説明

シートベルト装置

【課題】最緊急時に電動モータを制御する前段階で過熱防止器によって電力供給回路が遮断されるのを未然に防止することのできるシートベルト装置を提供する。
【解決手段】リールに巻取り駆動力を付与する電動モータ10と、電動モータ10が過熱したときに電力供給回路を遮断する過熱防止器15とを備えたシートベルト装置において、緊急モード制御手段25と非緊急モード制御手段26とを設ける。コントローラには、非緊急モード制御手段26による電動モータ10の作動時間を監視する第1の作動時間監視手段27と、過熱防止器15が作動することのない第1の閾値時間以上の作動時間が第1の作動時間監視手段27によって検出されたときに、非緊急モード制御手段26による電動モータ10の作動を休止する第1の作動休止手段28を設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、車両のシートに着座した乗員をウェビングによって拘束するシートベルト装置に関し、とりわけ、ウェビングを引き込む電動モータを備えたシートベルト装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
車両に装備されるシートベルト装置は、乗員拘束用のウェビングがリトラクタ内のリールに巻回され、装着時にリトクタから引き出されるようになっている。
近年、ウェビングの引き込みを電動モータの動力によって行うシートベルト装置が案出されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
特許文献1に記載のシートベルト装置は、ウェビングを巻回するリールに動力伝達機構を介して電動モータが接続され、乗員の降車時等にバックルが外されると、そのバックルの接続の有無を検出するバックルスイッチの信号を基にして、電動モータがウェビングの巻取りを行うようになっている。また、このシートベルト装置では、ウェビングの巻取り収納時に、ウェビングが乗員等に引っ掛かったことをモータの通電電流値を基に検出するとともに、その引っ掛かり判定に用いる電流閾値を雰囲気温度に応じて変更するようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−120506号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、シートベルト装置に用いられる電動モータは、連続運転によるモータ自体の過熱を防止するために、電力供給回路内にバイメタル等を用いた過熱防止器が介装されている。過熱防止器は、周囲の温度がある温度以上に高まると、電力供給回路を自動的に遮断して電動モータの作動を停止させる。
【0006】
また、電動モータを装備するシートベルト装置として、上記のようなウェビングの巻取り時ばかりでなく、シートベルトの装着時にウェビングの弛みを取ったり、ウェビングを間欠的に引き込んで乗員に各種の警告を与えたり、緊急時にウェビングを強く引き込んで乗員をシートに強く拘束したりするものも案出されている。
【0007】
しかし、このようなシートベルト装置においては、緊急時以外の状況下で、ウェビングの弛み取りや警告のための電動モータの作動が頻繁に行われると、電動モータが過熱防止器の作動開始温度近くまで加熱して、緊急時にウェビングを強く引き込む前に過熱防止器が電力供給回路を遮断してしまう状況が考えられる。
【0008】
そこでこの発明は、最緊急時に電動モータを制御する前段階で過熱防止器によって電力供給回路が遮断されるのを未然に防止することのできるシートベルト装置を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この発明に係るシートベルト装置では、上記課題を解決するために以下の手段を採用した。
請求項1に係る発明は、シートに着座した乗員を拘束するウェビング(例えば、実施形態のウェビング5)と、前記ウェビングが巻回されるリール(例えば、実施形態のリール12)と、前記リールに巻取り駆動力を付与する電動モータ(例えば、実施形態の電動モータ10)と、緊急状態のときに、前記電動モータをウェビング巻取り方向に作動させる緊急モード制御手段(例えば、実施形態の緊急モード制御手段25)と、緊急状態以外のときに、前記電動モータを、前記緊急モード制御手段による作動力よりも弱い力でウェビング巻取り方向に作動させる非緊急モード制御手段(例えば、実施形態の非緊急モード制御手段26)と、前記電動モータの電力供給回路に介装され、前記電動モータが過熱したときに電力供給回路を遮断する過熱防止器(例えば、実施形態の過熱防止器15)と、を備えたシートベルト装置であって、前記非緊急モード制御手段による前記電動モータの作動時間を監視する第1の作動時間監視手段(例えば、実施形態の第1の作動時間監視手段27)と、前記過熱防止器が電力供給回路を遮断することのない第1の閾値時間以上の作動時間が前記第1の作動時間監視手段によって検出されたときに、前記非緊急モード制御手段による前記電動モータの作動を休止する第1の作動休止手段(例えば、実施形態の第1の作動休止手段28)と、が設けられていることを特徴とするものである。
これにより、例えば、ウェビングの弛み取りや警告のためのウェビングの間欠引き込みが非緊急モード制御手段によって実行されているときには、第1の作動時間監視手段が電動モータの作動時間の監視を開始する。この後、電動モータの作動時間が第1の閾値時間に達するまでは、非緊急モード制御手段による電動モータの制御が実行され、電動モータの作動時間が第1の閾値時間以上になると、第1の作動休止手段によって非緊急モード制御手段による電動モータの作動が休止される。
【0010】
請求項2に係る発明は、請求項1に係るシートベルト装置において、前記電動モータの近傍に温度検出手段(例えば、実施形態の温度センサ16)が設けられ、前記第1の作動休止手段で用いる第1の閾値時間は、前記温度検出手段で検出される温度が低いほど時間が長くなるように変更されることを特徴とするものである。
これにより、非緊急モード制御手段による電動モータの作動の休止を判定する第1の閾値時間は、電動モータの近傍の温度が低いほど長くなり、非緊急モード制御手段による電動モータの作動は休止されにくくなる。
【0011】
請求項3に係る発明は、請求項1または2に係るシートベルト装置において、前記第1の作動休止手段による休止時間を監視する第1の休止時間監視手段(例えば、実施形態の第1の休止時間監視手段29)と、前記電動モータが充分に冷却される第1の休止閾値時間以上の休止時間が前記第1の休止時間監視手段によって検出されたときに、前記第1の作動休止手段による前記電動モータの作動休止を終了する第1の作動再開手段(例えば、実施形態の第1の作動再開手段30)と、が設けられていることを特徴とするものである。
これにより、第1の作動休止手段によって非緊急モード制御手段による電動モータの作動が休止された後には、第1の休止時間監視手段がその休止時間の監視を開始する。この後、第1の作動休止手段による電動モータの休止時間が第1の休止閾値時間に達するまでは、電動モータの休止が継続され、電動モータの休止時間が第1の休止閾値時間以上になると、第1の作動再開手段によって非緊急モード制御手段による電動モータの制御が再開される。
【0012】
請求項4に係る発明は、請求項3に係るシートベルト装置において、前記電動モータの近傍に温度検出手段が設けられ、前記第1の作動再開手段で用いる第1の休止閾値時間は、前記温度検出手段で検出される温度が低いほど時間が短くなるように変更されることを特徴とするものである。
これにより、非緊急モード制御手段による電動モータの作動の再開を判定する第1の休止閾値時間は、電動モータの近傍の温度が低いほど短くなり、非緊急モード制御手段による電動モータの作動の再開は早期に行われることになる。
【0013】
請求項5に係る発明は、請求項1〜4のいずれか1項に係るシートベルト装置において、最緊急時以外の場合において、前記緊急モード制御手段による前記電動モータの作動時間を監視する第2の作動時間監視手段(例えば、実施形態の第2の作動時間監視手段31)と、前記過熱防止器が電力供給回路を遮断することのない第2の閾値時間以上の作動時間が前記第2の作動時間監視手段によって検出されたときに、前記緊急モード制御手段による前記電動モータの作動を休止する第2の作動休止手段(例えば、実施形態の第2の作動休止手段32)と、が設けられていることを特徴とするものである。
これにより、最緊急時以外の場合において、緊急モード制御手段による電動モータの作動が行われているときには、第2の作動時間監視手段が電動モータの作動時間の監視を開始する。この後、電動モータの作動時間が第2の閾値時間に達するまでは、緊急モード制御手段による電動モータの制御が実行され、電動モータの作動時間が第2の閾値時間以上になると、第2の作動休止手段によって緊急モード制御手段による電動モータの作動が休止される。
【0014】
請求項6に係る発明は、請求項5に係るシートベルト装置において、前記電動モータの近傍に温度検出手段が設けられ、前記第2の作動休止手段で用いる第2の閾値時間は前記温度検出手段で検出される温度が低いほど時間が長くなるように変更されることを特徴とするものである。
これにより、緊急モード制御手段による電動モータの作動の休止を判定する第2の閾値時間は、電動モータの近傍の温度が低いほど長くなり、緊急モード制御手段による電動モータの作動は休止されにくくなる。
【0015】
請求項7に係る発明は、請求項5または6に係るシートベルト装置において、前記第2の作動休止手段による休止時間を監視する第2の休止時間監視手段(例えば、実施形態の第2の休止時間監視手段33)と、前記電動モータが充分に冷却される第2の休止閾値時間以上の休止時間が前記第2の休止時間監視手段によって検出されたときに、前記第2の作動休止手段による前記電動モータの作動休止を終了する第2の作動再開手段(例えば、実施形態の第2の作動再開手段34)と、が設けられていることを特徴とするものである。
これにより、第2の作動休止手段によって緊急モード制御手段による電動モータの作動が休止された後には、第2の休止時間監視手段がその休止時間の監視を開始する。この後、第2の作動休止手段による電動モータの休止時間が第2の休止閾値時間に達するまでは、電動モータの休止が継続され、電動モータの休止時間が第2の休止閾値時間以上になると、第2の作動再開手段によって緊急モード制御手段による電動モータの制御が再開される。
【0016】
請求項8に係る発明は、請求項7に係るシートベルト装置において、前記電動モータの近傍に温度検出手段が設けられ、前記第2の作動再開手段で用いる第2の休止閾値時間は、前記温度検出手段で検出される温度が低いほど時間が短くなるように変更されることを特徴とするものである。
これにより、緊急モード制御手段による電動モータの作動の再開を判定する第2の休止閾値時間は、電動モータの近傍の温度が低いほど短くなり、緊急モード制御手段による電動モータの作動の再開は早期に行われることになる。
【発明の効果】
【0017】
請求項1に係る発明によれば、非緊急モード制御手段によって電動モータが作動されているときに、第1の作動時間監視手段によって作動時間の監視が行われ、その作動時間が、過熱防止器が電力供給回路を遮断することのない第1の閾値時間以上になると、第1の作動休止手段によって電動モータの作動が休止されるため、非緊急モード制御手段で電動モータが制御されているときに、電動モータの温度が、過熱防止器が電力供給回路を遮断する温度以上に上昇するのを未然に防止することができる。したがって、最緊急時に電動モータを制御する前段階で過熱防止器によって電力供給回路が遮断されるのを未然に防止することができる。
【0018】
請求項2に係る発明によれば、第1の閾値時間が、電動モータの近傍の温度が低いほど長くなるように変更されることから、昇温し難い条件下での不要な電動モータの休止を無くしつつ、昇温し易い条件下では早期に電動モータを休止させることができる。
【0019】
請求項3に係る発明によれば、非緊急モード制御手段による電動モータの作動が休止され、その休止時間が、電動モータが充分に冷却される第1の休止閾値時間以上になると、第1の作動再開手段によって非緊急モード制御手段による電動モータの制御が再開されるため、非緊急状態から緊急状態に移行しても最緊急時に過熱防止器によって電動モータの電力供給回路が自動的に遮断されるのを未然に防止することができる。
【0020】
請求項4に係る発明によれば、第1の休止閾値時間が電動モータの近傍の温度が低いほど短くなるように変更されることから、電動モータが冷却され難い条件下では充分な時間をもって電動モータを冷却しつつ、電動モータが冷却され易い条件下では電動モータの所期の制御への復帰を早めることができる。
【0021】
請求項5に係る発明によれば、最緊急時以外の場合において、緊急モード制御手段によって電動モータが作動されているときには、第2の作動時間監視手段によって作動時間の監視が行われ、その作動時間が、過熱防止器が電力供給回路を遮断することのない第2の閾値時間以上になると、第2の作動休止手段によって電動モータの作動が休止されるため、最緊急時でない状況で緊急モード制御手段によって電動モータが制御されているときに、電動モータの温度が、過熱防止器が電力供給回路を遮断する温度以上に上昇するのを未然に防止することができる。したがって、最緊急時に電動モータを制御する前段階で過熱防止器によって電力供給回路が遮断されるのを未然に防止することができる。
【0022】
請求項6に係る発明によれば、第2の閾値時間が、電動モータの近傍の温度が低いほど長くなるように変更されることから、昇温し難い条件下での不要な電動モータの休止を無くしつつ、昇温し易い条件下では早期に電動モータを休止させることができる。
【0023】
請求項7に係る発明によれば、緊急モード制御手段による電動モータの作動が休止され、その休止時間が、電動モータが充分に冷却される第2の休止閾値時間以上になると、第2の作動再開手段によって緊急モード制御手段による電動モータの制御が再開されるため、最緊急状態に移行したときに過熱防止器によって電動モータの電力供給回路が自動的に遮断されるのを未然に防止することができる。
【0024】
請求項8に係る発明によれば、第2の休止閾値時間が電動モータの近傍の温度が低いほど短くなるように変更されることから、電動モータが冷却され難い条件下では充分な時間をもって電動モータを冷却しつつ、電動モータが冷却され易い条件下では電動モータの所期の制御への復帰を早めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】この発明の一実施形態のシートベルト装置の概略構成図である。
【図2】この発明の一実施形態のシートベルト装置のリトラクタとコントローラを中心とする概略構成図である。
【図3】この発明の一実施形態のシートベルト装置の制御を説明するためのフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、この発明の一実施形態を図面に基づいて説明する。
図1は、シートベルト装置1の全体概略構成を示すものであり、同図中2は、乗員3の着座する運転席側のシートである。
このシートベルト装置1は、所謂三点式のシートベルトであり、図示しないセンタピラーに取付けられたリトラクタ4からウェビング5が上方に引き出され、そのウェビング5がセンタピラーの上部側に支持されたスルーアンカ6に挿通されるとともに、ウェビング5の先端がシート2の車室外側寄りのアウタアンカ7を介して車体フロアに固定されている。そして、ウェビング5のスルーアンカ6とアウタアンカ7の間にはタングプレート8が挿通されており、そのタングプレート8は、シート2の車体内側寄りの車体フロアに固定されたバックル9に対して脱着可能となっている。
【0027】
ウェビング5は、初期状態ではリトラクタ4に巻き取られており、乗員3が手で引き出してタングプレート8をバックル9に固定することにより、乗員3の主に胸部と腹部をシート2に対して拘束する。また、シートベルト装置1は、ウェビング5の巻き取り収納時や、装着後にウェビング5の弛みを取る場合や、ウェビング5を間欠的に引き込んで乗員に各種の警告を与える場合、車両の挙動が不安定になったときや衝突直前時等にウェビング5を強く引き込む場合等に電動モータ10を作動させる。電動モータ10はコントローラ21(制御装置)によって制御される。
【0028】
図2は、シートベルト装置1のリトラクタ4とコントローラ21を中心とした概略構成図である。
リトラクタ4は、図示しないケーシングに回転可能に支持されたリール12にウェビング5が巻回されている。リール12は、クラッチ20を含む動力伝達機構13を介して電動モータ10の回転軸10aに連動可能に接続されている。動力伝達機構13は、電動モータ10の回転を減速してリール12に伝達する。また、リトラクタ4には、リール12をウェビング巻取り方向に付勢する図示しない巻取りばねが設けられ、リール12と電動モータ10がクラッチ20によって切り離された状態において、巻取りばねによる張力がウェビング5に作用するようになっている。なお、クラッチ20は電動モータ10の正転時にONにされ、電動モータ10の逆転を契機としてOFFとされる。
【0029】
リトラクタ4には、リール12の回転位置を検出する回転センサ11(位置検出手段)が設けられている。この回転センサ11は、例えば、円周方向に沿って異磁極が交互に着磁され、リール12と一体に回転する磁性円板と、この磁性円板の外周縁部に近接配置された一対のホール素子と、ホール素子の検出信号を処理するセンサ回路とから成り、センサ回路で処理されたパルス信号がコントローラ21に出力されるようになっている。
また、リトラクタ4には、車両に所定値以上の減速度(加速度)や旋回力が作用した場合や、ウェビング5が急激に引き出されようとした場合等に、リール12のウェビング引き出し方向の回転を機械的にロックする緊急ロック機構22が設けられている。
【0030】
一方、電動モータ10には、連続的な負荷運転等によってモータ自体が設定温度以上に昇温したときに、回路を遮断するバイメタル式の過熱防止器15が電力供給回路14内に介装されている。また、電動モータ10の過熱防止器15の近傍には温度センサ16(温度検出手段)が設けられている。
【0031】
コントローラ21の入力側には、回転センサ11の他に、ウェビング5の装着の有無を検出するバックルスイッチ38や、ミリ波レーダ等の車両前方の物体の近接状態を検出する前方状態検出装置39、車両に作用する加速度(減速度)を検出する加速度センサ40、車両に作用するヨー方向の角加速度を検出するヨーレートセンサ41、車両の速度を検出する車速センサ42等が接続されている。
【0032】
コントローラ21は、急制動時や急旋回時、衝突直前時等の緊急状態のときに、ウェビング5を電動モータ10によって急激に巻き取る緊急モード制御手段25と、緊急状態以外のとき、例えば、通常走行時におけるウェビング5の弛み取りや、警告のためのウェビング5の間欠引き込みや、乗員の姿勢保持ためのウェビング5の緩やかな引き込み等を行うときに、電動モータ10を制御する非緊急モード制御手段26と、を備えている。
【0033】
さらにコントローラ21は、非緊急モード制御手段26による電動モータ10の制御を実行しているときに、電動モータ10の作動時間を監視する第1の作動時間監視手段27と、この第1の作動時間監視手段27によって第1の閾値時間Tr1以上の作動時間が検出されたときに、非緊急モード制御手段26による電動モータ10の作動を休止する第1の作動休止手段28と、を備えている。第1の作動時間監視手段27で用いる第1の閾値時間Tr1は、電動モータ10を連続的に作動させた場合(警告のための間欠作動の場合も含む。)に、電動モータ10の昇温によって過熱防止器15が電力供給回路を遮断することのない時間に設定されている。
ただし、過熱防止器15の作動温度に達するまでの電動モータ10の連続運転時間は電動モータ10の周囲の雰囲気温度等によって異なってくるため、第1の閾値時間Tr1は、電動モータ10の近傍に設置した温度センサ16による検出温度に応じて、検出温度が低いほど時間が長くなるように変更される。具体的には、例えば、検出温度が或る温度(例えば、−10℃)以下になった場合に、第1の閾値時間Tr1がそれまでの閾値よりも大きい閾値に変更されるようにする。
【0034】
また、コントローラ21は、第1の作動休止手段28による休止時間を監視する第1の休止時間監視手段29と、この第1の休止時間監視手段29によって第1の休止閾値時間Tp1以上の休止時間が検出されたときに、第1の作動休止手段28による電動モータ10の作動休止を終了する第1の作動再開手段30と、を備えている。第1の休止時間監視手段29で用いる第1の休止閾値時間Tp1は、電動モータ10が作動を休止した後に電動モータ10が外気によって充分に冷却される時間に設定されている。
ただし、電動モータ10が充分に冷却される時間についても、電動モータ10の周囲の雰囲気温度等によって異なってくるため、第1の休止閾値時間Tp1は、電動モータ10の近傍に設置した温度センサ16による検出温度に応じて、検出温度が低いほど時間が短くなるように変更される。具体的には、例えば、検出温度が或る温度(例えば、−10℃)以下になった場合に、第1の休止閾値時間Tp1がそれまでの閾値よりも小さい閾値に変更されるようにする。
【0035】
また、コントローラ21は、衝突直前時等の最緊急時以外の条件下において、緊急モード制御手段25によって電動モータ10の制御を実行しているときに、電動モータ10の作動時間を監視する第2の作動時間監視手段31と、第2の作動時間監視手段31によって第2の閾値時間Tr2以上の作動時間が検出されたときに、緊急モード制御手段25による電動モータ10の作動を休止する第2の作動休止手段32と、第2の作動休止手段32による休止時間を監視する第2の休止時間監視手段33と、この第2の休止時間監視手段33によって第2の休止閾値時間Tp2以上の休止時間が検出されたときに、第2の作動休止手段32による電動モータ10の作動休止を終了する第2の作動再開手段34と、を備えている。
【0036】
第2の作動時間監視手段31で用いる第2の閾値時間Tr2は、緊急モード制御手段25で電動モータ10を連続的に作動させた場合に、電動モータ10の昇温によって過熱防止器15が電力供給回路を遮断することのない時間に設定されており、第2の休止時間監視手段33で用いる第2の休止閾値時間Tp2は、電動モータ10が作動を休止した後に電動モータ10が外気によって充分に冷却される時間に設定されている。
ただし、第2の閾値時間Tr2は、温度センサ16による検出温度に応じて検出温度が低いほど時間が長くなるように変更され、第2の休止閾値時間Tp2は、温度センサ16による検出温度に応じて検出温度が低いほど時間が短くなるように変更される。具体的には、例えば、検出温度が或る温度(例えば、−10℃)以下になった場合には、第2の閾値時間Tr2はそれまでの閾値よりも大きい閾値に変更され、第2の休止閾値時間Tp2はそれまでの閾値よりも小さい閾値に変更される。
【0037】
以下、このシートベルト装置1の制御の一例を、図3のフローチャートを従って説明する。
ステップS100においては、現在、非緊急モードで(非緊急モード制御手段26で)電動モータ10の制御が行われているか否かを判定し、ここでYesの場合には、ステップS101に進み、Noの場合には、ステップS102へと進む。ステップS102においては、現在、最緊急時以外の条件下において、緊急モード制御で(緊急モード制御手段25で)電動モータ10の制御が行われているか否かを判定し、ここでYesの場合には、ステップS103に進み、Noの場合には、ステップS104へと進む。
現在、電動モータ10の巻き取り制御が行われていない場合と、最緊急時に緊急モード制御手段25で電動モータ10の巻き取り制御が行われている場合には、ステップS104に進み、タイマのカウント値を0にして、現在の状態を継続する。
【0038】
現在、非緊急モードで電動モータ10の制御が行われている場合には、ステップS101においては、タイマのカウント値を10秒毎に1加算し、次のステップS105において、電動モータ10の近傍の温度が−10℃(前記の或る温度)以下であるか否かを判定し、Yesの場合には、ステップS106に進み、Noの場合には、ステップS107へと進む。
ステップS106では、タイマのカウント値が18(低温時における第1の閾値時間Tr1)以上であるか否かを判定し、ここでYesの場合には、ステップS108に進んで電動モータ10の作動を休止し、Noの場合には、リターンする。
また、ステップS107では、タイマのカウント値が8(高温時における第1の閾値時間Tr1)以上であるか否かを判定し、ここでYesの場合には、ステップS108に進んで電動モータ10の作動を休止し、Noの場合には、リターンする。
なお、ステップS106とS107での作動時間の監視は第1の作動時間監視手段27によって実行され、ステップS106,S107からステップS108に進んだときの処理は第1の作動休止手段28によって実行される。また、電動モータ10の作動休止に移行するカウント値は、低温時(−10℃以下の温度のとき)の方が高温時(−10℃よりも高温のとき)よりも大きいため、低温時の方が運転休止に移行するまでの時間は長くなる。
【0039】
また、現在、最緊急時以外の場合において、緊急モードで電動モータ10の制御が行われている場合には、ステップS103において、タイマのカウント値を3秒毎に3加算し、次のステップS109において、電動モータ10の近傍の温度が−10℃(前記の或る温度)以下であるか否かを判定し、Yesの場合には、ステップS110に進み、Noの場合には、ステップS111へと進む。
ステップS110では、タイマのカウント値が20(低温時における第2の閾値時間Tr2)以上であるか否かを判定し、ここでYesの場合には、ステップS108に進んで電動モータ10の作動を休止し、Noの場合には、リターンする。
また、ステップS111では、タイマのカウント値が10(高温時における第2の閾値時間Tr2)以上であるか否かを判定し、ここでYesの場合には、ステップS108に進んで電動モータ10の作動を休止し、Noの場合には、リターンする。
ステップS110とS111での作動時間の監視は第2の作動時間監視手段31によって実行され、ステップS110,S1111からステップS108に進んだときの処理は第2の作動休止手段32によって実行される。また、この場合も、低温時の方が運転休止に移行するまでの時間は長くなる。
【0040】
ステップS108で電動モータ10の作動を休止した後には、次のステップS112において、タイマによって作動休止時間の計測を開始し、つづくステップS113において、電動モータ10の近傍の温度が−10℃(前記の或る温度)以下であるか否かを判定し、Yesの場合には、ステップS114に進み、Noの場合には、ステップS115へと進む。
電動モータ10の近傍の温度が−10℃以下でステップS114に進んだ場合には、電動モータ10の作動休止時間が1分(低温時における第1の休止閾値時間Tp1または第2の休止閾値時間Tp2)以上経過したか否かを判定し、ここでYesの場合には、ステップS116に進み、Noの場合には、リターンする。
また、電動モータ10の近傍の温度が−10℃よりも高くステップS115に進んだ場合には、電動モータ10の作動休止時間が2分(高温時における第1の休止閾値時間Tp1または第2の休止閾値時間Tp2)以上経過したか否かを判定し、ここでYesの場合には、ステップS116に進み、Noの場合には、リターンする。
なお、ステップS114とS115での作動停止時間の監視は第1の休止時間監視手段29や第2の休止時間監視手段33によって実行され、ステップS114,S115からステップS116に進んだときの処理は第1の作動再開手段30や第2の作動再開手段34によって実行される。また、電動モータ10の運転を再開するまでの作動休止時間は、低温時(−10℃以下の温度のとき)の方が高温時(−10℃よりも高温のとき)よりも短いため、低温時の方が運転を再開するまでの時間は短くなる。
【0041】
ステップS116においては、作動モータ10の休止を終了し、非緊急モードや緊急モードでの作動モータ10の作動を再開する。ステップS117においては、作動休止時間の計測タイマをリセットする。
【0042】
以上のように、このシートベルト装置1は、非緊急モード制御手段26によって電動モータ10が制御されているときに、第1の作動時間監視手段27によって電動モータ10の作動時間の監視が行われ、第1の作動時間監視手段27が第1の閾値時間Tr1以上になったことを検出すると、第1の作動休止手段28が電動モータ10の作動を休止するため、非緊急モードで電動モータ10が制御されているときに、電動モータ10の温度が、過熱防止器15の作動温度以上に上昇するのを防止することができる。このため、衝突直前時等の最緊急時に電動モータ10によってウェビング5を強力に引き込む前段階で過熱防止器15によって電力供給回路が遮断されるのを未然に防止することができる。
【0043】
そして、このシートベルト装置1の場合、第1の作動時間監視手段27で用いる第1の閾値時間Tr1が、電動モータ10の近傍の温度が低いほど長時間になるように設定されているため、昇温し難い低温条件下での不要な電動モータ10の休止を無くしつつ、昇温し易い高温条件下において、早期に電動モータ10を休止させることができる。
【0044】
また、このシートベルト装置1においては、第1の作動休止手段28による休止時間を監視する第1の休止時間監視手段29と、第1の休止時間監視手段29が第1の休止閾値時間Tp1以上の作動休止時間を検出したときに、電動モータ10の作動を再開する第1の作動再開手段30と、が設けられ、電動モータ10が作動再開までに充分に冷却されるように設定されているため、非緊急状態から緊急状態に移行しても最緊急時に過熱防止器15によって電動モータ10の電力供給回路が自動的に遮断されるのを未然に防止することができる。
【0045】
そして、この実施形態の場合、第1の休止閾値時間Tp1が電動モータ10の近傍の温度が低いほど短くなるように変更されるため、電動モータ10が冷却され難い高温条件下では充分な時間をもって電動モータ10を冷却しつつ、電動モータ10が冷却され易い低温条件下では電動モータ10の作動の再開を早めることができる。
【0046】
さらに、この実施形態のシートベルト装置1においては、緊急モード制御手段25による制御においても、最緊急時以外の場合には、第2の作動時間監視手段31によって電動モータ10の作動時間の監視を行い、第2の作動時間監視手段31が第2の閾値時間Tr2以上になったことを検出したときに、第2の作動休止手段32によって電動モータ10の作動が休止されるため、最緊急状態に移行する前段階で、電動モータ10の温度が、過熱防止器15が電力供給回路を遮断する温度以上に上昇するのを未然に防止することができる。
そして、第2の作動時間監視手段31で用いる第2の閾値時間Tr2については、電動モータ10の近傍の温度が低いほど長時間になるように設定されているため、このシートベルト装置1の場合、昇温し難い低温条件下での不要な電動モータ10の休止を無くしつつ、昇温し易い高温条件下において、早期に電動モータ10を休止させることができる。
【0047】
また、この実施形態では、第2の休止時間監視手段33と、第2の休止時間監視手段33が第2の休止閾値時間Tp2以上の作動休止時間を検出したときに、電動モータ10の作動を再開する第2の作動再開手段34と、が設けられ、電動モータ10が作動再開までに充分に冷却されるように設定されているため、小,中程度の緊急状態から最緊急状態に移行しても、過熱防止器15によって電動モータ10の電力供給回路が自動的に遮断されるのを未然に防止することができる。
第2の休止閾値時間Tp2については、電動モータ10の近傍の温度が低いほど短くなるように変更されるため、このシートベルト装置1の場合、電動モータ10が冷却され難い高温条件下では充分な時間をもって電動モータ10を冷却しつつ、電動モータ10が冷却され易い低温条件下では電動モータ10の作動の再開を早めることができる。
【0048】
なお、この発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々の設計変更が可能である。
【符号の説明】
【0049】
1…シートベルト装置
2…シート
5…ウェビング
10…電動モータ
12…リール
15…過熱防止器
16…温度センサ(温度検出手段)
25…緊急モード制御手段
26…非緊急モード制御手段
27…第1の作動時間監視手段
28…第1の作動休止手段
29…第1の休止時間監視手段
30…第1の作動再開手段
31…第2の作動時間監視手段
32…第2の作動休止手段
33…第2の休止時間監視手段
34…第2の作動再開手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シートに着座した乗員を拘束するウェビングと、
前記ウェビングが巻回されるリールと、
前記リールに巻取り駆動力を付与する電動モータと、
緊急状態のときに、前記電動モータをウェビング巻取り方向に作動させる緊急モード制御手段と、
緊急状態以外のときに、前記電動モータを、前記緊急モード制御手段による作動力よりも弱い力でウェビング巻取り方向に作動させる非緊急モード制御手段と、
前記電動モータの電力供給回路に介装され、前記電動モータが過熱したときに電力供給回路を遮断する過熱防止器と、
を備えたシートベルト装置であって、
前記非緊急モード制御手段による前記電動モータの作動時間を監視する第1の作動時間監視手段と、
前記過熱防止器が電力供給回路を遮断することのない第1の閾値時間以上の作動時間が前記第1の作動時間監視手段によって検出されたときに、前記非緊急モード制御手段による前記電動モータの作動を休止する第1の作動休止手段と、
が設けられていることを特徴とするシートベルト装置。
【請求項2】
前記電動モータの近傍に温度検出手段が設けられ、
前記第1の作動休止手段で用いる第1の閾値時間は、前記温度検出手段で検出される温度が低いほど時間が長くなるように変更されることを特徴とする請求項1に記載のシートベルト装置。
【請求項3】
前記第1の作動休止手段による休止時間を監視する第1の休止時間監視手段と、
前記電動モータが充分に冷却される第1の休止閾値時間以上の休止時間が前記第1の休止時間監視手段によって検出されたときに、前記第1の作動休止手段による前記電動モータの作動休止を終了する第1の作動再開手段と、
が設けられていることを特徴とする請求項1または2に記載のシートベルト装置。
【請求項4】
前記電動モータの近傍に温度検出手段が設けられ、
前記第1の作動再開手段で用いる第1の休止閾値時間は、前記温度検出手段で検出される温度が低いほど時間が短くなるように変更されることを特徴とする請求項3に記載のシートベルト装置。
【請求項5】
最緊急時以外の場合において、前記緊急モード制御手段による前記電動モータの作動時間を監視する第2の作動時間監視手段と、
前記過熱防止器が電力供給回路を遮断することのない第2の閾値時間以上の作動時間が前記第2の作動時間監視手段によって検出されたときに、前記緊急モード制御手段による前記電動モータの作動を休止する第2の作動休止手段と、
が設けられていることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載のシートベルト装置。
【請求項6】
前記電動モータの近傍に温度検出手段が設けられ、
前記第2の作動休止手段で用いる第2の閾値時間は前記温度検出手段で検出される温度が低いほど時間が長くなるように変更されることを特徴とする請求項5に記載のシートベルト装置。
【請求項7】
前記第2の作動休止手段による休止時間を監視する第2の休止時間監視手段と、
前記電動モータが充分に冷却される第2の休止閾値時間以上の休止時間が前記第2の休止時間監視手段によって検出されたときに、前記第2の作動休止手段による前記電動モータの作動休止を終了する第2の作動再開手段と、
が設けられていることを特徴とする請求項5または6に記載のシートベルト装置。
【請求項8】
前記電動モータの近傍に温度検出手段が設けられ、
前記第2の作動再開手段で用いる第2の休止閾値時間は、前記温度検出手段で検出される温度が低いほど時間が短くなるように変更されることを特徴とする請求項7に記載のシートベルト装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−148669(P2012−148669A)
【公開日】平成24年8月9日(2012.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−8698(P2011−8698)
【出願日】平成23年1月19日(2011.1.19)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】