーンオイル
を含有してなるシリコーンゴム組成物。
【0014】
〔(B)成分〕
(B−1)下記平均組成式(3)で示される、平均重合度1,000〜7,000のオルガノポリシロキサン、
1a2b3cSiO(4-a-b-c)/2 …(3)
(式中、R1はトリフロロプロピル基、R2は炭素数2〜8の一価脂肪族不飽和炭化水素基又は水酸基、R3は炭素数1〜8の非置換の一価脂肪族飽和炭化水素基又は炭素数6〜10の芳香族炭化水素基を示し、a,b,cは0.96≦a≦1.01、0.0001≦b≦0.01、0.96≦c≦1.06、1.98≦a+b+c≦2.02を満足する正数である。)
(B−2)比表面積(BET法)が20〜220m2/gの補強性シリカ粉末
を含有してなるフロロシリコーンゴム組成物。
【0015】
〔(C)成分〕
下記一般式(5)で示される、25℃における粘度が2,000mPa・s以下であるオルガノポリシロキサン。
【化3】

(式中、R4は炭素数2〜8の一価脂肪族不飽和炭化水素基、炭素数1〜8の非置換の一価脂肪族飽和炭化水素基、炭素数6〜10の芳香族炭化水素基又は水酸基を示し、xは0、1又は2、p,q,rは互いに独立な正の整数である。)
【0016】
本発明に係るシリコーンゴムブレンド組成物における(A)成分のシリコーンゴム組成物において、ベースポリマー(主剤)として使用される(A−1)成分としてのオルガノポリシロキサンは、下記平均組成式(1)で示されるものである。
nSiO(4-n)/2 …(1)
(式中、Rは同一又は異種の非置換の1価炭化水素基又は水酸基であり、1分子中の全R基のうち少なくとも2個は脂肪族不飽和基である。nは1.95〜2.05の正数である。)
【0017】
ここで、上記式中、Rはメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基等のアルキル基、シクロヘキシル基等のシクロアルキル基、ビニル基、アリル基、ブテニル基、ヘキセニル基等のアルケニル基、フェニル基、トリル基等のアリール基、ベンジル基等のアラルキル基などから選択される、同一又は異種の、好ましくは炭素数1〜10、より好ましくは炭素数1〜8の非置換の1価炭化水素基である。成型品において、より口紅表面の光沢が出やすくなるため、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基等のアルキル基、シクロヘキシル基等のシクロアルキル基、ビニル基、アリル基、ブテニル基、ヘキセニル基等のアルケニル基、フェニル基、トリル基等のアリール基であることが好ましい。
この場合、Rはアルケニル基に代表される脂肪族不飽和基を1分子中に少なくとも2個有していることが必要であるが、全R基中の脂肪族不飽和基の含有量は0.001〜20モル%、特に0.025〜10モル%であることが望ましい。また水酸基は分子鎖末端のケイ素原子に結合したシラノール基として分子中に1個又は2個含有することが好適であり、前記脂肪族不飽和基及び水酸基を除くR基の全てがメチル基等のアルキル基であることが好ましい。
【0018】
また、nは1.95〜2.05、好ましくは1.98〜2.01、より好ましくは1.99〜2.002の正数である。
【0019】
上記式(1)で示されるオルガノポリシロキサンは、基本的には、主鎖がジオルガノシロキサン単位の繰返しからなり、分子鎖両末端がトリオルガノシロキシ基又は水酸基(ジオルガノヒドロキシシロキシ基)で封鎖された直鎖状構造であることが好ましいが、分子構造あるいは重合度の異なる1種又は2種以上の混合物であっても良い。なお、脂肪族不飽和基の結合位置は、分子鎖の末端にあっても、側鎖にあっても、両方にあってもよい。
【0020】
更に、上記オルガノポリシロキサンは、平均重合度が100〜10,000、特に1,000〜8,000、更には2,000〜8,000程度の、特には25℃において自己流動性のない生ゴム状のオルガノポリシロキサンであることが好ましい。平均重合度が小さすぎても大きすぎても、組成物としての作業性(取り扱い性)が困難となる。なお、平均重合度は、通常、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)分析におけるポリスチレン換算の重量平均分子量として求めることができる。
【0021】
(A)成分のシリコーンゴム組成物には、(A−2)補強性シリカ粉末を配合する。補強性シリカ粉末は、機械的強度の優れたゴム組成物を得るために必要であり、この目的のためには、BET法による比表面積が20〜220m2/gの範囲である必要があり、好ましくは40〜200m2/gの範囲である。比表面積が小さすぎると硬化物の強度に関して十分な補強性(向上)効果が得られず、大きすぎると成型物とした場合の離型性に劣ったものとなる。
【0022】
この補強性シリカ粉末としては、煙霧質シリカ(乾式シリカ)、沈殿シリカ(湿式シリカ)が例示され、煙霧質シリカ(乾式シリカ)が好ましい。これらの使用可能な補強性シリカを市販品で例示すると、アエロジル130(BET比表面積130m2/g),200(BET比表面積200m2/g)(日本アエロジル社製商品名)、Cab−O−sil MS−5,MS−7,HS−5,HS−7(キャボット社製商品名)、SantocelFRC,CS(モンサント社製商品名)、ニップシルVN−3LP(BET比表面積200m2/g)(東ソーシリカ(株)製商品名)などである。
【0023】
また、これらの表面をオルガノポリシロキサン、オルガノポリシラザン、クロロシラン、オルガノハイドロジェンポリシロキサン、アルコキシシラン等で疎水化処理してもよい。これらのシリカは単独でも2種以上併用してもよい。
【0024】
これらの補強性シリカ粉末(A−2)の添加量は、(A)成分中30質量%以下(通常、3〜30質量%、特には5〜25質量%)であるが、特に(A−1)成分のオルガノポリシロキサン100質量部あたり5〜30質量部、好ましくは5〜25質量部の範囲である。添加量が少なすぎると、ゴム組成物を硬化させた時の強度が不足し、また硬度も20度未満となるため、成型時の取扱いが不便となり、添加量が多すぎると、本発明の目的である油脂、ワックス、又はその混合物が主成分である棒状口紅に対しての離型性を損なってしまう。
【0025】
本発明においては、更に下記式(2)の条件を満たす量であることが必要である。
補強性シリカ粉末比表面積(m2/g)×補強性シリカ粉末質量比≦40(好ましくは36) …(2)
(ここで、補強性シリカ粉末質量比とは、(A)成分の総質量(即ち、(A−1)成分と(A−2)成分との合計質量)をa、シリカ粉末の質量をa−2とした場合、(A)成分の総質量に対する(A−2)補強性シリカ粉末の質量割合(a−2)/aである。)
【0026】
本発明において、補強性シリカ粉末量は配合するシリカの比表面積で変化する。例えば、アエロジル200(即ち、比表面積(BET法)が200m2/gの乾式シリカ粉末)の場合、(A)成分のシリコーンゴム組成物中の補強性シリカ粉末配合量は、該補強性シリカ粉末の比表面積値(m2/g)を式(2)に代入して、
200×[補強性シリカ粉末質量比]≦40
[補強性シリカ粉末質量比]≦0.200
となるので、(A−1)成分と(A−2)成分との合計中の補強性シリカ粉末量は20.0質量%以下になると導き出される。これを(A−1)成分のオルガノポリシロキサン100質量部に対する量に換算すると、25質量部以下になる。
【0027】
同様に、比表面積80m2/gの乾式シリカを用いた場合、式(2)から導き出せる(A−1)成分のオルガノポリシロキサン100質量部に対する最大添加可能シリカ量は53.8質量部((A)成分中35質量%)となるが、成型物にした場合の棒状口紅に対する離型性を維持するためには(A−1)成分のオルガノポリシロキサン100質量部に対して43質量部以下(即ち、(A)成分中30質量%以下)にする必要がある。43質量部(即ち、30質量%)より多くすると、シリカの比表面積に拘わらず、本発明の目的である油脂、ワックス、又はその混合物が主成分である棒状口紅に対しての離型性を損なうためである。
【0028】
(A)成分のシリコーンゴム組成物には、必要に応じて(A−3)非反応性シリコーンオイル(即ち、ケイ素原子結合アルケニル基及びSiH基等の官能性基を含有しない無官能性のシリコーンオイル)を、離型性を向上させる目的で配合することができる。非反応性シリコーンオイルとしては、ジメチルシロキサンオイル(即ち、分子鎖両末端トリメチルシロキシ基封鎖ジメチルポリシロキサン)が挙げられる。
一般に、オイルブリード用途としてジメチルシリコーンゴムに、フェニルシリコーンオイルを適量添加することが公知である。しかし、本発明においてフェニルシリコーンオイルを添加すると、ゴム成型物へのブリード量が多くなりすぎてしまい、口紅成型時の口紅表面の光沢が失われてしまい好ましくない。
【0029】
該ジメチルシロキサンオイルの25℃における粘度は、30〜500mPa・sが好ましく、50〜300mPa・sがより好ましい。30mPa・s未満では、得られるシリコーンゴムブレンド組成物の補強性が損なわれ、軟らかい成型物となるため、脱型時に問題が生じる場合がある。また、500mPa・sを超えるとゴムコンパウンドあるいはゴム成型物の表面タック感が増して成型時の取扱いが不便になったり、口紅成型時の口紅表面の光沢が失われてしまったりする可能性がある。なお、本発明において、粘度は、回転粘度計により測定できる(以下、同じ)。
【0030】
非反応性シリコーンオイルの添加量は、(A−1)成分のオルガノポリシロキサン100質量部に対して0〜12質量部であり、配合する場合は1〜12質量部が好ましく、3〜12質量部がより好ましい。1質量部未満では、効果が不確かであり、また、12質量部を超えるとゴムコンパウンドあるいはゴム成型物の表面タック感が増して成型時の取扱いが不便になったり、口紅成型時の口紅表面の光沢が失われてしまったりする可能性がある。
【0031】
(A)成分のシリコーンゴム組成物は、例えば、二本ロール、バンバリーミキサー、ドウミキサー(ニーダー)などのゴム混練り機などを用いて、常法に準じて上記各成分を均一に混合することにより調製できる。
【0032】
一方、本発明に係るシリコーンゴムブレンド組成物における(B)成分のフロロシリコーンゴム組成物において、ベースポリマー(主剤)として使用される(B−1)成分としてのオルガノポリシロキサンは、下記平均組成式(3)で示されるものである。
1a2b3cSiO(4-a-b-c)/2 …(3)
(式中、R1はトリフロロプロピル基、R2は炭素数2〜8の一価脂肪族不飽和炭化水素基又は水酸基、R3は炭素数1〜8の非置換の一価脂肪族飽和炭化水素基又は炭素数6〜10の芳香族炭化水素基を示し、a,b,cは0.96≦a≦1.01、0.0001≦b≦0.01、0.96≦c≦1.06、1.98≦a+b+c≦2.02を満足する正数である。)
【0033】
ここで、上記式中、R2は炭素数2〜8の一価脂肪族不飽和炭化水素基であり、前記式(1)におけるRのうち、アルケニル基として例示したものと同じものを挙げることができ、R3は炭素数1〜8の非置換の一価脂肪族飽和炭化水素基又は炭素数6〜10の芳香族炭化水素基であり、前記式(1)におけるRのうち、アルケニル基以外のものとして例示したものと同じものを挙げることができる。
a,b,cは、0.96≦a≦1.01、0.0001≦b≦0.01、0.96≦c≦1.06、1.98≦a+b+c≦2.02を満足する正数であり、好ましくは、0.96≦a≦1.00、0.0001≦b≦0.005、0.96≦c≦1.05、1.99≦a+b+c≦2.01を満足する正数である。
【0034】
上記式(3)で示されるトリフロロプロピル基含有オルガノポリシロキサンは、基本的には、主鎖がジオルガノシロキサン単位の繰返しからなり、分子鎖両末端がトリオルガノシロキシ基又は水酸基(ジオルガノヒドロキシシロキシ基)で封鎖された直鎖状構造であることが好ましいが、分子構造あるいは重合度の異なる1種又は2種以上の混合物であっても良い。なお、R2の脂肪族不飽和炭化水素基の結合位置は、分子鎖の末端にあっても、側鎖にあっても、両方にあってもよい。
【0035】
更に、上記トリフロロプロピル基含有オルガノポリシロキサンは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)分析におけるポリスチレン換算の重量平均分子量として求められる平均重合度が、1,000〜7,000であり、更には1,500〜7,000程度の、特には25℃において自己流動性のない生ゴム状のオルガノポリシロキサンであることが好ましい。
【0036】
(B)成分のフロロシリコーンゴム組成物には、(B−2)補強性シリカ粉末を配合する。補強性シリカ粉末は、機械的強度の優れたゴム組成物を得るために必要であり、この目的のためには、BET法による比表面積が20〜220m2/gの範囲である必要があり、好ましくは40〜200m2/gの範囲である。比表面積が小さすぎると硬化物について十分な補強性(向上)効果が得られず、大きすぎると成形物とした場合の離型性に劣ったものとなる。
【0037】
補強性シリカ粉末としては、上記(A−2)成分で例示したものと同様のものが例示できる。これらのシリカは単独でも2種以上併用してもよい。
【0038】
これらの補強性シリカ粉末(B−2)の添加量は、(B)成分中15質量%以下(通常、0.5〜15質量%、特には1〜14質量%)であるが、(B−1)成分のオルガノポリシロキサン100質量部あたり1〜16質量部、好ましくは2〜13質量部の範囲である。添加量が少なすぎると、ゴム組成物を硬化させた時の強度が不足し、また硬度も20度未満となるため、成型時の取扱いが不便となり、添加量が多すぎると、本発明の目的である油脂、ワックス、又はその混合物が主成分である棒状口紅に対しての離型性を損なってしまう。
【0039】
本発明においては、更に下記式(4)の条件を満たす量であることが必要である。
補強性シリカ粉末比表面積(m2/g)×補強性シリカ粉末質量比≦30 …(4)
(ここで、補強性シリカ粉末質量比とは、(B)成分の総質量(即ち、(B−1)成分と(B−2)成分との合計質量)をb、シリカ粉末の質量をb−2とした場合、(B)成分の総質量に対する(B−2)補強性シリカ粉末の質量割合(b−2)/bである。)
【0040】
例えば、アエロジル130(即ち、比表面積(BET法)が130m2/gの乾式シリカ粉末)の場合、式(4)から導き出せる添加量は、23質量%以下になると導き出せる。これを換算すると、(B−1)成分のオルガノポリシロキサン100質量部に対して30質量部以下となるが、成型物にした場合の棒状口紅に対する離型性を維持するためには、(B−1)成分のオルガノポリシロキサン100質量部に対して17.6質量部以下(即ち、(B)成分中15質量%以下)にする必要がある。17.6質量部(15質量%)より多くすると、シリカの比表面積に拘わらず、本発明の目的である油脂、ワックス及びその混合物が主成分である棒状口紅に対しての離型性を損なうためである。
【0041】
(B)成分のフロロシリコーンゴム組成物は、例えば、二本ロール、バンバリーミキサー、ドウミキサー(ニーダー)などのゴム混練り機などを用いて、常法に準じて上記各成分を均一に混合することにより調製できる。
【0042】
また、本発明に係るシリコーンゴムブレンド組成物には、(C)成分として、下記一般式(5)で示されるオルガノポリシロキサンを配合する。上記(A)成分のシリコーンゴム組成物と(B)成分のフロロシリコーンゴム組成物を単純に2本ロールなどでブレンドした場合、成型物において層間剥離が生じやすいため、(C)成分のオルガノポリシロキサンを相溶化剤として用いる。
【0043】
【化4】

(式中、R4は炭素数2〜8の一価脂肪族不飽和炭化水素基、炭素数1〜8の非置換の一価脂肪族飽和炭化水素基、炭素数6〜10の芳香族炭化水素基又は水酸基を示し、xは0、1又は2、p,q,rは互いに独立な正の整数である。)
【0044】
ここで、上記式中、R4は炭素数2〜8の一価の脂肪族不飽和炭化水素基、炭素数1〜8の非置換の一価の脂肪族飽和炭化水素基、炭素数6〜10の芳香族炭化水素基又は水酸基であり、炭素数2〜8の一価の脂肪族不飽和炭化水素基としては、上記R2と同じものを挙げることができ、炭素数1〜8の非置換の一価の脂肪族飽和炭化水素基、炭素数6〜10の芳香族炭化水素基としては、上記R3と同じものを挙げることができる。
xは0、1又は2、好ましくは0又は1である。p,q,rは互いに独立な正の整数、好ましくはqは1〜50、rは1〜50、pは1〜10、より好ましくはqは4〜30、rは2〜30、pは1〜5の整数であり、好適には、(CH32SiO2/2単位と(CH3)(CF3CH2CH2)SiO2/2単位とは、互いにq,rの繰返し数の範囲内で、ブロックで存在しているものである。
【0045】
一般式(5)で示されるオルガノポリシロキサンは、25℃における粘度が2,000mPa・s以下、好ましくは5〜2,000mPa・s、より好ましくは10〜1,000mPa・sである。粘度が高すぎたり、低すぎたりすると組成物中に取り込まれてしまい、層間剥離の抑制に十分な効果を発揮できない場合がある。
【0046】
xは0、1又は2であるが、層間剥離抑制の点から、一般式(5)で示されるオルガノポリシロキサンは分岐構造を有することが好ましく、かかる点からxは0又は1であることが好ましい。なお、x=0の場合、R4xSiO(4-x)/2はSiO2単位(Q単位)となり、x=1の場合には、R4SiO3/2単位(T単位)となる。
【0047】
ジメチルシリコーンゴム組成物に代表される(A)成分のシリコーンゴム組成物と、(B)成分のフロロシリコーンゴム組成物との配合(ブレンド)比率は、耐油性、すなわち成型型を用いて棒状口紅を成型する時に膨潤による形状変化を防ぐ観点から、フロロシリコーンの比率を比較的高くする必要がある。その割合はジメチルシリコーンゴム組成物((A)成分):フロロシリコーンゴム組成物((B)成分)=3〜15:83〜95(質量部)の範囲であることが好ましい。より好ましくはジメチルシリコーンゴム組成物((A)成分):フロロシリコーンゴム組成物((B)成分)=6〜12:86〜92(質量部)の範囲が好ましい。(B)成分の比率が83質量部未満では耐油性が低下し、また、95質量部より大きい場合はフロロシリコーンポリマーに由来する粘着感のために成型時の取扱いが不便になる可能性が高い。
【0048】
また、(C)成分の配合量は、上記(A)成分のシリコーンゴム組成物、(B)成分のフロロシリコーンゴム組成物及び(C)成分の相溶化剤の合計100質量部に対して0.05〜2質量部の範囲が好ましい。より好ましくは0.5〜2質量部の範囲が好ましい。0.05質量部より少ないと層間剥離に対して抑制効果がなく、2質量部あればその効果が十分に発揮できるので、それ以上の添加はコスト的に不利になり、あまり意味をなさない。
【0049】
本発明のシリコーンゴムブレンド組成物には、更に硬化剤を配合することができる。硬化剤としては、(A)成分及び(B)成分を硬化させ得るものであれば特に限定されないが、一般的に、シリコーンゴム組成物の硬化剤として既知の、有機過酸化物触媒又は白金系触媒とオルガノハイドロジェンポリシロキサン(架橋剤)との組合せが使用できる。離型性発現のためには、有機過酸化物触媒がより好ましい。
【0050】
有機過酸化物触媒としては、例えばベンゾイルパーオキサイド、2,4−ジクロロベンゾイルパーオキサイド、p−メチルベンゾイルパーオキサイド、2,4−ジクミルパーオキサイド、2,5−ジメチル−ビス(2,5−t−ブチルパーオキシ)ヘキサン、ジ−t−ブチルパーオキサイド、t−ブチルパーベンゾエートなどが挙げられる。
有機過酸化物触媒の添加量は、(A−1)成分及び(B−1)成分の合計100質量部に対して0.1〜5質量部であることが好ましく、より好ましくは0.2〜3質量部である。
【0051】
また白金系触媒としては公知のものが使用でき、具体的には白金元素単体、白金化合物、白金複合体、塩化白金酸、塩化白金酸のアルコール化合物、アルデヒド化合物、エーテル化合物、各種オレフィン類とのコンプレックスなどが例示される。
白金系触媒の添加量は、通常、(A−1)成分及び(B−1)成分の合計100質量部に対し、白金原子質量として1〜2,000ppmの範囲とすることが望ましい。
【0052】
架橋剤としてのオルガノハイドロジェンポリシロキサンは、その分子構造に特に制限はなく、例えば、線状、環状、分岐状、三次元網状構造(樹脂状)等各種のものが使用可能であるが、一分子中に少なくとも2個、好ましくは3個以上のケイ素原子に結合した水素原子(SiHで表されるヒドロシリル基)を有する必要があり、通常、2〜300個、好ましくは3〜200個、より好ましくは4〜100個程度のSiH基を有することが望ましい。一分子中に少なくとも2個、好ましくは3個以上含有されるSiH基は、分子鎖末端、分子鎖途中のいずれに位置していてもよく、またこの両方に位置するものであってもよい。また、このオルガノハイドロジェンポリシロキサンは、得られるシリコーンゴムの物理特性、組成物の取り扱い作業性の点から、一分子中のケイ素原子の数(又は重合度)が通常2〜300個、好ましくは3〜200個、より好ましくは4〜100個程度のものが望ましく、25℃における粘度が、通常0.1〜1,000mPa・s、好ましくは0.5〜500mPa・s、より好ましくは5〜300mPa・s程度の液状のものが使用される。
【0053】
このオルガノハイドロジェンポリシロキサンとして具体的には、例えば、1,1,3,3−テトラメチルジシロキサン、1,3,5,7−テトラメチルシクロテトラシロキサン、トリス(ジメチルハイドロジェンシロキシ)メチルシラン、トリス(ジメチルハイドロジェンシロキシ)フェニルシラン、メチルハイドロジェンシクロポリシロキサン、メチルハイドロジェンシロキサン・ジメチルシロキサン環状共重合体、両末端トリメチルシロキシ基封鎖メチルハイドロジェンポリシロキサン、両末端トリメチルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルハイドロジェンシロキサン共重合体、両末端ジメチルハイドロジェンシロキシ基封鎖ジメチルポリシロキサン、両末端ジメチルハイドロジェンシロキシ基封鎖メチルハイドロジェンポリシロキサン、両末端ジメチルハイドロジェンシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルハイドロジェンシロキサン共重合体、両末端トリメチルシロキシ基封鎖メチルハイドロジェンシロキサン・ジフェニルシロキサン共重合体、両末端トリメチルシロキシ基封鎖メチルハイドロジェンシロキサン・ジフェニルシロキサン・ジメチルシロキサン共重合体、両末端トリメチルシロキシ基封鎖メチルハイドロジェンシロキサン・メチルフェニルシロキサン・ジメチルシロキサン共重合体、両末端ジメチルハイドロジェンシロキシ基封鎖メチルハイドロジェンシロキサン・ジメチルシロキサン・ジフェニルシロキサン共重合体、両末端ジメチルハイドロジェンシロキシ基封鎖メチルハイドロジェンシロキサン・ジメチルシロキサン・メチルフェニルシロキサン共重合体、(CH32HSiO1/2単位と(CH33SiO1/2単位とSiO4/2単位とからなる共重合体、(CH32HSiO1/2単位とSiO4/2単位とからなる共重合体、(CH32HSiO1/2単位とSiO4/2単位と(C65)SiO3/2単位とからなる共重合体、1−プロピル−3,5,7−トリハイドロジェン−1,3,5,7−テトラメチルシクロテトラシロキサン、1,5−ジハイドロジェン−3,7−ジヘキシル−1,3,5,7−テトラメチルシクロテトラシロキサンなどが例示される。
【0054】
オルガノハイドロジェンポリシロキサンの添加量は、(A−1)成分及び(B−1)成分のケイ素原子結合アルケニル基の合計に対して、ケイ素原子に直結した水素原子(SiHで示されるヒドロシリル基)が50〜500モル%、特に100〜400モル%となる割合で用いることが望ましい。
【0055】
本発明組成物には、更に必要に応じて、着色剤、耐熱性向上剤などの各種添加剤や反応制御剤、離型剤あるいは充填剤用分散剤などを添加することは任意とされるが、この充填剤用分散剤としては、例えばジフェニルシランジオール等のシラノール基含有オルガノシラン、ジメチルジメトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、トリメチルメトキシシラン、テトラメトキシシラン等の(オルガノ)アルコキシシラン、ヘキサメチルジシロキサン、ヘキサメチルジシラザン等のオルガノシラザン、カーボンファンクショナルシラン等の官能性基含有アルコキシシラン、両末端シラノール基封鎖のジメチルシロキサンオリゴマー(重合度2〜20)、両末端メトキシ基封鎖のメチルヒドロキシシロキサンオリゴマー(重合度2〜20)等のシラノール基含有低分子シロキサンなどが挙げられるが、これらの充填剤用分散剤のうち、ジフェニルシランジオール、各種アルコキシシラン、カーボンファンクショナルシラン、シラノール基含有低分子シロキサンなどは本発明の効果を損なわないように最小限の添加量に止めることが好ましい。
【0056】
なお、上記分散剤は、上述した(A)成分及び(B)成分の組成物中に配合することが好ましい。(A)成分に配合する場合、(A−1)成分のオルガノポリシロキサン100質量部に対して0.1〜8質量部、特に0.5〜5質量部の範囲で配合することが好ましく、また(B)成分に配合する場合、(B−1)成分のオルガノポリシロキサン100質量部に対して0.1〜5質量部、特に0.5〜4質量部の範囲で配合することが好ましい。
【0057】
本発明に係るシリコーンゴムブレンド組成物は、上記各成分(即ち、それぞれ予め均一に混合した(A)成分、(B)成分に、(C)成分及び任意成分)を2本ロール、バンバリーミキサー、ドウミキサー(ニーダー)などのゴム混練り機を用いて均一に混合して、必要に応じ加熱処理を施すことにより得ることができる。
【0058】
このようにして得られたシリコーンゴムブレンド組成物は、金型加圧成型、インジェクション成型などの種々の成型法によって必要とされる用途に成型することができる。
成型したシリコーンゴムは、硬化後の硬度(デュロメータータイプA)が20〜40であることが好ましい。20未満では、それに伴って機械的強度が不足し、型成型時にうまく成型できない可能性がある。また、40を超えると、充填剤による活性点が増えることによる離型性の低下を招きやすくなるので、本発明の目的に沿わない材料が得られる可能性がある。更には、離型性の観点から硬化後の硬度(デュロメータータイプA)が20〜30であることがより好ましい。
【実施例】
【0059】
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明は下記実施例に制限されるものではない。
【0060】
[実施例1〜3、比較例1〜12]
まず、以下のゴムコンパウンドを製造した。
コンパウンドI−1(ジメチルシリコーン組成物)
主鎖を構成するジオルガノシロキサン単位がジメチルシロキサン単位を主体とし、これとメチルビニルシロキサン単位(分子中のケイ素原子に対するメチルビニルシロキサン単位に由来するビニル量約0.20モル%)とからなり、平均重合度が約5,000である分子鎖両末端トリメチルシロキシ基封鎖の生ゴム状オルガノポリシロキサン100質量部に、分散剤としてシラノール基含有ジメチルポリシロキサン(平均重合度10)5質量部、充填剤として、乾式シリカ[商品名アエロジル200、BET比表面積200m2/g、日本アエロジル社製]23質量部を添加し、2時間熱処理してコンパウンドAを作った。
【0061】
コンパウンドI−2(ジメチルシリコーン組成物)
コンパウンドA100質量部に平均粘度10mPa・sのジメチルシロキサンオイル(即ち、分子鎖両末端トリメチルシロキシ基封鎖ジメチルポリシロキサン。以下同じ)8質量部を2本ロールで添加した。
【0062】
コンパウンドI−3(ジメチルシリコーン組成物)
コンパウンドA100質量部に平均粘度100mPa・sのジメチルシロキサンオイル8質量部を2本ロールで添加した。
【0063】
コンパウンドI−4(ジメチルシリコーン組成物)
コンパウンドA100質量部に平均粘度1,000mPa・sのジメチルシロキサンオイル8質量部を2本ロールで添加した。
【0064】
コンパウンドII−1(ジメチルシリコーン組成物)
主鎖を構成するジオルガノシロキサン単位がジメチルシロキサン単位を主体とし、これとメチルビニルシロキサン単位(分子中のケイ素原子に対するメチルビニルシロキサン単位に由来するビニル量約0.15モル%)とからなり、平均重合度が約5,000である分子鎖両末端トリメチルシロキシ基封鎖の生ゴム状オルガノポリシロキサン100質量部に、分散剤としてシラノール基含有ジメチルポリシロキサン(平均重合度10)7質量部、充填剤として、乾式シリカ[商品名アエロジル200、BET比表面積200m2/g、日本アエロジル社製]35質量部を添加し、2時間熱処理してコンパウンドBを作った。
【0065】
コンパウンドII−2(ジメチルシリコーン組成物)
コンパウンドB100質量部に平均粘度100mPa・sのジメチルシロキサンオイル8質量部を2本ロールで添加した。
【0066】
コンパウンドIII(フロロシリコーン組成物)
主鎖を構成するジオルガノシロキサン単位がトリフロロプロピルメチルシロキサン単位を主体とし、これとメチルビニルシロキサン単位(分子中のケイ素原子に対するメチルビニルシロキサン単位に由来するビニル量約0.15モル%)とからなり、平均重合度が約3,000である分子鎖両末端がシラノール基で封鎖された生ゴム状オルガノポリシロキサン100質量部に、分散剤としてシラノール基含有トリフロロプロピルメチルポリシロキサン(平均重合度10)4質量部、充填剤として、乾式シリカ[商品名アエロジル200、BET比表面積200m2/g、日本アエロジル社製]16質量部を添加し、3時間熱処理してコンパウンドCを作った。
【0067】
コンパウンドIV(フロロシリコーン組成物)
主鎖を構成するジオルガノシロキサン単位がトリフロロプロピルメチルシロキサン単位を主体とし、これとメチルビニルシロキサン単位(分子中のケイ素原子に対するメチルビニルシロキサン単位に由来するビニル量約0.15モル%)とからなり、平均重合度が約3,000である分子鎖両末端がシラノール基で封鎖された生ゴム状オルガノポリシロキサン100質量部に、分散剤としてシラノール基含有トリフロロプロピルメチルポリシロキサン(平均重合度15)5質量部、充填剤として、乾式シリカ[商品名アエロジル200、BET比表面積200m2/g、日本アエロジル社製]20質量部を添加し、3時間熱処理してコンパウンドDを作った。
【0068】
コンパウンドV(フロロシリコーン組成物)
主鎖を構成するジオルガノシロキサン単位がトリフロロプロピルメチルシロキサン単位を主体とし、これとメチルビニルシロキサン単位(分子中のケイ素原子に対するビニルシロキサンに由来するビニル量約0.30モル%)とからなり、平均重合度が約3,000である分子鎖両末端がシラノール基で封鎖された生ゴム状オルガノポリシロキサン100質量部に、分散剤としてシラノール基含有トリフロロプロピルメチルポリシロキサン(平均重合度15)3質量部、充填剤として、乾式シリカ[商品名アエロジル130、BET比表面積130m2/g、日本アエロジル社製]16質量部を添加し、3時間熱処理してコンパウンドEを作った。
【0069】
上記コンパウンドを表1に従って単独、あるいは2種類を2本ロールなどでブレンドしたコンパウンド100質量部に、硬化剤として2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン25質量%含有ペースト2質量部を混練りし、得られたコンパウンドを用いて150mm角、2mm厚のシート状弾性体を成型した。成型温度は165℃/10分、成型圧力は8MPaであった。
【0070】
なお、I−1〜II−2のジメチルシリコーン組成物とIII〜Vのフロロシリコーン組成物をブレンドする場合は、下記一般式(5)に示される相溶化剤1.0質量部を添加した。
【化5】

(式中、R4はビニル基、xは1、qは7.5(平均値)、rは3(平均値)、pは2(平均値)であり、(CH32SiO2/2単位と(CH3)(CF3CH2CH2)SiO2/2単位とは、ブロックとして存在している。)
【0071】
下記に示す各種試験を行なった。これらの結果を表1〜4に示す。
(ゴム硬さ試験)
得られたシート状サンプルの硬度をJIS K6249に準じて測定した。
【0072】
(耐油性試験)
得られたシート状サンプルを、口紅用バルクを形成する成分のうち、最も膨潤性があると認識されているジメチルシリコーンオイル(商品名KF−96 6CS、信越化学工業(株)製)を用いて体積変化率を確認した。50℃×72時間後の体積変化率を調べ、3%未満を合格とした。
【0073】
(離型性試験)
得られたシート状サンプルを、市販の口紅用バルクを用いて簡易離型性試験を行なった。まず、バルクを90℃以上に加熱し溶解させ、シート上に垂らし、室温冷却した。10分後、冷却固化したバルクを金属ヘラで除去し、その時のシートの汚れ具合と、除去したバルクの表面の光沢具合を観察し、相対的に評価した。目視による光沢の有無で光沢のあるものを合格とした。
市販の口紅用バルクとして用いたのは、次の通り。
商品名:MAQUILLAGE PK256,RS336,RS375(いずれも(株)資生堂製)
【0074】
【表1】

【0075】
【表2】

【0076】
【表3】

【0077】
【表4】

【0078】
表1〜4の結果より、ジメチルシリコーンゴム組成物((A)成分)中に使用する充填剤の表面活性の度合いに上限を設定したものを用い、更にフロロシリコーンゴム組成物((B)成分)中に使用する充填剤の表面活性にも上限を設定したものを用い、それらをフロロシリコーンゴム組成物((B)成分)を83〜95質量%の範囲の割合でブレンドすることで、耐油性に優れ、かつ油脂、ワックス、又はその混合物に対して離型性に優れる、棒状口紅を成型するのに好適なシリコーンゴムブレンド組成物が得られる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の(A)〜(C)成分を必須成分とするシリコーンゴムブレンド組成物。
(A)(A−1)下記平均組成式(1)で示される、平均重合度100〜10,000のオルガノポリシロキサン、
nSiO(4-n)/2 …(1)
(式中、Rは同一又は異種の非置換の1価炭化水素基又は水酸基であり、1分子中の全R基のうち少なくとも2個は脂肪族不飽和基である。nは1.95〜2.05の正数である。)
(A−2)比表面積(BET法)が20〜220m2/gの補強性シリカ粉末:(A)成分中30質量%以下、かつ下記式(2)の条件を満たす量、
補強性シリカ粉末比表面積(m2/g)×補強性シリカ粉末質量比≦40 …(2)
(ここで、補強性シリカ粉末質量比とは、(A−1)成分と(A−2)成分との合計質量に対する(A−2)補強性シリカ粉末の質量割合である。)
を含有してなるシリコーンゴム組成物:3〜15質量部、
(B)(B−1)下記平均組成式(3)で示される、平均重合度1,000〜7,000のオルガノポリシロキサン、
1a2b3cSiO(4-a-b-c)/2 …(3)
(式中、R1はトリフロロプロピル基、R2は炭素数2〜8の一価脂肪族不飽和炭化水素基又は水酸基、R3は炭素数1〜8の非置換の一価脂肪族飽和炭化水素基又は炭素数6〜10の芳香族炭化水素基を示し、a,b,cは0.96≦a≦1.01、0.0001≦b≦0.01、0.96≦c≦1.06、1.98≦a+b+c≦2.02を満足する正数である。)
(B−2)比表面積(BET法)が20〜220m2/gの補強性シリカ粉末:(B)成分中15質量%以下、かつ下記式(4)の条件を満たす量、
補強性シリカ粉末比表面積(m2/g)×補強性シリカ粉末質量比≦30 …(4)
(ここで、補強性シリカ粉末質量比とは、(B−1)成分と(B−2)成分との合計質量に対する(B−2)補強性シリカ粉末の質量割合である。)
を含有してなるフロロシリコーンゴム組成物:83〜95質量部、
(C)下記一般式(5)
【化1】

(式中、R4は炭素数2〜8の一価脂肪族不飽和炭化水素基、炭素数1〜8の非置換の一価脂肪族飽和炭化水素基、炭素数6〜10の芳香族炭化水素基又は水酸基を示し、xは0、1又は2、p,q,rは互いに独立な正の整数である。)
で示される、25℃における粘度が2,000mPa・s以下であるオルガノポリシロキサン:0.05〜2質量部
(但し、(A)〜(C)成分の合計は100質量部である。)
【請求項2】
(C)成分が、下記式(6)で示される分岐構造のオルガノポリシロキサンである請求項1記載のシリコーンゴムブレンド組成物。
【化2】

(ただし、式中のx’は0又は1であり、R4、p,q,rは前記と同じである。)
【請求項3】
(A)成分のシリコーンゴム組成物に、更に、(A−3)25℃における粘度が30〜500mPa・sの範囲にある非反応性シリコーンオイルを含有してなる請求項1又は2記載のシリコーンゴムブレンド組成物。
【請求項4】
(A−3)成分の配合量が、(A−1)成分100質量部に対し1〜12質量部である請求項3記載のシリコーンゴムブレンド組成物。
【請求項5】
更に、硬化剤を配合してなる請求項1〜4のいずれか1項記載のシリコーンゴムブレンド組成物。
【請求項6】
硬化後の硬度(デュロメータータイプA)が20〜40である請求項1〜5のいずれか1項に記載のシリコーンゴムブレンド組成物。
【請求項7】
棒状口紅成型用である請求項1〜6のいずれか1項記載のシリコーンゴムブレンド組成物。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1項記載のシリコーンゴムブレンド組成物を硬化成型してなる棒状口紅用の成型型。

【公開番号】特開2010−43198(P2010−43198A)
【公開日】平成22年2月25日(2010.2.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−208541(P2008−208541)
【出願日】平成20年8月13日(2008.8.13)
【出願人】(000002060)信越化学工業株式会社 (3,361)
【Fターム(参考)】