説明

シリルアミンで改質されたナノ粒子状キャリヤ

生理学的pH及び生理学的イオン強度のもとで安定なコロイドを含んで成る組成物を開示する。前記コロイドは、コア及びシェルを有する粒子を含み:a) 前記シェルは、シリルアミン・カップリング剤を含み;b) 該粒子の体積加重平均粒子サイズ直径が、200 nm未満であり、そして;c) 該コロイド中に存在する前記シリルアミン・カップリング剤の35%超は、該コアの表面に結合されている。これらのコア−シェルナノ粒子状物質は、生物学的成分、薬学的成分、又は診断用成分を運ぶことができる。これらの成分は、薬物、治療薬、診断薬、及びターゲット部分を含むことができ、疾患組織又は骨に直接に送達し、そして、患部に近接して放出することができ、患者に対する副作用のリスクを軽減することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリルアミンで改質されたナノ粒子状のキャリヤ粒子を含有するコロイドに関する。より具体的には、シェルがシリルアミン官能基を有するコア・シェル型ナノ粒子状キャリヤ粒子を含有するコロイドが記載されている。記載されるキャリヤ粒子は、生理学的条件下で安定である。
【背景技術】
【0002】
ナノスケール成分及び分子成分の秩序正しい集成体は、生物学的機能を模倣することができ、また生きている細胞及び細胞成分と相互作用することができる分子集成体を形成するのに有望である。ナノスケール集成体を形成する多くの技術が開発されており、これらの技術には、小分子集成技術、高分子電解質集成技術、ナノスケール析出技術、コア・シェル集成技術、異種析出技術、及び多くのその他の技術が含まれる。しかし、ナノ粒子又は分子を集成又は成形して、自立式の安定な作業「デバイス」に加工することができる材料にする方法を生み出す上で、重大な難題が横たわっている。ナノスケール集成体はしばしば不安定になり、また作業系内への一体化に抵抗する。単純な例としては、生体内へのナノスケール集成体の一体化が含まれる。一体化を成功させるためには、高特異的な条件下(生理学的pH及び生理学的イオン強度)でコロイド安定であり、血液成分と適合性があり、免疫系による検出を回避することができ、そして生体に固有の多重濾過系及び老廃物除去系を切り抜けて生き延びることができる集成体が必要である。厳しい条件下で性能を発揮することができる秩序正しいナノスケール集成体を形成するためには、高精度の集成方法が必要である。
【0003】
最近では、生物学的成分、薬学的成分、又は診断用成分を運ぶことができる表面改質型ナノ粒子状材料を開発することに、強い関心が集められている。この場合、薬物、治療薬、診断薬、及びターゲット部分を含むことができる成分を、疾患組織又は骨に直接に送達し、また、患部に近接して放出することができ、患者に対する副作用のリスクを軽減することができる。このアプローチは、癌及び生命を脅かすその他の病気の治療を有意に改善するのに有望であり、これらの疾患の臨床診断及び治療を大改革することができる。ナノ粒子によって運搬可能成分は、よく知られた生体接合技術によってナノ粒子に結合することができ、これに関しては、「Bioconjugate Techniques(生体接合技術)」、G. T. Hermanson, Academic Press, カリフォルニア州San Diego (1996)に詳細に論じられている。最も一般的な生体接合技術は、アミン官能基に対する接合又は連結を伴う。
【0004】
ペンシルベニア大学の理事を譲受人とする、米国特許出願公開第2003/0206859号明細書には、診断用画像形成、薬物送達などにおいて使用するために、水性相中でサイズレンジが狭く制御される「アミンを末端基とする」シリカ粒子のコロイド分散体が記載されている。'859の段落[0038]において、2.0 mL(又は1.90 g)シラン・カップリング剤が、0.61 gのシリカを含有するシリカ分散体50.0 mLに添加される。シラン・カップリング剤(シリルアミン)とシリカとの比は、従って1.90:0.61又は約3:1である。我々は、この比が、シリカ粒子表面に単分子層を形成するのに必要な比を著しく大きく超過していることを発見した。Chenの組成物の場合、シリカ粒子の表面に実際に結合されるのは、活性シラン・カップリング剤の極めて小さな比率、約10 %未満に過ぎない。粒子表面に吸着されないシラン・カップリング剤(遊離アミン・カップリング剤)は、生物学的成分、薬学的成分、又は診断用成分の、続いて生じる結合又は接合を妨害するおそれがある。それというのも、診断又は治療薬は、「遊離」アミンにカップリングして、粒子とは組み合わされないおそれがあるからである。
【0005】
in vivo、特に血管内に注入することができるように、安定なコロイドである、生体接合及びターゲット送達のためのナノ粒子キャリヤを製造することが望ましい。さらに、ナノ粒子キャリヤが生物学的条件下(pH 7.4及び137 mM NaCl)で安定であることが望ましい。さらに、粒子が免疫系による検出を回避することが望ましい。遊離アミンはナノ粒子集成体の機能を妨害するおそれがあるので、ナノ粒子に吸着されないアミン基の数を最小化し、そして溶液中の「遊離」アミン官能基を制限することが望ましい。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
有効期間にわたって安定であり、生物学的条件下において安定であり、そして生物学的成分、薬学的成分、又は診断用成分の生体接合を生じさせるようにpH調節することができるコア・シェル型キャリヤ粒子を含むコロイドが依然として必要である。生理学的条件下におけるコロイド安定性を維持しつつ、溶液中の「遊離」アミン官能基の数を制限又は最小化し、そして好ましくはアミン官能基を有するポリマーから成るただ1層の又は数層の分子層をシェル内に使用するコア・シェル型キャリヤ粒子を含むコロイドが依然として必要である。高濃度(5〜50 %固形分)を有する安定なコロイドを提供するコア・シェル型キャリヤ粒子を含むコロイドの製造方法が依然として必要である。高い生産速度及び低いコストで形成することができるようなコロイドがさらに必要である。コロイド中の実質的に全てのキャリヤ粒子がシリルアミン・カップリング剤で表面改質されており、そしてコロイドには無改質コロイド粒子が実質的になく、またコロイドに結合されていないアミン官能基も実質的にないようなコア・シェル型キャリヤ粒子を含む秩序正しい均質コロイドを得るための改善された方法がさらに必要である。シェル内のアミン官能基の脱離なしに、約pH 5〜pH 9でpHを自由に調節することができるコロイドも望ましい。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、生理学的pH及び生理学的イオン強度のもとで安定なコロイドを含む組成物であって、前記コロイドがコア及びシェルを有する粒子を含み:
a) 前記シェルが、シリルアミン・カップリング剤を含み、
b) 該粒子の体積加重平均粒子サイズ直径が、200 nm未満であり、そして
c) 該コロイド中に存在する前記シリルアミン・カップリング剤の35%超が、該コアの表面に結合されている
組成物を提供する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
上記組成物は安定なコロイドである(懸濁液又は分散体と呼ばれることもある)。コロイドは、液体中の、例えば水中の小さな固形粒子状物質の混合物から成る。コロイドは、通常、数時間、好ましくは数週間から数カ月にわたって、固形粒子状物質が凝集せず(粒子サイズ測定によって見極められる)、またコロイドから沈降しない場合に、安定していると言われる。コロイド不安定性を表す用語は、凝集、凝塊形成、フロキュレーション、ゲル化、及び沈降を含む。コア直径の約3倍を上回る直径まで平均粒子サイズが著しく増大すること、そして調製から1日以内にコロイドの目に見える沈降が生じることは、コロイドが不安定であることを示す。
【0009】
コロイドの安定性に関与するのはしばしば、コロイド中の粒子の表面特性、例えば粒子の静電電荷である。典型的には、さもなければコロイドからの粒子の凝集及び沈降を招くような力を克服するための静電反発力を提供するように、表面は正又は負に有意に帯電される。特定の特性を得るために、粒子を表面改質すること、又は反対電荷を有するコロイド粒子を「集成」することが重要性を有している。しかしこのことはしばしば困難である。それというのも、表面改質又は集成が、コロイド安定性に必要な静電力及び立体力を崩壊し、そして安定なコロイドが容易には得られないからである。組成物は安定なコロイドであり、従って数時間よりも長い時間、より好ましくは数日間よりも長い時間、そして最も好ましくは数週間よりも長い時間にわたって懸濁液のままであるべきである。コロイドのゼータ電位の最大値は、±20 mVを上回り、より好ましくは±30 mVを上回ることができる。高いゼータ電位はコロイドのコロイド安定性を高めるので、ゼータ電位は高いことが好ましい。最終組成物を生成するのに必要なプロセス工程中に安定なコロイドを得るために、分散体のpHを必要に応じて調節することができる。コロイドのpHは、これらのプロセス工程中、pH 4〜pH 10、より好ましくはpH 5〜pH 9であることが可能である。最終形態において、コロイドは、生理学的条件(例えばpH 7.4、137 mM NaCl)下、又はin vivo用途において典型的に使用される緩衝剤又は生理食塩水中、特に、血管内注射のために使用される組成物中で安定である。このように、コロイドは、このような溶液中に導入されるか又は溶液によって希釈されたときに安定のままであることができる。生理学的pH及びイオン強度はpH 6〜pH 8、及び塩濃度30 mM〜600 mMで変化することがあり、また、上記組成物は、これらの範囲内での任意の組み合わせにおいて安定である。
【0010】
上記組成物は、キャリヤ粒子として役立つことができるコア・シェル型粒子を含むコロイドを含む。これらのコア・シェル型粒子の平均粒子サイズ直径は、200 nm未満である。(便宜上、これらの粒子を、「ナノ粒子」又は「ナノ粒子状物質」又は類似の用語で呼ぶ。) この「キャリヤ粒子」は、コア及びシリルアミン・カップリング剤を含む粒子である。このコア・シェル型サブ集成体は、追加の成分、例えば生物学的成分、薬学的成分、又は診断用成分、並びに例えば生体適合性及びターゲット性を改善するための成分を含む他の集成粒子のための出発点であることができる。これらの追加の成分は、結果として生じる粒子を大きくすることができる。
【0011】
コロイド中のコア・シェル型粒子の粒子サイズは、コールター法、光散乱法、沈澱法、光学顕微鏡法、及び電子顕微鏡法を含む多数の方法、又は方法の組み合わせによって特徴付けすることができる。例における粒子は、光散乱法によって特徴付けされた。光散乱法は、109以上の粒子をサンプリングすることができ、そして、優れたコロイド粒子統計値を提供することができる。光散乱法は、直径又はサイズの所与のインターバル内に存在する粒子のパーセンテージを提供するために用いることができ、例えば粒子の90 %が所与の値を下回る。光散乱法は、平均粒子サイズ直径、粒子の平均数分布、粒子の平均体積分布、ナノ粒子状粒子の分布の標準偏差、及び分布幅に関する情報を得るために用いることができる。キャリヤ粒子として使用することができる本発明のコア・シェル型粒子の場合、粒子の少なくとも90%が、平均粒子サイズ直径の4倍未満であることが好ましく、そして、粒子の少なくとも90%が、平均粒子サイズ直径の3倍未満であることがより好ましい。平均粒子サイズ直径は、数加重平均(粒子総数の平均サイズ)として、又は面積、体積又は質量で加重された平均として測定することができる。体積又は質量で加重された平均粒子サイズ直径が測定されるのが好ましい。それというのも、著しく大きい質量を有する、より大きい粒子であればあるほど、この技術を用いてより顕著にカウントされるからである。加えて、粒子の狭いサイズ度数分布を得ることができる。体積加重サイズ度数分布の尺度は、測定された粒子サイズの標準偏差(シグマ)によって与えられる。体積加重平均粒子サイズ直径分布の標準偏差が、平均粒子サイズ直径よりも小さいことが好ましく、そして、平均粒子サイズ直径の2分の1未満であることがより好ましい。このことは注入可能な組成物にとって望ましい粒子サイズ分布を表す。
【0012】
コア粒子は、負の表面電荷を有することができる。コロイドの表面電荷は、電気泳動移動度から計算することができ、ゼータ電位によって表される。負の表面電荷を有するコロイドは、負のゼータ電位を有し、これに対して、正の表面電荷を有するコロイドは、正のゼータ電位を有する。コア粒子のゼータ電位の絶対値は好ましくは10 mVよりも大きく、より好ましくは20 mVよりも大きい。コア粒子が負のゼータ電位を有することがさらに好ましい。電気泳動移動度及びゼータ電位の測定は、「The Chemistry of Silica(シリカの化学)」、R.K. Iler, John Wiley and Sons (1979)に記載されている。
【0013】
コア粒子材料は、無機材料、例えば金属酸化物、金属オキシ水酸化物、及び不溶性塩から選択することができる。好ましいコア粒子材料は、無機コロイド粒子、例えばアルミナ、シリカ、ベーマイト、酸化亜鉛、炭酸カルシウム、二酸化チタン、及びジルコニアである。特に好ましい態様の場合、コア粒子はシリカ粒子である。特に好ましい態様の場合、コア粒子は、直径約4〜50 nmのシリカ粒子である。
【0014】
コア粒子は、カプセル封入された近赤外発光色素又は顔料を有することができる。近赤外発光色素又は顔料は、生きている組織の光学画像形成の際に使用されている。なぜならば、近赤外線波長の光透過率は、紫外線、可視線、又は赤外線波長よりも高いからである。近赤外発光色素又は顔料は一般に、波長範囲約600〜1500 nmにおいて発光を示す。近赤外発光色素又は顔料は、一例として近赤外フルオロフォア、例えばcy7、cy5、cy5.5、インドシアニン・グリーン、ラホーヤ・ブルー、IRD41、IRD700、NIR-1、及びアレクサフルオル色素から選択することができる。これらの色素及びその他は、米国特許出願公開第2003/0044353号明細書に詳しく論じられている。これらの同じ色素及び顔料は、下記の粒子のシェル内に使用することもできる。
【0015】
有用なシェル材料は、本明細書中では「シリルアミン」カップリング剤と呼ぶ。このような材料はしばしば一般に、「シラン」カップリング剤、又はある時は「オルガノシラン」カップリング剤と呼ばれることがあるが、しかしこれらはこの場合には、具体的にはアミン官能基を有する。
【0016】
本発明において有用なシェル材料は、次の一般式によって表されるシリルアミン又は加水分解性シリルアミンである:
【0017】
Si(OR)aZb
【0018】
(上記式中、
Rは、水素、炭素原子数1〜約20の置換型もしくは無置換型アルキル基、又は炭素原子数6〜約20の置換型もしくは無置換型アリール基であり;
Zは、炭素原子数1〜約20の有機基、又は炭素原子数6〜約20のアリール基であり、前記Zのうちの少なくとも1つが第一、第二、又は第三窒素原子を有し;
aは、1〜3の整数であり;そして
bは、1〜3の整数であり;
但し、a+b=4であることを条件とする。)
【0019】
シリルアミン・カップリング剤が、少なくとも1つの加水分解性置換基、ヒドロキシ、メトキシ、エトキシ、プロポキシ、又はブトキシ基を含有することが好ましい。加水分解性置換基は、水中に入れられたときに上記式の化合物に変換される無機基、例えばCl、Br、又はIであってもよい。加水分解性置換基は、シリルアミン・カップリング剤を、粒子表面との加水分解反応を介してコア粒子表面に結合する。本発明の好ましい態様の場合、シリルアミン・カップリング剤が、少なくとも1つの窒素原子を有する少なくとも1つの非加水分解性置換基を含有する。本発明の特に好ましい態様の場合、窒素原子は、第一、第二、又は第三アミン又はアミドである。本発明にとって有用なシリルアミン及び加水分解性シリルアミン・カップリング剤は、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、3-アミノプロピルジメチルメトキシシラン、N-(2-アミノエチル)-3-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、1,4-ビス[3-(トリメトキシシリル)プロピル]エチレンジアミン、ビス(2-ヒドロキシエチル)-3-アミノプロピルトリエトキシシラン、1-(3-トリメトキシシリル)-プロピル尿素、(N,N-ジエチル-3-アミノ-プロピル)トリメトキシシラン、及び(3-トリメトキシシリルプロピル)ジエチレントリアミンを含む。
【0020】
有用なシリルアミン・カップリング剤は、商業的に、例えばGelest Inc.;United Chemical Technologies;Aldrich Chemical Co.及びその他から入手可能である。
【0021】
溶液中に存在する、アミン官能基を有するシリルアミン・カップリング剤の35 %超、より好ましくは70 %超が、コア粒子表面に直接に吸着される。このパーセンテージは、コア粒子に直接に結合されたシリルアミン・カップリング剤の量を、コロイド中のシリルアミン・カップリング剤総量で割り算した重量パーセンテージである。遊離アミンは特に後続の接合工程中に、ナノ粒子集成体の機能を妨害するおそれがあるので、ナノ粒子に吸着されないアミン基の数を最小化し、そして溶液中の「遊離」アミン官能基を制限することが望ましい。コア粒子表面に吸着又は結合されたシリルアミン・カップリング剤の量は、試験の項で説明する溶液状態核磁気共鳴(NMR)によって測定することができる。
【0022】
ナノ粒子状のコア・シェル型粒子が細胞毒性成分、例えば金属、金属酸化物、又は有機化合物を含む場合、ナノ粒子と、ナノ粒子を投与可能な患者との間の生体適合性を保証することが望ましい。いくつかの成分は比較的不活性であり、そして他の成分よりも生理学的に侵入性ではない。コア・シェル型ナノ粒子キャリヤに生体適合性物質を塗布するか、又はその他の形式で全体的又は部分的にこれを覆うことにより、金属有機材料又は高分子材料の有害な影響を最小限に抑えることができる。
【0023】
生体適合性とは、組成物が、これが導入される生体系の通常の機能を妨げないことを意味する。典型的には、生体適合性組成物は、血液と適合可能であり、また、他の形式で体内の不都合な反応を引き起こすことはない。例えば、生体適合性であるために、材料は、毒性、免疫原性、又は血栓形成性であるべきではない。生体分解性とは、材料が生理学的条件下で酵素的又は加水分解的に分解されて、通常のプロセスを介して身体から排除されることができる、より小さな分子になることができることを意味する。
【0024】
コロイドが好適に長いin vivo持続時間(半減期)を有するような、上記コア・シェル型ナノ粒子コロイドの生体適合性を提供するために、アミン官能基のうちの少なくともいくつかと組み合わせることにより、いくつかの態様においてナノ粒子表面に保護鎖を付加することができる。保護鎖は、シェルの一部であるか、又は第2のシェルを形成するために上記シェルに結合することが可能である。有用な保護鎖の例は、ポリエチレングリコール(PEG)、メトキシポリエチレングリコール(MPEG)、メトキシポリプロピレングリコール、ポリエチレングリコール-二酸、ポリエチレングリコールモノアミン、MPEGモノアミン、MPEGヒドラジド、及びMPEGイミダゾールを含む。保護鎖は、PEGと、異なるポリマー、例えばポリペプチド、多糖、ポリアミドアミン、ポリエチレンアミン、ポリヌクレオチド、タンパク質(例えばBSA)、脂質(膜エンベロープを含む)、及び炭水化物とのブロックコポリマーであってもよい。合成生体適合性ポリマーについては、全般的にHolland他、1992年、「Biodegradable Polymers(生体分解性ポリマー)」、Advances in Pharmaceutical Sciences 6: 101-164において論じられている。
【0025】
これらの生体適合性化合物の添加は、他の生物学的成分、薬学的成分、又は診断用成分の添加に続いて行うことができ、そして患者又は系に集成体を導入する前の最終合成工程として役立つことができる。
【0026】
これらの材料は、免疫系又は他の生体系(例えばプロテアーゼ、ヌクレアーゼ(例えばDNAse又はRNAse)、又は望ましくない分解と関連する他の酵素又は生物学的存在物)による認識を防止するための、ナノ粒子キャリヤ、及びこれに結合された生物学的成分、薬学的成分、又は診断用成分に用いられる保護剤又はマスキング剤であってもよい。このように、ポリマー・シェルに保護剤を添加することにより、生物学的成分、薬学的成分、又は診断用成分が無傷のままの状態で集成体が所望の細胞又は組織に達するのを容易にするための隠ぺい構成要件又は隠密構成要件が提供される。
【0027】
本発明のコア・シェル型ナノ粒子組成物は、生物学的成分、薬学的成分、又は診断用成分を運ぶためのキャリヤとして有用であり得る。具体的には、ナノ粒子状キャリヤ粒子は、特定の治療成分又は画像形成成分を必ずしもカプセル封入するわけではなく、生物学的成分、薬学的成分、又は診断用成分のためのキャリヤとして役立つ。生物学的成分、薬学的成分、又は診断用成分、例えば治療薬、診断薬、色素、又は放射線造影剤を、シェル又はコアと組み合わせることができる。「診断薬」という用語は、造影剤として作用することができ、これにより宿主哺乳動物内で検出可能な指示信号を生成することができる成分を含む。検出可能な指示信号は、ガンマ線放射信号、放射性信号、エコー発生信号、蛍光透視信号、又は生理学的信号などであってよい。粒子キャリヤに色素又はフルオロフォアを結合することにより蛍光透視指示信号を発生させることができる。フルオロフォアは、生物学的用途において幅広く使用され、またフルオレセイン又はローダミン色素のような分子又は材料を含む。また、特に有用なのは、近赤外フルオロフォア、例えばcy7、cy5、cy5.5、インドシアニン・グリーン、ラホーヤ・ブルー、IRD41、IRD700、NIR-1、及びアレクサフルオル色素である。これらの色素及びその他は、米国特許出願公開第2003/0044353号明細書に詳しく論じられている。
【0028】
本明細書中で使用される生物医学的物質は、生理学的障害の治療に効果的な生体活性物質、医薬品、酵素、ホルモン、ステロイド、及び組換え生成物などを含む。治療薬の例は、抗生物質、血栓溶解酵素、例えばウロキナーゼ又はストレプトキナーゼ、インスリン、成長ホルモン、化学治療薬、例えばアドリアマイシン、及び抗ウィルス薬、例えばインターフェロン及びアシクロビルを含む。これらの治療薬は、例えばプロテアーゼ又はヒドロラーゼによる酵素的分解時に、治療薬を所定の時間にわたって放出することができるように、ナノ粒子のシェル又はコアと組み合わせることができる。
【0029】
上記組成物はさらに、特定のターゲット細胞を認識するターゲット用部分を含む生物学的成分、薬学的成分、又は診断用成分を含むことができる。上記ナノ粒子状コア・シェル型キャリヤと組み合わされたターゲット用部分を介して、細胞表面受容体を認識して結合することは、上記組成物の構成要件であり得る。この構成要件は、細胞表面結合事象がしばしば、一連の事象、特に受容体媒介型エンドサイトーシスをもたらす細胞カスケードにおける開始ステップであるという理解を活用する。「受容体媒介型エンドサイトーシス」(「RME」)という用語は一般に、細胞表面上に配置された受容体にリガンドが結合することにより触媒されて、受容体結合リガンドが細胞内部に内在化させられるメカニズムを表す。インスリン、上皮成長因子、成長ホルモン、甲状腺刺激ホルモン、神経成長因子、カルシトニン、グルカゴン、及び多くのその他のものを含む多くのタンパク質及びその他の構造が、受容体媒介型エンドサイトーシスを介して細胞に侵入する。
【0030】
受容体媒介型エンドサイトーシス(以後「RME」)は、場合によっては他の生物学的成分、薬学的成分、又は診断用成分を含有する上記ナノ粒子を細胞の内部に輸送するための便利なメカニズムを提供する。
【0031】
RMEの場合、細胞の表面上に配置された受容体によってリガンドが結合すると、細胞内信号を始動させることができ、細胞内信号はエンドサイトーシス応答を含むことができる。こうして、ターゲット用部分が組み合わされたナノ粒子状コア・シェル型キャリヤは、細胞の表面上に結合し、続いて細胞内部に陥入して内在化することができる。本発明の組成物とともに有用なターゲット薬として採用することができる部分の代表的な一例としてのリストは、タンパク質、ペプチド、アプトマー、小有機分子、毒素、ジフテリア毒素、緑膿菌毒素、コレラ毒素、リシン、コンカナバリンA、ラウス肉腫ウィルス、セムリキ森林熱ウィルス、水疱性口内炎ウィルス、アデノウィルス、トランスフェリン、低密度リポタンパク質、トランスコバラミン、卵黄タンパク質、上皮成長因子、成長ホルモン、甲状腺刺激ホルモン、神経成長因子、カルシトニン、グルカゴン、プロラクチン、黄体形成ホルモン、甲状腺ホルモン、血小板由来増殖因子、インターフェロン、カテコールアミン、ペプチド疑似体、糖脂質、糖タンパク質及び多糖から成る群から選択される。上記部分の同族体又は断片を採用することもできる。これらのターゲット用部分はナノ粒子状コア・シェルと組み合わせ、そしてターゲット細胞にナノ粒子を導くために使用することができ、ターゲット細胞内では、続いてナノ粒子を内在化させることができる。部分全体をターゲット用部分として使用する必要はない。特定の受容体又はその他の構造と相互作用することが知られているこれらの部分のより小さな断片を、ターゲット用部分として使用することもできる。
【0032】
抗体又は抗体断片は、細胞内へのナノ粒子の取込みを増強するために利用することができる、最も広く使用されるターゲット用部分のクラスである。抗体は、当業者に知られている種々の技術のいずれかによって調製することができる。例えば、Harlow及びLane、「Antibodies: A Laboratory Manual(抗体:研究室マニュアル)」、Cold Spring Harbor Laboratory, 1988を参照されたい。抗体は、モノクローナル抗体の生成を含む細胞培養技術によって、又は組換え抗体の生成を可能にするために抗体遺伝子を好適な細菌細胞宿主又は哺乳動物細胞宿主内にトランスフェクトすることを介して、生成することができる。1つの技術の場合、ポリペプチドを含む免疫原を、種々様々な哺乳動物(例えばマウス、ラット、ウサギ、ヒツジ、又はヤギ)のいずれかに最初に注入する。ポリペプチドがキャリヤ・タンパク質、例えばウシ血清アルブミン又はキーホール・リンペット・ヘモシアニンに接合されると、優れた免疫応答を発生させることができる。免疫原は、好ましくは、1回又は2回以上のブースター免疫付与を組み入れた所定のスケジュールに従って、動物宿主内に注入し、そして動物から定期的に採血する。次いで、例えば好適な固体支持体にカップリングされたポリペプチドを使用するアフィニティ・クロマトグラフィによって、ポリペプチドに対して特異的なポリクローナル抗体を、このような抗血清から精製することができる。
【0033】
当該抗原ポリペプチドに対して特異的なモノクローナル抗体は、例えばKohler及びMilstein、Eur. J. Immunol. 6:511-519、1976年の技術及びその改善手段を用いて調製することができる。
【0034】
モノクローナル抗体は、成長中のハイブリドーマ・コロニーの上澄みから単離することができる。加えて、種々の技術、例えば好適な脊椎動物宿主、例えばマウスの腹腔内にハイブリドーマ細胞系を注入する技術を、収率を高めるために採用することができる。次いで、腹水又は血液からモノクローナル抗体を捕集することができる。コンベンショナルな技術、例えばクロマトグラフィ、ゲル濾過、析出、及び抽出によって抗体から汚染物質を除去することができる。本発明のポリペプチドは、例えばアフィニティ・クロマトグラフィ工程における精製プロセスにおいて使用することができる。
【0035】
ヒト以外の免疫グロブリンに由来する抗原結合部位を含む数多くの「ヒト化」抗体分子が記述されている(Winter他(1991) Nature 349:293-299; Lobuglio他(1989) Proc. Nat. Acad. Sci. USA 86:4220-4224)。これらの「ヒト化」分子は、ヒト受容体におけるこれらの部分の治療用途の継続時間及び効力を制限する、齧歯動物の抗ヒト抗体分子に対する望ましくない免疫応答を最小限に抑えるように設計される。
【0036】
細胞によるナノ粒子の取込みを増強するために、ビタミン、及びその他の必須ミネラル及び栄養素をターゲット用部分として利用することができる。具体的には、葉酸塩、葉酸塩の葉酸受容体結合類似体、及びその他の葉酸受容体結合リガンド、ビオチン、ビオチンのビオチン受容体結合類似体、及びその他のビオチン受容体結合リガンド、リボフラビン、リボフラビンのリボフラビン受容体結合類似体、及びその他のリボフラビン受容体結合リガンド、及びチアミン、チアミンのチアミン受容体結合類似体、及びその他のチアミン受容体結合リガンドから成る群からビタミン・リガンドを選択することができる。受容体媒介型エンドサイトーシスを引き起こすと考えられ、ひいては本明細書中に開示された方法に基づく用途をも有する追加の栄養素は、カルニチン、イノシトール、リポ酸、ナイアシン、パントテン酸、ピリドキサル、及びアスコルビン酸、及び脂溶性ビタミンA、D、E及びKである。さらに、従来技術において記載された「免疫リポソーム」(リポソームの表面に連結された抗体を有するリポソーム)が、上記組成物と一緒に使用するのに適している。
【0037】
全ての天然細胞膜が生体活性のビオチン受容体又は葉酸受容体を有するわけではないので、特定の細胞系における上記組成物のin vitroでの使用は、生体活性のビオチン受容体又は葉酸受容体の存在を先ず保証するように、その細胞系を変更又はその他の形式で改質することを伴うことができる。こうして、ビオチン受容体及び葉酸受容体の生成を促進するように、ビオチン又は葉酸塩が欠乏している基質上で細胞系を成長させることにより、或いは、ビオチン受容体又は葉酸受容体に対応するタンパク質又はアポタンパク質のための挿入された外来遺伝子を発現させることにより、細胞膜上のビオチン受容体又は葉酸受容体の数を増大させることができる。
【0038】
RMEは、上記コア・シェル型ナノ粒子を細胞中に転位することができる排他的な方法ではない。ナノ粒子に好適な存在物を結合することにより利用することができる他の取込み方法は、膜の孔を有利に使用することを含む。食細胞及び飲細胞のメカニズムはまた、ナノ粒子を細胞内部に内在化させることができる有利なメカニズムを提供する。
【0039】
認識部分はさらに、酵素的又は電気化学的な切断を被りやすい配列を含むことができる。認識部分は従って、細胞内部の種々の位置に存在する酵素、例えばプロテアーゼ又は制限エンドヌクレアーゼ(例えばDNAse又はRNAse)によって切断されやすい配列を含むことができる。
【0040】
細胞表面認識配列は必要条件ではない。このように、細胞表面受容体ターゲット用部分は、所与の細胞タイプをターゲットにするのに有用であり、又は上記ナノ粒子と細胞表面との組み合わせを引き起こすのに有用ではあり得るものの、細胞表面受容体ターゲット用部分がナノ粒子表面上に存在するという必要条件はない。
【0041】
生物学的成分、薬学的成分、又は診断用成分を集成して上記コア・シェル型ナノ粒子状キャリヤを形成するために、成分は、連結によりナノ粒子キャリヤと組み合わさることができる。「組み合わさる」とは、成分が、ナノ粒子によって、例えばコア・シェル型ナノ粒子のシェルによって運ばれることを意味する。成分は粒子内に溶解し、そして非共有結合的に内蔵することができる。成分の好ましい組み合わせ方法は、シェルのアミン官能を介した共有結合による。
【0042】
一般に、当該生物学的成分、薬学的成分、又は診断用成分と、コア・シェル型ナノ粒子状キャリヤとの間に連結状態を形成するいかなる形式をも利用することができる。このことは、直接的な又は結合基を介した間接的な、リガンドと外来分子との共有結合、イオン結合、又は水素結合を含むことができる。連結状態は典型的には、複合体のそれぞれの成分上に位置する酸、アルデヒド、ヒドロキシ、アミノ、又はヒドラゾ基の間にアミド、エステル又はイミノ結合を形成することにより、コア・シェル型ナノ粒子キャリヤに生物学的成分、薬学的成分、又は診断用成分を共有結合することにより形成される。当業者に認識されている、生物学的に変化しやすい共有結合、例えばイミノ結合、及び結合基-COOCH、-O-O-、又は-COOCHを有するいわゆる「活性」エステルが好ましい。例えば核酸の相補鎖間に発生する水素結合を、連結形成のために使用することもできる。
【0043】
十分に純粋なコロイド(好ましくは、生物学的成分、薬学的成分、又は診断用成分を有するコア・シェル型ナノ粒子キャリヤを含む)が調製されたあと、患者又は試料に投与することができる製薬組成物中にナノ粒子を調製することが好ましいことがある。好ましい投与技術は、非経口投与、静脈内投与、及び、例えば充実性腫瘍又は他の新生物組織を含む任意の所期ターゲット組織内への直接的な輸液を含む。好適な製薬組成物を含む媒質中にナノ粒子組成物を配置する最終精製工程を採用することにより、精製を達成することができる。好適な製薬組成物は一般に、投薬情報に基づいた活性物質と一緒に、所定量の所期ナノ粒子を含む(ケースバイケースで決定される)。上記粒子は、適切な最終濃度をもたらすために、許容可能な製薬用希釈剤又は賦形剤、例えば滅菌水溶液と混和される。このような製剤は典型的には、緩衝剤、例えばリン酸緩衝生理食塩水(PBS)、又は追加の添加剤、例えば製薬用賦形剤、安定剤、例えばBSA又はHSA、又は塩、例えば塩化ナトリウムを含む。
【0044】
非経口投与の場合、このような組成物を、これらの滅菌性、非免疫原性、及び非発熱性を保証することにより薬学的に許容可能なものにすることが一般に望ましい。このような技術は概ね当業者に知られている。さらに、ヒトに投与する場合、製剤は、FDA生物学的基準事務局によって必要とされる滅菌性、発熱性、全般的な安全性、及び純度の基準を満たすべきである。上記ナノ粒子組成物が細胞培養液中に懸濁された細胞中に導入される場合には、適切な成長培地、例えばLuria培養液(LB)又は好適な細胞培地内に細胞をナノ粒子と一緒にインキュベートするので十分である。他の導入方法も可能ではあるが、これらの導入処理が好ましく、そしてこれらの導入処理は、ナノ粒子キャリヤの表面上に存在する存在物とは関係なしに実施することができる。
【実施例】
【0045】
Nalco Chemical Companyからシリカ・コロイド、例えば、Nalco(登録商標)1130、平均粒子直径8 nm、30 %固形分、pH=10.0、比表面積=375 g/m2;Nalco(登録商標)1140、平均粒子直径15 nm、40 %固形分、pH=9.7、比表面積=200 g/m2を購入した。全てのコア粒子は負のゼータ電位を有する。Gelestからシリルアミン・カップリング剤を購入し、これらは、3-アミノプロピル(トリエトキシ)シラン、及び(3-トリメトキシシリルプロピル)ジエチレントリアミンであった。Nektar Molecule Engineeringから、NHS-mPEG(Mw=5000 Da)を購入した(カタログ番号2M4M0H01)。
【0046】
137 mMのNaCl(8 g)、2.7 mMのKCl(0.2 g)、10 mMのNa2HPO4(1.44 g)、2 mMのKH2PO4(0.24 g)を1.0 L蒸留水中に溶解することにより、PBS(リン酸緩衝剤システム)緩衝剤を調製した。
【0047】
カプセル封入された蛍光色素を有するコア粒子の調製
Stober(W. Stober, A. Fink、及びE. Bohn, J. Colloid Interface Sci. 26, 62 (1968); N.A.M. Verhaegh及びA. van Blaaderen, Langmuir 10, 1427(1994))によって記載された方法を改変することにより、シリカ粒子を調製した。テトラエチルオルトシラン(TEOS)及び3-アミノプロピルトリエトキシシランを、Sigma Aldrichから購入した。ポリエチレンイミンをAldrich Chemicalsから購入し、これは平均MW=10,000 g/モル、ポリマー1モル当たり233 モノマーである。ポリエチレンイミン(以後「PEI」)のモノマー分子量は、43.0 g/モルであるものとみなした。BVSMは、Eastman Kodak Companyから得られたビス-エテン,1,1'-[メチレンビス(スルホニル)]であった。137 mMのNaCl(8 g)、2.7 mMのKCl(0.2 g)、10 mMのNa2HPO4(1.44 g)、2 mMのKH2PO4(0.24 g)を1.0 L蒸留水中に溶解することにより、PBS(リン酸緩衝剤システム)緩衝剤を調製した。メトキシポリ(エチレン)グリコールプロピオン酸のスクシニミジルエステル、MW=5,000 g/モル(以後mPEG-NHSと呼ぶ)を、Nektar Molecule Engineering、カタログ番号m-spa-5000から購入した。蛍光色素、フルオレセイン5(6)-イソチオシアネート、及びテトラメチルローダミン-イソチオシアネートをSigma-Aldrichから購入した。
【0048】
近赤外フルオロフォアCY7(分子量=817 g/モル)をAmersham Inc.から購入した。これは次の化学構造を有した。
【0049】
【化1】

【0050】
近赤外蛍光NIR-2の合成
室温の無水ピリジン(20 mL)中に前駆体-1(1.3g、2 mmol)のヨウ化物塩を含有する色素の溶液に、1-(3-ジメチルアミノプロピル)-3-エチルカルボジイミドヒドロクロリド(0.8 g, 4.1 mmol)と、3-アミノプロピルトリエトキシルシラン(1.32 g, 6 mmol)とを添加した。結果として得られた混合物を、出発材料が消費されるまで(TLCによってモニタリング)、窒素下で撹拌した。次いで、混合物を無水エーテル(100 ml)で希釈し、生成物を粘着性半固形材料として析出させた。これをさらに、溶離液として(10:1)酢酸エチル/メタノールを使用したシリカゲル・クロマトグラフによって精製した。
【0051】
【化2】

【0052】
【化3】

【0053】
粒子サイズ測定
下記例において得られたコア・シェル型ナノ粒子状キャリヤの体積加重平均粒子サイズ直径を、Leeds & Northrop製のMICROTRAC(登録商標) Ultrafine Particle Analyzer (UPA) Model 150を使用して、動的光散乱法によって測定した。分析は、示されたサイズよりも小さな粒子の体積のパーセンテージを示すパーセンタイル・データを提供する。50パーセンタイルはメディアン直径として認識され、これは、本明細書中では「メディアン粒子サイズ直径」と呼ばれる。「体積加重平均粒子サイズ直径」は、MICROTRAC(登録商標) Ultrafine Particle Analyzer (UPA) Model 150のマニュアルに記載されているように、粒子サイズの面積分布から計算される。標準偏差は、粒子サイズ分布幅を表す。標準偏差が小さければ小さいほど、粒子サイズ分布幅は狭くなる。
【0054】
シリルアミン吸着の定量
コロイドナノ粒子上に吸着されたシリルアミン・カップリング剤の量を測定するために、溶液状態1H NMR分光法を定量法として用いた。この方法は、粒子表面に吸着された化学種が移動度の低減を示し、また磁化率の変化を被りやすいことが知られているという理由から、可能である。これらのファクターは両方とも、NMR共鳴の線幅を著しく増大させ、そしてその結果、粒子表面と組み合わされた(粒子表面に吸着又は結合された)材料の共鳴を観察することができなくなる。従って観察されるNMR共鳴は、溶液中に溶解された化学種だけから生じる。吸着量はこうして、総存在量の知識を用いて間接的に得られる。この手順は、試料間で分散剤の信号を比較するために外部基準を採用する。基準3-(トリメチルシリル)プロピオン-3,3,2,2-d4酸ナトリウム塩(TSP)を、当該試料を含有する管内部の密閉同軸管内に入れた。同じ同軸基準管をそれぞれの試料のために使用した。同軸基準に対して信号を較正するために、既知量のシリルアミン・カップリング剤を含有する対照溶液を形成した。データを得るために、500 MHzの1H周波数で動作するVarian Inova(登録商標)NMR分光計(カリフォルニア州Palo Alto在Varian Inc.)を使用した。水信号を低減するために前飽和を用い、そして定量的条件を保証するために、13.5秒の総緩和遅延を用いた。全ての試料に対して同じ試験パラメータを使用した。典型的には、1H NMRスペクトルが5分未満で得られた。
【0055】
ナノ粒子キャリヤ表面改質:
比較例は符号「C」を有する。本発明の例は符号「T」を有する。
【0056】
C-1:250 mL容器内に、Nalco(登録商標)1140の希釈によって調製された10 % w/wシリカ・コロイド100.0 gを添加した。撹拌された懸濁液に、次いで、0.37 gの(3-トリメトキシシリルプロピル)ジエチレントリアミンを添加した。次いで混合物のpHを、硝酸の4.0N溶液1.34 gを添加することによって約5.0に調節した。次いで、懸濁液を3日間にわたって室温で撹拌させておいた。平均粒子サイズ直径、粒子表面に対するシリルアミン・カップリング剤の吸着率、及び物理特性を、表1に示す。
【0057】
I-1: C-1における量の代わりに0.77 gの(3-トリメトキシシリルプロピル)ジエチレントリアミンを添加し、そして混合物のpHを、硝酸の4.0N溶液1.98 gを添加することによって約5.0に調節すること以外は、C-1と同様に実施した。平均粒子サイズ直径、粒子表面に対するシリルアミン・カップリング剤の吸着率、及び物理特性を、表1に示す。
【0058】
I-2: C-1における量の代わりに1.19 gの(3-トリメトキシシリルプロピル)ジエチレントリアミンを添加し、そして混合物のpHを、硝酸の4.0N溶液2.94 gを添加することによって約5.0に調節すること以外は、C-1と同様に実施した。平均粒子サイズ直径、粒子表面に対するシリルアミン・カップリング剤の吸着率、及び物理特性を、表1に示す。
【0059】
I-3: C-1における量の代わりに3.01 gの(3-トリメトキシシリルプロピル)ジエチレントリアミンを添加し、そして混合物のpHを、硝酸の4.0N溶液6.55 gを添加することによって約5.0に調節すること以外は、C-1と同様に実施した。平均粒子サイズ直径、粒子表面に対するシリルアミン・カップリング剤の吸着率、及び物理特性を、表1に示す。
【0060】
C-2: C-1における量の代わりに12.05 gの(3-トリメトキシシリルプロピル)ジエチレントリアミンを添加し、そして混合物のpHを、硝酸の4.0N溶液26.07 gを添加することによって約5.0に調節すること以外は、C-1と同様に実施した。平均粒子サイズ直径、粒子表面に対するシリルアミン・カップリング剤の吸着率、及び物理特性を、表1に示す。
【0061】
【表1】

【0062】
表1の結果は、本発明の例が、35 %を上回る高いシリルアミン・カップリング剤結合率を有するコロイド安定キャリヤ粒子を提供し、このような結合率は、とシリカに対するシリルアミンの比が約0.04〜約0.20という狭い範囲に対してのみ発生することを示す。粒子表面被覆率の別の尺度は、シリルアミン・カップリング剤とシリカ表面積とのモル比によって提供することができる。上記重量比(0.04〜0.20)は、シリカ表面1 m2当たり0.75〜3.8 μモルのシリルアミンに対応する。
【0063】
C-3: 250 mL容器内に、Nalco(登録商標)1140の希釈によって調製された10 % w/wシリカ・コロイド100.0 gを添加した。撹拌された懸濁液に、次いで、0.25 gの3-アミノプロピル(トリエトキシ)シランを添加した。次いで混合物のpHを、硝酸の4.0N溶液0.74 gを添加することによって約5.0に調節した。次いで、懸濁液を3日間にわたって室温で撹拌させておいた。平均粒子サイズ直径、粒子表面に対するシリルアミン・カップリング剤の吸着率、及び物理特性を、表2に示す。
【0064】
I-4: C-1における量の代わりに0.53 gの3-アミノプロピル(トリエトキシ)シランを添加し、そして混合物のpHを、硝酸の4.0N溶液1.05 gを添加することによって約5.0に調節すること以外は、C-1と同様に実施した。平均粒子サイズ直径、粒子表面に対するシリルアミン・カップリング剤の吸着率、及び物理特性を、表2に示す。
【0065】
I-5: C-1における量の代わりに0.82 gの3-アミノプロピル(トリエトキシ)シランを添加し、そして混合物のpHを、硝酸の4.0N溶液1.31 gを添加することによって約5.0に調節すること以外は、C-1と同様に実施した。平均粒子サイズ直径、粒子表面に対するシリルアミン・カップリング剤の吸着率、及び物理特性を、表2に示す。
【0066】
I-6: C-1における量の代わりに2.06 gの3-アミノプロピル(トリエトキシ)シランを添加し、そして混合物のpHを、硝酸の4.0N溶液2.85 gを添加することによって約5.0に調節すること以外は、C-1と同様に実施した。平均粒子サイズ直径、粒子表面に対するシリルアミン・カップリング剤の吸着率、及び物理特性を、表2に示す。
【0067】
C-4: C-1における量の代わりに8.24 gの3-アミノプロピル(トリエトキシ)シランを添加し、そして混合物のpHを、硝酸の4.0N溶液10.52 gを添加することによって約5.0に調節すること以外は、C-1と同様に実施した。平均粒子サイズ直径、粒子表面に対するシリルアミン・カップリング剤の吸着率、及び物理特性を、表2に示す。
【0068】
【表2】

【0069】
表2の結果は、本発明の例が、35 %を上回る高いシリルアミン・カップリング剤結合率を有するコロイド安定キャリヤ粒子を提供し、このような結合率は、シリカに対するシリルアミンの比が約0.04〜約0.20という狭い範囲に対してのみ発生することを示す。粒子表面被覆率の別の尺度は、シリルアミン・カップリング剤とシリカ表面積とのモル比によって提供することができる。上記重量比(0.04〜0.20)は、シリカ表面1 m2当たり0.9〜4.5 μモルのシリルアミンに対応する。
【0070】
PBS緩衝剤中の安定化:
C-5: C-1から得られたナノ粒子キャリヤ懸濁液10.0 mLを、10.0 mLのPBS緩衝剤(pH=7.3)に、強力に撹拌しながらゆっくりと添加した。必要な場合には、結果として生じる懸濁液pHを、1.0 N NaOHでpH 7.0に調節した。次いで懸濁液を1日間にわたって室温で撹拌させておいた。懸濁液の平均粒子サイズ直径、及び標準偏差を表3に示す。
【0071】
I-7: I-1から得られたナノ粒子キャリヤ懸濁液10.0 mLを、10.0 mLのPBS緩衝剤(pH=7.3)に、強力に撹拌しながらゆっくりと添加する以外は、C-5と同様に実施した。懸濁液の平均粒子サイズ直径、及び標準偏差を表3に示す。
【0072】
I-8: I-2から得られたナノ粒子キャリヤ懸濁液10.0 mLを、10.0 mLのPBS緩衝剤(pH=7.3)に、強力に撹拌しながらゆっくりと添加する以外は、C-5と同様に実施した。懸濁液の平均粒子サイズ直径、及び標準偏差を表3に示す。
【0073】
I-9: I-3から得られたナノ粒子キャリヤ懸濁液10.0 mLを、10.0 mLのPBS緩衝剤(pH=7.3)に、強力に撹拌しながらゆっくりと添加する以外は、C-5と同様に実施した。懸濁液の平均粒子サイズ直径、及び標準偏差を表3に示す。
【0074】
C-6: C-2から得られたナノ粒子キャリヤ懸濁液10.0 mLを、10.0 mLのPBS緩衝剤(pH=7.3)に、強力に撹拌しながらゆっくりと添加する以外は、C-5と同様に実施した。懸濁液の平均粒子サイズ直径、及び標準偏差を表3に示す。
【0075】
【表3】

【0076】
表3の結果は、本発明のナノ粒子キャリヤは、生理学的pH及び生理学的イオン強度(PBS緩衝剤)において安定化することができ、また、高いシリルアミン・カップリング剤結合率を有し、このような結合率は、シリカに対するシリルアミンの比が約0.06〜約0.20という狭い範囲に対してのみ発生することを示す。
【0077】
ナノ粒子のペギル化
I-10: 例2(I-2)から得られたコア・シェル型ナノ粒子状キャリヤを、蒸留水に対して一晩透析し、そして0.05 M水性NaHCO3で0.3 %固形分まで希釈した。粒子を、既知の濃度のフルオレセインと反応させ、そして標準に対して蛍光を較正することにより、粒子が、シリカ・コア粒子1.00 g当たりの、粒子表面に対する第一アミンの結合量1020 μモルを含有することが示された。次いで、0.3 %アミノ化コア粒子懸濁液10.0 mLに、100 mgのNHS-mPEG(Mw=5000 Da)を添加し、そして試料を2時間にわたって撹拌した。平均粒子サイズ直径、及びゼータ電位値を表4に報告する。
【0078】
I-11: 150 mgのNHS-mPEG(Mw=5000 Da)を添加すること以外は、I-10と同様に実施した。平均粒子サイズ直径、及びゼータ電位値を表4に報告する。
【0079】
I-12: 200 mgのNHS-mPEG(Mw=5000 Da)を添加すること以外は、I-10と同様に実施した。平均粒子サイズ直径、及びゼータ電位値を表4に報告する。
【0080】
【表4】

【0081】
表4のデータは、コア・シェル型ナノ粒子状キャリヤには、この場合ポリ(エチレン)グリコール・ポリマーによって提供される、生体適合性シェルを塗布することができる。塗布の成功は、粒子サイズ分布データから、そしてさらに、コア・シェル型ナノ粒子状キャリヤの表面電荷がpHとは無関係になることを示すゼータ電位から確認される。
【0082】
ペギル化ナノ粒子キャリヤ上への色素の結合
I-13: 例2(I-2)から得られたコア・シェル型ナノ粒子状キャリヤを、蒸留水に対して一晩透析し、そしてpH 7.4の0.05 M水性NaHCO3で0.3 %固形分まで希釈した。次いで、0.3 %アミノ化コア粒子懸濁液15.0 mLに、150 mgのNHS-mPEG(Mw=5000 Da)を添加し、そして試料を室温で4時間にわたって撹拌した。いかなる未結合m-PEGをも除去するために、30,000 MWCOフィルターを使用して、PBS緩衝剤に対して反応混合物7.5 mLを透析した。次いでこの透析された試料に、0.002 gのCY7-NHS近赤外フルオロフォアを添加し、そして懸濁液を3時間にわたって暗所内で室温で撹拌した。未結合NHS-CY7又はその加水分解生成物を除去するために、30,000 MWCOフィルターを使用して、PBS緩衝剤に対して反応混合物を透析した。懸濁液の平均粒子サイズ直径は60 nmであった。蛍光分光分析は、785 nmを中心とする蛍光バンドを示し、採用される励起波長は、730 nmであった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
生理学的pH及び生理学的イオン強度のもとで安定なコロイドを含んで成る組成物であって、前記コロイドがコア及びシェルを有する粒子を含み:
a) 前記シェルが、シリルアミン・カップリング剤を含み、
b) 該粒子の体積加重平均粒子サイズ直径が、200 nm未満であり、そして
c) 該コロイド中に存在する前記シリルアミン・カップリング剤の35%超が、該コアの表面に結合されている
組成物。
【請求項2】
前記体積加重平均粒子サイズ直径が、100 nm未満である請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記体積加重平均粒子サイズ直径の標準偏差が、該平均粒子サイズ直径よりも小さい請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
前記シリルアミン・カップリング剤が:
3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、3-アミノプロピルジメチルメトキシシラン、N-(2-アミノエチル)-3-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、1,4-ビス[3-(トリメトキシシリル)プロピル]エチレンジアミン、ビス(2-ヒドロキシエチル)-3-アミノプロピルトリエトキシシラン、1-(3-トリメトキシシリル)-プロピル尿素、(N,N-ジエチル-3-アミノ-プロピル)トリメトキシシラン、及び(3-トリメトキシシリルプロピル)ジエチレントリアミン
から選択される請求項1に記載の組成物。
【請求項5】
前記コアがシリカである請求項1に記載の組成物。
【請求項6】
該コアが、カプセル封入された色素又は顔料を有する請求項5に記載の組成物。
【請求項7】
前記コアが負電荷を有する請求項1に記載の組成物。
【請求項8】
該コロイド中の前記シリルアミン・カップリング剤の70%超が、該コアの表面に結合されている請求項1に記載の組成物。
【請求項9】
前記粒子の表面上に保護鎖が位置している請求項1に記載の組成物。
【請求項10】
前記粒子がさらに、生物学的成分、薬学的成分、又は診断用成分を含む請求項1に記載の組成物。
【請求項11】
前記コロイドの固形分含有率が、約1〜30重量%である請求項1に記載の組成物。
【請求項12】
該コロイドが、コア粒子表面積1 m2当たり0.5〜5 μモルのシリルアミンを含有する請求項1に記載の組成物。
【請求項13】
該コロイドが、コア粒子1 g当たり100〜1000 μモルのシリルアミンを含有する請求項1に記載の組成物。
【請求項14】
該体積加重平均粒子サイズ直径が、50 nm未満である請求項1に記載の組成物。
【請求項15】
前記コロイドが、pH 5〜9で安定である請求項1に記載の組成物。
【請求項16】
蛍光材料をさらに含む請求項1に記載の組成物。
【請求項17】
該コア粒子が、SiO2、TiO2、Al2O3、AlOOH、ZrO2、Fe3O4のコロイドから選択される請求項1に記載の組成物。

【公表番号】特表2009−504742(P2009−504742A)
【公表日】平成21年2月5日(2009.2.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−527016(P2008−527016)
【出願日】平成18年8月11日(2006.8.11)
【国際出願番号】PCT/US2006/031397
【国際公開番号】WO2007/021946
【国際公開日】平成19年2月22日(2007.2.22)
【出願人】(507177331)ケアストリーム ヘルス,インコーポレイティド (13)
【Fターム(参考)】