説明

シート状分離膜および分離膜エレメント

【課題】膜表面に十分な流路が確保できると共に、膜面での乱流効果も十分得られ、局所的な流動の不均一も生じにくいシート状分離膜、及びこれを用いた分離膜エレメントを提供する。
【解決手段】本発明のシート状分離膜は、相互に島状に離間した複数の凸部1を透過側面又は供給側面に有し、前記凸部1は上面の重心を通過する最短長さD2が、隣接する前記凸部1同士の最短距離D3より大きいことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体等の成分を分離するシート状分離膜、及びこれを用いた分離膜エレメントに関する。
【背景技術】
【0002】
液体等を分離する分離膜には、その孔径サイズや分離機能の違いにより、種々のタイプが存在するが、分離膜の一方の面に原液を供給し、他方の面から透過液を取り出す点では共通している。例えば、逆浸透ろ過、限外ろ過などに用いられる流体分離エレメントとしては、供給側流体(原水)を分離膜表面へ導く供給側流路材、供給側流体を分離する分離膜、および分離膜を透過し供給側流体から分離された透過側流体(透過水)を中心管(集水管)へと導く透過側流路材からなるユニットを有孔の中心管の周りに巻き付けたスパイラル型膜エレメントが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
このような、スパイラル型膜エレメントの流路材としては、樹脂製のネット等が主に使用されているが、下記の特許文献2に記載のように、樹脂製のシート状物の表面に凹凸が形成されたものも知られている。何れの流路材も、スパイラル状に巻回された分離膜に沿って、分離膜同士の隙間に、原水又は透過水を流動させる流路を形成する役割を有している。
【0004】
しかしながら、近年、スパイラル型膜エレメント等の膜分離装置には、低コスト化のニーズが高まり、上記のような流路材を使用した膜分離装置では、低コスト化のニーズへの対応に限界が有ることが判明した。つまり、例えばスパイラル型膜エレメントの場合、その製造工程において、流路材を使用することが、コストアップや製造工程の複雑化をもたらしており、流路材の使用自体が低コスト化の妨げとなっていた。一方、近年、消費材の環境への負荷の問題が注目されており、一定期間の寿命で廃棄されるスパイラル型膜エレメントについても、その環境負荷が問題となっている。
【0005】
このような背景から、特許文献3には、複合半透膜の分離活性層側にあたる供給側面に、凹凸を有し、膜内に膜表面と平行な方向に延びる複数の中空通路を有する複合半透膜が、提案されている。これを用いスパイラル型分離膜エレメントでは、供給側面の凹凸により供給側流路が形成されると共に、複数の中空通路により透過側流路が確保される。
【0006】
【特許文献1】特開平10−341号公報
【特許文献2】特開2006−247453号公報
【特許文献3】特開平11−114381号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、上記の複合半透膜では、膜表面に設けられた凹凸が溝状であり、溝に沿って流動が生じるため、膜面での乱流効果(攪拌効果)が小さくなり、濃度分極等による分離性能の低下が生じ易くなる。また、対向して配置する膜の溝の方向が平行な場合には、凹凸同士が嵌まり込んで溝の断面積が僅かになり、流量が確保できないという問題もある。更に、溝を斜め方向にして、交差するように膜を対向させる方法もあるが、溝の終端部付近(膜の端辺付近)で流動が妨げられ易くなるため、流動が不均一になり易い点も懸念される。
【0008】
そこで、本発明の目的は、膜表面に十分な流路が確保できると共に、膜面での乱流効果も十分得られ、局所的な流動の不均一も生じにくいシート状分離膜、及びこれを用いた分離膜エレメントを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的は、下記の如き本発明により達成できる。
即ち、本発明のシート状分離膜は、相互に島状に離間した複数の凸部を透過側面又は供給側面に有し、前記凸部は上面の重心を通過する最短長さが、隣接する前記凸部同士の最短距離より大きいことを特徴とする。
【0010】
本発明のシート状分離膜によると、何れかの膜表面に相互に島状に離間した複数の凸部を有するため、流路の形状が直線でなく分岐した流路が生成される(例えば網目状等)ため、膜面での乱流効果が十分得られると共に、局所的な流動の不均一も生じにくくなる。また、凸部の上面の最短長さが、隣接する凸部同士の最短距離より大きいため、対向する膜面同士を接触させて使用する場合でも、膜面の凹凸同士が嵌まり込みにくく、流路の断面積が十分確保できる。その結果、膜表面に十分な流路が確保できると共に、膜面での乱流効果も十分得られ、局所的な流動の不均一も生じにくいシート状分離膜を提供することができる。
【0011】
上記において、前記複数の凸部は、シート状分離膜の何れかの端辺に対して20〜70°の角度で線状に連なって配列されていることが好ましい。シート状分離膜は、通常、その端辺に平行又は垂直の方向に、流路の方向が設計されるため、上記の角度は、流路の方向に対する角度に相当する。そして、上記構成によると、流路の方向に対して斜め方向に複数の凸部が連なって配列されるため、流路の方向に対して流路を斜め方向に変化させる力が働き、これが攪拌力となって、濃度分極等による分離性能の低下をより生じにくくすることが可能となる。また、線状に配列される部分の間の流路により、比較的大きな流路が確保でき、全体の圧力損失を低減できる。
【0012】
また、前記凸部の上面は、対向する2つの頂点が鋭角の四角形であることが好ましい。この構成によると、鋭角の一方の頂点から他方の頂点の側へと流動を生じさせることにより、凸部の上流側の流動抵抗を小さくできると共に、凸部の下流側のデッドスペースを少なくすることができ、圧力損失を低減しながら効率良く攪拌効果を付与することができる。
【0013】
更に、供給側面及び透過側面に、前記複数の凸部が設けられていることが好ましい。これにより、供給側面及び透過側面において、膜表面に十分な流路が確保できると共に、局所的な流動の不均一も生じにくくでき、特に供給側面で必要となる乱流効果も十分得られるものとなる。
【0014】
一方、本発明の分離膜エレメントは、上記いずれかに記載のシート状分離膜を備えることを特徴とする。本発明の分離膜エレメントによると、上記の如き作用効果を奏するシート状分離膜を備えるため、膜表面に十分な流路が確保できると共に、膜面での乱流効果も十分得られ、局所的な流動の不均一も生じにくい分離膜エレメントを提供することができる。
【0015】
上記において、前記シート状分離膜の透過側面同士又は供給側面同士を接触させた状態で、前記シート状分離膜を有孔の中心管の回りにスパイラル状に巻回してあることが好ましい。スパイラル型の分離膜エレメントは、単位体積あたりの有効膜面積が大きいため多用されているが、本発明のシート状分離膜を用いることにより、特に、製造工程の大幅な簡略化や原料コストの削減を図ることができる。
【0016】
その際、前記シート状分離膜は、前記複数の凸部が線状に連なって配列され、その配列方向が軸芯方向に対して20〜60°であることが好ましい。このような角度で線状配列部を配置することで、線状配列部の間の流路により、全体の圧力損失をより低減でき、しかも凸部の間の狭い間隔にも分岐した流路が生成され、これによる供給液の撹拌効果がより得られるため、濃度分極等を効果的に防止することができる。
【0017】
あるいは、前記シート状分離膜の透過側面同士又は供給側面同士が接触した筒状又は封筒状の分離膜ユニットを複数積層し、その分離膜ユニットの一端部又は両端部を透過側流路又は供給側流路の何れか一方が開口するように封止してあることが好ましい。このような構造の分離膜エレメントによると、スパイラル型のものに比べて、更なる原料コストの軽減や製造工程の簡略化、環境負荷の低減を図ることができる。
【0018】
その際、前記シート状分離膜は、前記複数の凸部が線状に連なって配列され、その配列方向が供給側流路の流れ方向に対して20〜60°であることが好ましい。このような角度で線状配列部を配置することで、線状配列部の間の流路により、全体の圧力損失をより低減でき、しかも凸部の間の狭い間隔にも分岐した流路が生成され、これによる供給液の撹拌効果がより得られるため、濃度分極等を効果的に防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態について、図面に基づいて説明する。図1は本発明のシート状分離膜の例を示す供給側から見た平面図である。図2は本発明のシート状分離膜の例を示す縦断面図である。図3は本発明のシート状分離膜の好ましい例を示す平面図である。
【0020】
本発明のシート状分離膜は、図1〜図3に示すように、相互に島状に離間した複数の凸部1を透過側面Sa又は供給側面Sbに有している。このような凸部1により、膜面に沿った流路を形成する凹部2が確保される。図1に示す例では、複数の凸部1を供給側面Sbに有し、その凸部1同士の間の凹部2により、膜面に沿った流路が形成されている。
【0021】
複数の凸部1は、透過側面Sa又は供給側面Sbの片面又は両面に設けられるが、本発明では、図2(c)に示すように、複数の凸部1が透過側面Sa及び供給側面Sbに設けられるのが好ましい。
【0022】
凸部1の形状は、膜面に沿った流路を形成できるものであれば何れでもよく、例えば上面の形状が菱形、平行四辺形、楕円形、長円形、円形、正方形、三角形、その他の多角形のもの等が挙げられる。なかでも対向する2つの頂点が鋭角の四角形である菱形、平行四辺形などが好ましい。
【0023】
本発明のシート状分離膜は、凸部1の上面の重心を通過する最短長さが、隣接する前記凸部1同士の最短距離D3より大きいことを特徴とする。ここで、「重心を通過する最短長さ」とは、上面の形状に対する重心に基づいて、その点を通過する直線のうち、上面の輪郭と接する交点同士の距離が最も短い線分の長さを指し、楕円形や菱形の場合には、その短径D2に相当する。
【0024】
従って、本発明では、凸部1の上面の長径D1は0.3〜1.0mmが好ましく、0.5〜0.8mmがより好ましい。上面の短径D2は0.3〜1.0mmが好ましく、0.3〜0.5mmがより好ましい。
【0025】
また、「隣接する凸部同士の最短距離」とは、二次元に配置された複数の凸部1のうち、その規則性に従って最も接近して隣接する凸部を対象として、その上面を基準にして測定される凸部同士の最短距離を指す。例えば、図1に示す例では、隣接する凸部1同士の最短距離がD3で示される。
【0026】
このような隣接する凸部1同士の最短距離D3は、0.1〜0.3mmが好ましく、0.2〜0.3mmがより好ましい。また、本発明では、凸部1最短長さ(短径D2)が最短距離D3より大きくなるが、両者の差(D2−D3)は、0.1〜0.3mmが好ましく、0.1〜0.15mmがより好ましい。
【0027】
凸部1の配置は、流路を妨げないものであれば何れでもよく、ランダムな配置、凸部1が縦横に配列されたマトリックス状の配置(図1(a)、(c)、(e)参照)、凸部1の縦の配列が1列毎に交互になっている千鳥状の配置(図1(b)、(d)、(f)参照)が挙げられる。
【0028】
更に、図3に示すように、複数の凸部1は、シート状分離膜の何れかの端辺に対して20〜70°の角度で線状に連なって配列されていることが好ましい。特に、複数の凸部1は、狭い間隔で線状に配列された線状配列部Lを形成すると共に、その線状配列部Lがより広い間隔で複数配列されて線状配列部Lの間に複数の流路を形成していることがより好ましい。
【0029】
凹部2の面積率は、凸部1の上面を基準とした場合に30〜90%であることが好ましく、50〜70%であることがより好ましい。ここで、凹部2の面積率は、凸部1の上面の面積が占める割合(百分率)を100%から引いた値である。
【0030】
線状配列部Lを設ける場合、流路の圧力損失を十分低減する観点から、線状配列部L同士の間隔(広い間隔)は、0.1〜1.0mmが好ましく、0.1〜0.3mmがより好ましく、0.1〜0.2mmが更に好ましい。また、流れの直進を妨げて撹拌効果を高める観点から、線状配列部Lにおける凸部1同士の間隔(狭い間隔D3)は、0.1〜0.3mmが好ましく、0.1〜0.2mmがより好ましい。
【0031】
また、線状配列部Lの配列方向は、線状配列部の間の流路により、全体の圧力損失をより低減でき、しかも凸部の間の狭い間隔にも分岐した流路が生成され、これによる供給液の撹拌効果が得られ易くなる観点から、供給側流路の流れ方向に対して20〜60°であることが好ましく、20〜40°であることがより好ましい。
【0032】
図4には、線状配列部Lの間に形成される凹部2を模式的に示している。この図4に示すように、中心線A−A’で供給側面Sbが対向するように2つ折りにすると、各々の供給側面Sbの供給側流路(凹部2)同士が交差することになり、凹凸の嵌まり込みをより確実に防止できると共に、交差する部分において、供給側流体の撹拌効果を高めることができる。
【0033】
本発明では、図2(a)に示すように、供給側面Sbのみに凸部1を設けてもよく、あるいは透過側面Saと供給側面Sbとに凸部1を設けてもよい。更に、図2(b)に示すように、供給側面Sbに凸部1を設ける際に、透過側面Saから凸型を型押しして、透過側面Saに凹部2aが形成されるようにしてもよい。更に、図2(c)に示すように、供給側面Sbから凸型を型押しして透過側面Saに凸部1aを形成すると同時に、透過側面Saから凸型を型押しして供給側面Sbに凸部1を形成するようにしてもよい。
【0034】
図6は、図2(c)に示す形態を複合半透膜に使用した場合の例を示す図であり、(a)は供給側から見た平面図、(b)はそのI−I断面図、(c)はその積層状態を示す断面図である。このシート状複合半透膜は、凹凸を有する多孔性支持体5と、その表面に形成された分離活性層6とを備えている。
図6(a)に示すように、凸部1bが斜め方向に一定のピッチで配列される場合、矢印A1で示すように、その配列の間の広い隙間(凸部1aの形成部分を含む)には大きな供給側流路が形成される。また、配列される凸部1b同士の狭い隙間には小さな供給側流路が形成される。一方、透過側流路については、矢印A2で示すように、凸部1aの配列の間の広い隙間(凸部1bの形成部分を含む)には大きな透過側流路が形成される。また、配列される凸部1a同士の狭い隙間には小さな透過側流路が形成される。
【0035】
このシート状複合半透膜は、例えば図6(c)に示すような状態で使用される。この例では、透過側面Saの凸部1aと凸部1aとが対向して接触し、供給側面Sbの凸部1bと凸部1bとが対向して接触している。その結果、凹部2bと凹部2aの部分に、それぞれ供給側流路7bと透過側流路7aとが形成される。
【0036】
図6(a)に示すように、凸部1a,1bが斜め方向に一定のピッチで配列される場合、上下の膜を積層する際に、斜め方向の配列が交差するように積層することで、凸部1aによって形成された凹部2aに、対向する膜の凸部1aがはまり込んで、透過側流路7aが狭くなることを防止することができる。供給側流路7bについても同様である。
【0037】
上記のいずれの場合においても、供給側面Sbの凸部1の高さH2は0.2〜0.3mmであることが好ましい。高さH2がこの範囲であると、供給側流路の圧力損失を十分低減しながら、加圧による凹凸のつぶれを回避することができる。また、透過側面Saの凸部1aの高さH1は、0.3〜0.5mmであることが好ましい。
【0038】
本発明における分離膜は、限外ろ過膜、ナノろ過膜、逆浸透膜、透析膜など何れでも良いが、供給側の圧力と透過液の流量などの関係から、逆浸透膜、限外ろ過膜である場合に有効である。
【0039】
分離膜の材質としては、熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂、耐熱性樹脂などが挙げられる。熱可塑性樹脂としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、アクリル樹脂、フッ素樹脂、ポリエステル、ポリアミドなどが挙げられる。また、耐熱性樹脂としては、ポリスルホン、ポリエーテルサルホン、芳香族系のポリイミド、ポリアミド、ポリエステルなどが挙げられる。熱硬化性樹脂としては、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、フェノール樹脂、アミノ樹脂、ポリウレタン樹脂、シリコーン樹脂、または熱硬化性ポリイミド樹脂等が挙げられる。なかでも、原料コストを低減でき、凹凸加工のし易さの観点から、エポキシ樹脂が好ましい。
【0040】
分離膜の厚みとしては、凹凸を形成して形状保持させる観点から、0.1〜0.2mmが好ましく、0.1〜0.15mmがより好ましい。なお、分離膜は不織布等の支持体上に形成されているものでもよく、分離活性層が表面に形成されている複合膜でもよい。
【0041】
本発明において、分離膜に凹凸を形成する方法としては、製膜時に凹凸を形成する方法、製膜後に凹凸を形成する方法、複合膜の場合(例えば複合半透膜等)には支持体を製膜後に凹凸を形成した後、分離活性層を形成する方法、などが挙げられる。
【0042】
製膜時に凹凸を形成する方法では、例えば製膜溶液をキャストする基材に凹凸を設ける方法や、両面から基材で挟み込む場合には両面の基材に凹凸を設ける方法が挙げられる。
【0043】
製膜後に凹凸を形成する方法では、例えば加熱プレス、加圧プレス、連続ラミネート、ロールエンボス加工などが挙げられるが、分離膜の多孔質構造を維持し易くする観点から、ロールエンボス加工を行うのが好ましい。なお、複合膜の場合の場合には、平坦な表面を有する支持体を用いる場合と同様にして、凹凸形成後に分離活性層を形成することができる。
【0044】
ロールエンボス加工の条件は、分離膜の融点や熱変形温度に応じて適宜決定することができるが、例えばエポキシ樹脂の分離膜を用いる場合、送り速度1〜20m/分、ロール加熱温度80〜140℃が好ましい。また、ポリスルホン等の耐熱性樹脂を用いる場合、送り速度1〜20m/分、ロール加熱温度100〜150℃が好ましい。
【0045】
一方、本発明の分離膜エレメントは、以上のようなシート状分離膜を備えることを特徴とする。本発明の分離膜エレメントとしては、シート状分離膜を用いることができるものであれば何れでもよく、例えばスパイラル型、ディスク型、平膜型、など何れでもよい。
【0046】
スパイラル型の分離膜エレメントでは、シート状分離膜の少なくとも供給側面同士を接触させた状態で、シート状分離膜を有孔の中心管の回りにスパイラル状に巻回してあることが好ましい。
【0047】
その際、図3に示すように、前記シート状分離膜は、複数の凸部1が狭い間隔で線状に配列された線状配列部Lを形成すると共に、その線状配列部Lがより広い間隔で複数配列されて線状配列部Lの間に複数の流路を形成してあることが好ましい。また、その線状配列部Lの配列方向がスパイラル型の分離膜エレメントの軸芯方向に対して20〜60°であることが好ましく、20〜40°であることがより好ましい。
【0048】
平膜型の分離膜エレメントとしては、図5に示すように、シート状分離膜の透過側面Sa同士又は供給側面Sb同士が接触した筒状の分離膜ユニットUを複数積層し、その分離膜ユニットUの一端部又は両端部を透過側流路又は供給側流路の何れか一方が開口するように封止してあることが好ましい。図示した例では、樹脂封止部材3により分離膜ユニットUの両端部を透過側流路が開口するように封止してある。
【0049】
筒状の分離膜ユニットUは、1枚のシート状分離膜を2つ折りにして、又は2枚のシート状分離膜を重ねて、1つ又は両側の端辺を接着剤を用いた接着や熱融着で封止することで作製できる。
【0050】
分離膜ユニットUの一端部又は両端部を封止する方法としては、樹脂による封止が好ましい。封止樹脂としては、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂などの熱硬化性樹脂が好ましく用いられる。
【0051】
透過側流路又は供給側流路の何れか一方を開口させる方法としては、樹脂による封止を行う際に、予め個々の分離膜ユニットUの一端部又は両端部を封止又は接着等により塞いだものを使用し、全体の封止を行った後に、分離膜ユニットUの端部を切断して、開口させる方法が好ましい。
【0052】
この分離膜エレメントにおけるシート状分離膜は、図3に示すように、複数の凸部1が狭い間隔で線状に配列された線状配列部Lを形成すると共に、その線状配列部Lがより広い間隔で複数配列されて線状配列部Lの間に複数の流路を形成してあることが好ましい。また、その線状配列部Lの配列方向が供給側流路の流れ方向に対して20〜60°であることが好ましく、20〜40°であることがより好ましい。
【0053】
このような平膜型の分離膜エレメントでは、積層した分離膜ユニットUに平行な方向で一方から原液を供給して、分離膜で分離された透過液を分離膜ユニットUの端部の開口3aから取り出しながら、濃縮液を他方から排出することにより、クロスフローによるろ過が可能となる。なお、供給側面Sb同士が接触した筒状の分離膜ユニットUを複数積層した平膜型の分離膜エレメントでは、一方の開口3aから原液を供給して、分離膜で分離された透過液を分離膜ユニットUの外部に取り出しながら、濃縮液を他方の開口3aから排出することでクロスフローによるろ過が可能となる。
【0054】
また、分離膜ユニットUの一端部のみを透過側流路又は供給側流路の何れか一方が開口するように封止してある場合、分離膜ユニットUの他端部は、開口せずに閉塞させて封筒状にするのが好ましい。これにより、全ろ過型の分離膜エレメントを作製することができる。例えば、供給側面Sb同士が接触した封筒状の分離膜ユニットUを複数積層した平膜型の分離膜エレメントでは、一方の開口3aから原液を供給して、分離膜で分離された透過液を分離膜ユニットUの外部に取り出しながら、全ろ過による分離が可能となる。
【実施例】
【0055】
以下、本発明の構成と効果を具体的に示す実施例等について説明する。
【0056】
実施例1
ポリスルホン(Solvay社製、P−3500)18重量%をN,N−ジメチルホルムアミド(DMF)に溶解した製膜ドープを不織布基材上にウエット厚み200μmで均一に塗布した。その後、すぐに40〜50℃の水中に浸漬させることにより凝固させ、かつ溶媒であるDMFを完全に抽出洗浄することによって、不織布基材上にポリスルホン微多孔層を有する多孔性支持体を作製した。この支持体を用いて、100℃にて5m/分の速度でエンボスロール加工を行って、図3に示すような凸部(菱形、D1=3mm、D2=1mm、H1=0.28mm、凹部の面積率65%、供給側流路の方向に対する角度25°)を、供給側面に形成した。
【0057】
この多孔性支持体を用いて、m−フェニレンジアミン3重量部、ラウリル硫酸ナトリウム0.2重量部、カンファースルホン酸8重量部、トリエチルアミン4重量部、イソプロピルアルコール10重量部、及び水74.85重量部を含有するアミン水溶液を、前記多孔性支持体上にスプレー塗布して水溶液被覆層を形成した。スプレー塗布は全面を覆うように塗布し、その後、乾燥空気を吹きつけて、余分なアミン水溶液を除去した。
【0058】
次に、前記水溶液被覆層の表面にトリメシン酸クロライド0.25重量%を含有するイソオクタン溶液をスプレー塗布し、100℃に加熱して界面重合反応させて分離活性層(厚み0.01μm)を形成して、複合半透膜を作製した。
【0059】
(透過流束及び塩阻止率の測定)
作製した乾燥複合半透膜を所定の形状、サイズに切断し、平膜評価用のセルにセットするが、その際、供給側の流路材(スペーサ)を省略して測定を行った。1500mg/LのNaClを含みかつNaOHを用いてpH6.5に調整した水溶液(25℃)を膜の供給側と透過側に1.5MPaの差圧を与えて膜に接触させる。この操作によって得られた透過水の透過速度および電導度を測定し、透過流束(m/m・d)および塩阻止率(%)を算出した。塩阻止率は、NaCl濃度と水溶液電導度の相関(検量線)を事前に作成し、それらを用いて下式により算出した。
【0060】
塩阻止率(%)={1−(透過液中のNaCl濃度[mg/L])/(供給液中のNaCl濃度[mg/L])}×100
その結果、阻止率は89.8%であり、透過流束は、1.03m/m・dであり、凹凸の形成によって、膜性能がほとんど劣化しないことが確認できた。
【0061】
比較例1
実施例1において、凹凸を形成する前の支持体を用いたこと以外は、実施例1と全く同じ条件で複合半透膜を作製し、透過流束及び塩阻止率の測定を行った。その結果、阻止率は95%であり、透過流束は、1.2m/m・dであった。その際、供給側面及び透過側面に流路材(スペーサ)を配置して測定を行ったが、実施例1のように供給側面の流路材を省略すると、測定は不可能であった。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】本発明のシート状分離膜の例を示す透過側から見た平面図
【図2】本発明のシート状分離膜の例を示す縦断面図
【図3】本発明のシート状分離膜の好ましい例を示す平面図
【図4】本発明のシート状分離膜の使用例を模式的に示す説明図
【図5】本発明の分離膜エレメントの一例を示す斜視図
【図6】本発明のシート状分離膜の他の例を示す図であり、(a)は供給側から見た平面図、(b)はそのI−I断面図、(c)はその積層状態を示す断面図
【符号の説明】
【0063】
1 凸部
1a 透過側面の凸部
1b 供給側面の凸部
2 凹部(流路)
3 樹脂封止部材
3a 開口
L 線状配列部
Sa 透過側面
Sb 供給側面
D1 凸部の長径
D2 凸部の短径(凸部上面の重心を通過する最短長さ)
D3 隣接する凸部同士の最短距離
H1 凸部の高さ(透過側面)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
相互に島状に離間した複数の凸部を透過側面又は供給側面に有し、前記凸部は上面の重心を通過する最短長さが、隣接する前記凸部同士の最短距離より大きいシート状分離膜。
【請求項2】
前記複数の凸部は、シート状分離膜の何れかの端辺に対して20〜70°の角度で線状に連なって配列されている請求項1に記載のシート状分離膜。
【請求項3】
前記凸部の上面は、対向する2つの頂点が鋭角の四角形である請求項1又は2に記載のシート状分離膜。
【請求項4】
供給側面及び透過側面に、前記複数の凸部が設けられている請求項1〜3いずれかに記載のシート状分離膜。
【請求項5】
請求項1〜4いずれかに記載のシート状分離膜を備える分離膜エレメント。
【請求項6】
前記シート状分離膜の透過側面同士又は供給側面同士を接触させた状態で、前記シート状分離膜を有孔の中心管の回りにスパイラル状に巻回してある請求項5に記載の分離膜エレメント。
【請求項7】
前記シート状分離膜は、前記複数の凸部が線状に連なって配列され、その配列方向が軸芯方向に対して20〜60°である請求項6に記載の分離膜エレメント。
【請求項8】
前記シート状分離膜の透過側面同士又は供給側面同士が接触した筒状又は封筒状の分離膜ユニットを複数積層し、その分離膜ユニットの一端部又は両端部を透過側流路又は供給側流路の何れか一方が開口するように封止してある請求項5に記載の分離膜エレメント。
【請求項9】
前記シート状分離膜は、前記複数の凸部が線状に連なって配列され、その配列方向が供給側流路の流れ方向に対して20〜60°である請求項8に記載の分離膜エレメント。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−125418(P2010−125418A)
【公開日】平成22年6月10日(2010.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−304749(P2008−304749)
【出願日】平成20年11月28日(2008.11.28)
【出願人】(000003964)日東電工株式会社 (5,557)
【Fターム(参考)】