説明

シース挿入装置

【課題】シースを挿入する際にシースが脳領域に及ぼす影響を最小限に抑えることができるシース挿入装置を提供する。
【解決手段】シースSの径方向外方へ向かって膨らんだ形状の中間部3aを有する複数のアーム部3を備えると共にシースSに対して進退可能にシースS内に挿入された拡張具2を操作手段1によりシースSに対して進退させ、複数のアーム部3がシースSの開口部より前方に突出したときに自律的にシースSの径方向外方へ拡張すると共に拡張したときの拡張具2の最大幅がシースSの外径より大きくなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、シース挿入装置に係り、特に、脳領域内に医療器具を挿入するためのシース挿入装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、脳領域に対する治療は、いわゆる開頭手術により脳の外周部を覆う頭蓋骨を大きく切開して行われている。このような開頭手術は、患者に大きな負担を課し、手術後の回復にも長期間を要することとなる。このため、大きな開頭をせずに脳領域の治療を行うことが切望されている。
【0003】
脳領域内に存在する患部に、薬液、神経栄養因子、情報伝達物質、遺伝子、細胞等の治療用物質を投与する手段として、カテーテル等の医療器具を脳領域に挿入する方法が考えられる。
ただし、頭蓋骨から脳領域にアプローチする場合には、脳領域内にカテーテルを挿入するための挿入路が細く、一般にカテーテルによる治療が多く行われている血管内のように、医療器具を容易に脳領域内の患部にまで挿入することが困難である。また、脳組織の表面には多数の神経細胞が集まっているため、カテーテルを挿入する際にその外壁等でこれらの神経細胞を損傷させるおそれもある。
【0004】
特許文献1には、シース内に収納されたステントを患者の鼻腔から咽喉部に挿入し、シースを後退させてステントを露出させることでステントを拡張させ、これにより咽喉部を押し拡げて気道の閉塞を防止する装置が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−265621号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に開示されたステントを拡張させることにより、咽喉部に空気の流通を許容する空間を確保することができる。
しかしながら、このような装置を脳領域に適用して、脳領域内にカテーテルを挿入するための空間を確保しようとすると、ステントが収納されたシースを脳領域内の細い挿入路に挿入しなければならず、このとき、シースの外壁、特にシースの先端部で神経細胞を損傷させるおそれがある。
【0007】
この発明は、このような従来の問題点を解消するためになされたもので、シースを挿入する際にシースが脳領域に及ぼす影響を最小限に抑えることができるシース挿入装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明に係るシース挿入装置は、先端に開口部を有するシースを脳領域内に挿入するための挿入路を拡張するシース挿入装置であって、前記シースに対して進退可能に前記シース内に挿入され、前記シースの開口部より前方に突出したときに自律的に前記シースの径方向外方へ拡張する複数のアーム部を有する拡張具と、前記拡張具を前記シースに対して進退させるための操作手段とを備え、前記複数のアーム部はそれぞれ中間部が外方へ向かって膨らんだ形状を有すると共に拡張したときの前記拡張具の最大幅が前記シースの外径より大きくなるものである。
【0009】
好ましくは、前記操作手段により前記拡張具を前記シースに対して前進させて前記シースの開口部より前方に突出させることにより、前記複数のアーム部を拡張させ、前記シースを前記拡張具に対して前進させることにより、前記シースの先端部で前記複数のアーム部を収縮しつつ前記拡張具により拡張させた前記移動路に沿って前記シースを挿入する。
また、これらのアーム部は、棒状部材に接続されると共に中間部における拡張具の最大幅よりも小さい幅を形成する基端部と、基端部より外方へ向かって拡がると共に基端部と中間部を接続する接続部を有してもよい。また、前記接続部は、前記拡張具に対するシースの前進を規制してもよい。また、前記複数のアーム部は、それぞれ中間部が屈曲または湾曲することで外方に向かって膨らんだ形状を有してもよい。
また、前記複数のアーム部は、自ら有する弾性により拡張する構成としてもよい。
【0010】
あるいは、前記拡張具は、前記複数のアーム部を拡張するための弾性部材を含んでいてもよい。
また、前記拡張具は、前記複数のアーム部の全体を覆うシートを含むことができる。
また、前記操作手段は、前記シースに対して進退可能に前記シース内に挿入されると共に前記拡張具に連結された棒状部材からなる構成としてもよい。
【発明の効果】
【0011】
この発明によれば、シースの開口部より前方へ突出した拡張具が自律的にシースの外径より大きく拡張するので、シースを挿入する際にシースが脳領域に及ぼす影響を最小限に抑えることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】この発明の実施の形態1に係るシース挿入装置の先端部の構成を示す側面断面図である。
【図2】実施の形態1に係るシース挿入装置の先端部を示す正面図である。
【図3】実施の形態1に係るシース挿入装置において、拡張具に対してシースを前進させる状態を示す側面断面図である。
【図4】(a)〜(f)は、実施の形態1に係るシース挿入装置の使用時の様子を示す脳領域の部分断面図である。
【図5】頭蓋骨の内部を示す部分断面図である。
【図6】(a)および(b)は、実施の形態2に係るシース挿入装置の使用時の様子を示す脳領域の部分断面図である。
【図7】(a)および(b)は、実施の形態2で用いられた拡張具の変形例により脳領域を拡張する様子を示す部分断面図である。
【図8】実施の形態3に係るシース挿入装置の先端部の構成を示す側面断面図である。
【図9】実施の形態4に係るシース挿入装置の先端部の構成を示す側面断面図である。
【図10】実施の形態4に係るシース挿入装置の先端部を示す正面図である。
【図11】実施の形態5に係るシース挿入装置の先端部の構成を示す側面断面図である。
【図12】実施の形態5に係るシース挿入装置の先端部を示す正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、この発明の実施の形態を添付図面に基づいて説明する。
実施の形態1
図1に実施の形態1に係るシース挿入装置の先端部の構成を示す。シース挿入装置は、棒状部材1と棒状部材1の先端部に配置された拡張具2を有し、筒状のシースS内に棒状部材1が進退可能に挿入されている。拡張具2は、棒状部材1と一体に形成されると共にシースSの先端の開放された開口部から前方に突出している。
【0014】
図2に示されるように、拡張具2は、棒状部材1の互いに対向する位置からシースSの軸方向に沿って延びると共に中間部3aが外方に向かって屈曲した形状をそれぞれ有する2本のアーム部3を有している。すなわち、2本のアーム部3は、それぞれ中間部3aが外方に向かって膨らんでいる。これにより、拡張具2は中間部3aで最大幅となる。これらのアーム部3は、それぞれ棒状部材1に対してシースSの径方向外方へ拡がるような弾性を予め備えている。
このため、図1のように拡張具2がシースSの開口部より前方へ突出して拡張した状態から、シースSを拡張具2に対して前進させていくと、図3に示されるように、拡張具2の2本のアーム部3はシースSの先端部により拘束されて収縮していき、先端部の幅が次第に小さくなっていく。続いて、棒状部材1により拡張具2をシースSに対して前進させ、図1に示されるように、拡張具2がシースSの開口部より完全に前方へ突出した状態になると、シースSによる拘束から解放され、拡張具2の2本のアーム部3は、自ら有する弾性により再度外方へ拡張する。このようにして、2本のアーム部3が外方へ拡がり、拡張具2が自律的にシースSの径方向外方へ拡張する。また、拡張具2と一体に形成された棒状部材1は、拡張具2をシースSに対して進退させるための操作手段として機能している。
【0015】
なお、拡張具2は、所定の拡張幅を有するように各アーム部3の長さ、屈曲角および弾性が予め設定されている。
また、図3のようにシースSにより2本のアーム部3が収縮された状態から、さらに拡張具2をシースSに対して後退させて2本のアーム部3を収縮させていくと、2本のアーム部3はシースSに拘束されて折りたたまれ、拡張具2はシースSの内部に収納またはシースSの内部を通ってシースSの基端側から抜き取られる。
【0016】
次に、この実施の形態1に係るシース挿入装置を用いて、シースを挿入しつつ脳領域内の挿入路を順次拡張していく方法について説明する。
まず、図4(a)に示すように、拡張具2がシースSの内部に収納された状態のシース挿入装置をシースSの外径より幅の小さい脳領域Bの挿入路付近まで挿入する。このとき、拡張具2の各アーム部3は、シースSの内壁により拘束されて外方へ拡がることなくシースSの軸方向に伸張した状態で且つその先端部の幅は脳領域Bの挿入路の幅より小さくなった状態で収納されている。次に、図4(b)に示すように、棒状部材1により拡張具2をシースSに対して前進させると共に拡張具2を脳領域Bの挿入路に挿入していく。棒状部材1の先端部をシースSの開口部まで前進させると、図4(c)に示すように、拡張具2がシースSの開口部より前方へ完全に突出して2本のアーム部3がシースSによる拘束から解放され、拡張具2が自律的にシースSの径方向外方へ拡張する。このとき、拡張具2は、その最大幅がシースSの外径より大きくなるまで拡張する。その結果、拡張具2の2本のアーム部3により押圧された脳領域Bの挿入路はシースSの外壁の外側まで拡張される。
続いて、シースSを拡張具2に対して前進させることにより、図4(d)に示すように、シースSの先端部で2本のアーム部3を収縮しつつ拡張具2により拡張させた脳領域Bの挿入路にシースSを挿入していく。拡張具2の最大幅がシースSの外径より小さくならないように予め設定された移動量LだけシースSを挿入すると、シースSの前進を停止し、図4(e)に示すように、棒状部材1をシースSの開口部まで再度前進させる。これにより、拡張具2は、自律的にシース1の径方向外方へ拡張する。このようにして、拡張具2による脳領域Bの挿入路の拡張と拡張された挿入路へのシースSの挿入とを繰り返すことにより、図4(f)に示すように、シースSの外壁の外側まで拡張された脳領域Bの挿入路に沿ってシースSが挿入されていく。
【0017】
このように、シースSを挿入するための挿入路を常にシースSの外壁の外側まで拡張しているため、シース1の外壁と脳領域Bの神経細胞との接触を抑制することができる。
【0018】
このようにして脳領域Bの所定の位置までシースSを挿入すると、棒状部材1により拡張具2をシースSに対して後退させて2本のアーム部3を収縮させていき、2本のアーム部3をシースSの内部で折りたたみ、そのままシース挿入装置をシースSから抜き取る。
続いて、シース挿入装置が抜き取られたシースSの内部に図示しない内視鏡を挿通して、脳領域B内の所定の位置を観察することが可能となる。同様に、シースSの内部を通して治療具を挿入することで、脳領域B内の所定の位置に、薬液、神経栄養因子、情報伝達物質、遺伝子、細胞等の治療用物質を投与することもできる。
【0019】
ここで、図5に、頭蓋骨の内部を示す。脳は、髄膜という結合組織の3層の膜に包まれて保護されている。最外層の硬膜は頭蓋骨11に密着しており、この硬膜により脳の位置が保たれている。中間層の髄膜は、クモ膜と呼ばれ、細かな結合組織の線維からなり最内層の軟膜との間に脳脊髄液を含んでいる。すなわち、脳は脳脊髄液の中に浮かんだ状態になっている。脳は、大脳12と小脳13を有し、大脳12は大脳縦裂14によって右脳15と左脳16に分割されている。頭蓋の底部には、第3脳室17を含む脳室が位置し、この脳室に血管が豊富に存在し、脳室内の脈絡叢から脳脊髄液が分泌される。脳脊髄液はクモ膜下の腔所を循環した後、脳静脈洞18から静脈内へ吸収される。
【0020】
大脳縦裂14の側面あるいは第3脳室17を観察あるいは治療する際には、まず、前頭部に開口を設け、この開口に図5に示される挿入ポート19を取り付ける。挿入ポート19は、実施の形態1に係るシース挿入装置を挿入することはできるが、髄液や血液等が外部に流れないように弁を具備していることが好ましい。挿入ポート19から、図1に示したシースSの内部に収納された状態のシース挿入装置を挿入し、シースSの先端を大脳縦裂14の直前に位置させる。
続いて、シースSに対して棒状部材1を前進させることによりシースSの開口部から突出した拡張具2により大脳縦列14を拡張すると共に、拡張具2に対してシースSを前進させることにより拡張させた大脳縦列14内にシースSを挿入していく。このようにして、拡張具2による大脳縦列14の拡張と拡張された大脳縦列14内へのシースSの挿入とを繰り返し、シースSを第3脳室17の手前まで挿入させる。
この状態で、シースSに対して棒状部材1を後退させ、シースSからシース挿入装置を抜き取ると共にシースSの内部に上述したような内視鏡あるいは治療具等を挿入することにより、観察、治療等を行うことができる。
【0021】
なお、シースSの形成材料としては、ある程度の可撓性を有するものが好ましく、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレンープロピレン共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体などのポリオレフィン、ポリ塩化ビニル、ポリウレタン、ポリアミド、ポリアミドエラストマー、ポリイミド、シリコン樹脂、ポリエーテル・エチルケトン、ポリエステルエラストマー等の熱可塑性樹脂を用いることができる。
【0022】
一方、拡張具2の形成材料としては、弾性とある程度の剛性を有するものが好ましく、例えば、ステンレス鋼、アルミニウム合金、超弾性合金、形状記憶合金等の金属材料、あるいは、ポリアミド、ポリ塩化ビニル、ポリカーボネート、ABS、ポリエチレン、ポリプロピレン、テフロン(登録商標)、アクリル樹脂等の樹脂材料の使用が可能である。
【0023】
棒状部材1は、拡張具2と同一の材料を用いて、拡張具2と一体に成形することができる。あるいは、拡張具2とは異なる材料から棒状部材1を形成した後、棒状部材1の先端部に拡張具2を固定してもよい。棒状部材1を拡張具2とは異なる材料から形成する場合には、棒状部材1の形成材料として、上述したシースSの形成材料と同一のものを用いることができる。
【0024】
実施の形態2
図6に実施の形態2に係るシース挿入装置の先端部の構成を示す。このシース挿入装置は、実施の形態1のシース挿入装置において、拡張具2の代わりに、拡張具21を用いたものである。拡張具21は、棒状部材1の互いに対向する位置からシースSの軸方向に沿って延びると共に中間部22aが外方に向かって湾曲して膨らんだ形状をそれぞれ有する2本のアーム部22を有している。また、これらのアーム部22は、棒状部材1に接続された基端部22bと、基端部22bと中間部22aを接続する接続部22cをそれぞれ有し、アーム部22の拡張時を基準とした場合、基端部22bが中間部22aにおける拡張具21の最大幅よりも小さい幅を形成すると共に接続部22cが基端部22bより外方へ向かって拡がるように形成されている。すなわち、拡張具21は、棒状部材1に接続された基端部22bと接続部22cからなる2段の拡張部分を介して、徐々に外方へ拡がり、中間部22aで最大幅となる。
【0025】
実施の形態1と同様にして、シース挿入装置を脳領域Bの挿入路付近まで挿入すると、図6(a)に示すように、棒状部材1により拡張具21をシースSに対して前進させると共に拡張具21を脳領域Bの挿入路に挿入していく。棒状部材1の先端部をシースSの開口部まで前進させると、拡張具21の2本のアーム部22が基端部22bまでシースSの開口部より前方へ突出し、拡張具21が自律的にシースSの径方向外方へ拡張する。このとき、拡張具21はその最大幅がシースSの外径より大きくなるまで拡張し、これに伴い脳領域Bの挿入路がシースSの外壁の外側まで拡張される。
続いて、シースSを拡張具21に対して前進させることにより、図6(b)に示すように、シースSの先端部が2本のアーム部22の基端部22bを通って接続部22cに当接し、そのまま2本のアーム部22を収縮していくことでシースSが脳領域Bの挿入路に挿入されていく。拡張具21の最大幅がシースSの外径より小さくならない位置までシースSが挿入されると、再度、棒状部材1をシースSの開口部まで前進させる。このようにして、拡張具21による脳領域Bの挿入路の拡張と拡張された挿入路へのシースSの挿入とを繰り返すことにより、シースSの外径よりも常に大きく拡張された脳領域Bの挿入路に沿ってシースSが挿入されていく。
【0026】
このように、拡張具21の2本のアーム部22は、中間部22aが外方に向かって湾曲した形状を有するため、中間部22aが脳領域Bに接触したときに脳領域Bの表面に及ぼされる摩擦等の影響を小さくすることができる。また、2本のアーム部22は、広い面積で脳領域Bと接触するため、脳領域Bを拡張する圧力が拡散されて神経細胞に与える損傷を抑制することができる。さらに、2本のアーム部22は、中間部22aにおける拡張具21の最大幅よりも小さい幅を形成する基端部22bと基端部22bより外方へ向かって拡がる接続部22cとからなる2段の拡張部分を有するため、基端部22bの範囲においては、アーム部22がシースSにより拘束されたとしても、アーム部22の収縮は小さい。このため、アーム部22の最大幅がシースSの外径よりも小さくなる位置は、よりシースSがアーム部22の中間部22aに近い位置となり、脳領域Bの挿入路にシースSを挿入する際のシースSの移動量Lを長くとることができる。
【0027】
なお、図7(a)および(b)に示すような形状の2本のアーム部24を有する拡張具23を用いてもよい。各アーム部24は、棒状部材1の互いに対向する位置からシースSの軸方向に沿って延びる形状を有し、その中間部24aが外方に向かって湾曲して膨らんだ形状を有する。また、各アーム部24は、棒状部材1に接続されると共に中間部24aにおける拡張具23の幅よりも小さい幅を形成する基端部24bと、基端部24bよりも外方へ向かって拡がり且つ基端部24bと中間部24aを接続する接続部24cをそれぞれ有する。拡張具23がシースSの開口部より前方へ突出して拡張した状態において、各アーム部24は接続部24c間の幅がシースSの内径より大きくなるまで外方へ拡張するような弾性を予め備え、この接続部24cが、拡張具23に対するシースSの前進を規制するように作用する。
【0028】
まず、図7(a)に示すように、棒状部材1の先端部をシースSの開口部まで前進させ、拡張具23をシースSの径方向外方へ拡張させる。これにより、拡張具23の最大幅がシースSの外径より大きくなるまで拡張し、中間部24aと共に接続部24cがシースSの外側に位置される。続いて、シースSを所定の推進力で拡張具23に対して前進させていくとシースSの先端部が2本のアーム部24の基端部24bに当接し、そのまま2本のアーム部24を収縮していくことでシースSが所定の推進力で脳領域Bの挿入路に挿入されていく。シースSがアーム部24を収縮しつつ前進されていくと、シースSは基端部24bと中間部24aを接続する接続部24cに当接し、シースSが所定の推進力では前進しなくなる。オペレータは、シースSが所定の推進力で前進しなくなることでシースSが接続部24cに当接したと判断し、再度、棒状部材1をシースSの開口部まで前進させる。このようにして、所定の推進力によるシースSの前進を接続部24cにより規制するため、シースSを拡張具23の最大幅を構成する中間部24aより前方に前進させて脳組織を損傷させることを防ぐことができる。なお、シースSが接続部24cに当接した状態から所定の推進力より大きな力で拡張具23をシースSに対して後退させることで、2本のアーム部24をシースSの内部で折りたたみ、そのままシース挿入装置をシースSから抜き取ることができる。
【0029】
実施の形態3
上記の実施の形態1および2では、それぞれの拡張具が、棒状部材1に対してシースSの径方向外方へ拡がるような弾性を予め備えた2本のアーム部を有していたが、これに限るものではなく、2本のアーム部がシースSの開口部より前方に突出したときに自律的に外方に拡張すればよい。
例えば、図8に示される実施の形態3に係るシース挿入装置に使用された拡張具31は、図1に示した実施の形態1における拡張具2において、2本のアーム部3の内側に環状のコイルバネ32を配置したものである。コイルバネ32は、2本のアーム部3にそれぞれ連結されており、これらアーム部3をシースSの径方向外方へ向けて付勢している。
【0030】
拡張具31に対してシースSを前進させることにより、環状のコイルバネ32を収縮しつつシースSが挿入され、拡張具31をシースSに対して前進させて拡張具31をシースSの開口部より前方へ突出させることにより、コイルバネ32の付勢力に起因して2本のアーム部3が外方へ拡がり、拡張具31が自律的にシースSの径方向外方へ拡張する。
このように、環状のコイルバネ32の弾性力を利用するので、アーム部3自体がそれぞれ弾性を備えていなくても、上述した実施の形態1および2と同様に、脳領域Bの挿入路を拡張しつつシースSを挿入することが可能となる。
なお、コイルバネ32の弾性力は、脳領域Bからの圧力によりアーム部3が収縮することがないように調整されている。
【0031】
実施の形態4
上記の実施の形態1〜3では、それぞれの拡張具が、棒状部材1の互いに対向する位置からシースSの軸方向に沿って延びると共に中間部が外方に向かって膨らんだ形状の2本のアーム部を有していたが、これに限るものではなく、脳領域Bの挿入路を拡張してシースSを挿入できるように複数のアーム部を備えていればよい。
例えば、図9に示される実施の形態4のシース挿入装置に使用された拡張具41は、周方向に4分割された4本のアーム部42を有している。
【0032】
図10に示されるように、4本のアーム部42は、シース1の軸方向に沿って延びると共に中間部42aが外方に向かって屈曲した形状をそれぞれ有する。これにより、拡張具41は中間部42aで最大幅となる。図9のように棒状部材1をシースSの開口部まで前進させると、拡張具41が自律的にシースSの径方向外方へ拡張する。このとき、拡張具41はその最大幅がシースSの外径より大きくなるまで拡張し、これに伴い脳領域Bの挿入路がシースSの外壁の外側まで拡張される。また、シースSを拡張具41に対して前進させると、シースSがその先端部で4本のアーム部42を収縮しつつ脳領域Bの挿入路に挿入されていく。
このように、拡張具41により脳領域Bの挿入路を4方向に拡張するため、シースSの外壁と脳領域Bの神経細胞との接触をさらに抑制することができる。
【0033】
実施の形態5
図11に実施の形態5に係るシース挿入装置の先端部の構成を示す。このシース挿入装置は、実施の形態4のシース挿入装置において、拡張具41の代わりに、拡張具51を用いたものである。拡張具51は、実施の形態4における拡張具41と同様に4本のアーム部42を有するだけでなく、これらアーム部42の全体を覆うシート52を有している。シート52は、拡張具41がシースSの開口部より前方へ突出して拡張したときには、図12に示されるように、4本のアーム部42により張設される。
【0034】
このようなシート52を用いることにより、拡張具51が拡張した際に、脳領域Bとの接触面積が増大し、接触による圧力を拡散して神経細胞の損傷を抑制することができる。
なお、シート52は、拡張具51の4本のアーム部42の外側に固着されることが好ましい。
【0035】
シート22の形成材料としては、可撓性を有するものであれば特に限定されないが、例えば、ポリウレタン、ポリエチレン、ポリエステル、ポリプロピレン、ポリアミド、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン等を挙げることができる。
【0036】
上記の実施の形態1〜5では、それぞれの拡張具をシースSに対して進退させるための操作手段として棒状部材2を用いたが、例えばワイヤを操作手段として使用することもできる。ワイヤの先端に拡張具を固定すると共にこのワイヤをシースS内に挿通し、シースSに対してワイヤを出し入れすることで拡張具を進退させればよい。
また、拡張具の所定の拡張幅は、脳領域Bに対して拡張した際にその最大幅がシースSの外径よりも大きくなるように設定するのが好ましい。
また、アーム部3,22,24,42およびシート52の脳領域Bと接触する部分には、滑りを良くするために親水性コーティングなどの処理を行ってもよい。
【符号の説明】
【0037】
1 棒状部材、2,21,23,31,41,51 拡張具、3,22,24,42 アーム部、3a,22a,24a,42a 中間部、11 頭蓋骨、12 大脳、13 小脳、14 大脳縦裂、15 右脳、16 左脳、17 第3脳室、18 脳静脈洞、19 挿入ポート、22b,24b 基端部、22c,24c 接続部、32 コイルバネ、52 シート、S シース、B 脳領域。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
先端に開口部を有するシースを脳領域内に挿入するための挿入路を拡張するシース挿入装置であって、
前記シースに対して進退可能に前記シース内に挿入され、前記シースの開口部より前方に突出したときに自律的に前記シースの径方向外方へ拡張する複数のアーム部を有する拡張具と、
前記拡張具を前記シースに対して進退させるための操作手段と
を備え、
前記複数のアーム部はそれぞれ中間部が外方へ向かって膨らんだ形状を有すると共に拡張したときの前記拡張具の最大幅が前記シースの外径より大きくなることを特徴とするシース挿入装置。
【請求項2】
前記操作手段により前記拡張具を前記シースに対して前進させて前記シースの開口部より前方に突出させることにより、前記複数のアーム部を拡張させ、前記シースを前記拡張具に対して前進させることにより、前記シースの先端部で前記複数のアーム部を収縮しつつ前記拡張具により拡張させた前記移動路に沿って前記シースを挿入する請求項1に記載のシース挿入装置。
【請求項3】
前記複数のアーム部は、前記中間部における前記拡張具の幅よりも小さな幅を形成する基端部と、前記基端部と前記中間部を接続すると共に前記基端部より外方へ向かって拡がる接続部とをさらに有する請求項1または2に記載のシース挿入装置。
【請求項4】
前記接続部は、前記拡張具に対するシースの前進を規制する請求項3に記載のシース挿入装置。
【請求項5】
前記複数のアーム部は、それぞれ中間部が屈曲または湾曲することで外方に向かって膨らんだ形状を有する請求項1〜4のいずれか一項に記載のシース挿入装置。
【請求項6】
前記複数のアーム部は、自ら有する弾性により拡張される請求項1〜5のいずれか一項に記載のシース挿入装置。
【請求項7】
前記拡張具は、前記複数のアーム部を拡張するための弾性部材を含む請求項1〜5のいずれか一項に記載のシース挿入装置。
【請求項8】
前記拡張具は、前記複数のアーム部の全体を覆うシートを含む請求項1〜7のいずれか一項に記載のシース挿入装置。
【請求項9】
前記操作手段は、前記シースに対して進退可能に前記シース内に挿入されると共に前記拡張具に連結された棒状部材からなる請求項1〜8のいずれか一項に記載のシース挿入装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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