説明

シート材料、その製造方法及び該シートを使用した製品

【課題】 感度の高い、使用可能な温度範囲の広い、加工し易いエレクトレット材料を提供することを目的とした。
【解決手段】 扁平状或いは鱗片状充填剤を加えた熱可塑性樹脂をフィルム或いはシートに成形加工し、場合により不織布と共に複数枚積層する前或いは後に、直流高電圧を印加することにより加工が容易で、感度の高い材料を得ることができた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、充填剤を含有するフィルム或いはシートを含む積層した材料であり、且つ帯電処理を施した材料、特に圧電材料分野に関する。
[背景技術]
【0002】
合成樹脂をフィルム或いはシート状に加工した材料は広範囲の分野で利用されている。その一つとしてこれらフィルム或いはシートを帯電させてエレクトレット材料とし、帯電を利用した粉塵除去への利用、或いは圧電素子としての用途がよく知られている。圧電素子としての利用分野においても各種の素材が検討されてきた。例えば、ポリフッ化ビニリデンはこの分野では最も広く利用されている素材の一つであるが、その感度、加工性等に関し万全なものではなく、ポリプロピレンの場合加工はし易いが、やはりその感度や耐熱性に問題が残る。またこれらの素材からなるフィルム或いはシートに延伸処理を加え、ボイドを形成させることで感度を向上させる試みも知られている。しかし、この場合もポリフッ化ビニリデンでは加工がし難いという欠点が指摘されており、ポリプロピレンでは使用可能な温度範囲が狭いという問題があった。
[発明の開示]
[発明が解決しようとする課題]
【0003】
本発明では前記の問題点を考慮し、圧電素子として感度の高い、使用可能な温度範囲が広い、特に高温度に耐える、加工のし易いフィルム或いはシート材料からなるエレクトレット材料を提供することを目的とした。
[課題を解決するための手段]
【0004】
本発明では上記課題を解決するために、熱可塑性樹脂に扁平状或いは鱗片状充填剤を添加し、場合により延伸処理を併用することにより、二つ以上の異なる相からなるフィルム或いはシートに加工後、該フィルム乃至シートを複数枚及び場合により織布或いは不織布とからなる積層フィルム乃至シートを形成した。充填剤の使用により異相の形成が容易となり、低延伸倍率でも有効なボイドの形成が可能となった。その結果融点の高い樹脂を利用することが容易となり、耐熱性の向上が図れた。また上記材料を複数積層することにより感度の向上を図った。
[発明の効果]
【0005】
本発明によれば、熱可塑性樹脂マトリックス中に扁平状或いは鱗片状充填剤を添加することにより性能面および加工面で好ましい効果を認めることができた。第一に、加工面において、充填剤を添加することにより延伸処理無しで、二つの具なる相を含むフィルム或いはシートを容易に得ることができた。また樹脂単独の場合と比較し、低延伸倍率の延伸処理でも有効なボイド形成が可能となった。そのためフィルム或いはシートの表面状態がより滑らかで、後処理し易い良好な状態で得られるため、余分な二次処理が省略できた。第二に、マトリックス中に扁平状或いは鱗片状充填剤が分散しており、また場合により延伸処理によって生じたボイドが存在することにより、フィルム或いはシートを帯電させた時に材料内部の電荷分布が樹脂単独の場合に比べ分散するためと推定されるが、結果として圧電感度が著しく向上した。第三に、融点の高いマトリックス樹脂を使用することで使用可能な温度範囲を広げることができた。融点の高い樹脂のフィルム或いはシートの高延伸倍率の延伸処理には高温に対応した設備が必要だが、無延伸或いは低延伸の延伸処理が可能となったことで加工面も含め有利となった。更に第四として、上記材料を単独で積層するか、或いは不織布等他の材料も含めて積層することにより内部の電荷分布を更に分散できたためと推定されるが、圧電感度を向上させることができた。電極も外面と内面任意に取ることができるため、利用する場合の自由度が増した。
[発明を実施するための最良の形態]
【0006】
積層フィルム乃至シートの主体となるフィルム乃至シートは、先ず誘電体である熱可塑性樹脂及び同じく誘電体である充填剤とからなる複合材料を加熱溶融させ、フィルム或いはシートに成形加工したものを積層する。このとき織布或いは不織布からなる層を付け加えることもできる。熱可塑性樹脂としては通常圧電性を示す材料であれば使用できる。例えば、ポリプロピレン、ポリエチレン、環状オレフィンを含むコポリマー、ポリフッ化ビニリデン、ポリフロロエチレン及びその類似化合物等が対象となるが、耐熱性の面からはポリフッ化ビニリデン、ポリフロロエチレン等が好ましい。また充填剤としては扁平状或いは鱗片状の充填剤を用いる。例えば、タルク、扁平状ガラス、マイカ等である。加工上、性能面からマイカがより好ましい。付け加える織布或いは不織布としてはポリプロピレン等上記の圧電性を示す材料からなる繊維を加工したものを用いることができる。
前記素材からなる複合材を製造する際には、一般に使用される酸化防止剤、安定剤、滑剤その他添加剤は必要に応じ、通常の通りに添加し使用できる。これら混合物の混練りは通常利用されている単軸或いは二軸押出し機を利用できる。臼型スクリュー付き押出し機の利用はより好ましい。また樹脂組成物は予めバンバリーミキサーやロールを利用して製造し、フィルム或いはシート加工に回すことも可能である。押出し機によって溶融した樹脂組成物は一般にカレンダー加工によりフィルム或いはシートに加工する。厚み、幅等は通常行われている方法に準じて調整される。
成形加工されたフィルムあるいはシートは、回転シリンダーの上を連続的に移動させ、その間約15〜30mm離れた位置に設置した針状電極との間で30KVのDC電圧を、通常は約2〜5秒加え帯電させる。
積層フィルム乃至シートの製造は上記帯電フィルム乃至シートを貼り合せて作ることもできるが、積層させた後に上記の帯電処理を施しても差し支えは無い。
帯電させた積層フィルム或いはシート材料表面及び内面には電極層として印刷フィルム、蒸着フィルム或いは電極フィルムの接着等任意に形成させることができる。通常は更にその外面に保護層として樹脂フィルムの層を設けて使用される。
[実施例]
本発明の実施例を説明する。
[実施例1]
【0007】
ポリプロピレン100部、マイカ20部からなる混合物を単軸押出し機及びカレンダー加工機を用い、厚み80μmのフィルムに加工した。次いで、ウレタン系接着剤を併用し、このフィルム2枚の間に厚み25μmのポリプロピレンの不織布を挟んだ三層構造のシートに加工した。その後、針状電極とシリンダー電極の間隙を25mmに設定し、この間隙を150mm/分の速度で前記積層フィルムを通過させながら30KVのDC電圧をチャージし、積層帯電フィルムを得た。得られた積層帯電フィルムを下方は十分大きな平板で、上方が径10mmφの電極間に挟み、円形接触面を形成させた。次いで、上部電極に10HZの動的振動を上下方向に与えた。このときフィルムに加える応力は径10mmφ電極で約10Kpaである。このときのフィルム間の電圧変化を測定し、圧電歪定数を求めた。結果を第1表に示す。
[実施例2]
【0008】
加工したフィルムを60℃加熱下で一軸方向に延伸倍率80%まで延伸させた以外は実施例1と同様の操作により、積層帯電フィルムを得た。評価も実施例1と同様に行った。結果を第1表に示す。
[比較例1]
【0009】
加工したフィルムの厚みが100μmであること、積層せず単独で用いた以外は実施例1と同様の操作により、帯電フィルムを得た。評価も実施例1と同様に行った。結果を第1表に示す。
[比較例2]
【0010】
実施例1において、充填剤のマイカを添加しなかった以外は実施例1と同様の操作により積層帯電フィルムを得た。評価も実施例1と同様に行った。結果を第1表に示す。
[実施例3]
【0011】
ポリフッ化ビニリデン100部、マイカ20部からなる混合物を単軸押出し機及びカレンダー加工機を用い、厚み110μmのフィルムに加工し、更に室温で一軸方向に延伸倍率100%まで延伸処理した。次いで、ウレタン系接着剤を併用し、このフィルム2枚の間に厚み25μmのポリプロピレン不織布を挟んだ三層構造のシートに加工した。その後、針状電極とシリンダー電極との間隙を25mmに設定し、この間隙を150mm/分の速度で前記フィルムを通過させながら25KVのDC電圧をチャージし、帯電フィルムを得た。評価は実施例1と同様に行った。結果を表1に示す。
[比較例3]
【0012】
実施例3において、充填剤を添加せず、延伸処理をしなかった以外は実施例3と同様にして帯電フィルムを得た。評価は実施例1と同様に行った。結果を表1に示す。
【0013】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の積層シートの一実施例の概略説明図である。
【符号の説明】
【0015】
A 第1のフィルム乃至シート(複合材料のフィルム)
B 第2のフィルム乃至シート(不織布)
C 外表面部の電極フィルム
D 内面部の電極フィルム
E 保護用シート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
予め強制的に帯電処理した少なくとも二枚の第一のフィルム乃至シート及び場合により第二のフィルム乃至シートを加えた積層材、或いは少なくとも二枚の第一のフィルム乃至シート及び場合により第二のフィルム乃至シートを加えた積層材を強制的に帯電処理した帯電フィルム乃至シートであって、第一のフィルム乃至シートは単数或いは複数の熱可塑性樹脂100部に対し、単数或いは複数の扁平状或いは鱗片状充填剤3〜70部、好ましくは5〜30部を加え、加熱溶融し、厚み10〜1000μm、好ましくは30〜200μmに加工した複合材料のフィルム乃至シートであり、第二のフィルム乃至シートは厚み10〜1000μm、好ましくは15〜200μmの織布或いは不織布であることを特徴とする積層帯電フィルム乃至シート材料。
【請求項2】
第1項記載の第一のフィルム乃至シートは単数或いは複数の熱可塑性樹脂及び単数或いは複数の扁平状或いは鱗片状充填剤からなる複合材料のフィルム乃至シートが室温〜樹脂の溶融温度の範囲内で、一軸或いは二軸方向に伸び率50〜300%まで延伸処理され、その後強制的に帯電処理を施してあることを特徴とする積層帯電フィルム乃至シート材料。
【請求項3】
熱可塑性樹脂がポリプロピレン、ポリフッ化ビニリデン、ポリフロロエチレン及び類似化合物、ポリアミド、環状オレフィンコポリマーであることを特徴とする第1、2項記載の積層帯電フィルム乃至シート材料。
【請求項4】
鱗片状充填剤がマイカであることを特徴とする第1〜3項記載の帯電フィルム乃至シート材料。
【請求項5】
第1項記載の第二のフィルム乃至シートはポリプロピレン、環状オレフィンコポリマー、ポリフッ化ビニリデン、ポリフロロエチレン及び類似化合物の織布或いは不織布であることを特徴とする第1〜4項記載の積層帯電フィルム乃至シート材料。
【請求項6】
積層フィルム乃至シート材料の片面或いは両面或いは片面と内面部或いは両面と内面部に電極層を設けたことを特徴とする第1〜5項記載の積層帯電フィルム乃至シート材料。
【請求項7】
積層フィルム乃至シート材料が圧電センサーとして使用されることを特徴とする第1〜6項記載の帯電フィルム乃至シート材料。
【請求項8】
第1〜5項記載の積層複合材料をスリットすること無しに、或いはスリットして5〜70mm幅の連続したリボン状フィルム乃至シートに成形した後、強制的に帯電処理を施し、該リボン状フィルム乃至シートを、その表面に一つの電極層を有する連続した線状或いは管状体上に連続して巻き付け、更にその外側に連続的に他の電極層を設けることを特徴とした紐状圧電センサー及びその製造方法。
【請求項9】
第1〜5項記載の積層複合材料をスリットすること無しに、或いはスリットして5〜70mm幅の連続したリボン状フィルム乃至シートに成形した後、強制的に帯電処理を施し、該リボン状フィルム乃至シートを、その表面に一つの電極層を有する合成樹脂、ゴム或いは紙からなる板状体上に巻き付け、更にその外側に他の電極層を設けることを特徴とした板状圧電センサー及びその製造方法。
【請求項10】
積層フィルム乃至シート状圧電素子材料を使用したことを特徴とするパーソナルコンピューターのキーボード。
【請求項11】
積層フィルム乃至シート状圧電素子材料が第1〜7項記載の積層帯電フィルム乃至シート材料であることを特徴とするパーソナルコンピューターのキーボード。
【請求項12】
積層フィルム乃至シート状圧電素子材料を使用したことを特徴とするパーソナルコンピューターのポインティング・デバイス。
【請求項13】
積層フィルム乃至シート状圧電素子材料が第1〜7項記載の積層帯電フィルム乃至シート材料であることを特徴とするパーソナルコンピューターのポインティング・デバイス。
【請求項14】
積層フィルム乃至シート状圧電素子材料を使用したことを特徴とするテレビ、エアコン、ビデオテープレコーダー、冷蔵庫、照明器具のフラットタイプのリモートコントロールスイッチ。
【請求項15】
積層フィルム乃至シート状圧電素子材料が第1〜7項記載の積層帯電フィルム乃至シート材料であることを特徴とするテレビ、エアコン、ビデオテープレコーダー、冷蔵庫、照明器具のフラットタイプのリモートコントロールスイッチ。
【請求項16】
積層フィルム乃至シート状圧電素子材料を使用したことを特徴とするCD、MDのリモートコントロールスイッチ。
【請求項17】
積層フィルム乃至シート状圧電素子材料が第1〜7項記載の積層帯電フィルム乃至シート材料であることを特徴とするCD、MDのリモートコントロールスイッチ。
【請求項18】
積層フィルム乃至シート状圧電素子材料を使用したことを特徴とする携帯電話ボタン。
【請求項19】
積層フィルム乃至シート状圧電素子材料が第1〜7項記載の積層帯電フィルム乃至シート材料であることを特徴とする携帯電話ボタン。
【請求項20】
積層フィルム乃至シート状圧電素子材料を使用したことを特徴とするフラットテレビのフラットスイッチ。
【請求項21】
積層フィルム乃至シート状圧電素子材料が第1〜7項記載の積層帯電フィルム乃至シート材料であることを特徴とするフラットテレビのフラットスイッチ。

【図1】
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【公開番号】特開2006−312299(P2006−312299A)
【公開日】平成18年11月16日(2006.11.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−163193(P2005−163193)
【出願日】平成17年5月9日(2005.5.9)
【出願人】(502133099)
【Fターム(参考)】