説明

シリンダヘッドの製造方法

【課題】凹溝の開口端側でのクラック発生と中央部での内部欠陥発生の両方を抑制する。
【解決手段】 シリンダヘッド1のバルブシート形成予定部9に凹溝11を形成し、該凹溝11にレーザ光を照射しながら金属粉末15を供給して肉盛りし、バルブシート7を形成するシリンダヘッド1の製造方法において、前記凹溝11を、開口幅よりも狭い溝底面31を有し両側面33A、33Bの成す角θが90度を超えて120度以下の断面台形状とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バルブシートを備えたシリンダヘッドの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
内燃機関用シリンダヘッドへのバルブシートの形成方法として、バルブシート形成予定部にレーザを照射して金属粉末(クラッド材料)を溶融させながら肉盛りを行うレーザクラッド(レーザ肉盛とも呼ばれる)を用いた方法が知られている。レーザクラッドを用いることで、高硬度の異種金属層を肉盛層として形成できるため、耐摩耗性に優れたバルブシートが得られる。
一般に、レーザクラッドによりバルブシートを形成する場合、バルブシート形成予定部に凹溝を形成し、当該凹溝に肉盛層を形成する。また、この凹溝を、座ぐり加工によって隅R部をつけたR形状凹部とすることで、空孔等の内部欠陥を抑制した技術が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開平5−256190号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、レーザクラッドでは、クラッド材料へのレーザによる入熱に対し、母材であるシリンダヘッドへの入熱量を制御して、肉盛層表面でのクラック発生やブローホール等の内部欠陥を制御することが重要である。
しかしながら従来のR形状凹部においては、凹部の中央部に比べ開口端側でクラッド材料が少な過ぎるため、レーザによる入熱時にシリンダヘッドが溶けすぎて材料希釈によるクラック(割れ)が発生してしまう。この開口端側のクラッド材料にレーザの入熱量を合せた場合には、中央部においてクラッド材料の量に対して入熱が足りなくなり、クラッド材料の溶融不足によるブローホール等の内部欠陥が発生してしまう。このように、従来のR形状凹部では、開口端側のクラックと中央部の内部欠陥の両方を抑制することは困難であった。
【0004】
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであり、凹溝の開口端側でのクラック発生と中央部での内部欠陥発生の両方を抑制することができるシリンダヘッドの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するために、本発明は、シリンダヘッドのバルブシート形成予定部に凹溝を形成し、該凹溝にレーザ光を照射しながら金属粉末を供給して肉盛りし、バルブシートを形成するシリンダヘッドの製造方法において、前記凹溝を、開口幅よりも狭い溝底面を有し両側面の成す角が90度を超えて120度以下の断面台形状としたことを特徴とする。
【0006】
本発明によれば、肉盛りをする凹溝を断面台形状としたため、従来のR形状に比べて開口端側での金属粉末の量を増加させることができる。これにより、金属粉末の量に対して入熱量が過多になる事がなく、開口端側での母材の希釈によるクラックの発生を防止できる。また、凹溝の中央部においては、溝底面により凹溝の深さが断面V字形状に比べて浅くできるため、金属粉末の量に対して入熱量が足りなくなる事がなく、中央部での内部欠陥の発生を防止できる。このように、本発明によれば、凹溝に形成した肉盛層の開口端側でのクラック発生と中央部の内部欠陥発生の両方を抑制することができる。
このとき、凹溝の開口幅を一定にしたまま、両側面の成す角を大きくし過ぎると、凹溝が浅くなって肉盛層の厚みが薄くなってしまい、耐摩耗性の向上効果が少なくなり、加工性も低下する。これとは逆に、両側面の成す角度を小さくし過ぎると、凹溝が深く成り過ぎて内部欠陥が生じ易くなる。
これに対して、本発明によれば、凹溝の両側面の成す角度を90度を超えて120度以下としているため、内部欠陥の発生を抑えつつ十分な厚みの肉盛層が形成できる。
【0007】
上記発明において、前記シリンダヘッドのポートの開口縁に面する側の前記凹溝の側面を、少なくとも肉盛りの高さよりも延長させて駄肉部を形成しても良い。
シリンダヘッドのポートの開口縁に面する側の凹溝の側面は、他方の側面に比べて面積が狭くヒートマスが小さいため、両側面への入熱量が同じ場合には、ポートの開口縁側の側面で入熱量が過多となり材料希釈によるクラックが発生する。
本発明によれば、ポートの開口縁側の側面に形成した駄肉部の分だけヒートマスが増えるため、凹溝の両側面でヒートマスが等しくなり、ポート側の側面でのクラック発生を防止することができる。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、シリンダヘッドのバルブシート形成予定部に形成する凹溝を、開口幅よりも狭い溝底面を有し両側面の成す角が90度を超えて120度以下の断面台形状としたため、この凹溝に形成した肉盛層の開口端側でのクラック発生と中央部の内部欠陥発生の両方を抑制することができる。
また、凹溝の両側面の成す角度を90度を超えて120度以下としているため、内部欠陥の発生を抑えつつ十分な厚みの肉盛層が形成できる。
また本発明において、シリンダヘッドのポートの開口縁に面する側の凹溝の側面を、少なくとも肉盛りの高さよりも延長させて駄肉部を形成することで、凹溝の両側面でヒートマスを等しくさせ、ポート側の側面でのクラック発生を防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、図面を参照して本発明の実施形態について説明する。
図1は、本実施形態に係るシリンダヘッド1の製造工程を示す図であり、図1(A)はバルブシート形成前、図1(B)は肉盛層形成後、図1(C)はバルブシート形成後をそれぞれ示している。
シリンダヘッド1は、燃焼室3に連通する吸気ポート5A及び排気ポート5Bを備え、これら吸気ポート5A及び排気ポート5Bの開口が、それぞれ吸気バルブ及び排気バルブ(図示せず)で開閉される。なお、以下の説明では、これら吸気ポート5A及び排気ポート5Bを区別する必要が無いときは単にポート5と称する。
図1(C)に示すように、ポート5の開口縁には、吸気/排気バルブに密着して燃焼室3を気密に維持するためのバルブシート7が形成されている。
【0010】
シリンダヘッド1の素材にはアルミ合金が使用されて軽量化が図られるとともに、バルブシート7については、吸気/排気バルブに繰り返し接触し、そのシート面のヘルツ面圧が高負荷で、なおかつ、この高負荷が連続的に付与される部位であることから、レーザクラッドにより、シリンダヘッド1の素材と異なる金属で肉盛形成されることで耐摩耗性及び耐熱性の向上が図られている。
【0011】
本製造工程においては、レーザクラッドに用いる金属粉末15は、シリンダヘッド1の素材の金属とは異なる銅及びニッケルをベースとする合金のアトマイズ粉末が用いられ、高硬度の異種金属層が肉盛層19として形成される。
レーザクラッドに用いるレーザ光17の波長は、金属粉末15のエネルギー吸収が大きい波長範囲に設定されており、金属粉末15の溶融効率が高められている。具体的には、金属粉末15が銅−ニッケル合金の場合、800〜950[nm]の波長範囲の所定値が用いられる。この波長範囲のレーザ光17の光源には、例えばモジュール式でGaaAlbAs型(a,bは固相比)のレーザ発振部を有し、半導体のPN接合部からレーザ光17を発する半導体レーザが好適に用いられ、半導体の成分を調整することで上記所定値の波長のレーザ光17が得られる。
上述したレーザ光17の波長設定により金属粉末15の溶融効率が高められているため、半導体レーザとしては1.2〜2.0[kW]程度の低出力の装置を使用して、例えば、5[mm]の肉厚の肉盛層19を形成することができる。
このレーザ光17は、その照射範囲内(光軸に対して垂直な面内)でのエネルギー分布が略一様な強度分布特性を有することで、レーザ光17の照射位置で偏り無く入熱される。
【0012】
バルブシート形成前のシリンダヘッド1には、図1(A)に示すように、各ポート5の開口縁に沿ってバルブシート形成予定部9が形成されており、このバルブシート形成予定部9に上述のレーザクラッドにより肉盛層19が形成される。
さらに詳述すると、バルブシート形成予定部9には、断面台形状の台形凹溝11がポート5の開口縁に沿って環状に形成されている。
【0013】
肉盛層形成時には、図1(B)に示すように、台形凹溝11に粉末供給ノズル13から金属粉末15を供給しつつ半導体レーザのレーザ光17を照射することで金属粉末15を溶融し、レーザ光17の照射位置に肉盛層19を形成する。そして、シリンダヘッド1を回転させる等してレーザ光17の照射位置を台形凹溝11に沿って環状に移動させることで、ポート5の開口縁の全周に亘って肉盛層19を形成する。
【0014】
肉盛層19を形成した後、このバルブシート形成予定部9に対して仕上げ加工を施すことで、図1(C)に示すバルブシート7を形成する。
この仕上げ加工では、図2に示すように、所定幅W1のバルブシート7が得られるように、破線で示す加工線Dに沿って肉盛層19の表層部を削り落とすとともに、バルブのかさ部分のファンネル形状に合せて台形凹溝11の両側面33A、33Bを削り落とす切削加工が施される。バルブシート7の所定幅W1は、少なくともバルブのかさ部分との間で所定の気密性が得られる幅とされており、この所定幅W1を確保可能にするために上記台形凹溝11の開口幅が所定幅W1よりも広く形成されている。
【0015】
図3は、台形凹溝11を拡大して示す図である。
台形凹溝11は開口幅よりも狭い幅W2の溝底面31を有する、いわゆる逆台形状とされており、上述の通り、開口幅が所定幅W1よりも広く形成されている。この台形凹溝11の開口面からの深さH1は、少なくとも肉盛層19の所定の厚みH2よりも深く形成されている。
すなわち、肉盛層形成時には、台形凹溝11に収まる程度の金属粉末15が供給されつつ、レーザ光17が少なくとも所定幅W1よりも広い幅W3に亘って、台形凹溝11の溝底面31に対して略垂直に照射されることで、当該幅W3の照射範囲に対して均一な入熱が行われて肉盛層19が形成される。
【0016】
このとき、肉盛層19を形成する凹溝が断面台形状の台形凹溝11とされているため、断面R形状の凹溝に比べて開口端側でも十分な量の金属粉末15が確保される。これにより、金属粉末15の量に対して入熱量が過多になる事がないため、開口端側で肉盛層19にクラックが発生することが抑制される。
これに加え、台形凹溝11の中央部においては、溝底面31により台形凹溝11の深さがV溝等に比べて浅くなるため、金属粉末15の量が抑えられる。これにより、金属粉末15の量に対して入熱量が足りなくなる事がないため、台形凹溝11の中央部で肉盛層19にブローホール等の内部欠陥が発生することが抑制される。
さらに、バルブシート7の所定幅W1よりも広い幅W3に亘って肉盛層19を形成するため、図3に示すように、肉盛層19の両側に幅M(=(W3−W1)/2)のマージンを得ることができる。
【0017】
また台形凹溝11の両側面33A、33Bが成す角θ(以下、「開き角θ」と言う)は、バルブシート7として得るべき所定幅W1及び厚みH3により規定される。
詳述すると、図4に示すように、台形凹溝11の開き角θが大きくなるほど、台形凹溝11が浅くなるため肉盛層19の厚みが薄くなってしまいバルブシート7の耐摩耗性の向上効果が少なくなる。さらに、上記加工線Dに沿って平面を切り出す際の加工性も悪くなる。
【0018】
これとは逆に、開き角θを小さくするほど、台形凹溝11が深くるため、レーザ光17による入熱が最深部である中央部で不足してブローホール等の内部欠陥が生じ易くなる。これに加え、レーザクラッドにおいては、通常、図5に示すように、肉盛層19の両側に溶湯の表面張力によって凹む、いわゆる、ひけ変形部19Aが生じる。ひけ変形部19Aの凹み量は、開き角θが小さくなるほど大きくなるため、このように開き角θを小さくし過ぎると、バルブシート7として使用可能な厚みH4が減少してしまい、上記所定幅W1を確保できなくなる虞もある。
【0019】
そこで本実施形態では、台形凹溝11の開き角θを、90度<θ≦120度の範囲で設定されている。これにより、肉盛層19に十分な厚みを確保しつつ、台形凹溝11の中央部での内部欠陥発生を抑制可能とし、また、所定幅W1を確実に確保可能としている。
【0020】
ところで、図3に示すように、バルブシート形成予定部9においては、ポート5の開口縁側に駄肉部41が設けられている。
詳述すると、台形凹溝11のポート5の開口縁側の側面33Aは、通常、ポート5の開口が図中一点鎖線Bで示すように形成されるため、他方の側面33Bに比べ、肉盛層19を受ける面積が狭く肉盛形成時の入熱を受ける容量が小さい。このため、ポート5の開口縁側の側面33Aに対して肉盛形成時の入熱量が他方の側面33Bよりも相対的に過多となり、側面33Aの材料希釈により肉盛層19にクラックが生じる虞がある。
そこで、本実施形態では、バルブシート形成予定部9には、台形凹溝11のポート5の開口縁側の側面33Aを、少なくとも肉盛層19の厚みH2よりも延長させて駄肉部41を形成することで、側面33Aのヒートマスを増大させ、他方の側面33Bとバランスさせている。
このように、台形凹溝11の両側面33A、33Bでのヒートマスが均等になることで、ポート5の開口縁側の側面33Bで肉盛層19にクラックが発生することを防止できる。
【0021】
以上説明したように、本実施形態に係るシリンダヘッド1の製造方法によれば、バルブシート形成予定部9に形成する凹溝を、開口幅よりも狭い溝底面31を有し両側面33A、33Bの成す角θが90度を超えて120度以下の断面台形状としたため次のような効果を奏する。
すなわち、従来のR形状に比べて開口端側での金属粉末15を増加させることができるため、金属粉末15の量に対して入熱量が過多になる事がなく、開口端側での母材の希釈によるクラックの発生を防止できる。
また、台形凹溝11の中央部においては、溝底面31により断面V形状に比べて深さが制限されるため、金属粉末15の量に対して入熱量が足りなくなる事がなく、中央部での内部欠陥の発生を防止できる。
このように、本実施形態によれば、肉盛層19を形成する凹溝を台形凹溝11とすることで、開口端側でのクラック発生と中央部の内部欠陥発生の両方を抑制することができる。
【0022】
これに加え、本実施形態によれば、台形凹溝11の両側面33A、33Bが成す角θを、90度<θ≦120度の範囲で設定したため、肉盛層19の厚みが薄くなりすぎることがなく十分な厚みを持たせることができ、また、台形凹溝11の中央部での内部欠陥の発生が抑制できる。
【0023】
また本実施形態によれば、シリンダヘッド1のポート5の開口縁に面する側の台形凹溝11の側面33Bを、少なくとも肉盛層19の高さH2よりも延長させて駄肉部41を形成したため、台形凹溝11の両側面33A、33Bでヒートマスが等しくなり、クラック発生を防止することができる。
【0024】
なお、上述した実施の形態は、あくまでも本発明の一態様を示すものであり、本発明の主旨を逸脱しない範囲で任意に変形および応用が可能であることは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の実施形態に係るシリンダヘッドの製造工程を示す図であり、(A)はバルブシート形成前、(B)は肉盛層形成後、(C)はバルブシート形成後をそれぞれ示す。
【図2】肉盛層形成後のバルブシート形成予定部を拡大して示す図である。
【図3】バルブシート形成予定部を拡大して示す図である。
【図4】断面凹溝の両側面の成す角と断面凹溝の深さの関係を説明するための図である。
【図5】肉盛層に生じるひけ変形を模式的に示す図である。
【符号の説明】
【0026】
1 シリンダヘッド
5 ポート
7 バルブシート
9 バルブシート形成予定部
11 台形凹溝(凹溝)
15 金属粉末
17 レーザ光
19 肉盛層
19A ひけ変形部
31 溝底面
33A、33B 側面
41 駄肉部
D 加工線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリンダヘッドのバルブシート形成予定部に凹溝を形成し、該凹溝にレーザ光を照射しながら金属粉末を供給して肉盛りし、バルブシートを形成するシリンダヘッドの製造方法において、
前記凹溝を、開口幅よりも狭い溝底面を有し両側面の成す角が90度を超えて120度以下の断面台形状としたことを特徴とするシリンダヘッドの製造方法。
【請求項2】
前記シリンダヘッドのポートの開口縁に面する側の前記凹溝の側面を、少なくとも肉盛りの高さよりも延長させて駄肉部を形成したことを特徴とする請求項1に記載のシリンダヘッドの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−223013(P2010−223013A)
【公開日】平成22年10月7日(2010.10.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−68753(P2009−68753)
【出願日】平成21年3月19日(2009.3.19)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】