説明

シート状油中水型乳化油脂組成物及びそれを用いた層状膨化食品

【課題】 製菓・製パン用シート状油中水型乳化油脂組成物として、作業性が良く、バターのコク味があり、焼成後の芳香も良好なバター風味を有する乳脂肪を含有するシート状油中水型乳化油脂組成物を提供すること。
【解決手段】 バター、醗酵バター、生乳、牛乳、特別牛乳、クリーム、醗酵クリームからなる群から選ばれた少なくとも1種含有される乳脂肪の分別により得られる乳脂肪であって、上昇融点が38.0〜42.0℃、固体脂含量が10℃で60.0〜75.0%、30℃で25.0〜40.0%である乳脂肪を10.0〜35.0重量%、上昇融点が3.0〜7.0℃、固体脂含量が5℃で0.0〜4.0、10℃で0.0%である乳脂肪を10.0〜35.0重量%含有することを特徴とするシート状油中水型乳化油脂組成物を用いて層状膨化食品を作製すること。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、製菓・製パン用シート状油中水型乳化油脂組成物として、作業性が良く、バターのコク味があり、焼成後の芳香も良好なバター風味を有する乳脂肪を含有するシート状油中水型乳化油脂組成物、及び、それを用いて製造してなる層状膨化食品に関する。
【背景技術】
【0002】
クロワッサン、デニッシュ、パイ等の層状膨化食品は、その独特な食感により、非常に人気の高い食品の一つである。これらの食品の製造には、ロールインマーガリン、あるいはパフペーストリーと呼ばれるシート状の油脂加工食品を用いて、生地と油脂を伸ばしては折りたたむ工程(ロールイン)を繰り返し、一般には128層或いは256層、洋菓子分野においてはそれ以上に折り込まれた生地を焼成することで作製され、これにより軽いサックリとした食感が得られる。生地と油脂を折り込む際、油脂は生地と同様に良く伸びることが必要で、油脂が硬すぎると充分に伸びずに油脂が生地中に偏在し、生地同士が合一してしまい、最終的にきれいな層が得られず、食感の悪い製品となる。逆に油脂が軟らかすぎても、折りたたむ時に油脂が生地の間からはみ出してしまい、硬い場合と同様、充分に層が出る製品が得られず食感が悪くなってしまう。従って、この様な層状膨化食品を作成するための油脂は、生地と同様の伸びやすく腰のある物性が求められる。一般に層状膨化食品に用いられるシート状油脂加工食品は、求められる物性を満足させるべく、製造時の冷却捏和条件、配合等が種々検討され、良好な物性を持ったシート状油脂加工食品が製造されているが、伸びやすさと、腰の強い物性とは相反する性質であって、両者を満足する製品を得ることは極めて困難である。
【0003】
従来から本格的な層状膨化食品では、伝統的にバターが使用されている。しかし、バターは風味付与という点では優れた油脂であるが、価格面、栄養学的、物理的特性で問題がある。特にバター脂は冷蔵庫から取り出した直後の状態では非常に固く作業性に難点がある。更に、バター脂は20℃以上では軟らかくなり、パイ等の生地に折り込む時に物性が軟化し生地に練り込まれ、良好な層状膨化食品が得られにくいという欠点がある。このため、バター脂の使用温度条件は、マーガリンに比べ非常に狭く職人技に頼ることが多い。一方バターを配合するコンパウンドマーガリンも風味を向上させるための一手段であるが、特に乳脂肪を多く含有する油脂組成物では、その物理的特性がバター同様、製菓、製パン時の作業性が悪く工業的に安定した層状膨化食品を製造するには、いずれも満足のいけるレベルには至っていない。また、このコンパウンドマーガリンは風味上まだ満足のいけるレベルには至っていない。
【0004】
このような、問題を解決するために種々の検討がなされてきている。例えば、バター脂の無溶剤分別で得られるステアリン画分を用いて製菓、製パンに適する硬度と展延性を有するバターの製造法(特許文献1)、バター脂の溶剤分別で得られるステアリン画分を使用したマーガリン(特許文献2)、バター脂のステアリン画分を用いた粒状バター脂(特許文献3)、水相をPH3〜6に調整し、醗酵バターを10〜90重量%配合する(特許文献4)などの試みがなされている。しかし、いずれの場合も作業性、特に低温での伸展性や風味の問題は十分改善されていない。
【特許文献1】特開平03−232455号公報
【特許文献2】特開2000−166469号公報
【特許文献3】特開平09−227890号公報
【特許文献4】特開平11−276069号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
作業性が良く、バターのコク味があり、焼成後の芳香も良好なバター風味を有する乳脂肪を含有するシート状油中水型乳化油脂組成物を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を達成する為に本発明者らは鋭意研究を重ねた結果、バター、醗酵バター、生乳、牛乳、特別牛乳、クリーム、醗酵クリームからなる群から選ばれた1種または2種以上から分離して製造される乳脂肪の分別脂を特定量含有して得られたシート状油中水型乳化油脂組成物が、作業性が良く、バターのコク味があり、焼成後の芳香も良好なバター風味を有する事を見いだし、本発明を完成するに至った。
【0007】
即ち、本発明の第1は、バター、醗酵バター、生乳、牛乳、特別牛乳、クリーム、醗酵クリームからなる群から選ばれた少なくとも1種含有される乳脂肪の分別により得られる乳脂肪であって、上昇融点が38.0〜42.0℃、固体脂含量が10℃で60.0〜75.0%、30℃で25.0〜40.0%である乳脂肪を10.0〜35.0重量%、上昇融点が3.0〜7.0℃、固体脂含量が5℃で0.0〜4.0、10℃で0.0%である乳脂肪を10.0〜35.0重量%含有することを特徴とするシート状油中水型乳化油脂組成物に関する。本発明の第2は、上記記載のシート状油中水型乳化油脂組成物を生地中に含有することを特徴とする層状膨化食品に関する。
【発明の効果】
【0008】
本発明のシート状油中水型乳化油脂組成物を折り込み(ロールイン)用油脂として使用した時、従来の油脂を使用した場合と比べ、作業性、バターのコク味、焼成後の芳香の点で良好なクロワッサン、デニッシュ、パイ等の層状膨化食品が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下に、本発明を詳細に説明する。本発明における、上昇融点が38.0〜42.0℃、固体脂含量が10℃で60.0〜75.0%、30℃で25.0〜40.0%である乳脂肪(以下、高融点バターオイルと称す場合がある)の含有量はシート状油中水型乳化油脂組成物全体中10.0〜35.0重量%であることが必須であり、好ましくは15.0〜30.0重量%である。上記範囲内であると、シート状油中水型乳化油脂組成物は、ロールイン時、油脂にコシがあり生地に練り込まれ難くなり、温度調整等の作業性が良くなる為好ましい。
【0010】
本発明における、上昇融点の測定は、溶解した試料を内径1mm、長さ8cmの両端開放毛細管に1cmの高さに満たし、氷上1時間放置し測定する。水浴に毛細管を入れ、水浴中の水温を毎分2℃上昇させ、融点より10℃低い温度に達した後は、毎分0.5℃の速度で温度を上昇させ、毛細管の中の試料が溶解し、水圧で押し上げられて上昇しはじめる時の温度を上昇融点とする。固体脂含量の測定は、BRUKER社製 Solid Fat Content Analyzerにて測定した。
【0011】
上記乳脂肪は、乳や乳製品等から得られる脂肪分であれば特に限定はないが、バター、醗酵バター、生乳、牛乳、特別牛乳、クリーム、醗酵クリームからなる群から選ばれた少なくとも1種を含有する乳脂肪からの分別により得られることが、風味の点で好ましい。
【0012】
また本発明における、上昇融点が3.0〜7.0℃、固体脂含量が5℃で0.0〜4.0%、10℃で0.0%である乳脂肪(以下、低融点バターオイルと称す場合がある)の含有量は、シート状油中水型乳化油脂組成物全体中10.0〜35.0重量%であることが必須であり、好ましくは15.0〜30.0重量%である。この低融点バターオイルは、通常の分別しない乳脂肪に比べ、バター風味は2〜3倍強くなり、上記範囲内であると、シート状油中水型乳化油脂組成物は、ロールイン作業時の伸展性などの作業性も良く、これを用いた層状膨化食品の風味も非常に良くなる為、好ましい。
【0013】
上記乳脂肪は、乳や乳製品等から得られる脂肪分であれば特に限定はないが、バター、醗酵バター、生乳、牛乳、特別牛乳、クリーム、醗酵クリームからなる群から選ばれた少なくとも1種が含有される乳脂肪の分別により得られることが、風味の点で好ましい。
【0014】
本発明でいう乳脂肪からの分別とは、種々トリグリセライドの混合物である乳脂肪を溶解した後、冷却して結晶を析出せしめ、これをろ過、圧搾等の操作によって分ける操作のことをいう。
【0015】
本発明に用いられるバターとは、「生乳、牛乳又は特別牛乳から得られた脂肪粒を練圧したもの」(乳及び乳製品の成分規格等に関する省令(乳等省令))であるか、又は「バターとは牛乳より分離したクリームの脂肪を攪拌操作により塊状に集合させて造ったもの」(日本農林規格(JAS))である。
【0016】
また本発明の醗酵バターは、サワーバター、ラクティックバター、カルチャードバターとも呼ばれ、乳酸菌による醗酵を利用して製造したバターを言い、さわやかで香りの良い風味を有する。ヨーロッパではこの醗酵バターが多用されている。
【0017】
本発明に用いられる生乳とは、「搾取したままの牛の乳」をいい、牛乳とは「直接飲用に供する目的で販売する牛の乳」をいい、特別牛乳とは「牛乳であって特別牛乳として販売する牛乳」をいう。
【0018】
本発明に用いられるクリームは、「生乳、牛乳または特別牛乳から乳脂肪以外の成分を除去したもの」(乳及び乳製品の成分規格等に関する省令(乳等省令))であるか、又は「脱脂乳中脂肪型のエマルションを形成している牛乳から分離した比較的脂肪に富む乳製品」である。醗酵クリームは、前記クリームを乳酸醗酵したものを言い、サワークリームともいわれ、さわやかな酸味を持つものである。
【0019】
本発明のシート状油中水型乳化油脂組成物は乳脂肪以外の油脂も含んで良いが、その種類は特に限定されず、従来マーガリンやショートニングに用いられる油脂であれば、いかなる油脂でも使用可能であり、例えば、亜麻仁油、桐油、サフラワー油、かや油、胡桃油、芥子油、向日葵油、綿実油、菜種油、大豆油、辛子油、カポック油、米糠油、胡麻油、落花生油、オリーブ油、椿油、茶油、ひまし油、椰子油、パーム油、パーム核油、葡萄油、カカオ脂、シア脂、コクム脂、ボルネオ脂等の植物油脂や、魚油、鯨油、牛脂、豚油、鶏油、卵黄油、羊油等の動物油脂から選ばれる少なくとも1種が挙げられ、また、これらの油脂をエステル交換したものや、硬化、分別したもの等、通常食用に供されるすべての油脂類を用いる事が可能である。
【0020】
また本発明のシート状油中水型乳化油脂組成物には、通常シート状油中水型乳化油脂組成物を製造するために添加される乳化剤を使用しても何ら問題ない。使用する乳化剤については特に限定されず、例えば通常使用されるグリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、レシチン、ポリグリセリン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル等が挙げられる。さらには、その他必要に応じて乳製品、食塩、香料、着色料、酸化防止剤等を添加することができる。
【0021】
シート状油中水型乳化油脂組成物の作製方法としては、シート状に加工可能であるなど、保型性を付与できるのであればどのような製造法で製造しても良い。具体的には、油相に、水相を添加した後、撹拌混合して得られる油中水型エマルジョンを加熱溶解後、ボテーター、コンビネーター、オンレーター、パーフェクター等の掻き取り式チューブラー冷却器において急冷捏和する。ここでいうエマルジョンとは、油相中に水相が粒子として分散して乳状をなすものをいう。前記捏和とは油脂組成物を機械的に練ることを意味する。冷却捏和が終了した油脂組成物は、必要に応じてレスティングチューブ等の熟成ユニットで、更なる結晶の安定化を図ることが望ましい。
【0022】
本発明のシート状油中水型乳化油脂組成物は、このようにして冷却捏和を行った油中水型乳化油脂組成物をシート状に成形することにより得ることができる。シート状に成形する方法に特に限定はなく、一般的に使用される方法を用いることができる。即ち、前記油中水型乳化油脂組成物をシート状に成形するには、冷却捏和を行った油中水型乳化油脂組成物を、麺棒等を用いて厚さ5〜15mm程度に引き伸ばすことでシート状油中水型乳化油脂組成物が得られる。また、工業的な連続生産においては、冷却捏和を行った油脂組成物を、通常、開口部が、高さ5〜15mm程度、幅200〜250mm程度の成型ノズルを用いて連続的に押し出し、押し出された帯状の油脂組成物を、一定時間または一定長さごとにカッター等により切断することで、シート状油中水型乳化油脂組成物を得ることが出来る。
【0023】
上記のようにして得られたシート状油中水型乳化油脂組成物を、折り込み(ロールイン)用油脂として使用することができる。本発明でいう層状膨化食品とは、クロワッサン、デニッシュ、デニッシュブレッド、パイ、クローネ等用の生地に油脂を折り込んで作られることを特徴とする、いわゆるペーストリー類とよばれる食品をいう。本発明のシート状油中水型乳化油脂組成物を折り込み(ロールイン)用油脂として用いることで、作業性が良く、バターのコク味があり、焼成後の芳香も良好なバター風味を有する層状膨化食品を製造することができる。
【実施例】
【0024】
以下、本発明を実施例および比較例に基づいて説明するが、本発明はこれらにより何ら限定を受けるものではない。尚、以下の記載において、特にことわらない限り、「部」、「%」は全て「重量部」、「重量%」を表す。
【0025】
<ロールイン作業性評価>
実施例3〜6、比較例5〜12でクロワッサン或いはパイを作製した際の作業性を、5人のパネラーによって、以下の評価基準で5段階評価し、その平均点を各々の評価点数とした。その際の評価基準は以下の通りであった。5点:シート状油中水型乳化油脂組成物の伸びが非常に良好で腰が非常に強い、4点:シート状油中水型乳化油脂組成物の伸びが良好で腰が強い、3点:シート状油中水型乳化油脂組成物の伸びが普通で腰が普通、2点:シート状油中水型乳化油脂組成物の伸びが劣り腰が弱い、1点:シート状油中水型乳化油脂組成物の伸びが非常に劣り腰が非常に弱い。
【0026】
<クロワッサン及びパイの官能評価>
実施例3〜4、比較例5〜8で作製したクロワッサン及びパイを、5人の訓練されたパネラーにより、5段階で官能評価し、その平均点を各々の評価点数とした。その際の評価基準は以下の通りであった。5点:バターのコク味、焼成後の芳香ともに非常に良好、4点:バターのコク味、焼成後の芳香ともに良好、3点:バターのコク味、焼成後の芳香ともに普通、2点:バターのコク味、焼成後の芳香何れかが劣る、1点:バターのコク味、焼成後の芳香ともに非常に劣る。
【0027】
(実施例1)
醗酵バターを溶解し遠心分離機で分離した後、真空乾燥機を通し水分と無脂乳固形分を除去することで製造される乳脂肪を25℃まで冷却し、ベルト式フィルターでろ過することによって得られる固体部分である高融点バターオイル(mp:40℃、10℃固体脂含量:69.0%、30℃固体脂含量:30.0%)20部、醗酵バターを溶解し遠心分離機で分離した後、真空乾燥機を通し水分と無脂乳固形分を除去することで製造される乳脂肪を25℃まで冷却し、ベルト式フィルターでろ過することによって得られる液体部分である低融点バターオイル(mp:5℃、5℃固体脂含量:2.0%、10℃固体脂含量:0.0%)20部、硬化大豆油(mp:40℃)20部、精製ラード(mp:31℃)22.1部からなる油相に、グリセリン脂肪酸エステル0.2部、大豆レシチン0.2部を添加した。この油相に対し、水16.5部、食塩1.0部からなる水相を添加し、約60℃に温度を調節し、プロペラミキサーにて攪拌混合し、エマルジョンを作製した。その後、常法通り掻き取り式チューブラー冷却捏和装置にて冷却捏和し、開口部が、高さ10mm、幅230mmの成型ノズルを用いて連続的に押し出し、押し出された帯状の油脂組成物をカッターにより230mmの長さに切断することで、高さ10mm、幅230mm、長さ230mmのシート状油中水型乳化油脂組成物を製造した。得られたシート状油中水型乳化油脂組成物は、作業性が良く、良好なバターの風味を示していた。
【0028】
(実施例2)
実施例1と同様の方法で得られる高融点バターオイル(mp:40℃、10℃固体脂含量:69.0%、30℃固体脂含量:30.0%)35部、実施例1と同様の方法で得られる低融点バターオイル(mp:5℃、5℃固体脂含量:2.0%、10℃固体脂含量:0.0%)35部、硬化大豆油(mp:40℃)9部、精製ラード(mp:31℃)3.1部からなる油相に、グリセリン脂肪酸エステル0.2部、大豆レシチン0.2部を添加した。この油相に対し、水16.5部、食塩1.0部からなる水相を添加し、約60℃に温度を調節し、プロペラミキサーにて攪拌混合し、エマルジョンを作製した。その後、常法通り掻き取り式チューブラー冷却捏和装置にて冷却捏和し、実施例1と同様の方法で成形し、高さ10mm、幅230mm、長さ230mmのシート状油中水型乳化油脂組成物を製造した。得られたシート状油中水型乳化油脂組成物は、作業性が良く、良好なバターの風味を示していた。
【0029】
(比較例1)
醗酵バターを溶解し遠心分離機で分離した後、真空乾燥機を通し水分と無脂乳固形分を除去することで製造される乳脂肪(mp:30℃、10℃固体脂含量:38.7%、20℃固体脂含量:14.2%、30℃固体脂含量:5.7%)40部、硬化大豆油(mp:40℃)20部、精製ラード(mp:31℃)22.1部からなる油相に、グリセリン脂肪酸エステル0.2部、大豆レシチン0.2部を添加した。この油相に対し、水16.5部、食塩1.0部から成る水相を添加し、約60℃に温度を調節し、プロペラミキサーにて攪拌混合し、エマルジョンを作製した。その後、常法通り掻き取り式チューブラー冷却捏和装置にて冷却捏和し、実施例1と同様の方法で成形し、高さ10mm、幅230mm、長さ230mmのシート状油中水型乳化油脂組成物を製造した。得られたシート状油中水型乳化油脂組成物は、作業性が悪かった。
【0030】
(比較例2)
比較例1と同様の方法で得られる乳脂肪(mp:30℃、10℃固体脂含量:38.7%、20℃固体脂含量:14.2%、30℃固体脂含量:5.7%)70部、硬化大豆油(mp:40℃)9部、精製ラード(mp:31℃)3.1部からなる油相に、グリセリン脂肪酸エステル0.2部、大豆レシチン0.2部を添加した。この油相に対し、水16.5部、食塩1.0部から成る水相を添加し、約60℃に温度を調節し、プロペラミキサーにて攪拌混合し、エマルジョンを作製した。その後、常法通り掻き取り式チューブラー冷却捏和装置にて冷却捏和し、実施例1と同様の方法で高さ10mm、幅230mm、長さ230mmのシート状油中水型乳化油脂組成物を製造した。得られたシート状油中水型乳化油脂組成物は、作業性が悪かった。
【0031】
(比較例3)
実施例1と同様の方法で得られる高融点バターオイル(mp:40℃、固体脂含量10℃:69.0%、30℃:30.0%)40部、実施例1と同様の方法で得られる低融点バターオイル(mp:5℃、10℃固体脂含量:2.0%、20℃固体脂含量:1.0%)40部、精製ラード(mp:31℃)2.1部からなる油相に、グリセリン脂肪酸エステル0.2部、大豆レシチン0.2部を添加した。この油相に対し、水16.5部、食塩1.0部から成る水相を添加し、約60℃に温度を調節し、プロペラミキサーにて攪拌混合し、エマルジョンを作製した。その後、常法通り掻き取り式チューブラー冷却捏和装置にて冷却捏和し、実施例1と同様の方法で成形し、高さ10mm、幅230mm、長さ230mmのシート状油中水型乳化油脂組成物を製造した。得られたシート状油中水型乳化油脂組成物は、作業性が悪かった。
【0032】
(比較例4)
実施例1と同様の方法で製造される高融点バターオイル(mp:40℃、10℃固体脂含量:69.0%、30℃固体脂含量:30.0%)5部、実施例1と同様の方法で製造される低融点バターオイル(mp:5℃、固体脂含量10℃:2.0%、20℃:1.0%)5部、硬化大豆油(mp:40℃)35部、精製ラード(mp:31℃)15部、ナタネ白絞油22.1部からなる油相に、グリセリン脂肪酸エステル0.2部、大豆レシチン0.2部を添加した。この油相に対し、水16.5部、食塩1.0部から成る水相を添加し、約60℃に温度を調節し、プロペラミキサーにて攪拌混合し、エマルジョンを作製した。その後、常法通り掻き取り式チューブラー冷却捏和装置にて冷却捏和し、実施例1と同様の方法で成形し、高さ10mm、幅230mm、長さ230mmのシート状油中水型乳化油脂組成物を製造した。得られたシート状油中水型乳化油脂組成物は、良好なバター風味が得られなかった。
【0033】
(実施例3〜4,比較例5〜8) クロワッサンの製造
実施例1〜2、及び比較例1〜4で得られたシート状油中水型乳化油脂組成物を使用し、以下の配合、製法でクロワッサンを作製した。
【0034】
生地配合:
小麦粉(強力) 700g
小麦粉(薄力) 300g
上白糖 80g
食塩 20g
脱脂粉乳 20g
マーガリン 50g
イースト 50g
卵 50g
水 500g
上記配合の原料をボールに入れ、ビーターを用いタテ型ミキサーにて低速、中速にて各原料が均一に混合されるまで混捏、生地を作製した。その時の捏ね上げ温度は25〜26℃になるように調整した。フロアータイム30分の後、−5℃の冷蔵庫に保存した。この生地を冷蔵庫から取り出して生地温度が0℃になった時点で、予め15℃に一晩温調されたシート状油中水型乳化油脂組成物(実施例1〜2、比較例1〜4)を各500gロールインした。ロールインは四つ折り一回、三つ折2回行った。−5℃で一晩保存した後、シーターにて延ばした生地を底辺12.5cm、高さ15cmの二等辺三角形にカットし、丸めて成型し、35℃、湿度70%のホイロにて醗酵後、上火230℃、下火210℃のオーブンにて18分間焼成を行った。ロールイン時の作業性評価結果や得られたクロワッサンの官能評価結果は表1にまとめた。
【0035】
【表1】

【0036】
表1から明らかなように、実施例1〜2で得られたシート状油中水型乳化油脂組成物を使用した実施例3〜4のクロワッサンは、比較例5〜8のクロワッサンと比べて作業性、バターのコク味、焼成後の芳香の点で良好であり、満足できるレベルであることが示された。
【0037】
(実施例5〜6,比較例9〜12) パイの製造
実施例1〜2、及び比較例1〜4で得られたシート状油中水型乳化油脂組成物を使用し、以下の配合、製法でパイを作製した。
【0038】
生地配合:
小麦粉(強力) 500g
小麦粉(薄力) 500g
食塩 15g
油脂 50g
水 580g
上記配合で、カントーミキサーにて低速2分、高速5分でパイ生地を作製した(捏ね上げ温度:20℃)。その後、粉500g分に分割し丸めて、アルミ製の天板にのせ、ナイロン袋をかぶせて−5℃で一晩冷却した。室温20℃にて、温調されたパイ生地を取り出し、麺棒にて30センチ四方に延ばし、その上に予め15℃に一晩温調されたシート状油中水型乳化油脂組成物(実施例1〜2、比較例1〜4)を各800g乗せた。生地の四方を合わせてシート状油中水型乳化油脂組成物を包み込み、シーターにて延ばした後、四つ折、三つ折を行った。−3℃にて1時間温調した後、同様に四つ折り、三つ折りを繰り返す。更に−3℃で2時間温調した後、生地をシーターで延ばし、直径9センチと5センチの円形抜き型を用いてドーナッツ型に成型した。250℃のオーブンにて15分焼成を行い、パイを得た。ロールイン時の作業性評価結果や得られたパイの官能評価結果は表2にまとめた。
【0039】
【表2】

【0040】
表2から明らかなように、実施例1〜2で得られたシート状油中水型乳化油脂組成物を使用した実施例5〜6のパイは、比較例9〜12のパイと比べて作業性、バターのコク味、焼成後の芳香の点で良好であり、満足できるレベルであることが示された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
バター、醗酵バター、生乳、牛乳、特別牛乳、クリーム、醗酵クリームからなる群から選ばれた少なくとも1種含有される乳脂肪の分別により得られる乳脂肪であって、上昇融点が38.0〜42.0℃、固体脂含量が10℃で60.0〜75.0%、30℃で25.0〜40.0%である乳脂肪を10.0〜35.0重量%、上昇融点が3.0〜7.0℃、固体脂含量が5℃で0.0〜4.0%、10℃で0.0%である乳脂肪を10.0〜35.0重量%含有することを特徴とするシート状油中水型乳化油脂組成物。
【請求項2】
請求項1に記載のシート状油中水型乳化油脂組成物を生地中に含有することを特徴とする層状膨化食品。

【公開番号】特開2007−60913(P2007−60913A)
【公開日】平成19年3月15日(2007.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−247318(P2005−247318)
【出願日】平成17年8月29日(2005.8.29)
【出願人】(000000941)株式会社カネカ (3,932)
【Fターム(参考)】