説明

シリンジ用ガスケットに摺動性被膜を形成する方法、摺動性被膜が形成されたシリンジ用ガスケット、及びプレフィルドシリンジ

【課題】シリンジ用外筒の内壁面と当接するガスケットの摺動部分に欠陥や塗りムラのない摺動性被膜を形成することにより、高い摺動性を備え、且つ摺動性のばらつきが小さいシリンジ用ガスケットを提供することを目的とする。
【解決手段】シリンジ用外筒とシリンジ用外筒内に摺動可能に挿入されるプランジャとを備える医療用シリンジにおいて、プランジャの先端に取り付けられるシリンジ用ガスケットの摺動部に摺動性被膜を形成する方法であって、シリンジ用ガスケットは環状外壁を有し、環状外壁には、シリンジ用外筒の内壁面と当接することによりシリンジ用外筒に収容された流体をシールするための環状リブが形成されており、環状外壁の環中心を回転軸として回転させながら、環状リブを被覆するように摺動性被膜を形成するための硬化性樹脂液を塗布する塗布工程と、塗布された硬化性樹脂液を硬化させる硬化工程と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医療用シリンジに用いられるガスケットに関し、詳しくはガスケットの、シリンジ用外筒の内壁面と当接する部分のみに摺動性の被膜を形成する方法、及び該方法により得られたシリンジ用ガスケットに関する。
【背景技術】
【0002】
医療現場において、予め、薬液をシリンジに充填して密閉した状態で取り引きされるプレフィルドシリンジが知られている。このようなプレフィルドシリンジは、医療従事者の作業工程を削減することにより作業効率を高めることや、容器からの移し替えによる医療過誤の発生を防ぐことを目的として、近年広く用いられている。このようなプレフィルドシリンジは、封止部材で封止された筒先を備えるシリンジ用外筒に薬液を充填し、シリンジ用外筒内に挿入されたプランジャにより薬液が密閉されて保存される。
【0003】
プレフィルドシリンジは、シリンジ用外筒内に挿入されたプランジャをシリンジポンプにより極低速条件下で移動させて薬液を吐出させるようにして用いられることがある。具体的には、例えば、1mL/時間で吐出させるような場合、直径約24mmのシリンジにおいては、プランジャの移動速度は約2mm/時間程度になる。このような場合においては、薬液を安定して吐出させるために、ガスケットに高い摺動性が求められる。
【0004】
従来の医療用シリンジにおいては、ガスケットの摺動性を高める技術として、シリンジ用外筒の内壁やガスケットにシリコーンオイル等の潤滑剤を塗布する方法が広く用いられている。ガスケット等に潤滑剤を塗布して摺動性を高める方法は、薬剤を長時間収納するプレフィルドシリンジにおいては、塗布された潤滑剤が薬剤に移行することにより、何らかの悪影響を及ぼす可能性があると指摘されている。具体的には、下記特許文献2には、注射剤の一つである、グリチルリチン酸モノアンモニウムがシリコーンオイルと接触することによって、不溶性異物が発生する場合があることが指摘されている。
【0005】
このような懸念を解消する技術として、下記特許文献1には、シリンジ用外筒に摺動可能に当接するガスケットであって、前記ガスケットのシリンジ用外筒と当接する部分に、フッ素系樹脂、シリコーン系樹脂及びウレタン系樹脂を含有する組成物からなる被膜を形成したガスケットが記載されている。このようなガスケットによれば、摺動面に潤滑剤を付与することなく安定した摺動性を付与することができると記載されている。
【0006】
また、下記特許文献2には、溶液型シリコーンゴムを主構成成分とし、かつ、カーボンナノチューブおよびシリコーン樹脂微粒子を含有しているコーティング用組成物を用いてガスケットの摺動部位に摺動性被膜を形成することが記載されている。このようなガスケットによれば、潤滑剤を用いることなく高い摺動性を有するガスケットが得られることが記載されている。
【0007】
上述した、特許文献1及び特許文献2に記載されたようなガスケット表面に摺動性被膜を形成するための樹脂液を塗布する方法としては、摺動性被膜を形成するためにガスケット表面に樹脂液を噴霧するスプレー法やガスケットを樹脂液に浸漬する浸漬法が用いられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2004−321614号公報
【特許文献2】特開2008−287号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
医療用シリンジにおいて、シリンジポンプを用いて極低速条件でプランジャを移動させて薬液を吐出させるような場合、プランジャが摩擦抵抗により移動しなくなりシリンジポンプが停止するというトラブルがまれに生じることが医療現場において知られていた。本発明者らは、このようなトラブルを根絶するために、このような現象の原因について鋭意検討した。その結果、スプレー法によりガスケットの摺動面全面に摺動性被膜を形成した場合、シリンジ用外筒の内壁面とガスケットとの当接する部分に形成される塗膜に、まれに、厚みのムラや塗膜の欠陥が生じていることに気付いた。
【0010】
このような塗膜の厚みのムラや塗膜の欠陥の発生を無くすために、ガスケットの摺動面に樹脂液を多量にスプレーすることにより膜厚を厚くして塗り残しを無くす場合、弾性を有するガスケットが変形するときに表面に厚い膜厚で形成された被膜がその変形に追従しにくくなり、被膜がひび割れて異物が発生したり、それにより密封性が低下したりするという問題が生じうる。また、樹脂液をスプレーした場合、ガスケットのみだけではなく、製造装置等の周辺にまで余分な樹脂液が広がって吹き付けられる。このような場合、製造装置を汚染して、汚染された製造装置によりガスケットが再汚染されてしまったり、高価な樹脂液を大量に無駄にしてしまうという問題があった。
【0011】
一方、浸漬法により塗布する場合には次のような懸念があった。浸漬法によりガスケットの摺動面に樹脂液を塗布した場合、溶剤が揮発して塗膜が硬化する際に、膜厚に厚みムラが生じるという問題があった。シリンジ用ガスケットには、通常、ガスケットをプランジャの雄ネジ部に取り付けるために対応する雌ネジ部が設けられており、ガスケットとプランジャとは雄ネジ部と雌ネジ部により螺合されている。浸漬法によれば、雌ネジ部に樹脂液を付着させずに摺動面だけに塗膜を形成することは困難である。そして、雌ネジ部に樹脂液が付着した場合、雌ネジ部の摩擦係数が低下してシリンジの使用中に螺合部が緩むことにより、ガスケットがプランジャから外れてしまうといった懸念があった。通常の使用においては、このような現象はほとんど起こりえないと思われるが、医療分野に用いられる医療用シリンジにおいては、より確実な安全性が求められる。
【0012】
本発明は、上述のような問題を解決すべく、シリンジ用ガスケットに摺動性被膜を形成する場合において、シリンジ用外筒の内壁面と当接するガスケットの摺動部分に欠陥や塗りムラのない摺動性被膜を形成することにより、高い摺動性を備え、且つ摺動性のばらつきが小さいシリンジ用ガスケットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明に係る一局面であるシリンジ用ガスケットの摺動部に摺動性被膜を形成する方法は、シリンジ用外筒とシリンジ用外筒内に摺動可能に挿入されるプランジャとを備える医療用シリンジのプランジャの先端に取り付けられるシリンジ用ガスケットの摺動部に摺動性被膜を形成する方法であって、シリンジ用ガスケットは環状外壁を有し、環状外壁には、その外周に沿って、シリンジ用外筒の内壁面と当接することによりシリンジ用外筒に収容された液体をシールするための少なくとも一つの環状リブが形成されており、環状外壁の環中心を回転軸としてシリンジ用ガスケットを回転させながら、環状リブを被覆するように摺動性被膜を形成するための硬化性樹脂液を塗布する塗布工程と、塗布された前記硬化性樹脂液を硬化させる硬化工程と、を備える。このような方法によりシリンジ用ガスケットの摺動部に摺動性被膜を形成した場合には、シリンジ用外筒の内壁面と当接する環状リブのみに確実に摺動性被膜を形成することができる。その結果、高い摺動性を備え、摺動性のばらつきの少ないシリンジ用ガスケットが得られる。また、このようなシリンジ用ガスケットを用いたシリンジは、精細かつ安定した吐出性能を発揮する。
【0014】
前記塗布工程は、環状外壁の環中心を回転軸としてシリンジ用ガスケットを1回転、好ましくは2回転以上回転させて、環状リブを被覆するように硬化性樹脂液を塗布する工程であることが好ましい。このようにして塗布した場合には、摺動部分である環状リブに、塗り残しのない摺動性被膜を形成することができる。
【0015】
前記塗布工程は、環状外壁の環中心を回転軸としてシリンジ用ガスケットを回転させながら、環状リブのみを被覆するようにディスペンサを用いて硬化性樹脂液を塗布する工程であることが好ましい。このような方法によれば、より簡便かつ定量的に硬化性樹脂液を塗布することができる。
【0016】
また、硬化性樹脂液は紫外光硬化型樹脂等の光硬化型樹脂を含有することが、硬化時間が短い点、熱硬化させた場合にシリンジ用ガスケットの全体が熱劣化することを抑制できる点、及び、簡単な装置構成で硬化を進行させることができる点から好ましい。
【0017】
また、光硬化型樹脂を含有する硬化性樹脂液を用いる場合には、硬化工程が、前記シリンジ用ガスケットを回転させながら、光硬化型樹脂を硬化させうる波長の光を前記硬化性樹脂液が塗布された部分に局所的に照射することにより前記光硬化型樹脂を硬化させる工程を備えることが好ましい。このような場合には、環状リブのみに硬化性樹脂液を塗布して、光硬化型樹脂を硬化させうる波長の光を照射して硬化させるために、シリンジ用ガスケット本体が光劣化することを抑制することができる。それにより、ガスケットの光劣化により生じる恐れのある、低分子成分の発生を抑制できる。また、塗布工程と硬化工程を同時に行うことができるために、生産性に優れる点から好ましい。なお、この場合においては、集光レンズにより集光された光を照射する場合には、局所的に正確な光の照射ができる点から好ましい。
【0018】
また、前記硬化性樹脂液は顔料や染料等の着色剤や、蛍光性物質等のマーカーを含有し、塗布された硬化性樹脂液又は形成された摺動性被膜の状態をマーカーによる発色や発光を目印として観察しやすくすることにより、厚みムラを検査する検査工程をさらに備えることが好ましい。このようなマーカーを用いた検査工程を備えることにより、塗膜の欠陥や厚みのバラつきによる厚みムラが存在しないことを確認することができる。なお、光硬化型樹脂を含有する硬化性樹脂液に蛍光性物質を含有させた場合には、蛍光性物質を励起させるための光の波長と、前記硬化性樹脂液に含有される硬化性樹脂を硬化させる光の波長を合わせることにより、硬化と検査を同時に行うことができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明の方法によりシリンジ用ガスケットの摺動部に摺動性被膜を形成した場合には、シリンジ用外筒の内壁面と当接する環状リブに確実に摺動性被膜を形成することができる。その結果、摺動性のばらつきが少なく、高い摺動性を備えるシリンジ用ガスケットが得られる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】図1は、本実施形態における、摺動部に摺動性被膜が形成されたシリンジ用ガスケット1の正面図である。
【図2】図2は、本実施形態における、シリンジ用ガスケット1の断面図である。
【図3】図3は、本実施形態における、シリンジ用ガスケット1の上面図である。
【図4】図4は、本実施形態における、シリンジ用ガスケット1の底面図である。
【図5】図5は、本実施形態における、プレフィルドシリンジ25の断面図である。
【図6】図6は、本実施形態における、回転塗布装置30を説明するための説明図である。
【図7】図7は、回転塗布装置30による塗装の様子を説明するための説明図である。
【図8】図8は、実施例における、摺動部に摺動性被膜が形成されたシリンジ用ガスケット1'の正面図である。
【図9】図9は、シリンジ用ガスケット1'の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明に係る摺動部に摺動性被膜が形成されたシリンジ用ガスケット1の一実施形態を図1〜図5を参照して説明する。図1は、シリンジ用ガスケット1の正面図、図2は、シリンジ用ガスケット1の縦断面図、図3は、シリンジ用ガスケット1の上面図、図4は、シリンジ用ガスケット1の底面図、図5は、シリンジ用ガスケット1を備えるプレフィルドシリンジ25の断面図を示す。
【0022】
シリンジ用ガスケット1は、図5に示すように、筒先部15を備えるシリンジ用外筒11とシリンジ用外筒11内に摺動可能に挿入されたプランジャ17とを備えるプレフィルドシリンジ25において好ましく用いられる。シリンジ用ガスケット1は、プランジャ17の先端に取り付けられてシリンジ用外筒11の薬液収納部19の内部に収容される薬液26を液密にシールして、かつ、摺動可能に収納するガスケットであり、摺動部である環状リブ7a,7bに摺動性被膜3が形成されたものである。
【0023】
図1〜図4に示すように、シリンジ用ガスケット1は、弾性材料の成形体であるガスケット本体部5と、ガスケット本体部5の摩擦係数よりも低い摩擦係数を有する材料からなる摺動性被膜3とを備える。摺動性被膜3は、ガスケット本体部5の摺動部である環状リブ7a,7bに形成されている。
【0024】
図2に示すように、ガスケット本体部5は、ほぼ同一外径に延びる環状外壁2と、環状外壁2の先端側に設けられてテーパー状に縮径するテーパー部6と、環状外壁2の後端底面から先端側に向かってその内部に凹部として設けられたプランジャ取付部4と、環状外壁2の外周に沿って、先端部側に環状に設けられた先端側環状リブ7aと、後端部側に設けられた後端側環状リブ7bとを備えている。そして、シリンジ用ガスケット1においては、環状リブ7a,7bのみを被覆するように摺動性被膜3が形成されている。
【0025】
ガスケット本体部5は、弾性材料を成形して得られる。弾性材料の具体例としては、例えば、天然ゴム,イソプレンゴム,ブチルゴム,クロロプレンゴム,ニトリル−ブタジエンゴム,スチレン−ブタジエンゴム,シリコーンゴム等の各種ゴム材料;スチレン系エラストマー,水添スチレン系エラストマー,ポリ塩化ビニル系エラストマー,オレフィン系エラストマー,ポリエステル系エラストマー,ポリアミド系エラストマー,ポリウレタン系エラストマー等の各種エラストマー材料が挙げられる。また、これらの弾性材料には、摺動性や機械的特性を調整するために、必要に応じて、流動パラフィン,プロセスオイル等のオイルや、タルク,マイカ等の無機フィラー等が配合されてもよい。これらの弾性材料は単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0026】
ガスケット本体部5に設けられた環状リブ7a,7bは、シリンジ用外筒11の内径よりも若干大きく作製されており、シリンジ用外筒11内で圧縮変形することにより、シリンジ用外筒11の内壁と密着状態を維持して当接する。それにより、シリンジ用外筒11に収容される薬液を液密にシールすることができる。なお、本実施形態のシリンジ用ガスケット1においては、環状リブは2つ設けられているが、1つでも、3つ以上でもよく、とくに限定されない。
【0027】
ガスケット本体部5に設けられたプランジャ取付部4は、図2及び図4に示すように、環状外壁2の内側であってシリンジ用ガスケット1の後端底面から先端部付近まで延びる略円柱状の凹部として形成されており、凹部側面には雌ネジ部8が設けられている。雌ネジ部8は、図5に示すように、プランジャ17の先端部に形成される雄ネジ部21と螺合可能になるように形成されている。なお、プランジャ取付部4は、螺合手段に限定されず、プランジャの先端部と係合する係合手段等であってもよい。
【0028】
環状リブ7a,7bのみを被覆するように形成される摺動性被膜3は高い摺動性を示す樹脂被膜により形成される。このような樹脂被膜の具体例については後に詳しく説明する。
【0029】
次に、ガスケット本体部5の環状リブ7a,7bを被覆するように摺動性被膜3を形成する方法について詳しく説明する。
【0030】
図6及び図7は本実施形態の摺動性被膜を形成する方法に用いられる回転塗布装置30を説明するための模式説明図であり、図6は回転塗布装置30の全体構成を示し、図7は回転塗布装置30に備えられたディスペンサ33によりガスケット本体部5の環状リブ7bに硬化性塗布液35を塗布している様子を模式的に説明している。
【0031】
回転塗布装置30は、テーブル31と、テーブル31上にモータ32aの軸32bを介して支持された保持回転部32、ディスペンサ33、及びエネルギー線照射部34を備える。ディスペンサ33は、図7に示すように、その供給ノズル33aが保持回転部32の回転軸32bと直行するような位置関係で配置されている。また、エネルギー線照射部34は、エネルギー線照射部34が放射するエネルギーの照射方向が保持回転部32の回転軸と直行するような位置関係で配置されている。
【0032】
保持回転部32は、ガスケット本体部5を固定し、ガスケット本体部5の環状外壁2の環中心を回転軸として、図略の回転制御手段により回転制御されるモータ32aにより、所定の回転数に制御されて一方向に回転する。
【0033】
ディスペンサ33は、硬化性樹脂液35を貯蔵し、先端の供給ノズル33aから硬化性樹脂液35を定量吐出する。
【0034】
エネルギー線照射部34は、硬化性樹脂液35の種類に応じて、硬化性樹脂液35を硬化させるための紫外光、赤外線、電子線等のエネルギー線を照射する。図6においては、紫外線光源装置34aから発光された紫外光を光ファイバー34bを通じて伝送して紫外光を照射する紫外光照射部が一例として示されている。
【0035】
本実施形態においては、はじめに、保持回転部32にガスケット本体部5を固定する。保持回転部32へのガスケット本体部5の固定は、例えば、保持回転部32に、ガスケット本体部5のプランジャ取付部4の凹部が嵌合するようなコア部を設け、該コア部にその凹部を嵌合させることにより固定することができる。
【0036】
次に、ディスペンサ33に硬化性樹脂液35を供給する。そして、ディスペンサ33を移動させて、図7に示すように、保持回転部32に固定されたガスケット本体部5の環状リブ7b(または7a)がディスペンサ33の供給ノズル33a先端の直下部に位置するように位置合わせする。供給ノズル33aの先端と環状リブ7b(または7a)との距離はとくに限定されないが、通常0.5〜10mm程度であることが好ましい。同様に、エネルギー線照射部34を移動させることにより、保持回転部32に固定されたガスケット本体部5の環状リブ7b(または7a)がエネルギー線照射部34に対向するように位置合わせする。エネルギー線照射部34と環状リブ7b(または7a)との距離は、塗布された硬化性樹脂液35の硬化が充分に進行しうる程度のエネルギー線が照射される限りとくに限定されない。
【0037】
そして、保持回転部32を所定の回転数で一方向に回転させる。保持回転部32の回転数はガスケット本体部5の環状外壁2の直径等により適宜選択されるためにとくに限定されないが、塗布スピードが5〜40rpm程度になるような回転数に調整することが好ましい。
【0038】
そして、回転しているガスケット本体部5の環状リブ7b(または7a)の表面近傍にディスペンサ33の供給ノズル33aから硬化性樹脂液35を連続的に吐出することにより、環状リブ7b(または7a)を被覆するように局所的に硬化性樹脂液35を塗布する。
【0039】
なお、塗布に際しては、ガスケット本体部5を少なくとも1回転させて、環状リブ7b(または7a)を被覆するように硬化性樹脂液35を塗布する工程であることが好ましい。このようにして塗布した場合には、摺動部分である環状リブ7b(または7a)に対して、確実に塗り残しのない摺動性被膜を形成することができる。
【0040】
なお、本実施形態においては、1つのディスペンサ33を用いて環状リブ7b(または7a)への硬化性樹脂液35の塗布について説明したが、2つ以上のディスペンサを用いて、環状リブ7a及び7bのように複数の環状リブに対してそれぞれに塗布してもよい。このような場合には、複数の環状リブに対する硬化性樹脂液の塗布を一度に行うことができるために、生産性に優れる点からより好ましい。
【0041】
次に、塗布された硬化性樹脂液を硬化させる硬化工程について詳しく説明する。
【0042】
塗布された硬化性樹脂液を硬化させるための具体的な方法としては、硬化性樹脂液35が紫外光(UV)硬化性樹脂のような光硬化性樹脂の場合には、紫外光を照射することにより硬化させて摺動性被膜3を形成する方法が挙げられる。また、硬化性樹脂液35が熱硬化性樹脂の場合には、硬化性樹脂液35が塗布されたガスケット本体部5をオーブン等に入れ、加熱することにより硬化させて摺動性被膜を形成する。なお、硬化性樹脂液35が溶剤を含有する場合には、予め、溶剤を除去するための加熱処理工程を設けることが好ましい。
【0043】
硬化工程においては、上述したようなエネルギー線照射部34を備えた回転塗布装置30を用いて、ガスケット本体部5を回転させながらエネルギー線照射部34から硬化性樹脂液35の硬化を進行させるのに充分なエネルギー線を照射するような方法がとくに好ましい。具体的には、硬化性樹脂液35が紫外光硬化性樹脂を含有する場合には紫外光を、電子線硬化性樹脂を含有する場合には電子線を、熱硬化性樹脂を含有する場合には赤外線を照射する。このようにしてガスケット本体部5の環状リブ7b(または7a)を被覆するように局所的に塗布された硬化性樹脂液35を硬化させることにより、シリンジ用ガスケットの摺動面である環状リブ7b(または7a)の表面近傍のみに局所的に摺動性被膜3を形成することができる。
【0044】
なお、エネルギー線照射部34により光を照射する場合には、集光レンズ等により集光された光を照射することがより好ましい。このように、集光レンズで光を集光することにより、より正確に照射位置を制御することができる。
【0045】
また、エネルギー線照射部34による環状リブ7b(または7a)へのエネルギー線の照射は、2つ以上のエネルギー線照射部を用いて塗布することが、より高いエネルギー線を照射できるために生産性にすぐれ、また、照射を正確に行うことができる点からより好ましい。また、2つ以上のエネルギー線照射部を用いて、環状リブ7a及び7bのように複数の環状リブに対して塗布された硬化性樹脂液のそれぞれに同時に局所的にエネルギー線を照射する場合には、複数の環状リブに塗布された硬化性樹脂液の硬化を一度に行うことができるために、生産性に優れる点からより好ましい。
【0046】
なお、硬化性樹脂液として、紫外光硬化性樹脂のような光硬化型樹脂を含有する樹脂液を用いた場合には、必要に応じて、光硬化後に、硬化を終結させるための熱処理を行うポストキュアを行ってもよい。熱処理条件としては、100〜200℃で、10分間〜2時間の範囲で行うことが好ましい。
【0047】
摺動性被膜3の厚さは、0.5〜10μm、さらには、1〜7μmであることが好ましい。
【0048】
次に、摺動性被膜3を形成するための硬化性樹脂液35について詳しく説明する。
【0049】
硬化性樹脂液35としては、硬化したときに高い摺動性を示す、液状の紫外線(UV)硬化型樹脂や熱硬化型樹脂等の硬化性樹脂がとくに限定なく用いられる。その具体例としては、例えば、紫外光硬化型ウレタンアクリレート等の硬化性ウレタンアクリレート、アルコキシシロキサン等の硬化性シリコーン化合物、コロイダルシリカ含有UV硬化型アクリル樹脂等が挙げられる。
【0050】
UV硬化型ウレタンアクリレートは、ポリオールとジイソシアネートとを反応させて得られるイソシアネート化合物と、水酸基を有するアクリレートモノマーとの反応生成物である。
【0051】
ポリオールの具体例としては、例えば、ポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール、ポリカーボネートジオール等が挙げられる。
【0052】
ジイソシアネートとしては、直鎖式あるいは環式の脂肪族ジイソシアネートまたは芳香族ジイソシアネートが挙げられる。直鎖式あるいは環式の脂肪族ジイソシアネートの具体例としては、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、水添トリレンジイソシアネート、水添キシリレンジイソシアネートがあげられる。芳香族ジイソシアネートの具体例としては、トリレンジイソシアネート、キリレンジイソシアネートなどが挙げられる。
【0053】
水酸基を有するアクリレートモノマーの具体例としては、例えば、2−ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシプロピルアクリレート、2−ヒドロキシブチルアクリレート、3−ヒドロキシブチルアクリレート、ポリエチレングリコールモノアクリレートが挙げられる。
【0054】
UV硬化型ウレタンアクリレートには、必要に応じて、光重合開始剤等が添加される。
【0055】
光重合開始剤の具体例としては、例えば、ベンゾイン,ベンゾインメチルエーテル,ベンゾインエチルエーテル,ベンゾインイソプロピルエーテル等のベンゾイン又はベンゾインアルキルエーテル類;ベンゾフェノン,ベンゾイル安息香酸等の芳香族ケトン類;ベンジル等のアルファ−ジカルボニル類;ベンジルジメチルケタール,ベンジルジエチルケタール等のベンジルケタール類;アセトフェノン,1−[4−ドデシルフェニル)−2−ヒドロキシ−2−メチルプロパン−1−オン,1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン,2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニル−1−プロパン−1−オン,1−[4−イソプロピルフェニル)−2−ヒドロキシ−2−メチル−プロパン−1−オン,2−メチル−1−〔4−(メチルチオ)フェニル〕−2−モルホリノプロパノン−1等のアセトフェノン類;2−メチルアントラキノン,2−エチルアントラキノン,2−t−ブチルアントラキノン等のアントラキノン類;2、4−ジメチルチオキサントン,2−イソプロピルチオキサントン,2、4−ジイソプロピルチオキサントン等のチオキサントン類;2、4、6−トリメチルベンゾイル−ジフェニルフォスフィンオキサイド等のフォスヒンオキサイド類;1−フェニル−1、2−プロパンジオン−2−(o−エトキシカルボニル)オキシム等のアルファ−アシルオキシム類;p−ジメチルアミノ安息香酸エチル,p−ジメチルアミノ安息香酸イソアミル等のアミン類等が挙げられる。
【0056】
また、UV硬化型ウレタンアクリレートには、必要に応じて、耐摩耗性や摺動性を向上させるために、シリコーン系化合物やフッ素系化合物をさらに添加してもよい。また、コロイダルシリカを含有するような光硬化性の樹脂溶液、具体的には、コロイダルシリカを10〜20質量%含有する光硬化性アクリル樹脂溶液である、モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン製のシリコンハードコート UVHC1101やUVHC1105等をさらに添加してもよい。
【0057】
アルコキシシロキサンは、Si−O結合(シロキサン結合)を骨格として、アルコキシ基を有するものである。アルコキシシロキサンは、空気中の水分によって硬化反応する。アルコキシシロキサンは、比較的低分子量のものからオリゴマーまたはポリマーのような分子量のものまであるが、いずれの分子量のものでもよい。
【0058】
アルコキシシロキサンの具体例としては、市販品として、信越化学工業(株)製のアルコキシオリゴマーである商品名 X-40-2651,X-40-9246,X-40-9225,X-41-1056,X-41-1810,KC89,KR500, KR213,KR9218等や、モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン製のHS‐4等が挙げられる。
【0059】
アルコキシシロキサンには、必要に応じて、金属触媒、密着性向上剤等の添加剤等が添加される。
【0060】
金属触媒の具体例としては、アルミニウム系触媒である信越化学工業(株)製のDX-9740や、チタン系触媒である信越化学工業(株)製のD-20等が挙げられる。また、密着性向上剤の具体例としては、モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン製のXS9603等が挙げられる。
【0061】
上述した硬化性樹脂液は、粘度を調整するために必要に応じて有機溶剤によって希釈または溶解して用いてもよい。有機溶剤の具体例としては、例えばメタノール,エタノール,プロパノール,ブタノールなどのアルコール;ヘキサン,ヘプタン,シクロヘキサンなどの脂肪族炭化水素;トルエン,キシレンなどの芳香族炭化水素;メチルエチルケトン,2−ぺンタノン,イソホロンなどのケトン;酢酸エチル,酢酸ブチル,酢酸メトキシプロピルなどのエステル;エチルセロソルブなどのセロソルブ系溶剤;メトキシプロパノール,エトキシプロパノール,メトキシブタノールなどのグリコール系溶剤;デカメチルシクロペンタシロキサン,テトラキストリメチルシロキシシラン等のシロキサン系溶剤等が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0062】
なお、本実施形態のシリンジ用ガスケットに摺動性被膜を形成する方法においては、硬化性樹脂液に蛍光性物質や着色剤等のマーカー成分を含有させ、塗布された硬化性樹脂液又は形成された摺動性被膜の発光や発色を観察することにより、塗布むらの有無を確認することができる。
【0063】
硬化性樹脂液に蛍光性物質を配合した場合には、塗布された硬化性樹脂液又は形成された摺動性被膜に紫外光等の蛍光性物質を励起するための光を照射して蛍光性物質の発光状態を観察することにより、発光強度の違いにより塗布むらの有無を確認することができる。なお、光硬化型樹脂を含有する硬化性樹脂液に蛍光性物質を含有させた場合には、蛍光性物質を励起させるための光の波長と、前記硬化性樹脂液に含有される硬化性樹脂を硬化させる光の波長を合わせることにより、硬化と検査を同時に行うことができる。
【0064】
また、硬化性樹脂液に着色剤を配合した場合には、塗布された硬化性樹脂液又は形成された摺動性被膜の発色状態を観察することにより、色の濃淡の違いによる塗布むらの有無を確認することができる。なお、この場合においては、着色剤は、ガスケット本体部の色に対する反対色や対称色のように、ガスケット本体部に対する着色剤の色が際立つような色を有するものが好ましい。このような場合には、色の濃淡の違いがより明確になるために塗布むらの有無が判定しやすくなる。
【0065】
硬化性樹脂液に配合される蛍光性物質の具体例としては、例えば、SrGa24:Eu,BaMgAl1017:Eu,LiEuWO8等が挙げられる。このような蛍光性物質が配合されて塗布された硬化性樹脂液又は形成された摺動性被膜に蛍光性物質を励起させて蛍光発光させる波長の紫外光を照射することにより、欠陥部分が存在する部分の発光強度が低くなることにより、厚みむらが生じた膜厚が薄い部分や、摺動性被膜の塗りむらが検出できる。
【0066】
また、硬化性樹脂液に配合される着色剤としては、ガスケット本体部の色に対する反対色や対称色を有するような、各種有機染料や有機顔料、無機染料や無機顔料が好ましく用いられる。
【0067】
次に、シリンジ用ガスケット1を備えるプレフィルドシリンジの一例を図5を参照して詳しく説明する。
【0068】
図5はプレフィルドシリンジ25の断面図を示す。プレフィルドシリンジ25は、先端が開口した筒先部15を備えるシリンジ用外筒11とシリンジ用外筒11に摺動可能に挿入されたプランジャ17とを備える。そして、プランジャ17の先端には、シリンジ用ガスケット1が取り付けられている。筒先部15には注射針取付部14が設けられている。シリンジ用外筒11の後端部にはフランジ16が設けられており、また、シリンジ用外筒11の筒先部15は取り外し自在の封止部材18で封止されている。
【0069】
シリンジ用外筒11は、透明もしくは半透明材料により形成されている。好ましくは、酸素透過性、水蒸気透過性の少ない材料により形成されている。シリンジ用外筒11の形成材料の具体例としては、例えば、ポリプロピレン,ポリエチレン,ポリ(4−メチルペンテン−1),環状ポリオレフィン等のポリオレフィン;ポリエチレンテレフタレート,ポリエチレンナフタレート,非晶性ポリアリレート等のポリエステル;ポリスチレン、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリ塩化ビニル、アクリル樹脂、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体、非晶性ポリエーテルイミド等が挙げられる。これらの中では、ポリプロピレン、ポリ(4−メチルペンテン−1)、環状ポリオレフィン、ポリエチレンナフタレート、及び非晶性ポリエーテルイミドが透明性、蒸気圧殺菌性の点で好ましい。
【0070】
プランジャ17は、図5に示すように軸方向に延びるプランジャ本体部20と、シリンジ用ガスケット1のプランジャ取付部4の雌ネジ部8と螺合する先端部に設けられた雄ネジ部21と、プランジャ本体部20の後端に設けられた押圧用の円盤部22と、プランジャ本体部20の途中に設けられた図略のリブを備えている。
【0071】
そして、筒先部15を封止部材18で封止したシリンジ用外筒11内に薬液26を充填する。そして、減圧雰囲気下でシリンジ用ガスケット1をシリンジ用外筒11の開口部に配置し、その後、常圧状態にすることによりシリンジ用ガスケット1をシリンジ用外筒11の内壁面13に当接するように挿入する。そして、シリンジ用ガスケット1にプランジャ17を装着することにより、薬液26が収納されたプレフィルドシリンジ25が得られる。
【0072】
プレフィルドシリンジ25においては、シリンジ用外筒11の内壁面13とシリンジ用ガスケット1に設けられた先端側環状リブ7a及び後端側環状リブ7bとが当接することによりシリンジ用外筒11に収容された流体である薬液26が液密にシールされている。
【0073】
シリンジ用ガスケット1の摺動部である先端側環状リブ7a及び後端側環状リブ7bは、欠陥や厚みムラがない摺動性被膜3により被覆されている。そのためにプレフィルドシリンジ25は、摺動性のばらつきが少なく、シリンジポンプを用いて極低速条件でプランジャを移動させて薬液を吐出させるような場合において、プランジャが摩擦抵抗により移動しなくなりシリンジポンプが停止するというトラブルを抑制することができる。
【0074】
本発明のシリンジ用ガスケット1は医療用のプレフィルドシリンジや使い捨てシリンジにとくに限定なく用いられる。
【実施例】
【0075】
本発明を実施例によりさらに具体的に説明する。なお、本発明の範囲は実施例に何ら限定されるものではない。
【0076】
[実施例1]
(シリンジ用ガスケットの本体部の製造)
クロロブチルゴムを主成分とするブチルゴム組成物を用いて、図8及び図9に示すような形状のシリンジ用ガスケットの本体部5'を作製した。具体的には、シリンジ用ガスケットを成形するための金型内でブチルゴム組成物をプレス成形し、加硫した。得られたシリンジ用ガスケットの本体部5'の形状は、環状外壁の外径19.6mm、環状外壁の高さ10.5mm、環状外壁上端からテーパー部6先端までの高さ3.5mm、先端側及び後端側環状リブ部分7a,7bでの外径20.5mm、先端側環状リブ7a中央から後端側環状リブ7b中央までの長さ7mm、内側に係合部を有するプランジャ取付用凹部の深さ5mm、プランジャ取付用凹部の先端側での内径16mm、及び後端側での内径13mmであった。
【0077】
(硬化性樹脂液の調整)
表1の組成に従って、UV硬化型ウレタンアクリレートオリゴマー(日本合成化学工業(株)製)23.1部(質量部、以下同様)、コロイダルシリカを10〜20質量%含有するUV硬化型アクリル樹脂溶液(モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン製のシリコンハードコート UVHC1101)76.9部、エタノール(和光純薬工業(株)製のエタノール99.5(試薬特級))307.7部を混合して硬化性樹脂液を調製した。
【0078】
(硬化性樹脂液の塗布及び硬化)
図6に示したような回転塗布装置30の保持回転部32にガスケット本体部5'を固定した。なお、回転塗布装置30は武蔵エンジニアリング(株)製のサークルマスター CCM−3Tを改造して製造した。なお、ディスペンサとしては、非接触・エア駆動ジェットディスペンサー エアロジェット(武蔵エンジニアリング株式会社)を用いた。回転塗布装置30のテーブル31上に固定された紫外光照射部(エネルギー線照射部)34としては、紫外光発光装置34a((株)HOYA CANDEO OPTRONICS(株)製のEXECURE 4000)から発光される245nm,313nm,365nm,405nm,436nmの波長光を光ファイバー34bにより伝送して照射する装置を用いた。また、紫外線保持回転部32には、ガスケット本体部5'のプランジャ取付用凹部が嵌合するようなコア部が設けられており、コア部にプランジャ取付用凹部を嵌合させることにより固定した。そして、ディスペンサ33に、硬化性樹脂液を供給した。
【0079】
そして、ディスペンサ33の供給ノズル33aが保持回転部32の回転軸と直行し、供給ノズル33aの先端とガスケット本体部5'の先端側環状リブとの距離が約3mmになるように位置調整した。
【0080】
そして、保持回転部32を回転数20rpmで回転させ、回転させながら、ディスペンサ33の供給ノズル33aから硬化性樹脂液を9.3mg/周の量で吐出した。そして、環状リブ7bに対して2周分塗布した。そして、塗布後室温で5分間放置することによりエタノールを揮発除去させた。
【0081】
次に、保持回転部32を回転数20rpmで回転させ、紫外光照射部(エネルギー線照射部)34を位置合わせした後、環状リブ7bに向けて60秒間紫外光照射することにより、環状リブ7b表面を被覆する硬化性樹脂を硬化させ、摺動性被膜を形成した。同様にして、環状リブ7aに対しても摺動性被膜を形成した。形成された摺動性被膜の厚さは、約5μmであった。
【0082】
(摺動抵抗の評価)
作製されたシリンジ用ガスケット1'の摺動抵抗値を測定した。具体的には、長さ93mm、内径19.7mmのシリンジ用外筒を有する市販のシリンジ(テルモ(株)製)の、プランジャ先端の既製のガスケットを作製されたシリンジ用ガスケット1'に置き換えた。そして、シリンジ用外筒の内壁面にシリコーンオイルSH200 12,500cs(東レ・ダウコーニング株式会社)を塗布した。そして、シリンジ用外筒に所定の標線までプランジャを挿入し、所定の標線から0.5mm/分の押込速度でプランジャを押し込んだときの摺動抵抗をストログラフ(V1−C、東洋精機製作所製)により測定した。なお、摺動抵抗の測定は同様にして製造されたサンプル3個(No.1〜No.3)について行った。そして、3個のサンプル(No.1〜No.3)の平均摺動抵抗値、及び標準偏差を求めた。結果を表1に示す。
【0083】
[実施例2]
以下のように調製した硬化性樹脂液を用いた以外は実施例1と同様にして、環状リブ7a,7bに摺動性被膜を形成し、摺動抵抗の評価を行った。
【0084】
(硬化性樹脂液の調整)
表1の組成に従って、UV硬化型ウレタンアクリレートオリゴマー(日本合成化学工業)100部、光重合開始剤(2、4、6−トリメチルベンゾイル−ジフェニルフォスフィンオキサイド)7.7部、エタノール200部を混合して硬化性樹脂液を調製した。結果を表1に示す。
【0085】
[実施例3]
(硬化性樹脂液の調整)
表1の組成に従って、熱硬化型アルコキシシロキサン(信越化学工業(株)製のシリコーンアルコキシオリゴマー X-40-2651)100部、アルミニウム系触媒(信越化学工業(株)製のDX-9740)20部、溶剤としてデカメチルシクロペンタシロキサン5000部を混合して硬化性樹脂液を調製した。
(硬化性樹脂液の塗布及び硬化)
実施例1と同様にして、環状リブ7a,7bに対して硬化性樹脂液を塗布した。そして、塗布後室温で約1.5時間放置することによりデカメチルシクロペンタシロキサンを揮発除去させた。そして、シリンジ用ガスケットを150℃に設定したオーブンに入れ、1時間熱処理することにより硬化性樹脂を硬化させ、摺動性被膜を形成し、摺動抵抗の評価を行った。形成された摺動性被膜の厚さは、約5μmであった。結果を表1に示す。
【0086】
[実施例4]
以下のように調製した硬化性樹脂液を用いた以外は実施例3と同様にして、環状リブ7a,7bに摺動性被膜を形成し、摺動抵抗の評価を行った。形成された摺動性被膜の厚さは、約5μmであった。結果を表1に示す。
【0087】
(硬化性樹脂液の調整)
表1の組成に従って、熱硬化型アルコキシシロキサン(モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン製のHS‐4)100部、エポキシ変性シリコーン及びシランカップリング剤の30%イソプロピルアルコール溶液(モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン製のXC9603)50部、チタン系触媒(信越化学工業(株)製のD-20)20部、溶剤としてデカメチルシクロペンタシロキサン5000部を混合して硬化性樹脂液を調製した。
【0088】
[実施例5]
以下のように調製した硬化性樹脂液を用いた以外は実施例3と同様にして、環状リブ7a,7bに摺動性被膜を形成し、摺動抵抗の評価を行った。形成された摺動性被膜の厚さは、約5μmであった。結果を表1に示す。
【0089】
(硬化性樹脂液の調整)
表1の組成に従って、熱硬化型アルコキシシロキサン(信越化学工業(株)製のシリコーンアルコキシオリゴマー X-40-9246)100部、アミノシリコーンエマルジョン(東レダウコーニング(株)製のSM8709)100部、アルミニウム系触媒(信越化学工業(株)製のDX-9740)20部、溶剤としてデカメチルシクロペンタシロキサン5000部を混合して硬化性樹脂液を調製した。
【0090】
[比較例1〜2]
それぞれ実施例1〜2と同様の硬化性樹脂液を用いて、シリンジ用ガスケットの本体部表面全面に、約5μmの摺動性被膜が形成されるようにスプレー法を用いて塗装し、紫外光硬化させた以外は実施例1〜2と同様にして環状リブ7a,7bに摺動性被膜を形成し、摺動抵抗の評価を行った。結果を表1に示す。
【0091】
[比較例3〜5]
それぞれ実施例3〜5と同様の硬化性樹脂液を用いて、シリンジ用ガスケットの本体部表面全面に、厚み約5μmの摺動性被膜が形成されるようにスプレー法を用いて塗装し、熱硬化させた以外は実施例3〜5と同様にして環状リブ7a,7bに摺動性被膜を形成し、摺動抵抗の評価を行った。結果を表1に示す。
【0092】
[実施例6及び比較例6]
硬化性樹脂液中に蛍光性物質であるSrGa2S4:Eu 0.1部配合した以外は、それぞれ実施例2又は比較例2と同様にして、環状リブ7a,7bに摺動性被膜を形成し、摺動抵抗の評価を行った。結果を表1に示す。
【0093】
【表1】

【0094】
実施例1〜6で得られたシリンジ用ガスケットの平均摺動抵抗値は、比較例1〜6で得られたシリンジ用ガスケットの平均摺動抵抗値に比べて、いずれも低かった。また、標準偏差が低く摺動抵抗値のばらつきが小さかった。このことから、本発明に係る製造方法により得られたシリンジ用ガスケットは、高い摺動性を備え、且つ摺動性のばらつきが小さいことがわかる。
【0095】
また、実施例6で得られたシリンジ用ガスケットのサンプル全ての環状リブ7a,7b付近に400nmの波長の紫外光を照射したところ、いずれのサンプルにおいてもシリンジ用ガスケットの環状リブ7a,7bから均質な発光が確認された。これにより、実施例6で形成された摺動性被膜に欠陥や厚みムラがないことが確認された。一方、比較例6で得られたシリンジ用ガスケットのサンプル全ての環状リブ7a,7b付近に400nmの波長の紫外光を照射したところ、50個中3個のサンプルにおいて、発光強度が低い部分が目視で観察された。これにより、形成された摺動性被膜に欠陥や厚みムラがまれに起こっていることが確認された。
【符号の説明】
【0096】
1,1' シリンジ用ガスケット
2 環状外壁
3 摺動性被膜
4、4' プランジャ取付部
5、5' ガスケット本体部
6 テーパー部
7a 先端側環状リブ
7b 後端側環状リブ
11 シリンジ用外筒
17 プランジャ
25 プレフィルドシリンジ
30 回転塗布装置
31 テーブル
32 保持回転部
32a モータ
32b 軸
33 ディスペンサ
33a 供給ノズル
34 エネルギー線照射部(紫外光照射部)
34a 紫外光発光装置
34b 光ファイバー
35 硬化性樹脂液

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリンジ用外筒と前記シリンジ用外筒内に摺動可能に挿入されるプランジャとを備える医療用シリンジにおいて、前記プランジャの先端に取り付けられるシリンジ用ガスケットの摺動部に摺動性被膜を形成する方法であって、
前記シリンジ用ガスケットは環状外壁を有し、
前記環状外壁には、その外周に沿って、前記シリンジ用外筒の内壁面と当接することにより前記シリンジ用外筒に収容された流体をシールするための少なくとも一つの環状リブが形成されており、
前記環状外壁の環中心を回転軸として前記シリンジ用ガスケットを回転させながら、前記環状リブを被覆するように摺動性被膜を形成するための硬化性樹脂液を塗布する塗布工程と、
塗布された前記硬化性樹脂液を硬化させる硬化工程と、を備えることを特徴とするシリンジ用ガスケットの摺動部に摺動性被膜を形成する方法。
【請求項2】
前記塗布工程が、前記環状外壁の環中心を回転軸として前記シリンジ用ガスケットを回転させながら、前記環状リブのみを被覆するようにディスペンサを用いて前記硬化性樹脂液を塗布する工程である請求項1に記載のシリンジ用ガスケットの摺動部に摺動性被膜を形成する方法。
【請求項3】
前記硬化性樹脂液が光硬化型樹脂を含有する請求項1または2に記載のシリンジ用ガスケットの摺動部に摺動性被膜を形成する方法。
【請求項4】
前記硬化工程が、前記シリンジ用ガスケットを回転させながら、前記光硬化型樹脂を硬化させうる波長の光を前記硬化性樹脂液が塗布された部分に局所的に照射することにより前記光硬化型樹脂を硬化させる工程を備える、請求項3に記載のシリンジ用ガスケットの摺動部に摺動性被膜を形成する方法。
【請求項5】
前記光硬化型樹脂を硬化させうる波長の光を局所的に照射する際に、集光レンズにより集光された光を照射する請求項4に記載のシリンジ用ガスケットの摺動部に摺動性被膜を形成する方法。
【請求項6】
前記硬化性樹脂液が蛍光性物質を含有し、塗布された硬化性樹脂液又は形成された摺動性被膜に前記蛍光性物質を励起するための光を照射して前記蛍光性物質の発光状態を観察することにより、厚みムラを検査する検査工程をさらに備える請求項1〜5の何れか1項に記載のシリンジ用ガスケットの摺動部に摺動性被膜を形成する方法。
【請求項7】
前記硬化性樹脂液が着色剤を含有し、塗布された硬化性樹脂液又は形成された摺動性被膜からの発色を観察することにより、塗膜の厚みムラを検査する検査工程をさらに備える請求項1〜6の何れか1項に記載のシリンジ用ガスケットの摺動部に摺動性被膜を形成する方法。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1項に記載のシリンジ用ガスケットの摺動部に摺動性被膜を形成する方法によって得られた、前記環状リブのみに摺動性被膜が形成されていることを特徴とするシリンジ用ガスケット。
【請求項9】
請求項8に記載のシリンジ用ガスケットを備えた、プレフィルドシリンジ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−67362(P2011−67362A)
【公開日】平成23年4月7日(2011.4.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−220602(P2009−220602)
【出願日】平成21年9月25日(2009.9.25)
【出願人】(595015890)株式会社ファインラバー研究所 (15)
【Fターム(参考)】