説明

シート状物の延伸機

【課題】
シート状物の延伸機において、簡便な構造でリンクチェンの逆折れを防止し、リンク装置の高速化を図る。
【解決手段】
折尺状に形成された複数個の等長リンク装置31及び該等長リンク装置31に設けられたリンク開き量を制限するリンクチェン36から成る無端リンク装置3を用いてシート状物1を延伸する装置において、シート状物1を延伸後、入口側のスプロケット部に戻る無端リンク装置3のリンクピッチを縮小させるスプロケット6を偶数の歯数にし、スプロケット6の一歯飛ばしの位置で歯底部にリンクチェンの押出し手段61を設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シート状物、例えば熱可塑性樹脂フィルム等を延伸する装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の同時二軸延伸機のリンク装置は、特開平6−278204号公報に記載されているように、リンク装置のつかみピッチを縮小開始する位置にスプロケットを設置し、スプロケットと噛み合った時にリンクチェンを初期曲げし、続いてガイドレールの規制により徐々に縮小させ、最小ピッチでフィルム供給に押し込むスプロケットに噛み合わせる構成となっていた。
【0003】
このような構成のリンク装置においては、二軸延伸機の高速化によってピッチ縮小開始時のリンクチェンの逆折れが生じることがある。リンクチェンの逆折れはリンク装置の破損にもつながり、このようなトラブルを防止する方法としては、特開2001−113594号公報に記載されているように、リンク装置が正常に折り畳まれる方向と逆向きに折り畳まれたことを検知する検知器を設け、検知器が作動した時に延伸機の運転を停止する機構を設け、リンク逆折れによるトラブルを防止する方法が知られている。
【0004】
また、リンク装置の逆折れを防止する方法として、特開平6−210726号公報に記載のように、ピッチ収縮(MD収縮)助勢装置の前側に、一点をピンで支持されピッチ収縮助勢装置と連動してリンク装置に接する部分が往復運動を繰り返すガイド板を設置して、リンク装置のリンクチェンがピッチ収縮助勢装置を通過する前に、ガイド板がリンクチェンのピン連結部をリンク装置の内側に押し込み、リンクチェンが押し込まれた状態でリンク装置がピッチ収縮助勢装置を通過するようにし、ピッチ収縮の際の逆折れを防止する方法が知られている。
【0005】
【特許文献1】特開平6−278204号公報
【特許文献2】特開2001−113594号公報
【特許文献3】特開平6−210726号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記特許文献2に開示された従来の技術は、リンクの逆折れを検知して装置を止めるというものであり、逆折れを防止して稼働率を向上させる点について配慮されていない。
【0007】
また、上記特許文献3に開示された従来の技術は、シート状物延伸後の無端リンク装置の戻り区間となる無端リンク装置駆動用の出口側及び入口側のスプロケットの間のラインにピッチ収縮助勢装置を設けたものとなっている。このように本従来技術は、出口側及び入口側スプロケット間の長い区間で無端リンク装置のピッチを縮小させているので、全体のリンク数が多く必要になる。また、ピッチ収縮助勢装置が大きなものになっており、ピッチ縮小区間の短い箇所への取り付けができないという問題がある。
【0008】
本発明の目的は、簡便な構造でリンクチェンの逆折れを防止し、リンク装置の高速化を図ることのできるシート状物の延伸機を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の上記目的は、折尺状に形成された複数個の等長リンク装置と該等長リンク装置に取り付けられリンク開き量を制限するリンクチェンとから成る無端リンク装置と、無端リンク装置を駆動する複数のスプロケットとを具備するシート状物の延伸機において、複数のスプロケットのうち等長リンク装置のリンクピッチを縮小させるスプロケットに該スプロケットからリンクチェンが離れる際に該リンクチェンを押し出す押出し手段を設けることにより、達成される。
【0010】
また、本発明の上記目的は、シート状物の端部を把持する複数の掴み装置を前記シート状物の両側端に具備した無端リンク装置を設け、該無端リンク装置は、折尺状に形成された複数個の等長リンク装置及び該等長リンク装置に設けられたリンク開き量を制限するリンクチェンから成り、入口側及び出口側のスプロケット部により駆動され、入口側スプロケット部から送り出され進行方向に末広がり状に配置された案内用ガイドレールに案内されてシート状物を延伸させた後にシート状物を外し、出口側スプロケット部を介して入口側スプロケット部に戻るように構成されたシート状物の延伸機において、入口側のスプロケット部が出口側のスプロケット部から送られてくる無端リンク装置のリンクピッチを縮小する区間を有し該区間の開始部と出口部のそれぞれに設けたスプロケットから成り、リンクピッチ縮小区間開始部のスプロケットを偶数の歯数とし、該スプロケットの一歯飛ばしの位置で歯底部にリンクチェンの押出し手段を設けることにより、達成される。
【0011】
さらに、リンクチェンの押出し手段に圧縮コイルバネを用いる。
【0012】
さらに、リンクピッチ縮小区間開始部のスプロケットが二枚の合せ構造であり、該スプロケットの合せ面の間にリンクチェン押出し手段を有する。
【発明の効果】
【0013】
本発明のシート状物の延伸機は、省スペースな簡便な構造でリンクチェンの逆折れを防止できるので、無端リンク装置を高速で駆動することができ、生産性を向上させることができるという効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明は、無端リンク装置を用いたシート状物の延伸機において、無端リンク装置に設けたリンクの開き量を制限するリンクチェンを、無端リンク装置のリンクピッチ縮小開始位置でスプロケットに取り付けた押出し手段によってスプロケットの外周側に押し出し、リンクチェンの逆折れを防止するものである。
【0015】
また、本発明は、リンク開き量を制限するリンクチェンを有する等長リンク装置からなる無端リンク装置を用いたシート状物の延伸機において、シート状物の入口側と出口側に設けたスプロケット部により駆動される無端リンク装置のシート状物延伸後のリンク装置のピッチ縮小区間をシート状物の入口側のスプロケット部に設定し、入口側スプロケット部のピッチ縮小区間の開始部と出口部のそれぞれにスプロケットを設け、リンクピッチ縮小区間開始部のスプロケットを偶数の歯数とし、該スプロケットの一歯飛ばしの位置で歯底部にリンクチェンの押出し手段を設けたものである。
【0016】
これによれば、リンクピッチ縮小区間開始部のスプロケットにリンクチェンの押出し手段を設けたので、ガイドレールにより無端リンク装置を案内する部分にピッチ収縮助勢装置を設ける必要もなく、また、リンクピッチ縮小区間を入口側スプロケット部の開始部と出口部のスプロケット間の短い区間で行うことができ、省スペースな簡便な構造とすることができる。また、リンクピッチ縮小区間でのリンクチェンの逆折れを防止できるので無端リンク装置の高速化が可能となる。
【実施例1】
【0017】
本発明の一実施例を図1〜図4により説明する。
【0018】
図1は本発明の実施例である同時二軸延伸機の平面図であり、図2は図1の入口側スプロケット部の詳細を示す平面図であり、図3は図2のA部(リンクチェン押出し手段の取り付け部)の詳細を示す部分平面図であり、図4は図2のA部をB−Bから見た縦断面図であり、その構成および動作は以下の通りである。
【0019】
シート状物1の端部を把持する複数(多数)の掴み装置2をシート状物1の両側に具備した無端リンク装置3(図中リンクの一部並びに片側の無端リンクは省略)は、折尺状に形成された複数個(多数個)の等長リンク装置31より構成される。また、無端リンク装置3は、シート状物の入口側スプロケット部のスプロケット6,7及び出口側スプロケット部のスプロケット8で駆動される。無端リンク装置3は入口側スプロケット部のスプロケット7により送り出され、入口に設けられた開閉ガイド等の開閉手段(図示せず)により掴み装置2が開閉されてシート状物1を掴み、シート状物1を送ってシート状物を予熱区間(図示せず)で延伸に必要な温度に加熱させる。さらに、無端リンク装置3は、延伸区間において、進行方向に末広がり状に配置されたガイドレール4,5に案内されて掴みピッチをピッチP1からP2に徐々に拡大され、これにより、シート状物1を縦横二方向(MD方向およびTD方向)に同時に延伸する。その後、無端リンク装置3は、シート状物1を熱処理区間において所定の温度で熱固定し、冷却区間で急冷するようにそれぞれの領域に送り、出口に設けられた開閉ガイド等の開閉手段(図示せず)により掴み装置2を開閉してシート状物1を外す。外されたシート状物1はそのまま進行し巻き取り装置(図示省略)に巻き取られる。さらに、無端リンク装置3は、出口側スプロケット部のスプロケット8により駆動されて、入口側スプロケット部のスプロケット6に戻るように構成される。なお、無端リンク装置3のリンク構成としては、特公平5−4896号公報に記載された無端リンク装置を参照することができる。
【0020】
入口側スプロケット部では図2に示すように、出口側スプロケット部のスプロケット8により駆動されて大きなピッチ(この場合、リンク数を少なくするために最大ピッチ)で入口側スプロケット部のスプロケット6に戻って来た等長リンク装置31を、スプロケット7側に押し出し等長リンク装置のピッチを徐々に狭めていく。
【0021】
このとき、スプロケット6が等長リンク装置31を送り出す際に、等長リンク装置31のリンクプレート32及び33の端部をつなぐリンクチェン36が逆に折れないように、スプロケット6に設けたリンクチェン押出し手段であるプッシャ61でリンクチェン36を等長リンク装置31の内側に折り込むように押す。これにより、リンクピッチが縮小される等長リンク装置31のリンクチェン36の逆折れを防止することができる。
【0022】
スプロケット6は、図2及び図3に示すように等長リンク装置31のリンク軸35を支持する溝部分とリンクチェン36の結合部のピン37が入り込む溝とが交互に設けられ、偶数の歯数で形成されている。プッシャ61は、リンクチェン36のピン37が入り込む溝部分に相当するスプロケット6の一歯飛ばしの歯底部の位置に設けられる。なお、この場合は、プッシャ61の数を少なくするためにスプロケット6の歯数を偶数にしたが、プッシャ61を全歯数分取り付けてスプロケット6の歯数を奇数にしても構わない。
【0023】
プッシャ61は、図3及び図4に示すように、ベース611とベース611に螺合させたカバー614とによってその中にロッド612を軸方向に移動可能に支持し、カバー
614内に設けたコイルバネ613によってロッド612を常時押出す方向に押し付けるように構成されている。プッシャ61のロッド612の先端は通常押出された状態になっており、スプロケット6の回転に伴って等長リンク装置31のリンク軸35及びリンクチェン36のピン37が順次スプロケット6に噛み込まれた際に、ピン37にロッド612の先端が当り、さらにスプロケット6の回転によってピン37によってロッド612が押し込まれる。さらにスプロケット6が回転すると、等長リンク装置31のリンク軸35及びリンクチェン36のピン37が順次スプロケット6から外れる。その際に、ピン37がロッド612の先端から外れる方向に動くが、ロッド612はコイルバネ613の力によってピン37を押し続ける。これにより、ピン37は等長リンク装置31のピッチが小さくなる際にリンクの内側に押し込まれることとなる。
【0024】
なお、等長リンク装置31は、この場合、図4に示す構成になっている。すなわち、一対になっているガイドレール4,5のうち、シート状物1に近い方のシート側ガイドレール4にはシート状物1を把持する掴み装置2が連結されたリンク軸34が配置され、他方の反シート側ガイドレール5には掴み装置2を有さないリンク軸35が配置される。リンク軸34,35はリンクプレート32,33により連結される。リンク軸34(又は35)の最下端にはリンク軸に対し回動可能な軸受ホルダ38が設けられ、軸受ホルダ38の外側には一対の鍔付ローラ39を具備する。一対の鍔付ローラ39はリンク装置の動きを規制するガイドレール4及び5をそれぞれに挟み、ガイドレール4,5の両側面を転動,走行し、ガイドレール4,5の上面に鍔付ローラ39の鍔が当接することでリンク装置の自重を保持する。
【0025】
以上、本発明によれば、スプロケットにプッシャを取り付けるという簡単な構成により、等長リンク装置のピッチが縮小される入口側スプロケット部において、リンクチェンの逆折れを防止する従来のようなピッチ収縮助勢装置を新たに設けることなく、確実にリンクチェンの逆折れを防止することができる。これにより、無端リンク装置を高速で駆動しても等長リンク装置のピッチ縮小区間でのリンクチェンの逆折れによるトラブルを防止することができ、生産性を上げることができる。
【実施例2】
【0026】
図5は本発明のシート状物の延伸機のその他の実施例を示すもので、スプロケットに取り付けるプッシャの他の例を示す断面図である。本図は図4に示されたスプロケット6及びプッシャ61の代わりに、スプロケットを板厚方向に2枚に分割し、歯底部にロッド
616及びコイルバネ615を組み込む空間を設け、ロッド616及びコイルバネ615をスプロケット6a及び6bで挟み込んで支持する構成とした。ロッド616にはプッシャ61に用いたロッド612と同様の鍔部が形成されており、一端がコイルバネ615と当接し、他端がロッド616の抜け止めのストッパの役目をする。これにより、リンクチェン押出し手段をさらにコンパクト化でき、従来のスプロケットと交換するだけで簡単に本発明の目的を達成できる。
【0027】
なお、これら本発明の実施例では、プッシャを押出す動力源としてコイルバネを用いたが、これに限られるものではない。例えば、弾性容器内に加圧気体を入れたもの、皿バネを重ねたもの、板バネ等種々の弾性体を利用することができる。
【産業上の利用可能性】
【0028】
回転体から離れる際に、逆方向に動作の可能性のある機構を有する装置に適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明の一実施例であるシート状物の延伸機を示す同時二軸延伸機の平面図である。
【図2】図1における入口側スプロケット部の詳細を示す平面図である。
【図3】図2におけるA部の詳細を示す部分平面図である。
【図4】図2におけるA部をB−Bから見た縦断面図である。
【図5】本発明の他の実施例を示すスプロケットの縦断面図である。
【符号の説明】
【0030】
1…シート状物、2…掴み装置、3…無端リンク装置、4,5…ガイドレール、6,
6a,6b,7,8…スプロケット、31…等長リンク装置、32,33…リンクプレート、34,35…リンク軸、36…リンクチェン、37…ピン、38…軸受ホルダ、39…鍔付ローラ、61…プッシャ、611…ベース、612,616…ロッド、613,
615…コイルバネ、614…カバー。



【特許請求の範囲】
【請求項1】
折尺状に形成された複数個の等長リンク装置と該等長リンク装置に取り付けられリンク開き量を制限するリンクチェンとから成る無端リンク装置と、前記無端リンク装置を駆動する複数のスプロケットとを具備するシート状物の延伸機において、前記複数のスプロケットのうち前記等長リンク装置のリンクピッチを縮小させるスプロケットに該スプロケットから前記リンクチェンが離れる際に該リンクチェンを押し出す押出し手段を設けたことを特徴とするシート状物の延伸機。
【請求項2】
シート状物の端部を把持する複数の掴み装置を前記シート状物の両側端に具備した無端リンク装置を設け、該無端リンク装置は、折尺状に形成された複数個の等長リンク装置及び該等長リンク装置に設けられたリンク開き量を制限するリンクチェンから成り、入口側及び出口側のスプロケット部により駆動され、前記入口側スプロケット部から送り出され進行方向に末広がり状に配置された案内用ガイドレールに案内されてシート状物を延伸させた後にシート状物を外し、前記出口側スプロケット部を介して前記入口側スプロケット部に戻るように構成されたシート状物の延伸機において、
前記入口側のスプロケット部が前記出口側のスプロケット部から送られてくる無端リンク装置のリンクピッチを縮小する区間を有し該区間の開始部と出口部のそれぞれに設けたスプロケットから成り、前記リンクピッチ縮小区間開始部のスプロケットを偶数の歯数とし、該スプロケットの一歯飛ばしの位置で歯底部に前記リンクチェンの押出し手段を設けたことを特徴とするシート状物の延伸機。
【請求項3】
請求項2において、前記リンクチェンの押出し手段に圧縮コイルバネを用いたシート状物の延伸機。
【請求項4】
請求項2において、前記リンクピッチ縮小区間開始部のスプロケットが二枚の合せ構造であり、該スプロケットの合せ面の間に前記リンクチェン押出し手段を組み込んだシート状物の延伸機。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−205409(P2006−205409A)
【公開日】平成18年8月10日(2006.8.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−17591(P2005−17591)
【出願日】平成17年1月26日(2005.1.26)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【出願人】(390010973)日立笠戸メカニクス株式会社 (20)
【Fターム(参考)】