説明

シロアリ防除方法及びシロアリ這い上がり防止誘導シート

【課題】シロアリの安全で効果的な防除手段を提供する。
【解決手段】建築物床下の基礎内面・外面及び/又は木部面などの建築部材に、蒸散の少ないシロアリ忌避剤を、塗布もしくは練り込んだシート状物を配置し、忌避効果により這い上がり防止、誘導ガイドとしてシロアリを防除する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はシロアリ防除方法及びそれに用いるシロアリ這い上がり防止誘導シートに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、シロアリ(特に、地下シロアリ)の侵入による被害を防止する方法としては、建築物床下の土壌面に薬剤を散布したり、柱や土台などの木材に薬剤を注入したり吹き付けたりする処理が一般的である。また、建築部材に蒸散性のシロアリ防除成分を含むシートを設置し、そこからシロアリ防除成分を蒸散させて、シロアリの侵入を防ぐ考え方があった(例えば、特許文献1、特許文献2参照)。
【0003】
【特許文献1】特開昭63−70744号公報
【特許文献2】特開昭63−46506号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、シロアリの移動経路を事前に特定できないため、上記した従来の方法では、薬剤処理が不十分な箇所では侵入を阻止できない。このため、シロアリを防除するには、大量の薬剤を使用しなければならないという問題があった。また、作業者は、建築物床下という閉鎖的空間での薬剤処理作業を強いられるため、暴露の危険にさらされ、保護具を着用しても安全上の問題が残るという問題があった。また、居住者は、蒸散性の防蟻薬剤が使用されることで、蒸散してくる防蟻薬剤や、使用されている溶剤などの影響により不快感を感じることがあった。
【0005】
本発明の主なる目的は、最低限度の薬剤でシロアリを安全且つ効果的に防除することができるシロアリ防除方法及びそれに用いるシロアリ這い上がり防止誘導ガイドを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、第1に、蒸気圧が1.0×10−6hPa以下のシロアリ忌避剤を塗布ないし混入してなるシート状物を建築物を構成する建築部材に付着させてシロアリの這い上がりを防止することを特徴とするシロアリ防除方法である。
【0007】
本発明は、第2に、シロアリ忌避剤がピレスロイド系薬剤である上記の方法である。
【0008】
本発明は、第3に、シロアリ忌避剤がビフェントリンである上記の方法である。
【0009】
本発明は、第4に、シート状物が幅2mm〜50cm、厚さ0.01〜2mmの帯状シート状部材である上記の方法である。
【0010】
本発明は、第5に、シート状物を建築物の床下近傍の建築部材の垂直面及び/又は床構造の裏面に付着させる上記の方法である。
【0011】
本発明は、第6に、シート状物を床下地盤面に接しない位置に付着させる上記の方法である。
【0012】
本発明は、第7に、シート状物をシロアリ忌避剤を混入した接着剤で建築部材に付着する上記の方法である。
【0013】
本発明は、第8に、建築部材に付着させたシート状物の下端部に沿って誘導したシロアリを駆除するためのシロアリ駆除剤を配置してシロアリ駆除する上記の方法である。
【0014】
本発明は、第9に、シート状物がプラスチックシート、不織布、紙、金網又は金属シートである上記の方法である。
【0015】
本発明は、第10に、シート状物を吸収性建築部材に浸透性のある接着剤で該建築部材に付着させる上記の方法である。
【0016】
本発明は、第11に、シート状物を取り外し可能に付着する上記の方法である。
【0017】
本発明は、第12に、シート状物が片面に接着剤とその上に剥離紙とをもつロール巻きした帯状シートであり、これを使用時に剥離紙を剥がしながら建築部材に付着する上記の方法である。
【0018】
本発明は、第13に、蒸気圧が1.0×10−6hPa以下のシロアリ忌避剤を混入するか又は片面に塗布し、他の片面に接着剤層と剥離紙をその順で配してなる長尺の帯状プラスチックシートをロール巻きしてなるシロアリ這い上がり防止誘導シートである。
【発明の効果】
【0019】
本発明により、大量の薬剤を必要とする土壌面や木部面への薬剤処理でシロアリを防除するのではなく、シロアリに対し忌避性のある防蟻剤を含有したシート状物の形で床下のシロアリの移動経路と推定される場所に設置することにより、シロアリの移動を制御して、シロアリの建築部材への侵入を阻止し、また、シロアリ防除剤に誘導して殺虫することにより、最低限度の薬剤でシロアリを安定且つ効果的に防除することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
本発明では、蒸気圧が1.0×10−6hPa以下のシロアリ忌避剤を塗布するか練り込み等で混入させたシート状物を建築物の基礎及び土台等に設置することによって、シロアリの這い上がり防止と誘導ガイド効果を高度に発揮させることができることを見出した。
【0021】
また、蒸気圧1.0×10−6hPa以下のシロアリ忌避剤を含むことにより、長時間にわたってシート状物にとどまり、シロアリの侵入を防ぐことができる。
本発明で用いるシロアリ忌避剤としては、忌避性のある蒸気圧1.0×10−6hPa以下の薬剤であればいずれの系統の薬剤を使用することもできる。
【0022】
具体例としては、ピレスロイド系薬剤:たとえばビフェントリン(2.4×10−7hPa、25℃)、ペルメトリン(6.8×10−9hPa、25℃)、サイパメスリン(4.1×10−11hPa、20℃)、アルファサイパメスリン(4.1×10−11hPa、20℃)、ゼータサイパメスリン(2.5×10−11hPa、25℃)、非エステルピレスロイド系:たとえばシラフロオフェン(2.5×10−8hPa、20℃)、天然物系:たとえばピレトリン(5.3×10−7hPa、25℃)等を例示することができる。
【0023】
本発明では、ピレスロイド系薬剤がより好ましく、そのうちでもビフェントリンが特に好ましく用いられる。
本発明で用いられるシート状物の例としては、プラスチックシート、不織布、紙、金網、金属シート等があるが、プラスチックシートが特に好ましい。
【0024】
プラスチックシートの基材であるプラスチックとしては、熱可塑性樹脂、たとえばポリエステル、ポリエチレン、エチレンビニルアセテート樹脂、塩化ビニル樹脂等を例示することができる。
【0025】
これらのシート状物には、シート状物成形時にシロアリ忌避剤を練り込んで混入させてもまた混入が不可能であったり望ましくない場合にはその一方の表面にシロアリ忌避剤を塗布することができる。塗布に当っては付着用に適宜のバインダー(接着剤)を併用することができる。シロアリ忌避剤の濃度は、通常0.00002〜2%程度で十分であり、シロアリのみでなく、アリ、ムカデ、タンゴムシなどの害虫に対しても、阻止効果を示す。
【0026】
これらのシート状物は通常幅2mm〜50cm、厚さ0.01〜2mmの帯状シート状物として建築部材の所定の位置に(設置)付着する。
設置場所としては、建築物の床下近傍の建築部材の垂直面及び/又は床構造の裏面(下面)が好ましい。
【0027】
垂直面の例としては、コンクリート基礎、土台、束石、床束、根がらめ、大引、根太、火打土台、給排水パイプ、電気配線等があり、裏面(下面)の例としては、床板、土台、束石、床束、根がらめ、大引、根太、火打土台、給排水パイプ、電気配線等の下面がある。
【0028】
シート状物の設置は、シート状物の存在によりシロアリの這い上がりを防止し、シロアリを誘導する誘導ガイドとして機能するように行う。たとえば垂直面に対しては水平方向に連続して設置することによって上記の機能を効果的に示すことができる。シロアリは木材等の餌を探知しながら四方八方に移動していくが、進行方向に障害物があると、その障害物の縁に沿って移動していく習性がある。このことから、移動範囲に移動を障害する物を配置すると、その障害物に沿って移動していく。このシロアリの移動習性を利用して、シロアリの這い上がりを防止し、シロアリを誘導するように設置する。通常は床下地盤面に接しない位置に、好ましくは下端から5cm以上離して設置する。
【0029】
シート状物は建築部材の被付着面との間にシロアリの侵入を許容する空隙が生じないように建築部材に付着させることが望ましく、通常は接着剤(粘着剤も包含する)を用いて建築部材に付着する。
【0030】
接着剤としては従来周知の適宜の接着剤を用いうる。その具体例としては、アスファルト系、アクリル樹脂系、a−オレフィン系、ウレタン樹脂系、エポキシ樹脂系、エチレン−酢酸ビニル樹脂エマルジョン、エチレン−酢酸ビニル樹脂、ホットメルトエポキシ樹脂系、塩化ビニル樹脂溶剤系、クロロプレンゴム系、シアノアクリレート系、シリコーン系、水性高分子−イソシアネート系、スチレン−ブタジエンゴム溶液系、ニトリルゴム系、ポリ酢酸ビニル樹脂溶液系等の接着剤を例示することができる。尚、接着剤中にもシロアリ忌避剤を混入しておくことが好ましい。
【0031】
また被付着面を構成する建築部材が木質部材、断熱材、コンクリート基礎等の吸収性をもつ建築部材である場合にはそれらへの浸透性をもつ接着剤を用いることが望ましい。そのような浸透性接着剤の具体例として、アスファルト系、アクリル樹脂系、ウレタン樹脂系、エポキシ樹脂系、クロロプレンゴム系等の接着剤を挙げることができる。
【0032】
尚、接着剤の使用に当っては長期間使用後にシート状物を取り外すことが可能な接着剤を選択することが望ましい。
本発明で用いるシート状物は、建築部材に付着すべき面に予め粘着性接着剤を塗布しその上に剥離紙を配した長尺帯状の形でロール巻きしたものを用いることが望ましい。特に、建築済の建築物に施工する場合、剥離紙を剥がしながら設置して行くことで、より簡単に、正確に設置することができる。また、その際、ロールの回転の補助、ロールの支持、シートの切り分け、シートの設置位置の補助等を行う補助具を使用することで、床下等の狭い場所での作業を一層容易にすることができる。
【0033】
本発明のシート状物の存在により、シロアリはその上に這い上がることなく移動が制御され、シート状物の下端に沿って移動する。そこで移動するシロアリをシロアリ駆除剤に誘導することでシロアリを効果的に駆除することもできる。シロアリ駆除剤としては、従来周知の適宜のシロアリ駆除剤(殺虫剤、毒餌剤等)を用いることができ、誘導すべき所定位置にシロアリ駆除剤を入れた容器類を配することにより、シロアリのコロニーを消滅させることもできる。シロアリ駆除剤の具体例としては、昆虫成長抑制剤、たとえばジフルベンズロン(1.2×10−9hPa、25℃)、テフルベンズロン(1.3×10−10hPa、25℃)、ヘキサフルムロン(5.9×10−11hPa、25℃)、ノバルロン(1.6×10−7hPa、25℃)、ルフェヌロン(4.0×10−8hPa、25℃)、フルフェヌクスロン(4.5×10−14hPa、20℃)、クロルフルアスロン(1.6×10−8hPa、20℃)、デブフェノジド(3.0×10−8hPa、25℃)、クロマフェノジド(4.0×10−11hPa、25℃)、メトキシフェノジド(1.3×10−7hPa、25℃)、ジロマジン(4.2×10−7hPa、20℃)、ネオニコチノイド系薬剤、たとえばアセタミプリド(1.0×10−8hPa、25℃)、イミダクロプリド(2.0×10−9hPa、20℃)、チアメソキサム(6.6×10−9hPa、25℃)、クロチアニジン(1.3×10−12hPa、25℃)、ジノテフラン(1.7×10−8hPa、30℃)、ニテンピラム(1.1×10−11hPa、20℃)、チアクロプリド(8.0×10−12hPa、25℃)、その他の薬剤の例として、ピロール系:たとえばクロルフェナピル(1.3×10−7hPa、25℃)、フェニルピラゾール系:たとえばフィプロニル(2.0×10−8hPa、25℃)、エチプロール(9.1×10−10hPa、25℃)、オキサダイアジノン系:たとえばインドキサカルブ(4.0×10−12hPa、25℃)、等を例示することができる。
【0034】
図面は本発明のシロアリ防除方法の適用例を示す説明図である。
図1〜図3は土台10への適用例を示し、本発明のシート状物を土台の基礎壁内面20に水平に付着した例である。図2の3は毒餌を入れた容器類である。図3は床板16の下面に本発明のシート状物1を設置した例である。図4は他の建築部材への適用例を示す。図1〜4において、11は大引、12は床束、13は給排水管、14は束石、15は柱を示す。
次に実施例により本発明を例証する。
【実施例1】
【0035】
ビフェントリンを0.1%(W/W)及び0.05%(W/W)を含有する0.15mm厚のポリエチレンフィルムを15cm幅で、建物基礎内側を想定したコンクリート枡に設置した。コンクリート枡は、シロアリの活動が激しい場所に設置した。
【実施例2】
【0036】
ビフェントリンを0.1%(W/W)及び0.05%(W/W)を含有する0.15mm厚のポリエチレンフィルムを15cm幅で、建物基礎内側を想定したコンクリート枡に設置した。コンクリート枡は、シロアリの活動が激しい場所に設置した。さらに各シートに接触するように、防蟻成分を含んだ毒餌を設置した。
結果は、いずれの濃度においてもシロアリを毒餌に導き、シロアリのコロニーを消滅させた。
【実施例3】
【0037】
ビフェントリンを0.1%(W/W)及び0.05%(W/W)を含有する0.1mm厚のポリエチレンフィルムを15cm幅で、建物基礎内側を想定したコンクリート枡に設置した。コンクリート枡は、シロアリの活動が激しい場所に設置した。
結果は、いずれの濃度においてもシロアリはシートに沿って蟻道を作り、その上には這い上がらなかった。
【実施例4】
【0038】
実施例1のビフェントリン混入ポリエチレンフィルムを屋外のコンクリート面にシート状物を設置し、1年間放置した。1年後でも設置状態に変化はなく、容易に引き離すことができた。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明のシート状物を土台の基礎型内面に設置した例を示す概略図。
【図2】図1においてさらに毒餌を入れた容器類を配置した例を示す概略図。
【図3】本発明のシート状物を床下面に設置した例を示す概略図。
【図4】本発明のシート状物を他の建築部材に設置した例を示す概略図。
【符号の説明】
【0040】
1.シート状部材
2.接着剤
3.毒餌入り容器
10.土台
11.大引
12.床束
13.給排水管
14.束石
15.柱
16.床板
20.基礎壁内面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
蒸気圧が1.0×10−6hPa以下のシロアリ忌避剤を塗布ないし混入してなるシート状物を建築物を構成する建築部材に付着させてシロアリの這い上がりを防止することを特徴とするシロアリ防除方法。
【請求項2】
シロアリ忌避剤が該蒸気圧をもつピレスロイド系薬剤である請求項1記載の方法。
【請求項3】
シロアリ忌避剤がビフェントリンである請求項1又は2記載の方法。
【請求項4】
該シート状物が幅2mm〜50cm、厚さ0.01〜2mmの帯状シート状物である請求項1〜3のいずれか1項記載の方法。
【請求項5】
該シート状物を建築物の床下近傍の建築部材の垂直面及び/又は床構造の裏面に付着させる請求項1〜4のいずれか1項記載の方法。
【請求項6】
該シート状物を床下地盤面に接しない位置に付着させる請求項1〜5のいずれか1項記載の方法。
【請求項7】
該シート状物をシロアリ忌避剤を混入した接着剤で建築部材に付着する請求項1〜6のいずれか1項記載の方法。
【請求項8】
建築部材に付着させた該シート状物の下端部に沿って誘導したシロアリを駆除するためのシロアリ駆除剤を配置してシロアリを駆除する請求項1〜7のいずれか1項記載の方法。
【請求項9】
該シート状物がプラスチックシート、不織布、紙、金網又は金属シートである請求項1〜8のいずれか1項記載の方法。
【請求項10】
該シート状物を吸収性建築部材に浸透性のある接着剤で該建築部材に付着させる請求項1〜9のいずれか1項記載の方法。
【請求項11】
該シート状物を取り外し可能に付着する請求項1〜10のいずれか1項記載の方法。
【請求項12】
該シート状物が片面に接着剤とその上に剥離紙とをもつロール巻きした帯状シートであり、これを使用時に剥離紙を剥がしながら建築部材に付着する請求項1〜11のいずれか1項記載の方法。
【請求項13】
蒸気圧が1.0×10−6hPa以下のシロアリ忌避剤を混入するか又は片面に塗布し、他の片面に接着剤層と剥離紙をその順で配してなる長尺の帯状プラスチックシートをロール巻きしてなるシロアリ這い上がり防止誘導シート。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−40710(P2009−40710A)
【公開日】平成21年2月26日(2009.2.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−206318(P2007−206318)
【出願日】平成19年8月8日(2007.8.8)
【出願人】(591089431)株式会社サニックス (29)
【Fターム(参考)】