説明

シートベルト締付力緩和装置

【課題】簡単な構造で扱いやすく、シートベルト装置が乗員に与える圧迫感を低減することができるシートベルト締付力緩和装置を提供する。
【解決手段】シートベルト装着時に乗員PとウェビングWとの間に配置される板状体2と、板状体2及びウェビングWを包み込むエンベロープ3と、を有し、板状体2は、両端に配置され、ショルダアンカ12に保持される第一保持部21とタング15に保持される第二保持部22とを有し、第一保持部21及び第二保持部22をシートベルト装置の一部に保持させることにより、板状体2の反力Fを利用してウェビングWの張力により乗員Pに負荷される締付力Tを緩和するように構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シートベルト装置のウェビングに装着するシートベルト締付力緩和装置に関し、特に、シートベルト装置により乗員に与えられる圧迫感を低減することができるシートベルト締付力緩和装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車等の乗物には、一般に、乗員が着座する腰掛部と乗員の背面に位置する背もたれ部とを備えたシートに乗員を拘束する三点式のシートベルト装置が設けられている。かかるシートベルト装置は、乗員を拘束するウェビングと、該ウェビングの巻き取りを行うシートベルトリトラクタと、前記ウェビングを案内するガイドアンカ又はショルダアンカと、前記ウェビングを車体側に固定するベルトアンカと、シート側面に配置されたバックルと、前記ウェビングに配置されたタングと、を有し、前記タングを前記バックルに嵌着させることによって前記ウェビングで乗員を拘束している。
【0003】
また、前記ウェビングは、シートベルト装着時において、前記ガイドアンカ又は前記ショルダアンカと前記バックルとの間に掛け渡されたショルダ部と、前記バックルと前記ベルトアンカとの間に掛け渡されたラップ部と、に区分され、主として、前記ショルダ部で乗員の胸部を拘束し、前記ラップ部で乗員の腰部を拘束している。
【0004】
かかるシートベルト装置において、ウェビングの張力により生じる締付力が乗員に過剰な圧迫感を与えることによって乗員が不快に感じるという問題があった。特に、ショルダ部のウェビングは、乗員の胸部を拘束するため圧迫感を感じやすく、さらに、乗員の胸部は前後に動くことが多いため圧迫感をより感じやすかった。そこで、シートベルト装置が乗員に与える不快感を解消する種々の装置や方法が提案されている。
【0005】
例えば、特許文献1に記載されたシートベルト張力調整装置は、ローラーBをウェビングに押圧しローラーAとの間にウェビングを挟みローラーAを制御手段の制御の下で回動することで、ウェビングを引出してたるみをつくったり、ウェビングのたるみを巻取って除去したりすることを一機構で可能にしたものである。かかるシートベルト張力調整装置によれば、シートベルト装着時にウェビングを所定量引出すことで、ウェビングにたるみをつくり身体への圧迫感をなくすことができる。
【0006】
また、特許文献2に記載されたシートベルトの張力緩和装置は、車内に付設のターンバックルに着脱自在な係止部材と、シートベルトが摺動自在に挿通するガイド部材と、を連接したことを特徴とする。かかる張力緩和装置によれば、シートベルト装着時に張力緩和装置の末端が乗員の肩部の直前に位置し、シートベルトはその末端から直線状に下方に延伸されることになり、身体とシートベルトとの間に若干の間隙を形成し、胸部の圧迫感が解消される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平6−270761号公報
【特許文献2】特開2000−185626号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1に記載の装置では、ウェビングを引出してたるみをつくっていることから、車両衝突時等の緊急時に巻き取るウェビングの分量が増加してしまうという問題があった。また、乗員の体型やウェビングの張力に応じてウェビングを引出すためには、それらを検出するセンサが必要となりコストが高くなるという問題もあった。
【0009】
また、特許文献2記載の装置では、ガイド部材が車内のターンバックルに接続されており、ガイド部材が車内に露出しているため、乗員と接触したり、視界に入ってしまったりして、使い勝手が悪く、乗員が不快に感じるという問題があった。
【0010】
本発明は、上述の課題に鑑み創案された発明であり、簡単な構造で扱いやすく、シートベルト装置により乗員に与えられる圧迫感を低減することができるシートベルト締付力緩和装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明によれば、乗員を拘束するシートベルト装置のウェビングに装着されるシートベルト締付力緩和装置であって、シートベルト装着時に前記乗員と前記ウェビングとの間に配置される板状体と、該板状体及び前記ウェビングを包み込むエンベロープと、を有し、前記板状体は、一端又は両端に配置され前記車両の一部に保持される保持部を有し、該保持部を前記シートベルト装置の一部に保持させることにより、前記板状体の反力を利用して前記ウェビングの張力により前記乗員に負荷される締付力を緩和する、ことを特徴とするシートベルト締付力緩和装置が提供される。
【0012】
前記保持部は、例えば、前記シートベルト装置の一部に突き当てる又は係止させることによって保持される。なお、本発明において「係止」とは、前記保持部と前記シートベルト装置の一部とを接続又は固定することを意味し、接続、連結、固定、係合、嵌合、嵌着等を含む趣旨である。
【0013】
また、前記保持部は、例えば、前記シートベルト装置のタング、ショルダアンカ又はガイドアンカに保持される。なお、タング、ショルダアンカ又はガイドアンカは、シートベルト装置の一部の単なる一例であり、これに限定されるものではない。
【0014】
前記板状体は、例えば、前記乗員の肩部から腰部又は肩部から胸部の領域に渡って配置される長さを有する。また、前記板状体は、前記ウェビングの幅よりも大きな幅を有していてもよい。
【0015】
前記エンベロープは、前記板状体及び前記ウェビングを包み込んで拘束するためのファスナを有していてもよい。
【発明の効果】
【0016】
上述した本発明に係るシートベルト締付力緩和装置によれば、シートベルト装着時における乗員とウェビングとの間に板状体を配置してエンベロープで板状体とウェビングとを一体化するとともに板状体の保持部をシートベルト装置の一部に保持させるだけで、板状体を湾曲させてウェビングの張力により乗員に負荷される締付力に対抗する反力を生じさせることができ、乗員に負荷される締付力を緩和することができ、簡単な構造で扱いやすく、シートベルト装置により乗員に与えられる圧迫感を低減することができる。
【0017】
保持部を突き当て構造又は係止構造とすることにより、容易に保持部をシートベルト装置の一部に保持させることができる。また、保持部を、タング、ショルダアンカ又はガイドアンカに保持させることにより、容易にシートベルト装置の一部に保持部を保持させることができる。
【0018】
板状体を乗員の肩部から腰部までの領域に渡って配置される長さに形成することにより、板状体の両端に配置された保持部を容易にシートベルト装置に保持させることができ、ウェビングのショルダ部全体により乗員の肩部から腰部に渡って与えられる圧迫感を効果的に低減することができる。また、板状体を乗員の肩部から胸部までの領域に渡って配置される長さに形成することにより、板状体の一端に配置された保持部を乗員の肩口におけるシートベルト装置に保持させることによって、ウェビングのショルダ部により乗員の肩部から胸部に渡って与えられる圧迫感を効果的に低減することができる。
【0019】
板状体の幅をウェビングの幅よりも大きく形成することにより、ウェビングの側部が乗員に対して直接的に締付力を負荷しないようにすることができ、シートベルト装置により乗員に与えられる圧迫感を効果的に低減することができる。
【0020】
エンベロープにファスナを配置することにより、エンベロープを開閉することができ、ファスナを開いた状態で板状体及びウェビングをエンベロープに宛がい、ファスナを閉じることによって板状体及びウェビングをエンベロープで一体に包み込むことができ、使用中における板状体のずれを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の第一実施形態に係るシートベルト締付力緩和装置を示す図であり、(A)はエンベロープを開いた状態の斜視図、(B)はエンベロープを閉じた状態の断面図、(C)はエンベロープの変形例を示す断面図、である。
【図2】図1に示したシートベルト締付力緩和装置の使用状態を示す図であり、(A)は正面図、(B)は効果を説明するための概念図、である。
【図3】図1に示したシートベルト締付力緩和装置の保持部を示す拡大図であり、(A)は第一保持部、(B)は第二保持部、を示している。
【図4】本発明の他の実施形態に係るシートベルト締付力緩和装置を示す概念図であり、(A)は第二実施形態、(B)は第三実施形態、を示している。
【図5】保持部の変形例を示す図であり、(A)は第一変形例、(B)は第二変形例、(C)は第三変形例、を示している。
【図6】本発明の第四実施形態に係るシートベルト締付力緩和装置を示す図であり、(A)は使用状態における正面図、(B)はエンベロープを開いた状態の斜視図、である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の第一実施形態に係るシートベルト締付力緩和装置について、図1乃至図3を用いて説明する。ここで、図1は、本発明の第一実施形態に係るシートベルト締付力緩和装置を示す図であり、(A)はエンベロープを開いた状態の斜視図、(B)はエンベロープを閉じた状態の断面図、(C)はエンベロープの変形例を示す断面図、である。図2は、図1に示したシートベルト締付力緩和装置の使用状態を示す図であり、(A)は正面図、(B)は効果を説明するための概念図、である。図3は、図1に示したシートベルト締付力緩和装置の保持部を示す拡大図であり、(A)は第一保持部、(B)は第二保持部、を示している。
【0023】
本発明の第一実施形態に係るシートベルト締付力緩和装置1は、図1乃至図3に示すように、乗員Pを拘束するシートベルト装置のウェビングWに装着されるシートベルト締付力緩和装置であって、シートベルト装着時に乗員PとウェビングWとの間に配置される板状体2と、板状体2及びウェビングWを包み込むエンベロープ3と、を有し、板状体2は、両端に配置され、ショルダアンカ12に保持される第一保持部21とタング15に保持される第二保持部22とを有し、第一保持部21及び第二保持部22をシートベルト装置の一部(ここでは、ショルダアンカ12及びタング15)に保持させることにより、板状体2の反力Fを利用してウェビングWの張力により乗員Pに負荷される締付力Tを緩和するように構成されている。
【0024】
図2(A)に示したシートベルト装置は、単独のシートS(例えば、運転席や助手席)に配置された場合を図示している。かかるシートベルト装置は、いわゆる三点式シートベルト装置であり、乗員Pを拘束するウェビングWと、ウェビングWの巻き取りを行うシートベルトリトラクタ11と、ウェビングWを案内するショルダアンカ12と、ウェビングWを車体側に固定するベルトアンカ13と、シートS側面に配置されたバックル14と、ウェビングWに配置されたタング15と、を有している。ここでは、シートベルトリトラクタ11がシートSに内蔵され、シートSの肩口の前面にショルダアンカ12が配置された場合を図示しているが、シートベルトリトラクタ11はピラー等の車体に内蔵されていてもよいし、ショルダアンカ12の替わりにピラー等の車体に配置されたガイドアンカを有していてもよい。ただし、シートベルト装置の構成の変更に応じて、第一保持部21及び第二保持部22の構成を変更することが好ましい。
【0025】
また、図示しないが、シートSは、後部座席のように複数の座席が連接されていてもよい。複数の座席を有するシートSの場合には、一般に、座席分のシートベルト装置が設置されており、本実施形態に係るシートベルト締付力緩和装置1は、シートベルト装置ごとに任意に装着することができる。
【0026】
前記板状体2は、図1(A)に示したように、幅D及び長さLの大きさを有する薄肉の平板により構成される。板状体2は、可撓性を有し、第一保持部21及び第二保持部22をシートベルト装置に保持させることにより湾曲可能に構成される。また、板状体2を湾曲させた使用状態において、板状体2は、通常のシートベルト装着時におけるウェビングWの締付力Tに対抗可能な反力Fを生じさせる程度の剛性を有する。具体的には、板状体2は、例えば、プラスチック等の合成樹脂、アルミニウム等の軽量金属、複合材料等により形成される。
【0027】
なお、「通常のシートベルト装着時」とは、乗員PがシートSに正しく着座してウェビングWを引き出してタング15をバックル14に嵌着させた状態を意味し、乗員Pに急激な加減速が生じていたり、乗員Pが前屈みや正面を向いていない体勢を取っていたりする場合を除く趣旨である。
【0028】
また、板状体2は、図1(B)に示したように、ウェビングWの幅dよりも大きな幅Dを有する。このように、板状体2の幅DをウェビングWの幅dよりも大きく形成することにより、ウェビングWの側部が板状体2から外れて、乗員Pに対して直接的に締付力Tを負荷しないようにすることができる。また、シートベルト締付力緩和装置1をウェビングWに装着する際に、幅方向に余裕があるため、容易にウェビングWに対して板状体2を宛がうことができる。
【0029】
また、板状体2は、図2(A)に示したように、乗員Pの肩部Psから腰部Pwの領域に渡って配置される長さLを有する。長さLは、成人男性用、成人女性用、子供用のように異なる長さに設定されていてもよいし、胸囲や腹囲の大きさに応じたサイズ(例えば、大、中、小等)に設定されていてもよい。また、板状体2をスライド式にして伸縮可能に構成し、長さLを任意に変更できるようにしてもよい。ウェビングWは、一般に、シートベルト装着時において、ショルダ部Wsとラップ部Wlとに区分される。すなわち、板状体2は、ウェビングWのショルダ部Wsに沿って配置可能な長さLを有する。
【0030】
かかる長さLに板状体2を形成することにより、板状体2の両端に配置された第一保持部21及び第二保持部22を容易にショルダアンカ12及びタング15に保持させることができ、ウェビングWのショルダ部Ws全体により乗員Pに与えられる圧迫感を低減することができる。
【0031】
また、板状体2の両端部には、図1(A)に示したように、保持部を構成する第一保持部21及び第二保持部22が配置されている。ここで、第一保持部21は、ショルダアンカ12に突き当てることによって位置決めされ保持される。また、第二保持部22は、タング15に係止させることによって位置決めされ保持される。すなわち、保持部(第一保持部21及び第二保持部22)は、シートベルト装置の一部(ショルダアンカ12及びタング15)に突き当てる又は係止させることによって保持される。
【0032】
第一保持部21は、図1(A)及び図3(A)に示したように、板状体2の幅方向の両端に配置された一対の突当部21aと、突当部21aを連結するとともに板状体2に固定される連結部21bと、を有する。突当部21aは、板状体2よりも先端が突出し、突当部21aを突き当てたときに位置ずれし難い形状であればよい。例えば、図示したような肉厚の板状に形成されるが、先端が丸く尖った形状であってもよいし、先端に摩擦力を高めるための凹凸や溝を形成してもよいし、先端の一部がショルダアンカ12の開口部12aに挿入可能な形状であってもよいし、先端にクッション等の緩衝材を配置してもよい。連結部21bは、例えば、一対の突当部21aと一体に形成されており、リベット、ピン、ボルト、かしめ、溶着等の固定手段により、板状体2の端部に接続される。
【0033】
第二保持部22は、図1(A)及び図3(B)に示したように、板状体2の幅方向の略中央部に配置された把持部22aと、把持部22aに連結されるとともに板状体2に固定される連結部22bと、を有する。把持部22aは、板状体2よりも先端が長さ方向に突出し、タング15の一部に係止可能な形状であればよい。例えば、把持部22aは、図示したように、タング15の一部を押し込み係止可能な係止溝22cを有する。係止溝22cの先端側は狭まっており、底部側にタング15の一部を挿入可能な空間を有する。そして、把持部22aの先端部の弾性力を利用して、タング15の一部を係止溝22cに押し込み、把持部22aをタング15に係止させる。連結部22bは、例えば、把持部22aと一体に形成されており、リベット、ピン、ボルト、かしめ、溶着等の固定手段により、板状体2の端部に接続される。なお、図3(B)において、ウェビングWは、説明の都合上、図を省略してある。
【0034】
前記エンベロープ3は、板状体2をウェビングWに取り付けるための部品であり、例えば、織布により構成される。エンベロープ3の素材には、ベロア、ビロード、プリント織布等のように種々のものを使用することができ、肌触りを良くしたり、見栄えをよくしたりすることができる。
【0035】
また、エンベロープ3は、図1(B)に示したように、板状体2及びウェビングWを包み込んで拘束するためのファスナ31を有する。具体的には、エンベロープ3は、板状体2及びウェビングWを包み込むことができる大きさの幅を有し、板状体2及びウェビングWを包み込んで幅方向の両端部を折り重ねたときに閉じた状態を維持できるファスナ31を有する。
【0036】
図1(A)及び図1(B)では、ファスナ31が面ファスナの場合を図示している。ファスナ31は、例えば、エンベロープ3の一端の外面(板状体2が配置される面と反対側の面)に線上に沿って配置された複数の雄型面ファスナ31aと、他端の内面(板状体2が配置される面)に線上に沿って配置された複数の雌型面ファスナ31bと、により構成される。ここでは、雄型面ファスナ31a及び雌型面ファスナ31bが、エンベロープ3の長さ方向に点在するように配置しているが、長さ方向の全域に渡って長い雄型面ファスナ31a及び雌型面ファスナ31bを配置するようにしてもよい。また、ファスナ31は、面ファスナに限定されるものではなく、線上に並んだ歯が噛みあって係合する線ファスナであってもよし、ボタンのような留め具であってもよい。
【0037】
また、エンベロープ3は、板状体2と別体に構成されていてもよいが、取り扱いやすさを考慮すれば、板状体2に固定されていることが好ましい。例えば、エンベロープ3は、接着剤により板状体2に固定されていてもよいし、リベットやピン等の留め具により板状体2に固定されていてもよいし、板状体2に所定の間隔で穴を開けて縫合糸により縫い付けて固定するようにしてもよい。
【0038】
また、図1(C)の変形例に示したように、エンベロープ3の中央部に板状体2を挿通可能な筒部32を形成するようにしてもよい。かかる変形例では、エンベロープ3の筒部32に板状体2を挿通してから第一保持部21及び第二保持部22を板状体2に接続するようにしてもよいし、第一保持部21及び第二保持部22を板状体2に接続した後、第二保持部22側からエンベロープ3の筒部32に板状体2を挿通するようにしてもよい。
【0039】
上述したシートベルト締付力緩和装置1は、シートSに着座した乗員Pがタング15を引き出してバックル14に嵌着させてシートベルトを装着した後、ウェビングWのショルダ部Wsに装着される。具体的には、ファスナ31を開いた状態で、板状体2をウェビングWと乗員Pとの間に配置するようにしてショルダ部Wsに宛がい、第二保持部22をタング15に係止させ、エンベロープ3の両端部を重ね合わせてファスナ31を閉じた状態にしてから、第一保持部21をショルダアンカ12に突き当てることにより、シートベルト締付力緩和装置1をウェビングWに装着する。
【0040】
第一保持部21の突き当ては、例えば、弛んだウェビングWをシートベルトリトラクタ11が巻き取る動作を利用することによって容易に行うことができる。なお、この弛んだウェビングWの巻き取りは、シートベルトリトラクタ11に配置されたゼンマイバネやモータの動作によって処理される。
【0041】
また、上述したシートベルト締付力緩和装置1は、予めウェビングWに装着しておいてもよい。具体的には、ファスナ31を開いた状態で、板状体2をウェビングWと乗員Pとの間に配置可能なようにショルダ部Wsに宛がい、第二保持部22をタング15に係止させ、エンベロープ3の両端部を重ね合わせてファスナ31を閉じた状態にしておく。そして、シートSに着座した乗員Pが、タング15を引き出してバックル14に嵌着させてシートベルトを装着する。このとき、シートベルト締付力緩和装置1は、ウェビングWのショルダ部Wsとともに乗員Pの肩部Psから腰部Pwの領域に渡って配置される。さらに、シートベルトリトラクタ11がウェビングWの弛みを巻き取ることによって、第一保持部21がショルダアンカ12に突き当てられる。
【0042】
シートベルト締付力緩和装置1を装着すると、図2(B)の概念図に示したように、板状体2は、第一保持部21及び第二保持部22を支点にして湾曲した状態を形成し、反力Fを生じる。なお、図2(B)において、黒丸(●)は係止状態を意味し、黒三角(▼)は突き当て状態を示している。
【0043】
かかる反力Fは、ウェビングWの張力によって生じる締付力Tに対抗し、締付力Tによって乗員Pに与えられる圧迫感を低減する。また、反力Fは、通常のシートベルト装着時に生じる締付力Tに対抗できる程度の大きさであればよい。シートベルト締付力緩和装置1の反力Fの大きさは、板状体2の素材、板厚、長さ等を変更することにより任意に調整することができる。なお、車両衝突時や急減速時のような緊急時には、シートベルトリトラクタ11がウェビングWを巻き取ることによりウェビングWの張力を増大させることができ、締付力Tを反力Fよりも容易に大きくすることができ、乗員Pを直ちに拘束することができる。
【0044】
次に、本発明の他の実施形態に係るシートベルト締付力緩和装置1について説明する。ここで、図4は、本発明の他の実施形態に係るシートベルト締付力緩和装置を示す概念図であり、(A)は第二実施形態、(B)は第三実施形態、を示している。図5は、保持部の変形例を示す図であり、(A)は第一変形例、(B)は第二変形例、(C)は第三変形例、を示している。各図において、第一実施形態と同じ構成部品については、同じ符号を付して重複した説明を省略する。また、図4(A)及び(B)は、図2(B)と同様に、シートベルト締付力緩和装置1の使用状態を示した概念図である。
【0045】
図4(A)に示した第二実施形態は、第一保持部21をショルダアンカ12に係止させ、第二保持部22をタング15に係止させたものである。このように、第一保持部21及び第二保持部22の両方をシートベルト装置の一部に係止させて保持させることによっても、第一実施形態と同様の効果を奏する。
【0046】
第二実施形態における第一保持部21は、例えば、図5(A)に示した構成を有する。シートSの肩部の上面からウェビングWが車内に引き出されている場合、図5(A)に示したようなスリット状の開口部12aを有するショルダアンカ12が配置されることが多い。かかるショルダアンカ12を有する場合、第一保持部21は、例えば、ショルダアンカ12の外周部に係止可能な把持部21cと、把持部21cを板状体2に連結するための連結部21dと、を有する。
【0047】
把持部21cは、例えば、ショルダアンカ12の外形の対角線上の一対の角部に係止可能な略C字状の爪部を有する。連結部21dは、一端が把持部21cの開口部21eに掛け回されるとともに他端が板状体2に固定された織布又は合成樹脂により構成される。
【0048】
また、シートSに配置されたショルダアンカ12に替えて、ピラー等に配置されたガイドアンカ16に第一保持部21を係止させる場合には、第一保持部21は、図5(B)に示した構成を有していてもよい。図5(B)に示した第一保持部21は、ガイドアンカ16に固定される固定部21fと、板状体2を固定部21fに連結するための連結部21gと、を有する。なお、図5(B)において、ウェビングWは、説明の都合上、図を省略してある。
【0049】
固定部21fは、ガイドアンカ16の両端部にボルト等の留め具21hにより固定されるとともに、ウェビングWを挿通可能な凹部21iを有する。また、固定部21fの下部には連結部21gを挿入可能な開口部21jが形成されており、開口部21jの底部には連結部21gを挿入するための挿入口21kが形成されている。一方、連結部21gは、開口部21jに挿入される先端部21mを有する。先端部21mは、例えば、両側部が板バネ状に形成されており、挿入口21kを通過した後、両側部が左右に開いて開口部21jに係止されるように構成されている。
【0050】
第二実施形態における第二保持部22は、例えば、図3(A)に示した構成を有していてもよいし、図5(C)に示した構成を有していてもよい。図5(C)に示した第二保持部22は、タング15を把持可能なクリップ22dと、クリップ22dを板状体2に連結するための連結部22eと、を有する。
【0051】
クリップ22dは、例えば、タング15の両端部を把持可能な先端部22fを有するとともに、ウェビングWを挿通可能な凹部22gを有する。また、クリップ22dを構成する一対のクリップ片は軸部22hにより一体に組み付けられるとともに、スプリング22iにより先端部22fが閉じる方向に付勢されている。かかる構成により、先端部22fと反対側の端部に力を加えることによって、先端部22fを開くことができ、ウェビングWの邪魔にならずに、タング15を挟み込んで把持することができ、第二保持部22をタング15に保持させることができる。
【0052】
また、図5(C)に示した第二保持部22の構成は、ピラー等に配置されたガイドアンカ16に係止させる第一保持部21に適用するようにしてもよい。この場合、第一保持部21のクリップは、ガイドアンカ16の両端部を挟み込んで把持する。
【0053】
続いて、本発明の第四実施形態に係るシートベルト締付力緩和装置1について説明する。ここで、図6は、本発明の第四実施形態に係るシートベルト締付力緩和装置を示す図であり、(A)は使用状態における正面図、(B)はエンベロープを開いた状態の斜視図、である。各図において、第一実施形態と同じ構成部品については、同じ符号を付して重複した説明を省略する。
【0054】
図6(A)及び図6(B)に示した第四実施形態は、板状体2の長さを乗員Pの肩部Psから胸部Pbの領域に渡って配置される長さに変更したものである。かかる第四実施形態では、板状体2は、一端に配置されシートベルト装置の一部(ショルダアンカ12)に保持される第一保持部21のみを有する。
【0055】
第四実施形態における第一保持部21は、シートベルト締付力緩和装置1を片持ちで支持することになるため、図6(B)に示したように、例えば、図5(A)に示した保持部の第一変形例のような、ショルダアンカ12に係止される構成が適用される。かかる第四実施形態では、板状体2の長さが短いため、ウェビングWにシートベルト締付力緩和装置1を予め装着させておいても乗員Pの乗降の邪魔になり難い。なお、第一保持部21の連結部21dは、ヒンジによって板状体2に対して回動可能に接続されていてもよいし、開口部21eに沿ってスライド可能に接続されていてもよい。
【0056】
また、シートベルト締付力緩和装置1は、第一保持部21がショルダアンカ12に保持された状態で、ウェビングWが乗員Pを締め付けるため、板状体2の先端部に第一保持部21を支点とする反力Fが生じ、ウェビングWの締付力Tに対抗することができ、締付力Tによって乗員Pに与えられる圧迫感を低減することができる。特に、乗員Pが圧迫感を感じやすい胸部PbにおけるウェビングWの締付力Tを緩和することができ、効果的に圧迫感を低減することができる。
【0057】
本発明は上述した実施形態に限定されず、板状体2のエッジ部に緩衝材としてゴム等の弾性体を配置してもよい等、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変更が可能であることは勿論である。
【符号の説明】
【0058】
1…シートベルト締付力緩和装置
2…板状体
3…エンベロープ
11…シートベルトリトラクタ
12…ショルダアンカ
12a…開口部
13…ベルトアンカ
14…バックル
15…タング
16…ガイドアンカ
21…第一保持部
21a…突当部
21b,21d,21g…連結部
21c…把持部
21e,21j…開口部
21f…固定部
21h…留め具
21i…凹部
21k…挿入口
21m…先端部
22…第二保持部
22a…把持部
22b,22e…連結部
22c…係止溝
22d…クリップ
22f…先端部
22g…凹部
22h…軸部
22i…スプリング
31…ファスナ
31a…雄型面ファスナ
31b…雌型面ファスナ
32…筒部


【特許請求の範囲】
【請求項1】
乗員を拘束するシートベルト装置のウェビングに装着されるシートベルト締付力緩和装置であって、
シートベルト装着時に前記乗員と前記ウェビングとの間に配置される板状体と、該板状体及び前記ウェビングを包み込むエンベロープと、を有し、前記板状体は、一端又は両端に配置され前記シートベルト装置の一部に保持される保持部を有し、
該保持部を前記シートベルト装置の一部に保持させることにより、前記板状体の反力を利用して前記ウェビングの張力により前記乗員に負荷される締付力を緩和する、ことを特徴とするシートベルト締付力緩和装置。
【請求項2】
前記保持部は、前記シートベルト装置の一部に突き当てる又は係止させることによって保持される、ことを特徴とする請求項1に記載のシートベルト締付力緩和装置。
【請求項3】
前記保持部は、前記シートベルト装置のタング、ショルダアンカ又はガイドアンカに保持される、ことを特徴とする請求項1に記載のシートベルト締付力緩和装置。
【請求項4】
前記板状体は、前記乗員の肩部から腰部又は肩部から胸部の領域に渡って配置される長さを有する、ことを特徴とする請求項1に記載のシートベルト締付力緩和装置。
【請求項5】
前記板状体は、前記ウェビングの幅よりも大きな幅を有する、ことを特徴とする請求項1に記載のシートベルト締付力緩和装置。
【請求項6】
前記エンベロープは、前記板状体及び前記ウェビングを包み込んで拘束するためのファスナを有する、ことを特徴とする請求項1に記載のシートベルト締付力緩和装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−171395(P2012−171395A)
【公開日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−32904(P2011−32904)
【出願日】平成23年2月18日(2011.2.18)
【出願人】(511044124)タカタサービス株式会社 (4)
【Fターム(参考)】