説明

シート体の加熱方法及びその装置

【課題】繊維強化樹脂のシート体12を融点以上の温度に加熱する際の効率を向上させるとともに、この際にシート体12に欠損が生じることを回避する。
【解決手段】シート体用加熱装置10は、接触式加熱手段である無限軌道14、16と、該無限軌道14、16から露呈したシート体12を加熱する非接触式加熱手段としての赤外線照射ランプ34とを有する。さらに、無限軌道14、16と赤外線照射ランプ34との間には、保温手段としての熱風供給手段である吐出ノズル32が配設される。以上の構成において、無限軌道14、16中のシート体12に接触する部位の長さ方向寸法(接触幅)Laは、シート体12の搬送速度をV、前記部位に接触したシート体12の厚み方向の温度分布が均一となる理論時間値をtとするとき、好ましくは、La≧V×tを満足するように予め設定される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維強化樹脂からなるシート体を加熱する際に実施されるシート体の加熱方法及びその装置に関する。
【背景技術】
【0002】
繊維強化樹脂は、周知の通り、マトリックスである樹脂中に繊維を含むものであり、シート体として供給されることが多い。所望の形状をなす繊維強化樹脂の成形体を得るには、先ず、このシート体に対して加熱処理を施すことで該シート体を軟質化し、次に、軟質化したシート体や、該シート体同士を積層した積層体に対して、真空成形等の所定の成形加工を実施するようにしている。
【0003】
前記加熱処理を施すための加熱装置としては、例えば、特許文献1に記載される接触式加熱を採用するものが挙げられる。すなわち、この加熱装置は、シート体を順次送り出す搬送機構と、搬送されるシート体を挟持する1組の加熱板とを有する。
【0004】
搬送されるシート体が互いに離間した加熱板同士の間に位置すると、前記加熱板同士が互いに接近してシート体を挟持する。シート体は、このときに双方の加熱板に接触する。この際、加熱板からシート体に熱が伝達され、その結果、室温程度であったシート体の温度が急速に上昇する。
【0005】
この場合、シート体の上昇後の温度は、マトリックスである樹脂の融点未満としなければならない。融点以上に加熱すると、溶融した樹脂の一部が加熱板に付着してしまうからである。勿論、この場合、シート体に欠損が生じる。従って、シート体ごとに重量が相違したり、強度・剛性が低下したシート体が得られたりする等の不具合が惹起される。
【0006】
また、加熱板同士でシート体を挟持して十分に加熱するためには、シート体の搬送を停止するか、又は、搬送速度を小さくする必要がある。このため、シート体の搬送速度を大きくすることは容易ではない。換言すれば、シート体を高速処理することが困難である。
【0007】
一方、非接触式加熱方式を採用する加熱装置も知られている。例えば、特許文献2に記載された加熱装置では、輻射熱によって熱可塑性樹脂板を加熱するようにしている。この場合、熱源がシート体から離間しているので、該シート体を樹脂の融点以上に加熱したとしても、溶融した樹脂が熱源に付着することがないという利点がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】実開昭51−99765号公報
【特許文献2】実開昭55−134218号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
非接触式加熱方式は加熱効率が低く、このため、加熱前後の温度差を大きくするためには多数の熱源を配置して加熱領域幅を長くする必要がある。従って、加熱装置が大型化し、設備投資も高騰する。また、一般的に、加熱前後の温度差が大きいほど到達温度を高精度に制御することは困難であり、シート体が過剰加熱されるという不具合が顕在化している。
【0010】
本発明は上記した問題を解決するためになされたもので、シート体が高速で搬送される場合においてもシート体を効率よく加熱することが可能であり、しかも、シート体に欠損が生じる懸念を払拭し得るシート体の加熱方法及びその装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記の目的を達成するために、本発明は、繊維強化樹脂からなるシート体を加熱するシート体の加熱方法であって、
搬送される前記シート体を、回転動作する挟持体で挟持するとともに前記挟持体ごと加熱し、該シート体に含まれる樹脂の融点未満に加熱する工程と、
前記挟持体から露呈したシート体を、非接触加熱手段によって前記樹脂の融点以上に加熱する工程と、
を有することを特徴とする。
【0012】
また、本発明は、繊維強化樹脂からなるシート体を加熱するためのシート体用加熱装置であって、
前記シート体を搬送するための搬送機構と、
搬送される前記シート体を回転動作しながら挟持する挟持体と、
前記挟持体に挟持された前記シート体を前記挟持体ごと加熱するための加熱手段と、
前記挟持体から露呈したシート体を再加熱するための非接触加熱手段と、
を有することを特徴とする。
【0013】
なお、本発明において、「挟持体から露呈したシート体」には、シート体の全部が挟持体から露呈した場合のみならず、シート体の一部が挟持体から露呈した場合も含まれるものとする。
【0014】
すなわち、本発明においては、接触式加熱手段である挟持体でシート体を融点未満に加熱した後、非接触加熱手段によって前記シート体を融点以上に加熱するようにしている。このため、シート体に含まれる樹脂が挟持体に加熱されて溶融し、該挟持体に付着すること、すなわち、シート体に欠損が生じることが回避される。
【0015】
しかも、この場合、非接触加熱手段によるシート体の温度上昇幅が小さい。シート体は、挟持体に挟持される間、好ましくは融点近傍まで加熱されるからである。
【0016】
従って、非接触加熱手段が小規模であっても、シート体を速やかに加熱することが可能となる。このため、シート体用加熱装置が大型化することが回避されるとともに、設備投資が高騰することが回避される。しかも、シート体が速やかに加熱されるので、シート体を高速で処理することが可能である。換言すれば、シート体の加熱効率が向上する。
【0017】
なお、非接触加熱手段の好適な例としては、赤外線照射手段又は熱風供給手段が挙げられる。勿論、両方を併用してもよい。
【0018】
ここで、例えば、非接触加熱手段を付勢するためのリード線等が挟持体に干渉するような場合には、挟持体と非接触加熱手段とをある程度離間させるようにしてもよい。この場合、シート体の温度が過度に降下する懸念があるときには、挟持体と非接触加熱手段の間に、シート体を保温する保温手段を設けるようにすればよい。
【0019】
いずれの場合においても、前記挟持体の各々としては、少なくとも1組のローラと、前記1組のローラに掛け渡されて前記シート体に接触するベルトとを具備する無限軌道を採用することが好ましい。この場合、シート体が十分に予熱されるので、シート体の下端面から上端面に向かう厚み方向の温度を略均一とすることが容易となる。
【0020】
さらに、シート体の厚み方向の温度分布が均一となる理論時間値をtとするとき、挟持体がシート体に接触する接触時間trealが前記理論時間値t以上となるようにシート体の搬送速度Vを設定することが好ましい。このためには、挟持体中のシート体に接触する部位の接触幅寸法をLとするとき、前記搬送速度V、前記理論時間値tとの間に下記の式(1)が成立するように、接触幅寸法L、搬送速度Vを設定すればよい。
L≧V×t …(1)
【0021】
ここで、理論時間値tは、以下のようにして求められる。
【0022】
ベルトから伝達される熱量をq1、シート体が受領する熱量をq2とすると、q1=q2である。ここで、q1は、加熱前後の温度差を時間で偏微分することで求められる。すなわち、下記の式(2)が成り立つ。
q1=δT/δt …(2)
【0023】
一方、q2は、シート体の厚み方向の温度変化を厚み方向寸法xで2次偏微分したものに対し、シート体の温度拡散率αを乗じることで求められる。すなわち、下記の式(3)が成立する。
q2=α(δ2T/δx2) …(3)
【0024】
なお、シート体の熱伝導率、密度、定圧比熱容量のそれぞれをλ、ρ、Cpとするとき、α=(λ/ρ)Cpである。これらの値は既知であるから、αの値は一義的に決定される。
【0025】
上記したように、q1=q2であるから、結局、下記の式(4)が導き出される。
δT/δt=α(δ2T/δx2) …(4)
【0026】
この式(4)に基づき、シート体の下端面から上端面に至るまでの温度が部位に関わらず均一となる理論時間値tを求めることができる。
【0027】
従って、シート体が挟持体に接触する時間trealを理論時間値t以上とすれば、シート体の厚み方向に沿う(下端面から上端面に至る)温度を、部位に関わらず略同一とし得る。
【0028】
そして、前記接触幅寸法Lと、シート体の搬送速度Vと、接触時間trealとの間には下記の関係式(5)が成り立つ。
L=V×treal …(5)
【0029】
この(5)式から、trealを前記理論時間値t以上とすること、すなわち、上記の式(1)を満足させることにより、シート体の下端面から上端面に至る温度を、部位に関わらず略同一とし得ることが分かる。
【発明の効果】
【0030】
本発明によれば、繊維強化樹脂からなるシート体を、接触式加熱手段である挟持体で先ず融点未満に加熱し、次に、赤外線照射手段又は熱風供給手段等の非接触加熱手段によって融点以上に加熱するようにしている。このため、シート体に含まれる樹脂が溶融して挟持体に付着することが回避され、その結果、シート体に欠損が生じることが回避される。
【0031】
しかも、非接触加熱手段によって加熱されるシート体の温度上昇幅が小さいので、該非接触加熱手段が小規模であってもシート体を速やかに加熱することができる。このため、シート体の加熱効率が向上するとともに、シート体用加熱装置が大型化することや、設備投資が高騰することを回避することができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明の実施の形態に係るシート体用加熱装置の要部概略側面図である。
【図2】別の実施の形態に係るシート体用加熱装置が具備する挟持体の要部概略側面図である。
【図3】特定のシート体の厚み方向に沿う温度の経時変化の一例を示す図表である。
【図4】実施例1〜20における諸条件及び評価結果を示す図表である。
【図5】実施例21〜38における諸条件及び評価結果を示す図表である。
【図6】実施例39〜48における諸条件及び評価結果を示す図表である。
【図7】比較例1〜9における諸条件及び評価結果を示す図表である。
【図8】実施例49〜58における諸条件及び評価結果を示す図表である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、本発明に係るシート体の加熱方法につき、それを実施する装置との関係で好適な実施の形態を挙げ、添付の図面を参照して詳細に説明する。
【0034】
図1は、本実施の形態に係るシート体用加熱装置(以下、単に加熱装置とも表記する)10の要部概略側面図である。この加熱装置10では、シート体12を挟持する挟持体として、無限軌道14、16が採用されている。
【0035】
シート体12は、図示しない搬送機構によって送り出され、矢印Y方向に沿って搬送される。この搬送機構は、この種の加熱装置10に付設される周知のものであり、従って、図示及びその詳細な説明を省略する。なお、図1には、シート体12の厚み方向、すなわち、側方端面が示されている。
【0036】
この場合、無限軌道14、16は、その回転軸が図示しない回転駆動源に連結された駆動ローラ18aと、従動ローラ20aと、これら駆動ローラ18a及び従動ローラ20aに掛け渡された履板22a(ベルト)とを有する。
【0037】
この中の履板22aは、複数個のブロック24aが並列されることで構成される。隣接するブロック24a、24a同士には連結駒26aが橋架される。この連結駒26aは、支持ピン28a、28aを介してブロック24a、24aに支持される。
【0038】
残余の一方の無限軌道16も、無限軌道14と同様に構成されている。従って、同一の構成要素には同一の参照符号を付すとともにその添字のaをbに代替し、詳細な説明を省略する。なお、駆動ローラ18aと駆動ローラ18bが同期して回転駆動されることは勿論である。
【0039】
履板22aは矢印X1に沿って周回(回転)動作し、一方、履板22bは矢印X2に沿って周回(回転)動作する。その過程で、履板22aにおけるシート体12の下端面に臨む部位と、履板22bにおけるシート体12の上端面に臨む部位とが、これら下端面及び上端面に接触する。
【0040】
ここで、前記部位の長さ方向寸法をLaとするとき、Laの値は、シート体12の搬送速度V、前記部位に接触したシート体12の厚み方向の温度分布が均一となる理論時間値をtとすると、好ましくは、下記の式(6)を満足するように予め設定される。この理由については後述する。
La≧V×t …(6)
【0041】
駆動ローラ18aと従動ローラ20aの間、及び、駆動ローラ18bと従動ローラ20bの間には、それぞれ、熱風発生源(例えば、ヒータ等)によって生成された熱風を吐出するための吐出ノズル30a、30bがそれぞれ配置される。駆動ローラ18a、18b及び従動ローラ20a、20bは、これら吐出ノズル30a、30bから吐出された熱風から熱を受領することによって加熱される。
【0042】
そして、ブロック24a、24b、ひいては履板22a、22b全体は、熱風によって直接、又は、上記のようにして温度が上昇した駆動ローラ18a、18b及び従動ローラ20a、20bから熱を受領することで間接的に加熱され、所定の温度に上昇する。勿論、履板22a、22bは、互いに略同一の温度に設定される。
【0043】
無限軌道14、16間のクリアランスに挿入されたシート体12は、矢印Y方向に沿って移動する。この矢印Y方向下流側には、無限軌道14、16に近接する側から、熱風をシート体12に向けて吐出するための吐出ノズル32(保温手段)、シート体12に対して赤外線を照射するための赤外線照射ランプ34(非接触加熱手段)が配設される。
【0044】
なお、熱風は、シート体12中、図1においてLbとして示される範囲に到達する。すなわち、熱風到達範囲Lb間の部位の温度を保持する。
【0045】
また、赤外線照射ランプ34から照射された赤外線は、シート体12中、図1においてLcとして示される範囲に入射する。すなわち、赤外線は、赤外線入射幅Lc間の部位の温度を上昇させることが可能である。
【0046】
本実施の形態に係る加熱装置10は、基本的には以上のように構成されるものであり、次に、その作用効果につき、本実施の形態に係る加熱方法との関係で説明する。
【0047】
はじめに、無限軌道14、16を構成する駆動ローラ18a、18bが回転駆動され、これに追従して履板22a、22bが周回動作するとともに従動ローラ20a、20bが回転動作を開始する。さらに、吐出ノズル30a、30bから熱風が吐出され、これにより駆動ローラ18a、18b、従動ローラ20a、20b及び履板22a、22bが加熱されて温度が上昇する。従って、シート体12における履板22a、22bに接触した部位は、該履板22a、22bから熱を受領することで加熱され、これにより、その温度が上昇する。
【0048】
シート体12の温度上昇は、該シート体12のマトリックスである樹脂の融点未満となるように抑制される。換言すれば、履板22a、22bの温度は、シート体12の温度を融点以上に上昇させない温度に設定される。
【0049】
従って、シート体12に含まれる樹脂が溶融することが回避される。このため、溶融した樹脂が履板22a、22bに付着することに起因してシート体12に欠損が生じることを防止することができる。
【0050】
この場合、履板22a、22bにおけるシート体12に接触する部位の長さ方向寸法(換言すれば、加熱領域の長さ)Laが、シート体12の搬送速度をV、前記部位に接触したシート体12の厚み方向の温度分布が均一となる理論時間値をtとするとき、好ましくは、下記の式(6)を満足するように設定されている。
La≧V×t …(6)
【0051】
Laは、シート体12の搬送速度Vと、シート体12が無限軌道14、16に接触する時間trealとの積として求められる。このことと上記式(5)から、シート体12が前記部位に接触する時間trealを、熱解析によって求められた前記理論時間値t以上とすることにより、シート体12における下端面から上端面に至るまでの温度を、部位に関わらず略均一とすることができる。
【0052】
例えば、マトリックスが融点261℃、結晶化温度220℃のナイロン−6,6樹脂であり、且つ炭素繊維比率が58重量%、厚みが0.25mm、密度が1450kg/m3、定圧比熱容量が1230J/(kg・K)、熱伝導率λが0.7J/(m・秒・K)であるシート体12を、温度Taが250℃に設定された履板22a、22bに接触させる場合、上記の式(2)〜(4)に従ってシート体12の厚み方向に沿う温度が250℃で均一となる理論時間値を求めると、0.14秒である(後述)。
【0053】
この場合において、シート体12の搬送速度Vが2.5m/分、10m/分、20m/分、50m/分としたとき、上記の式(6)から算出されるLaは、それぞれ、5.8mm以上、23.3mm以上、46.7mm以上、116.7mm以上となる。
【0054】
加熱領域の長さLaをこのようにして求められる適切な値に設定することにより、シート体12が厚み方向中腹部まで十分に加熱される。従って、厚み方向に沿う温度にバラツキが生じることが抑制される。また、この寸法に設定することにより、シート体12が高速で搬送される場合であっても該シート体12を十分に加熱することが可能となる。
【0055】
実際のシート体12の表面には、凹凸が存在する。このため、シート体12の表面と履板22a、22bとの接触が不十分となることが懸念される。従って、Laの値を、Vとtrealの積よりも十分に大きく設定することが好ましい場合がある。
【0056】
このようにして加熱されたシート体12の一部は、履板22a、22bから露呈する。この露呈した部位に対して、吐出ノズル32から吐出された熱風が接触する。
【0057】
熱風の温度は、シート体12の温度が維持される程度に設定される。好ましくは、ブロック24a、24bの温度をTa、LaとLbの境界(位置A)におけるシート体12の温度をT1、LbとLcの境界(位置B)におけるシート体12の温度をT2とするとき、Ta×0.9≦T1、Ta×0.9≦T2が両立する温度である。これにより、シート体12の温度が低下することや、その結果として該シート体12の内部で温度分布が生じることを回避することができる。なお、Ta×0.95≦T1、Ta×0.95≦T2が両立する温度であることがより好ましく、Ta=T1=T2が成立することが最も好ましい。以上において、T1及びT2は、シート体12に含まれる樹脂の融点未満であることはいうまでもない。
【0058】
シート体12は、矢印Y方向に沿ってさらに搬送され、赤外線照射ランプ34に対向する位置に達する。この位置で赤外線が入射されることにより、シート体12が、該シート体12に含まれる樹脂の融点以上の温度T3に加熱されて位置Cに到達する。
【0059】
シート体12が履板22a、22bによって予め加熱されているので、この加熱によるシート体12の温度上昇幅は比較的小さい。このため、シート体12の最終的な到達温度を高精度に制御することが可能となるので、シート体12を過剰加熱してしまう懸念を払拭することができる。
【0060】
また、赤外線照射ランプ34は非接触式加熱手段であるが、シート体12の温度上昇幅が小さいので、該シート体12を速やかに加熱することができる。このため、赤外線照射ランプ34を多数設ける必要がない。従って、加熱装置10が大型化することが回避されるので、設備投資が高騰することも回避される。
【0061】
以上のように、本実施の形態によれば、シート体12を樹脂の溶融温度以上まで効率よく加熱することができる。しかも、その加熱過程でシート体12に欠損を生じさせる懸念が払拭される。
【0062】
なお、上記した実施の形態では、無限軌道14、16と赤外線照射ランプ34との間に熱風を吐出する吐出ノズル32を配置するようにしているが、無限軌道14、16から露呈したシート体12が保温状態に維持されたままで赤外線照射ランプ34に到達することが可能であれば、吐出ノズル32(保温手段)を割愛するようにしてもよい。無限軌道14、16を加熱する手段は、熱風ではなくヒータであってもよい。
【0063】
また、非接触式加熱手段は、赤外線照射ランプ34に特に限定されるものではなく、熱風を吐出する吐出ノズルであってもよい。この場合において吐出ノズル32(保温手段)を設けるときには、非接触式加熱手段である前記吐出ノズルから、吐出ノズル32から吐出される熱風よりも高温の熱風を吐出するようにすればよい。
【0064】
保温手段も、熱風を吐出する吐出ノズルに特に限定されるものではなく、加熱光を照射する加熱ランプであってもよい。
【0065】
さらに、履板22a、22bにヒータを埋設し、このヒータによって無限軌道14、16を加熱するようにしてもよい。熱風とヒータを組み合わせるようにしてもよい。
【0066】
さらにまた、無限軌道14、16においては、履板22a、22bに代替して無端状のリングを採用するようにしてもよい。
【0067】
加えて、この実施の形態では、挟持体として無限軌道14、16を採用しているが、図2に示すような1対の加熱ローラ40a、40bを挟持体としてもよい。この場合、加熱ローラ40a、40bがシート体12に接触する接触幅寸法は、図2中のLdとなる。
【実施例】
【0068】
[実施例1〜48、比較例1〜9]
シート体12として、マトリックスが融点261℃、結晶化温度220℃のナイロン−6,6樹脂であり、炭素繊維比率が58重量%である繊維強化樹脂を選定した。なお、このシート体12の厚みx、密度ρ、定圧比熱容量Cp、熱伝導率λは、それぞれ、0.25mm、1450kg/m3、1230J/(kg・K)、0.7J/(m・秒・K)であった。
【0069】
このシート体12の厚み方向中心(すなわち、厚み方向に沿う寸法が0.125mmである部位)を零節点とし、この零節点から上端面までを0.0125mm毎に仮想的に区切り、各々を第1節点〜第10節点とした。なお、第10節点は上端面である。
【0070】
そして、温度Taが250℃に設定された履板22a、22bに接触するシート体12において、零節点〜第10節点の各々における温度の経時変化を上記の式(2)〜(4)に従って求めた。結果を図3に示す。この図3から、零節点〜第10節点の温度が同一となる温度、換言すれば、シート体12の厚み方向に沿う温度が250℃で均一となる理論時間値が0.14秒であることが分かる。
【0071】
このシート体12を、吐出ノズル32を具備していないこと、すなわち、保温手段を具備していないことを除いては図1に示す加熱装置10に準拠する構成の加熱装置10にて様々な条件下で加熱した。ただし、Laの終点とLcの開始点の距離(便宜上Lbとする)は50mmとした。
【0072】
具体的には、図1中のLaの値を種々変更することで、無限軌道14、16がシート体12に接触する時間trealを変化させた。そして、LaとLbの境界(位置A)におけるシート体12の温度T1、LbとLcの境界(位置B)におけるシート体12の温度T2、Lcの終点(位置C)におけるシート体12の温度T3を測定した。各々を実施例1〜10とし、評価結果を図4に示す。なお、図4中のPは、赤外線照射ランプ34の単位長さ当たりの出力を示し、以下の図面においても同様である。
【0073】
この評価では、T1に関しては、Ta×0.95≦T1≦Taであった場合を良判定(○)、Ta×0.9≦T1≦Ta×0.95であった場合を可判定(△)、T1<Ta×0.9であった場合を不可判定(×)とし、T2に関しても同様に、Ta×0.95≦T2≦Taであった場合を良判定(○)、Ta×0.9≦T2≦Ta×0.95であった場合を可判定(△)、T2<Ta×0.9であった場合を不可判定(×)とした。
【0074】
また、T3に関しては、融点以上であった場合を良判定(○)、融点未満であった場合を不可判定(×)とした。
【0075】
さらに、シート体12に欠損が生じていなかった場合を良判定(○)、生じていた場合を不可判定(×)とした。
【0076】
これとは別に、上記と同一仕様のシート体12を、図1に示す加熱装置10にて様々な条件下で加熱した。ただし、熱風到達幅Lbを50mmとした。各々を実施例11〜48とし、その評価結果を図4〜図6に示す。
【0077】
これら図4〜図6から、シート体12の搬送速度が2.5m/分の場合(実施例1〜10)には無限軌道14、16、及び赤外線照射ランプ34によってシート体12の温度を十分に制御し得るとともにシート体12に欠損が生じることを回避し得ること、また、10m/分である場合(実施例11〜20)や、一層高速の20m/分である場合(実施例21〜30)、さらになお高速の50m/分である場合(実施例31〜38)においては、無限軌道14、16、熱風を供給する吐出ノズル32、及び赤外線照射ランプ34の各々でシート体12の温度を十分に制御し得、しかも、シート体12に欠損が生じることを回避し得ることが諒解される。なお、Laが式(6)で算出される長さ以上であるにも関わらずT1が250℃未満である理由は、上記したように、シート体12の表面が平坦ではなく若干の凹凸が存在するためであると推察される。
【0078】
比較のため、様々な搬送速度のシート体12に対し、赤外線照射ランプ34による赤外線照射のみで加熱を行った。各々を比較例1〜4とする。
【0079】
さらに、様々な搬送速度のシート体12に対し、250℃に昇温された無限軌道14、16による接触加熱のみで加熱を行った。各々を比較例5〜7とする。
【0080】
これら比較例1〜7についても、上記と同一の評価を行った。結果を図7に示す。この図7に示す通り、比較例1〜4では、シート体12の搬送速度を2.5m/分に設定すると、該シート体12に含まれる樹脂の融点以上とすることができなかった。一方、比較例5〜7においては、樹脂の融点以上にシート体12を加熱すると、該シート体12に欠損が生じた。
【0081】
以上から、回転動作する接触式加熱手段及び非接触式加熱手段を組み合わせることにより、シート体12を高速処理し得、しかも、該シート体12の温度を容易に制御し得ることが明らかである。
【0082】
[比較例8、9]
シート体12が無限軌道14、16に接触する時間を前記理論時間値t(0.14秒)よりも小さい0.12秒又は0.06秒に設定した上で、加熱を行った。各々を比較例8、9とし、評価結果を図7に併せて示す。
【0083】
ここで、図5に示される実施例30においては、シート体12が無限軌道14、16に対して接触する時間は0.15秒である。この場合でも十分な温度制御が可能であったのに対し、比較例8、9では、図6に示すように、T1、T2が低くなった。このため、樹脂の融点以上にシート体12が昇温しないこともあり、到達温度のバラツキも大きかった。
【0084】
[実施例49〜58]
図1に示す加熱装置10を用い、上記と同一仕様のシート体12を、高速搬送を10秒間継続した後に5秒間の搬送停止を行うサイクルを繰り返しながら加熱した。なお、搬送中は吐出ノズルA〜Cの全てから熱風を吐出するとともにシート体12に対して赤外線を照射し、一方、搬送停止中は赤外線照射のみを停止した。各々を実施例49〜58とし、評価結果を図8に示した。
【0085】
この図8から、高速搬送・搬送停止を繰り返す場合であっても、シート体12に欠損が生じることを回避できることや、シート体12を融点以上に加熱することが可能であることが分かる。
【符号の説明】
【0086】
10…シート体用加熱装置 12…シート体
14、16…無限軌道 18a、18b…駆動ローラ
20a、20b…従動ローラ 22a、22b…履板
30a、30b、32…吐出ノズル 34…赤外線照射ランプ
40a、40b…加熱ローラ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維強化樹脂からなるシート体を加熱するシート体の加熱方法であって、
搬送される前記シート体を、回転動作する挟持体で挟持するとともに前記挟持体ごと加熱し、該シート体に含まれる樹脂の融点未満に加熱する工程と、
前記挟持体から露呈したシート体を、非接触加熱手段によって前記樹脂の融点以上に加熱する工程と、
を有することを特徴とするシート体の加熱方法。
【請求項2】
請求項1記載の加熱方法において、前記非接触加熱手段として赤外線照射手段又は熱風供給手段の少なくともいずれか一方を用いることを特徴とするシート体の加熱方法。
【請求項3】
請求項1又は2記載の加熱方法において、前記挟持体から露呈したシート体が前記非接触加熱手段に到達するまでに該シート体を保温することを特徴とするシート体の加熱方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の加熱方法において、前記挟持体として、少なくとも1組のローラと、前記1組のローラに掛け渡されて前記シート体に接触するベルトとを具備する無限軌道を用いることを特徴とするシート体の加熱方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の加熱方法において、前記シート体の厚み方向の温度分布が均一となる理論時間値をtとするとき、前記挟持体が前記シート体に接触する接触時間trealが前記理論時間値t以上となるように前記シート体の搬送速度を設定することを特徴とするシート体の加熱方法。
【請求項6】
繊維強化樹脂からなるシート体を加熱するためのシート体用加熱装置であって、
前記シート体を搬送するための搬送機構と、
搬送される前記シート体を回転動作しながら挟持する挟持体と、
前記挟持体に挟持された前記シート体を前記挟持体ごと加熱するための加熱手段と、
前記挟持体から露呈したシート体を再加熱するための非接触加熱手段と、
を有することを特徴とするシート体用加熱装置。
【請求項7】
請求項6記載の加熱装置において、前記非接触加熱手段が赤外線照射手段又は熱風供給手段の少なくともいずれか一方であることを特徴とするシート体用加熱装置。
【請求項8】
請求項6又は7記載の加熱装置において、前記挟持体から露呈したシート体が前記非接触加熱手段に到達するまでに該シート体を保温する保温手段をさらに有することを特徴とするシート体用加熱装置。
【請求項9】
請求項6〜8のいずれか1項に記載の加熱装置において、前記挟持体が、少なくとも1組のローラと、前記1組のローラに掛け渡されて前記シート体に接触するベルトとを具備する無限軌道であることを特徴とするシート体用加熱装置。
【請求項10】
請求項6〜9のいずれか1項に記載の加熱装置において、前記挟持体中の前記シート体に接触する部位の接触幅寸法をL、前記シート体の搬送速度をV、前記挟持体に接触した前記シート体の厚み方向の温度分布が均一となる理論時間値をtとしたとき、L、V、tの間に下記の式(1)が成立することを特徴とするシート体用加熱装置。
L≧V×t …(1)

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−161807(P2011−161807A)
【公開日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−27652(P2010−27652)
【出願日】平成22年2月10日(2010.2.10)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】