説明

シロキサンガス除去用吸着剤及びシロキサンガス除去用フィルタ

【課題】高い吸着効率でシロキサンガスを吸着除去できる吸着剤又はフィルタを提供する。
【解決手段】活性炭素繊維で構成された吸着剤と、シロキサンガスを含む被処理ガスと接触させて、前記シロキサンガスを吸着により除去する。活性炭素繊維は、BET比表面積1,000〜3,000m/g程度、及びMP法による細孔半径0.2〜1.8nmの細孔の積算細孔容積0.4〜2cm/g程度を有していてもよい。また、MP法による細孔半径0.3〜0.6nmの細孔の総容積は、上記積算細孔容積に対して、10〜80容量%程度であってもよい。前記吸着剤は、活性炭素繊維の不織布で構成してもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シロキサンガス(オルガノシロキサンガスなど)を除去するのに有用な吸着剤、フィルタ及びシロキサンガスの除去方法に関する。
【背景技術】
【0002】
磁気ディスクなどを利用する装置(ハードディスクドライブなど)では、有機物系ガス、特に、シリコン系ガス(ジシロキサン、オルガノシロキサンなどのシロキサンガスなど)が、装置の内部に発生したり、装置の周囲に発生(又は存在)するシリコン系ガスが装置内部に流入する。このようなシリコン系ガスは、装置内で重合又は酸化され、凝集により固体粒子となる。そして、固体粒子が、磁気ヘッドや磁気ディスク等の磁性部材に付着して、ヘッド移動、磁気ディスクの読み取りなどに支障をきたす。また、このような固体粒子は、電気絶縁性であり、電気的に、接点の導通不良の要因となる。なお、シリコン系ガスは、装置内部又は周辺機器などにおいて使用されている接着剤、シリコーン樹脂製品(パッキン、シーリング材など)、樹脂製品の添加剤などから発生するものと考えられている。
【0003】
このような電気的又は機械的なトラブルを解消するため、カーボン粒子、金属粒子などを用いたフィルター又は吸着剤などを、電子機器(電子機器のベースプレート、トップカバーなど)に配設し、シリコン系ガスを除去することが提案されている。例えば、特開平6−302178号公報(特許文献1)には、磁気ディスク装置においてディスク・エンクロージャーの内壁にガス吸着機能を付与するため、内壁にエポキシ樹脂を塗布し、ガス吸着体として、カーボン粒子、銀粒子、又は銅粒子などを埋めたり、カーボン、銀、銅などの薄膜を内壁に製膜することが開示されている。また、特開2001−273708号公報(特許文献2)では、スピンドルモータ内部に錫を主材料としたシロキサン吸着部材(吸着用コーティング層)を配設することが記載されている。
【0004】
また、下水処理後のスラッジなどから発生する消化ガスなどにもシロキサンガスが含まれており、消化ガスを用いた発電システムでは、発電に伴うシロキサンの燃焼により酸化ケイ素が生成することが知られている。そして、この酸化ケイ素が、ガスエンジン、ガスタービンなどの内部に付着して、装置又は部品の耐久性が低下したり、触媒に悪影響を及ぼすことも知られている。このような不具合を防止するため、例えば、特開2005−177737号公報(特許文献3)には、平均細孔直径が2.4〜3.5nmで、且つ細孔容積が0.65〜1.4ml/gであるシロキサン除去用活性炭が開示されている。なお、特許文献3で用いられている活性炭は、石炭粉をピッチ成型し、炭化賦活化した活性炭、ペレット状活性炭、破砕状活性炭である。
【0005】
しかし、上記の文献では、カーボン又は金属の粒子もしくは薄膜、成形活性炭などを用いているため、シロキサンガスに対する吸着能が不十分であるとともに、破過時間が短く、破過流量も少ない。
【0006】
また、電子複写機には、活性炭ハニカムがオゾンフィルターとして装着されているが、細孔径が不均一であり、シロキサンガスに対する吸着能は不十分である。
【特許文献1】特開平6−302178号公報(請求項1、段落番号[0014]及び[0015])
【特許文献2】特開2001−273708号公報(請求項1及び2)
【特許文献3】特開2005−177737号公報(請求項1、実施例)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従って、本発明の目的は、シロキサンガスに対して高い吸着効果を有するシロキサンガス除去用吸着剤及びフィルタ、並びにシロキサンガスの除去方法を提供することにある。
【0008】
本発明の他の目的は、シロキサンガスの吸着作用に優れるにも拘わらず、破過時間が長く、破過流量を向上できる吸着剤及びフィルタ、並びにシロキサンガスの除去方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、前記課題を達成するため鋭意検討した結果、(i)粒状活性炭では、粒子の表面に亘ってマクロポア及びミクロポアが存在し、細孔分布が広いため、シロキサンガスと接触しても細孔に吸着され難いこと、(ii)これに対して、活性炭素繊維では、繊維表面に細孔が存在するとともに、細孔分布が狭いため、シロキサンガスを効率よく吸着できることを見出し、本発明を完成した。
【0010】
すなわち、本発明の吸着剤は、シロキサンガスを含む被処理ガスと接触させて、前記シロキサンガスを吸着により除去するための吸着剤であって、活性炭素繊維で構成されているシロキサンガス除去用の吸着剤である。
【0011】
前記活性炭素繊維は、BET比表面積1,000〜3,000m/g程度、及びMP法による細孔半径0.2〜1.8nmの細孔の積算細孔容積(全細孔容積)0.4〜2cm/g程度を有していてもよい。活性炭素繊維の平均繊維径は1〜50μm程度であってもよい。活性炭素繊維は、MP法による細孔半径0.3〜0.6nmの細孔を有していてもよく、この細孔の容積の合計(総容積)は、前記細孔半径0.2〜1.8nmの細孔の積算細孔容積に対して、10〜80容量%程度であってもよい。
【0012】
また、前記活性炭素繊維は、BET比表面積1,000〜2,000m/g及び平均繊維径5〜30μmを有していてもよく、MP法による細孔半径0.2〜1.8nmの細孔の積算細孔容積(全細孔容積)が0.5〜1.5cm/g程度であり、MP法による細孔半径0.3〜0.6nmの細孔の細孔容積の合計(総容積)が、前記積算細孔容積に対して、15〜60容量%程度であってもよい。
【0013】
活性炭素繊維のBJH法による平均細孔直径は1.6〜3.2nm程度であってもよい。前記吸着剤は、活性炭素繊維で構成されたシート(例えば、不織布、活性炭素繊維とバインダーなどとを含む成形シートの他、これらのシートをコルゲート状又はプリーツ状などに加工したシートなど)で構成してもよい。
【0014】
また、本発明のフィルタは、シロキサンガスを含む被処理ガスと接触させて、前記シロキサンガスを吸着により除去するためのフィルタであって、活性炭素繊維で構成されたシートを備えているシロキサンガス除去用のフィルタである。
【0015】
本発明には、前記吸着剤に、シロキサンガスを含む被処理ガスを接触させて、シロキサンガスを除去する方法も含まれる。
【発明の効果】
【0016】
本発明では、シロキサンガス除去用の吸着剤を活性炭素繊維で構成するので、シロキサンガスに対して、高い吸着効果が得られる。また、本発明の吸着剤は、シロキサンガスの吸着作用に優れるにも拘わらず、破過時間が長く、破過流量を向上することもできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
[シロキサンガス除去用吸着剤]
本発明の吸着剤は、シロキサンガスを含む被処理ガスと接触させて、前記シロキサンガスを吸着により除去するための吸着剤であり、活性炭素繊維で構成されている。
【0018】
従来、シロキサンガスの吸着剤として利用されている粒状活性炭、粒状活性炭を成形した成形活性炭などでは、粒状活性炭が複雑な表面形状(例えば、湾曲部、凹凸部などを有する表面形状)を有しているため、被処理ガスが一部の細孔に取り込まれても、湾曲部、凹凸部などに形成された細孔には、被処理ガスが到達しにくく、接触効率が低い。また、粒状活性炭は、表面にマクロポア及びミクロポアが存在し、細孔径分布が広いため、シロキサンガスを効率よく吸着できない。それに対して、本発明の吸着剤では、活性炭素繊維の繊維表面全体に亘ってミクロポアが形成されているため、被処理ガスとの接触効率が非常に高く、また、細孔径分布が狭く、シロキサン分子径に適した細孔径で形成されているため、各細孔に容易に取り込まれて吸着され、シロキサンガスに対して非常に高い吸着作用を示す。
【0019】
吸着剤を構成する活性炭素繊維のBET比表面積は、例えば、800〜3,500m/g程度の範囲から選択でき、好ましくは900〜3,000m/g(例えば、1,000〜3,000m/g)、さらに好ましくは1,000〜2,500m/g(例えば、2,000m/g)程度である。
【0020】
また、BJH法(Berret-Joyner-Halenda法)による平均細孔径(平均細孔直径)は、例えば、1〜5nm、好ましくは1.5〜4nm、さらに好ましくは1.6〜3.2nm(例えば、1.7〜3nm)程度である。
【0021】
活性炭素繊維の細孔径分布は、特に制限されず、単分散であってもよく、多分散であってもよい。活性炭素繊維は、MP法(Molecular Probe法)による細孔半径分布のピークを、例えば、0.2〜1.8nm、好ましくは0.3〜1.5nm、さらに好ましくは0.3〜1nm程度の範囲に有していてもよく、特に、少なくとも0.3〜0.6nm程度の範囲に有するのが好ましい。
【0022】
シロキサンガスに対する吸着性の点から、MP法による細孔径(細孔半径)0.2〜1.8nmを有する細孔の容積の合計(積算細孔容積又は全細孔容積)は、例えば、0.3〜2.5cm/g、好ましくは0.4〜2cm/g、さらに好ましくは0.5〜1.5cm/g(例えば、0.5〜1.3cm/g)程度であってもよい。
【0023】
また、MP法による細孔半径0.3〜0.6nmを有する細孔の容積の合計(総容積)は、MP法による細孔半径0.2〜1.8nmの細孔の積算細孔容積に対して、10容量%以上(例えば、10〜80容量%程度)、好ましくは15〜60容量%、さらに好ましくは20〜40容量%程度であってもよい。
【0024】
活性炭素繊維の平均繊維径は、例えば、1〜50μm(例えば、2〜20μm)、好ましくは5〜30μm、さらに好ましくは10〜20μm程度である。また、平均繊維長は、例えば、0.01〜50mm、好ましくは0.05〜30mm(例えば、0.1〜20mm)、さらに好ましくは0.5〜10mm(例えば、1〜5mm)程度であってもよい。
【0025】
活性炭素繊維の材料となる繊維は、特に制限されず、天然繊維(例えば、セルロース系繊維など)、再生繊維[例えば、レーヨン(ビスコースレーヨン、銅アンモニアレーヨンなど)など]、半合成繊維(アセテートなど)、合成繊維(ポリアクリロニトリル繊維などのアクリル系繊維、フェノール系繊維、ポリエステル系繊維、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリアミド系繊維など)、瀝青炭質繊維(ピッチ系繊維など)などが挙げられる。これらの繊維は、単独で又は二種以上組み合わせて使用してもよい。上記繊維のうち、特にポリアクリロニトリル系繊維、フェノール系繊維などの合成繊維、ピッチ系繊維などの瀝青炭繊維などが好ましい。
【0026】
活性炭素繊維は、原料繊維を、慣用の方法により、炭化又は黒鉛化、及び賦活化することにより得ることができる。なお、必要により、炭化又は黒鉛化処理に先立って、原料繊維を不融化処理(例えば、200〜350℃程度で加熱する酸化処理など)に供してもよい。
【0027】
炭化又は黒鉛化処理は、非酸化性雰囲気下(例えば、窒素、アルゴン、ヘリウム、ネオンなどの不活性雰囲気下、真空下など)で行うことができる。また、炭化温度は、例えば、450〜1500℃程度の範囲から適宜設定でき、黒鉛化温度は、例えば、1800〜3200℃程度の範囲から適宜設定できる。なお、黒鉛化処理は、必要に応じて、還元剤(例えば、コークス、黒鉛、炭など)の存在下で行ってもよい。
【0028】
また、賦活化処理は、慣用の方法、例えば、ガス状賦活剤(水蒸気、酸素、二酸化炭素など)を用いるガス賦活法、化学系賦活剤(強アルカリ、塩化亜鉛、リン酸など)を用いる化学的賦活法などが採用できる。賦活方法、目的とする活性炭素繊維の物性などに応じて、賦活温度は、400〜950℃程度の範囲、賦活時間は、例えば、1〜100分程度の範囲から適宜選択できる。なお、賦活化は、炭化又は黒鉛化の後に行ってもよく、炭化又は黒鉛化と共に、賦活化を行ってもよい。
【0029】
また、活性炭素繊維を得るまでの適当な段階で、必要により、慣用の方法により、粉砕処理を行ってもよい。
【0030】
本発明の吸着剤は、少なくとも活性炭素繊維で構成されていればよく、活性炭素繊維とともに、他の成分(賦形成分)、例えば、他の繊維成分(前記活性炭素繊維の原料繊維の項で例示の繊維などの繊維成分の他、ガラス繊維、炭素繊維などの無機繊維など)、結合剤(セピオライト、ゼオライト、アタパルジャイト、タルク、モンモリロナイトなどの無機粘土鉱物、フェノール系樹脂、ピッチ系樹脂などの結合剤など)、熱可塑性又は熱硬化性樹脂(オレフィン系樹脂、スチレン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂など)などを含んでいてもよい。これらの他の成分(賦形成分)は、単独で又は二種以上組合せて使用できる。例えば、繊維成分と結合剤とを組合せてもよく、繊維成分及び/又は結合剤と、熱可塑性又は熱効果性樹脂とを組合わせてもよい。吸着剤が、賦形成分を含む場合、賦形成分の割合は、活性炭素繊維100重量部に対して、例えば0.1〜500重量部、好ましくは1〜400重量部、さらに好ましくは5〜300重量部程度であってもよい。
【0031】
吸着剤は、活性炭素繊維と必要により他の成分(繊維成分、結合剤など)とを、不織布などで形成された袋状体などに充填して用いてもよく、活性炭素繊維と必要により他の成分(繊維成分、結合剤など)とで形成された不織布として用いてもよい。また、吸着剤は、活性炭素繊維と、熱可塑性又は熱硬化性樹脂とを混合し、適当な形状(例えば、シート状、ハニカム状、ペレット状など)の成形体に成形して用いてもよい。これらの吸着剤は、単独で又は二種以上組合せて使用できる。なお、これらの形態のうち、好ましい吸着剤は、シート状(不織布状、成形シート状など)、ハニカム状などであり、不織布や成形シートなどをコルゲート状又はプリーツ状などに加工したシートなども好ましい。また、シートは積層して吸着剤として用いてもよく、このような吸着剤としては、例えば、平板状シート(不織布、平板状成形シートなど)を積層した積層体、コルゲート状及び/又はプリーツ状シートを積層した積層体、コルゲート状及び/又はプリーツ状シートと平板状シートとを積層した積層体などが例示できる。なお、積層体は、シートをロール状に巻いた積層体であってもよい。これらの吸着剤のうち、シロキサンガスとの接触効率の点からは、特に、シート(例えば、不織布、成形シート、又はこれらのシートの積層体も含む)又はハニカムとして用いるのが好ましい。
【0032】
なお、少なくとも活性炭素繊維で形成された不織布は、慣用の方法により得ることができ、活性炭素繊維の原料繊維で不織布を形成した後、上記のように、炭化又は黒鉛化、及び賦活化処理を行うことにより形成してもよく、活性炭素繊維を慣用の抄紙方法(乾式又は湿式抄造など)に従って、必要により他の成分とともに抄紙することにより形成してもよい。なお、抄紙では、必要により、慣用の添加剤、例えば、紙力増強剤、熱融着繊維などを用いてもよい。
【0033】
不織布状吸着剤の厚みは、例えば、1〜30mm、好ましくは2〜20mm、さらに好ましくは3〜10mm程度であってもよい。不織布状吸着剤の目付は、例えば、10〜500g/m、好ましくは50〜300g/m、さらに好ましくは90〜250g/m程度であってもよい。
【0034】
本発明の吸着剤は、シロキサンガスを含む被処理ガスと接触させて、前記シロキサンガスを除去するために使用される。シロキサンガスとしては、ジシロキサン、オルガノシロキサン[鎖状シロキサン(例えば、メトキシトリメチルシラン、ジメトキシジメチルシランなどのメトキシメチルシラン;ヘキサメチルジシロキサン、オクタメチルトリシロキサンなどのポリメチルジ乃至ペンタシロキサンなど)、環状シロキサン(ヘキサメチルシクロトリシロキサン、オクタメチルシクロテトラシロキサンなどのポリメチルシクロトリ乃至ヘキサシロキサンなど)など]などが挙げられる。被処理ガスは、これらのシロキサンを単独で又は二種以上組合せて含有してもよい。
【0035】
本発明の吸着剤は、活性炭素繊維を用いるので、シロキサンガスを効率よく吸着、除去できる。このような吸着剤は、被処理ガスと少なくとも接触させて用いる用途、例えば、フィルタに用いるのに有用である。特に、吸着剤のうち、適当な形状を有する吸着剤、例えば、バッグなどに少なくとも活性炭素繊維を充填した吸着剤、シート状吸着剤(例えば、少なくとも活性炭素繊維で形成された不織布状吸着剤、樹脂を用いてシート状などの形状に成形された吸着剤、又はこれらのシートの積層体を含む)などは、そのままフィルタとして使用できる。このようなフィルタは、単独で又は二種以上組み合わせて使用してもよい。例えば、不織布状吸着剤を積層した積層体、又は不織布状吸着剤とシート状吸着剤などとを積層した積層体などでフィルタを形成してもよい。また、同種又は異種の複数のフィルタを上流側のフィルタと、下流側のフィルタとを組合せてもよい。
【0036】
これらのフィルタのうち、活性炭素繊維で構成された不織布を備えたフィルタが好ましい。
【0037】
また、フィルタの厚みは、例えば、0.1〜10cm、好ましくは0.2〜5cm、さらに好ましくは0.3〜3cm程度である。
【0038】
吸着剤又はフィルタと被処理ガスとの接触は特に制限されず、被処理ガスの流路に吸着剤又はフィルタを配置すればよい。例えば、不織布状吸着剤又はフィルタでは、流路に不織布の面を向けて配置してもよく、積層体では、積層面を被処理ガスの流路に向けて配置し、フィルタ内の空間に被処理ガスを通過又は流通させてもよい。
【0039】
被処理ガスの線流速は、例えば、5cm/秒〜2m/秒、好ましくは10cm/秒〜1.5m/秒、通常20cm/秒〜1m/秒程度であってもよい。また、空間速度は、例えば、20〜200,000h−1、好ましくは100〜150,000h−1、さらに好ましくは1,000〜100,000h−1程度であってもよい。
【0040】
本発明のフィルタは、必要により、他のフィルタユニット、例えば、慣用の除塵フィルタ(電気集塵式フィルタ、帯電フィルタ、不織布フィルタなど)、他のガス成分の除去フィルタ(アルカリガス除去フィルタ、他の酸性ガス除去フィルタ(活性炭フィルタ、慣用の薬品添着フィルタなど)など)などと組み合わせて用いてもよい。
【0041】
本発明では、吸着剤を活性炭素繊維で構成するため、上記吸着剤又はフィルタに、シロキサンガスを含む被処理ガスを接触させることにより、シロキサンガスを効率よく除去できる。また、粒状活性炭に比べて、吸着剤又はフィルタ自体の破過時間及び/又は破過流量を改善することもできる。さらに、シート状(不織布状など)又はハニカム状の吸着剤又はフィルタでは、低い圧力損失で、被処理ガスを処理することができ、シロキサンガスの除去効率を損なうことがない。
【0042】
なお、磁気ディスク等を用いる各種装置(コンピュータ、電子複写機、ファックスなどの各種電子機器(オフィスオートメーション機器、家庭用電子機器など)に搭載されるハードディスクドライブ、ディスクエンクロージャーなど)では、装置内部又は周辺機器などにおいて使用されている接着剤、シリコーン樹脂製品(パッキン、シーリング材など)、樹脂製品の添加剤などからシロキサンガス(微細なシロキサン粒子も含む)が発生すると考えられる。そして、発生したシロキサンガスは、装置内で重合又は酸化され、凝集により固体粒子となり、磁気ディスク、磁気ヘッド等に付着し、電気的及び/又は機械的な不具合(導通不良、磁気ヘッドの移動不良、磁気ディスクの読み取り不良など)の原因となる。
【0043】
しかし、本発明の吸着剤又はフィルタを上記電子機器などに適用することにより、装置内に発生又は存在するシロキサンガスを効率よく吸着、除去できる。また、装置の周囲に発生又は存在するシロキサンガスが、装置内に流入しても、効率よく除去できる。なお、上記のような電子機器において、吸着剤又はフィルタの配設位置は、特に制限されず、例えば、空気の導入口、冷却ファンの下流、排気口などであってもよい。
【0044】
また、接着剤、シリコーン樹脂製品からのシロキサンガスを吸着するための空気清浄装置(又はフィルタ)などにも適用できる。さらに、本発明の吸着剤又はフィルタは、汚泥処理により発生するシロキサンガスの除去剤又は除去フィルタなどとしても使用できる。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明の吸着剤又はフィルタは、シロキサンガスを効率よく吸着除去できるため、磁気ディスクなどを搭載した各種電子機器(例えば、コンピュータ、電子複写機、ファックス、複合機などのハードディスクドライブ、ディスクエンクロージャーなど)など]に適用できる。また、下水、汚泥などから発生するシロキサンガスの除去剤又は除去フィルタ、空気清浄用フィルタなどとしても有用である。
【実施例】
【0046】
以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0047】
実施例1〜6及び比較例1
メタン65容量%、二酸化炭素35容量%、及びオクタメチルトリシロキサン60.0ppm(容積基準)を含むガスを、0.7L/分の流量で、表1に示す活性炭素繊維の原綿0.3gに、通過させた。原綿を通過後のシロキサン濃度を、赤外吸収式のシロキサン分析装置((株)堀場製作所製)を用いて測定し、活性炭素1g当たりのシロキサン吸着量を算出した。また、破過時間及び破過流量をタイマーマスフローメータにより測定した。
【0048】
なお、比較例として、活性炭繊維の原綿に代えて、粒状活性炭0.3gを用いる以外は、実施例と同様に、評価を行った。
【0049】
また、活性炭の平均細孔直径、細孔半径分布ピーク、細孔半径0.2〜1.8nmの細孔の積算細孔容積、及びBET比表面積は、自動比表面積/細孔分布測定装置(島津・マイクロメリティク製、TRISTAR3000型)で測定し、平均繊維径は、顕微鏡法により測定した。
【0050】
実施例及び比較例の結果を表1に示す。
【0051】
【表1】

【0052】
表1から明らかなように、粒状活性炭を用いた比較例に比べ、活性炭素繊維を用いた実施例では、シロキサンガスに対して高い吸着効果が得られた。また、実施例では、吸着効果が高いにも拘らず、比較例に比べて、破過時間、及び破過流量を顕著に改善できた。
【0053】
実施例7
実施例2と同様の活性炭素繊維の原綿を叩解し、長さ3mmにカットし、このカットした活性炭素繊維とパルプとバインダーとを60:25:15の割合(重量比)で、水に混合して懸濁させ、スラリーを得た。このスラリーを、漉き網を用いて、均一目付重量になるように、連続的に抄紙し、脱水し、乾燥させて、シート(ペーパー)状濾材(活性炭素繊維混入量:80g/m;重量0.204g;厚み0.665mm)を得た。
【0054】
得られたシート状濾材を用いて、空気中のオクタメチルトリシロキサンを吸着させた。すなわち、オクタメチルトリシロキサン30ppm(重量基準)を含む空気を、0.5L/分の流量で、上記シート状濾材に通過させた。濾材を通過後のシロキサン濃度を実施例1〜6と同様に測定し、活性炭素1g当たりのシロキサン吸着量を算出したところ、0.176g/gであった。このように、混在するシロキサンガスでも効果的に吸着できることが確認された。また、実施例1〜6と同様に、破過時間及び破過流量を測定したところ、それぞれ、178分及び131L/0.3gであった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シロキサンガスを含む被処理ガスと接触させて、前記シロキサンガスを吸着して除去するための吸着剤であって、活性炭素繊維で構成されているシロキサンガス除去用の吸着剤。
【請求項2】
活性炭素繊維が、BET比表面積1,000〜3,000m/g、及びMP法による細孔半径0.2〜1.8nmの細孔の積算細孔容積0.4〜2cm/gを有している請求項1記載の吸着剤。
【請求項3】
活性炭素繊維の平均繊維径が1〜50μmである請求項1又は2記載の吸着剤。
【請求項4】
活性炭素繊維がMP法による細孔半径0.3〜0.6nmの細孔を有しており、この細孔の総容積が、MP法による細孔半径0.2〜1.8nmの細孔の積算細孔容積に対して10〜80容量%である請求項2記載の吸着剤。
【請求項5】
活性炭素繊維が、BET比表面積1,000〜2,000m/g及び平均繊維径5〜30μmを有しており、MP法による細孔半径0.2〜1.8nmの細孔の積算細孔容積が0.5〜1.5cm/gであり、MP法による細孔半径0.3〜0.6nmの細孔の総容積の合計が、前記細孔半径0.2〜1.8nmの細孔の積算細孔容積に対して、15〜60容量%である請求項1記載の吸着剤。
【請求項6】
活性炭素繊維のBJH法による平均細孔直径が1.6〜3.2nmである請求項1記載の吸着剤。
【請求項7】
活性炭素繊維で構成されたシートで構成されている請求項1記載の吸着剤。
【請求項8】
シロキサンガスを含む被処理ガスと接触させて、前記シロキサンガスを吸着により除去するためのフィルタであって、活性炭素繊維で構成されたシートを備えているシロキサンガス除去用のフィルタ。
【請求項9】
請求項1記載の吸着剤に、シロキサンガスを含む被処理ガスを接触させて、シロキサンガスを除去する方法。

【公開番号】特開2008−55318(P2008−55318A)
【公開日】平成20年3月13日(2008.3.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−235351(P2006−235351)
【出願日】平成18年8月31日(2006.8.31)
【出願人】(591147694)大阪ガスケミカル株式会社 (85)
【出願人】(000000284)大阪瓦斯株式会社 (2,453)
【Fターム(参考)】