説明

シリコーン樹脂組成物

【課題】医療用チューブとして、引裂き強度に優れたシリコーンゴムが得られる、シリコーン樹脂組成物を提供する。
【解決手段】
ビニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサン(A)と直鎖状オルガノハイドロジェンポリシロキサン(B)とを含むシリコーン樹脂と、熱硬化後のデュロメーター硬さが40以下となるエーテル骨格を有する硬化性樹脂(C)とで構成させるシリコーン樹脂組成物により達成される。シリコーン樹脂を用いてなる成形体で構成される医療用チューブを提供できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、引裂き強度に優れたシリコーンゴムが得られる、シリコーン樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
シリコーンゴムは、耐熱性、難燃性、化学的安定性、耐候性、耐放射線性、電気特性等に優れていることから、幅広い分野において様々な用途に使用されている。特に、シリコーンゴムは、生理的に不活性であると共に、生体に触れた場合の体組織に対する反応が少ないため、医療用各種カテーテル等、医療器具の材料としても利用されている。
【0003】
医療用カテーテルは、胸腔や腹腔等の体腔、消化管や尿管等の管腔部、血管等に挿入し、体液の排出や、薬液、栄養剤及び造影剤等の注入点滴に用いられる管であり、生体適合性の他、耐傷付き性(耐引裂性)、耐キンク性(引張強度)、透明性、柔軟性(引張伸び性)等が要求される。医療用カテーテルの具体的用途としては、例えば、術後の血液や膿等の排液除去用吸引器のドレナージチューブや、経皮的内視鏡下胃ろう造設術(PEG)等の術後の栄養摂取用チューブ等が挙げられる。また、カテーテル用の極細チューブ状のシリコーンゴムを製造するためには、シリコーンゴム材料であるシリコーンゴム組成物には押出成形性が求められる。
【0004】
医療用カテーテルの材料としては、シリコーンゴムの他、軟質ポリ塩化ビニル等も一般的に使用されている。ポリ塩化ビニル等と比較して、シリコーンゴムは、生体適合性及び柔軟性の点において優れるものの、引裂強度や引張強度等の強度面、特に引裂強度の向上が求められている。引裂強度が充分でないと、施術中の針や刃物等による傷によってカテーテルが破断したり、或いは、引張強度が充分でないと、カテーテルが折れ曲がって降伏して閉塞(キンク)し、排出されるべき体液や注入されるべき薬液等のカテーテル内の流通が滞ってしまう。
【0005】
そこで、シリコーンゴムの引裂強度や引張強度を高めるべく、様々な方法が提案されている(例えば、特許文献1〜7)。シリコーンゴムに高い引裂性を付与するための具体的な方法としては、シリカ微粒子等の無機充填材の添加、架橋密度の疎密化(シリコーンゴムの系中に架橋密度が高い領域と低い領域とを分布させる)等が挙げられる。架橋密度の疎密化による引裂性の向上は、架橋密度の高い領域が、引裂応力に対する抗力として作用するためと考えられている。
【0006】
例えば、特許文献1では、高粘度及び低ビニル基含有量のオルガノポリシロキサン(生ゴム)を主体とし、これに、低粘度及び高ビニル基含有量のオルガノポリシロキサン(シリコーンオイル)、ビニル基含有オルガノポリシロキサン共重合体(ビニル基含有シリコーンレジン)、オルガノ水素シロキサン(架橋剤)、白金又は白金化合物(硬化触媒)、及び微粉末シリカ(充填剤)を配合した硬化性シリコーンゴム組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平7−331079号公報
【特許文献2】特開平7−228782号公報
【特許文献3】特開平7−258551号公報
【特許文献4】米国特許3,884,866号公報
【特許文献5】米国特許4,539,357号公報
【特許文献6】米国特許4,061,609号公報
【特許文献7】米国特許3,671,480号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、引裂き強度に優れたシリコーンゴムが得られる、シリコーン樹脂組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
このような目的は、下記(1)〜(14)に記載の本発明により達成される。
(1)医療用チューブに用いる樹脂組成物であって、ビニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサン(A)と直鎖状オルガノハイドロジェンポリシロキサン(B)とを含むシリコーン樹脂と、熱硬化後のデュロメーター硬さが40以下となる熱硬化性ポリエーテル系重合体(C)とを含むシリコーン樹脂組成物。
(2)前記ビニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサン(A)は下記式(1)で示されるものである(1)に記載のシリコーン樹脂組成物。
【化1】

(式(1)中、mは1〜1000の整数、nは3000〜10000の整数であり、R1は炭素数1〜10の置換又は非置換のアルキル基、アルケニル基、アリール基、又はこれらを組み合せた炭化水素基、R2は炭素数1〜10の置換又は非置換のアルキル基、アルケニル基、アリール基、又はこれらを組み合せた炭化水素基、R3は炭素数1〜8の置換又は非置換のアルキル基、アリール基、又はこれらを組み合せた炭化水素基である。)
(3) 前記直鎖状オルガノハイドロジェンポリシロキサン(B)は、下記式(2)で示されるものである(1)又は(2)に記載のシリコーン樹脂組成物。
【化2】

(式(2)中、mは0〜300の整数、nは(300−m)の整数である。R4は炭素数1〜10の置換又は非置換のアルキル基、アルケニル基、アリール基、これらを組み合せた炭化水素基、又はヒドリド基である。R5は炭素数1〜10の置換又は非置換のアルキル基、アルケニル基、アリール基、これらを組み合せた炭化水素基、又はヒドリド基である。ただし、複数のR4及びR5のうち、少なくとも2つ以上がヒドリド基である。R6は炭素数1〜8の置換又は非置換のアルキル基、アリール基、又はこれらを組み合せた炭化水素基である。)
(4)前記熱硬化性ポリエーテル系重合体(C)を80℃以上、130℃以下、1分以上、5分以下で硬化することを特徴とする(1)乃至(3)いずれか1項記載のシリコーン樹脂組成物。
(5)前記熱硬化性ポリエーテル系重合体(C)の100℃、5分間熱硬化後のJIS K6253(2001)におけるデュロメーター硬さが40以下である(1)乃至(3)いずれか1項記載のシリコーン樹脂組成物。
(6)前記ビニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサン(A)は、ビニル基含有量が0.05以上0.2モル%以下であるビニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサンを含有する(1)乃至(5)のいずれか1項に記載のシリコーン樹脂組成物。
(7)前記ビニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサン(A)の重合度が、4000〜8000の範囲である、(1)乃至(6)のいずれか1項に記載のシリコーン樹脂組成物。
(8)前記直鎖状オルガノハイドロジェンポリシロキサン(B)はビニル基を有しないものである、(1)乃至(7)のいずれか1項に記載のシリコーン樹脂組成物。
(9)前記ビニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサン(A)100重量部に対し、前記直鎖状オルガノハイドロジェンポリシロキサン(B)を0.1〜5重量部の割合で含有する、(1)乃至(8)のいずれか1項に記載のシリコーン樹脂組成物。
(10)前記ビニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサン(A)100重量部に対し、前記ビニル基含有分岐状オルガノポリシロキサン(B)を5〜70重量部の割合で含有する、(1)乃至(9)項のいずれか1項に記載のシリコーン樹脂組成物。
(11)前記A成分のオルガノポリシロキサンと前記B成分のオルガノハイドロジェンポリシロキサンとの合計量に対して、0.1〜1000ppm(白金換算)の量の白金又は白金化合物をさらに含有する、(1)乃至(10)のいずれか1項に記載のシリコーン樹脂組成物。
(12)無機充填材をさらに含有する、(1)乃至(11)のいずれか1項に記載のシリコーン樹脂組成物。
(13) (1)乃至(12)のいずれか1項に記載のシリコーン樹脂を用いてなる成形体。
(14)(13)に記載の成形体で構成されることを特徴とする医療用チューブ。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば本発明のシリコーン樹脂組成物を硬化して得られるシリコーンゴムは、引裂強度に優れるものである。従って、本発明のシリコーン樹脂組成物を用いてなる成形体及び該成形体で構成される医療用チューブは引裂強度が高い。すなわち、本発明によれば、耐傷付性及び耐キンク性に優れたシリコーンゴム製医療用カテーテルを提供することが可能である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明のシリコーンゴム系硬化性組成物を構成する各成分について説明する。本発明のシリコーン樹脂組成物は、前記(A)〜(C)成分を必須成分とするものである。
【0012】
(A)ビニル基含有オルガノポリシロキサン
ビニル基含有オルガノポリシロキサン(A)は、本発明のシリコーンゴム系硬化性組成物の主成分であり、直鎖構造あるいは分岐状構造を有する重合体である。ビニル基を含有し、該ビニル基が加硫時の架橋点となる。
【0013】
ビニル基含有オルガノポリシロキサン(A)のビニル基の含有量は、特に限定されないが、0.01〜15モル%、さらに0.05〜12モル%であることが好ましい。ここで、ビニル基含有量とは、ビニル基含有オルガノポリシロキサン(A)を構成する全ユニットを100モル%としたときのビニル基含有シロキサンユニットのモル%である。但し、ビニル基含有シロキサンユニット1つに対して、ビニル基1つであると考える。
【0014】
ビニル基含有オルガノポリシロキサン(A)の重合度は特に限定されないが、通常、3000〜10000の範囲であり、好ましくは4000〜8000の範囲であることが好ましい。
ビニル基含有オルガノポリシロキサン(A)の比重は、通常、0.9〜1.1の範囲である。
ビニル基含有オルガノポリシロキサン(A)としては、下記式(1)で表される直鎖構造を有するものが好ましい。
【0015】
【化3】

【0016】
式(3)中、Rは炭素数1〜10の置換又は非置換のアルキル基、アルケニル基、アリール基、又はこれらを組み合せた炭化水素基である。炭素数1〜10のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基等が挙げられ、中でも、メチル基が好ましい。炭素数1〜10のアルケニル基としては、例えば、ビニル基、アリル基、ブテニル基等が挙げられ、中でも、ビニル基が好ましい。炭素数1〜10のアリール基としては、例えば、フェニル基等が挙げられる。
【0017】
また、Rは炭素数1〜10の置換又は非置換のアルキル基、アルケニル基、アリール基、又はこれらを組み合わせた炭化水素基である。炭素数1〜10のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基等が挙げられ、中でも、メチル基が好ましい。炭素数1〜10のアルケニル基としては、例えば、ビニル基、アリル基、ブテニル基が好ましい。炭素数1〜10のアリール基としては、例えば、フェニル基が挙げられる。
【0018】
また、Rは炭素数1〜8の置換又は非置換のアルキル基、アリール基、又はこれらを組み合せた炭化水素基である。炭素数1〜8のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基等が挙げられ、中でも、メチル基が好ましい。炭素数1〜8のアリール基としては、例えば、フェニル基が挙げられる。
【0019】
式(3)中のR及びRの置換基としては、例えば、メチル基、ビニル基等が挙げられ、Rの置換基としては、例えば、メチル基等が挙げられる。
尚、式(3)中、複数のRは互いに独立したものであり、互いに異なっていてもよいし、同じであってもよい。R、及びRについても同様である。
【0020】
m、nは、式(3)で表されるビニル基含有オルガノポリシロキサン(A)を構成する繰り返し単位の数であり、mは1〜1000の整数、nは3000〜10000の整数である。mは、好ましくは40〜700であり、nは、好ましくは3600〜8000である。
式(3)で表されるビニル基含有オルガノポリシロキサン(A)の具体的構造としては、下記式(4)で表されるものが挙げられる。
【0021】
【化4】

【0022】
式(4)中、R及びRは、それぞれ独立して、メチル基又はビニル基であり、少なくとも一方がビニル基である。
【0023】
(B)オルガノハイドロジェンポリシロキサン
オルガノハイドロジェンポリシロキサン(B)は、直鎖状あるいは分岐状の構造で、Siに水素が直接結合した構造(≡Si−H)を有し、(A)ビニル基含有オルガノポリシロキサンのビニル基の他、シリコーンゴム系硬化性組成物に配合される成分のビニル基とヒドロシリル化反応し、これら成分を架橋するものである。
【0024】
オルガノハイドロジェンポリシロキサン(B)において、Siに直接結合する水素原子(ヒドリド基)の量は特に限定されない。シリコーンゴム系硬化性組成物において、(A)ビニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサン中のビニル基1モルに対し、直鎖状オルガノハイドロジェンポリシロキサン(B)のヒドリド基量が、0.5〜5モルとなる量が好ましく、さらに好ましくは1〜3.5モルとなる量である。
オルガノハイドロジェンポリシロキサン(B)の分子量は特に限定されないが、重量平均分子量が20000以下であることが好ましく、特に重量平均分子量が7000以下であることが好ましい。オルガノハイドロジェンポリシロキサン(B)の重量平均分子量は、GPC(ゲル透過クロマトグラフィー)により測定することができる。
【0025】
オルガノハイドロジェンポリシロキサン(B)は、通常、ビニル基を有しないものであることが好ましい。分子内の架橋反応が進行する可能性があるからである。
【0026】
オルガノハイドロジェンポリシロキサン(B)としては、下記式(2)で表される構造を有するものが好ましい。
【0027】
【化2】

【0028】
式(2)中、Rは炭素数1〜10の置換又は非置換のアルキル基、アルケニル基、アリール基、又はこれらを組み合せた炭化水素基、ヒドリド基である。炭素数1〜10のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基等が挙げられ、中でも、メチル基が好ましい。炭素数1〜10のアルケニル基としては、例えば、ビニル基、アリル基、ブテニル基等が挙げられ、中でも、ビニル基が好ましい。炭素数1〜10のアリール基としては、例えば、フェニル基が挙げられる。
【0029】
また、Rは炭素数1〜10の置換又は非置換のアルキル基、アルケニル基、アリール基、又はこれらを組み合せた炭化水素基、ヒドリド基である。炭素数1〜10のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基が挙げられ、中でも、メチル基が好ましい。炭素数1〜10のアルケニル基としては、例えば、ビニル基が挙げられ、中でも、ビニル基が好ましい。炭素数1〜10のアリール基としては、例えば、フェニル基が挙げられる。
【0030】
尚、式(2)中、複数のRは互いに独立したものであり、互いに異なっていてもよいし、同じであってもよい。Rについても同様である。ただし、複数のR及びRのうち、少なくとも2つ以上がヒドリド基である。
【0031】
また、Rは炭素数1〜8の置換又は非置換のアルキル基、アリール基、又はこれらを組み合せた炭化水素基である。炭素数1〜8のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基等が挙げられ、中でも、メチル基が好ましい。炭素数1〜8のアリール基としては、例えば、フェニル基が挙げられる。複数のRは互いに独立したものであり、互いに異なっていてもよいし、同じであってもよい。
【0032】
式(2)中のR,R,Rの置換基としては、例えば、メチル基、ビニル基等が挙げられ、分子内の架橋反応を防止する観点から、メチル基が好ましい。
【0033】
m、nは、式(2)で表される直鎖状オルガノハイドロジェンポリシロキサン(B)を構成する繰り返し単位の数であり、mは0〜300の整数、nは(300−m)の整数である。好ましくは、mは0〜150の整数、nは(150−m)の整数である。
【0034】
(C)熱硬化性ポリエーテル系重合体
熱硬化性ポリエーテル系重合体(C)は、本発明のシリコーン樹脂組成物の必須成分であり、直鎖構造あるいは分岐状構造を有する重合体である。
【0035】
熱硬化性ポリエーテル系重合体(C)の硬化温度は特に制限はないが80℃以上、130℃以下が好ましい。
【0036】
熱硬化性ポリエーテル系重合体(C)の硬化時間は特に制限はないが5分以上、10分以下が好ましい。
【0037】
熱硬化性ポリエーテル系重合体(C)の硬度は特に制限はないが好ましくは100℃、5分間熱硬化後のJIS K6253(2001)におけるデュロメーター硬さが40以下がよい。
【0038】
デュロメーター硬さとは試験片表面に、定められた形状の押針を、ばねを介して押し付けたときの押針の押込み深さから硬さを求める試験機(デュロメーター)を用いて得られる硬さのことである。
【0039】
JIS K6253(2001)とは加硫ゴム及び熱可塑性ゴムの硬さ試験方法を規定した規格である。
【0040】
本発明のシリコーンゴム系硬化性組成物は前記(A)、(B)、(C)成分以外の成分を含有していてもよい。その他の成分としては、例えば、下記(D)、(E)が挙げられる。
【0041】
(D)無機充填材
無機充填材(D)は、シリコーンゴムの硬さや機械的強度の向上、特に引張り強度の向上を目的として添加される成分であり、公知のものを用いることができる。具体的には、例えば、シリカ微粒子、クレイ等を挙げることができ、特にシリカ微粒子が好ましい。シリカ微粒子は、比表面積が50〜400m2/g、特に、100〜400m2/gであることが好ましい。シリカ微粒子としては、ヒュームドシリカ、焼成シリカ、沈降シリカ等が挙げられる。シリカ微粒子は、鎖状オルガノポリシロキサン、環状オルガノポリシロキサン、ヘキサメチルジシラザン、ジクロルジメチルシラン等で表面処理されたものでもよい。無機充填材は、1種のみを単独で用いてもよいし、2種以上を組み合せて用いてもよい。
【0042】
(E)白金又は白金化合物
白金又は白金化合物(E)は、加硫の触媒として作用する成分であり、その添加量は触媒量である。具体的な成分としては、公知のものを使用することができる。例えば、白金黒、白金をシリカやカーボンブラック等に担持させたもの、塩化白金酸又は塩化白金酸のアルコール溶液、塩化白金酸とオレフィンの錯塩、塩化白金酸とビニルシロキサンとの錯塩等が挙げられる。触媒成分である白金又は白金化合物は、1種のみを単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0043】
本発明のシリコーンゴム系硬化性組成物は、前記(A)〜(D)成分の他、シリコーンゴム系硬化性組成物に配合される公知の成分を含有していてもよい。例えば、ウェッター、珪藻土、酸化鉄、酸化亜鉛、酸化チタン、酸化バリウム、酸化マグネシウム、酸化セリウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、炭酸亜鉛、ガラスウール、マイカ等が挙げられる。その他、分散剤、顔料、染料、帯電防止剤、酸化防止剤、難燃剤、熱伝導性向上剤等を適宜配合することができる。
【0044】
本発明のシリコーンゴム系硬化性組成物において、各成分の含有割合は特に限定されないが、通常、ビニル基含有オルガノポリシロキサン(A)100重量部に対し、オルガノハイドロジェンポリシロキサン(B)を0.01〜50重量部、特に、ビニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサン(A)100重量部に対し、オルガノハイドロジェンポリシロキサン(B)を0.5〜30重量部の割合で含有することが好ましい。
【0045】
無機充填材(D)の含有量は、(A)、(B)の合計量100重量部に対し、10〜100重量部、特に20〜50重量部の割合で含有することが好ましい。
白金又は白金化合物(D)の含有量は、触媒量であり、適宜設定することができるが、具体的には、(A)〜(C)の合計量100重量部に対して0.05〜5重量部、特に0.1〜1重量部の範囲が好ましい
【0046】
無機充填材(D)を添加する場合には、均一な組成物を得るためには、通常、予め、(A)ビニル基含有オルガノポリシロキサンに、無機充填材(D)の少なくとも一部を分散させることが好ましい。ビニル基含有オルガノポリシロキサン(A)として、ビニル基含有量の異なる(A1)と(A2)とを組み合せて用いる場合には、(A1)及び(A2)のそれぞれに無機充填材(D)の少なくとも一部を予め分散させ、これら分散物を混合して混練した後、残りの無機充填材を添加、さらに混練することが好ましい。また、触媒である白金又は白金化合物(E)は、ハンドリング性の観点から、予め、ビニル基含有オルガノポリシロキサン(A)に分散させることが好ましい。
【0047】
以上のようにして得られた本発明のシリコーンゴム系硬化性組成物は、例えば、80〜200℃で1〜15分間硬化することによってシリコーンゴムを得ることができる。
【0048】
本発明のシリコーン樹脂組成物を硬化させることによって、JIS K6251(2004)によるダンベル状3号形試験片の引張り強さが4N/mm以上であり、且つ、JIS K6252(2001)による切込み無しアングル形試験片の引裂き強さが40N/mm以上、且つ、JIS K6252(2001)による切込み有りアングル形試験片(クレセント型試験片)の引裂き強さが40N/mm以上である、シリコーンゴムを得ることが可能である。
ここで、前記に引張り強さ及び前記引裂き強さは、それぞれ、試験片の厚みを1mmとする以外は、JIS K6251(2004)、JIS K6252(2001)に準拠して、発明のシリコーン樹脂組成物を硬化して作製した試験片を用いて測定することができる。
上記のような引張り強さ及び引裂き強さを有するシリコーンゴムを用いることで、上記機械的強度に優れた成形体を得ることができる。そして、このような成形体を用いることによって、耐キンク性及び耐傷付き性に優れたシリコーンゴム製医療用チューブ(例えばカテーテル)及び医療機器(例えば創部用ドレナージキット)を得ることができる。
【実施例】
【0049】
以下、本発明を実施例および比較例に基づいて詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。

以下、本発明のシリコーンゴム系硬化性組成物の一形態を実施例により説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
実施例及び比較例において使用した原材料は以下の通りである。
(1) 直鎖状のビニル基含有オルガノポリシロキサン(A)、ビニル基含有量0.13モル
(2) 直鎖状のオルガノハイドロジェンポリシロキサン(B):(モメンティブ)製・「TC25D」
熱硬化性ポリエーテル系重合体(C)
(4) 無機充填材:シリカ微粒子(D)(日本アエロジル)製・「アエロジェルR972」
(5) 白金(E):(モメンティブ)製・「TC−25A」(実施例1)
【0050】
[実施例]
(シリコーン樹脂組成物の調製)
直鎖状のビニル基含有オルガノポリシロキサン(A)40gに、無機充填材(D)24gを添加し、ニーダーを用いて室温下で均一になるまで混練してマスターバッチを調製した。このマスターバッチ64g、熱硬化性ポリエーテル系重合体(C)を8g、直鎖状のオルガノハイドロジェンポリシロキサン(B)1.4g、白金(E)を0.3g加え混合し、2本ロールを用いて均一になるまで、混練しシリコーン樹脂組成物を調製した。
【0051】
(シリコーン樹脂組成物の評価)
<引張強度及び引裂強度>
得られたシリコーン樹脂組成物を、100℃、10MPaで10分間プレスし、1mmのシート状に成形した。
得られたシート状シリコーンゴムを用いて、JIS K6251(2004)に準拠して、ダンベル状3号形試験片、及び、JIS K6252(2001)に準拠して切込み無しアングル形試験片、切込み有りアングル形試験片を作製しJIS K6251(2004)によるダンベル状3号形試験片の引張強度、及び、JIS K6252(2001)による切込み無しアングル形試験片、切込み有りアングル形試験片の引裂強度を測定した。ただし、引張強度及び引裂強度の測定に用いた試験片の厚みは、1mmとした。
実施例1のシリコーン樹脂組成物を硬化して得られるシリコーンゴムは、透明性を有していると共に引張伸び率が800%以上であり、柔軟性を有していることが確認された。
表1に各原材料の仕込量と重量比を示す。
【0052】
【表1】

【0053】
[比較例]
(シリコーン樹脂組成物の調製)
直鎖状のビニル基含有オルガノポリシロキサン(A)40gに、無機充填材(D)24gを添加し、ニーダーを用いて室温下で均一になるまで混練してマスターバッチを調製した。このマスターバッチ64gに直鎖状のオルガノハイドロジェンポリシロキサン(B)1.4g、白金(E)を0.3g加え混合し、2本ロールを用いて均一になるまで、混練しシリコーン樹脂組成物を調製した。
(シリコーン樹脂組成物の評価)
<引張強度及び引裂強度>
得られたシリコーン樹脂組成物を、100℃、10MPaで10分間プレスし、1mmのシート状に成形した。
【0054】
得られたシート状シリコーンゴムを用いて、JIS K6251(2004)に準拠して、ダンベル状3号形試験片、及び、JIS K6252(2001)に準拠して切込み無しアングル形試験片、切込み有りアングル形試験片を作製しJIS K6251(2004)によるダンベル状3号形試験片の引張強度、及び、JIS K6252(2001)による切込み無しアングル形試験片、切込み有りアングル形試験片の引裂強度を測定した。ただし、引張強度及び引裂強度の測定に用いた試験片の厚みは、1mmとした。
また、実施例1同様透明性及び引張伸び率についても評価した。その結果、比較例1のシリコーンゴム系硬化性組成物は、良好な押出成形性を有していることが確認された。さらに、透明性を有していると共に、引張伸び率が800%であり、柔軟性を有していることが確認された。
表1に各原材料の仕込量と重量比を示す。
【0055】
[結果]
表1、実施例1に示すように、比較例1のシリコーン樹脂系組成物より得られたシリコーンゴムは、引張強度には優れるものの、引裂強度は30N/mmであり不十分であった。
これに対して、実施例1のシリコーン樹脂組成物より得られたシリコーンゴムは、引張強度が4.0N/mm以上、且つ、引裂強度が30/mm以上であり、優れた引張強度及び引裂強度を示した。特に、実施例1のシリコーン樹脂組成物を硬化して得られたシリコーンゴムは、47.8N/mmという高い引裂強度を示した。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明によって、引裂き強度の優れたシリコーンゴム組成物を得ることが出来、それによって、耐傷付き性に優れたシリコーンゴム製医療用カテーテルを提供することが可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
医療用チューブに用いる樹脂組成物であって、ビニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサン(A)と直鎖状オルガノハイドロジェンポリシロキサン(B)とを含むシリコーン樹脂と、熱硬化後のデュロメーター硬さが40以下となる熱硬化性ポリエーテル系重合体(C)とを含むシリコーン樹脂組成物。
【請求項2】
前記ビニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサン(A)は下記式(1)で示されるものである請求項1に記載のシリコーン樹脂組成物。
【化1】

(式(1)中、mは1〜1000の整数、nは3000〜10000の整数であり、R1は炭素数1〜10の置換又は非置換のアルキル基、アルケニル基、アリール基、又はこれらを組み合せた炭化水素基、R2は炭素数1〜10の置換又は非置換のアルキル基、アルケニル基、アリール基、又はこれらを組み合せた炭化水素基、R3は炭素数1〜8の置換又は非置換のアルキル基、アリール基、又はこれらを組み合せた炭化水素基である。)
【請求項3】
前記直鎖状オルガノハイドロジェンポリシロキサン(B)は、下記式(2)で示されるものである請求項1又は2に記載のシリコーン樹脂組成物。
【化2】

(式(2)中、mは0〜300の整数、nは(300−m)の整数である。R4は炭素数1〜10の置換又は非置換のアルキル基、アルケニル基、アリール基、これらを組み合せた炭化水素基、又はヒドリド基である。R5は炭素数1〜10の置換又は非置換のアルキル基、アルケニル基、アリール基、これらを組み合せた炭化水素基、又はヒドリド基である。ただし、複数のR4及びR5のうち、少なくとも2つ以上がヒドリド基である。R6は炭素数1〜8の置換又は非置換のアルキル基、アリール基、又はこれらを組み合せた炭化水素基である。)
【請求項4】
前記熱硬化性ポリエーテル系重合体(C)を80℃以上、130℃以下、1分以上、5分以下で硬化することを特徴とする請求項1乃至3いずれか1項記載のシリコーン樹脂組成物。
【請求項5】
前記熱硬化性ポリエーテル系重合体(C)の100℃、5分間熱硬化後のJIS K6253(2001)におけるデュロメーター硬さが40以下である請求項1乃至3いずれか1項に記載のシリコーン樹脂組成物。
【請求項6】
前記ビニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサン(A)は、ビニル基含有量が0.05以上0.2モル%以下であるビニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサンを含有する請求項1乃至5のいずれか1項に記載のシリコーン樹脂組成物。
【請求項7】
前記ビニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサン(A)の重合度が、4000〜8000の範囲である、請求項1乃至6のいずれか1項に記載のシリコーン樹脂組成物。
【請求項8】
前記直鎖状オルガノハイドロジェンポリシロキサン(B)はビニル基を有しないものである、請求項1乃至7のいずれか1項に記載のシリコーン樹脂組成物。
【請求項9】
前記ビニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサン(A)100重量部に対し、前記直鎖状オルガノハイドロジェンポリシロキサン(B)を0.1〜5重量部の割合で含有する、請求項1乃至8のいずれか1項に記載のシリコーン樹脂組成物。
【請求項10】
前記ビニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサン(A)100重量部に対し、前記ビニル基含有分岐状オルガノポリシロキサン(B)を5〜70重量部の割合で含有する、請求項1乃至9項のいずれか1項に記載のシリコーン樹脂組成物。
【請求項11】
前記A成分のオルガノポリシロキサンと前記B成分のオルガノハイドロジェンポリシロキサンとの合計量に対して、0.1〜1000ppm(白金換算)の量の白金又は白金化合物をさらに含有する、請求項1乃至10のいずれか1項に記載のシリコーン樹脂組成物。
【請求項12】
無機充填材をさらに含有する、請求項1乃至11のいずれか1項に記載のシリコーン樹脂組成物。
【請求項13】
請求項1乃至12のいずれか1項に記載のシリコーン樹脂を用いてなる成形体。
【請求項14】
請求項13に記載の成形体で構成されることを特徴とする医療用チューブ。

【公開番号】特開2012−46656(P2012−46656A)
【公開日】平成24年3月8日(2012.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−190668(P2010−190668)
【出願日】平成22年8月27日(2010.8.27)
【出願人】(000002141)住友ベークライト株式会社 (2,927)
【Fターム(参考)】