説明

シンチレーション検出器

【課題】入射する放射線の輝度の大幅な変化に対しても平均直流レベルが変動しないシンチレーション検出器を提供すること。
【解決手段】光電子増倍管2の陽極Aをゼロ電位とするため、光電陰極Kに対してバイアス電源端子6から負のバイアス電圧を印加する。光電子増倍管2の出力部と直流型波形整形増幅器3の入力部との間、及び、直流型波形整形増幅器3の出力部とシンチレーション検出器出力端5との間の信号経路においては、コンデンサーによる交流結合でなく直流結合とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はシンチレーション検出器に関し、特に、検出器の出力端における平均直流レベルが入射する放射線の輝度によらず一定であるシンチレーション検出器に関する。
【背景技術】
【0002】
入射した放射線を吸収してシンチレータが発する光信号を光電子増倍管により光電子信号に変換し増幅して判読する、いわゆるシンチレーション検出器が既に利用されている。光電子増倍管とは、光電面に入射した光信号によって発生した光電子信号を多段に配設されたダイノードで増倍後、最終的にアノードから電流信号として出力する光検出器である。
【0003】
一般に、シンチレーション検出器からの出力パルス信号の増幅に用いる増幅回路の出力端における直流レベルは、設計上の対応をしない限り直流的に0Vとはならない。このため、増幅回路からの出力パルス信号を受けて波高値を判定する入力直結型波高分析回路は出力端の直流レベルと出力パルス信号とを重畳的に判読し、測定値はその直流レベルの分だけ誤差を含むこととなる。
【0004】
これについては、増幅回路の出力端と波高分析回路の入力端との間にコンデンサーを配設することによって、コンデンサーは直流分を透過できないから増幅回路による直流の透過は阻止され、パルス信号のみを波高分析回路に入力させることが可能となる。
【0005】
このため、従来型シンチレーション検出器の信号経路は、光電子増倍管のアノードと増幅器入力部、及び、増幅器出力部と検出器出力端との間にコンデンサーが配設され、交流結合されていた。
【0006】
然し乍ら、コンデンサーを用いた交流結合の場合においては、結合コンデンサーの出力部にパルス信号の極性とは逆方向に繰り返し計数率(パルス信号の繰り返し頻度)に比例した直流レベルの変動が生じてしまうことが原理的に避けられない。
【0007】
この結果、コンデンサー結合方式を採用する従来型シンチレーション検出器においては、前記直流レベルの変動が殆ど問題とならないような計数率の領域においてのみ使用可能であり、逆にいえば、この領域を超える場合は別途に何らかの対応を必要とするために回路が複雑な構成をとり、特に高計数率測定回路の実現については難しい状況にある。
【0008】
また、従来型のシンチレーション検出器の増幅器は、波形整形機能を備えていなかったためにプローブ外部において波形整形増幅回路を設け測定系を構成する必要があり、使用に際して煩であるばかりか、高速信号測定におけるタイミング特性やSN比については憂慮すべき不具合を残していた。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
そこで本発明は、シンチレーション検出器が有する上記の問題点に鑑み、入射する放射線の輝度の大幅な変化に対しても平均直流レベルが変動しないシンチレーション検出器を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の課題を解決することを目的としてなされた本発明シンチレーション検出器の構成は、入射放射線を吸収して光パルスを発生するシンチレータと、前記シンチレータから発生した光パルスを電気パルスに変換して増幅する光電子増倍管と、前記光電子増倍管から出力された電気パルス信号を増幅する直流結合型増幅器とを備えたシンチレーション検出器であって、前記光電子増倍管の陽極をゼロ電位とするために光電陰極に対して負のバイアス電圧を印加し、光電子増倍管陽極出力部と直流結合型増幅器入力部との間、及び、直流結合型増幅器出力部とシンチレーション検出器出力端との間は、コンデンサーを配した交流結合によらず全ての信号経路を直流結合としたことを特徴とするものである。
【0011】
また、本発明シンチレーション検出器の前記直流結合型増幅器は、前記光電子増倍管から出力された電気パルス信号の波形を信号対雑音比を考慮した最適波形に整形する機能を備えた構成としてもよい。
【0012】
さらに、本発明シンチレーション検出器の前記シンチレータは、YAP(Ce)を素材とする構成としてもよい。
【発明の効果】
【0013】
本発明は、シンチレーション検出器を用いて放射線を検出するに際して、特に入射する放射線の輝度(計数率)が大きく変化した場合でも、コンデンサー結合による場合のような出力平均直流レベルの変動がなく測定されるパルス波高値に誤差を生じない高計数率測定回路を実現できる。また、直流結合型波形整形増幅器をシンチレータ及び光電子増倍管と共に検出器プローブ内へ一体として配設することにより優れたタイミング特性及びSN比を得ることができ、かつ、直流結合型の波高分析器或は波高弁別器と直接接続することによって誤差の少ない測定系を簡便に構成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
次に、本発明の一実施例を図に拠って説明する。図1は本発明に係るシンチレーション検出器の一例の電気回路図、図2は従来型シンチレーション検出器の電気回路を模式的に表した回路図である。
【0015】
図1において、Rは検出器へ入射する放射線、1は前記入射放射線Rを吸収して光パルスPを発生するシンチレータであって、本実施例においては、高計数率(〜数Mcpsまで)X線の検出に対応すべく減衰時定数が約27nsecのYAP(Ce)により形成されている。2は本発明に係るシンチレーション検出器に備えられた光電子増倍管であって、多段に配設されたダイノードDを有し光電面から放出された光電子パルス信号を増幅して電流パルス信号に変換して出力する。さらに、光電子増倍管2により出力された電流パルス信号は、直流結合型波形整形増幅器3によってSN比を考慮した最適波形に整形され増幅された後、シンチレーション検出器の出力端5へと出力される。なお、本発明は、波形整形機能を有する増幅器を配設したシンチレーション検出器のみに適用を限られるものではない。また、シンチレータ1はYAP(Ce)を素材としたものに限られず、その他素材によって形成することは任意である。
【0016】
従来型のシンチレーション検出器は、図2に示すように、光電子増倍管2のアノードAと増幅器30の入力部との間に結合コンデンサーC1を、また、増幅器30の出力部とシンチレーション検出器の出力端5との間に結合コンデンサーC2をそれぞれ配設することによって測定値に平均直流レベルが重畳されることを回避するが、信号経路がコンデンサー結合であるが故に、出力信号が入射計数率に対応して信号とは逆極性の直流レベルの変動を伴うことによって測定値が誤差を含んでしまうという不都合があったことは既に述べた通りである。
【0017】
一方、本発明に係るシンチレーション検出器は、その回路系において結合コンデンサーC1及びC2を廃し、光電子増倍管2のアノードAから検出器出力端5までの信号経路を全て直流結合することで、コンデンサーの存在に起因した直流レベルの変動をゼロにして課題を解決するものである。このため本発明は、光電子増倍管2に対してはアノードAをゼロ電位とするためにバイアスとして電源端子6から負電圧をカソードKに対して印加しつつ、アノードAから出力端5までの信号経路を直流結合とする構成をとっており、これによって、入射放射線Rの輝度が大幅に変化しても出力直流レベルが変動しない検出器を実現できると同時に入射放射線Rのエネルギースペクトルや入射計数率についても正確な測定評価を得ることが可能となった。
【0018】
また、図1に示すように、本発明のシンチレーション検出器のプローブ4は、シンチレータ1、光電子増倍管2及び直流結合型波形整形増幅器3をその内部に一体として備えているため、従来型のように波形整形処理のための増幅回路をプローブ4の外部に構成する必要は一切ない。このため、本発明検出器による放射線検出は作業的にもきわめて容易となり、さらに、検出結果におけるタイミング特性及びSN比に関しても大幅に改善し得るものとなった。
【0019】
なお、本発明に係る検出器はシンチレータ1と光電子増倍管2との組み合わせによるものに限らず、増幅手段を光電子増倍管2に代えて半導体材によるフォトダイオード(PD)やアバランシュフォトダイオード(APD)を配設する構成としてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0020】
本発明は以上の通りであって、シンチレーション検出器を用いて放射線を検出するに際して、特に入射する放射線の輝度(計数率)が大きく変化した場合でも出力直流レベルが変動せず、測定されるパルス波高値に誤差が含まれることを回避でき、また、直流結合型波形整形増幅器をシンチレータ及び光電子増倍管と共に検出器プローブ内へ一体として配設することによって優れたタイミング特性及びSN比を得ることができると共に、直流結合型の波高分析器或は波高弁別器と接続することで外部に増幅回路を設けることなく簡便に測定系を構成し得るという効果があるからシンチレーション検出器として、特に高輝度X線用シンチレーション検出器として極めて有用である。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明に係るシンチレーション検出器の一例の電気回路図
【図2】従来型シンチレーション検出器の電気回路図
【符号の説明】
【0022】
1 シンチレータ
2 光電子増倍管
3 直流結合型波形整形増幅器
30 増幅器
4 プローブ
5 検出器出力端
6 バイアス電源端子
R 入射放射線
P 光パルス
A アノード
K カソード
D ダイノード
C1 結合コンデンサー
C2 結合コンデンサー
r 抵抗体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
入射放射線を吸収して光パルスを発生するシンチレータと、前記シンチレータから発生した光パルスを電気パルスに変換して増幅する光電子増倍管と、前記光電子増倍管から出力された電気パルス信号を増幅する直流結合型増幅器とを備えたシンチレーション検出器であって、前記光電子増倍管の光電陰極に対して負のバイアス電圧を印加し、光電子増倍管出力部と直流結合型増幅器入力部との間、及び、直流結合型増幅器出力部とシンチレーション検出器出力端との間の信号経路を直流結合としたことを特徴とするシンチレーション検出器。
【請求項2】
前記直流結合型増幅器は、前記光電子増倍管から出力された電気パルス信号の波形を信号対雑音比を考慮した最適波形に整形する機能を備えた請求項1のシンチレーション検出器。
【請求項3】
前記シンチレータは、YAP(Ce)を素材とする請求項1または2のシンチレーション検出器。
【請求項4】
前記光電子増倍管に代えて半導体フォトダイオード或はアバランシュフォトダイオードを配設した請求項1〜3のシンチレーション検出器。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−39548(P2008−39548A)
【公開日】平成20年2月21日(2008.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−213206(P2006−213206)
【出願日】平成18年8月4日(2006.8.4)
【出願人】(593217890)応用光研工業株式会社 (5)
【Fターム(参考)】