説明

シングルリード楽器のリード検査装置

【課題】リードの表面と裏面の特性の比較、左右のバランス及び標準品と比較した硬さの特性を客観的な指標で表示する。
【解決手段】回転テーブル2上にホルダガイド11を設け、このホルダガイド11に着脱自在にホルダ10を装着する。ホルダ10は検査対象のリードRを保持する。ホルダ10を反転させて、リードRの裏と表の検査を行う。リードRの表面に探針20を一定の圧力で接触させ、回転テーブル2を回転させながら探針20の変形度を変位センサ30で検出する。変位センサ30からリードRの幅方向の剛性分布が得られる。表側の特性グラフと裏側の特性グラフの反転グラフとを一画面に表示することで表裏の剛性分布特性を検査する。表側と裏側の特性グラフをそれらの反転グラフと重ねあわせてできる面積から、バランス指標を計算する。検査対象のリードの表裏の特性の積分値と、標準品のリードの表裏の特性の積分値に基いて固さ指標を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シングルリード楽器におけるリードの検査装置に関する。
【背景技術】
【0002】
木管リード楽器におけるリードの良否は楽器の音色、応答性等を決定的に支配し、演奏の良否を左右する極めて重要な要素である。クラリネット族やサクソフォーン族等のシングルリード楽器のリードは様々なメーカから市販されており、大部分の演奏家はこれを利用している。しかし、メーカ同一ロット品であっても、演奏会でそのまま使用できるものは少なく、大部分は雑音を伴ったり、小さな音から大きな音まで自由に制御し辛かったり、吹き込んだ息の割に鳴りが悪かったり、低音域や、高音域で鳴りが悪かったり、或いはこれらの不具合が複合している等で、不満足なものが大半である。
【0003】
演奏家はその中からある程度満足できるものを選び出して不満を抱えながら使用しているか、経験に基づいて何らかの調整を加える演奏家もいるが、その経験は楽器の演奏技能に似て、文書化して伝えられたものは少なく、具体的で、誰にも通用する普遍的な方法は知られていなかった。
【0004】
鳴りの良いリードを選び出す指標としては、リードの繊維(維管束)が真っ直ぐ通っていて、中央から振動端にかけて厚みの変化が滑らかであるもの等が僅かに示されている。
【0005】
この様な指標は市販の製品は殆ど満足しているが、楽器に取り付けて試奏してみると種々不具合を抱えていることが分かる。偶然良いリードが見つかり、これと他の不満足なリードとを見比べてみても、有意な差を肉眼で見いだすことは困難である。厚さ分布に関してはマイクロメータ等を使用して広く多数点を計測して等高線図を描く方法はあるが、手軽に行える方法ではなかった。
【0006】
リードの良否は結局リードを楽器に取り付けて試奏して見ることが唯一の判定方法であった。不満足なリードを満足なリードに調整する方法は種々説かれてはいるが、その殆どは人の感覚に依存するものであり、不安定で客観性に乏しく、調整を試みた結果、却って他の点でもっと重大な不具合を招来してしまうことの方が多く、リードの大部分は失敗して捨て去られていた。
【0007】
これを解決する手法として、出願人は、特許文献1に記載の「シングルリード楽器のリード剛性分布検査装置」を提案した。この発明は、
(1) シングルリード楽器のリード振動端を浮かせた状態で固定するテーブルと、
(2) 固定されたリードに垂直方向から力を加えて剛性を検知する探針と、
(3) リード上の探針接触位置を前後左右に移動させる機構と、
(4) 移動位置を読み取る手段と、
を備えたことを特徴とするものである。
【0008】
この特許文献1の発明は、鳴りの良いリードは振動先端領域の剛性分布特性がリードの中心軸に対してほぼ左右対称で、且つなだらかに分布しているという出願人の知見に基づき、検査対象のリードが、この条件を満足するか否か、そして如何なる部分が条件に反するかを検査装置によって指摘するものである。
【0009】
この発明によれば、従来リードを楽器に取り付けて試奏することでしかできなかった良否判定を、試奏することなく可能となり、不具合なリードにおいては、秘められた原因箇所を探し出し、改善に必要な調整箇所を明示できるので、大部分の従来使えないで廃棄対象となっていたリードを人前での演奏にも使えるものに改善できる。特に、リードの剛性分布の様相を機械的に検出して客観的に明らかできるため、誰でもリードの可否を判別できる利点がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特許第4022248号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
特許文献1の発明は、リード検査装置としては従来に例を見ない画期的なものである。しかし、出願人は、この特許文献1の発明に更に改良を加えることを試み、次のような着想を得た。
(a) 特許文献1の発明は、リードの表側からの剛性分布特性を検査しているが、裏側についても同様な検査が行えないか。
(b) リードの剛性分布特性は、リードの左右でバランスが取れていることが望ましいが、バランスに関する客観的な指標を検査結果として提示できないか。
(c) 検査対象のリードの剛性(硬さ)が、基準品のリードに対してどの程度合致しているかという客観的な指標を、検査結果として提示できないか。
【0012】
本発明は、前記のような着想に基づいて提案されたものである。すなわち、本発明の目的は、前記(a) 〜(c) の技術的課題を解決したシングルリード楽器のリード検査装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
前記の目的を達成するために、本発明のシングルリード楽器のリード検査装置は、リードの剛性分布特性を、リードの表面及び裏面の双方について検出する変位センサと、この変位センサによって作成した表面及び裏面の特性グラフを一画面上に表示することを特徴とする。
また、リードの表面または裏面について得られた特性グラフと、この特性グラフの左右を反転して得られた特性グラフとを重ね合わせ、作成された特性グラフとその反転した特性グラフとの差違を定量的に判定し、リードの左右のバランスについての指標を出力することも、本発明の一態様である。
更に、基準となるリードと検査対象のリードの特性を比較し、その結果を定量的に表示することも、本発明の一態様である。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、リードの表面と裏面の特性の比較、左右のバランス及び標準品と比較した硬さの特性を客観的な指標で表示することが可能になる。その結果、より精度の高い、リードの調整や選別が可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】実施例1の機構部分を示す側面図。
【図2】実施例1の機構部分を示す平面図。
【図3】実施例1におけるリードの装着部の機構を示す拡大斜視図。
【図4】実施例1におけるリードを装着固定した状態を示す拡大斜視図。
【図5】実施例1の回路部分を示す配線図。
【図6】実施例1の装置による検査結果と、左右のバランスの指標及び標準品との比較の指標を得るための手法を示す波形図。
【図7】実施例2におけるリードの装着部を示す拡大斜視図。
【図8】実施例3の機構部分を示す拡大斜視図。
【図9】実施例4におけるリードの装着部を示す拡大斜視図。
【発明を実施するための形態】
【実施例1】
【0016】
以下、本発明の実施例1を図面に従って具体的に説明する。
[実施例1の構成]
図1は実施例1の機構部分を示す側面図、図2は同じく平面図である。図中、1は内部に本実施例の装置の駆動機構などを収納した箱形の基台である。この基台1の表面の一方の側には、円盤状をした回転テーブル2が設けられている。すなわち、基台1には、回転軸3が垂直方向に支持され、この回転軸3の上端が基台1の表面に突出している。回転テーブル2は、この回転軸3の基台1の表面から突出した部分に固定されている。回転軸3の基台1の内部に位置する部分には、ギア4が固定されている。このギヤ4に、基台1内部に設けられたロータリーポテンショメータ5の回転軸に固定されたギヤ6が噛み合っている。
【0017】
回転テーブル2の表面には、リードの固定機構が設けられている。実施例1では、この固定機構として、リードを装着するホルダ10と、このホルダ10を装着するために回転テーブル2の表面に固定されたホルダガイド11とが設けられている。ホルダガイド11は、回転テーブル2に固定されたチャンネル状(溝形)の部材で、その長さ方向の中心線は回転テーブル2の回転軸中心を通っている。
【0018】
ホルダガイド11の回転テーブル2の中心側には、四角形の目盛板2aが設けられている。この目盛板2aは、ホルダガイド11内に装着されたホルダ10の長さ方向(リードの長さ方向)の位置決めを行うものである。すなわち、目盛板2aにはリードRの中心軸と平行な多数本の直線状目盛と、回転テーブル2の中心点と同軸な複数本(図の例では5本)の半円形目盛とが記載されている。直線状目盛は、リードの中心線が回転テーブルの中心点を通るように、ホルダ10に固定したリードの長さ方向の位置決めを行うものである。半円形目盛は、りードRの先端の位置決めを行うものであり、ホルダ10をホルダガイド11に沿って前後動させることで、回転テーブル2を回転させた場合に、リードR先端に当接する探針20の軌跡がリードR先端で円弧状を描く位置に、リードRをセットするための目安になるものである。
【0019】
ホルダガイド11には、その内部に装着したホルダ10を固定するための止め具12が設けられている。この止め具12は、略U字形のレバー12aとこのレバー12aに取り付けられた押さえ部材12bとから成る。レバー12aは、U字形の両端がホルダガイド11の両側面に回転可能に支持されている。押さえ部材12bの一端は、レバー12aのU字形の中央の平らな部分に回転自在に取り付けられ、反対側の端部がホルダ10を押さえる部分になっている。
【0020】
ホルダ10は、ホルダガイド11内に隙間なくはめ込まれるチャンネル状の部材である。このホルダ10の中央部よりもやや回転軸3側の部分には、チャンネルを横切るようにリードの押さえ棒13が固定されている。この押さえ棒13と、ホルダ10のチャンネルの底面との間には、検査対象であるリードとこれを押さえる楔Wを挿入するための隙間が形成されている。
【0021】
前記基台1における回転テーブル2と反対側の部分には、探針20とその保持部材21が設けられている。すなわち、基台1の内部に、基台1の長さ方向(回転テーブル2側)に向かって伸びる2本のレール22a,22bが設けられ、このレール22a,22bに箱状をした保持部材21がスライド自在に支持されている。この保持部材21を移動させるために、保持部材21の底面にはラック21aが設けられ、このラック21aにピニオン23aが噛み合っている。このピニオン23aの支軸は、基台1の外部側面に突出しており、その突出部分にはつまみ23が設けられている。従って、このつまみ23を回転させるさせることで、ピニオン23aが回転し、ラック21aを設けた保持部材21がレール22a,22b上を前後動する。
【0022】
探針20は、一例として、先端にリードとの接触部となる球状部20aを備えた針部20bと、この針部20bの根元を挿入する支持筒20cと、この支持筒20cを固定したプラスチック製の支持板20dとから構成されている。この支持板20dに、探針20の微少な変位(角度変化)を電気信号として検出する変位センサ30が貼り付けられている。支持板20dの根元は、前記箱状の保持部材21の上面に固定されている。
【0023】
この変位センサ30の出力は、処理回路31に接続されている。この処理回路31は、前記ロータリーポテンショメータ5で作成した回転テーブル2の回転角度ごとに、探針20の変位量の変化を曲線グラフとして作成する特性グラフ作成部31aを備えている。また、処理回路31は、作成部31aが作成したした特性グラフを記憶する特性グラフ記憶部31bと、記憶された複数の特性グラフを比較演算して所望の判定結果を得るための比較演算部31cを備えている。処理回路31の出力は、比較演算部31cの演算結果をグラフあるいは数値などで表示する表示部32に接続されている。
【0024】
特性グラフ記憶部31bは、作成部31aから作成した各種の特性グラフを、例えば、
(1) 検査対象のリードの表側の特性グラフ
(2) 検査対象のリードの裏側の特性グラフ
(3) 基準品のリードの表側の特性グラフ
(4) 基準品のリードの裏側の特性グラフ
に区分して、記憶する。
【0025】
比較演算部31cは、作成部31aが作成した各特性グラフについて、次のような演算を行い、その結果を表示部32に表示する。なお、表示部32に表示する手法としては、グラフの重なった部分の面積を色分けして表示したり、面積を数値として表示したり、面積の大小を段階的な成績評価として表示することができる。
【0026】
(a) 表裏剛性分布特性
・検査対象のリードの裏側の特性グラフを左右反転させ、これを表側のグラフと同一画面上に表示する。
【0027】
(b) バランス指標
・検査対象のリードの表側の特性グラフと、これを左右反転したグラフとを重ね合わせてできる面積を、表側バランス指標として表示する。
・検査対象のリードの裏側の特性グラフと、これを左右反転したグラフとを重ね合わせてできる面積を、裏側バランス指標として表示する。
・表側バランス指標と裏側バランス指標の平均値を、表裏総合バランス指標として表示する。
【0028】
(c) 硬さ指標
・検査対象のリードの表側の特性の積分値A1と、標準品のリードの表側の特性の積分値S1との比A1/S1
・検査対象のリードの裏側の特性の積分値A2と、標準品のリードの裏側の特性の積分値S2との比A2/S2
・(A1/S1+A2/S2)/2を検査対象のリードの硬さとして表示する。
【0029】
[実施例1の作用]
このような構成を有する本実施例の作用は、次の通りである。
(1) リードのセット
検査対象であるリードRをホルダ10にセットするには、リードRの基部をチャンネル状をしたホルダ10の底面と押さえ棒13との間に挿入し、リードRとホルダ10の底面との間に楔を差し込んで固定する。この場合、リードRの振動端がホルダ10の先端(回転テーブル2の中心側)から突出するように、リードRをホルダ10に固定する。
【0030】
ホルダ10からのリードRの突出量は、リードを固定したホルダ10をホルダガイド11にセットした場合に、リードRの振動端から1mm程度入った位置に、探針20先端の球状部20aが接触する寸法とする。また、回転テーブル2の表面からリードRの振動端までの高さが、ホルダ10を上向きに置いた場合と下向きに置いた場合とで等しくなるように、前記ホルダ10の底部の肉厚、楔Wの厚さ及び押さえ棒13の位置が決定されている。
【0031】
次に、リードRを固定したホルダ10を上向きにして、ホルダガイド11内にセットする。ホルダガイド11の回転軸中心側には目盛板2aが設けられているので、この目盛板2aに設けられた目盛を基準として、ホルダ10全体をホルダガイド11内で前後動させることで、リードRの位置決めを行う。この状態で、ホルダガイド11に設けた止め具12の押さえ部材12bの先端をホルダ10の上面にあてがい、レバー12aを垂直に起こすことによって、ホルダ10をガイド11に固定する。
【0032】
この状態で、つまみ23を回転して、保持部材21をレール22a,22bに沿って移動させ、探針20の先端の球状部20aをリードRの振動端から1mm程度の位置に接触させる。この場合、探針20を、針部20bを支持するプラスチック製の支持板20dの弾力性により、所定の押圧力でリードRの表面に押し付ける。すなわち、リードRからの反力により支持板20dが変形し、支持板20dの変形度合いが変位センサ30により、電気信号として検出されるようにする。
【0033】
このように探針20とリードRとが弾力的に接触した状態で、回転テーブル2を手動で回転させると、回転テーブル2の回転角を検出するポテンショメータ5の出力と、変位センサ30による探針20の変位量が処理回路31に送信される。これらのデータを受信した処理回路31のグラフ作成部31aによって、図6(A)に示すようなリードRの表側の特性グラフが作成される。この特性グラフは、処理回路31のグラフ記憶部31bに記憶される。
【0034】
次に、リードRの裏側の特性を調べるには、止め具12を外し、リードRを固定したままホルダ10をそのガイド11から取り外し、ホルダ10の上下を反転させて、再びガイド11にセットし、止め具12で固定する。以下、同様にして、回転テーブル2を回動させながら、リードRの裏側の特性グラフを作成し、記憶部31bに記憶する。また、検査対象のリードと比較する標準品のリードについても、その表裏両面の特性を測定して、そのグラフを記憶部31bに記憶する。この記憶された各種の特性グラフを利用して、比較演算部31cにおいて、前記(a) 〜(c) に記載したリードRの特性表示に必要な演算を実施する。
【0035】
(a) 表裏剛性分布特性
比較演算部31cでは、前記のようにして得られた検査対象のリードの裏側の特性グラフをリードRの中心線から左右に反転させた特性グラフを作成し、この反転した裏側の特性グラフと、記憶部31bに記憶しておいた表側の特性グラフとを、表示部32の同一画面上に表示する。図6(B)は、表側の特性グラフと反転した裏側グラフを同一画面に重ね合わせて表示した例である。この場合、両グラフの色を変えたり、上下に並べて表示しても良い。このようにすると、リードRの性能低下を招いている維管束の存在位置が把握しやすくなる効果がある。
【0036】
(b) バランス指標
図6(C)に示すように、比較演算部31cにおいて、検査対象のリードの表側の特性グラフfdと、これを左右反転したグラフfd’とを重ね合わせてできる面積fsを、表側バランス指標として表示する。同様に、裏側の特性グラフbdと、これを左右反転したグラフbd’とを重ね合わせてできる面積bsを、裏側バランス指標として表示する。このようにして得られた表側バランス指標fsと裏側バランス指標bsの平均値(fs+fb)/2を、表裏総合バランス指標として表示する。このバランス指標は、リードの客観的指標として有意義であり、この検査データを販売するリードに添付すれば、リードの性能保証を行うことができる。
【0037】
(c) 硬さ指標
図6(D)に示すように、比較演算部31cにおいて、検査対象のリードの表側の特性の積分値A1と、標準品のリードの表側の特性の積分値S1との比A1/S1、検査対象のリードの裏側の特性の積分値A2と、標準品のリードの裏側の特性の積分値S2との比A2/S2を演算し、得られた値の平均値(A1/S1+A2/S2)/2を検査対象のリードの硬さとして表示する。
【0038】
現在、リードはメーカにより異なる指標で硬さが示されていて、異なるメーカー間では共通の基準で硬さを比較することができなかった。また、同一メーカーといえども、表示硬さが「3」であっても、実際には「2」あるいは「4」に分類されるようなものも含まれていた。そのため、異なるメーカー同士で硬さを比較するための互換表も提供されてはいても、大まかな目安でしかなかった。これに対して、本実施例によれば、客観的でばらつきのない硬さ表示ができ、リードの販売時に本実施例による検査データを添付すれば、リードの性能保証となる。更に、基準となるリードの特性データを記憶しておくことで、検査対象のリードの経時的な剛性変化も追跡できる。
【実施例2】
【0039】
図7は、本発明の実施例2におけるリードRの装着部分を示す拡大斜視図である。この実施例2では、リードRを裏返して回転テーブル2に装着する手段として、上下の2分割されたホルダ40a,40bの間にリードRの基部を挟持するものを使用している。図の例では、上方のホルダ40aにリードRの基部を挿入する凹部41が設けられ、この凹部41に装着したリードRを上下のホルダで挟持する。上下のホルダ40a,40bの両側面には、フランジ42がねじ止め、溶接、接着などの手段で固定されている。上下のホルダのフランジ42を重ね合わせた状態で、フランジ42に開口した穴43に、別途用意したクリップ44を挿入することで、上下のホルダを固定する。
【0040】
上下のホルダ40a,40b上面または下面には、一対の位置決め穴45,45が設けられ、この位置決め穴45,45にホルダガイド46の底部に設けたピン47,47をはめ込むことで、リードRを挟持したホルダの表側及び裏側の位置決めを行う。この場合、ホルダガイド46の底面に磁石48を埋設しておき、ホルダ40a,40bを鉄などの磁石に付く金属によって構成すれば、ホルダガイド46とホルダ40a,40bとの固定用の金具などを設ける必要がない。
【0041】
このホルダを使用すれば、実施例1のホルダに比較して、より簡単な構成で、リードRを反転して回転テーブル2にセットすることができる。また、ホルダをホルダガイドに位置決めしたり、反転してセットする作業も容易に行える。なお、この実施例では、ホルダとホルダガイドとは定位置に固定されるが、リードRの長さ方向の位置決めは、リードRをホルダ40aの凹部41内で前後にスライドさせることにより行うことができる。
【実施例3】
【0042】
図8は、本発明の実施例3を示す斜視図である。この実施例3は、大量のリードを連続して検査する場合に適した装置である。この実施例3では、リードRはチェーンコンベア50によって連続して搬送される。なお、図8ではリードRとチェーンコンベア50との固定手段を省略してあるが、コンベア側面に設けたポケットにリードの基部を挿入したり、コンベアに設けたクリップでリードの基部を固定することができる。
【0043】
リードRに変位を与える手段として、エアーノズル51a,51bを使用して、リードの表面及び裏面を局所的に加圧する。この場合、エアーは37℃で、湿度100%の条件が好ましい。また、リードは37℃の微温湯に3分ほど浸してから計測することが望ましい。そのため、チェーンコンベア50の経路上に温水槽を設けて、チェーンコンベアに取り付けたリードを温水槽中を通して連続的に加温、加湿することができる。なお、リードを加圧する気体としては、空気以外に窒素などを使用することもできる。
【0044】
リードRの表側及び裏側のエアーノズル51a,51bのリードRを挟んで反対側には、光学式の非接触型変位計52a,52bが設けられている。この光学式の非接触型変位計52a,52bは、リードに非接触のため摩擦の発生がなく、リードや探針の損耗がない点で優れている。この非接触型変位計としては、レーザービーム三角測量方式、光ファイバー式変位計が適用可能である。
【0045】
剛性観測点の走査軌跡は、チェーンコンベアの走行方向に沿った直線上でも良いが、図8のリードRに点線で記載したような、リードの先端より1mm程度内側によりを通る扁平率50%程度の楕円が望ましい。一般的なリードの先端部の形状に近いためと、走査をリードの幅方向の左右両方向から行うことで、ヒシテリシス差を解消することができるからである。
【0046】
この実施例3では、非接触型変位計52a,52bの出力とエアーノズルの移動軌跡データとの基づいてリードの剛性分布を示す特性グラフを作成し、前記実施例1と同様な(a) 〜(c) の表示を行う。更に、この実施例3では、剛性を検出するエアーノズル51a,51bと非接触型変位計52a,52bの後段に、検査結果に基づいて、リードの維管束を切断して、剛性分布特性を補正するための手段を設けている。図8は、維管束切断の手段として、レーザーダイオード53a,53bを用いたものである。
【0047】
このレーザーダイオード53a,53bは、検査手段で得られた特性グラフに基づいて、リードの剛性が予め定めた許容値を越えている場合や、左右のバランスが悪い場合に、その原因となっている剛性の高い維管束を切断するものである。そのため、実施例1の比較演算部31cにおいて、特性グラフ中の他の部分よりも剛性が突出している部分を、
(1) グラフの傾き度合いが他の部分に比較して特に大きな部分
(2) 特性グラフを反転させて重ねた場合に両グラフの値に一定以上の差がある部分
などの手法で検出し、その部分に相当する維管束をレーザーダイオード53a,53bにより切断する。
【0048】
このレーザーダイオード53a,53bによれば、リードに非接触で維管束を切断することができ、リードに無用な圧力を加えることがなく、リードの性能低下のおそれがない。また、非接触で切れ味が落ちないため、維管束という細かな部分の切断に適している。維管束の切り込み深さは0.1mmから、大型リードの厚い部分でも0.5mmを越えることがないので、マーキング用の低出力のレーザーダイオードの使用が可能である。
【0049】
剛性分布特性を補正するために、維管束を切断する手段としては、レーザーダイオード以外に、極小型のナイフを使用することもできる。この場合、ナイフを超音波振動させることにより、より円滑に維管束を切断することができる。
【0050】
このような構成の実施例3によれば、多量のリードの特性を連続して検査することができる。また、検査結果についても、単に表示するのみでなく、指標が適正値から外れているものについては警報を発するとか、不良品あるいは修理品として自動的にチェーンコンベア上から区分けすることが可能になる。更に、実施例3では、検査結果に従って、レーザーダイオードを使用して維管束を切断することにより、剛性分布特性を適切な値に自動的に補正することができる。その結果、切削した形を整えたリードを実施例3の装置にかけることで、剛性分布特性が適正に管理されたリードを製造することが可能になる。
【実施例4】
【0051】
本発明は、前記の実施例に限定されるものではなく、次のような他の実施例も包含する。
(1) 実施例1は、探針20を保持する部材として箱状の部材を使用したが、これに限定されるものではない。すなわち、箱状の部材に対して、上下に昇降あるいは回動自在に保持部材を取り付け、この保持部材に探針20を保持させることができる。そのようにすると、リードを回転テーブル2にセットする場合に、探針20の先端を上方に持ち上げることにより、リードと探針20先端との接触を回避して、リードの交換作業を容易に実施できる。また、測定後、探針20の先端をリードの表面から離すことで、リードに余分な負荷をかけることがなくなり、検査対象のリードの変形や特性変化を招くこともない。
【0052】
(2) 本発明において、リードを反転可能に回転テーブルに取り付ける手段としては、種々のものが使用できる。実施例1や実施例2に示す構造以外に、リードを挟持したホルダを支軸を中心として蝶番状に反転させるものや、モータなどを利用して自動的に反転させるものも使用可能である。更に、リードの供給からホルダへのセット、ホルダの反転までを自動化させることもできる。
【0053】
(3) 図9に示すように、特許文献1に記載されたリード検査装置に対して、ホルダガイド11とホルダ10を設けることで、本発明を実現することもできる。
【符号の説明】
【0054】
1…基台
2…回転テーブル
2a…目盛板
3…回転軸
4…ギア
5…ポテンショメータ
6…ギア
10…ホルダ
11…ホルダガイド
12…止め具
13…押さえ棒
20…探針
21…保持部材
21a…ラック
22a,22b…レール
23…つまみ
23a…ピニオン
30…変位センサ
31…処理回路
31a…特性グラフ作成部
31b…特性グラフ記憶部
31c…比較演算部
31…表示部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リードの幅方向についての剛性分布特性を、リードの表面及び裏面の双方について検出する変位センサと、
この変位センサの出力に基いて、リードの表面及び裏面に関するリードの剛性分布特性の変化を示す特性グラフを作成する特性グラフ作成部を備えていることを特徴とするシングルリード楽器のリード検査装置。
【請求項2】
前記特性グラフ作成部によって作成された表面と裏面の特性グラフを記憶する特性グラフ記憶部と、
前記特性グラフ作成部によって作成されたリードの裏面の特性グラフを、リードの長さ方向の中心線から左右に反転したグラフを作成する比較演算部と、
前記特性グラフ作成部によって作成された表面の特性グラフと、前記比較演算部によって作成されたリードの裏面の特性グラフを反転した特性グラフを、一画面上に表示する表示部を有することを特徴とする請求項1に記載のシングルリード楽器のリード検査装置。
【請求項3】
前記比較演算部が、リードの表面または裏面について得られた特性グラフと、この特性グラフの左右を反転して得られた特性グラフとを重ね合わせ、作成された特性グラフとその反転した特性グラフとの差違を定量的に判定し、リードの左右のバランスについての指標を出力するものであることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のシングルリード楽器のリード検査装置。
【請求項4】
前記比較演算部が、基準となるリードと検査対象のリードの特性を比較し、その結果を定量的に表示するものであることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれかに記載のシングルリード楽器のリード検査装置。
【請求項5】
リードの振動端を自由な状態としてリードの基部を保持するホルダと、このホルダを装着するホルダガイドとを備え、リードを保持したホルダが、リードの表面または裏面が上方に向くように、ホルダガイドに対して反転可能に装着されることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれかに記載のシングルリード楽器のリード検査装置。
【請求項6】
リードの剛性分布特性を検出する変位センサが、リードに対して加圧気体を吹付けるノズルと、このノズルからの圧力によるリードの変位を検出する光学式の非接触型変位計によって構成されていることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれかに記載のシングルリード楽器のリード検査装置。
【請求項7】
複数のリードを変位センサに連続的に供給するコンベアを備え、このコンベアの経路上にリードをその表面と裏面から加圧すると共に、この加圧力によるリードの表側と裏側の変位量を検出する変位センサを配置したことを特徴とする請求項1から請求項4、請求項6のいずれかに記載のシングルリード楽器のリード検査装置。
【請求項8】
変位センサの後段に、得られた特性グラフの形状に基づいてリードの維管束を切断する手段を設けたことを特徴とする請求項1から請求項7のいずれかに記載のシングルリード楽器のリード検査装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate


【公開番号】特開2011−17613(P2011−17613A)
【公開日】平成23年1月27日(2011.1.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−162327(P2009−162327)
【出願日】平成21年7月9日(2009.7.9)
【出願人】(306047527)
【Fターム(参考)】