説明

シリンジ用容器、プレフィルドシリンジおよびその製造方法と使用方法

【課題】注射器の内部に夾雑物が入り込むことがないシリンジ用容器を提供することを目的とする。
【解決手段】先端に薬液出口を有する外筒と、薬液出口を封止する薬液出口封止部材と、外筒内を移動するプランジャと、プランジャの先端部に設けられ、外筒内を先端側の第1室と基端側の第2室とに仕切る拡縮自在の隔壁部材とを有し、隔壁部材は、拡張することによって外筒内壁と接触して第1室と第2室とを液密に封止することを特徴とするシリンジ用容器。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリンジ用容器、プレフィルドシリンジおよびその製造方法に関する。具体的には、凍結乾燥した薬剤と、この薬剤を溶解するため溶媒とを分離収容し、使用時に薬剤を溶媒により溶解した後投与することができるシリンジ用容器、プレフィルドシリンジおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
注射液を収容するシリンジ内を2室に分け、所定成分とその溶解液や分散液等とを分離させた状態で収容し、該所定成分を乾燥状態に維持することにより貯蔵寿命を確保し、保管を容易にした2室型プレフィルドシリンジが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
特許文献1に記載の二室注射器の注射器シリンダにおいては、内部が栓によって前室及び後室が区分けされ、注射器ピストンの押圧により後室の溶剤及び栓を前室に向けて移動させ、該溶剤を前室の薬剤と混合することが記載されている。
【0004】
薬剤としての医薬物質を高安定性、高信頼性に収容するために、薬液から水等の揮発性物質を取り除く処理である凍結乾燥が好適に用いられる。シリンジ自体を凍結乾燥の容器として使用すれば、凍結乾燥した薬剤を移し替える必要がなく好都合であることが知られている(例えば、特許文献2及び3参照)。
【0005】
特許文献2に記載のシリンジシステムにおいては、収容した薬剤溶液を凍結乾燥する目的で、薬剤室から薬剤溶液の蒸気を出すための排出通路を設け、凍結乾燥後に該排出通路を閉塞チップにより密閉することが記載されている。
【0006】
特許文献3に記載の二室式容器兼用注射器においては、容器としての封止状態を維持することを目的として、中間ストッパーを挿入穴に挿通して嵌合させることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平4−322662号公報
【特許文献2】特表2003−535624号公報
【特許文献3】特開2008−67982号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、前述のような2室型プレフィルドシリンジでは、乾燥状態の薬剤を二室の一方に収容して封止した後に、二室の他方に溶解液等を別途導入する工程を要している。特許文献2又は3に記載の注射器等は、薬液を収容した後に該薬液を凍結乾燥することが可能であるが、凍結乾燥の過程において薬液の溶媒成分(典型的には水)は昇華して周囲環境に拡散するため、凍結乾燥後に注射器の外部から溶解液等を導入する工程が必要となる。すなわち、従来技術の2室型プレフィルドシリンジにおいては、外部配管等による溶解液導入の工程を要し、外部からの溶解液等の導入に付随して注射器の内部に夾雑物を持ち込む可能性があった。
【0009】
本発明は、上記問題点に鑑みなされたものであって、注射器の内部に夾雑物が入り込むことがないシリンジ用容器、プレフィルドシリンジおよびその製造方法と使用方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
このような目的は、下記(1)〜(9)の本発明により達成される。
【0011】
(1)先端に薬液出口を有する外筒と、前記薬液出口を封止する薬液出口封止部材と、前記外筒内を移動するプランジャと、前記プランジャの先端部に設けられ、前記外筒内を先端側の第1室と基端側の第2室とに仕切る拡縮自在の隔壁部材とを有し、前記隔壁部材は、拡張することによって前記外筒内壁と接触して前記第1室と前記第2室とを液密に封止することを特徴とするシリンジ用容器。
【0012】
(2)さらに、第1のバルーンを頭部に内蔵する中空の押し子と、前記外筒の基端部を封止する中空の外筒封止部材とを有し、前記プランジャが中空であるとともに、前記隔壁部材は、第2のバルーンであり、前記第2のバルーンは、前記プランジャ、前記外筒封止部材及び前記押し子の中空の部分を介して前記第1のバルーンと連通されており、前記押し子の頭部の一部を押し込むことにより前記第1のバルーンに封入された流体が前記第2のバルーンへ移動して前記第2のバルーンが拡張することを特徴とする(1)に記載のシリンジ用容器。
【0013】
(3)前記押し子は、その内壁に、押し込まれた前記頭部の一部を係止するための第1の凹部を有することを特徴とする(2)に記載のシリンジ用容器。
【0014】
(4)さらに、押し子と、前記外筒の基端部を封止する外筒封止部材とを有し、前記プランジャが中空であるとともに、前記隔壁部材は、可撓性シートと、前記可撓性シートの全周にわたって設けられるシール部材と、前記外筒の内壁方向に付勢され第1の端部が前記シール部材に接続された複数のワイヤとを有する膜状物であり、前記複数のワイヤは、前記プランジャの先端側の内部に位置する結着部を経由して前記プランジャの中空の部分に挿通され、その第2の端部が前記外筒封止部材に連結されており、前記押し子の頭部を操作することにより前記結着部が前記プランジャの先端側より押し出されて前記膜状物が拡張することを特徴とする(1)に記載のシリンジ用容器。
【0015】
(5)前記外筒は、その内壁に、前記隔壁部材が当接する第2の凹部を有することを特徴とする(4)に記載のシリンジ用容器。
【0016】
(6)さらに、押し子と、前記外筒の基端側を封止する外筒封止部材とを有し、前記隔壁部材は、温度に依存してもとの形状に復元する塑性材料で形成された合金板であり、前記外筒は、その内壁に、前記合金板が接触して塑性変形するための傾斜部を有しており、前記合金板が所定の温度においてもとの形状に復元することにより拡張することを特徴とする(1)に記載のシリンジ用容器。
【0017】
(7)(1)から(6)のいずれかに記載のシリンジ用容器を用いたプレフィルドシリンジであって、前記隔壁部材は、前記外筒内の先端側に収容した薬液を凍結乾燥により溶媒を蒸散させ、前記外筒内の基端側で前記蒸散させた溶媒を所定の冷却手段によって冷却して凍結させる第1開放状態と、前記外筒内を先端側の第1室と基端側の第2室とに仕切って液密に封止し、前記第2室で前記凍結した溶媒を融解する封止状態と、前記外筒内の第1室と第2室との液密を解除し、前記第1室に収容された溶質と、前記第2室に収容された溶媒を混合する第2開放状態とを有することを特徴とするプレフィルドシリンジ。
【0018】
(8)先端に薬液出口を有する外筒と、前記薬液出口を封止する薬液出口封止部材と、前記外筒内を移動するプランジャと、前記プランジャの先端部に設けられ、前記外筒内を先端側の第1室と基端側の第2室とに仕切る拡縮自在の隔壁部材と、押し子と、前記外筒の基端部を封止する外筒封止部材とを有し、前記隔壁部材が拡張することにより前記外筒内壁と接触して前記第1室と前記第2室とを液密に封止するシリンジ用容器を用いたプレフィルドシリンジの製造方法において、前記隔壁部材の開放状態において、前記外筒内の先端側に収容した薬液を凍結する工程と、前記隔壁部材の開放状態において、前記外筒内の先端側に収容した薬液の溶媒を蒸散させ、前記外筒内の基端側に設けられた冷却手段によって前記蒸散した溶媒を冷却して前記外筒内の基端側で凍結する工程と、前記隔壁部材の封止状態において、前記第2室として仕切られた前記外筒内の基端側で凍結した溶媒を融解する工程と、を有することを特徴とするプレフィルドシリンジの製造方法。
【0019】
(9)先端に薬液出口を有する外筒と、前記薬液出口を封止する薬液出口封止部材と、前記外筒内を移動するプランジャと、前記プランジャの先端部に設けられ、前記外筒内を先端側の第1室と基端側の第2室とに仕切る拡縮自在の隔壁部材と、押し子と、前記外筒の基端部を封止する外筒封止部材とを有し、前記隔壁部材が拡張することによって前記外筒内壁と接触して前記第1室と前記第2室とを液密に封止するシリンジ用容器を用いたプレフィルドシリンジの使用方法において、前記隔壁部材を収縮させることにより、前記第1室と前記第2室との液密が解除され、前記第1室に収容された溶質と、前記第2室に収容された溶媒を混合することを特徴とするプレフィルドシリンジの使用方法。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、注射器の内部に夾雑物が入り込むことがないシリンジ用容器、プレフィルドシリンジおよびその製造方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の実施形態に係る2室型プレフィルドシリンジを示す断面図である。
【図2】本発明の実施形態に係る2室型プレフィルドシリンジの製造過程を示す図である。
【図3】本発明の実施形態に係る2室型プレフィルドシリンジの使用過程を示す図である。
【図4】本発明の実施形態に係る2室型プレフィルドシリンジの製造過程における第1室の温度制御を示すグラフである。
【図5】本発明の他の実施形態に係る2室型プレフィルドシリンジを説明する図である。
【図6】本発明の他の実施形態に係る2室型プレフィルドシリンジを説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の2室型プレフィルドシリンジを実施するための形態(以下、「実施形態」という。)に基づいて図面を参照して詳細に説明する。以下に示す実施形態は、本発明の技術的思想を具体化するための物や方法を例示するものであって、本発明の技術的思想は、構成材料の種類、構成条件等を下記のものに特定するものでない。本発明の技術的思想は、特許請求の範囲に記載された技術的範囲内において、種々の変更を加えることができる。
【0023】
図1は、本発明の実施形態に係る2室型プレフィルドシリンジを示す断面図である。
【0024】
2室型プレフィルドシリンジ1は、全体として、外筒2、外筒封止部材であるガスケット9、押し子10及びプランジャ13からなる。押し子10の頭部は中空構造となっており、その内部には第1のバルーン8’が内蔵されている。押し子の頭部の一部10’は押し込むことができ、押し込んだ後に回転させることにより押し子10の頭部の内壁に設けられた第1の凹部10aに係止することができる。ガスケット9及びプランジャ13も中空構造となっている。これらの構成要素は、当技術分野に周知の材料により製造される。例えば、外筒2、押し子10及びプランジャ13は、射出成形可能な樹脂材料等で製造され、ガスケット9は、耐薬品性の可撓材料等で製造される。
【0025】
外筒2は、先端側に外筒2の内径および外径が段階的に縮径したテーバー部3と、このテーバー部3を介して外側に突き出る先端突出部4と、先端側の薬剤室(第1室)6及び基端側の溶媒室(第2室)7を仕切る拡縮自在の隔壁部材8と、基端側の開口部5とを有している。先端突出部4には、薬液封止部材であるキャップ等が取り付けられる。また、使用時には、刺穿用の注射針、配液チューブ又は封止キャップ等を取り付けることができる。
【0026】
隔壁部材8は、薬剤室6と溶媒室7とを仕切るものであって、拡張することによって外筒2内壁と接触し密着して薬剤室6と溶媒室7とを液密に封止する機能と、収縮することによって、外筒2の内壁から離れ、薬剤室6と溶媒室7とを連通させる機能を有する。ここでは、隔壁部材8は、膨張と収縮が可能な第2のバルーンで構成されており、隔壁部材8である第2のバルーンが膨張することによって外筒2の内壁と接触して薬剤室6と溶媒室7とを液密に封止する。前記隔壁部材8である前記第2のバルーンは、前記プランジャ、前記外筒封止部材及び前記押し子の中空の部分を介して前記第1のバルーンと連通されており、押し子の頭部の一部10’を押し込むことによって、隔壁部材8には、プランジャ13内を通って気体等が第2のバルーンに供給され、膨張および収縮させることができる。
図1に示す2室型プレフィルドシリンジ1においては、隔壁部材8は封止状態にあり、薬剤室6及び溶媒室7は互いに隔離されている。隔壁部材8は、変形して外筒2の内壁から離れることにより、開放状態となり得る。
【0027】
薬剤室6は、溶質としての薬剤11を収容している。薬剤11は、所定薬液を凍結乾燥して溶媒を蒸散させた凍結乾燥薬剤とすることができる。
【0028】
溶媒室7は、溶媒12を収容している。溶媒12は、該凍結乾燥により該所定薬液から蒸散して凍結した後に融解した溶媒であり、典型的には水であるが、これに限定されない。
【0029】
プランジャ13は、基端側に押し子10と嵌合する凹部を有し、押し子10は、先端側にこの凹部に嵌入する凸部を有することが好ましい。このような構造により、プランジャ13及び押し子10は、一体化することが可能である。
【0030】
図2は、本発明の実施形態に係る2室型プレフィルドシリンジ1の製造過程を示す図である。図1と共通する構成要素については説明を省略する。
【0031】
図2(a)は、外筒2の先端側の薬剤室6に薬液25を収容する過程の説明図である。具体的には、外筒2の開口部5は開放されており、隔壁部材8であるバルーンは、縮んだ状態にあり開放状態にある。薬液25は、例えば、外筒2の基端側からの吸引により、外筒2の先端側から薬剤室6に収容される。
【0032】
薬剤室6の外側にはヒータ21が配設される。溶媒室7の外側には冷却手段20が配設される。これらのヒータ21及び冷却手段20は、後続する凍結乾燥工程において、薬剤室6からの溶媒の蒸散を制御すると共に、溶媒室7の内壁の少なくとも一部の領域を、薬液25の溶媒の凝固点以下の温度に冷却するために用いられる。具体的には、冷却手段20は、液体窒素、冷却されたシリコンオイル等の所定の冷媒を必要な場合に接触させて冷却される金属板等を用いることができるが、限定されない。
【0033】
薬液25が薬剤室6に収容された後に、凍結乾燥における予備凍結の過程が行われる。すなわち、外筒2の全体を冷凍(−50℃等)し、薬剤室6に収容された薬液25を凝固点以下の温度で凍結させる。
【0034】
図2(b)は、薬液25を凍結乾燥する過程の説明図である。薬液25が凍結した後に、冷却手段20により、溶媒室7の内壁の少なくとも一部の領域を、薬液25の溶媒の凝固点以下の温度(−50℃等)に冷却し続けると共に、外筒2を真空下におき、薬液25から水等の溶媒を昇華させる。昇華した溶媒は、溶媒室7の内壁で凍結し、固体状態の溶媒22として保持される。
【0035】
凍結乾燥中に、薬液25からの溶媒の蒸散を促進するために、ヒータ21により薬剤室6を加温することができる。例えば、−50℃で凍結乾燥を開始した後、所定期間にわたり薬剤室6を−10℃に昇温し、その後の所定期間にわたり5℃まで昇温し、さらに30℃まで昇温すること等が可能である。これらの期間中にも、冷却手段20により溶媒室7の内壁は冷却されるので、溶媒室7の内部には凍結した溶媒を保持し続けることが可能である。
【0036】
図2(c)は、隔壁部材8を封止状態とする過程の説明図である。隔壁部材8であるバルーンに気体を送りバルーンを膨張させることにより、外筒2の内壁に密着し、封止状態となることができる。これにより、薬剤室6及び溶媒室7は、互いに隔離される。
【0037】
図2(d)は、冷却手段20及びヒータ21を取り外し、冷蔵温度(例えば、5℃)等において溶媒室7の溶媒が融解した状況における断面図である。
【0038】
図2(d)は、ガスケット9及び押し子10を装着する過程の説明図である。ガスケット9は、外筒2の開口部5から溶媒室7に挿入され、溶媒室7を封止すると共に溶媒室7の内部を摺動することができる。押し子10は、ガスケット9を操作可能に装着される。したがって、押し子10、ガスケット9及びプランジャ13は、プランジャ13に接続した隔壁部材8と共に、一体として外筒2の基端側から先端側に移動することができる。
【0039】
以上のようにして、薬剤室6に薬液を凍結乾燥した薬剤11を収容し、溶媒室7に該薬液の凍結乾燥により蒸散した溶媒を収容した、2室型プレフィルドシリンジ1を製造することができる。
【0040】
図3は、本発明の実施形態に係る2室型プレフィルドシリンジ1の使用過程を示す図である。
【0041】
図3(a)は、隔壁部材8を開放状態とする過程、及び溶媒12と薬剤11とを混合する過程の説明図である。隔壁部材8は内部のガスを抜くことによって収縮し開放状態となることにより、前述の図2に示した薬剤室6と溶媒室7とは連通する。これにより、溶媒室7に収容された溶媒12は、薬剤室6に収容された薬剤11に到達してこれを溶解することができる。したがって、薬剤11を溶媒12によって溶解した薬液25を生成することができる。
【0042】
図3(b)は、薬液25を押し出す過程の説明図である。図3(b)のように、押し子10への押圧時には、ガスケット9、プランジャ13及び隔壁部材8が先端側に移動する。これにより、隔壁部材8は、外筒2の内部を摺動して、薬液25を外筒2の先端突出部4に向かって押し出すことができる。
【0043】
図4は、本発明の実施形態に係る2室型プレフィルドシリンジ1の製造過程における薬剤室6の温度制御を示すグラフである。図4の横軸は時間の経過を表し、縦軸は薬剤室6の温度を表す。図4において、薬剤室6の予備凍結工程は、前述の2室型プレフィルドシリンジ1の製造過程における予備凍結工程に対応し、1次乾燥工程及び2次乾燥工程は、凍結乾燥工程に対応する。
【0044】
予備凍結工程において、薬剤室6には、当初、液体状態の薬液25が収容されている。所定期間にわたり外筒2の全体を冷凍(−50℃等)することにより、薬剤室6は冷凍され、薬液25は、薬剤室6の内部で全体として凍結する。
【0045】
1次乾燥工程において、薬剤室6は真空下にあり、薬液25から溶媒が昇華し始める。薬剤室6は、薬剤室6の周辺に配設されたヒータ21により加温され、予備凍結工程の冷凍温度よりも高い温度とすることが可能である。これにより、薬剤室6からの溶媒の蒸散を促進できる。例えば、薬剤室6は、1次乾燥工程の開始後の所定期間にわたり−10℃に維持され、その後の所定期間にわたり5℃に維持される。
【0046】
2次乾燥工程において、薬剤室6は、所定期間にわたり30℃に維持される。これにより、薬剤室6内の溶媒は、実質的に完全に蒸散する。
【0047】
前述のように、これらの1次乾燥工程及び2次乾燥工程に対応する凍結乾燥工程において、溶媒室7の内壁及びプランジャ13の表面は、冷却手段20により冷凍されている。したがって、薬剤室6から蒸散した溶媒は、溶媒室7の内壁及びプランジャ13の表面に凍結して保持される。
【0048】
次に、本発明の他の実施形態について説明する。図5は、本発明の他の実施形態に係る2室型プレフィルドシリンジを説明する図である。(a)は封止状態にある隔壁部材を表す図、(b)は開放状態にある隔壁部材を表す図、(c)は封止状態の例を表す断面図である。
【0049】
拡縮自在の隔壁部材8は、可撓性シート8a、可撓性シート8aの全周にわたって設けられるシール部材としてのOリング(オー・リング)8b、Oリング8bに第1の端部において接続される複数のワイヤ8c及び結着部8dからなる。可撓性シート8aは、Oリング8bの全周にわたる円形の平面を封止することができる。可撓性シート8aとしては、シリコンシート等を用いることができる。Oリング8bとしては、ガスケット9と同様の耐薬品性の可撓材料等を用いることができる。可撓性シート8a及びOリング8bは、一体成形されてもよい。ワイヤ8cとしては、ステンレス等の弾性のある金属ワイヤを用いることができる。複数のワイヤ8cは、Oリング8bの円周上に等間隔に接続されるのが好ましく、結着部8dにおいて結紮されている。
【0050】
プランジャ13は、中空構造であり、結着部8dよりも基端側の複数のワイヤ8cを貫通させている。そして、プランジャ13は、図示しないガスケットに挿通され、かつ、プランジャ13の前記中空構造内を液密に摺動し前記プランジャ13の基端側に露出する摺動柄(図示せず)を有し、複数のワイヤ8cの第2の端部は、プランジャ13の前記中空構造内で前記摺動柄に連結されている。
【0051】
複数のワイヤ8cは、プランジャ13の基端側から、必要に応じて張力が印加される。この張力の印加は、例えば、前記摺動柄のプランジャ13に対する移動又は回転等の操作によるものとすることが好ましい。プランジャ13の基端側から張力が印加されると、複数のワイヤ8cは、プランジャ13に引き込まれる。この張力の印加がない場合には、複数のワイヤ8cは、外筒2の内壁方向に付勢されており、結着部8dからOリング8bに向かって広がる形状を有し、Oリング8bは環状の形状を維持している。すなわち、隔壁部材8は、複数のワイヤ8cの先端方向への移動にともない、可撓性シート8aが拡張することによって外筒2の内壁と接触して薬剤室6と溶媒室7とを液密に封止する。
【0052】
Oリング8bは、環状の形状を維持している状態で外筒2の内壁に密着する。可撓性シート8a及びOリング8bにより、先端側の薬剤室6と基端側の溶媒室7とは隔離される。すなわち、隔壁部材8は、封止状態となる。
【0053】
図5(b)に示すように、複数のワイヤ8cに対してプランジャ13の基端側から張力が印加されると、複数のワイヤ8cは、プランジャ13に引き込まれる。結着部8dがプランジャ13の内部に引き込まれることにより、複数のワイヤ8cは、プランジャ13の先端側の端面に当接して側方に応力を受け、互いの間隔が狭まる。これにより、Oリング8bは、折りたたまれて外筒2の内壁から離隔する。また、可撓性シート8aも変形して折りたたまれる。したがって、Oリング8bと外筒2との間に間隙ができ、隔壁部材8は、開放状態となる。隔壁部材8が開放状態にあるときには、先端側の薬剤室6と基端側の溶媒室7とは、連通することができる。
【0054】
図5(c)に示す例では、外筒2の内壁には、隔壁部材8が当接する第2の凹部8eが設けられている。第2の凹部8eは、環状の形状にあるOリング8bを嵌合する溝の形状とすることが好ましい。Oリング8bが第2の凹部8eに嵌合することにより、Oリング8bは、外筒2に密着して、封止状態の信頼性を高めることが可能である。
【0055】
以上のようにすることにより、隔壁部材8は、変形することによって封止状態から開放状態となることができる。
【0056】
隔壁部材8が開放状態にあるときに、複数のワイヤ8cが先端側に移動されてプランジャ13から引き出されると、弾性を有する複数のワイヤ8cは、封止状態における形状に復元することができる。これにより、Oリング8bは、環状の形状に復元し、外筒2bの内壁に密着するので、隔壁部材8は再び封止状態となることができる。
【0057】
次に、本発明の他の実施形態について説明する。図6は、本発明の他の実施形態に係る2室型プレフィルドシリンジを説明する図、(a)は薬液25を収容した2室プレフィルドシリンジの断面図、(b)は凍結乾燥工程の説明図、(c)は(b)に示した2室プレフィルドシリンジを軸方向に90°回転した図、(d)は本実施形態の2室プレフィルドシリンジの断面図である。
【0058】
同図(a)に示すように、本実施形態の拡縮自在の隔壁部材8は、形状記憶合金等の、温度に依存して所定形状に復元する塑性材料を用いて製造される。形状記憶合金としては、形状復元温度(変態点)が、凍結乾燥工程における冷凍温度(−50℃等)よりも高く、水の融点(0℃等)よりも低いものが好ましい。さらに、隔壁部材8は、耐薬品性の可撓材料で表面を被覆されることが好ましい。
【0059】
本実施形態の2室プレフィルドシリンジは、外筒2b、隔壁部材8、押し子10及びプランジャ13からなる。外筒2bは、リブ2a及び傾斜部2cを有する。リブ2aは、外筒2bの基端側の内壁において軸方向に延長し、対向して設けられる一対の構造とすることが好ましい。傾斜部2cは、2つのリブ2aの先端側にそれぞれ設けられる傾斜である。
【0060】
隔壁部材8は、プランジャ13に接続され、押し子10の操作により外筒2bの内部を摺動することができる。隔壁部材8は、外筒2bの内径よりもわずかに大きな円板の形状を有することが好ましい。このような形状とすることにより、隔壁部材8は、外筒2bの内壁に密着して、先端側の薬剤室6と基端側の溶媒室7とを隔離することができる。したがって、隔壁部材8は、外筒2bの内部を封止状態とすることができる。
【0061】
図6(b)に示すように、押し子10を基端側に引き上げることにより、隔壁部材8は、傾斜部2cに当接して塑性変形する。この塑性変形により、隔壁部材8のリブ2aと当接していない外周部分は、外筒2bの内壁から離隔する。したがって、隔壁部材8は、変形することにより、外筒2bの内部を開放状態とすることができる。
【0062】
凍結乾燥工程において、隔壁部材8の先端側には凍結乾燥した薬剤11が収容され、隔壁部材8の基端側には該凍結乾燥により蒸散した溶媒が凍結して保持される。
【0063】
図6(c)に示すように、塑性変形した隔壁部材8は、外筒2bの内壁との間に空隙を生じている。
【0064】
図6(d)に示すように、隔壁部材8に用いられる形状記憶合金は、凍結乾燥工程において、塑性変形した形状を維持した後、形状復元温度を超える温度において形状を復元して、外筒2bの内壁に密着することができる。好適には、隔壁部材8は、薬剤室6に凍結乾燥した薬剤11が収容され、該凍結乾燥により外筒2bの基端側の内壁に凍結した溶媒が保持された状態で、形状を復元できる。
【0065】
このようにすることにより、本実施形態の2室プレフィルドシリンジは、凍結乾燥した薬剤11と、該凍結乾燥により蒸散した溶媒とを、外筒2bの内部に隔離して収容することができる。
【0066】
以上、本発明の2室型プレフィルドシリンジを実施形態に基づいて説明したが、本発明は、これに限定されるものではなく、本発明の2室型プレフィルドシリンジを構成する各部は、同様の機能を発揮し得る任意の構成のものと置換することができる。また、任意の構成物が付加されていてもよい。
【0067】
また、本発明の2室型プレフィルドシリンジは、医用薬剤に適用するものに限らず、生理活性物質を用いる理化学実験装置等にも適用することができる。尚、上記実施形態において、シリンジ用容器は、外筒2、薬品出口封止部材、薬剤室6、溶媒室7、隔壁部材8により少なくとも構成されている。
【0068】
以上、本発明の好ましい実施形態について詳述したが、本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形、変更が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0069】
本発明に係る2室型プレフィルドシリンジを用いると、凍結乾燥した薬剤の溶解液導入に係る夾雑物の混入を防止することができると共に、使用現場においては、単純な押圧操作により速やかに薬液を生成して注入準備ができるので、臨床医療現場での利用可能性は極めて大きい。
【符号の説明】
【0070】
1 2室型プレフィルドシリンジ
2 外筒
3 テーバー部
4 先端突出部
5 開口部
6 薬剤室(第1室)
7 溶媒室(第2室)
8 隔壁部材(第2のバルーン、膜状物、合金板)
8’第1のバルーン
9 ガスケット
10 押し子
10’押し子の頭部の一部
11 薬剤
12 溶媒
13 プランジャ
20 冷却手段
21 ヒータ
25 薬液

【特許請求の範囲】
【請求項1】
先端に薬液出口を有する外筒と、
前記薬液出口を封止する薬液出口封止部材と、
前記外筒内を移動するプランジャと、
前記プランジャの先端部に設けられ、前記外筒内を先端側の第1室と基端側の第2室とに仕切る拡縮自在の隔壁部材とを有し、
前記隔壁部材は、拡張することによって前記外筒内壁と接触して前記第1室と前記第2室とを液密に封止することを特徴とするシリンジ用容器。
【請求項2】
さらに、第1のバルーンを頭部に内蔵する中空の押し子と、前記外筒の基端部を封止する中空の外筒封止部材とを有し、
前記プランジャが中空であるとともに、
前記隔壁部材は、第2のバルーンであり、
前記第2のバルーンは、前記プランジャ、前記外筒封止部材及び前記押し子の中空の部分を介して前記第1のバルーンと連通されており、
前記押し子の頭部の一部を押し込むことにより前記第1のバルーンに封入された流体が前記第2のバルーンへ移動して前記第2のバルーンが拡張することを特徴とする請求項1に記載のシリンジ用容器。
【請求項3】
前記押し子は、その内壁に、押し込まれた前記頭部の一部を係止するための第1の凹部を有することを特徴とする請求項2に記載のシリンジ用容器。
【請求項4】
さらに、押し子と、前記外筒の基端部を封止する外筒封止部材とを有し、
前記プランジャが中空であるとともに、
前記隔壁部材は、可撓性シートと、前記可撓性シートの全周にわたって設けられるシール部材と、前記外筒の内壁方向に付勢され第1の端部が前記シール部材に接続された複数のワイヤとを有する膜状物であり、
前記複数のワイヤは、前記プランジャの先端側の内部に位置する結着部を経由して前記プランジャの中空の部分に挿通され、その第2の端部が前記外筒封止部材に連結されており、
前記押し子の頭部を操作することにより前記結着部が前記プランジャの先端側より押し出されて前記膜状物が拡張することを特徴とする請求項1に記載のシリンジ用容器。
【請求項5】
前記外筒は、その内壁に、前記隔壁部材が当接する第2の凹部を有することを特徴とする請求項4に記載のシリンジ用容器。
【請求項6】
さらに、押し子と、前記外筒の基端側を封止する外筒封止部材とを有し、
前記隔壁部材は、温度に依存してもとの形状に復元する塑性材料で形成された合金板であり、
前記外筒は、その内壁に、前記合金板が接触して塑性変形するための傾斜部を有しており、
前記合金板が所定の温度においてもとの形状に復元することにより拡張することを特徴とする請求項1に記載のシリンジ用容器。
【請求項7】
請求項1から請求項6のいずれかに記載のシリンジ用容器を用いたプレフィルドシリンジであって、
前記隔壁部材は、
前記外筒内の先端側に収容した薬液を凍結乾燥により溶媒を蒸散させ、前記外筒内の基端側で前記蒸散させた溶媒を所定の冷却手段によって冷却して凍結させる第1開放状態と、
前記外筒内を先端側の第1室と基端側の第2室とに仕切って液密に封止し、前記第2室で前記凍結した溶媒を融解する封止状態と、
前記外筒内の第1室と第2室との液密を解除し、前記第1室に収容された溶質と、前記第2室に収容された溶媒を混合する第2開放状態とを有することを特徴とするプレフィルドシリンジ。
【請求項8】
先端に薬液出口を有する外筒と、前記薬液出口を封止する薬液出口封止部材と、前記外筒内を移動するプランジャと、前記プランジャの先端部に設けられ、前記外筒内を先端側の第1室と基端側の第2室とに仕切る拡縮自在の隔壁部材と、押し子と、前記外筒の基端部を封止する外筒封止部材とを有し、前記隔壁部材が拡張することにより前記外筒内壁と接触して前記第1室と前記第2室とを液密に封止するシリンジ用容器を用いたプレフィルドシリンジの製造方法において、
前記隔壁部材の開放状態において、前記外筒内の先端側に収容した薬液を凍結する工程と、
前記隔壁部材の開放状態において、前記外筒内の先端側に収容した薬液の溶媒を蒸散させ、前記外筒内の基端側に設けられた冷却手段によって前記蒸散した溶媒を冷却して前記外筒内の基端側で凍結する工程と、
前記隔壁部材の封止状態において、前記第2室として仕切られた前記外筒内の基端側で凍結した溶媒を融解する工程と、を有することを特徴とするプレフィルドシリンジの製造方法。
【請求項9】
先端に薬液出口を有する外筒と、前記薬液出口を封止する薬液出口封止部材と、前記外筒内を移動するプランジャと、前記プランジャの先端部に設けられ、前記外筒内を先端側の第1室と基端側の第2室とに仕切る拡縮自在の隔壁部材と、押し子と、前記外筒の基端部を封止する外筒封止部材とを有し、前記隔壁部材が拡張することによって前記外筒内壁と接触して前記第1室と前記第2室とを液密に封止するシリンジ用容器を用いたプレフィルドシリンジの使用方法において、
前記隔壁部材を収縮させることにより、前記第1室と前記第2室との液密が解除され、前記第1室に収容された溶質と、前記第2室に収容された溶媒を混合することを特徴とするプレフィルドシリンジの使用方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−66590(P2013−66590A)
【公開日】平成25年4月18日(2013.4.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−207147(P2011−207147)
【出願日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【出願人】(000109543)テルモ株式会社 (2,232)
【Fターム(参考)】