説明

シリル化合物の製造方法

【課題】
分子内にSi−F結合を有するフルオロシラン化合物と、分子内にヒドロキシル基を有するヒドロキシ化合物とを反応させることにより、分子内にSi−O結合を有するシリル化合物を効率よく製造する方法を提供する。
【解決手段】
式(1):RSiFで示されるフルオロシラン化合物と、式(2):A−OHで示されるヒドロキシ化合物とを、塩基性を有する複素環式化合物及びアルカリ金属の塩の存在下に反応させることを特徴とする、式(3):A−O−SiRで示されるシリル化合物の製造方法(前記式中、R、R及びRは、それぞれ独立して、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数3〜8のシクロアルキル基、炭素数2〜20のアルケニル基、炭素数2〜20のアルキニル基、置換基を有していてもよいアリール基又は置換基を有していてもよいヘテロアリール基を表し、Aは有機基を表す。)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分子内にSi−F結合を有するフルオロシラン化合物と、分子内にヒドロキシル基を有するヒドロキシ化合物とを反応させることにより、分子内にSi−O結合を有するシリル化合物を効率よく製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
医薬品、農薬等の生理活性物質やその製造中間体には、分子内にヒドロキシル基を有する化合物が多い。そして、このような生理活性物質やその製造中間体を多段階で製造する際においては、化合物中のヒドロキシル基を保護基で保護し、あるいはヒドロキシル基の保護基を脱離させてヒドロキシル基に変換する工程を設ける場合がある。
【0003】
従来、このようなヒドロキシル基の保護基として、シリル基が好適に用いられている。シリル基を導入する試剤としては、トリアルキルシリルハライド等のシリル化合物が知られている(非特許文献1〜8等)。また、ヒドロキシル基に結合したシリル基を脱離してヒドロキシル基に変換する方法としては、含フッ素試剤を用いる方法が知られている(非特許文献1,9等)。
【0004】
ところで、前記含フッ素試剤を用いてヒドロキシル基に変換する反応においては、反応副生物として、分子内にSi−F結合を有するフルオロシラン化合物が得られる。
【0005】
このフルオロシラン化合物は、他のクロロシランなどのハロゲノシラン化合物と同様に、水と反応してシラノールを生成したり、アルコールと反応してアルコキシシランを与えることが知られている(非特許文献10,11等)。
【0006】
しかし、ケイ素原子とフッ素原子との結合(Si−F結合)は、ケイ素原子と他のハロゲン原子との結合に比べて強固であり〔結合エネルギー:Si−F結合(807kJ/mol)>Si−Cl結合(471kJ/mol)>Si−Br結合(403kJ/mol)〕、フルオロシラン化合物の反応性は、クロロシラン等の他のハロゲノシラン化合物に比して著しく低い。
【0007】
例えば、クロロシラン化合物は、アルキルアミン等の弱塩基(共役酸のpKaが10以下)の存在下、分子内にヒドロキシル基を有するヒドロキシ化合物と反応して、分子内にSi−O結合を有するシリル化合物をほぼ定量的に与える。一方、フルオロシラン化合物を使用して同様の反応を行わせるためには、金属アルコキシドのような強塩基(共役酸のpKaが15以上)の存在下、ヒドロキシ化合物を大過剰に用いる必要があり、しかも、収率は一般的に低いものであった。
【0008】
従って、従来の工業的プロセスにおいては、含フッ素試剤を用いる脱シリル化反応で副生するフルオロシラン化合物は、他の反応処理廃棄物とともに廃棄又は焼却されるのが一般的であった。
しかしながら、環境保護、資源の保護及びコスト削減等の観点から、フルオロシラン化合物を廃棄するのは問題であり、その有効利用が望まれていた。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】J.Am.Chem.Soc.,94,6190(1972)
【非特許文献2】Tetrahedron Lett.,99(1979)
【非特許文献3】Tetrahedron Lett.,21,835(1980)
【非特許文献4】Tetrahedron Lett.,22,1299(1981)
【非特許文献5】Tetrahedron Lett.,22,3455(1981)
【非特許文献6】J.Org.Chem.,43,3649(1978)
【非特許文献7】J.Org.Chem.,44,4272(1979)
【非特許文献8】Canad.J.Chem.,53,2974(1975)
【非特許文献9】J.Am.Chem.Soc.,94,2549(1972)
【非特許文献10】J.Chem.Soc.,2846(1952)
【非特許文献11】J.Am.Chem.Soc.,71,965(1949)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、かかる実情に鑑みてなされたものであって、分子内にSi−F結合を有するフルオロシラン化合物と、分子内にヒドロキシル基を有するヒドロキシ化合物とを反応させることにより、分子内にSi−O結合を有するシリル化合物を効率よく製造する方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究した結果、分子内にSi−F結合を有するフルオロシラン化合物と、分子内にヒドロキシル基を有するヒドロキシ化合物とを、塩基性を有する複素環式化合物の存在下に反応させることにより、分子内にSi−O結合を有するシリル化合物を収率よく製造することができることを見出し、本発明を完成するに到った。
【0012】
かくして本発明によれば、式(1):RSiF(式中、R、R及びRは、それぞれ独立して、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数3〜8のシクロアルキル基、炭素数2〜20のアルケニル基、炭素数2〜20のアルキニル基、置換基を有していてもよいアリール基又は置換基を有していてもよいヘテロアリール基を表す。)で示されるフルオロシラン化合物と、式(2):A−OH(式中、Aは有機基を表す。)で示されるヒドロキシ化合物とを、塩基性を有する複素環式化合物及びアルカリ金属の塩の存在下に反応させることを特徴とする、式(3):A−O−SiR(式中、R、R、R及びAは前記と同じ意味を表す。)で示されるシリル化合物の製造方法が提供される。
【0013】
本発明の製造方法においては、前記塩基性を有する複素環式化合物として、イミダゾールを用いることが好ましい。
【0014】
また、本発明の製造方法においては、前記フルオロシラン化合物が、分子内に、式:−O−SiR(式中、R、R及びRは前記と同じ意味を表す。)で示される基を有する化合物と、含フッ素試剤とを反応させて得られる反応処理液からの回収物であることが好ましく、前記式(2)で示される化合物が、生理活性物質の製造中間体であることが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、分子内にSi−F結合を有するフルオロシラン化合物と、分子内にヒドロキシル基を有するヒドロキシ化合物とを反応させることにより、分子内にSi−O結合を有するシリル化合物を効率よく製造することができる。
本発明によれば、含フッ素試剤を用いる脱シリル化反応で副生するフルオロシラン化合物をシリル化剤として再利用することができる。
従って、本発明によれば、従来は廃棄又は焼却されていたフルオロシラン化合物を工業的プロセスにおいて再利用することにより、環境保護、資源の保護、及び大幅なコスト削減を図ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明のシリル化合物の製造方法は、式(1):RSiFで示されるフルオロシラン化合物(以下、「フルオロシラン化合物(1)」ということがある)と、式(2):A−OHで示されるヒドロキシ化合物(以下、「ヒドロキシ化合物(2)」ということがある)とを、塩基性を有する複素環式化合物の存在下に反応させることを特徴とする。
【0017】
(i)フルオロシラン化合物(1)
本発明に用いるフルオロシラン化合物(1)において、前記式(1)中、R、R及びRは、それぞれ独立して、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数3〜8のシクロアルキル基、炭素数2〜20のアルケニル基、炭素数2〜20のアルキニル基、置換基を有していてもよいアリール基、又は置換基を有していてもよいヘテロアリール基を表す。
【0018】
炭素数1〜20のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、ネオペンチル基、n−ヘキシル基、イソヘキシル基、n−ヘプチル基、n−オクチル基、n−ノニル基、n−デシル基等が挙げられる。
炭素数3〜8のシクロアルキル基としては、シクロプロピル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロオクチル基等が挙げられる。
【0019】
炭素数2〜20のアルケニル基としては、ビニル基、アリル基、1−プロペニル基、1−ブテニル基、2−ブテニル基、3−ブテニル基、ブタジエニル基、1−ペンテニル基、2−ペンテニル基、3−ペンテニル基、4−ペンテニル基、1,3−ペンタジエニル基等が挙げられる。
炭素数2〜20のアルキニル基としては、エチニル基、プロパルギル基、2−ブチニル基等が挙げられる。
【0020】
前記アルキル基、シクロアルキル基、アルケニル基、アルキニル基は、任意の位置に1種又は2種以上の置換基を有していてもよい。
かかる置換基としては、例えば、フッ素、塩素、臭素等のハロゲン原子;ニトロ基;シアノ基;メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、イソプロポキシ基、n−ブトキシ基、sec−ブトキシ基、tert−ブトキシ基等のアルコキシル基;メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、n−プロポキシカルボニル基、イソプロポキシカルボニル基、n−ブトキシカルボニル基、tert−ブトキシカルボニル基等のアルコキシカルボニル基;メチルチオ基、エチルチオ基、n−プロピルチオ基、イソプロピルチオ基、n−ブチルチオ基、tert−ブチルチオ基等のアルキルチオ基;メチルスルホニル基、エチルスルホニル基、n−プロピルスルホニル基、イソプロピルスルホニル基、n−ブチルスルホニル基、tert−ブチルスルホニル基等のアルキルスルホニル基;アミノ基;メチルアミノ基、エチルアミノ基、n−プロピルアミノ基、イソプロピルアミノ基、ベンジルアミノ基、フェニルアミノ基等のモノ置換アミノ基;ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基、ジベンジルアミノ基、メチルエチルアミノ基、フェニルメチルアミノ基等のジ置換アミノ基;アミド基;メチルアミノカルボニル基、エチルアミノカルボニル基、ベンジルアミノカルボニル基等のモノアルキルアミノカルボニル基;ジメチルアミノカルボニル基、ジエチルアミノカルボニル基、ジベンジルアミノカルボニル基等のジアルキルアミノカルボニル基;アセチル基、プロピオニル基、ベンゾイル基、4−クロロベンゾイル基等のアシル基;フェニル基、2−クロロフェニル基、3−メトキシフェニル基、4−メチルフェニル基、2,4−ジクロロフェニル基等の置換基を有していてもよいフェニル基;等が挙げられる。
【0021】
置換基を有していてもよいアリール基のアリール基としては、フェニル基、1−ナフチル基、2−ナフチル基等が挙げられる。
置換基を有していてもよいヘテロアリール基のヘテロアリール基としては、2−ピリジル基、3−ピリジル基、4−ピリジル基、2−フリル基、3−フリル基、2−チエニル基、3−チエニル基等が挙げられる。
【0022】
前記アリール基及びヘテロアリール基の置換基としては、前記アルキル基等の置換基として列記した基のほか、メチル基、エチル基等のアルキル基等が挙げられる。
【0023】
これらの中でも、入手容易性、低コストの観点から、R、R及びRは、それぞれ独立して、炭素数1〜20のアルキル基又は置換基を有していてもよいフェニル基であるのが好ましく、炭素数1〜10のアルキル基又は置換基を有していてもよいフェニル基であるのがより好ましく、炭素数1〜10のアルキル基又はフェニル基であるのが特に好ましい。
【0024】
フルオロシラン化合物(1)の好ましい具体例としては、トリメチルフルオロシラン、トリエチルフルオロシラン、イソプロピルジメチルフルオロシラン、トリイソプロピルフルオロシラン、tert−ブチルジメチルフルオロシラン、フェニルジメチルフルオロシラン、tert−ブチルジフェニルフルオロシラン、トリフェニルフルオロシラン等が挙げられる。
【0025】
フルオロシラン化合物(1)の使用量は、ヒドロキシ化合物(2)1モルに対して、通常、1〜5モル、好ましくは1.1〜2モルである。本発明の反応は化学量論的に進行するため、従来のようにヒドロキシ化合物(2)を大過剰に用いる必要はない。
【0026】
本発明に用いるフルオロシラン化合物(1)としては、市販品、あるいは公知の方法により製造したもののいずれであってもよい。本発明においては、分子内に、式:−O−SiR(式中、R、R及びRは前記と同じ意味を表す。)で示される基を有する化合物と、含フッ素試剤とを反応させて得られる反応処理液からの回収物であるのが、従来は廃棄されていた反応副生物を有効利用して、シリル資源の保護を図る観点から好ましい。また、反応副生物を利用することによりコストの削減を図ることができる。
【0027】
分子内に、式:−O−SiRで示される基を有する化合物と、含フッ素試剤との反応を下記に示す。下記反応式中、R、R及びRは前記と同じ意味を表し、A’は後述するAと同様の有機基を表す。また、含フッ素試剤としては、フッ化テトラブチルアンモニウム(n−Bu)、フッ化水素(HF)、HF・ピリジン、NH・2HF、トリエチルアミン・3HF等が挙げられる。
【0028】
【化1】

【0029】
前記分子内に、式:−O−SiRで示される基を有する化合物と、含フッ素試剤とを反応させて得られる反応処理液からフルオロシラン化合物(1)を回収する方法としては、例えば、(a)前記反応処理液を蒸留する方法、(b)前記反応処理液に水及び水と非混和性の有機溶媒とを加えて分液して、有機層を蒸留する方法、(c)前記反応処理液をカラムクロマトグラフィー法により精製する方法、(d)前記反応処理液をカラムクロマトグラフィー法により精製した後、更に蒸留する方法、等が挙げられる。また、(e)前記反応処理液を精製することなく、そのままシリル化剤として用いることもできる。
【0030】
(ii)ヒドロキシ化合物(2)
本発明に用いるヒドロキシ化合物(2)において、前記式(2)中、Aは有機基を表す。ここで有機基は、ヒドロキシル基を有する有機化合物の該ヒドロキシル基以外の部分を表す。
【0031】
ヒドロキシ化合物(2)としては、分子内にヒドロキシル基を有する有機化合物であれば、特に制限されない。
【0032】
ヒドロキシ化合物(2)の具体例としては、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、t−ブタノール、ヘキサノール、シクロヘキシルアルコール、シクロヘプチルアルコール、ビニルアルコール、アリルアルコール、エチニルアルコール、プロパルギルアルコール、エチル 3−ヒドロキシブチレート、(R)−1−フェニルチオブタン−3−オール;
フェノール、4−フェノキシフェノール、1−ナフトール、2−ナフトール;3−ヒドロキシピリジン、4−ヒドロキシピリジン;
【0033】
式:Ar−〔C(r1)(r2)〕n−OH(式中、Arは、フェニル基、1−ナフチル、2−ナフチル等の置換基を有していてもよいアリール基を表し、r1、r2は、それぞれ独立して水素原子;又はメチル基、フェニル基等の炭化水素基を表し、nは1〜20の整数を表す。nが2以上のとき、式:−C(r1)(r2)−で表される基は、同一であっても相異なっていてもよい。)で表される化合物;
式:Het−〔C(r1)(r2)〕n−OH(式中、Hetは、置換基を有していてもよい複素環基を表し、r1、r2及びnは前記と同じ意味を表す。)で表される化合物;等が挙げられる。
【0034】
前記Hetとしては、O,N又はSを少なくとも1個以上有する、3〜8員の複素環基が好ましい。また、複素環基は、2つ以上の環が縮合した縮合環基であってもよい。
【0035】
Hetの具体例としては、アゼチジノン−3−イル、2−フリル、3−フリル、2−チエニル、3−チエニル、2−ピロリル、3−ピロリル、イミダゾール−2−イル、イミダゾール−4−イル、ピラゾール−3−イル、ピラゾール−4−イル、オキサゾール−2−イル、オキサゾール−4−イル、イソオキサゾール−3−イル、イソオキサゾール−4−イル、イソオキサゾール−5−イル、チアゾール−2−イル、チアゾール−4−イル、イソチアゾール−3−イル、イソチアゾール−4−イル、イソチアゾール−5−イル、2−ピリジル、3−ピリジル、4−ピリジル、2−ピリミジル、4−ピリミジル、3−ピリダジル、ピラジン−2−イル、ピペラジン−2−イル、モルホリン−2−イル、モルホリン−3−イル、及び下記に示す縮合環基等が挙げられる。また、これらの基は、任意の位置に1個又は2個以上の置換基を有していてもよい。
【0036】
【化2】

【0037】
(式中、Xは、炭素原子、酸素原子、硫黄原子、スルホニル基等を表す。)
これらの中でも、ヒドロキシ化合物(2)としては、分子内にヒドロキシル基を有する、医薬品や農薬などの生理活性物質の製造中間体であって、該生理活性物質を製造する工程において、前記ヒドロキシル基を保護する必要のあるものが好ましく、分子内にヒドロキシル基を有するβ−ラクタム系抗生物質の製造中間体であって、目的物を合成するために前記ヒドロキシル基を保護する必要のあるものが特に好ましい。
【0038】
β−ラクタム系抗生物質の製造中間体の具体例としては、(2S,3R)−2−アミノメチル−3−ヒドロキシ酪酸、(1’R,3S)−3−(1’−ヒドロキシエチル)アゼチジン−2−オン、(2S,3R)−2−アルコキシカルボニル−3−ヒドロキシブチルアミン塩酸塩、(R)−3−ヒドロキシブチリックアシッドエステル類等が挙げられる。
【0039】
なお、ヒドロキシ化合物(2)は、分子内に不斉炭素原子を有する場合、光学活性体であってもラセミ体であってもよい。
本発明における反応は、立体保持で進行するので、光学活性体を用いた場合には、光学活性が保持されたまま反応が進行する。
【0040】
(iii)塩基性を有する複素環式化合物
本発明の製造方法は、塩基性を有する複素環式化合物の存在下に反応を行うことを特徴とする。塩基性を有する複素環式化合物の存在下に反応を行うことにより、より短時間で収率よく目的とする式(3):A−O−SiR(式中、R、R、R及びAは前記と同じ意味を表す。)で示されるシリル化合物(以下、「シリル化合物(3)」ということがある)を得ることができる。
【0041】
塩基性を有する複素環式化合物は、複素環からなる塩基性物質であり、一般的には含窒素複素環式化合物又は含窒素縮合複素環式化合物等が挙げられる。
【0042】
前記塩基性を有する含窒素複素環式化合物としては、ピロリジン、ピロリン、ピロール、イミダゾリジン、イミダゾール、ピラゾリジン、ピラゾリン、ピラゾール、トリアゾリジン、トリアゾール、チアゾール、イソチアゾール、オキサゾール、イソオキサゾール等の5員環の含窒素複素環式化合物;
ピペリジン、ピペラジン、ピリジン、コリジン、ピコリン、ピリミジン、ピリダジン、ピラジン、トリアジン、モルホリン等の6員環の含窒素複素環式化合物;等が挙げられる。
【0043】
また、含窒素縮合複素環式化合物としては、インドール、キノリン、イソキノリン、キノリジン、キナゾリン、プリン、ベンゾイミダゾール、キヌクリジン、1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]−7−ウンデセン(DBU)、1、4−ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン(DABCO)、1,5−ジアザビシクロ[4.3.0]−5−ノネン(DBN)等が挙げられる。
【0044】
これらの含窒素複素環式化合物又は含窒素縮合複素環式化合物は、任意の位置に1又は2以上の置換基を有していてもよい。
置換基としては、メチル基、エチル基などのアルキル基;フッ素原子、塩素原子などのハロゲン原子;メトキシ基、エトキシ基などのアルコキシル基;シアノ基;ニトロ基;等が挙げられる。
【0045】
これらの中でも、本発明においては、短時間で、収率よく目的とするシリル化合物(3)を得ることができることから、イミダゾール、及び2−メチルイミダゾール、2−エチルイミダゾール、4−メチルイミダゾール、2,4−ジメチルイミダゾール、2−クロロイミダゾール、4−クロロイミダゾール等のイミダゾール誘導体が好ましく、イミダゾールが特に好ましい。
【0046】
塩基性を有する複素環式化合物の使用量は、ヒドロキシ化合物(2)1モルに対し、通常1〜10モル、好ましくは1〜2モルである。
【0047】
(iv)シリル化合物(3)の製造方法
本発明のシリル化合物(3)の製造方法は、前記ヒドロキシ化合物(2)を、塩基性を有する複素環式化合物の存在下、フルオロシラン化合物(1)と反応させるものである(以下、この反応を「シリル化反応」ということがある)。
本発明においては、このシリル化反応を、さらにアルカリ金属の塩の存在下に行うのが好ましい。アルカリ金属の塩を添加することにより反応を加速することができる。
【0048】
アルカリ金属の塩としては、特に制約はなく、例えば、リチウム、ナトリウム、カリウム、セシウム等の、ハロゲン化物、カルボン酸塩、炭酸塩、硝酸塩、硫酸塩、硫酸水素塩、リン酸塩等が挙げられる。
これらの中でも、リチウム及びナトリウムの塩が好ましく、塩化リチウム、臭化リチウム、ヨウ化リチウム、塩化ナトリウム、臭化ナトリウム等のリチウム又はナトリウムのハロゲン化物;酢酸リチウム、プロピオン酸リチウム、酢酸ナトリウム、プロピオン酸ナトリウム等のリチウム又はナトリウムのカルボン酸塩がより好ましく、酢酸リチウムが特に好ましい。
【0049】
アルカリ金属の塩の使用量は、ヒドロキシ化合物(2)1モルに対し、通常1〜5モル、好ましくは1〜2モルである。
【0050】
シリル化反応は、無溶媒又は溶媒中で行うことができる。
用いる溶媒としては、シリル化反応に対して不活性なものであれば、特に制限されない。具体的には、ベンゼン、トルエン、キシレン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン等の芳香族炭化水素系溶媒;酢酸エチル、酢酸イソプロピル、酢酸n−ブチル等のエステル系溶媒;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン系溶媒;n−ペンタン、n−ヘキサン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、n−ヘプタン、イソパラフィン系溶媒(例えば、商品名:アイソパー、エクソンモービル社製)等の飽和炭化水素系溶媒;アセトニトリル、ベンゾニトリル等のニトリル系溶媒;ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジオキサン、テトラヒドロフラン、1,2−ジメトキシエタン等のエーテル系溶媒;ジメチルスルホキシド、スルホラン等の含硫黄溶媒;N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセタミド、ヘキサメチルホスホロアミド等のアミド系溶媒;塩化メチレン、クロロホルム、四塩化炭素、1,2−ジクロロエタン等のハロゲン化炭化水素系溶媒;等が挙げられる。
【0051】
これらの溶媒は1種単独で、あるいは2種以上を混合して用いることができる。
これらの中でも、短時間で収率よく目的物が得られることから、飽和炭化水素系溶媒が好ましい。
【0052】
溶媒の使用量は特に限定されないが、ヒドロキシ化合物(2)1重量部に対して、通常0.001重量部〜100重量部である。
【0053】
シリル化反応の方法としては、特に制約はないが、例えば、フルオロシラン化合物(1)、ヒドロキシ化合物(2)、塩基性を有する複素環式化合物、及び所望によりアルカリ金属の塩を、無溶媒又は溶媒中で撹拌する方法が挙げられる。
【0054】
反応温度は、通常、0℃〜200℃であり、反応時間は反応規模にもよるが、通常、10分から数日間である。
【0055】
反応終了後は、通常の後処理操作及び必要に応じて精製を行なうことにより、目的とするシリル化合物(3)を得ることができる。
【0056】
得られるシリル化合物(3)は、最終目的物である医薬品や農薬等の生理活性物質の合成のために次の反応に供され、所望の時期に脱シリル化される。
【0057】
この脱シリル化の反応を、含フッ素試剤を用いることにより、脱シリル化反応の反応処理液から前記と同様にしてフルオロシラン化合物を回収することができる。得られたフルオロシラン化合物は、本発明におけるフルオロシラン化合物として再利用することができる。
【0058】
以上のように、本発明によれば、フルオロシラン化合物(1)を用いて簡便かつ効率よくヒドロキシ化合物(2)をシリル化することができ、回収物であるフルオロシラン化合物(1)を有効利用することができる。
【実施例】
【0059】
以下、実施例により、本発明をさらに詳細に説明する。但し、本発明は、実施例により何ら制限されるものではない。
なお、実施例中、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)分析およびH−NMR測定に使用した機器は、次の通りである。
HPLC分析;ポンプ:LC−10ATvp、検知部:SPD−10Avp、恒温槽:CTO−10ACvp、クロマトパック:CR−8A、島津製作所社製
H−NMR測定;FT−NMR、JNM−AL400、日本電子社製
【0060】
(比較例2) 1−tert−ブチルジメチルシリルオキシ−2−フェニルエタンの合成
内部に磁気攪拌子を設置した50mlナス型フラスコに、β−フェネチルアルコール(610mg)、tert−ブチルジメチルフルオロシラン(1.009g)、イミダゾール(530mg)、アイソパーG(イソパラフィン系混合溶剤;平均分子量149、沸点156〜175℃、エクソンモービル社製)(10ml)を投入し、ジムロート式冷却管を取り付けたのち、この混合物を100℃のオイルバスで保温しながら8時間攪拌した。反応液を放冷後、水(10ml)、酢酸エチル(10ml)を加えて分液し、有機層をさらに水(5ml)で洗浄した。得られた有機層をHPLCにて定量分析したところ、1−tert−ブチルジメチルシリルオキシ−2−フェニルエタンが174mg含まれていた。収率は14.7%であった。
【0061】
(実施例2) 1−tert−ブチルジメチルシリルオキシ−2−フェニルエタンの合成
内部に磁気攪拌子を設置した50mlナス型フラスコに、β−フェネチルアルコール(612mg)、tert−ブチルジメチルフルオロシラン(1.013g)、酢酸リチウム(511mg)、イミダゾール(529mg)、アイソパーG(10ml)を投入し、ジムロート式冷却管を取り付けたのち、この混合物を100℃のオイルバスで保温しながら4時間攪拌した。反応液を放冷後、水(10ml)、酢酸エチル(10ml)を加えて分液し、有機層をさらに水(5ml)で洗浄した。得られた有機層をHPLCにて定量分析したところ、1−tert−ブチルジメチルシリルオキシ−2−フェニルエタンが1.068g含まれていた。収率は90.2%であった。
【0062】
(実施例3) 1−トリフェニルシリルオキシ−2−フェニルエタンの合成
内部に磁気攪拌子を設置した50mlのナス型フラスコに、β−フェネチルアルコール(1.226g)、トリフェニルフルオロシラン(3.067g)、酢酸リチウム(760mg)、イミダゾール(787mg)、n−ヘキサン(20ml)を投入し、ジムロート式冷却管を取り付けたのち、この混合物を4時間還流させた。反応液を放冷後、水(30ml)、酢酸エチル(30ml)を加えて分液し、有機層をさらに水(10ml)で洗浄した。
得られた有機層を減圧下で濃縮し、濃縮物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶離液:n−ヘキサン/酢酸エチル=10/1(体積比))にて精製し、1−トリフェニルシリルオキシ−2−フェニルエタンを油状物質として3.410g得た。収率は89.2%であった。
【0063】
得られた1−トリフェニルシリルオキシ−2−フェニルエタンのH−NMRデータを以下に示す。
H−NMR(400MHz,CDCl)δppm:2.88(2H,t),3.98(2H,t),7.12−7.24(5H,m),7.32−7.44(9H,m),7.57(6H,d)
【0064】
(実施例4) 1−tert−ブチルジメチルシリルオキシ−4−フェノキシベンゼンの合成
内部に磁気攪拌子を設置した50mlのナス型フラスコに、4−フェノキシフェノール(931mg)、tert−ブチルジメチルフルオロシラン(738mg)、酢酸リチウム(381mg)、イミダゾール(392mg)、アイソパーG(10ml)を投入し、ジムロート式冷却管を取り付けたのち、この混合物を100℃のオイルバスで保温しながら5時間攪拌した。反応液を放冷後、水(10ml)、酢酸エチル(10ml)を加えて分液し、有機層をさらに水(5ml)で洗浄、分液した。得られた有機層をHPLCにて定量分析したところ、1−tert−ブチルジメチルシリルオキシ−4−フェノキシベンゼンが1.165g含まれていた。収率は77.6%であった。
【0065】
(実施例5) 1−tert−ブチルジメチルシリルオキシ−6−クロロヘキサンの合成
内部に磁気攪拌子を設置した50mlのナス型フラスコに、6−クロロ−1−ヘキサノール(1.367g)、tert−ブチルジメチルフルオロシラン(1.476g)、酢酸リチウム(761mg)、イミダゾール(783mg)、n−ヘキサン(20ml)を投入し、ジムロート式冷却管を取り付けたのち、この混合物を8時間還流させた。反応液を放冷後、水(20ml)、酢酸エチル(20ml)を加えて分液し、有機層をさらに水(10ml)で洗浄、分液した。
得られた有機層を減圧下で濃縮し、濃縮物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶離液:n−ヘキサン/酢酸エチル=20/1(体積比))にて精製し、1−tert−ブチルジメチルシリルオキシ−6−クロロヘキサン(1.610g)を油状物質として得た。収率は64.1%であった。
【0066】
(実施例6) 1−tert−ブチルジメチルシリルオキシ−1−フェニルエタンの合成
内部に磁気攪拌子を設置した50mlのナス型フラスコに、β−フェネチルアルコール(611mg)、tert−ブチルジメチルフルオロシラン(749mg)、酢酸リチウム(378mg)、イミダゾール(391mg)、アイソパーG(10ml)を投入し、ジムロート式冷却管を取り付けたのち、この混合物を100℃のオイルバスで保温しながら8時間攪拌した。反応液を放冷後、水(10ml)、酢酸エチル(10ml)を加えて分液し、有機層をさらに水(5ml)で洗浄した。得られた有機層をHPLCにて定量分析したところ、1−tert−ブチルジメチルシリルオキシ−1−フェニルエタンが390mg含まれていた。収率は33.0%であった。
【0067】
(実施例7) 2−tert−ブチルジメチルシリルオキシ−1−フェニルプロパンの合成
内部に磁気攪拌子を設置した50mlのナス型フラスコに、1−フェニルプロパン−2−オール(1.365g)、tert−ブチルジメチルフルオロシラン(1.479g)、酢酸リチウム(761mg)、イミダゾール(783mg)、n−ヘキサン(20ml)を投入し、ジムロート式冷却管を取り付けたのち、この混合物を8時間還流した。反応液を放冷後、水(20ml)、酢酸エチル(20ml)を加えて分液し、有機層をさらに水(10ml)で洗浄した。得られた有機層をHPLCにて定量分析したところ、2−tert−ブチルジメチルシリルオキシ−1−フェニルプロパンが268mg含まれていた。収率は10.7%であった。
【0068】
(実施例8) 2−tert−ブチルジメチルシリルオキシ−4−フェニルブタンの合成
内部に磁気攪拌子を設置した50mlのナス型フラスコに、4−フェニルブタン−2−オール(1.503g)、tert−ブチルジメチルフルオロシラン(1.477g)、酢酸リチウム(759mg)、イミダゾール(784mg)、n−ヘキサン(20ml)を投入し、ジムロート式冷却管を取り付けたのち、この混合物を8時間還流した。反応液を放冷後、水(20ml)、酢酸エチル(20ml)を加えて分液し、有機層をさらに水(10ml)で洗浄した。得られた有機層をHPLCにて定量分析したところ、2−tert−ブチルジメチルシリルオキシ−4−フェニルブタンが286mg含まれていた。収率は10.8%であった
【0069】
(実施例9) エチル 3−tert−ブチルジメチルシリルオキシブチレートの合成
内部に磁気攪拌子を設置した50mlのナス型フラスコに、エチル 3−ヒドロキシブチレート(1.322g)、tert−ブチルジメチルフルオロシラン(2.013g)、酢酸リチウム(1.026g)、イミダゾール(1.057g)、n−ヘキサン(20ml)を投入し、ジムロート式冷却管を取り付けたのち、この混合物を8時間還流した。反応液を放冷後、水(20ml)、酢酸エチル(20ml)を加えて分液し、有機層をさらに水(10ml)で洗浄した。得られた有機層を減圧下で濃縮し、濃縮物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶離液:n−ヘキサン/酢酸エチル=20:1(体積比))にて精製し、エチル 3−tert−ブチルジメチルシリルオキシブチレート(272mg)を油状物質として得た。収率は11.0%であった。
【0070】
(実施例10) (R)−3−tert−ブチルジメチルシリルオキシ−1−フェニルチオブタンの合成
内部に磁気攪拌子を設置した50mlのナス型フラスコに、(R)−1−フェニルチオブタン−3−オール(911mg)、tert−ブチルジメチルフルオロシラン(741.1mg)、酢酸リチウム(380mg)、イミダゾール(393mg)、アイソパーG(10ml)を投入し、ジムロート式冷却管を取り付けたのち、この混合物を100℃のオイルバスで保温しながら8時間攪拌した。反応液を放冷後、水(10ml)、酢酸エチル(10ml)を加えて分液し、有機層をさらに水(5ml)で洗浄した。得られた有機層をHPLCにて定量分析したところ、(R)−3−tert−ブチルジメチルシリルオキシ−1−フェニルチオブタンが486mg含まれていた。収率は32.8%であった。
【0071】
(比較例1) 1−tert−ブチルジメチルシリルオキシ−2−フェニルエタンの合成
内部に磁気攪拌子を設置した50mlナス型フラスコに、β−フェネチルアルコール(612mg)、tert−ブチルジメチルフルオロシラン(743mg)、トリエチルアミン(586mg)、アイソパーG(10ml)を投入し、ジムロート式冷却管を取り付けたのち、この混合物を100℃のオイルバスで保温しながら4時間攪拌した。放冷後、反応液をHPLCにて分析したが、1−tert−ブチルジメチルシリルオキシ−2−フェニルエタンの生成は全く確認されなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(1):RSiF(式中、R、R及びRは、それぞれ独立して、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数3〜8のシクロアルキル基、炭素数2〜20のアルケニル基、炭素数2〜20のアルキニル基、置換基を有していてもよいアリール基又は置換基を有していてもよいヘテロアリール基を表す。)で示されるフルオロシラン化合物と、式(2):A−OH(式中、Aは有機基を表す。)で示されるヒドロキシ化合物とを、塩基性を有する複素環式化合物及びアルカリ金属の塩の存在下に反応させることを特徴とする、式(3):A−O−SiR(式中、R、R、R及びAは前記と同じ意味を表す。)で示されるシリル化合物の製造方法。
【請求項2】
前記塩基性を有する複素環式化合物として、イミダゾールを用いることを特徴とする請求項1に記載のシリル化合物の製造方法。
【請求項3】
前記塩基性を有する複素環式化合物の使用量が、前記ヒドロキシ化合物1モルに対して、1〜10モルであることを特徴とする請求項1又は2に記載のシリル化合物の製造方法。
【請求項4】
前記アルカリ金属の塩の使用量が、前記ヒドロキシ化合物1モルに対して、1〜5モルであることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のシリル化合物の製造方法。

【公開番号】特開2011−241232(P2011−241232A)
【公開日】平成23年12月1日(2011.12.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−196092(P2011−196092)
【出願日】平成23年9月8日(2011.9.8)
【分割の表示】特願2005−68481(P2005−68481)の分割
【原出願日】平成17年3月11日(2005.3.11)
【出願人】(000004307)日本曹達株式会社 (434)
【Fターム(参考)】