説明

シース熱電対

【課題】 高温・高速流体の温度測定においても高い応答性と支持強度が維持できる高応答・高耐力型シース熱電対を提供せんとする。
【解決手段】 金属シース2内に、端部31a、32a同士を接続してなる温接点33が前記シースの軸方向途中部20に位置し且つ該温接点よりシース両端21、22に向けて互いに反対の側に延びる熱電対素線31、32を、単又は複数対内挿し、これら熱電対素線31(32)と金属シース2の隙間に無機絶縁物を充填し、前記金属シース2の両端側をそれぞれ支持した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シース熱電対に係わり、特にガスタービンや蒸気タービン、石油化学プラント等の高温・高速流体の温度測定に好適なシース熱電対に関する。
【背景技術】
【0002】
熱電対は、種類の異なる二本の素線を接続し、この接続部(温接点)間に温度差が生じたとき閉回路に熱起電力が発生し、回路に電流が流れるゼーペック効果を利用して温度を測定するものである。シース熱電対は、熱電対素線を金属シース内に納め、酸化マグネシウム(MgO)等の無機絶縁物で充填密封して一体化したものである。
【0003】
従来のシース熱電対は、先端が互いに接続された二本の熱電対素線を当該接続部で折り返した形に平行に配し、棒状の金属シース基端から挿入して、温接点をシース先端部分に位置させるとともに、シース基端側を片持ち状に支持することで先端側を被測定流体中に突出させ、当該温接点が位置するシース先端の部分で温度測定するものである(例えば、特許文献1〜3参照。)。
【0004】
このようなシース熱電対には、高温や様々な雰囲気の中での耐久力や高い応答性が使用環境に応じ要求されており、耐久力を持たせるためには、雰囲気に適したシースの材質選定とともに同肉厚を増すことが好ましく、また、応答性を向上するためには、熱容量の点からシース外径は細く、受熱表面積の点から被測定流体中へのシース挿入長は長くする必要があった。
【0005】
しかしながら、このようにシース外径を細くし且つシース挿入長を長くすればするほど、流体から受ける曲げモーメントにより強度的な問題が生じやすく、高速流体であれば尚更であり、応答性の向上には限界があった。
高速流体や高圧流体に用いるものとして、強度を維持すべくシース全体を保護管で覆ってしまうことも為されているが、シースとの間に空気層が存在するため、同じく応答性の低下は避けられない。
【0006】
【特許文献1】実開平4−106734号公報
【特許文献2】特開平8−82557号公報
【特許文献3】特開2001−165780号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで、本発明が前述の状況に鑑み、解決しようとするところは、高温・高速流体の温度測定においても高い応答性と支持強度が維持できる高応答・高耐力型シース熱電対を提供する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、前述の課題解決のために、金属シース内に、端部同士を接続してなる温接点が前記シースの軸方向途中部に位置し且つ該温接点よりシース両端に向けて互いに反対の側に延びる熱電対素線を、単又は複数対内挿し、これら熱電対素線と金属シースの隙間に無機絶縁物を充填し、前記金属シースの両端側をそれぞれ支持してなることを特徴とするシース熱電対を構成した。
【0009】
特に、端部同士を接続してなる温接点に対し、互いに反対の側に延びる熱電対素線を単又は複数対設け、これら熱電対素線を金属シース内に挿通することにより、前記温接点を当該シースの軸方向途中部に位置させ且つシース両端部から前記反対側に延びる各熱電対素線を延出させ、これら熱電対素線と金属シースの隙間に無機絶縁物を充填した後、当該金属シースを所定形状に曲成し、両端側をそれぞれ支持させてなるものが好ましい。
【0010】
また、前記金属シースを略U字形状に構成し、両端側をそれぞれ支持部材に固定して突設される当該金属シースの突出方向頂部又はその近傍に、前記熱電対素線の温接点を位置させてなるものが好ましい。
【0011】
さらに、前記金属シースの肉厚を、シース外径の20%以上の寸法に設定してなるものが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
以上にしてなる本願発明に係るシース熱電対によれば、金属シース内部では熱電対素線間及び各素線とシース間に所定の絶縁距離を維持する必要があるが、シース断面を通過する一対あたりの素線の数は、従来のシース熱電対の1/2となるため、シース外径に対するシース肉厚の比率をより大きく設定でき、これにより流体応力への耐力が向上する。また、シース外径をより細く設定し、応答性の向上を図ることができる。さらに、温接点で折り返した熱電対素線が挿着される従来のものに比べ、構造が簡単化され熱電対素線の絶縁性や耐久性も向上する。
【0013】
また、金属シースの両端側をそれぞれ支持させたので、一端側のみ支持した従来のものに比べ、流体から支持箇所に作用する曲げモーメントがほぼ半減し、耐力が著しく向上するとともに、その分シース外径をさらに細く設定して応答性の向上を図ることが可能である。
【0014】
また、端部同士を接続してなる温接点に対し、互いに反対の側に延びる熱電対素線を単又は複数対設け、これら熱電対素線を金属シース内に挿通することにより、前記温接点を当該シースの軸方向途中部に位置させ且つシース両端部から前記反対側に延びる各熱電対素線を延出させ、これら熱電対素線と金属シースの隙間に無機絶縁物を充填した後、当該金属シースを所定形状に曲成し、両端側をそれぞれ支持させたので、上述の効果に加え、温接点で折り返した熱電対素線を挿着していた従来のものに比べて作業性も向上し、製作コストも低減できる。
【0015】
また、金属シースを略U字形状に構成し、両端側をそれぞれ支持部材に固定して突設される当該金属シースの突出方向頂部又はその近傍に、前記熱電対素線の温接点を位置させたので、上述の効果に加え、流体中へのシース挿入長を維持しつつ流体から受ける応力や流体への影響も少なくでき、したがって、シース挿入長をより長く設定して受熱表面積を大きくし、応答性の向上を図ることも可能である。
また、略U字形状の金属シースを支持する支持部材は大きくなるが、シース熱電対全体として強度が大きくなる。
【0016】
また、金属シースの肉厚を、シース外径の20%以上の寸法に設定したので、流体応力への耐力が著しく向上し、シース外径をより細く設定して応答性の向上を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
次に、本発明の実施形態を添付図面に基づき詳細に説明する。
【0018】
図1は、本発明に係るシース熱電対の構成を示す断面図であり、図1〜3は代表的実施形態を示し、図中符号1はシース熱電対、2は金属シース、31、32は熱電対素線、4は無機絶縁物、5は保護管、6は取付金具、7は端子箱、8は補償導線、9は測定器をそれぞれ示している。
【0019】
シース熱電対1は、図1に示すように、金属シース2内に熱電対素線31、32が内挿され、これら熱電対素線31(32)と金属シース2の隙間に無機絶縁物4を充填したものである。熱電対素線の端部31a、32a同士を接続してなる温接点33は、前記シース2の軸方向途中部(20)に位置しており、該温接点33よりシース両端部21、22に向けて、熱電対素線31、32が互いに反対の側に延び、金属シース2の両端側が、支持部材11にそれぞれ支持されている。
【0020】
本例では、熱電対素線31、32を一対のみ内挿したシース熱電対を示しているが、複数対内挿しても良い。また、以下の説明では、金属シース2をスリーブ状の保護管5で支持し、端子箱から延出した補償導線8で測定器9に接続される耐圧防爆型シース熱電対として構成した例について説明するが、本発明はこのような構造に何ら限定されず、端子箱を介することなく補償導線を直接つないだものや脱着コネクタを設けたものなど、従来と同様の種々の型のシース熱電対として構成することができる。
【0021】
金属シース2は略U字形状に構成されており、その両端側が支持部材11により固定されている。具体的には、支持部材11としてスリーブ状のステンレス製保護管5が設けられ、金属シース2の両端側が前記保護管5に内挿され、その隙間にMgO等が充填された後、保護管先端の金属シース2が突出している部分を蓋50で塞ぎ、金属シース2に溶接することで、金属シース2両端側をそれぞれ支持する支持部12、13が形成されている。尚、溶接は必ずしも必要ではなく、他の支持手段を用いることも勿論可能である。
【0022】
金属シース2のうち保護管5の先端から突出した略U字状部分が感温部10であり、突出方向頂部20に前記熱電対素線の温接点33が位置されている。尚、本発明の「略U字形状」は、例えば図4に示すように突出方向先端が外側に膨出した略Ω形状のものや、先端に向かって互いに寄り合うように傾斜した略V字形状に近いもの等も含み、突出した感温部10が両端支持されている限り保護管5内を延びる一方の端側が短い鉤状のもの等をも含まれる。特に、図4の略Ω形状としたものは、流体中心寄りの突出方向先端位置における接触表面積が大きくなり、応答性に優れるといったメリットを有する。
【0023】
金属シース2は、従来と同様、オーステナイト系ステンレス鋼(SUS314、SUS316等)やニッケルクローム系耐熱合金(インコネル等)からなるものが用いられ、また、シース内に充填される無機絶縁物4も、従来と同様、酸化マグネシウム(MgO)等が用いられ、これらに何ら限定されるものでもない。
【0024】
本実施形態に係るシース熱電対1の作製は、まず、図2(a)に示すように、熱電対素線の端部31a、32aを突合せ溶接することで温接点を形成し、該温接点33に対して互いに反対側に延びる熱電対素線31、32を一直線状に構成し、これら熱電対素線31(32)を金属シース2の内部に挿通し、中間の温接点33を当該シースの軸方向途中部に位置させてシース両端部21、22からは各熱電対素線31、32の他端側をそれぞれ延出させる。
【0025】
次に、図2(b)に示すように、熱電対素線31(32)と金属シース2の隙間に、無機絶縁物4を充填し、シース外周から加圧成形することにより、両端から熱電対素線31、32を延出させた一本の金属シースが構成される。
【0026】
次に、図2(c)、(d)に示すように、当該金属シース2を所定形状、本例では頂部20に温接点33が位置するように略U字形状に曲げ加工した後、両端側をそれぞれ支持部材11に支持させることでシースが略U字形状に突設されたシース熱電対1が構成される。
【0027】
このような手順により本発明のシース熱電対は容易に作製することができるが、その他、あらかじめ略U字形状に曲げ加工された金属シース内部に、上述と同様に一直線状に接続された熱電対素線31、32を挿通し、隙間に無機絶縁物を充填し、加圧成形することで同様のシース熱電対を構成することも可能である。
【0028】
また、各熱電対素線31、32をそれぞれ両端から延出した状態に内装した一対の分割シースを構成し、それぞれの分割シースの一端側から延出している熱電対素線の端部同士を接続して温接点とするとともに、当該端部に臨む分割シースの端部同士を直接又は別部材を介して接続することにより本発明に係るシースを構成してなるものも可能である。
【0029】
本発明のシース熱電対1では、図3に示すように、シース断面を通過する一対あたりの素線が1本のみとなるため、シース外径Dに対するシース肉厚tの比率を大きく設定でき、従来10〜15%程度であったものを20%以上に設定できるため、流体応力への耐力は著しく向上し、シース外径をより細くして温度変化に敏感に反応するシース熱電対を構成することが可能となる。
【0030】
また、熱電対素線を2対以上内装する場合であっても、本発明の熱電対素線は特に接続部分の構造が簡単であるので従来型の同径シースとの対比において同径乃至より細い素線を使用でき、このような素線を使用して上記比率を20%以上に設定でき、これにより同じく高い耐力を実現できるとともに応答性も向上できるのである。
シース外径Dは、従来よく用いられている0.5〜8mmのものに何ら限定されず、それよりも細いものや太いものも同様に採用できる。
【0031】
図5は、本発明に係るシース熱電対の変形例を示しており、例えば図5(a)に示すように、略U字形状に構成した金属シースを更に曲げることで、流体から受ける応力を低減しつつ接触表面積を大きくすることができ、また、図5(b)に示すように突出方向に沿ってスパイラル状に捻ったものも、同様に接触表面積を大きくでき、応答性をより向上させることが可能であり、また、略U字形状以外に、図示しないが略W形状など複数の頂部を有するものとしたり、先端側を流体の流通方向に沿ってスパイラル状(コイル状)に捻ったものも好ましい。
【0032】
また、以上の実施形態では金属シースの両端側を同一の支持部材で支持させているが、本発明はこれに限らず、両端側をそれぞれ別の支持部材で支持させたものも好ましく、例えば両端の支持部材で流体の流通路を横切るように金属シースを架設し、中央部付近に位置した温接点で温度測定を行うものも好ましい実施例である。
【実施例1】
【0033】
次に、本発明に係るシース熱電対と従来タイプのシース熱電対の応答特性の測定結果について説明する。
【0034】
図6は各シース熱電対の応答特性を表すグラフである。
実施例1は、外径3.2mmのU字形状のシースを突設した本発明に係るシース熱電対、比較例1は、同じく外径3.2mmの棒状のシースを突設した従来タイプのシース熱電対、比較例2は、外径6.4mmの同じく従来タイプのシース熱電対であり、突出距離や素材等、他の条件は同じとし、それぞれ室温から約100℃の沸騰水に浸漬した時の温度変化量を測定した。
【0035】
図6のグラフから分かるように、シース外径が同じ比較例1の時定数が約1.3であるのに対し、実施例1の時定数は約0.9となっており、応答性が向上している。時定数とは温度変化量63.2%に至るまでの所要時間であり、この時定数が小さいほど応答性が良いと判断される。
【0036】
また、温度変化量100%に至るまでの所要時間も、比較例2では約5秒必要であったのに対し、実施例1では約3.9秒となり、明らかに応答性が向上している。実施例1と比較例1は外径が同じであるため、この結果は、U字形状のシースの流体との接触面積増大による効果と考えられる。
【0037】
また、シース外径6.4mmの比較例2では、比較例1と比べても時定数が倍以上となっており、応答性が非常に低く、シース外径が応答性に影響することが分かる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明の実施形態に係るシース熱電対を示す断面図。
【図2】(a)〜(d)は同じくシース熱電対の作製手順を示す説明図。
【図3】熱電対素線を内装したシースの断面図。
【図4】略Ω形状のシースとした変形例を示す断面図。
【図5】(a)及び(b)は、シース熱電対の変形例を示す斜視図。
【図6】各シース熱電対の応答特性を表すグラフ。
【符号の説明】
【0039】
1 シース熱電対
2 金属シース
4 無機絶縁物
5 保護管
6 取付金具
7 端子箱
8 補償導線
9 測定器
10 感温部
11 支持部材
12、13 支持部
20 頂部
21、22 シース両端部
31、32 熱電対素線
31a、32a 端部
33 温接点
50 蓋

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属シース内に、端部同士を接続してなる温接点が前記シースの軸方向途中部に位置し且つ該温接点よりシース両端に向けて互いに反対の側に延びる熱電対素線を、単又は複数対内挿し、これら熱電対素線と金属シースの隙間に無機絶縁物を充填し、前記金属シースの両端側をそれぞれ支持してなることを特徴とするシース熱電対。
【請求項2】
端部同士を接続してなる温接点に対し、互いに反対の側に延びる熱電対素線を単又は複数対設け、これら熱電対素線を金属シース内に挿通することにより、前記温接点を当該シースの軸方向途中部に位置させ且つシース両端部から前記反対側に延びる各熱電対素線を延出させ、これら熱電対素線と金属シースの隙間に無機絶縁物を充填した後、当該金属シースを所定形状に曲成し、両端側をそれぞれ支持させてなる請求項1記載のシース熱電対。
【請求項3】
前記金属シースを略U字形状に構成し、両端側をそれぞれ支持部材に固定して突設される当該金属シースの突出方向頂部又はその近傍に、前記熱電対素線の温接点を位置させてなる請求項1又は2記載のシース熱電対。
【請求項4】
前記金属シースの肉厚を、シース外径の20%以上の寸法に設定してなる請求項1〜3の何れか1項に記載のシース熱電対。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−17556(P2006−17556A)
【公開日】平成18年1月19日(2006.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−194885(P2004−194885)
【出願日】平成16年6月30日(2004.6.30)
【出願人】(390007744)山里産業株式会社 (33)
【Fターム(参考)】