説明

シートベルト装置

【課題】巻取手段におけるエンドロックの発生を防止又は抑制でき、しかも、汎用性に優れたシートベルト装置を得る。
【解決手段】ウェビング32が車幅方向への変位を抑制してウェビング32がフレーム12に干渉されることを防止するためのプロテクタ96をシャフト114周りに可動可能とし、ウェビング32が渦巻きばねの付勢力でスプール30に巻き取られた際にはプロテクタ96が回動してプロテクタ96におけるウェビング32の通過経路を曲げてウェビング32に抵抗を付与する。これにより、ウェビング32の巻取速度を低下させて、「エンドロック」の発生を防止又は抑制する。このため、プロテクタ96さえ設ければ、「エンドロック」の発生を防止又は抑制できるので、汎用性が高い。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乗員の身体を拘束するウェビングを巻き取って格納するためのシートベルト装置に関する。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1に開示されたシートベルト装置では、シートクッションにラップアウタベゼルが取り付けられており、このラップアウタベゼルを通過したウェビングの先端がラップアウタアンカを介して車体に係止されている。ラップアウタベゼルにおいてウェビングが通過する部分の内周部には第1抵抗部及び第2抵抗部が形成されている。
【0003】
リトラクタに設けられた渦巻きばね等の巻取スプリングの付勢力により巻取軸が回転してウェビングが巻取軸に完全に巻き取られる「全格納状態」の直前には、第1抵抗部及び第2抵抗部がウェビングに摺接する。これにより、ウェビングに抵抗が付与されて巻取軸の回転速度が軽減される。このように全格納状態直前で巻取軸の回転速度が軽減されることにより、巻取軸が急停止することでリトラクタに設けられたロック機構が作動する所謂「エンドロック」の発生を防止又は低減できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−176450号の公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献1に開示されたシートベルト装置は、ラップアウタベゼルがシートクッションに設けられる構成であるため、リヤシート用のシートベルト装置や、フロントシート用のシートベルト装置であってもシートクッションの側方をウェビングが通過する構成のシートベルト装置等に適用することが難しく汎用性に乏しい。
【0006】
本発明は、上記事実を考慮して、巻取手段におけるエンドロックの発生を防止又は抑制でき、しかも、汎用性に優れたシートベルト装置を得ることが目的である。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1に記載の本発明に係るシートベルト装置は、長尺帯状のウェビングの長手方向基端側が係止されると共に付勢手段によって巻取方向に付勢されたスプールを有し、当該スプールが前記巻取方向へ回転することで前記スプールが前記ウェビングを巻き取る巻取手段と、前記ウェビングが摺接した状態で前記ウェビングの通過が可能な筒状に形成されて、前記スプールよりも前記ウェビングの先端側に設けられ、前記ウェビングの幅方向への変位を抑制するガイド手段と、を備え、更に、前記ウェビングの厚さ方向一方の側で前記ウェビングの幅方向を軸方向とする軸周りに前記ガイド手段を回動可能に設け、前記付勢手段の付勢力で前記スプールに前記ウェビングが巻き取られる際には、前記ウェビングとの摩擦で前記ガイド手段が回動して前記ウェビングの通過経路を曲げることで前記ガイド手段と前記ウェビングとの摩擦が増大するように構成されている。
【0008】
請求項1に記載のシートベルト装置によれば、長手方向基端側が巻取手段のスプールに係止されたウェビングは、その先端側が筒状のガイド手段の内側を通過している。このため、例えば、乗員がウェビングを装着する際に、ウェビングが車幅方向に引っ張られてウェビングが車幅方向へ変位しようとすると、ウェビングはガイド手段に干渉される。これにより、ガイド手段と巻取手段のスプールとの間におけるウェビングの車幅方向への変位が抑制される。
【0009】
一方、乗員の身体に対するウェビングの装着状態が解除されると、巻取手段を構成する付勢手段の付勢力に抗してウェビングをその先端側へ引っ張る引っ張り力が解消される。これにより、付勢手段がその付勢力でスプールを巻取方向に回転させるとスプールにウェビングが巻き取られる。
【0010】
ここで、上記のように、付勢手段の付勢力に抗した引っ張り力が解消されることで、ウェビングの基端側への力(すなわち、付勢手段がウェビングを巻き取ろうとする力)とウェビングをその先端側へ引っ張ろうとする力とのバランスが崩れると、厚さ方向一方の面がガイド手段に摺接しているウェビングは、その長手方向基端側へガイド手段を引っ張る。このようにガイド手段が引っ張られると、ガイド手段におけるウェビングの厚さ方向一方の側の所定位置を中心に、ウェビングの幅方向を軸方向とする軸周りにガイド手段が回動する。
【0011】
このように、ガイド手段が回動することでガイド手段の貫通方向が傾き、この内側を通過するウェビングの通過経路が曲げられる。これにより、ガイド手段はウェビングに大きく干渉し、ガイド手段とウェビングとの間の摩擦が増大する。このように増大したガイド手段とウェビングとの間の摩擦は、ウェビングのその長手方向基端側への移動、すなわち、付勢手段の付勢力によるスプールの巻取方向への回転に対して抵抗となる。
【0012】
これにより、スプールにおける巻取方向への回転速度が低下することで、スプールがそれ以上ウェビングを巻き取ることができない全格納状態になっても、スプールが急激に停止することはなく、このようなスプールの急停止に起因してロック手段が作動する所謂「エンドロック」の発生を防止又は効果的に抑制できる。
【0013】
このように、本発明に係るシートベルト装置では、その設置位置やウェビングにおけるスプールから先端までの経路に関わらず適用が可能であり、しかも、上記のように「エンドロック」の発生を防止又は効果的に抑制できる。
【0014】
請求項2に記載の本発明に係るシートベルト装置は、請求項1に記載の本発明において、前記ウェビングの厚さ方向一方の面に摺接する摺接部を前記ガイド手段の貫通方向両側に設けると共に、前記ガイド手段の回動中心から前記ウェビングの先端側における前記摺接部までの距離よりも前記ガイド手段の回動中心から前記ウェビングの基端側における前記摺接部までの距離を短く設定している。
【0015】
請求項2に記載の本発明に係るシートベルト装置によれば、ガイド手段にはウェビングの厚さ方向一方の面に摺接する摺接部がガイド手段の貫通方向両側に設けられる。ウェビングが引き出されることでガイド手段内をウェビングがその先端側へ移動したり、ウェビングが巻き取られることでガイド手段内をウェビングがその基端側へ移動したりすると、両摺接部とウェビングとの間の摩擦によってガイド手段が回動する。
【0016】
ここで、ガイド手段の回動中心からウェビングの長手方向基端側における摺接部までの距離は、ガイド手段の回動中心からウェビングの長手方向先端側における摺接部までの距離よりも短い。このため、付勢手段の付勢力に抗してウェビングを引き出そうとする際に両摺接部とウェビングとの間で生じる摩擦ではガイド手段が回動し難くなる。これにより、ウェビングを引き出す際にウェビングの通過経路が曲がらないか、又は、ウェビングの通過経路の曲がりが小さいくなるため、ウェビングに対するガイド手段の干渉が小さくなる。したがって、ウェビングを引き出す際の抵抗が小さく、ウェビングを引き出しやすい。
【発明の効果】
【0017】
以上説明したように、請求項1に記載の本発明に係るシートベルト装置は、巻取手段におけるエンドロックの発生を防止又は抑制でき、しかも、汎用性に優れている。
【0018】
請求項2に記載の本発明に係るシートベルト装置は、ウェビングを引き出した際のガイド手段の回動を抑制でき、ウェビングを引き出す際の抵抗の増加を抑制でき、ウェビングを円滑に引き出すことができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の第1の実施の形態に係るシートベルト装置を適用した車両の室内を上後方から見た斜視図である。
【図2】本発明の第1の実施の形態に係るシートベルト装置の斜視図である。
【図3】本発明の第1の実施の形態に係るシートベルト装置の下方から見た図である。
【図4】本発明の第1の実施の形態に係るシートベルト装置の車幅方向内側から見た図である。
【図5】ガイド手段が回動した状態を示す図4に対応した図である。
【図6】本発明の第2の実施の形態に係るシートベルト装置のガイド手段とその近傍部分を車幅方向内側から見た図で(A)はガイド手段が回動する前の状態を示し、(B)はガイド手段が回動した状態を示す。
【発明を実施するための形態】
【0020】
<第1の実施の形態の構成>
図1には、本発明の第1の実施の形態に係るリヤシート20用のシートベルト装置10の要部とその近傍部分が斜視図によって示されており、図2にはシートベルト装置10の要部が斜視図により示されている。これらの図に示されるように、本シートベルト装置10は巻取手段としてのリトラクタ11を備えている。このリトラクタ11はフレーム12を備えている。フレーム12は車幅方向(図1及び図2の矢印OUT方向及びその反対方向)に互いに対向する一対の脚板14、16を備えている。これらの脚板14、16の車両上方側の端部は背板18により繋がっており、フレーム12は全体的に車両下方へ向けて開口した凹形状とされている。
【0021】
このフレーム12は、車両のリヤシート20の後方に配置される。このフレーム12に対応してリヤシート20の後方にはアッパシェル22が設けられている。アッパシェル22にはリトラクタ設置部としての孔部24が形成されている。この孔部24を両脚板14、16と背板18の一部が略車両上方から通過した状態で、背板18がボルト26等の締結手段によってアッパシェル22に一体的に固定されている。
【0022】
また、図3に示されるように、フレーム12の脚板14と脚板16との間にはスプール30が設けられている。スプール30は軸方向が脚板14と脚板16との対向方向に沿った略円柱形状に形成されている。このスプール30には長尺帯状に形成されたウェビング32の長手方向基端側が係止されており、スプール30がその中心軸線(図3の一点鎖線C1)周りの一方である巻取方向に回転すると、ウェビング32がその基端側からスプール30に巻き取られて格納され、ウェビング32をその先端側へ引っ張るとスプール30に巻き取られているウェビング32が引き出されると共に上記の巻取方向とは反対の引出方向にスプール30が回転する。
【0023】
一方、スプール30の軸方向一端(脚板14側の端部)からはスプール30の回転半径方向外方へ向けてフランジ部34が延出されている。フランジ部34は、スプール30に対して同軸の円形に形成されている。このフランジ部34が形成されたスプール30の軸方向一端からは更に軸部36が突出形成されている。この軸部36はスプール30に対して同軸的に形成されており、その先端側は脚板14に形成された貫通孔38を貫通して脚板14の外側(脚板14の脚板16とは反対側で、図3の矢印OUT方向とは反対側)へ突出している。
【0024】
また、脚板14の外側(脚板14の脚板16とは反対側)では脚板14にスプリングカバー40が取り付けられている。スプリングカバー40は脚板14側へ向けて開口した箱形状又は有底筒形状に形成されており、その開口端はスプリングシート42により閉止されている。スプリングシート42にはスプール30に対して同軸的な透孔44が形成されており、上記の軸部36の先端側が透孔44を貫通してスプリングカバー40の内側に入り込んでいる。スプリングカバー40の内側にはアダプタ46が設けられている。
【0025】
アダプタ46はスプール30に対して同軸の円柱形状に形成されており、スプール30の中心軸線(図3の一点鎖線C1)周りに回転自在にスプリングカバー40とスプリングシート42とに支持されている。また、スプリングカバー40の内側には付勢手段としての渦巻きばね48が設けられている。渦巻きばね48は渦巻き方向外側端がスプリングカバー40に係止されていると共に、渦巻き方向内側端がアダプタ46に係止されている。渦巻きばね48はアダプタ46が引出方向に回転することで巻き締められ、アダプタ46を巻取方向に付勢する付勢力が増大する。さらに、アダプタ46の脚板14側の端部には上記の軸部36の先端が嵌挿されており、これにより、軸部36(すなわち、スプール30)とアダプタ46とが相対回転不能に繋がっている。
【0026】
一方、スプール30の軸方向他端部(脚板16側の端部)にはロックベース52が一体形成されている。ロックベース52はスプール30に対して同軸の円板形状とされている。このロックベース52にはパウル収容部54が形成されている。パウル収容部54は少なくともロックベース52の外周一部にて開口した孔部で、その内側にはロック機構56を構成するロックパウル58が収容されている。
【0027】
このロックパウル58はスプール30の回転半径方向に沿って脚板16に形成されたラチェット孔62の内周部と対向しており、ロックパウル58の先端側がパウル収容部54から抜け出ると、ロックパウル58に形成されたロック歯がラチェット孔62のラチェット歯に噛み合う。このようにロックパウル58のロック歯がラチェット孔62のラチェット歯に噛み合うことでロックベース52の引出方向への回転、ひいては、スプール30の引出方向への回転が規制される。
【0028】
一方、脚板16の外側(脚板16の脚板14とは反対側で、図3の矢印OUT方向側)ではハウジング72が脚板16に取り付けられている。ハウジング72は脚板16側へ向けて開口した箱形状又は有底筒形状に形成されている。このハウジング72にはスプール30に対して同軸的にロックベース52から突出形成された軸部が入り込んでおり、軸部の先端がスプール30の中心軸線(図3の一点鎖線C1)周りに回転自在にハウジング72に支持されている。
【0029】
このハウジング72の内側には、車両が減速した際の加速度が所定の大きさ以上の場合に作動する所謂「VSIR機構」やスプール30の引出方向への回転加速度は所定の大きさ以上の場合に作動する所謂「WSIR機構」等を構成する各種部品が収容されている。
【0030】
ロック機構56を構成するWSIR機構は、スプール30に対して同軸的に相対回転自在な回転体を備えている。この回転体とスプール30との間に圧縮コイルばねや捩じりコイルばね等の付勢部材が介在しており、スプール30と共に付勢部材が回転すると付勢部材が回転体を押圧してスプール30の回転方向に回転体を回転させる。この回転体には慣性質量体が揺動可能に支持されている。
【0031】
回転体が引出方向に回転を開始した場合の回転加速度が所定の大きさ以上の場合、回転する回転体に対して慣性質量体は慣性によってその場に留まろうとし、これにより、回転体に対して慣性質量体が相対的に巻取方向に揺動する。このように回転体に対して相対的に揺動した慣性質量体は、ハウジング72の内側に形成されたラチェット歯に直接又は間接的に係合する。慣性質量体がハウジング72のラチェット歯に係合すると、回転体の引出方向への回転が規制され、これにより、引出方向に回転するスプール30と回転が規制された回転体との間に付勢部材の付勢力に抗した相対回転が生じる。
【0032】
スプール30のパウル収容部54に設けられたロックパウル58は、その一部が回転体に係合しており、回転体に対してスプール30が引出方向に相対回転すると、パウル収容部54から抜け出る方向へロックパウル58が移動する。これにより、スプール30からウェビング32が急激に引き出されることで、引出方向へ回転開始するスプール30の回転加速度が所定の大きさ以上になると、ロックパウル58のロック歯がラチェット孔62のラチェット歯に噛み合い、スプール30の引出方向への回転を規制し、スプール30からのウェビング32の引き出しを規制する。
【0033】
一方、図1から図3の各図に示されるように、フレーム12の脚板14及び脚板16の各々における車両前側の端部からは支持アーム92が延設されている。これらの支持アーム92は脚板14、16と同様に車幅方向に互いに対向している。支持アーム92の先端側にはガイド手段としてのプロテクタ96が設けられている。プロテクタ96は、車両上下方向に互いに対向する上壁部98及び下壁部100を備えている。
【0034】
さらに、この上壁部98の幅方向両端と下壁部100の幅方向両端とは側壁部102により一体的に繋がっており、このため、プロテクタ96は全体的に車両前後方向に貫通した矩形の筒形状に形成されている。図4に示されるように、スプール30から引き出されたウェビング32は、プロテクタ96を通過してリヤシート20のヘッドレスト104の側方を通過し、更に、リヤシート20のシートバック106の前面に沿って下方へ向かっている。
【0035】
また、図4に示されるように、プロテクタ96には摺接部108、110が設けられている。摺接部108はプロテクタ96の前端に設けられており、摺接部110はプロテクタ96の後端に設けられている。摺接部108、110は上端がプロテクタ96の下壁部100の上面よりも上方に位置しており、このため、プロテクタ96を通過するウェビング32は、厚さ方向一方の面(プロテクタ96を通過している状態で車両下方を向く面)が両摺接部108、110に接し、下壁部100の上面には接することがない。
【0036】
また、下壁部100の下側にはシャフト通過部112が形成されている。シャフト通過部112は、プロテクタ96の貫通方向中央よりも後方(すなわち、フレーム12やスプール30の側)に形成されている。このシャフト通過部112にはプロテクタ96の幅方向(すなわち、両支持アーム92の対向方向)にシャフト114が貫通している。このシャフト114の両端は各支持アーム92に支持されており、プロテクタ96はシャフト114周りに回動可能にシャフト114に支持されている。
【0037】
<第1の実施の形態の作用、効果>
次に、本実施の形態の作用並びに効果について説明する。
【0038】
本シートベルト装置10では、例えば、リヤシート20に着座した乗員がウェビング32を装着するために、ウェビング32を引っ張ると、スプール30に巻き取られているウェビング32がスプール30から引き出される。このようにウェビング32を引き出した際の引っ張り方向が車幅方向に傾くとウェビング32は車幅方向へ変位する。このような車幅方向の変位がウェビング32に生じると、ウェビング32はプロテクタ96の側壁部102に干渉され、プロテクタ96よりも基端側、すなわち、フレーム12側でのウェビング32の車幅方向への変位が規制される。このため、上記のように、ウェビング32を引き出した際の引っ張り方向が車幅方向に傾いた場合でも、ウェビング32がフレーム12に干渉されることを防止できる。
【0039】
一方、このようにスプール30からウェビング32が引き出されると、スプール30が引出方向に回転し、スプール30と共にアダプタ46が引出方向に回転する。アダプタ46が引出方向に回転することで、渦巻きばね48の渦巻き方向内側端がアダプタ46と共に引出方向に回転して渦巻きばね48が巻き締まる。このように渦巻きばね48が巻き締められることで渦巻きばね48にはアダプタ46を巻取方向に付勢する付勢力が生じる。
【0040】
ここで、ウェビング32が乗員の身体に装着されている状態のように、渦巻きばね48の付勢力と、この付勢力に抗してウェビング32をその先端側へ引っ張る引っ張り力とのバランスがとれている状態では、図4に示されるように、プロテクタ96の下壁部100の上面及び上壁部98の下面に対してウェビング32が平行となる。
【0041】
このような状態から、ウェビング32をその先端側へ引っ張る引っ張り力が解消されて、渦巻きばね48の付勢力がスプール30を巻取方向に回転させ、ウェビング32がその基端側へ移動すると、上記のバランスが崩れ、ウェビング32と摺接部108、110との間の摩擦でプロテクタ96がウェビング32の基端側(すなわち、フレーム12やスプール30の側)へ引っ張られる。このように、プロテクタ96が引っ張られると、図5に示されるように、シャフト114周りにプロテクタ96が回動する。このようにプロテクタ96が回動すると、プロテクタ96は車両後方側におけるプロテクタ96の開口端よりも車両前方側におけるプロテクタ96の開口端が上方に位置するようにプロテクタ96の貫通方向が傾く。
【0042】
これにより、プロテクタ96を通過しているウェビング32の通過経路が変更されて、プロテクタ96の開口端にてウェビング32が大きく屈曲されるので、プロテクタ96からウェビング32に付与される抵抗が大きくなる。この抵抗はウェビング32をスプール30に巻き取ろうとする渦巻きばね48の付勢力に抗するので、スプール30へのウェビング32の巻取速度が低下する。
【0043】
このように、スプール30へのウェビング32の巻取速度が低下することで、ウェビング32の巻き取りが終了する際に、スプール30が急停止することが抑制されるので、スプール30が急停止した際の反動で、ロック機構56が作動する所謂「エンドロック」の発生を防止又は効果的に抑制できる。
【0044】
一方、上記のようにウェビング32を引き出す際にも、プロテクタ96の両摺接部108、110とウェビング32との間の摩擦でプロテクタ96がウェビング32の先端側(リヤシート20側)へ引っ張られる。しかしながら、乗員がウェビング32を引き出す際の引出速度は、渦巻きばね48の付勢力でスプール30が回転した際のウェビング32の巻取速度よりも遅いうえ、プロテクタ96の回動中心であるシャフト114がプロテクタ96の貫通方向中央よりも後方に設けられている。
【0045】
このため、ウェビング32を引き出した際のプロテクタ96の回動は、渦巻きばね48の付勢力でスプール30にウェビング32を巻き取らせた際のプロテクタ96の回動よりも小さい。このため、ウェビング32を引き出す場合には、プロテクタ96を通過しているウェビング32の通過経路に変更がないか、変更されていたとしても変更量が小さく、ウェビング32が大きく屈曲されることがない。このため、ウェビング32を円滑に引き出すことができる。
【0046】
しかも、本リトラクタ11では、上記のように、ウェビング32が車幅方向に引っ張られた際に、ウェビング32がフレーム12に干渉されることを防止するためのプロテクタ96によって「エンドロック」の発生を防止又は抑制している。このため、本リトラクタ11の設置位置等に関係なく、プロテクタ96さえ設ければ、「エンドロック」の発生を防止又は抑制できるので、汎用性が高い。
【0047】
<第2の実施の形態>
次に、本発明の第2の実施の形態について説明する
図6には本発明の第2の実施の形態に係るシートベルト装置130の要部の構成が側面図により示されている。なお、本実施の形態の形態を説明するにあたり、前記第1の実施の形態と基本的に同一の部位に関しては、同一の符号を付与してその詳細な説明を省略する。また、図6は、フレーム12における脚板14、16や背板18よりも前方の部位の変形例であるため、スプール30や渦巻きばね48等に関する図示も省略する。
【0048】
本実施の形態に係るシートベルト装置130では、両支持アーム92の少なくとも一方にストッパ132が設けられている。ストッパ132は、シャフト114の位置よりも前方(フレーム12やスプール30の反対側)で支持アーム92において互いに対向する側の面に形成されており、プロテクタ96の前端部近傍で下方から下壁部100に当接できるようになっている。
【0049】
また、本シートベルト装置130は、ガイド付勢手段としての捩じりばね134が設けられている。捩じりばね134は一端が支持アーム92に係止されていると共に他端が下側からプロテクタ96の下壁100に圧接しており、ウェビング32と摺接部108、110との間の摩擦でのプロテクタ96がウェビング32の基端側(すなわち、フレーム12やスプール30の側)へ引っ張られた際のプロテクタ96の回動方向とは反対側へプロテクタ96を付勢している。
【0050】
このように、捩じりばね134がプロテクタ96を付勢していることで、シャフト114の設定位置は捩じりばね134の付勢力と渦巻きばね48の付勢力でスプール30が回転した際にウェビング32がプロテクタ96を引っ張る力とに基づき設定されることになる。このため、捩じりばね134の付勢力の大きさを適宜に設定することで、シャフト114の設定位置を自由に設定できる。
【0051】
しかも、プロテクタ96は捩じりばね134に付勢されても、ストッパ132に干渉されることでそれ以上回動できない。このため、捩じりばね134の付勢力がプロテクタ96を大きく回動させることはなく、ウェビング32を引き出す際にプロテクタ96が大きな抵抗を生じさせることがない。
【0052】
なお、本実施の形態は、ガイド付勢手段を捩じりばね134とした構成であったが、ガイド付勢手段はプロテクタ96を上記の方向へ付勢できればよく、その具体的な態様に限定されるものではない。このため、ガイド付勢手段は、圧縮コイルばねや板ばね等の他の態様であってもよい。
【0053】
また、本実施の形態において支持アーム92に設けたストッパ132は、前記第1の実施の形態のようにガイド付勢手段を設けない構成に適用してもよい。この場合には、ウェビング32を引き出した際にプロテクタ96が回動することを防止できるので、ウェビング32を更に円滑に引き出すことができるというメリットがある。
【0054】
さらに、上記の各実施の形態は、リヤシート20に対応したシートベルト装置10、130に本発明を適用した構成であったが、運転席や助手席等、リヤシート20以外のシートに対応したシートベルト装置に本発明を適用してもよい。
【0055】
また、上記の各実施の形態は、リヤシート20に対応したフレーム12の脚板14、16から支持アーム92を延出して、この支持アーム92にプロテクタ96を回動可能に支持させた構成、すなわち、ガイド手段としてのプロテクタ96を巻取手段としてリトラクタ11の一部とした構成であった。しかしながら、例えば、リトラクタ11のフレーム12とは別に、アッパシェル22上に支持脚等の支持手段を設けて、この支持手段にガイド手段としてのプロテクタ96を回動可能に支持させる構成にする等、ガイド手段としてのプロテクタ96を、巻取手段としてリトラクタ11とは別に構成してもよい。
【符号の説明】
【0056】
10 シートベルト装置
11 リトラクタ(巻取手段)
30 スプール
32 ウェビング
48 渦巻きばね(付勢手段)
96 プロテクタ(ガイド手段)
130 シートベルト装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
長尺帯状のウェビングの長手方向基端側が係止されると共に付勢手段によって巻取方向に付勢されたスプールを有し、当該スプールが前記巻取方向へ回転することで前記スプールが前記ウェビングを巻き取る巻取手段と、
前記ウェビングが摺接した状態で前記ウェビングの通過が可能な筒状に形成されて、前記スプールよりも前記ウェビングの先端側に設けられ、前記ウェビングの幅方向への変位を抑制するガイド手段と、
を備え、更に、前記ウェビングの厚さ方向一方の側で前記ウェビングの幅方向を軸方向とする軸周りに前記ガイド手段を回動可能に設け、前記付勢手段の付勢力で前記スプールに前記ウェビングが巻き取られる際には、前記ウェビングとの摩擦で前記ガイド手段が回動して前記ウェビングの通過経路を曲げることで前記ガイド手段と前記ウェビングとの摩擦が増大するシートベルト装置。
【請求項2】
前記ウェビングの厚さ方向一方の面に摺接する摺接部を前記ガイド手段の貫通方向両側に設けると共に、前記ガイド手段の回動中心から前記ウェビングの先端側における前記摺接部までの距離よりも前記ガイド手段の回動中心から前記ウェビングの基端側における前記摺接部までの距離を短く設定した請求項1に記載のシートベルト装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−245929(P2011−245929A)
【公開日】平成23年12月8日(2011.12.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−119337(P2010−119337)
【出願日】平成22年5月25日(2010.5.25)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】