説明

シリコーン組成物の製造方法

【解決手段】一分子中に珪素原子と結合するアルケニル基を2個以上有し、及び/又は、一分子中に珪素原子と結合するヒドロキシル基を2個以上有するオルガノポリシロキサンと、比表面積(BET法)が10m2/g以上の充填剤とを必須成分とするシリコーン組成物の製造するに際し、上記成分を、混合容器自体が回転し、その混合容器の中心からずれた位置に設置された高速回転混合翼を有し、固定スクレーパーにより垂直方向の対流を発生させることができるバッチ式高剪断混合機にて混練を行うことを特徴とするシリコーン組成物の製造方法。
【効果】本発明のシリコーン組成物の製造方法によれば、良好な流動性を有し、最終的に製品の物性値を満足し得るシリコーン組成物を短時間で効率良く、安価に製造可能で、かつ多品種化にも対応可能で、エネルギー原単位の向上も図ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、簡易かつ短時間にシリコーン組成物を混練・製造可能な製造方法に関し、特に電気・電子、自動車、事務機、ヘルスケアなどの用途に用いられるシリコーン組成物を簡易かつ短時間に製造可能な製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、シリコーンポリマーと補強性充填剤を工業的に生産するには、バッチタイプの大型ミキサー、例えば2本のシグマブレードを有するニーダーやプラネタリーミキサーなどを使用するのが一般的である。また、連続的に生産する方法としては、二軸連続押出混練機を用いる方法などが提案されている。
近年の動向としては、コストを考慮して、高い生産性かつ低いエネルギー原単位で安定した品質の製品を得ることが望まれている。
【0003】
前述したバッチタイプのミキサーでは安定した品質を得ることができるが、使用する充填剤の嵩密度が低い場合には、粉体混合に非常に時間がかかることや昇温熱処理を含め全製造工程が長時間に渡る。そこで、生産性を上げるために、混合用のベッセルの容積が大きなものが使用され、その分大きな動力が必要となるため、エネルギー消費も高くなるなどの問題を抱えている。
【0004】
また、特許第4155718号公報(特許文献1)などで示されている二軸連続押出混練機を用いる方法では、高い生産性の実現はできるが、充填剤の定量供給と押し込みなどの課題から品質の安定性に問題を抱えている。また、他品種対応も切替洗浄の面から難しいし、全体工程が煩雑になり、付帯機器も多くなるため、初期投資コストが大きくなることも問題である。
従って、上記の問題がなく、高い生産性でシリコーン組成物を製造する方法の開発が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第4155718号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記事情を鑑みたもので、短時間に安定した品質のシリコーン組成物を製造可能で、かつ他品種化にも対応できる製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記目的を達成するため鋭意検討を重ねた結果、一分子中に珪素原子と結合するアルケニル基を2個以上有し、及び/又は、一分子中に珪素原子と結合するヒドロキシル基を2個以上有するオルガノポリシロキサンと、比表面積(BET法)が10m2/g以上の充填剤とを主成分とするシリコーン組成物を製造するに際し、上記成分を、混合容器自体が回転し、その混合容器の中心からずれた位置に設置された高速回転混合翼を有し、固定スクレーパーにより垂直方向の対流を発生させることができるバッチ式高剪断混合機にて混練を行うことが有効であることを見出し、本発明をなすに至った。
【0008】
従って、本発明は、下記シリコーン組成物の製造方法を提供する。
請求項1:
一分子中に珪素原子と結合するアルケニル基を2個以上有し、及び/又は、一分子中に珪素原子と結合するヒドロキシル基を2個以上有するオルガノポリシロキサンと、比表面積(BET法)が10m2/g以上の充填剤とを必須成分とするシリコーン組成物を製造するに際し、上記成分を、混合容器自体が回転し、その混合容器の中心からずれた位置に設置された高速回転混合翼を有し、固定スクレーパーにより垂直方向の対流を発生させることができるバッチ式高剪断混合機にて混練を行うことを特徴とするシリコーン組成物の製造方法。
請求項2:
上記オルガノポリシロキサンの30〜100質量%と上記充填剤の全量を上記混合容器中で、この混合容器を10〜100rpmで回転させると共に、上記高速回転混合翼を100〜1,000rpmで回転させて混合処理を行った後、上記混合容器を10〜100rpmで回転させると共に、上記高速回転混合翼を200〜4,000rpmで回転させ、120〜270℃で熱処理を行い、上記オルガノポリシロキサンの全量を上記混合処理時に使用しなかった場合は、残りのオルガノポリシロキサンを上記熱処理前及び/又は熱処理後に混合物に添加する請求項1記載のシリコーン組成物の製造方法。
請求項3:
300Torr以下に減圧して熱処理を行う請求項2記載の製造方法。
請求項4:
上記混練に充填剤の分散処理剤を使用する請求項1乃至3のいずれか1項記載の製造方法。
請求項5:
充填剤の分散処理剤として、シラザン化合物及びシラノール基含有化合物から選ばれる1種類又は2種類以上の化合物を使用する請求項4記載の製造方法。
請求項6:
分散処理剤が、1,1,1,3,3,3−ヘキサメチルジシラザンである請求項5記載の製造方法。
請求項7:
分散処理剤が、HO(SiR12O)nH(式中、R1は炭素数が1〜10の炭化水素基、nは1〜50)で表される化合物からなる請求項5記載の製造方法。
請求項8:
充填剤が、ヒュームドシリカ及び/又は沈降シリカである請求項1乃至7のいずれか1項記載の製造方法。
請求項9:
上記シリカの充填量が、オルガノポリシロキサン100質量部に対して10〜130質量部である請求項8記載の製造方法。
【0009】
本発明の製造方法によれば、上記のバッチ式高剪断混合機を使用してシリコーン組成物の成分を混合・混練することにより、通常のニーダー等のバッチ式混練機を使用した場合にはオルガノポリシロキサン成分中に非常に混ざり難かった充填剤を高充填割合でも均一に、しかも短時間で混練でき、それ故、良好な流動性があり、最終製品の物性値を満足し、製品の他品種化にも対応できるシリコーン組成物を簡単な工程で短時間に効率良く低コストで製造できる。
【発明の効果】
【0010】
本発明のシリコーン組成物の製造方法によれば、良好な流動性を有し、最終的に製品の物性値を満足し得るシリコーン組成物を短時間で効率良く、安価に製造可能で、かつ多品種化にも対応可能で、エネルギー原単位の向上も図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の製造方法で使用されるバッチ式高剪断混合機の一例を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に、本発明につき更に詳しく説明する。
本発明のシリコーン組成物の製造方法は、一分子中に珪素原子と結合するアルケニル基を2個以上有し、及び/又は、一分子中に珪素原子と結合するヒドロキシル基を2個以上有するオルガノポリシロキサンと比表面積(BET法)が10m2/g以上の充填剤とを主成分とするシリコーン組成物の製造方法である。
【0013】
ここで、一分子中に珪素原子と結合するアルケニル基を2個以上有し、及び/又は、一分子中に珪素原子と結合するヒドロキシル基を2個以上有するオルガノポリシロキサンとしては、下記平均組成式(1)で示されるものが好適に使用される。
【0014】
aSiO(4-a)/2 (1)
(式中、Rは珪素原子に結合した置換又は非置換の1価炭化水素基であり、aは1.8〜2.2の正数である。)
【0015】
上記式(1)において、Rは置換又は非置換の1価炭化水素基であり、炭素数1〜12の置換又は非置換のアルキル基、シクロアルキル基、アルケニル基、アリール基、アラルキル基などが好適であり、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基等のアルキル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基等のシクロアルキル基、ビニル基、アリル基等のアルケニル基、フェニル基、ナフチル基等のアリール基、ベンジル基、フェニルエチル基等のアラルキル基や、これらの炭化水素基中の水素原子の一部又は全部がフッ素原子、塩素原子等のハロゲン原子やシアノ基等で置換された基、ヒドロキシル基等を挙げることができる。特に好ましくは、メチル基、フェニル基、トリフルオロプロピル基、ヒドロキシル基であり、好ましいアルケニル基はビニル基である。aは1.8〜2.2の正数である。
【0016】
このオルガノポリシロキサンは、主にヒドロシリル化による付加反応、有機過酸化物によるラジカル反応、又は縮合型硬化反応により硬化するシリコーンゴムへ使用されることを考慮すると、一分子中に珪素原子と結合するアルケニル基を2個以上有し、及び/又は、一分子中に珪素原子と結合するヒドロキシル基を2個以上有することが必要である。
【0017】
このオルガノポリシロキサンの構造は基本的には直鎖状であることが好ましいが、一部分に分岐構造を有してもよい。好ましくは、オルガノポリシロキサンの両末端が、アルケニル基で封鎖されたもの、及び/又は、ヒドロキシル基で封鎖されたオルガノポリシロキサンである。
【0018】
更に、上記オルガノポリシロキサンの粘度は、25℃において50〜5,000,000mm2/s、特に100〜1,000,000mm2/sであることが好ましい。なお、この粘度はオストワルド粘度計により測定した動粘度の値である。
【0019】
このオルガノポリシロキサンは、粘度や分子構造の異なる2種以上を用いてもよい。
【0020】
また、充填剤としては、比表面積(BET法)10m2/g以上、好ましくは50〜400m2/gのものを使用する。このような充填剤としては、例えば、ヒュームドシリカ、沈降シリカ、炭酸カルシウム、カーボンブラック等が挙げられ、ヒュームドシリカ、沈降シリカが好ましい。これらの充填剤を単独又は2種類以上の組合せで用いてもよい。
【0021】
上記充填剤の配合量は、充填剤の種類、比表面積の大小により適切な値とすることができるが、オルガノポリシロキサン100質量部に対して10〜130質量部、好ましくは20〜100質量部である。例えば、比表面積が300m2/gのヒュームドシリカの配合量は、20〜70質量部、好ましくは30〜60質量部である。なお、これらの充填剤の添加量の最小添加量は、製造するシリコーン組成物の充填剤割合に応じた値とすることができ、最大添加量は充填剤の種類と比表面積の大小により、前記混合機で混合可能な限界値とすることができる。
【0022】
本発明の製造方法においては、上記原料と共に必要に応じて充填剤の混合を円滑に行うための分散処理剤を添加することができる。分散処理剤としては、シラザン化合物、シラノール含有化合物が好適に用いられ、シラザン化合物としては、1,1,1,3,3,3−ヘキサメチルジシラザン、1,3−ジビニル−1,1,3,3−テトラメチルジシラザン、ビス−(N,N’−トリメチルシリルアミノ)−メチルビニルシラン等が挙げられ、シラノール含有化合物としては、
HO(SiR12O)n
(式中、R1は炭素数1〜10の1価炭化水素基で、メチル基、エチル基等のアルキル基、アリール基、アラルキル基、アルケニル基等が挙げられるが、アルキル基、特にメチル基が好ましい。nは1〜50、特に3〜25の整数である。)
で示されるものが挙げられる。特に、分散処理剤としては、1,1,1,3,3,3−ヘキサメチルジシラザン、重合度50以下のα,ω−ジオルガノシロキサンジオールやトリメチルシラノール等が好適である。
【0023】
上記分散処理剤の添加量は、オルガノポリシロキサン100質量部に対して10質量部以下、特に0〜5質量部が好ましい。分散処理剤の添加量が10質量部を超えると、コスト高になるのと同時に得られる組成物の最終物性に悪影響を及ぼす場合がある。配合する場合は1質量部以上であることが好ましい。
【0024】
なお、必要によりシリコーン組成物に配合され得る他の公知の添加剤を配合しても差し支えない。
例えば、可塑剤としてアルケニル基やヒドロキシル基等の官能基を有さないジオルガノポリシロキサン、例えばジメチルポリシロキサンを配合することができる。
また、加水分解促進の目的で水をオルガノポリシロキサン100質量部に対し0〜5質量部、特に0〜3質量部添加することができる。なお、添加する場合は、0.5質量部以上とすることが好ましい。
【0025】
本発明においては、上記の原料をバッチ式高剪断混合機を用いて混合するが、この混合機は、混合容器自体が回転し、その混合容器の中心からずれた位置に設置された高速回転混合翼、固定スクレーパーを具備したもので、混合容器の回転と高速回転混合翼により高剪断混合を実現し、スクレーパーにより垂直方向の対流を発生させることができ、高効率の混練・混合が可能となる。
【0026】
具体的には、本発明に用いられるバッチ式高剪断混合機は、例えば図1に示すような構造を有するものである。
【0027】
即ち、図1において、1は混合容器であり、この混合容器自体が回転可能である。2は混合容器の蓋であり、蓋の内側に混合容器の中心と偏位して高速回転混合翼3が回転可能に設置され、外側にベアリングボックス6、電気モーター5が具備されており、例えば、高速回転混合翼はベルトにより電気モーターと接続され、駆動される構造となっている。混合翼の回転方向は混合容器の回転方向と同じ向きあるいは逆方向のどちらでも可能で、混合する製品の粘性などに合わせて選択できる。
【0028】
また、固定式のスクレーパー4が蓋2の内側ほぼ中心部に固定され、このスクレーパー4により、材料の付着を防ぐだけでなく、混合物の上下の対流も促進し、高効率混合に寄与する。また、混合容器自体は水平に設置されるだけでなく、混合する物質の性状によっては傾斜して設置することにより、より高効率の混合ができる場合もある。
【0029】
このようなバッチ式高剪断混合機としては、EIRICH社の商品名「インテンシブミキサー」等が挙げられる。この混合機は、上記説明した混合装置の特徴を有する。即ち、混合容器自体が回転し、その混合容器の中心からずれた位置に設置された高速回転混合翼、固定スクレーパーを具備し、混合容器の回転と高速回転混合翼により高剪断混合を実現し、スクレーパーにより垂直方向の対流を発生させることができ、高効率の混練・混合が可能となる。
【0030】
本発明においては、上記のバッチ式高剪断混合機の混合容器に前記液体原料を仕込み、混合容器を回転させ、かつ高速回転混合翼を回転させながら充填剤などを混合してシリコーン組成物を得るものである。
【0031】
具体的には、下記方法によりシリコーン組成物を製造することができる。即ち、まず、上記バッチ式高剪断混合機の混合容器内にオルガノポリシロキサン、充填剤を仕込む。場合によって分散処理剤を添加する。この場合、原料のオルガノポリシロキサンは、全量を一度に仕込んでも、予め一部を仕込んで補強性充填剤と混合した後、残りのオルガノポリシロキサンを添加してもよい。なお、最初の仕込量はその全量の100〜30質量%、より好ましくは80〜30質量%、更に好ましくは60〜40質量%にすることができる。
【0032】
また、補強性充填剤はオルガノポリシロキサンと同時に添加しても、オルガノポリシロキサン添加後に仕込んでもよい。更に、充填剤は全量を一度に仕込むことができるが、2回以上、特に2〜10回に分割して添加してもよい。
【0033】
本発明においては、上記混合容器に仕込んだ前記シリコーン組成物原料を、混合容器を回転させながら、かつ高速回転混合翼を回転させながら混合する。本発明では、この混練操作を行うことにより、通常のバッチ式混練機を使用した混練ではオルガノポリシロキサン中に非常に混ざり難かった上記充填剤を短時間で、しかも高充填割合で混練することができる。
【0034】
この場合、上記オルガノポリシロキサンの30〜100質量%と上記充填剤の全量を上記混合容器中で、この混合容器を10〜100rpmで回転させると共に、上記高速回転混合翼を100〜1,000rpmで回転させて混合処理を行った後、上記混合容器を10〜100rpmで回転させると共に、上記高速回転混合翼を200〜4,000rpmで回転させ、120〜270℃で熱処理を行い、上記オルガノポリシロキサンの全量を上記混合処理時に使用しなかった場合は、残りのオルガノポリシロキサンを上記熱処理前及び/又は熱処理後に混合物に添加する方法が好ましい。
【0035】
即ち、まず混合容器中でオルガノポリシロキサンに充填剤を添加後、混合容器を10〜100rpm、特に10〜40rpmで回転させ、高速回転混合翼を100〜1,000rpmで、特に100〜400rpmで回転させて混合を行う。より高速回転するほうが混合時間が短縮できるが、分散処理剤を使用した場合には、回転による発熱により処理剤が揮発もしくは分解してしまうおそれがあるため、上記の回転数100〜400rpmにすることが望ましい。通常、ここでの混合処理時間は、20〜240分、特に30〜120分である。
【0036】
なお、オルガノポリシロキサン及び充填剤の仕込み時には混合容器内は大気圧又は減圧状態とすることが好ましい。また、充填剤を分割して添加する場合には、撹拌を止めなくてもよく、そのときの混合容器内は大気圧又は減圧状態として行うことが望ましい。
【0037】
充填剤を混合後、高速回転混合翼の回転数を上げ、液温を所定の温度まで昇温する。このときの高速回転混合翼の回転数は、液の粘度に依存するが、200〜4,000rpm、特に400〜3,800rpmとすることが望ましい。200rpm未満だと昇温に時間がかかり、工程時間が長くなる可能性がある。4,000rpmを超えると急激に温度が上がり過ぎるだけでなく、機器自体の負担が大きくなる。
【0038】
本発明で使用する混合機は非常に高剪断がかけられる混合機であるため、混合翼による撹拌熱のみで昇温が可能なため、混合容器にジャケット等の外部加熱装置がなくても昇温が可能である。このため、製造に使用するエネルギーも少なくてすみ、省エネルギーにも寄与する生産工程を実現できる。
【0039】
昇温工程により、所望の温度範囲まで液温を昇温した後は、その温度範囲を維持しながら熱処理を行う。温度の維持の方法としては、高速回転混合翼の回転数の制御、冷却した不活性ガスを投入、水添加などが採用される。この熱処理工程の温度としては120〜270℃が好ましく、更に好ましくは、150〜250℃の範囲である。120℃より低いと、残渣等の揮発が不十分であったり、充填剤とオルガノポリシロキサンのインターラクションが不十分で、経時での特性変化が大きくなる。270℃より高いと、オルガノポリシロキサンポリマーの分子鎖の解裂や再架橋などによりゲル化等の不具合が発生する場合が生じる。この熱処理工程中は大気圧で行ってもよいが、残渣分の揮発などを短時間で終結させることを考慮すると減圧下で行ってもよい。その場合には300Torr以下で行うことが好ましい。なお、この熱処理時間は、通常20〜240分、特に30〜120分である。
【0040】
オルガノポリシロキサンを充填剤混合工程で全量添加せず、分割とした場合には、粉体混合終了後、又は、熱処理終了後に残りのオルガノポリシロキサンを添加する。この場合、100〜400rpmで2〜10分混合することが好ましい。
【0041】
上記製造方法により得られたシリコーン組成物は、例えば液状シリコーンゴムのベースコンパウンドなどとして有用であり、その場合には、架橋剤、硬化剤や顔料ペーストなどを添加して液状シリコーンゴム組成物とすることができる。
【実施例】
【0042】
以下に実施例及び比較例を示して本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。なお、以下の実施例中、部はいずれも質量部を示し、エラストマー系の粘度は23℃における回転粘度計による絶対粘度の測定値を示す。オイル系の粘度は上述した通り、25℃の測定値である。また、使用したバッチ式高剪断混合機は、混合有効容積が5Lで電動モーター(3.7kW)を使用し、ベルトにより駆動される装置である。
【0043】
[実施例1]
図1に示すバッチ式高剪断混合機を用い、ベースポリマーである分子鎖両末端基がジメチルビニルシリル基で封鎖された直鎖状ジメチルポリシロキサン1(粘度30,000mm2/s)60部(1,500g)、1,1,1,3,3,3−ヘキサメチルジシラザンを8部(200g)、水を2部(50g)混合容器に仕込んだ後、比表面積が300m2/gのヒュームドシリカ40部(1,000g)を混合容器の回転数42rpm、高速撹拌翼の回転数400rpmで混合した。粉体混合には17分を要し、その後10分撹拌を続けた。
【0044】
続いて、上記の直鎖状ジメチルポリシロキサンを24.5部(612.5g)、硬度調整剤として側鎖にビニル基を5モル%有するジメチルポリシロキサンを5部(125g)添加し、5分混合後、1,600rpmへ回転数を上げ、昇温を開始した。
【0045】
回転数を1,600rpmにすることにより、容易に昇温し、外部からの加熱は必要なかった。170℃まで昇温後、保温工程として170〜200℃の範囲になるように回転数を400〜1,600rpmの範囲で制御し、60分間保温した。
【0046】
このようにして得られたシリコーン組成物の外観は無色透明であり、充填剤の凝集物やゲル状物等の分散不良もなく、均一な流動性を有していた。また、全工程時間は103分と非常に短時間に混合することができた。
【0047】
[実施例2]
熱処理保温工程において回転数を1,600rpmで水添加による冷却で30分行った以外は実施例1と同様に仕込み、同様の工程とした。190℃に達したら、水を少量添加することを繰り返し、冷却を行い、170〜200℃の範囲での温度コントロールを行った。実施例1と同様、外観は無色透明であり、充填剤の凝集物やゲル状物等の分散不良もなく、均一な流動性を有していた。また、全工程時間は66分と非常に短時間に混合することができた。
【0048】
[実施例3]
熱処理保温工程において、60分減圧下(37Torr)で行った以外は実施例1と同様の仕込み、同様の工程とした。実施例1と同様、外観は無色透明であり、充填剤の凝集物やゲル状物等の分散不良もなく、均一な流動性を有していた。また、全工程時間は101分と非常に短時間に混合することができた。
【0049】
[比較例1]
シリコーン組成物製造の一般的なバッチ式混練機であるニーダー(全容12L、Σブレード双胴型ニーダー、電気ヒーターによる加熱)を使用して実施例1と同一組成の混練を行った。まず、直鎖状ジメチルポリシロキサン60部(2,700g)、1,1,1,3,3,3−ヘキサメチルジシラザンを8部(360g)、水を2部(90g)混合容器に仕込んだ後、上記ヒュームドシリカ40部(1,800g)を添加した。シリカの混合には50分を要した。続いて、昇温を行ったが、所定の温度の170℃までは60分を要し、その後3時間保温混合を行い、続いて、上記の直鎖状ジメチルポリシロキサンを24.5部(612.5g)、側鎖にビニル基を5モル%有するジメチルポリシロキサンを5部(125g)添加し、均一混合を行った。熱処理保温時間を含め、全工程で353分を要した。
【0050】
このようにして得られたシリコーン組成物の外観は無色透明であるが、充填剤の凝集物やゲル状物等の分散不良が見られた。
【0051】
[比較例2]
シリコーン組成物製造の一般的なバッチ式混練機であるプラネタリーミキサー(全容10L、電気ヒーター加熱)を使用して実施例1と同一組成の混練を行った。まず、直鎖状ジメチルポリシロキサン60部(2,700g)、1,1,1,3,3,3−ヘキサメチルジシラザンを8部(360g)、水を2部(90g)混合容器に仕込んだ後、比表面積が上記ヒュームドシリカ40部(1,800g)を添加した。シリカの混合には65分を要した。続いて、昇温を行ったが、所定の温度の170℃までは95分を要し、その後3時間保温混合を行い、続いて、上記の直鎖状ジメチルポリシロキサンを24.5部(612.5g)、側鎖にビニル基を5モル%有するジメチルポリシロキサンを5部(125g)添加し、均一混合を行った。熱処理保温時間を含め、全工程で430分を要した。
【0052】
このようにして得られたシリコーン組成物の外観は白色不透明で、充填剤の凝集物やゲル状物等の分散不良が見られた。
【0053】
上記実施例及び比較例で得られたシリコーン組成物を各々三本ロールミルを用い、再分散を行った後、5Lの万能混合機を用いて表1に示すような配合組成物を添加・混合し、二液タイプのシリコーンゴム組成物(Aタイプ品、Bタイプ品)をそれぞれ調製した。なお、ここで添加した直鎖状ジメチルポリシロキサンは実施例及び比較例で使用したものと同一のオルガノポリシロキサンである。
【0054】
それぞれのAタイプ品、Bタイプ品の粘度とA/Bそれぞれを質量比100/100の比率にて混合したときの硬化性、及び硬化後のゴム物性を測定し、その結果を表2に示す。
【0055】
【表1】

*1 粘度700mm2/s(25℃)、Si−Vi当量0.135mol/100g
*2 白金濃度1質量%
*3 粘度17mm2/s(25℃)、Si−H当量0.00694mol/g
【0056】
【表2】

ゴムシート硬化条件:150℃/10分
【0057】
ここでの物性測定条件は以下の通りである。
粘度:BS型回転粘度計、ローターNo.7、10rpmで3分後の値
硬化性:東洋精機製オシレーティングディスクレオメーターを使用し、温度130℃、トルクレンジ100kg・cm、振角±3°の条件で、2分後のトルクを100としてトルクが10%、50%、90%となる時間をT10、T50、T90として計算する。
密度:水中置換法(JIS K−6249)
引張り強度:JIS K−6249
切断時伸び:JIS K−6249
引裂き強度:クレセント JIS K−6249
アングル JIS K−6249
【0058】
[実施例4]
図1に示すバッチ式高剪断混合機を用い、ベースポリマーに分子鎖両末端基がヒドロキシル基である直鎖状ジメチルポリシロキサン2(粘度5,000mm2/s)40部(1,440g)、同じく分子鎖両末端基がヒドロキシル基であり、粘度が20,000mm2/sである直鎖状ポリシロキサン3を20部(720g)、両末端をトリメチルシリル基で封鎖されたジメチルポリシロキサン4(粘度100mm2/s)を10部(360g)、分散処理剤として、両末端ヒドロキシル基のジメチルポリシロキサン(重合度約20)3部(108g)を400rpmで5分撹拌後、比表面積が200m2/gのヒュームドシリカ14部(504g)を混合容器の回転数42rpm、高速撹拌翼の回転数950rpmで混合した。粉体混合には7分と非常に短時間で混合できた。その後、回転数を4,000rpmに上げ、170℃まで昇温した。この場合にも外部からの加熱は必要なかった。
【0059】
そのまま、30分混合を続け、熱処理保温工程を行った。最終到達温度は230℃であった。その後、上記ジメチルポリシロキサン3を16部添加し、950rpmで5分撹拌を行って工程を終了した。全工程に要した時間は、57分と非常に短時間であった。
【0060】
このようにして得られたシリコーン組成物の外観は乳白色半透明であり、充填剤の凝集物やゲル状物等の分散不良もなく、均一な流動性を有していた。
【0061】
[実施例5]
実施例4の組成に、更に第二の分散処理剤として1,1,1,3,3,3−ヘキサメチルジシラザンを0.1部(3.6g)添加した他は実施例4の工程と同様に行った。全工程に要した時間は、51分と非常に短時間であった。
【0062】
このようにして得られたシリコーン組成物の外観は乳白色半透明であり、充填剤の凝集物やゲル状物等の分散不良もなく、均一な流動性を有していた。またシリカ混合直後から粘性の低下が見られ、仕上がり粘度も低く、良好な性状であった。
【0063】
[比較例3]
バッチ式混合機であるヘンシェルミキサー(全容10L、電気ヒーターによる加熱)を使用して実施例4と同一組成、配合量の混合を同様な工程で行った。シリカの混合には35分を要した。続いて、昇温を行ったが、170℃までは60分を要し、熱処理保温時間を含め、全工程で210分を要した。
【0064】
このようにして得られたシリコーン組成物の外観は乳白色半透明であるが、充填剤の凝集物やゲル状物等の分散不良が見られた。
【0065】
上記実施例4,5及び比較例3で得られたシリコーン組成物を各々三本ロールミルを用い、再分散を行った後、5Lの万能混合機を用いて表3に示すような配合組成物を添加・混合し、一液タイプのシリコーンゴム組成物をそれぞれ調製した。なお、ここで添加した直鎖状ジメチルポリシロキサン5は実施例4,5及び比較例3で使用したものと同一のオルガノポリシロキサンである。
硬化前の粘度及び硬化後のゴム物性を測定し、その結果を表4に示す。
【0066】
【表3】

*4 粘度1,500mm2/s(25℃)、両末端ヒドロキシル基
【0067】
【表4】

ゴムシート硬化条件:23℃/7日
【0068】
なお、物性測定条件は以下の通りである。
タックフリータイム:JIS A−1439
硬度:JIS K−6249規定のタイプA硬度
剪断接着力:幅25mm、長さ100mmのアルミニウム板を用いて、接着面積2.5mm2、接着厚さ2mmの剪断接着試験体を作製した。23℃、50%RHで7日間養生して測定を行った。
凝集破壊率:幅25mm、長さ100mmのアルミニウム板を用いて、接着面積2.5mm2、接着厚さ2mmの剪断接着試験体を作製した。23℃、50%RHで7日間養生して測定を行った。
なお、粘度、密度、引張り強度、切断時伸びは表2の場合と同様である。
【符号の説明】
【0069】
1 混合容器
2 混合容器の蓋
3 高速回転混合翼
4 固定スクレーパー
5 電動モーター
6 ベアリングボックス

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一分子中に珪素原子と結合するアルケニル基を2個以上有し、及び/又は、一分子中に珪素原子と結合するヒドロキシル基を2個以上有するオルガノポリシロキサンと、比表面積(BET法)が10m2/g以上の充填剤とを必須成分とするシリコーン組成物を製造するに際し、上記成分を、混合容器自体が回転し、その混合容器の中心からずれた位置に設置された高速回転混合翼を有し、固定スクレーパーにより垂直方向の対流を発生させることができるバッチ式高剪断混合機にて混練を行うことを特徴とするシリコーン組成物の製造方法。
【請求項2】
上記オルガノポリシロキサンの30〜100質量%と上記充填剤の全量を上記混合容器中で、この混合容器を10〜100rpmで回転させると共に、上記高速回転混合翼を100〜1,000rpmで回転させて混合処理を行った後、上記混合容器を10〜100rpmで回転させると共に、上記高速回転混合翼を200〜4,000rpmで回転させ、120〜270℃で熱処理を行い、上記オルガノポリシロキサンの全量を上記混合処理時に使用しなかった場合は、残りのオルガノポリシロキサンを上記熱処理前及び/又は熱処理後に混合物に添加する請求項1記載のシリコーン組成物の製造方法。
【請求項3】
300Torr以下に減圧して熱処理を行う請求項2記載の製造方法。
【請求項4】
上記混練に充填剤の分散処理剤を使用する請求項1乃至3のいずれか1項記載の製造方法。
【請求項5】
充填剤の分散処理剤として、シラザン化合物及びシラノール基含有化合物から選ばれる1種類又は2種類以上の化合物を使用する請求項4記載の製造方法。
【請求項6】
分散処理剤が、1,1,1,3,3,3−ヘキサメチルジシラザンである請求項5記載の製造方法。
【請求項7】
分散処理剤が、HO(SiR12O)nH(式中、R1は炭素数が1〜10の炭化水素基、nは1〜50)で表される化合物からなる請求項5記載の製造方法。
【請求項8】
充填剤が、ヒュームドシリカ及び/又は沈降シリカである請求項1乃至7のいずれか1項記載の製造方法。
【請求項9】
上記シリカの充填量が、オルガノポリシロキサン100質量部に対して10〜130質量部である請求項8記載の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2011−21121(P2011−21121A)
【公開日】平成23年2月3日(2011.2.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−167944(P2009−167944)
【出願日】平成21年7月16日(2009.7.16)
【出願人】(000002060)信越化学工業株式会社 (3,361)
【Fターム(参考)】