説明

シートベルトおよびこれを用いたシートベルト装置

【課題】乗員の良好な拘束性を維持しつつ、厚みをより一層効果的に薄くする。
【解決手段】緊急時に乗員を拘束するシートベルト4は、装着時に少なくとも乗員に当接する領域が、長手方向またはほぼ長手方向に延設される複数の縦糸4aと縦糸4aに直交する方向または縦糸4aにほぼ直交する方向に延設される複数の横糸4bとによる製織部4cとされているとともに、装着時に乗員に当接しない領域の少なくとも一部の領域が、複数の縦糸4aによる非製織部4dとされている。この非製織部4dの厚みは非製織部4cの厚みより薄くなっている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車等の車両において、衝突時等の車両に通常時より大きな減速度が作用した場合の緊急時に車両の乗員を拘束するためのシートベルト、およびこれを用いたシートベルト装置の技術分野に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から自動車等の車両シートに付設されているシートベルト装置は、衝突時等の車両に通常時より大きな減速度が作用した場合の緊急時に、シートベルトで乗員を拘束している。従来、このようなシートベルト装置に用いられているシートベルトは、そのすべてが同じ太さの縦糸および横糸を製織して形成された織布から形成されている(例えば、特許文献1および2参照)。
【0003】
図3(a)は、特許文献1に記載のシートベルトを模式的にかつ部分的に示す部分拡大図、図3(b)は、図3(a)のIIIB−IIIB線に沿う断面図である。
図3(a),(b)に示すように特許文献1に記載のシートベルトaは、そのすべてが
黒く塗られた複数の縦糸bおよび白抜きの複数の横糸cにより綾織りで製織された織布から形成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−191897号公報。
【特許文献2】特開2004−122910号公報。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、前述のようにシートベルトaのすべてが複数の縦糸bおよび複数の横糸cからなる織布で形成されると、図3(b)に示すようにシートベルトaの厚みt1は縦糸b
の直径(縦糸bの太さあるいは縦糸bの横断面形状が円形でない場合にはシートベルトaの厚み方向の縦糸bの厚み)のほぼ2倍と横糸cの直径(横糸cの太さあるいは横糸cの横断面形状が円形でない場合にはシートベルトaの厚み方向の横糸cの厚み)との和にほぼ等しく、比較的厚くなっている。特許文献2に記載のシートベルトも同様である。
【0006】
しかしながら、このようにシートベルトaの厚みt1が厚いと、シートベルトaの非装
着時にシートベルトaの全量(シートベルトの非装着時に、シートベルトaに何らの力が加えられないときにシートベルトリトラクタのスプールで巻取り可能な量)がシートベルトリトラクタのスプールに巻き取られたとき、スプールに巻かれたシートベルトaの巻取り直径が大きくなってしまう。このように、スプールに巻かれたシートベルトの巻取り直径が大きいと、必然的にシートベルトリトラクタが大型になるばかりでなく、シートベルトリトラクタの重量が大きくならざるを得ないという問題がある。
【0007】
一方、シートベルトaには、前述の緊急時に大きな乗員の慣性力がシートベルトaに加えられたとき、この大きな力を支持して乗員の拘束性を十分に発揮することが求められる。
【0008】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであって、その目的は、乗員の良好な拘束性を維持しつつ、厚みをより一層効果的に薄くすることができるシートベルトを提供することである。
また、本発明の他の目的は、シートベルトを巻き取るシートベルトリトラクタをより一層効果的に小型コンパクトかつ軽量に形成することができるシートベルト装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前述の課題を解決するために、本発明に係るシートベルトは、緊急時に乗員を拘束するシートベルトにおいて、装着時に少なくとも乗員に当接する領域が、長手方向またはほぼ長手方向に延設される複数の縦糸と前記縦糸に直交する方向または前記縦糸にほぼ直交する方向に延設される複数の横糸とによる製織部であるとともに、装着時に乗員に当接しない領域の少なくとも一部の領域が、前記複数の縦糸による非製織部であることを特徴としている。
【0010】
また、本発明に係るシートベルトは、前記非製織部の少なくとも一部における前記複数の縦糸が、いずれも前記縦糸の直径より厚みの薄いテープに接着されていることを特徴としている。
更に、本発明に係るシートベルトは、少なくとも前記非製織部における前記複数の縦糸は、隣接する縦糸どうしが接着剤により互いに接着されていることを特徴としている。
【0011】
更に、本発明に係るシートベルトは、少なくとも前記非製織部における前記複数の縦糸が熱溶着系材料で被覆されているとともに、隣接する縦糸どうしが、前記熱溶着系材料が熱溶着されることで互いに接着されていることを特徴としている。
【0012】
一方、本発明に係るシートベルト装置は、シートベルトと、前記シートベルトをスプールで巻き取るシートベルトリトラクタと、前記シートベルトに摺動可能に支持されたタングと、このタングが挿入係合されるバックルとを少なくとも備え、前記タングを前記バックルに挿入係合することで前記シートベルトが乗員に装着されるシートベルト装置において、前記シートベルトが前述の本発明のシートベルトのいずれか1つであることを特徴としている。
【0013】
また、本発明に係るシートベルト装置は、前記シートベルトの非装着時に前記シートベルトの前記非製織部の少なくとも一部が前記シートベルトリトラクタの前記スプールに巻き取られることを特徴としている。
【発明の効果】
【0014】
このように構成された本発明に係るシートベルトによれば、装着時に乗員に当接しない領域の少なくとも一部の領域が、横糸が設けられなく、複数の縦糸のみによる非製織部にされる。このように横糸が設けられないことから、非製織部の厚みは製織部の厚みより薄くなる。これにより、シートベルトの厚みを簡単な構成で部分的に薄くすることが可能となる。
【0015】
また、非製織部は乗員に当接しない部分である。この部分には、緊急時に乗員の慣性力がシートベルトに加えられたとき、シートベルトにその長手方向に張力(テンション)が作用するだけで、シートベルトの幅方向(長手方向と直交またはほぼ直交する方向)にはほとんど力が作用しない。そして、シートベルトにその長手方向に作用する力は縦糸で支持されるため、横糸が設けられなくても、シートベルトにより緊急時での乗員の慣性力による長手方向の張力を十分に支持することが可能となる。これにより、非製織部に横糸が設けられなくても、本発明のシートベルトによれば乗員の拘束性を十分に発揮することが可能となる。
【0016】
更に、製織部の一部は乗員に当接する部分である。この部分では、緊急時に乗員の慣性
力がシートベルトに加えられたとき、シートベルトにその長手方向に張力が作用するとともに、シートベルトの幅方向にも力が作用する。その場合、製織部では縦糸と横糸とが設けられるので、シートベルトに長手方向に作用する力は縦糸で支持することができ、またシートベルト4に幅方向に作用する力は横糸で支持することができる。したがって、シートベルトに非製織部が設けられても、シートベルトにより緊急時での乗員の慣性力を十分に支持することが可能となる。これにより、この例のシートベルトによれば乗員の拘束性を十分に発揮することが可能となる。
【0017】
更に、少なくとも非製織部における複数の縦糸が縦糸の直径より厚みの薄い粘着テープに接着される。したがって、複数の縦糸がそれぞればらつくことを防止することができる。これにより、シートベルトをシートベルトリトラクタのスプールに連結する作業が簡単になり、横糸が設けられなくても作業性を良好にすることができる。
【0018】
更に、少なくとも非製織部における隣接する縦糸どうしが接着剤または熱溶着系材料で接着される。したがって、複数の縦糸がそれぞればらつくことを防止することができる。このように隣接する縦糸どうしが接着剤または熱溶着系材料で単に接着されることにより、縦糸を接着するための前述の粘着テープ等の接着部材が不要となる。したがって、接着部材の厚みの分だけ、非製織部の厚みを更に一層薄くすることができる。
【0019】
一方、本発明に係るシートベルト装置によれば、厚みの薄い非製織部を有するシートベルトが用いられる。したがって、シートベルトの非装着時にシートベルトの前述の全量がシートベルトリトラクタのスプールに巻き取られたとき、非製織部の少なくとも一部がスプールに巻き取られるようになる。これにより、スプールに巻き取られたシートベルトの巻取り直径を、すべてが縦糸と横糸から製織されたシートベルトが用いられた従来のシートベルト装置のスプールに巻き取られたシートベルトの巻取り直径に比べて、シートベルトの同じ量(同じ長さ)を巻き取った場合大幅に小さくすることができる。その結果、シートベルトリトラクタを小型コンパクトかつ軽量に形成することが可能となり、シートベルトリトラクタの設置の省スペース化を図ることができるとともに、シートベルトリトラクタの設置自由度が高くなる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明に係るシートベルト装置の実施の形態の一例を模式的に示す図である。
【図2】(a)は本発明に係るシートベルトの実施の形態の第1例を模式的にかつ部分的に示す平面図、(b)は(a)におけるIIB−IIB線に沿う断面図、(c)は(a)におけるIIC−IIC線に沿う断面図、(d)は本発明に係るシートベルトの実施の形態の第2例を模式的にかつ部分的に示す(c)と同様の断面図、(e)は本発明に係るシートベルトの実施の形態の第3例を模式的にかつ部分的に示す(c)と同様の断面図である。
【図3】(a)は特許文献1に記載のシートベルトを模式的にかつ部分的に示す平面図、(b)は(a)におけるIIIB−IIIB線に沿う断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図面を用いて本発明を実施するための形態について説明する。
図1は本発明に係るシートベルト装置の実施の形態の一例を模式的に示す図である。
【0022】
図1に示すように、この例のシートベルト装置1は、基本的には従来公知の三点式シートベルト装置と同じである。図中、1はシートベルト装置、2は車両シート、3は車両シート2の近傍に配設されたシートベルトリトラクタ、4はシートベルトリトラクタ3に引き出し可能に巻き取られかつ先端のベルトアンカー4aが車体の床あるいは車両シート2に固定されるシートベルト、5はシートベルトリトラクタ3から引き出されたシートベル
ト4を乗員のショルダーの方へガイドするガイドアンカー、6はこのガイドアンカー5からガイドされてきたシートベルト4に摺動自在に支持されたタング、7は車体の床あるいは車両シートに固定されかつタング6が係脱可能に挿入係止されるバックルである。
このシートベルト装置1におけるシートベルト4の装着操作および装着解除操作も、従来公知のシートベルト装置と同じである。
【0023】
そして、シートベルト4の非装着時では、タング6がバックル7に係合されず、シートベルト4はその全量(巻取り可能な量)をシートベルトリトラクタ3の従来公知のスプール(不図示)に巻き取られている。また、図1に示すシートベルト4の乗員への装着時では、シートベルト4はシートベルトリトラクタ3から所定量引き出されて、タング6がバックル7に係合される。その後、タング6から手を放すと、余分に引き出されたシートベルト4はシートベルトリトラクタ3のスプールに巻き取られる。こうして、シートベルト4が乗員に装着される。
【0024】
この例のシートベルト装置1に用いられているシートベルトリトラクタ3には、従来の一般的な緊急ロック式シートベルトリトラクタ(ELR)あるいは自動ロック式シートベルトリトラクタ(ALR)を用いることができる。
【0025】
したがって、シートベルト4の装着状態において、前述の緊急時以外の通常時は、シートベルト4は通常のベルト引出し速度で自由に引出し可能である。また、前述の緊急時は、シートベルトリトラクタ3がシートベルト4の引出しをロックし、シートベルト4は乗員を拘束して乗員の慣性移動を阻止する。
【0026】
図2(a)は本発明に係るシートベルトの実施の形態の第1例を模式的にかつ部分的に示す平面図、(b)は(a)におけるIIB−IIB線に沿う断面図、(c)は(a)におけるIIC−IIC線に沿う断面図である。なお、説明を容易に理解可能にするために、以下の実施の形態の各例における縦糸および横糸は、隣接する糸どうしを大きく離間させて図示されているが、実際には隣接する糸どうしは互いに緊密に配設される。
【0027】
図2(a)ないし(c)に示すように、第1例のシートベルト4は、複数の縦糸4aと複数の横糸4bを綾織りで織り込んで形成された製織部4cと、複数の縦糸4aは有するが横糸4bはまったく有さない非製織部4dとからなる。その場合、縦糸4aはシートベルト4の長手方向またはほぼ長手方向に延設されるとともに、横糸4bは縦糸4aに直交する方向または縦糸4aにほぼ直交する方向に延設される。また、縦糸4aおよび横糸4bは同じ太さで同じデニールの糸で形成されている。その場合、縦糸4aおよび横糸4bは、それぞれ従来のシートベルトに使用されている縦糸および横糸と同じ糸を使用することができる。
【0028】
非製織部4dにおける複数の縦糸4aは、これらの縦糸4aの直径より小さい厚みの薄い樹脂製の粘着テープ4eに接着されている。その場合、粘着テープ4eに接着された複数の縦糸4aは、いずれも製織部4cから直線状に延ばされて粘着テープ4eに接着されている。したがって、製織部4cでのシートベルト4の幅と非製織部4dでのシートベルト4の幅は等しいかまたはほぼ等しくされている。このように複数の縦糸4aが粘着テープ4eに接着されることで、横糸4bが設けられなくても縦糸4aはばらつくことが防止される。
【0029】
また、図2(b)に示すようにシートベルト4の製織部4cの厚みt1は、前述したよ
うに糸の直径のほぼ2倍の厚みであり、比較的厚くなっている。一方、図2(c)に示すようにシートベルト4の非製織部4dの厚みt2は、縦糸4aの直径と粘着テープ4eの
厚みとを加えた厚みと等しいかまたはほぼ等しい。その場合、粘着テープ4eの厚みは縦
糸4aの直径よりかなり小さいので、非製織部4dの厚みt2は、製織部4cの厚みt1より小さい(t2<t1)。すなわち、非製織部4dは製織部4cよりかなり薄くなっている。
【0030】
図示しないが、製織部4cはシートベルト4の一端まで延設されているとともに、非製織部4dはシートベルト4の他端まで延設されている。非製織部4dであるシートベルト4の他端部は、従来のシートベルトリトラクタ3と同様の方法でシートベルトリトラクタ3のスプールに連結されている。そして、シートベルトリトラクタ3の非製織部4dの少なくとも一部がスプールに巻き取られるようになっている。
【0031】
その場合、図1に示すように非製織部4dの領域は、シートベルト4の装着状態で乗員の体格や位置調整された車両シート2の位置等に基づいて想定されるシートベルトリトラクタ3からのシートベルト4の最大引出し時に非製織部4dの製織部4c側部分がガイドアンカー5を若干通過した位置となる領域Aに設定されている。換言すると、前述のようにシートベルト4の装着において想定されるシートベルト4の最大引出し時においても、非製織部4dが乗員に当接することがなく、製織部4cのみが乗員に当接するように設定されている。好ましくは、シートベルト4の装着において想定されるシートベルト4の最大引出し時において、非製織部4dのすべてがガイドアンカー5を通過しない位置となる領域Bに設定されることが、ガイドアンカー5においてシートベルト4が偏るのを抑制するうえでよい。
【0032】
このように構成されたシートベルト装置1においては、シートベルト4の非装着時に、従来のシートベルトリトラクタと同様に、シートベルトリトラクタ3がスプールでシートベルト4の全量(シートベルト4に何らの力が加えられないときの巻取り可能な量)を巻き取る。このとき、スプールはシートベルト4の非製織部4dの少なくとも一部を巻き取るようになる。そして、非製織部4dが製織部4cより薄いことから、スプールに巻き取られたシートベルト4の巻取り直径は、すべてが縦糸と横糸から製織されたシートベルト4が用いられた従来のシートベルト装置のスプールに巻き取られたシートベルト4の巻取り直径に比べて、シートベルト4の同じ量(同じ長さ)を巻き取った場合大幅に小さくなる。
【0033】
第1例のシートベルト4によれば、装着時に乗員に当接しない領域の少なくとも一部の領域が、横糸4bが設けられなく、複数の縦糸4aのみによる非製織部4dにされる。このように横糸4bが設けられないことから、非製織部4dの厚みは製織部4cの厚みより薄くなる。これにより、シートベルト4の厚みを簡単な構成で部分的に薄くすることが可能となる。
【0034】
また、非製織部4dは乗員に当接しない部分である。この部分では、緊急時に乗員の慣性力がシートベルト4に加えられたとき、シートベルト4にその長手方向に張力(テンション)が作用するだけで、シートベルト4の幅方向(長手方向と直交またはほぼ直交する方向)にはほとんど力が作用しない。そして、シートベルト4にその長手方向に作用する力は縦糸4aで支持されるため、横糸4bが設けられなくても、シートベルト4により緊急時での乗員の慣性力による長手方向の張力を十分に支持することが可能となる。これにより、非製織部3dに横糸3bが設けられなくても、この例のシートベルト3によれば乗員の拘束性を十分に発揮することが可能となる。
【0035】
更に、製織部4cの一部は乗員に当接する部分である。この部分では、緊急時に乗員の慣性力がシートベルト4に加えられたとき、シートベルト4にその長手方向に張力が作用するとともに、シートベルト4の幅方向にも力が作用する。その場合、製織部4cでは縦糸4aと横糸4bとが設けられるので、シートベルト4に長手方向に作用する力は縦糸4
aで支持することができ、またシートベルト4に幅方向に作用する力は横糸4bで支持することができる。したがって、シートベルト4に非製織部4dが設けられても、シートベルト4により緊急時での乗員の慣性力を十分に支持することが可能となる。これにより、この例のシートベルト3によれば乗員の拘束性を十分に発揮することが可能となる。
【0036】
更に、少なくとも非製織部4dにおける複数の縦糸4aが縦糸4aの直径より厚みの薄い粘着テープ4eに接着されることから、複数の縦糸4aがそれぞればらつくことを防止することができる。これにより、シートベルト4をシートベルトリトラクタ3のスプールに連結する作業が簡単になり、横糸4bが設けられなくても作業性を良好にすることができる。
【0037】
一方、第1例のシートベルト装置1によれば、厚みの薄い非製織部4bを有するシートベルト4が用いられる。したがって、シートベルト4の非装着時にシートベルト4の前述の全量がシートベルトリトラクタ3のスプールに巻き取られたとき、非製織部4bの少なくとも一部がスプールに巻き取られるようになる。これにより、スプールに巻き取られたシートベルト4の巻取り直径を、すべてが縦糸と横糸から製織されたシートベルト4が用いられた従来のシートベルト装置のスプールに巻き取られたシートベルト4の巻取り直径に比べて、シートベルト4の同じ量(同じ長さ)を巻き取った場合大幅に小さくすることができる。その結果、シートベルトリトラクタ3を小型コンパクトかつ軽量に形成することが可能となり、シートベルトリトラクタ3の設置の省スペース化を図ることができるとともに、シートベルトリトラクタ3の設置自由度が高くなる。
第1例のシートベルト4およびシートベルト装置1の他の構成および他の作用効果は、従来と同じである。
【0038】
図2(d)は、本発明に係るシートベルトの実施の形態の第2例を模式的にかつ部分的に示す(c)と同様の断面図である。
前述の第1例のシートベルト4ではその非製織部4dの複数の縦糸4aが粘着テープ4eに接着されているが、図2(d)に示すように、第2例のシートベルト4では、非製織部4dの複数の縦糸4aは、隣接する縦糸4aどうしが接着剤4fで互いに接着されている。したがって、第2例のシートベルト4では、第1例のシートベルト4の粘着テープ4eは設けられない。
【0039】
第2例のシートベルト4によれば、粘着テープ4eが設けられないので、粘着テープ4eの厚みの分だけ、シートベルト4の非製織部4dの厚みを薄くすることが可能となる。したがって、前述のスプールによるシートベルト4の巻取り直径を更に一層小さくすることができるとともに、シートベルトリトラクタ3を更に一層小型コンパクトかつ軽量に形成することが可能となる。
第2例のシートベルト4およびシートベルト装置1の他の構成および他の作用効果は、第1例のシートベルト4およびシートベルト装置1と同じである。
【0040】
図2(e)は本発明に係るシートベルトの実施の形態の第3例を模式的にかつ部分的に示す(c)と同様の断面図である。
前述の第2例のシートベルト4ではその非製織部4dの複数の縦糸4aが接着剤4fで接着されているが、図2(e)に示すように、第3例のシートベルト4では、非製織部4dの複数の縦糸4aが、例えば低融点のポリエステル等の熱溶着系材料4gで被覆されている。そして、熱溶着系材料4gが熱溶着されることで、隣接する縦糸4aどうしが互いに接着されている。
第3例のシートベルト4およびシートベルト装置1の他の構成および他の作用効果は、第2例のシートベルト4およびシートベルト装置1と同じである。
【0041】
なお、本発明は前述の実施の形態における各例に限定されるものではない。例えば、前述の実施の形態の各例では、シートベルト4のシートベルトリトラクタ3側がすべて非製織部4dとしているが、本発明は、シートベルト4のシートベルトリトラクタ3側端部は縦糸4aと横糸4bとを製織した製織部4cとすることもできる。このようにすれば、シートベルト4をシートベルトリトラクタ3のスプールに、より安定して連結することが可能となる。
【0042】
また、前述の図2(b)および図3では横糸が直線状に記載されているが、本発明は横糸も縦糸との交差部において縦糸と同様にある程度波打ってもかまわない。その場合にも横糸が設けられることで、製織部4cの厚みは横糸が設けられない非製織部4dの厚みより厚くなる。更に、前述の例では、製織部4cは綾織りで形成されているが、本発明はこれに限定されることはなく、シートベルト4の製織部4cを形成できるものであれば、平織り等の従来公知のどのような織り方で製織部4cを形成することもできる。更に、縦糸4aおよび横糸4bは、それぞれ所定数の細い糸を組み合わせて1本の糸に形成することもできる。
要は、本発明のシートベルトおよびシートベルト装置は、特許請求の範囲に記載された範囲で、種々の設計変更が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明のシートベルトおよびシートベルト装置は、自動車等の車両において、衝突時等の車両に通常時より大きな減速度が作用した場合の緊急時に車両の乗員を拘束するためのシートベルトおよびシートベルト装置に好適に利用することができる。
【符号の説明】
【0044】
1…シートベルト装置、3…シートベルトリトラクタ、4…シートベルト、4a…縦糸、4b…横糸、4c…製織部、4d…非製織部、4e…粘着テープ、4f…接着剤、4g…熱溶着系材料、5…ベルトガイド、6…タング、7…バックル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
緊急時に乗員を拘束するシートベルトにおいて、
装着時に少なくとも乗員に当接する領域が、長手方向またはほぼ長手方向に延設される複数の縦糸と前記縦糸に直交する方向または前記縦糸にほぼ直交する方向に延設される複数の横糸とによる製織部であるとともに、装着時に乗員に当接しない領域の少なくとも一部の領域が、前記複数の縦糸による非製織部であることを特徴とするシートベルト。
【請求項2】
前記非製織部の少なくとも一部における前記複数の縦糸は、いずれも前記縦糸の直径より厚みの薄いテープに接着されていることを特徴とする請求項1に記載のシートベルト。
【請求項3】
少なくとも前記非製織部における前記複数の縦糸は、隣接する縦糸どうしが接着剤により互いに接着されていることを特徴とする請求項1に記載のシートベルト。
【請求項4】
少なくとも前記非製織部における前記複数の縦糸は熱溶着系材料で被覆されているとともに、隣接する縦糸どうしが、前記熱溶着系材料が熱溶着されることで互いに接着されていることを特徴とする請求項1に記載のシートベルト。
【請求項5】
シートベルトと、前記シートベルトをスプールで巻き取るシートベルトリトラクタと、前記シートベルトに摺動可能に支持されたタングと、このタングが挿入係合されるバックルとを少なくとも備え、前記タングを前記バックルに挿入係合することで前記シートベルトが乗員に装着されるシートベルト装置において、
前記シートベルトは請求項1ないし4のいずれか1項に記載のシートベルトであることを特徴とするシートベルト装置。
【請求項6】
前記シートベルトの非装着時に前記シートベルトの前記非製織部の少なくとも一部が前記シートベルトリトラクタの前記スプールに巻き取られることを特徴とする請求項5に記載のシートベルト装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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