説明

シリコーン液入り静止誘導器

【課題】 シリコーン液よりなる絶縁・冷却媒体を有する変圧器等の静止誘導器において、シリコーン液の熱劣化により生成する低分子量で低沸点の分解物を除去し、シリコーン液の引火点の低下を防ぐ。
【解決手段】 タンク内の絶縁・冷却媒体中に鉄心、鉄心に装着された巻線を浸漬してなる静止誘導器において、運転中にシリコーン液の熱劣化によって生成し気相部分に放出された分解物を除去するための分解物除去機構を設ける。シリコーン液の引火点を低下させる原因である分解物を効率よく除去することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、絶縁・冷却媒体としてシリコーン液を用いた変圧器のように、シリコーン液入りの静止誘導器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、変圧器の絶縁・冷却媒体には鉱油等の絶縁油が用いられてきた。この鉱油に代えて難燃性のシリコーン液を用いることにより、変圧器の防火性の向上、運転温度を高くすることによる機器のコンパクト化等を図ることができる。しかし、シリコーン液の場合、従来よりも運転温度を高くすると熱劣化により低分子量で低沸点の分解物が生成し、これによりシリコーン液の引火温度(以下、引火点という)が低下して、運転中にシリコーン液が引火しやすくなるという問題点がある。分解物の生成量は熱劣化温度が高いほど多くなる。
【0003】
特許文献1には、固体絶縁材料とシリコーン液を含む電気装置において、シリコーン液中に合成ゼオライト、シリカゲルなどの吸着剤を含有し、シリコーン液の劣化に伴う蒸発量の増加を抑止することが記載されている。特許文献2には、変圧器の油冷却用配管に、シリコーン液の劣化防止用吸着剤を収納した管路を設けて、吸着剤を容易に交換できるようにすることが記載されている。特許文献2では吸着剤としてシリカゲル、合成ゼオライトが記載されている。
【0004】
【特許文献1】特開昭50−41098号公報
【特許文献2】特開昭50−161625号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
シリコーン液の熱劣化により生成する低分子量で低沸点の分解物の主成分は、シリコーン液と同じ基本化学構造を持つ環状あるいは直鎖状の化合物である。このため、シリコーン液に吸着剤を含有させる方法では、吸着剤によってシリコーン液中の水分を吸着することはできても、シリコーン分解物を吸着剤によって選択的に吸着、除去することは難しい。
【0006】
本発明の目的は、シリコーン液の熱劣化により生成する低分子量で低沸点の分解物を効率よく除去、低減できるようにしたシリコーン液入り静止誘導器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、タンク内のシリコーン液よりなる絶縁・冷却媒体中に鉄心と前記鉄心に装着された巻線を浸漬してなる静止誘導器において、運転中に前記シリコーン液の熱劣化によって生成し気相部分に放出された分解物を除去するための分解物除去機構を設けたものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、シリコーン液の熱劣化により生成する低分子量で低沸点の分解物を、吸着剤等を用いて効率よく除去、低減することができるので、シリコーン液の引火温度の低下を抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明は、シリコーン液の熱劣化によって生成し前記気相部分に放出された低融点で低沸点の分解物を、吸着剤等の手段によって除去するようにしたものである。分解物除去機構としては、前述の吸着剤を用いる方法、気相に放出された分解物を、配管を通して容器に回収する方法等が可能である。
【0010】
シリコーン液は、有機珪素化合物の重合体であり、下記の(1)式あるいは(2)式に示す化学構造式を有する直鎖状の化合物である。シリコーン油と称される場合もあるが、基本的に両者は同じものである。これらは単独で用いても混合してもよいが、(1)式に示すジメチルシリコーン液を好ましく用いることができる。
【0011】
【化1】

【0012】
【化2】

【0013】
以下、図面を用いて、本発明の実施形態を説明する。但し、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではない。
【実施例1】
【0014】
本発明の実施例を説明する前に、シリコーン液入り変圧器の一般的な構成を図7によって説明する。タンク1の内部に鉄心2と、鉄心に装着された一次巻線3と二次巻線4、および絶縁筒5が、シリコーン液よりなる絶縁・冷却媒体6および窒素ガス7と共に収納されている。タンク1の外部には冷却器8が冷却配管9a、9bを介して接続されている。絶縁・冷却媒体6は上部の冷却配管9aを通って冷却器8の内部へ矢印で示すように流れ、冷却器8で冷やされた後、下部の冷却配管9bを通って再びタンクに送り込まれ、鉄心2、一次巻線3、二次巻線4に流入して、これらの発生熱を奪う。鉄心2は締め金具10a、10bで締め付けられており、巻線の上下部分は絶縁物11〜14で抑えられている。また、鉄心2には冷却用の油導入部15が設けられている。
【0015】
本発明の実施例を図1に示す。図1では、シリコーン液の分解によって気相部分すなわち窒素ガス7が充填されている領域に放出されたシリコーン分解物を除去するために、配管16と容器17とからなる分解物除去装置を設けている。変圧器の運転時に、温度が上昇したシリコーン液面上の気体は、冷却されながら矢印の方向に冷却器8に向かって流れるが、この際に、低分子量で低沸点のシリコーン分解物の一部は配管16を流入して容器17に回収され、容器17の内部で液体化あるいは固体化する。これにより、シリコーン液の引火点の低下が抑えられる。
【0016】
図1の変形例を図2に示す。図2の変圧器では、容器17が冷却器8の上部に、冷却器8に隣接して設置されている。このように、容器17を冷却器8に接触させることで、容器17が冷却器8によって冷却作用を受け、容器17に回収されたシリコーン分解物の冷却を促進し、固体化を早めることができる。
【0017】
別の変形例を図3に示す。図3では、容器17を冷却するための冷却装置18が設けられている。この構造でも、シリコーン分解物の固体化を早めることができる。
【0018】
以上のように、運転中にシリコーン液の熱劣化によって生成し、気相に放出されたシリコーン分解物を除去する機構を設けることにより、シリコーン液の引火点の低下を防ぐことができる。
【0019】
シリコーン液はタンク1および配管を介して接続された冷却器8を循環して、タンク内部の鉄心、巻線等を冷却するため、粘度は低い方が好ましく、特に25℃における動粘性係数が50mm/s以下であるものが好ましい。一般に、シリコーン液の引火点はその分子量に依存し、また、分子量が小さいほどシリコーン液の粘度は低くなる。したがって、粘度が低いほどシリコーン液の引火点は低く、その熱分解による低分子量で低沸点の分解物の生成物は多くなると考えられる。変圧器の防火性の向上、あるいは運転温度を高くすることによる機器のコンパクト化等を図るうえで、シリコーン液は難燃性であることが好ましく、特に引火点が250℃を超えるものであることが好ましい。したがって、引火点が250℃を超え、かつ、25℃における動粘性係数が50mm/s以下であるシリコーン液が有効である。なお、本発明において、シリコーン液には鉱油入り変圧器で用いられている帯電防止剤等の添加剤を加えても良い。
【実施例2】
【0020】
吸着剤を用いて、シリコーン液の分解物を除去する実施例を図4により説明する。図4では、タンク1内のシリコーン液面上の気相部分に、シリコーン液分解物除去機構として吸着剤19が設けられている。
【0021】
シリコーン液とその分解物は化学構造が基本的に同じであるため、シリコーン液の液中に吸着剤を添加しても分解物を選択的に吸着、除去することはできない。しかし、本実施例のように、シリコーン液面上の気相部分に吸着剤を設置することにより、シリコーン液の分解物を吸着剤によって効率良く吸着、除去することができるようになる。
【0022】
吸着剤としては活性炭が最も良いが、合成ゼオライト、シリカゲル等でもよく、これらを組み合わせて用いても良い。特に、活性炭とともに、合成ゼオライトあるいはシリカゲルを組み合わせて用いると、シリコーン液中の水分も同時に除去することができるようになるので好ましい。特許文献1では活性炭は吸着剤として好ましくないとしているが、本発明では活性炭は極めて好ましい吸着剤の1つである。
【0023】
吸着剤19は、図5に示すように、配管16を介してタンク1の外部に設置された容器17の内部に設けても良い。また、図6に示すように、容器17の内部に吸着剤19を設置、あるいは吸着剤19を担持させたフィルタ20を設置し、さらにガス循環装置21を設けて気相中の気体を強制的に循環させるようにしてもよい。図6のように構成することにより、シリコーン液分解物の除去効率をより一段と高めることができるようになる。ガス循環装置21は常時、稼動する必要は無く、変圧器の運転状況に応じて定期的に稼動させてもよい。
【0024】
また、図示はしていないが、図6の配管16に開閉バルブ等を設置して密閉空間にしてもよく、これにより、容器17、吸着剤19、あるいはフィルタ20を定期的に交換することができるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の一実施例であり、シリコーン分解物を回収する容器を備えた変圧器の模式図。
【図2】図1の変形例を示す模式図。
【図3】図1の別の変形例を示す模式図。
【図4】本発明の他の実施例であり、吸着剤によってシリコーン液分解物を除去するようにした変圧器の模式図。
【図5】吸着剤を用いるタイプの変形例を示す模式図。
【図6】吸着剤を用いるタイプの別の例を示す模式図。
【図7】シリコーン分解物除去機構を有しない変圧器の構成を示す模式図。
【符号の説明】
【0026】
1…タンク、2…鉄心、3…一次巻線、4…二次巻線、5…絶縁筒、6…絶縁・冷却媒体、7…窒素ガス、8…冷却器、9a…冷却配管、9b…冷却配管、16…配管、17…容器、18…冷却装置、19…吸着剤、20…フィルタ、21…ガス循環装置。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
タンク内のシリコーン液よりなる絶縁・冷却媒体中に鉄心と前記鉄心に装着された巻線とを浸漬してなるシリコーン液入り静止誘導器において、運転中に前記シリコーン液の熱劣化によって生成し気相部分に放出された分解物を除去するための分解物除去機構を備えたことを特徴とするシリコーン液入り静止誘導器。
【請求項2】
請求項1において、前記分解物除去機構として、前記気相部分に放出された前記分解物を、配管を通して容器に回収するようにした分解物除去装置を設けたことを特徴とするシリコーン液入り静止誘導器。
【請求項3】
請求項1において、前記分解物除去機構として、前記気相部分に放出された前記分解物を流入させる配管と、前記配管に流入した前記分解物を回収する容器と、前記容器を冷却する冷却装置とを備えたことを特徴とするシリコーン液入り静止誘導器。
【請求項4】
請求項1において、前記分解物除去機構として、前記気相部分に吸着剤を設置したことを特徴とするシリコーン液入り静止誘導器。
【請求項5】
請求項1において、前記分解物除去機構として、前記気相部分に放出された前記分解物を、配管を通して容器に回収するようにし、さらに前記容器内に吸着剤を設置したことを特徴とするシリコーン液入り静止誘導器。
【請求項6】
請求項1において、前記分解物除去機構として、前記気相部分に放出された前記分解物を、配管を通して容器に回収するようにし、前記容器内に吸着剤を単独又はフィルタに担持させて収納し、前記配管を流れる気体を前記気相部分と前記容器との間で循環させるようにしたことを特徴とするシリコーン液入り静止誘導器。
【請求項7】
請求項1において、前記シリコーン液が、引火点250℃を超え、かつ、25℃における動粘性係数が50mm/s以下のものであることを特徴とするシリコーン液入り静止誘導器。
【請求項8】
タンク内のシリコーン液よりなる絶縁・冷却媒体中に鉄心と前記鉄心に装着された巻線とが浸漬され、前記タンク内の前記絶縁・冷却媒体の液面上に気相部分が設けられ、前記タンクの外部に前記絶縁・冷却媒体を冷却したのち前記タンクに戻す構造の冷却器が設けられているシリコーン液入り静止誘導器において、運転中に前記シリコーン液の熱劣化によって生成し前記気相部分に放出された分解物を除去するための分解物除去機構を備えたことを特徴とするシリコーン液入り静止誘導器。
【請求項9】
請求項8において、前記分解物除去機構として、前記タンク内の気相部分に吸着剤を設置したことを特徴とするシリコーン液入り静止誘導器。
【請求項10】
請求項8において、前記分解物除去機構として、前記気相部分に放出された前記分解物を流入させる配管と、前記配管に流入した分解物を回収する容器を備え、前記容器を前記冷却器に接触させて設け、前記冷却器により前記容器に回収された分解物が冷却されるようにしたことを特徴とするシリコーン液入り静止誘導器。
【請求項11】
請求項8において、前記シリコーン液が、引火点250℃を超え、かつ、25℃における動粘性係数が50mm/s以下のものであることを特徴とするシリコーン液入り静止誘導器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−261289(P2006−261289A)
【公開日】平成18年9月28日(2006.9.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−74768(P2005−74768)
【出願日】平成17年3月16日(2005.3.16)
【出願人】(503020574)株式会社日本AEパワーシステムズ (56)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】