説明

シートベルトアンカ取付構造

【課題】板厚増加や補強等の特別な対策を施さなくても、シートベルトアンカから入力された引っ張り荷重に対してシートベルトアンカが取り付けられた車体構造材における十分な接合強度を維持できるシートベルトアンカ取付構造を得る。
【解決手段】リヤヘッダ40における閉じ断面形状の後方に設定されたヘッダアッパ62のフランジ部70とリヤヘッダ40のフランジ部52との接合部分にスリップジョイント26がアンカボルト106により支持される。このため、スリップジョイント26に付与された引っ張り力がフランジ部70からフランジ部52を引き剥がすような剥離荷重として作用しない。これにより、フランジ部52やフランジ部70の板厚を厚くしたり、フランジ部52とフランジ部70とを接合するための溶接点を増やしたり等の特別な対策を施さなくても、フランジ部52とフランジ部70との接合強度を確保できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シートベルト装置のウェビングの先端部や中間部を支持するシートベルトアンカを取り付けるためのシートベルトアンカ取付構造に関する。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1にはリヤルーフレールにシートベルトアンカを取り付けた構成が開示されている。このリヤルーフレールは、車両側面視で断面ハット形状に形成されたアウタパネルのフランジ部と、アウタパネルとは逆向きの断面ハット形状に形成されたインナパネルのフランジ部と、を挟着溶着することで閉じ断面形状に一体に接合されている。このような構成のリヤルーフレールに対してシートベルトアンカはインナパネルの底壁にボルトにより取り付けられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2000−168498号の公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
以上のような構成では、ウェビング(シートベルト)及びシートベルトアンカを介してインナパネルが引っ張られると、この引っ張り力がインナパネルのフランジ部をアウタパネルのフランジ部から引き剥がそうとする(すなわち、上記の引っ張り力は、インナパネルのフランジ部とアウタパネルのフランジ部との接合部分に対して剥離荷重として作用する)。
【0005】
このため、このような構成では、インナパネルやアウタパネルの板厚を増加させて溶接部分における溶接強度を向上させたり、スポット溶接であれば溶接点を増加させたり、又は、別途補強部材を設けたり等、十分な接合強度を付与しなくてはならなかった。
【0006】
本発明は、上記事実を考慮して、板厚増加や補強等の特別な対策を施さなくても、シートベルトアンカから入力された引っ張り荷重に対してシートベルトアンカが取り付けられた車体構造材における十分な接合強度を維持できるシートベルトアンカ取付構造を得ることが目的である。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1に記載の本発明に係るシートベルトアンカ取付構造は、車体構造材を構成する第1構造材と、前記第1構造材と共に閉じ断面形状を形成するように前記第1構造材に接合されて、前記車体構造材を構成する第2構造材と、前記第1構造材と前記第2構造材との接合部分を貫通し、前記第1構造材及び前記第2構造材のうちの一方の構造材における他方の構造材とは反対側に設けられたシートベルトアンカを支持するアンカボルトと、を備えている。
【0008】
請求項1に記載のシートベルトアンカ取付構造によれば、シートベルト装置のシートベルトアンカが車体構造材に取り付けられる。この車体構造材は第1構造材と第2構造材とを接合することにより形成され、第1構造材と第2構造材とで構成された閉じ断面形状を有している。このような閉じ断面形状を有する車体構造材において、第1構造材と第2構造材との接合部分を貫通したアンカボルトにシートベルトアンカが支持される。
【0009】
このように、本発明に係るシートベルトアンカ取付構造では、閉じ断面形状を有する車体構造材にシートベルトアンカが取り付けられることで、シートベルト装置を構成するウェビングが引っ張られることでシートベルトアンカを介して車体構造材に入力される荷重に対する剛性を効率的に確保できる。
【0010】
また、第1構造材と第2構造材との接合部分にアンカボルトが設けられており(すなわち、シートベルトアンカの支持点が設定されており)、第1構造材と第2構造材との接合部分とシートベルトアンカの支持点とが離間していない。しかも、第1構造材及び第2構造材のうちの一方の構造材における他方の構造材とは反対側にシートベルトアンカが設けられる。このため、ウェビングにシートベルトアンカが引っ張られると、シートベルトアンカはアンカボルトの頭部及びアンカボルトに締結されるナットのうち、シートベルトアンカの両構造材とは反対側に位置する方を引っ張る。これにより、アンカボルトの頭部及びナットのうち、両構造材のシートベルトアンカとは反対側に位置する方は、上記の他方の構造材を一方の構造材側へ押圧する。
【0011】
このように、本発明に係るシートベルトアンカ取付構造ではシートベルトアンカに付与された引っ張り力が第1構造材と第2構造材とを引き剥がすように作用しない。このため、第1構造材と第2構造材との接合を維持できる。
【0012】
請求項2に記載の本発明に係るシートベルトアンカ取付構造は、請求項1に記載の本発明において、車両の天井部の後端に沿って車幅方向に延びるように設けられて車体構造材としてのリヤヘッダを構成するヘッダアッパを前記第1構造材とし、前記ヘッダアッパの下側で車幅方向に延びるように設けられて前記ヘッダアッパと共にリヤヘッダを構成するヘッダロアを前記第2構造材とし、前記リヤヘッダの前後方向中間部に前記閉じ断面形状が形成されると共に、前記閉じ断面形状の後側に前記アンカボルトが設けられている。
【0013】
請求項2に記載のシートベルトアンカ取付構造によれば、車体構造材としてのリヤヘッダを構成する第1構造材としてのヘッダアッパは、車両の天井部の後端に沿って車幅方向に延びるように設けられ、ヘッダアッパと共にリヤヘッダを構成する第2構造材としてのヘッダロアがヘッダアッパの下側で車幅方向に延びるように設けられる。このヘッダアッパとヘッダロアとを接合すると、リヤヘッダの車両前後方向中間部に閉じ断面形状が形成される。
【0014】
ここで、アンカボルトが設けられるヘッダアッパとヘッダロアとの接合部分は、閉じ断面形状とされた部分よりも後側に設定される。このため、リヤヘッダの閉じ断面形状の部分やリヤヘッダの閉じ断面形状よりも前側の部分にシートベルトアンカの支持点を設定した場合に比べて、シートベルトアンカの支持点を乗員から後方側へ離間させることができ、乗員とシートベルトアンカとの間隔を確保できる。
【0015】
請求項3に記載の本発明に係るシートベルトアンカ取付構造は、請求項2に記載の本発明において、車両の後端部に設けられるバックドアを上下に開閉回動可能に支持するバックドアヒンジにおける車幅方向の近傍に前記ヘッダアッパと前記ヘッダロアとの接合部分を設定すると共に、前記バックドアヒンジの取付部位を補強するための補強部材から前記車幅方向に補強部材側接合部を延設し、当該補強部材側接合部を前記ヘッダアッパと前記ヘッダロアとの接合部分に接合する。
【0016】
請求項3に記載のシートベルトアンカ取付構造によれば、車両のバックドアを上下に開閉回動可能に支持するバックドアヒンジにおける車幅方向の近傍にヘッダアッパとヘッダロアとの接合部分が設定される。さらに、このバックドアヒンジの取付部位を補強するための補強部材からは車幅方向に補強部材側接合部が延設され、この補強部材側接合部がヘッダアッパとヘッダロアとの接合部分でヘッダアッパとヘッダロアと共に接合される。
【0017】
このように、シートベルトアンカの支持点では、ヘッダアッパとヘッダロアとだけが接合されるのみならず、上記の補強部材から車幅方向に延設された補強部材側接合部が接合され、しかも、この接合部分がバックドアヒンジにおける車幅方向の近傍に設定される。このため、特に部品点数を増やすことなくヘッダアッパとヘッダロアとの接合強度を更に向上でき、この部分における車体構造材の局部変形を防止又は抑制できる。
【発明の効果】
【0018】
以上説明したように、請求項1に記載の本発明に係るシートベルトアンカ取付構造では、特別な対策を講じなくてもシートベルトアンカを介して車体構造材に入力される引っ張り荷重に対し、第1構造材と第2構造材との接合強度を確保できる。
【0019】
請求項2に記載のシートベルトアンカ取付構造では、シートベルトアンカの支持点を乗員から後方側へ離間させることができ、乗員とシートベルトアンカとの間隔を確保できる。
【0020】
請求項3に記載のシートベルトアンカ取付構造では、特に部品点数を増やすことなく第1構造材と第2構造材との接合強度を更に向上でき、この部分における車体構造材の局部変形を防止又は抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本実施の形態に係るシートベルトアンカ取付構造にてシートベルトアンカが取り付けられた車両の後部座席を左斜め前方から見た斜視図である。
【図2】本実施の形態に係るシートベルトアンカ取付構造にてシートベルトアンカが取り付けられた車両の後部を右斜め後方から見た斜視図である。
【図3】シートベルトアンカの支持点とその近傍を拡大した側面断面図である。
【図4】シートベルトアンカの支持点とその近傍を拡大した背面断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
次に、本発明の実施の形態を図1から図4の各図を用いて説明する。なお、各図において適宜示される矢印FRは対応する実施の形態が適用された車両の前方を示し、矢印UPは対応する実施の形態が適用された車両の上方を示し、矢印RHは対応する実施の形態が適用された車両の幅方向右方を示している。
【0023】
<本実施の形態の構成>
図1には本実施の形態に係るシートベルトアンカ取付構造によってシートベルト装置10が取り付けられた車両12が概略的な斜視図により示されている。シートベルト装置10はリトラクタ14を備えている。リトラクタ14は右側リヤシート16の後方に設けられており、車両12の車体を構成するインナリヤパネル18に設定されたリトラクタ取付部にボルト等の締結手段により締結固定されている。
【0024】
このリトラクタ14には回転軸方向が概ね車両前後方向に沿った巻取軸が回転自在に設けられており、この巻取軸に長尺帯状に形成されたウェビング20の長手方向基端部が係止されている。ウェビング20はリトラクタ14の巻取軸からインナリヤパネル18に沿うように車両上方に引き出されている。リトラクタ14の上方ではボルト等によりスリップジョイント22がインナリヤパネル18に取り付けられている。スリップジョイント22にはスリット孔24が形成されており、ウェビング20はスリット孔24を通過している。
【0025】
スリップジョイント22のスリット孔24を通過したウェビング20はスリット孔24の内周部に支持され、更にウェビング20はスリット孔24の内周部における支持位置から車幅方向内方(車両左右方向左方)で且つ車両上方へ傾斜した向きに延びている。スリップジョイント22のスリット孔24から延びたウェビング20に対応して車両12の天井部近傍には、本発明で言うところのシートベルトアンカに相当するスリップジョイント26が設けられている。
【0026】
ここで、図2にはスリップジョイント26が設けられた部分の近傍が車両12の右後方からの斜視図により示されており、図3にはスリップジョイント26が設けられた部分の近傍を拡大した側面断面図が示されており、更に、図4にはスリップジョイント26が設けられた部分の近傍を拡大した背面断面図が示されている。
【0027】
これらの図に示されるように、上記のスリップジョイント26は車両12の車体の骨格部材(梁部材)として車体構造材を構成するリヤヘッダ40に取り付けられている。リヤヘッダ40はルーフパネル42の下側でルーフパネル42の後端部に沿って車幅方向に延びるように設けられており、その長手方向両端部は溶接等によってルーフサイドレールに一体的に連結されている。
【0028】
このリヤヘッダ40は第2構造材としてのヘッダロア44を備えている。ヘッダロア44は厚さ方向が概ね車両前後方向に沿い幅方向が概ね車両上下方向に沿った板状の前壁部46を備えている。前壁部46の上端からは板状のフランジ部48がルーフパネル42に沿うように車両前方へ向けて延出されている。これに対して、前壁部46の下端からは板状の下壁部50が斜め後下方へ向けて延出されており、更に、この下壁部50の後端部(下壁部50のフランジ部48とは反対側の端部)からはフランジ部52が車両後方へ向けて延出されている。
【0029】
以上のヘッダロア44の上側には第1構造材としてのヘッダアッパ62が設けられている。ヘッダアッパ62は厚さ方向が概ね車両前後方向に沿い幅方向が概ね車両上下方向に沿った板状の後壁部64を備えている。後壁部64は前壁部46の後方で後壁部64と対向しており、その上端からは板状の上壁部66がヘッダロア44に沿うように車両前方へ向けて延出され、更に、上壁部66の前端からは連続して接合部68が延出されている。接合部68はフランジ部48の上側でフランジ部48と対向しており、スポット溶接等の溶着手段により接合部68とフランジ部48とが一体的に接合されている。
【0030】
一方、後壁部64の下端からは第1構造材の所定部位としてのフランジ部70が車両後方へ向けて延出されている。フランジ部70はフランジ部52の上側でフランジ部52と対向しており、スポット溶接等の溶着手段によりフランジ部70とフランジ部52とが一体的に接合されている。このように、接合部68とフランジ部48とが一体的に接合されてフランジ部70とフランジ部52とが一体的に接合されることで、リヤヘッダ40には前壁部46、下壁部50、後壁部64、上壁部66にて構成される閉じ断面形状が形成される。
【0031】
また、このヘッダロア44とヘッダアッパ62との間には、補強部材としてのバックドアヒンジブラケット82が設けられている。バックドアヒンジブラケット82は適宜に屈曲された板状の部材とされ、リヤヘッダ40の長手方向中央よりも両端側に設けられている。バックドアヒンジブラケット82の車幅方向中間部よりも車幅方向外側では、バックドアヒンジブラケット82の前端側に対して後端側が下方に位置するように傾斜しており、この部分ではバックドアヒンジブラケット82の前端に補強部材側接合部84が設定されている。この補強部材側接合部84は接合部68とフランジ部48とに挟まれており、この状態で接合部68及びフランジ部48と共に接合される。これに対して、バックドアヒンジブラケット82の後端には補強部材側接合部86が設定されている。この補強部材側接合部86はフランジ部70とフランジ部52とに挟まれており、この状態でフランジ部70及びフランジ部52と共に接合されている。
【0032】
さらに、補強部材側接合部86よりも車幅方向内側ではバックドアヒンジブラケット82に固定部88が形成されている。固定部88は全体的に車両上方へ向けて張り出して下方へ向けて開口した断面ハット形状に形成されている。この固定部88は上壁部90を有している。上壁部90は厚さ方向が車両上下方向に沿った板状とされている。
【0033】
この上壁部90の車幅方向外側の端部からは連続して斜壁部92が形成されている。斜壁部92は上壁部90の車幅方向外側端部から車幅方向外方で且つ車両下方へ傾斜した向きに延びており、その先端は補強部材側接合部86に繋がっている。これに対して、上壁部90の車幅方向内側の端部からは連続して斜壁部94が形成されている。斜壁部94は上壁部90の車幅方向内側端部から車幅方向内方で且つ車両下方へ傾斜した向きに延びている。この斜壁部94の先端からは接合部96がフランジ部52に沿うように車幅方向内方へ延びており、溶接等により接合部96とフランジ部52とが一体的に接合されている。
【0034】
ヘッダアッパ62のフランジ部70は、車幅方向へ向けて斜壁部92及び上壁部90に倣うように屈曲しており、フランジ部70が車両上下方向に上壁部90と対向する部分では、フランジ部70が上壁部90とに挟み込まれている。この上壁部90に対応してルーフパネル42の上側にはバックドアヒンジ102が設けられている。バックドアヒンジ102はその底壁部を1乃至複数のボルト104が貫通している。これらのボルト104は更にルーフパネル42、フランジ部70、及び固定部88の上壁部90を貫通しており、上壁部90の下側からナットが螺合する。このようにボルト104によってルーフパネル42に締結固定されたバックドアヒンジ102には車両12のバックドア(図支省略)がその上端部を中心にして車幅方向を軸方向とする軸周りに回動(開閉移動)可能に取り付けられる。
【0035】
このバックドアヒンジ102の取付箇所である固定部88の側方に位置するフランジ部52の下側に上述したスリップジョイント26が配置される。スリップジョイント26の下側からはアンカボルト106が貫通する。アンカボルト106は更にフランジ部52、補強部材側接合部86、及びフランジ部70を貫通してフランジ部70の上側に設けられたナット108に螺合する。これにより、スリップジョイント26がフランジ部52の下側に取り付けられる(すなわち、フランジ部52とフランジ部70との接合部分にスリップジョイント26の支持点が設定される)。
【0036】
スリップジョイント22のスリット孔24を通過したウェビング20はスリップジョイント26に形成されたスリット孔110を通過している。スリップジョイント26のスリット孔110を通過したウェビング20はスリット孔110の内周部に支持され、更にウェビング20はスリット孔110の内周部における支持位置から車両下方延び、リヤヘッダ40の下側に設けられたルーフヘッドライニング112の孔114を通過して車両12の室内に延びている。車両12の室内に延びたウェビング20は、右側リヤシート16の車幅方向内側に設けられた中央側リヤシート116と右側リヤシート16の間の隙間を通過しており、ウェビング20の先端は、右側リヤシート16や中央側リヤシート116の下側で車体に固定されたアンカプレートに係止されている。
【0037】
ウェビング20において車両12の室内側に位置する部分にはタングプレート118が設けられており、中央側リヤシート116に着座した乗員が、ウェビング20を身体に掛け回した状態で中央側リヤシート116の右側リヤシート16とは反対側に設けられた図示しないバックルにタングプレート118を装着すると、乗員の身体に対するウェビング20の装着状態になる。
【0038】
<本実施の形態の作用、効果>
次に、本実施の形態の作用並びに効果について説明する。
【0039】
以上のように車両12に搭載されたシートベルト装置10は、リヤヘッダ40におけるヘッダアッパ62のフランジ部70と、リヤヘッダ40のフランジ部52と、の接合部分を貫通するアンカボルト106にスリップジョイント26が支持される。例えば、車両が急減速することで車両前方側へ乗員の身体が慣性移動しようとし、乗員の身体がウェビング20を引っ張ると、ウェビング20によってスリップジョイント26が引っ張られる。このような引っ張り力が付与されたスリップジョイント26はアンカボルト106の頭部を引っ張る。
【0040】
アンカボルト106がスリップジョイント26に引っ張られると、この引っ張り方向にアンカボルト106に螺合しているナット108がフランジ部70を押圧する。このため、スリップジョイント26が引っ張られても、スリップジョイント26に付与された引っ張り力がフランジ部70からフランジ部52を引き剥がすような剥離荷重として作用しない。これにより、フランジ部52やフランジ部70の板厚を厚くしたり、フランジ部52とフランジ部70とを接合するための溶接点を増やしたり等の特別な対策を施さなくても、フランジ部52とフランジ部70との接合強度を確保できる。
【0041】
このように、フランジ部52とフランジ部70との接合強度を確保できるので、本実施の形態では、スリップジョイント26に上記のような引っ張り力が入力された場合でも前壁部46、下壁部50、後壁部64、上壁部66で構成される閉じ断面形状を維持でき、閉じ断面形状を有するリヤヘッダ40の高い梁剛性を確保できる。
【0042】
また、リヤヘッダ40を構成するヘッダロア44とヘッダアッパ62との間に設けられるバックドアヒンジブラケット82における固定部88の側方にスリップジョイント26の取付部位(支持点)が設定され、スリップジョイント26が取り付けられるヘッダロア44のフランジ部52とヘッダアッパ62のフランジ部70との間には、バックドアヒンジブラケット82の補強部材側接合部86が挟み込まれ、補強部材側接合部86がフランジ部52やフランジ部70と共に接合される。
【0043】
このため、スリップジョイント26に付与された引っ張り力に対する接合強度を、より一層高くでき、スリップジョイント26に引っ張り力が入力されることに起因したリヤヘッダ40の局部変形を効果的に防止又は抑制できる。しかも、バックドアヒンジブラケット82はバックドアヒンジ102を取り付けるための補強材として用いられる部材であるので、フランジ部52とフランジ部70との接合強度を補うにあたり、特に部品点数が増加するものではない。
【0044】
さらに、本実施の形態では、閉じ断面形状を構成する前壁部46、下壁部50、後壁部64、上壁部66の後側に設定されるフランジ部52とフランジ部70との接合部分にスリップジョイント26の取付部位(支持点)が設定される。この部位は、板状のフランジ部52やフランジ部70、バックドアヒンジブラケット82の補強部材側接合部86が単に重なっている部位である。このため、リヤヘッダ40における閉じ断面形状を構成する部位にスリップジョイント26の取付部位(支持点)を設定する構成に比べると、アンカボルト106の取り付けやナット108に対するナット108の螺合を簡単に行なうことができ、簡単にスリップジョイント26を取り付けることができる。
【0045】
また、フランジ部52とフランジ部70との接合部分の他に、ヘッダロア44のフランジ部48とヘッダアッパ62の接合部68との接合によってヘッダロア44とヘッダアッパ62とが接合されるので、この部位にスリップジョイント26を取り付けてもよい。
【0046】
しかしながら、ヘッダロア44のフランジ部48及びヘッダアッパ62の接合部68は閉じ断面形状を構成する前壁部46、下壁部50、後壁部64、上壁部66の前側に設定される(すなわち、フランジ部52とフランジ部70との接合部分よりも前方に位置する)。このため、フランジ部52とフランジ部70との接合部分にスリップジョイント26の取付位置を設定することで、フランジ部48と接合部68との接合部分にスリップジョイント26の取付位置を設定した場合よりも車両前後方向に沿った乗員の着座位置とスリップジョイント26との取付位置との間隔を広く設定することができ、ウェビング20による乗員の身体の拘束性能を高くできる。
【0047】
なお、上記のように本実施の形態では、スリップジョイント26の取付位置(支持点)を、リヤヘッダ40における閉じ断面形状を構成する前壁部46、下壁部50、後壁部64、上壁部66の後側に設定されるフランジ部52とフランジ部70との接合部分に設定した。
【0048】
しかしながら、特許請求の範囲の請求項1に記載の本発明の観点からすれば、前壁部46、下壁部50、後壁部64、上壁部66の前側に設定されるヘッダロア44のフランジ部48とヘッダアッパ62の接合部68との接合部分にスリップジョイント26の取付位置(支持点)を設定してもよいし、リヤヘッダ40における閉じ断面形状を構成する部位にヘッダロア44とヘッダアッパ62との接合部分が設定されるのであれば、この閉じ断面形状を構成する部位においてヘッダロア44とヘッダアッパ62とが接合される部位にスリップジョイント26の取付位置(支持点)を設定してもよい。
【0049】
また、本実施の形態では、車両12の後端側で車体の骨格を構成するリヤヘッダ40を「車体構成材」としたが、「車体構成材」がリヤヘッダ40に限定されるものではなく、閉じ断面形状を有しているのであれば、ルーフサイドレールを「車体構成材」としてスリップジョイント26等のシートベルトアンカの支持点を設定してもよいし、ルーフリインフォース等の補強材を「車体構成材」としてスリップジョイント26等のシートベルトアンカの支持点を設定してもよい。
【0050】
本実施の形態では、ウェビング20の中間部が通過するスリップジョイント26を「シートベルトアンカ」とした構成であるが、ウェビング20の先端が係止されるアンカプレートを「シートベルトアンカ」とし、アンカプレートの支持に本発明を適用しても構わない。
【符号の説明】
【0051】
10 シートベルト装置
12 車両
20 ウェビング
26 スリップジョイント(シートベルトアンカ)
40 リヤヘッダ(車体構造材)
44 ヘッダロア(第2構造材)
62 ヘッダアッパ(第1構造材)
82 バックドアヒンジブラケット(補強部材)
86 補強部材側接合部
102 バックドアヒンジ
106 アンカボルト(支持手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体構造材を構成する第1構造材と、
前記第1構造材と共に閉じ断面形状を形成するように前記第1構造材に接合されて、前記車体構造材を構成する第2構造材と、
前記第1構造材と前記第2構造材との接合部分を貫通し、前記第1構造材及び前記第2構造材のうちの一方の構造材における他方の構造材とは反対側に設けられたシートベルトアンカを支持するアンカボルトと、
を備えるシートベルトアンカ取付構造。
【請求項2】
車両の天井部の後端に沿って車幅方向に延びるように設けられて車体構造材としてのリヤヘッダを構成するヘッダアッパを前記第1構造材とし、
前記ヘッダアッパの下側で車幅方向に延びるように設けられて前記ヘッダアッパと共にリヤヘッダを構成するヘッダロアを前記第2構造材とし、
前記リヤヘッダの前後方向中間部に前記閉じ断面形状が形成されると共に、前記閉じ断面形状の後側に前記アンカボルトが設けられる請求項1に記載のシートベルトアンカ取付構造。
【請求項3】
車両の後端部に設けられるバックドアを上下に開閉回動可能に支持するバックドアヒンジにおける車幅方向の近傍に前記ヘッダアッパと前記ヘッダロアとの接合部分を設定すると共に、前記バックドアヒンジの取付部位を補強するための補強部材から前記車幅方向に補強部材側接合部を延設し、当該補強部材側接合部を前記ヘッダアッパと前記ヘッダロアとの接合部分に接合する請求項2に記載のシートベルトアンカ取付構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−101720(P2012−101720A)
【公開日】平成24年5月31日(2012.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−253122(P2010−253122)
【出願日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】