説明

シロキサンマトリクスポリマー及びそれを含むSPD光弁フィルム

懸濁粒子デバイス(SPD)光弁の光調節ユニットとして使用するのに適するフィルム。前記フィルムは、屈折率が1.4630より大きいシロキサンマトリクスポリマー物質を含み、マトリクス内に分布した光弁懸濁液の液滴を有する。前記光弁懸濁液は、好ましくはポリアルキルアクリレート(メタクリレート)及び/又はフッ素化アクリレート(メタクリレート)懸濁化ポリマーを含み、任意に1種以上の非高分子液体を含みうる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光弁(ライトバルブ)のような懸濁粒子デバイスにおいて使用するための改良されたフィルムに関する。特に本発明は、1.4630より大きい屈折率を有するシロキサンマトリクスポリマーを用いて形成した改良されたフィルム及び本発明の改良されたフィルムを含む光弁に関する。
【背景技術】
【0002】
光を調節するための光弁は、60年間以上公知である。その間それらは、場合に応じて透過又は反射される光の量を調節するために、例えば英数字表示用ディスプレイ及びテレビのディスプレイ、ランプ用フィルター、カメラ、光学繊維及びディスプレイ、及び窓、サンルーフ、サンバイザー、メガネ、ゴーグル、鏡等を含む多くの用途における使用に提案されてきた。限定するわけではないが、窓の例には、商業ビル、温室及び住宅の窓、自動車、船、列車、飛行機及び宇宙船の窓、のぞき穴を含むドアの窓、及び個室を含むオーブン及び冷蔵庫のような電気製品の窓が含まれる。本明細書に記載されているタイプの光弁は、“懸濁粒子デバイス”又は“SPD”としても知られている。
本明細書において使用されている“光弁”という用語は、少なくとも一方の壁部が透明である、小さな間隔により離隔されている2つの壁部から形成されたセルを記述する。壁部は、通常透明な導電性の塗膜の形で、その上に電極を有する。セルは光調節要素(本明細書においては“活性化物質”と呼ぶ場合もある)を含み、それは粒子の懸濁液又は粒子の懸濁液の液滴が分布しているプラスチックフィルムでもよい。
懸濁液(本明細書においては“光弁懸濁液”と呼ぶ場合もある)は、液体懸濁化媒体中に懸濁した小さな粒子を含む。電場が加えられていない場合には、懸濁液中の粒子はブラウン運動のためにランダムな位置であると仮定する。従って、セルを通過する光線は、セルの構造、粒子の種類及び濃度及び光のエネルギー含量に依存して反射されるか、透過するか吸収される。従って光弁はオフ状態では比較的暗い。しかしながら、光弁中の光弁懸濁液に電場が加えられると、粒子は整列し、多くの懸濁液においては大部分の光がセルを通過しうる。従って光弁はオン状態では比較的透明である。
【0003】
多くの用途においては、活性化物質、即ち光調節要素は懸濁液よりむしろプラスチックフィルムであるほうが好ましい。例えば、可変光透過窓として使用される光弁においては、例えば懸濁液の高い柱を提携する建築物のような静水圧効果がフィルムの使用により回避され、漏れの危険も回避されうるので、懸濁液の液滴が分布しているプラスチックフィルムのほうが懸濁液単独より好ましい。プラスチックフィルムを使用する別の利点は、プラスチックフィルムにおいては粒子が一般的には非常に小さな液滴内にのみ存在し、フィルムが電圧により繰り返し活性化されたときに顕著に凝集しないということである。
本明細書において使用されている“光弁フィルム”という用語は、フィルム中又はフィルムの一部中に粒子の懸濁液の液滴が分布しているフィルムを言及する。
米国特許第5,409,734号明細書は、均質溶液の相分離により製造された一種の光弁フィルムを例示する。乳濁液の架橋により製造された光弁フィルムも公知である。ともに本発明の譲受人に譲渡された米国特許第5,463,491号及び同第5,463,492号明細書を参照されたい。
以下は、先行技術において公知である光弁懸濁液の簡単な限定されない記載である。
種々の光弁懸濁液が当業者には公知であり、そのような懸濁液は当業者に公知の技術に従って容易に配合しうる。“光弁懸濁液”という用語は、前述のように、本明細書において使用する場合には複数の小さな粒子が分散している“液体懸濁化媒体”を意味する。“液体懸濁化媒体”は、好ましくは、粒子の凝集する傾向を低下させてそれらを分散させたまま懸濁状態に保持するように作用する高分子安定剤が1種以上溶解している非水性の電気絶縁性液体を1種以上含む。
【0004】
本発明において有用な光弁懸濁液は、粒子を懸濁させるために光弁において使用するのにすでに提案されているいわゆる“先行技術の”液体懸濁化媒体のいずれかを含みうる。本発明において有用な先行技術において公知の液体懸濁化媒体には、限定するわけではないが、米国特許第4,247,175号、同第4,407,565号、同第4,772,103号、同第5,409,734号、同第5,461,506号及び同第5,463,492号明細書に開示されている液体懸濁化媒体が含まれる。特に、本明細書に記載されているようにポリアルキルアクリレート(メタクリレート)及び/又はフッ素化アクリレート(メタクリレート)懸濁化ポリマーを含む懸濁化媒体を使用して形成された懸濁液が本発明において使用するのに好ましい。一般的には、懸濁化媒体又は典型的にはそれに溶解している高分子安定剤の一方又は両方は、懸濁粒子が重力との平衡状態を保持するように選択される。
使用する場合には、高分子安定剤は、粒子の表面とは結合するが、液体懸濁化媒体を含む非水性液体に溶解する1種類の固体ポリマーである。あるいは、高分子安定剤系として作用する2種以上の固体高分子安定剤でもよい。例えば、結果的に粒子に平滑な表面塗膜を提供するニトロセルロースのような第一の種類の固体高分子安定剤を、第一の種類の固体高分子安定剤と結合するか提携し、液体懸濁化媒体中に溶解して粒子の分散及び立体的保護を提供する1種以上の追加の種類の固体高分子安定剤とともに粒子に塗布しうる。例えば米国特許第5,463,492号明細書に記載されているように、特にSPD光弁フィルムにおいては、液体高分子安定剤も有利に使用しうる。
光弁懸濁液には無機及び有機粒子を使用でき、そのような粒子は電磁スペクトルの可視部分において光吸収又は光反射のいずれでもよい。
【0005】
従来のSPD光弁は、一般的にはコロイド寸法の粒子を使用する。本明細書において使用する“コロイド”という用語は、一般的には最大寸法の平均が約1μm以下の粒子を意味する。好ましくは、SPD光弁懸濁液において使用する又は使用するつもりの多くのポリハライド又は非ポリハライドタイプの粒子は、光散乱を非常に低く保持するために最大寸法の平均が0.3μm以下であり、更に好ましくは青色光の波長の2分の1未満、即ち2000Å未満であろう。
本発明の譲受人に譲渡された米国特許第6,416,827 B1号(“'827特許”)明細書に記載されているような、屈折率(RI)が1.455〜1.463のシロキサンマトリクスポリマーを含むSPDフィルムを使用するために生じる利点にもかかわらず、そのようなフィルムは依然としてある種の欠陥を免れない。そのようなフィルムに関する関心事の特別の分野の一は、種々の天候条件における性能能力(即ち本明細書においてはフィルムの“耐候性”と呼ぶ)である。特に、'827特許明細書に従って製造されたシロキサンマトリクスポリマー及びポリアルキルアクリレート(メタクリレート)及び/又はフルオロアルキルアクリレート(メタクリレート)懸濁化ポリマーを含む光弁フィルムは、Atlas Ci 4000 Weather-Ometer(イリノイ州シカゴにあるAtlas Electric Devices Company)を用いてそのようなフィルムに適用された促進耐候試験条件に長時間暴露されたときに、フィルムの色の変化、光の透過範囲における損失及びオフ状態の光の透過における増加を示すことが知られている。いずれかの特別な理論により縛られることは望まないけれども、本発明の発明者は、そのようなフィルムの形成において使用されるマトリクスポリマーのフェニル含量が、光弁懸濁液内のポリヨーダイド結晶に対して妥当な紫外光(UV)保護を提供するのに不十分であると仮定した。前記結晶はWeather-Ometerにおいて遭遇する条件下ではもともとUV暴露に対して不安定であるため、前述のような色の変化、光の透過範囲における損失及びオフ状態の光の透過における増大を生ずる。フェニル基が紫外光領域で強い吸収を示すことは公知である。従って、マトリクスポリマーのフェニル含量を増大させると、本明細書に教示されているようにそれによりその屈折率(“RI”)が増大し、それを用いて製造したフィルムは、種々の耐候試験条件に暴露されたときに前述の問題を防ぎ、より良好な性能となるであろう。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従って、SPD光弁の光調節要素として使用するための改良されたフィルムを提供することが本発明の目的である。フィルムは、フェニル基の割合を増大させたシロキサンマトリクスポリマー(即ち、'827特許明細書に開示されているフィルムにおいて見いだされるフェニル基の相対的な割合と比較して)の架橋により形成される。対象ポリマー中のフェニル基の含量を増大させた結果として屈折率が1.4630より大きいシロキサンマトリクスポリマーが形成される。
【課題を解決するための手段】
【0007】
従って、本発明は懸濁粒子デバイス(“SPD”)光弁の光調節ユニットとして使用するための改良されたフィルムを提供する。フィルムは、フェニル含量を増大させた(即ち、先行技術と比較して)シロキサンマトリクスポリマーを含むので、その中に光弁懸濁液の液滴が分布するマトリクスポリマーの屈折率は1.4630より大きく、液体光弁懸濁化媒体はポリアルキルアクリレート(メタクリレート)及び/又はフッ素化アクリレート(メタクリレート)懸濁ポリマーを含む。
別の実施態様においては、本発明による光弁に使用するための液体光弁懸濁化媒体には、本明細書に記載したような1種以上のポリアルキルアクリレート(メタクリレート)及び/又はフッ素化アクリレート(メタクリレート)懸濁化ポリマーのほかに、限定するわけではないが、米国特許第4,247,175号、同第4,407,565号、同第4,772,103号、同第5,409,734号、同第5,461,506号及び同第5,463,492号明細書のいずれかに記載されているような“先行技術の”非高分子液体懸濁化媒体が1種以上含まれる。
別の実施態様においては、本発明はその上、懸濁粒子デバイス光弁の光調節ユニットとして使用するのに適する前述のようなフィルムであって、架橋ポリマーマトリクスを製造するために前記フィルムの形成時に架橋する、1.4630より大きい屈折率を有するマトリクスポリマーを含むフィルムを提供する。フィルムは架橋マトリクス内に分布した光弁懸濁液の液滴を有し、懸濁液はポリアルキルアクリレート(メタクリレート)及び/又はフッ素化アクリレート(メタクリレート)懸濁化ポリマーからなり、任意に1種以上の前述のような先行技術の非高分子液体懸濁化媒体を含む。
【0008】
本発明は更に、一対の対向する離隔したセル壁部及びセル壁部間の光調節要素を含み、前記光調節要素が本明細書に記載されているような本発明に従って製造されたフィルムを含む光弁を提供する。
本発明はその上、放射線の透過を制御するために適用される電気光学デバイスを提供する。デバイスは、対向するセル壁部で形成されたセル、セル壁部間に位置する光調節要素及びセル壁部と連携して作用する対向する電極手段を含む。光調節要素はマトリクスポリマー物質(RI>1.4630)からなるフィルムを含み、ポリマーマトリクス中には光弁懸濁液の液滴が分布している。電極手段は、懸濁液に電場を加えるために適用されている。
本発明は更に、懸濁粒子デバイス光弁の光調節ユニットとして使用するのに適するフィルムを調製する方法を提供する。方法は、ある量のマトリクスポリマー(RI>1.4630)を調製して、少なくともマトリクスポリマー物質の一部とある量の光弁懸濁液の組み合わせから乳濁液を形成することを伴う。懸濁液は液体光弁懸濁化媒体中に懸濁した複数個の粒子を含み、液体光弁懸濁化媒体はポリアルキルアクリレート(メタクリレート)及び/又はフッ素化アクリレート(メタクリレート)を基剤とする懸濁化ポリマーを含む。
本発明の方法はその上、マトリクスポリマーを凝固させ、架橋したポリマーマトリクス中に光弁懸濁液の液滴が分布したフィルムを製造するためにポリマーマトリクスを架橋することを含みうる。
【0009】
シロキサンを基剤とするマトリクスポリマー、即ち、本明細書においてRI>1.4630を有する複数個のシロキサン基を含むマトリクスポリマーとして定義されたマトリクスポリマーを用いて形成されたフィルムを懸濁粒子デバイスに含むと、先行技術と比較して改良された耐候性並びに、増大した乳濁液安定性のようなその他の改良された性能を有する光弁が提供されると判断された。前述のマトリクスポリマーは、ポリマーをいずれかの非高分子液体と組み合わせることにより及び/又はマトリクスポリマーの屈折率の0.005以内の屈折率のポリマーを懸濁することにより乳濁液を形成するのに使用しうる。マトリクスポリマーは不混和性であり、乳濁液は液体光弁フィルムを形成するために更に処理してもよい。
従って、本発明は、第一の実施態様においては、懸濁粒子デバイス(SPD)光弁の光調節ユニットとして使用するのに適するフィルムを含む。フィルムは、マトリクス内に光弁懸濁液の液滴を懸濁させたシロキサンを基剤とするマトリクスポリマー物質を含み、マトリクスポリマーはRI>1.4630を有する。
第二の実施態様においては、本発明のフィルムを形成するのに使用されるポリマーマトリクスは、実質的にその中に分布する光弁懸濁液とは不混和性であるシロキサンを基剤とするポリマーマトリクスを含む。シロキサンポリマーマトリクスは1.4630より大きい屈折率(“RI”)を有する。好ましくは、シロキサンポリマーの屈折率は約1.4700乃至約1.4750の範囲内である。最も好ましくは、シロキサンマトリクスポリマーの屈折率は1.4717である。この最も好ましい屈折率は、ポリ(ラウリルメタクリレート-co-HEMA)ポリマーである最も好ましい液体懸濁化ポリマーのそれに近い。
【0010】
別の実施態様においては、光弁懸濁液には更に、即ち1種以上のポリアルキルアクリレート(メタクリレート)及び/又はフッ素化アクリレート(メタクリレート)を基剤とする懸濁化ポリマーのほかに、当業者には公知の“先行技術の”非高分子液体懸濁化媒体が1種以上含まれうる。
更なる実施態様においては、マトリクスポリマー物質は、架橋ポリマーマトリクスを製造するためにフィルムの形成時に架橋される。
前述のマトリクスポリマーは、紫外線、電子線照射又は熱の使用により容易に硬化しうる。更なる実施態様においては、マトリクスポリマー物質又は乳濁液は更に、紫外線によるフィルムの硬化を容易にするために1種以上の光開始剤を含みうる。これらの光開始剤は、好ましくはα-ヒドロキシケトン及びそれらのブレンド、α-アミノケトン、ベンジルジメチル-ケタール、アシルホスフィンオキシド及びそれらのブレンド、メタロセン、ベンゾイルホルメートエステル、ベンゾインエーテル、ベンゾフェノン及びそれらの混合物からなる群から選択される。熱による硬化を使用する場合には、マトリクスポリマー又は乳濁液は1種以上の触媒を含みうる。
更なる実施態様においては、本発明は一対の対向する離隔したセル壁部をセル壁部間の光調節要素とともに含む光弁に関し、光調節要素は本明細書に記載したような、本発明に従って調製したいずれかのフィルムを含みうる。
別の実施態様においては、本発明は放射線の透過を制御するための電気光学デバイスに関し、デバイスは対向するセル壁部で形成されたセル、セル壁部間の光調節要素及びセル壁部と連携して作用する対向する電極を含む。光調節要素はフィルムを含み、フィルムは、マトリクス内に光弁懸濁液の液滴が分布したRI>1.4630のシロキサンを基剤とするマトリクスポリマーを含む。電極手段は、懸濁液に電場を加えるように適用される。光弁懸濁液は、ポリアルキルアクリレート(メタクリレート)及び/又はフッ素化懸濁化ポリマーを含む。
【0011】
任意に、前述のように、懸濁液は更に、即ち1種以上のポリアルキルアクリレート(メタクリレート)及び/又はフッ素化アクリレート(メタクリレート)懸濁化ポリマーのほかに、1種以上の“先行技術の”非高分子液体懸濁化媒体を含みうる。
前述のような電気光学デバイスの更なる実施態様においては、マトリクスポリマー物質は架橋したマトリクスポリマーを製造するためにフィルムの形成時に架橋される。
本発明は更に、別の実施態様においては、懸濁粒子デバイス光弁の光調節ユニットとして使用するのに適するフィルムを調製する方法に関する。方法は、ある量の、RI>1.4630のシロキサンを基剤とするマトリクスポリマー物質を調製することを含む。方法は更に、前述のマトリクスポリマー物質の少なくとも一部と液体光弁懸濁化媒体中に懸濁した複数個の粒子を含むある量の光弁懸濁液の組み合わせから乳濁液を形成することを含む。液体光弁懸濁化媒体は、ポリアルキルアクリレート(メタクリレート)及び/又はフッ素化懸濁化ポリマーを含む。所望であれば、前述のように、懸濁液は更に、1種以上の公知の、即ち先行技術の非高分子液体懸濁化媒体を含みうる。
本発明の方法の更なる工程は、マトリクスポリマーを凝固させて架橋ポリマーマトリクス中に光弁懸濁液の液滴が分布したフィルムを製造するために、ポリマーマトリクスを架橋することを含みうる。
【0012】
更なる実施態様においては、前記乳濁液を少なくとも実質的にフィルムに変換させるのに十分な期間十分な量の放射線又は熱に前記乳濁液を暴露させることによりポリマーマトリクスを架橋する。一実施態様においては、マトリクスポリマーを架橋するのに使用する放射線は電子線である。別の実施態様においては、使用する放射線は紫外線である。特殊な実施態様においては、ポリマーマトリクスは紫外線に暴露させることにより架橋し、架橋を容易にするために乳濁液に光開始剤を添加する。好ましい実施態様においては、光開始剤は、α-ヒドロキシケトン及びそれらのブレンド、α-アミノケトン、ベンジルジメチル-ケタール、アシルホスフィンオキシド及びそれらのブレンド、メタロセン、ベンゾイルホルメートエステル、ベンゾインエーテル、ベンゾフェノン及びそれらの混合物からなる群から選択される。
更に別の実施態様においては、当業者に公知のラジカル開始剤を使用してマトリクスポリマーを架橋するのに熱を使用する。
本明細書において引用したすべての特許及びその他の文献は、本発明を完全に理解するのに必要な程度に参考として本出願に導入されている。
以下の実施例は、本発明を明らかにする目的のためにのみ提供され、いずれにしても本発明の限定と解釈されるべきではない。すべての部及び%は、特に指示がない限り質量に基づく。
【実施例1】
【0013】
屈折率が1.4717のマトリクスシロキサンコポリマーの合成
1Lの反応釜に、90gの(予め蒸留及び精製した)ジシラノール末端ジメチル(82〜86%)ジフェニル(14〜18%)シロキサンコポリマー(本明細書においては“コポジシラノール”と呼ぶ場合もある)、10gの3-アクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン及び400mLのヘプタンを入れた。反応釜に2個のDean-Stark(“D-S”)トラップを取り付け、第三の口から機械的攪拌デバイスを導入した。釜の蓋にある第四の口は、反応の進行を追跡するためのアリコートを取り出すための隔壁で覆った。反応釜の内容物を還流させ、触媒を添加せずに90分間還流させた。D-Sトラップにおける水の回収により明らかなように、いくらか縮合が起こった。触媒、即ち、錫(II) 2-エチルヘキサノエート、(0.03g)を10mLのヘプタンに溶解させたものをシリンジにより隔壁から釜に導入した。シロキサンモノマー間の縮合を105分間継続させ、この時点で60mLのトリメチルメトキシシランを反応釜に導入した。この末端をキャップする反応を120分間進行させ、そのあと反応釜を迅速に冷却させた。
450mLのエタノールを2Lのビーカーに入れ、生温かい反応混合物をビーカーに添加して攪拌した。ビーカーを50mLのヘプタンで洗浄し、洗液もビーカーに入れた。ビーカーの内容物を十分に攪拌し、攪拌しながら450mLのメタノールを導入した。ビーカーの内容物を約15分間攪拌して2Lの分液漏斗に移した。数時間後に層分離が起こり、底部の澄んだ層を回転エバポレータにより蒸発させ、分別されたシロキサンマトリクスポリマーを回収した。回転蒸発温度は70℃以下であるのが好ましい。回転蒸発後の収量は75.2gであった。
【0014】
次いで、マトリクスポリマーを短路蒸留ユニット(イリノイ州ジョリエットにあるUIC製)に通した。短路蒸留ユニットの条件は、100℃、2.6バール(2mTorr)及び50回/分(ワイパー・ローラーに関して)であった。供給速度は約60g/時間であった。
短路蒸留したマトリクスポリマーの粘度は35,540cPであり、RIは1.4717であった。数平均分子量(“Mn”)は7970であり、多分散性(“D”)は2.8であった。
前述のマトリクスポリマーの合成において、未精製のコポジシラノールを使用する場合には、分別を2回実施するのが好ましい。使用するメタノール及びエタノールの総体積はヘプタンの体積の2倍量であり、エタノールの体積比は各分別に関してメタノールの体積の3倍であろう。
【実施例2】
【0015】
オクチルメタクリレート(“OMA”)/2-ヒドロキシエチルメタクリレート(“HEMA”)コポリマーの合成
250mLの三口フラスコに、17.85g(0.090モル)のOMA、1.30g(0.01モル)のHEMA及び2gの1-ヘキサンチオールを移した。次いで20mLのトルエンをフラスコに添加した。内容物を電磁棒及び適する攪拌デバイスで十分に攪拌した。加熱を開始する前に約10分間フラスコの内容物を窒素で泡立て、重合反応が終了するまで泡立ちを継続した。顕著な発熱はなかった。フラスコを60℃に加熱した。この温度で0.20gの2,2′-アゾビスイソブチロニトリル(“AIBN”)ラジカル開始剤を10mLのトルエンに溶解させた溶液として導入した。温度を60℃に18時間保持し、次いでフラスコの内容物を約2時間還流した。次いで減圧下100℃で回転蒸発させることによりポリマーを回収した。
ポリマーを、200℃、2.6バール(2mTorr)及び350回/分のワイパー・ローラーの短路蒸留ユニットに通した。精製したポリマーの収量は14.39g(理論値の75%)であり、ポリマーのRIは1.4738であった。Mnは1530であり、Dは1.60であった。
【実施例3】
【0016】
ラウリルメタクリレート(“LMA”)/HEMAコポリマーの合成
250mLの三口フラスコに、24.42g(0.096モル)のLMA、0.52g(0.004モル)のHEMA及び2gの1-ヘキサンチオールを移した。20mLのトルエンをフラスコに添加した。内容物を電磁棒及び適する攪拌デバイスで十分に攪拌した。加熱を開始する前に約10分間フラスコの内容物を窒素で泡立て、重合反応が終了するまで泡立ちを継続した。顕著な発熱はなかった。フラスコを60℃に加熱した。この温度で0.20gのAIBNラジカル開始剤を10mLのトルエンに溶解させた溶液として導入した。温度を60℃に21時間保持し、次いでフラスコの内容物を約3時間還流した。次いで減圧下100℃における回転蒸発によりポリマーを回収した。
ポリマーを、200℃、2.6バール(2mTorr)及び350回/分のワイパー・ローラーの短路蒸留ユニットに通した。精製したポリマーの収量は20.24g(理論値の80%)であった。ポリマーのRIは1.4722であり、Mnは2400、Dは1.57であった。
【実施例4】
【0017】
n-ヘキシルメタクリレート(“HMA”)/HEMAコポリマーの合成
250mLの三口フラスコに、32.36g(0.19モル)のHMA、1.30g(0.01モル)の2-ヒドロキシエチルメタクリレート及び2.5gの1-ヘキサンチオールを移した。40mLのトルエンをフラスコに添加した。内容物を電磁棒及び適する攪拌デバイスで十分に攪拌した。加熱を開始する前に約10分間フラスコの内容物を窒素で泡立て、重合反応が終了するまで泡立ちを継続した。顕著な発熱はなかった。フラスコを60℃に加熱した。この温度で0.15gのAIBNラジカル開始剤を10mLのトルエンに溶解させた溶液として導入した。温度を60℃に60時間保持し、次いで反応混合物を室温に冷却した。減圧下100℃における回転蒸発によりポリマーを回収した。
ポリマーを、200℃、2.6バール(2mTorr)及び350回/分のワイパー・ローラーの短路蒸留ユニットに通した。精製したポリマーの収量は22.4g(理論値の69%)であった。ポリマーのRIは1.4750であり、Mnは約1700、Dは1.62であった。
屈折率が約1.471のポリマー物質を用いたSPDフィルムの調製
【実施例5】
【0018】
0.002gのIrgacure 819(Ciba Specialty Chemicals)光開始剤(“PI”)を2mLのクロロホルムに溶解させ、1gの実施例1において記載したマトリクスポリマーに添加した。PI溶液をマトリクスポリマーと十分に混合し、混合物を60℃で30分間真空オーブン中に置くことにより溶剤クロロホルムを除去した。これに、ラウリルメタクリレート/HEMA懸濁化ポリマー(0.56g、実施例3で合成したもの)を含む0.62gのポリヨーダイド結晶ペーストを添加した。得られた混合物を十分に混合し、得られた乳濁液をドクターブレードで導電性の塗膜付きポリエステル支持体上に厚さ0.0254mm(2ミル)の塗膜として塗布し、ブランクの導電性の塗膜付きポリエステル支持体と結合させて2分30秒間紫外線(8600mJ/cm2/分)を用いて硬化させた。
【実施例6】
【0019】
0.002gのIrgacure 819(Ciba Specialty Chemicals)光開始剤を2mLのクロロホルムに溶解させ、1gの実施例1において記載したマトリクスポリマーに添加した。PI溶液をマトリクスポリマーと十分に混合し、混合物を60℃で30分間真空オーブン中に置くことにより溶剤クロロホルムを除去した。これに、オクチルメタクリレート/HEMA懸濁化ポリマー(0.56g、実施例2で合成したもの)を含む0.62gのポリヨーダイド結晶ペーストを添加した。得られた混合物を十分に混合し、得られた乳濁液をドクターブレードで導電性の塗膜付きポリエステル支持体上に厚さ0.0254mm(2ミル)の塗膜として塗布し、ブランクの導電性の塗膜付きポリエステル支持体と結合させて2分30秒間紫外線(8600mJ/cm2/分)を用いて硬化させた。
【実施例7】
【0020】
0.002gのIrgacure 819(Ciba Specialty Chemicals)光開始剤を2mLのクロロホルムに溶解させ、1gの実施例1において記載したマトリクスポリマーに添加した。PI溶液をマトリクスポリマーと十分に混合し、混合物を60℃で30分間真空オーブン中に置くことにより溶剤クロロホルムを除去した。これに、ヘキシルメタクリレート/HEMA懸濁化ポリマー(0.18g、実施例4で合成したもの)、ブトキシカルボニルメチルブチルフタレート(0.27g)(“BPBG”)及びジメチルマロネート(0.07g)(“DMM”)を含む0.62gのポリヨーダイド結晶ペーストを添加した。得られた混合物を十分に混合し、得られた乳濁液をドクターブレードで導電性の塗膜付きポリエステル支持体上に厚さ0.0254mm(2ミル)の塗膜として塗布し、ブランクの導電性の塗膜付きポリエステルフィルムと場合に応じて結合させて2分30秒間紫外線(8600mJ/cm2/分)を用いて硬化させた。
【実施例8】
【0021】
0.002gのIrgacure 819(Ciba Specialty Chemicals)光開始剤を2mLのクロロホルムに溶解させ、1gの実施例1において記載したマトリクスポリマーに添加した。PI溶液をマトリクスポリマーと十分に混合し、混合物を60℃で30分間真空オーブン中に置くことにより溶剤クロロホルムを除去した。これに、ヘキシルメタクリレート/HEMA懸濁化ポリマー(0.28g、実施例4で合成したもの)、ブトキシカルボニルメチルブチルフタレート(0.24g、“BPBG”)及びジメチルテトラフルオロスクシネート(0.04g)を含む0.62gのポリヨーダイド結晶ペーストを添加した。得られた混合物を十分に混合し、得られた乳濁液をドクターブレードで導電性の塗膜付きポリエステル支持体上に厚さ0.0254mm(2ミル)の塗膜として塗布し、ブランクの導電性の塗膜付きポリエステルフィルムと場合に応じて結合させて2分30秒間紫外線(8600mJ/cm2/分)を用いて硬化させた。
前述の硬化させたフィルムの試料を、400nm以下のUV波長をほぼ完全に遮断するフィルターで両側を保護した後、Atlas Ci 4000 Weather-Ometerに入れた。Society of Automotive Engineers(“SAE”)Standard kJ-1960暴露条件(試験の湿度部分を除く)に暴露させた後、電圧を加える前後の光透過試験のためにGardner color sphere(メリーランド州コロンビアにあるBYK Gardner製)に試料を入れた。以下の表において、“Toff”は400Hzの周波数において電圧を加える前の光透過値を言及し、“Ton”は50Vを加えた後の光透過値を言及する。“ΔT”値は“オン”及び“オフ”状態の透過値の差を言及する。“ΔE”値は、0時間の値と比較した“オフ”又は“オン”のいずれかの状態の時間“T(時間)”における透過値の差及びいずれかの色変化を言及する。ΔE値が低いほど試験条件下のフィルムの性能は良好である。RIが1.4717のマトリクスで製造したフィルムのほうが耐候性試験において有意に良好であることが以下の表に示される値から明らかである。
【0022】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
懸濁粒子デバイス(SPD)光弁の光調節ユニットとして使用するのに適するフィルムであって、マトリクスポリマー物質を含み、マトリクス中に光弁懸濁液の液滴が分布しているフィルムにおいて、前記マトリクスポリマー物質が、シロキサンを基剤とし、1.4630より大きい屈折率(RI)を有するフィルム。
【請求項2】
前記マトリクスポリマー物質が、架橋ポリマーマトリクスを製造するために前記フィルムの形成時に架橋される請求項1記載のフィルム。
【請求項3】
懸濁粒子デバイス(SPD)光弁の光調節ユニットとして使用するのに適するフィルムであって、マトリクスポリマー物質を含み、前記マトリクスポリマー物質が、1.4630より大きいRIを有し、架橋ポリマーマトリクスを製造するために前記フィルムの形成時に架橋され、架橋マトリクス内に光弁懸濁液媒体の液滴が分布しているフィルムにおいて、前記光弁懸濁液媒体がポリアルキルアクリレート(メタクリレート)及び/又はフッ素化アクリレート(メタクリレート)懸濁化ポリマーを含むフィルム。
【請求項4】
前記ポリマーマトリクスが、実質的に液体光弁懸濁化媒体と不混和性であるシロキサンマトリクスポリマーを含む請求項1又は3記載のフィルム。
【請求項5】
前記シロキサンマトリクスポリマーが、1.4700乃至1.4750の屈折率を有する請求項4記載のフィルム。
【請求項6】
前記シロキサンマトリクスポリマーの屈折率が、1.4717である請求項5記載のフィルム。
【請求項7】
前記マトリクスポリマー物質が、紫外線による前記フィルムの硬化を容易にするために光開始剤を更に含む請求項2又は3記載のフィルム。
【請求項8】
前記光開始剤が、α-ヒドロキシケトン及びそれらのブレンド、α-アミノケトン、ベンジルジメチル-ケタール、アシルホスフィンオキシド及びそれらのブレンド、メタロセン、ベンゾイルホルメートエステル、ベンゾインエーテル、ベンゾフェノン及びそれらの混合物からなる群から選択される請求項7記載のフィルム。
【請求項9】
一対の対向する離隔したセル壁部及び前記セル壁部間の光調節要素を含む光弁において、前記光調節ユニットが、請求項1又は3記載のフィルムを含む光弁。
【請求項10】
放射線の透過を制御するための電気光学デバイスであって、対向するセル壁部で形成されたセル、前記セル壁部間の光調節要素、及び前記セル壁部と連携して作用する対向する電極手段を含み、前記光調節要素がフィルムを含み、前記フィルムがRI>1.4630のシロキサンマトリクスポリマーを含み、マトリクス内に分布する光弁懸濁液の液滴を有し、前記電極手段が前記懸濁液に電場を加えるようになっている電気光学デバイスにおいて、前記光弁懸濁液が、ポリアルキルアクリレート(メタクリレート)ポリマー、フッ素化アクリレート(メタクリレート)ポリマー及びそれらの混合物からなる群から選択されるポリマーを含む電気光学デバイス。
【請求項11】
前記マトリクスポリマー物質が、架橋ポリマーマトリクスを製造するために前記フィルムの形成時に架橋される請求項10記載の電気光学デバイス。
【請求項12】
前記ポリマーマトリクスが、実質的に液体光弁懸濁化媒体と不混和性であるRI>1.4630のシロキサンマトリクスを含む請求項10又は11記載の電気光学デバイス。
【請求項13】
前記シロキサンマトリクスポリマーが、1.4700乃至1.4750の屈折率を有する請求項12記載の電気光学デバイス。
【請求項14】
前記シロキサンマトリクスポリマーの屈折率が、1.4717である請求項12又は13記載の電気光学デバイス。
【請求項15】
前記マトリクスポリマー物質が、紫外線による前記フィルムの硬化を容易にするために光開始剤を更に含む請求項12記載の電気光学デバイス。
【請求項16】
前記光開始剤が、α-ヒドロキシケトン及びそれらのブレンド、α-アミノケトン、ベンジルジメチル-ケタール、アシルホスフィンオキシド及びそれらのブレンド、メタロセン、ベンゾイルホルメートエステル、ベンゾインエーテル、ベンゾフェノン及びそれらの混合物からなる群から選択される請求項15記載の電気光学デバイス。
【請求項17】
懸濁粒子デバイスの光調節ユニットとして使用するのに適したフィルムを調製する方法であって、
シロキサンマトリクスポリマー物質を調製する工程、
RI>1.4630のシロキサンマトリクスポリマー物質の少なくとも一部と、光弁懸濁液との組み合わせから乳濁液を形成する工程であって、前記懸濁液が、液体光弁懸濁化媒体中に懸濁した複数個の粒子を含み、光弁懸濁液が、ポリアルキルアクリレート(メタクリレート)、フルオロアクリレート(メタクリレート)懸濁化ポリマー又はそれらの混合物を含む工程、及び
ポリマーマトリクスを架橋して、実質的にマトリクスポリマーを凝固させ、かつ架橋したポリマーマトリクス内に光弁懸濁液の液滴が分布したフィルムを製造する工程、
を含むことを特徴とする方法。
【請求項18】
前記ポリマーマトリクスを、前記乳濁液を少なくとも実質的にフィルムに変換させるのに十分な期間十分な量の熱又は放射線に前記マトリクスポリマー乳濁液を暴露させることにより架橋する請求項17記載の方法。
【請求項19】
前記放射線が電子線又は紫外線である請求項18記載の方法。
【請求項20】
前記ポリマーマトリクスを紫外線に暴露させることにより架橋し、前記方法が前記ポリマーマトリクスの架橋を容易にするために前記乳濁液に光開始剤を添加することを更に含む請求項19記載の方法。
【請求項21】
前記光開始剤が、α-ヒドロキシケトン及びそれらのブレンド、α-アミノケトン、ベンジルジメチル-ケタール、アシルホスフィンオキシド及びそれらのブレンド、メタロセン、ベンゾイルホルメートエステル、ベンゾインエーテル、ベンゾフェノン及びそれらの混合物からなる群から選択される請求項20記載の方法。
【請求項22】
前記熱架橋が、前記ポリマーマトリクスの架橋を容易にするために前記乳濁液にラジカル開始剤を添加することを更に含む請求項18記載の方法。

【公表番号】特表2007−520577(P2007−520577A)
【公表日】平成19年7月26日(2007.7.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−517291(P2006−517291)
【出願日】平成16年6月16日(2004.6.16)
【国際出願番号】PCT/US2004/019076
【国際公開番号】WO2004/111708
【国際公開日】平成16年12月23日(2004.12.23)
【出願人】(591215041)リサーチ フロンティアーズ インコーポレイテッド (14)
【Fターム(参考)】