説明

シンターケーキ支持スタンド用特殊鋼

【課題】下方吸引式焼結機の焼結パレットに設置されるシンターケーキ支持スタンドの長寿命化を図ることである。
【解決手段】シンターケーキ支持スタンド1の材料として用いられる特殊鋼の組成を、C:0.4〜0.8wt%、Si:0.2〜2.0wt%、Mn:0.1〜1.5wt%、Cr:25〜29wt%、Ni:0.2〜2.0wt%含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなるものとした。すなわち、従来鋼よりもCおよびCrの含有量を増やすことにより、硬度と耐食性を高めて耐摩耗性を向上させ、摩耗の進行を抑えるようにしたのである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、下方吸引式焼結機の焼結パレットに設置されるシンターケーキ支持スタンドの材料として用いるのに適した特殊鋼に関する。
【背景技術】
【0002】
高炉等の製鉄プロセスでは、粉鉄鉱石を焼結機で塊状に焼き固めた焼結鉱を原料として使用することが多い。図3は一般的な焼結機による焼結鉱製造工程を示す。この焼結鉱製造工程では、まず、主原料の粉鉄鉱石、副原料の石灰石および燃料のコークスを、それぞれホッパー11、12、13から切り出し、返鉱ホッパー14から切り出した返鉱とともにミキサー15で調湿、造粒して焼結原料とする。この焼結原料をサージホッパー16に搬送して一旦貯蔵した後、ドラムフィーダー17から切り出し、シュート18を介して焼結パレット19の供給部に供給することにより、焼結パレット19上に焼結原料層20を形成する。そして、焼結パレット19により搬送される焼結原料層20の表層のコークスに点火炉21で点火して、焼結原料層20の下方に空気を吸引しながらコークスを燃焼させ、この燃焼熱で焼結原料層20を上層から下層へ順次焼結していく。この焼結方法を「下方吸引式」という。このようにして焼結が完了した原料は、焼結鉱として焼結パレット19の排出部から排出される。
【0003】
上記のような下方吸引式の焼結方法をとる焼結機では、焼結原料層の上層部が下層部よりも先に焼結されて焼結塊(以下、「シンターケーキ」と記す。)となるため、焼結が進むにつれて原料層の下層部がシンターケーキの重みを受けて圧縮され、高密度になっていく。焼結原料層が高密度化すると、通気性が低下して、コークスの燃焼速度の低下や燃焼むらが生じる。その結果、焼結速度が遅くなるし、焼結パレットから排出される焼結鉱の品質のばらつきも大きくなり、生産性が低下しやすい。そこで、通常は、焼結パレットに、シンターケーキの重みを受ける支持部材(以下、「シンターケーキ支持スタンド」、または単に「スタンド」と記す。)を、焼結原料層に埋没するように設置して、原料層の下層部の高密度化による通気性の低下を防止し、焼結鉱の生産性の向上を図っている。
【0004】
ところで、上記シンターケーキ支持スタンドは、焼結パレットの供給部から排出部へ向かう途中で高さ方向に大きな温度差が生じ、焼結パレットの排出部から供給部へ戻るときには全体が冷却されることにより、繰り返し熱応力を受ける。また、その使用環境は、高温の腐食雰囲気となる。従って、このスタンドを形成する材料は、十分な耐熱疲労性と高温強度を有し、耐食性にも優れたものが望ましい。このような特性を備えた材料として、Cを0.2wt%程度、Crを13wt%程度含む特殊鋼を用いることが提案されている(例えば、特許文献1参照。)。
【特許文献1】特許第3151653号公報
【0005】
しかしながら、シンターケーキ支持スタンドの材料には、上記の特性に加えて、耐摩耗性も要求される。すなわち、このスタンドは、焼結パレットの供給部に焼結原料が供給されるときや、パレット排出部で焼結完了後の原料が焼結鉱として排出されるときに原料と擦れ合って摩耗する。そして、減肉によりシンターケーキの重みを支えきれなくなって、焼結原料層の通気性低下を防止できなくなると交換が必要となるので、耐摩耗性が寿命の長さを決定する要因の1つとなっている。これに対して、上記特許文献1に記載の特殊鋼で形成したスタンドは、必ずしも耐摩耗性が十分とは言えず、早期摩耗によって短寿命となる場合があった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、下方吸引式焼結機の焼結パレットに設置されるシンターケーキ支持スタンドの長寿命化を図ることである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するために、本発明は、シンターケーキ支持スタンドの材料として用いられる特殊鋼の組成を、C:0.4〜0.8wt%、Si:0.2〜2.0wt%、Mn:0.1〜1.5wt%、Cr:25〜29wt%、Ni:0.2〜2.0wt%を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなるものとした。
【0008】
すなわち、この用途では延性不足による割れが比較的生じにくいことに着目し、前述した特許文献1に記載の特殊鋼(従来鋼)に比べて、割れが生じない範囲で、C含有量を増加させて硬度を高めるとともに、Cr含有量を増加させて耐食性をさらに高めることにより、耐摩耗性を向上させてスタンド交換周期を延長できるようにしたのである。
【0009】
次に、各合金元素の含有量を上記の範囲に限定した理由について説明する。
(1)Cは、一部が母材に固溶して母材を強化するほか、炭化物を形成して、高温強度および硬度を高めるために有効な元素である。必要な高温強度を確保するだけでなく、耐摩耗性を向上させるために、少なくとも0.4wt%含むようにする。含有量が多いほど、高温強度および硬度は高くなるが、高温使用時の時効による2次炭化物の析出量が過剰になって延性の低下を招くようになるので、この用途で延性不足による割れが生じないように、含有量の上限を0.8wt%とした。
【0010】
(2)Siは、合金溶解時の脱酸元素であり、鋳造工程における溶湯の流動性を高める効果を有する。また、高温における耐食性も向上させる。これらの効果は含有量に比例して向上するが、過剰に含有すると延性低下を招くので、含有量は2.0wt%以下とする。一方、含有量が極端に少ないと、熱サイクルを受けた後に焼きが入りやすくなって延性低下を招くので、0.2wt%以上含有する必要がある。
【0011】
(3)Mnは、脱酸作用を有し、またSを固定して無害化する元素であり、0.1wt%以上含有する必要がある。一方、1.5wt%以上に増量しても効果の増加は少ないので、含有量の上限を1.5wt%とした。
【0012】
(4)Crは、高温強度および耐食性を高める元素である。耐摩耗性の向上に寄与するように耐食性を高めるために、含有量の下限を25wt%とした。しかし、過剰に含有すると延性低下を招くので、この用途で割れが生じないように、上限を29wt%とした。
【0013】
(5)Niは、高温強度を高めるために0.2wt%以上含有するようにした。ただし、過剰に含有すると、オーステナイト相が増加し、線膨張係数が大きくなって熱変形が大きくなるので、上限を2.0wt%とした。
【発明の効果】
【0014】
本発明のシンターケーキ支持スタンド用特殊鋼は、上述したように、従来鋼に比べて、この用途で割れが生じない範囲でCおよびCrの含有量を増やすことにより、硬度と耐食性を高めて耐摩耗性を向上させたものである。従って、この特殊鋼をスタンドの材料として用いれば、従来よりもスタンド交換周期が長くなり、新品スタンドの製作費やスタンド交換作業の労務費の減少によりメンテナンスコストの削減が図れる。また、スタンド交換作業のために焼結機全体を休止させる時間が短縮されるので、焼結鉱の生産性を向上させることもできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態を説明する。表1は、実施形態の特殊鋼(実施例1〜3)および従来鋼相当材(比較例)の組成と常温での硬度測定結果(5点平均値)を併せて示す。表1からわかるように、各実施例の硬度はC含有量にほぼ比例して増加し、実施例のうちで最もC含有量が少ないもの(実施例1)でも、比較例に比べて15%以上高い硬度が得られている。
【0016】
【表1】

【0017】
次に、表1中の実施例の特殊鋼を用いて図1に示すシンターケーキ支持スタンド1を形成した。このスタンド1は、台形板状の本体部2とその下部に連続する取付部3とからなり、図2に示すように、一般的な焼結鉱製造工程(図3参照)の焼結機の焼結パレット19上に2〜4列配置される(図2は2列配置の例)。本体部2の高さは300mmであり、この本体部2が焼結パレット19上に形成されて600mm程度の高さとなる焼結原料層20に埋没し、焼結原料層20の上層部の焼結により生成したシンターケーキを支持するようになっている。
【0018】
このスタンド1を図2に示した設置状態で連続使用する実験を行った結果、従来鋼で形成したスタンドに比べて摩耗の進行が遅く、交換周期が大幅に延長できた。また、交換時に、割れの発生がないことも確認された。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】実施形態の特殊鋼で形成したスタンドの斜視図
【図2】図1のスタンドの設置状態を示す斜視図
【図3】一般的な焼結鉱製造工程の説明図
【符号の説明】
【0020】
1 スタンド
2 本体部
3 取付部
11、12、13、14 ホッパー
15 ミキサー
16 サージホッパー
17 ドラムフィーダー
18 シュート
19 焼結パレット
20 焼結原料層
21 点火炉

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下方吸引式焼結機の焼結パレットに設置されるシンターケーキ支持スタンドの材料として用いられ、C:0.4〜0.8wt%、Si:0.2〜2.0wt%、Mn:0.1〜1.5wt%、Cr:25〜29wt%、Ni:0.2〜2.0wt%を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなるシンターケーキ支持スタンド用特殊鋼。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−270249(P2007−270249A)
【公開日】平成19年10月18日(2007.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−97114(P2006−97114)
【出願日】平成18年3月31日(2006.3.31)
【出願人】(506059861)クリモトメック株式会社 (34)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】