説明

シンチレータパネル

【課題】十分な防湿特性を維持でき、安定した品質のシンチレータパネル11を提供する。
【解決手段】基板12の一面12aに放射線を可視光に変換する蛍光体層15を形成し、蛍光体層15の表面を含む基板12の一面12aから反対側の他面12bの一部までを覆う防湿層18を形成する。防湿層18は、基板12の他面12bの一部を覆う膜厚が基板12の周辺部側より中心部側に向かうにしたがって薄くなるように形成する。防湿層18の端部が基板12の他面12aに沿うため、防湿層18の端部が基板12の他面12bから剥がれにくくなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放射線を可視光に変換するシンチレータパネルに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、医療、工業用のX線撮影では、X線感光フィルムが用いられてきたが、昨今、利便性や撮影結果の保存性の面から、コンピューテッド・ラジオロジー(以下CR)や平面検出器(以下FPD)のようなデジタル化が普及してきている。このような放射線画像検出器では、まずシンチレータパネルの蛍光体層を用いて、入射X線を可視光に変換する方式が主流である。
【0003】
この蛍光体層の代表的な材料であるCsIは吸湿性材料であり、空気中の水蒸気(湿気)を吸収して潮解し、蛍光体層の特性、特に解像度が劣化しやすいことから、シンチレータパネルにおいては、蛍光体層の表面に水分不透過性の防湿層を形成することにより、蛍光体層を湿気から保護している。
【0004】
蛍光体層を湿気から保護するための防湿層としてポリパラキシリレン膜等の防湿層が用いられている。この防湿層は、蛍光体層の表面を含むシンチレータパネルの基板の一面から側面まで形成されている場合や、蛍光体層の表面を含む基板の一面から反対側の他面の周辺部まで形成されている場合や、蛍光体層の表面を含む基板の一面から反対側の他面全体まで形成されている場合がある。
【0005】
蛍光体層の表面を含む基板の一面から反対側の他面の周辺部まで形成されている場合には、基板の他面において、防湿層の膜厚は均一で、防湿層の内周側に基板の他面に対して略垂直な段差面が形成されている(例えば、特許文献1参照。)。
【特許文献1】特開2000−356679号公報(第6頁、図9)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
蛍光体層に防湿層を形成することで、シンチレータパネルの特性である解像度や感度の低下が生じるため、蛍光体層を湿気から保護するための防湿層は可視光を透過するために、透明で膜厚が非常に薄い薄膜が用いられる。しかし、この薄膜は、強度が弱く傷付きやすく、小さな傷でもやがて大きく広がり、防湿バリアとしての機能が著しく低下する可能性がある。
【0007】
防湿層が、基板の他面には形成されず、蛍光体層の表面を含む基板の一面から側面まで形成されている場合、基板の側面に防湿層の端面部が位置するため、防湿層の端面部に外力が加わることで防湿層の端面部が基板の側面から剥がれやすく、また、この防湿層の端面部の角部に傷が付きやすく、防湿バリアとしての機能が著しく低下する可能性がある。
【0008】
また、防湿層が、蛍光体層の表面を含む基板の一面から反対側の他面全体まで形成されている場合、基板の他面における防湿層の面積が大きいために、棚や机等にシンチレータパネルを置いた際などに防湿層に小さな傷が付きやすく、防湿バリアとしての機能が著しく低下する可能性がある。
【0009】
また、防湿層が、蛍光体層の表面を含む基板の一面から反対側の他面の周辺部まで形成されている場合、基板の他面において、防湿層の端面部が基板の他面に対して略垂直な段差面となっているため、防湿層の端面部に外力が加わることで防湿層の端面部が基板の他面から剥がれやすく、また、この防湿層の端面部の角部に傷が付きやすく、防湿バリアとしての機能が著しく低下する可能性がある。
【0010】
本発明は、このような点に鑑みなされたもので、十分な防湿特性を維持でき、安定した品質のシンチレータパネルを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、基板と、この基板の一面に形成され、放射線を可視光に変換する蛍光体層と、この蛍光体層の表面を含む前記基板の一面から反対側の他面の一部までを覆うとともに、前記基板の他面の一部を覆う膜厚が前記基板の周辺部側より中心部側に向かうにしたがって薄くなるように形成されている防湿層とを具備しているものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、防湿層を蛍光体層の表面を含む基板の一面から反対側の他面の一部まで形成するとともに、基板の他面の一部を覆う防湿層の膜厚を基板の周辺部側より中心部側に向かうにしたがって薄くなるように形成しているため、防湿層の端部が基板の他面に対して段差面となることなく基板の他面に沿うようになり、防湿層の端部が基板の他面から剥がれにくく、防湿層に傷が付きにくく、十分な防湿特性を維持でき、安定した品質のシンチレータパネルを提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の一実施の形態を、図面を参照して説明する。
【0014】
図1はシンチレータパネルの断面図を示す。
【0015】
このシンチレータパネル11は、炭素繊維強化プラスチック(以下CFRP)を材料とする基板12を有し、この基板12の一面12aの全面に、反射膜として厚さ190μmの発泡ポリエチレンテレフタレート(発泡PET)で構成される樹脂シート13が貼り付けられ、また、基板12の他面12bの全面に、厚さ190μmの発泡ポリエチレンテレフタレート(発泡PET)で構成される樹脂シート13と同一材質の樹脂シート14が貼り付けられている。
【0016】
基板12は、強化繊維基材を複数層積層させ、それに熱硬化性樹脂を含浸させた後、熱硬化させることにより作成されている。
【0017】
樹脂シート13および樹脂シート14は、基板12の成形時に同時に貼り合せることにより、基板12の両面に形成できる。
【0018】
また、基板12の一面12aで樹脂シート13の表面には、タリウム添加のヨウ化セシウム(CsI:Tl)等で構成されるシンチレータ層である蛍光体層15が真空蒸着法にて350μm程度の厚さに成膜されている。この蛍光体層15は、樹脂シート13の表面から柱状に成長した複数の柱状結晶16を有している。
【0019】
この蛍光体層15を形成するには、両面に各樹脂シート13,14を貼り合せた基板12を真空蒸着装置内で、CsI入りるつぼとTlI入りるつぼと対向させるように配置し、真空蒸着させる。真空蒸着時は、基板温度を180℃に加熱し、真空蒸着装置内の圧力を0.4Paになるように設定すると、基板12の樹脂シート13の表面にTlI賦活のCsIの柱状結晶16が形成される。CsIの膜厚が350μmに到達したところで成膜を終了し、真空蒸着装置からCsI膜が形成された基板12を取り出す。
【0020】
基板12の蛍光体層15が形成された一面12aの周辺部には、蛍光体層15が形成されていないスペース17が形成されている。
【0021】
また、蛍光体層15を含むシンチレータパネル11の表面に防湿層18が形成されている。この防湿層18は、ポリパラキシリレン膜等が用いられており、CVD法(気相成長法)により蒸着されている。
【0022】
防湿層18は、蛍光体層15の表面を含む基板12の一面12aから反対側の他面12bの周辺側の一部まで一体に形成されているとともに、基板12の他面12bの周辺側の一部を覆う防湿層18の膜厚が基板12の周辺側より中心側に向かうにしたがって薄くなるように形成されている。
【0023】
基板12の蛍光体層15が形成された一面12aの防湿層18の周辺部には、すなわち基板12の周辺部の蛍光体層15が形成されていないスペース17の位置に対応して、CVD法により防湿層18を蒸着する際に蛍光体層15が下向きとなる向きに基板12を支持していた痕跡を示す円錐孔状の支持痕跡部19が複数箇所であって例えば3個所に形成されている。
【0024】
また、図2はシンチレータパネル11に防湿層18を蒸着する際に用いる支持台21の斜視図を示す。
【0025】
この支持台21は、枠状の台部22を備え、この台部22の上面の複数箇所であって例えば3個所に柱部23が突設されているとともに、これら柱部23の上面から先端が鋭く尖った円錐形状の支持針24が突設されている。そして、図3に示すように、支持台21では、蛍光体層15が下向きの基板12の周辺部のスペース17部分を複数の支持針24によって支持する。
【0026】
次に、シンチレータパネル11に防湿層18を形成する製造方向を説明する。
【0027】
図3に示すように、シンチレータパネル11の蛍光体層15を下向きとして、基板12の周辺部のスペース17を支持台21の複数の支持針24により支持する。
【0028】
基板12の上向きとなる他面12bに、基板12の外径寸法より小さいポリエステルシート等のスペーサ31、および基板12の外形寸法と略同じ寸法のステンレス板等のカバー32を順に重ねる。この際、基板12の周辺部とカバー32の周辺部との間に隙間33が形成され、この隙間33の寸法は0.4mm程度が望ましい。
【0029】
この状態で、CVD法により防湿層18を蒸着することにより、蛍光体層15の表面を含む基板12の一面12aから反対側の他面12bの周辺側の一部まで防湿層18が形成される。
【0030】
このとき、基板12の他面12bの防湿層18は、スペーサ31によりできた隙間33によって、基板12の最も周辺側は15μmの厚さに厚く蒸着されるが、基板12の周辺側から中心側に向かうにしたがって徐々に薄くなるように蒸着される。
【0031】
防湿層18の蒸着終了後、シンチレータパネル11からスペーサ31およびカバー32を取り外すことにより、図1に示す防湿層18を蒸着したシンチレータパネル11が形成される。
【0032】
防湿層18を蒸着したシンチレータパネル11では、基板12の蛍光体層15が形成された一面12aの防湿層18の周辺部に、すなわち基板12の周辺部の蛍光体層15が形成されていないスペース17の位置に対応して、CVD法により防湿層18を蒸着する際に蛍光体層15が下向きとなる向きに基板12を支持していた支持針24の痕跡を示す円錐孔状の支持痕跡部19が複数箇所であって例えば3個所に残る。
【0033】
このように、防湿層18を蛍光体層15の表面を含む基板12の一面12aから反対側の他面12bの一部まで形成するとともに、基板12の他面12bの一部を覆う防湿層18の膜厚を基板12の周辺部側より中心部側に向かうにしたがって薄くなるように形成しているため、防湿層18の端部が基板12の他面12bに対して段差面となることなく基板12の他面12bに沿うようになり、防湿層18の端部が基板12の他面12bから剥がれにくくできる。そのため、従来のように基板の一面から側面までの範囲に防湿層が形成されている場合や、基板の一面から他面の周辺部まで形成されているものの防湿層の端面部が基板の他面に対して略垂直な段差面となっている場合に比べて、防湿層18が剥れにくいとともに傷が付きにくく、十分な防湿特性を維持でき、安定した品質のシンチレータパネル11を提供できる。
【0034】
また、樹脂シート13と防湿層18とで蛍光体層15を包囲することにより、蛍光体層15の耐湿性を向上させることができる。
【0035】
ところで、防湿層18の剥がれを解決する他の方法は、例えば、国際特許第99/66350号パンフレットに記載されているように、基板12と防湿層18との接触部を凹凸状にすることが考えられるが、この方法では工程が増えるし、特にCsI蒸着部の粗さを保ったまま、最も防湿層18が剥がれやすいCsI蒸着部の外周部を凹凸処理しようとするのは、マスク設置作業も加わりさらに煩雑となる。また、研磨、サンドブラストといった表面改質加工により、炭素繊維がささくれる問題があり、上述のCFRP製の基板12には応用しづらい。
【0036】
しかし、本実施の形態では、ポリパラキシリレンからなる防湿層18は樹脂シート13との結着力が高いので、防湿層18が剥がれることがなく、耐湿性を損ねることがない。また、防湿層18は樹脂シート14と結着力が高く、防湿層18が同じく結着力が高い樹脂シート13から連続して蒸着されるので、基板12の側面からの剥がれを抑制することができる。
【0037】
具体的には、国際特許第99/66350号パンフレットで開示される構造のCsI膜(積層構造:アモルファスカーボン基板(周辺凹凸構造)/Al反射膜/CsI/ポリパラキシリレン)と、本実施の形態のCsI膜を、温度60℃、湿度90%の環境下に24時間放置したときのCTF値の低下率は、基板の中心部においてはそれぞれ、11%、0%と、本実施の形態のシンチレータパネル11の構造の方が多少優れている程度であるが、基板12の最周辺部では、それぞれ44%、0%と、顕著な差異が見られる。
【0038】
また、基板12の樹脂シート13が貼り合わされた一面12aに対して反対側の他面12bにも樹脂シート14を貼り合わせることにより、樹脂シート13のみを用いた場合に起こる基板12と樹脂シート13との熱膨張率の差による基板12の反りを防止することができる。樹脂シート14の材質を樹脂シート13と同じにすればその効果は顕著となる。
【0039】
なお、基板12の材料としては、CFRPの他に、アモルファスカーボン、グラファイト、ガラス、ベリリウム、チタン、アルミニウム、およびそれらの合金、セラミクス(アルミナ、ベリリア、ジルコニア、窒化珪素)、エンジニアリングプラスティック等も選択可能である。
【0040】
また、上記実施の形態においては、蛍光体層15は、CsI(Tl)が用いられているが、これに限定せず、CsI(Na)、NaI(Tl)、KI(Tl)、LiI(Eu)等を用いてもよい。
【0041】
また、上記実施の形態における防湿層18は、ポリパラキシリレンの他、ポリモノクロロパラキシリレン、ポリフルオロパラキシリレン、ポリジメチルパラキシリレン、ポリジエチルパラキシリレン等を含む。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】本発明の一実施の形態を示すシンチレータパネルの断面図である。
【図2】同上シンチレータパネルに防湿層を蒸着する際に用いる支持台の斜視図である。
【図3】同上シンチレータパネルに防湿層を蒸着する際の製造方法を示す断面図である。
【符号の説明】
【0043】
11 シンチレータパネル
12 基板
12a 一面
12b 他面
13,14 樹脂シート
15 蛍光体層
18 防湿層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、
この基板の一面に形成され、放射線を可視光に変換する蛍光体層と、
この蛍光体層の表面を含む前記基板の一面から反対側の他面の一部までを覆うとともに、前記基板の他面の一部を覆う膜厚が前記基板の周辺部側より中心部側に向かうにしたがって薄くなるように形成されている防湿層と
を具備していることを特徴とするシンチレータパネル。
【請求項2】
前記基板の一面で前記蛍光体層との間に樹脂シートを有する
ことを特徴とする請求項1記載のシンチレータパネル。
【請求項3】
前記基板の他面に樹脂シートを有する
ことを特徴とする請求項1または2記載のシンチレータパネル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−32298(P2010−32298A)
【公開日】平成22年2月12日(2010.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−193332(P2008−193332)
【出願日】平成20年7月28日(2008.7.28)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【出願人】(503382542)東芝電子管デバイス株式会社 (369)
【Fターム(参考)】