説明

シート状物の製造方法

【課題】極細繊維を発生可能な複合繊維をアルカリ溶液により極細化処理を行うにあたり、不織布表面の複合繊維が極細化されずに残留することがないシート状物の製造方法を提供する。
【解決手段】極細繊維が発生可能な複合繊維を用いて製造した不織布に粘度の異なるアルカリ溶液を複数回付与して熱処理し、複合繊維の極細化処理を行う工程を含むことを特徴とするシート状物の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維からなるシート状物の製造方法に関し、特に、皮革様シートに有用な極細繊維からなるシート状物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
主として極細繊維とポリウレタンからなる皮革様シート状物は、天然皮革のような優れた外観を有し、取り扱いも容易なことから、昨今では衣料素材やカーシート、資材用途など多岐に渡って用いられている。皮革様シート状物の製造においては、これまで、海島繊維などの複合繊維から一方の成分を溶出させて極細繊維を発生させる過程やポリウレタンの溶剤として有機溶剤を使用することが一般的であった。しかしながら、環境負荷低減や健康が重視されつつあることから、近年では有機溶剤の使用量を削減するために様々な検討がなされている。
【0003】
極細繊維を発生させる過程での有機溶剤削減としては、複合繊維の一方の成分をアルカリ溶液で分解できるものとし、水系で行う方法が検討されている(例えば、特許文献1および特許文献2参照)。しかしながら、この方法では、ポリウレタンの溶剤として有機溶剤を使用しており、完全に有機溶剤を削減できるものではなかった。
【0004】
また、布帛表層を糊剤を含むアルカリ溶液で処理して表層の極細繊維を発生させ、次いで通常のアルカリ処理を行うことで布帛全体の極細繊維を発生させることで、しなやかな風合いを付与する検討も行われている(例えば、特許文献3参照)。この方法は、風合いの改善を行えるものではあったが、有機溶剤を不要にするものではなかった。
【0005】
一方、ポリウレタンを水に分散させた水系エマルジョンを用いることにより、有機溶剤を全く使用しない皮革様シート状物を製造する方法が提案がなされている(例えば、特許文献4参照)。この方法では、有機溶剤をなくせるものの、十分な耐久性を付与するためには、多量のポリウレタンを付与する必要があった。
【0006】
また、有機溶剤を使用しないだけでなく、極細繊維を水流交絡によって絡合させることで、ポリウレタンの使用量自体を減らす方法も提案されている(例えば、特許文献5参照)。しかしながら、この提案では複合繊維が水に対する濡れ性が低い場合には、不織布表面にアルカリ溶液が保持されにくくなるものであった。そして、複合繊維の状態で不織布表面に多量に残った場合には、高速流体処理で繊維が絡みにくくなるため、得られる皮革様シート状物の立毛の密度が荒くなり、品位に劣ったものになりやすいという課題が残されていた。
【特許文献1】特開平03−294585号公報
【特許文献2】特開平06−280152号公報
【特許文献3】特開平10−1845号公報
【特許文献4】特開2003−96676号公報
【特許文献5】特開2007−224481号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、極細繊維を発生可能な複合繊維をアルカリ溶液により極細化処理を行うにあたり、不織布表面の複合繊維が極細化されずに残留することがないシート状物の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、前記課題を解決するために、以下の構成を有する。すなわち、
1.極細繊維が発生可能な複合繊維を用いて製造した不織布に、粘度の異なるアルカリ溶液を複数回付与して熱処理することにより複合繊維の極細化処理を行う工程を含むことを特徴とするシート状物の製造方法。
2.極細繊維の単繊維繊度が0.0001〜0.5デシテックス、極細繊維が発生可能な複合繊維の単繊維繊度が1〜10デシテックスであることを特徴とする前記1に記載のシート状物の製造方法。
3.不織布にアルカリ溶液Aを含浸した後、不織布の表面にアルカリ溶液Aよりも高粘度のアルカリ溶液Bを塗布することを特徴とする前記1または2に記載のシート状物の製造方法。
4.不織布にアルカリ溶液Aを含浸し熱処理した後、不織布表面にアルカリ溶液Aよりも高粘度のアルカリ溶液Bを塗布して再度熱処理を行うことを特徴とする前記1〜3のいずれかに記載のシート状物の製造方法。
5.不織布にアルカリ溶液Aを含浸し、引き続き、不織布表面にアルカリ溶液Aよりも高粘度のアルカリ溶液Bを塗布して熱処理を行うことを特徴とする前記1〜3のいずれかに記載のシート状物の製造方法。
6.熱処理が、スチーム雰囲気下における加熱処理であることを特徴とする前記1〜5のいずれかに記載のシート状物の製造方法。
7.織物または編物を一体化した不織布を用いることを特徴とする前記1〜6のいずれかに記載のシート状物の製造方法。
8.極細化処理した不織布を高速流体処理することを特徴とする前記1〜7のいずれかに記載のシート状物の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、極細繊維を発生可能な複合繊維からなる不織布のアルカリ溶液による極細化処理後に、不織布表面の複合繊維が極細化されずに残留することがなく、極細化斑のないシート状物の製造方法を提供することが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明は、繊維からなる不織布、特に、極細繊維からなる不織布によるシート状物を製造する方法に関し、かかるシート状物は皮革様シートとして有用である。かかる不織布を構成する極細繊維の平均単繊維繊度としては、0.0001〜0.5デシテックスが好ましい。染色時の発色性や不織布の強度の点で平均単繊維繊度が0.0001デシテックス以上であることが好ましい。また、平均単繊維繊度が0.5デシテックス以下であることにより、皮革様の高級感のある外観が得られるため好ましい。なお、平均単繊維繊度が0.0001〜0.5デシテックスである場合でも、本発明の効果が損なわれない範囲で、平均単繊維繊度が0.0001デシテックス未満の繊維もしくは平均単繊維繊度が0.5デシテックスを越える繊維が含まれていてもよい。平均単繊維繊度が0.0001デシテックス未満の繊維および/または平均単繊維繊度が0.5デシテックスを越える繊維の含有量は、数にして、当該不織布繊維の30重量%以下が好ましく、10重量%以下がより好ましく、全く含まれないことがもっとも好ましい。
【0011】
本発明でいう平均単繊維繊度は、繊維断面を100個無作為に選んで断面積を測定した後、100個の繊維断面積の数平均を求め、繊維の比重から繊度を計算により求めた値を用いる。なお、繊維の比重は、JIS L 1015 8.14.2(1999)に従って求めた値を用いる。
【0012】
極細繊維を構成する成分としては、例えば、ポリエステル、ポリアミド、ポリプロピレン、ポリエチレンなどからなるポリマーが好ましく用いられる。ポリエステルとしては、繊維化が可能なものであればよく、特に限定されるものではない。具体的には、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリテトラメチレンテレフタレート、ポリシクロヘキシレンジメチレンテレフタレート、ポリエチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレ−ト、ポリエチレン−1,2−ビス(2−クロロフェノキシ)エタン−4,4’−ジカルボキシレート、ポリ乳酸などが挙げられる。中でも最も汎用的に用いられているポリエチレンテレフタレートまたは主としてエチレンテレフタレート単位を含むポリエステル共重合体が好適に使用される。
【0013】
また、ポリアミドとしては、たとえばナイロン6、ナイロン66、ナイロン610、ナイロン12、などのアミド結合を有するポリマーを挙げることができる。
【0014】
また、極細繊維が発生可能な複合繊維としては、海島型繊維、分割型繊維など特に限定されるものではないが、複合繊維をアルカリ溶液で処理することにより、極細繊維以外の成分を除去可能なことが重要である。除去可能な成分としては、極細繊維を構成する成分に比べ、80℃以上の熱水やアルカリ溶液に対し、溶解性、分解性の高い化学的性質を有することが好ましい。例えば、特開昭61-29120号公報、特開昭63−165516号公報、特開昭63−159520号公報、特開平1−272820号公報などに記載されている熱水可溶性ポリエステルなどの熱水可溶性ポリマーや、5−ナトリウムスルホイソフタル酸、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ビスフェノールA化合物、イソフタル酸、アジピン酸、ドデカジオン酸、シクロヘキシルカルボン酸などを共重合したポリエステル、ポリ乳酸、熱水溶性ポリビニルアルコールなどを用いることができるが、紡糸性に優れる点で5−ナトリウムスルホイソフタル酸を有する共重合ポリエステルが好ましい。5−ナトリウムスルホイソフタル酸の共重合比率としては、処理速度、安定性の点から全酸性分に対し5モル%以上が好ましく、より好ましくは8モル%以上である。5モル%以上とすることで、例えば、残存成分としてポリエチレンテレフタレートを選択した場合、アルカリ水溶液による加水分解を行ったときの除去成分と残存成分との分解速度差により、選択的に除去成分を分解することができる。また重合、紡糸、延伸のしやすさから20モル%以下が好ましく、より好ましくは15モル%以下である。また、5−ナトリウムスルホイソフタル酸に加え、イソフタル酸を共重合させ、共重合ポリエステルを熱水可溶性とすることも好ましい態様である。例えば、5−ナトリウムスルホイソフタル酸を8〜15モル%、好ましくは10〜12.5モル%とし、さらに、イソフタル酸を共重合することで、熱水可溶性とすることができ、イソフタル酸を5〜40%共重合させると、重合反応速度や乾燥性、熱水可溶性に優れるものが得られるため好ましい。本発明において好ましい組み合わせとしては、残存成分にポリエチレンテレフタレート、除去成分に5-ナトリウムスルホイソフタル酸の共重合比が5〜20%の共重合ポリエステルを用いることである。
【0015】
なお、上記、除去成分、残存成分を構成するポリマーには、隠蔽性を向上させるためにポリマー中に酸化チタン粒子などの無機粒子を添加してもよいし、その他、潤滑剤、顔料、熱安定剤、紫外線吸収剤、導電剤、蓄熱材、抗菌剤など、種々目的に応じて添加することもできる。
【0016】
除去成分の繊維全体に対する重量比は、繊維が複合繊維の場合、複合繊維に対し除去成分が1〜70重量%であることが好ましい。3重量%以上であることが好ましく、20重量%以上であることがさらに好ましい。1重量%以上とすることで、極細繊維となる残存成分同士の合流を防止し、紡糸安定性が向上する。また、60重量%以下がより好ましく、35重量%以下がさらに好ましい。70重量%以下とすることで、除去成分の使用量を抑えることになるためコスト的に好ましい。また35重量%以下とすると、長さ方向の伸長が抑制できる点で好ましい。
【0017】
さらに繊維の紡糸方法に関して述べると、通常2500m/分以下の紡糸速度で紡糸した未延伸糸を引き取った後、湿熱もしくは乾熱またはその両者の状態にて、1〜3段延伸することによって延伸糸を得て製造することができる。液浴延伸により繊維同士の膠着が発生する場合は、例えば多段延伸法を採用することができる。
【0018】
極細化処理前の複合繊維の単繊維繊度は、1〜10デシテックスとすることが好ましく、2〜8デシテックスであることがより好ましく、2〜6デシテックスであることがさらに好ましい。
【0019】
このようにして得られる複合繊維を、捲縮付与、カットを行い短繊維とした後、カードやクロスラッパー、ランダムウエバーを用いて作製したウェブをニードルパンチ法、ウォータージェットパンチ法などにより不織布にする方法、短繊維を水溶性樹脂などを含む水中で叩解し、0.0001〜0.1%程度の濃度で分散させた分散液を金網などに抄造する方法、または紡出糸を高速気流で牽引細化冷却し、ネット上に補修するスパンボンド法などにより不織布を製造する。
【0020】
不織布を構成する複合繊維は、長繊維であっても短繊維であっても良いが、外観やタテ方向とヨコ方向の強力のバランスに優れたシート状物を得られる点で短繊維不織布であることが好ましい。具体的には、生産性や風合いを考慮して繊維長が10cm以下、好ましくは7cm以下の短繊維を含む不織布であることが好ましい。また、耐久性の点で、繊維長の下限値としては、0.1cm以上とすることが好ましい。
【0021】
さらに、短繊維不織布の中でも摩擦への耐久性に優れたシート状物が得られる点で、ニードルパンチ不織布を用いることがより好ましい。
【0022】
このような不織布の目付は、アルカリ溶液を含浸する際、浸透速度の低下と浸透斑を抑制できる点で、80〜800g/mであることが好ましく、80〜600g/mであることがより好ましく、80〜400g/mであることがさらに好ましい。また、不織布の見掛け密度は、同様の理由で、0.400g/cm以下であることが好ましく、より好ましくは0.350g/cm以下、さらに好ましくは0.300g/cm以下である。見掛け密度の下限は、特に限定されるものではないが、工程通過性の点で0.150g/cm以上であることが好ましい。
【0023】
本発明では、上述の不織布に粘度の異なるアルカリ溶液を複数回付与して熱処理し、複合繊維の極細化処理を行う。アルカリ溶液としては、コストの点で水酸化ナトリウム水溶液や水酸化カリウム水溶液を用いることが好ましい。また、本発明では、上記複合繊維からなる不織布の極細化処理を行う際に、不織布への浸透速度が速い、低粘度であるアルカリ溶液と、不織布の内部に浸透しにくい高粘度のアルカリ溶液といった、粘度の異なるアルカリ溶液を複数回付与する。
【0024】
これにより、不織布表面の毛羽状になった繊維や撥水性の高い不織布であっても、アルカリ溶液を均一に保持させることができ、不織布表面に脱海斑を生じさせず、複合繊維を極細化処理することが可能となる。アルカリ溶液の粘度を調整するには、複合繊維中の極細繊維以外の成分の分解または溶解を阻害せず、極細化処理後には水や熱水などで容易に除去できる増粘剤を使用することが好ましく、澱粉、アルギン酸ナトリウム、ポリアクリル酸ナトリウム、ポリビニルアルコールなどの糊剤を用いることができる。
【0025】
不織布へのアルカリ溶液の付与は、極細繊維が過剰に分解されることや、不織布内部へのアルカリ溶液の浸透性を低下させないため、まず、増粘剤を添加していないアルカリ溶液Aを不織布に付与し、不織布全体に液を浸透させる。必要に応じて、不織布へのアルカリ溶液Aの浸透性を向上させるため、界面活性剤などを添加してもよい。次いで、アルカリ溶液が不織布表面に留まるように、増粘剤を添加にして粘度を高めたアルカリ溶液Bを付与することが好ましい。アルカリ溶液Aおよびアルカリ溶液Bのアルカリ濃度は特に限定されるものではなく、複合繊維中の極細繊維以外の成分を分解できる濃度で適宜調整すればよく、通常は固形分で1〜20%含まれる濃度とすることができる。
【0026】
本発明で好ましく用いることができるアルカリ液Aの粘度は、不織布への浸透性の点で3ポアズ以下であることが好ましく、2ポアズ以下であることがよりに好ましく、1ポアズ以下であることがさらに好ましい。また、アルカリ液Aの粘度の下限値は特に限定されるものではないが、コストの点で水酸化ナトリウムなどの溶媒として水を用いることが好ましく、通常、摂氏25における水の粘度である0.0089ポアズ以上として使用する。
【0027】
アルカリ溶液Bを増粘剤により粘度調整する際は、内部まで浸透させず不織布表面に留まらせるため、粘度を150ポアズ以上に調整することが好ましく、300ポアズ以上であることがより好ましく、450ポアズ以上であることがさらに好ましい。また、粘度の上限は特に限定されるものではないが、取り扱い性の点で1500ポアズ以下に調整することが好ましい。
【0028】
本発明のアルカリ溶液Aの含浸方法としては、不織布をアルカリ溶液Aの浴中を通過させ、マングルで絞ることでアルカリ溶液を不織布全体に付与することが好ましい。また、アルカリ溶液Bの塗布方法としては、アルカリ溶液Aと同様に浴中を通過させ、マングルで絞ることで付与することができるが、ナイフコーター、グラビアコーター、リバースロールコーターなどのコーターにより、不織布表面にアルカリ液Bをコートする方法は、不織布表面のみに効率よくアルカリ液を保持させることができるため好ましい。
【0029】
不織布にアルカリ液を付与した後、熱処理することで複合繊維の極細化処理を行う。極細化処理の方法としては、まず、不織布への浸透性が高いアルカリ溶液Aを含浸して熱処理を行うことで、不織布全体の極細化処理を行う。アルカリ溶液Bを先に付与した場合は、溶液の粘度が高く、不織布への浸透性が低いため、不織布に均一に液を付与し難く、部分的に極細化していない箇所ができやすいため、アルカリ溶液Aを先に付与し、熱処理することが好ましい。アルカリ溶液Aを含浸、熱処理した後は、水洗・乾燥を行う。アルカリ溶液Aで処理した後、引き続きアルカリBを塗布して熱処理を行うことが好ましい。アルカリ溶液Bは粘度が高いため不織布内部に浸透しにくいため、不織布表面に残留している複合繊維の極細化処理を効率よく行うことができる。このように、アルカリ溶液AとBを用いて処理することにより、本発明の目的とする不織布表面に複合繊維が残留していないシート状物を得ることができる。
【0030】
なお、本発明の複合繊維不織布の極細化処理においては、アルカリ溶液Aを含浸して熱処理した不織布にアルカリ溶液Bを付与するよりも、複合繊維不織布にアルカリ溶液Aを含浸した後、続けてアルカリ溶液Bを不織布にコーティングして熱処理することは工程を簡略化できるため好ましい。
【0031】
アルカリ溶液A,B付与後の加熱方法は特に限定されるものではないが、例えば、熱風による乾熱処理やスチーム雰囲気下での処理、また、スチーム雰囲気下での熱処理とマイクロ波による処理の組合せなどを挙げることができる。加熱方法の中でも、スチーム雰囲気下で熱処理することは、不織布全体を均一に加熱することができ、不織布表面の乾燥によるアルカリ溶液のマイグレーションを抑制できる点で好ましい。スチーム雰囲気の温度としては、70〜110℃であることが好ましく、80〜110℃であることがより好ましく、90〜110℃であることがさらに好ましい。また、熱風により熱処理を行う場合は、コンベア状のネットに乗せ、80〜180℃で熱処理する方法で熱処理することができる。
【0032】
また、本発明において、不織布を作製する際に織編物を挿入し、織編物が不離一体化した不織布を用いることは、複合繊維の極細化処理による強力低下を抑制し、工程張力によるタテ方向の伸びを減少することができ、工程管理が容易となるため好ましい。ここでいう織編物とは、織物または編物のいずれかのことである。織物の組織は特に限定されるものではなく、平織、綾織、朱子織などが挙げられる。編物の組織も特に限定されるものではなく、経編、緯編などが挙げられる。
【0033】
織編物を構成する繊維としては、特に限定されるものではなく、公知の方法により得られる、ポリエステル系繊維やポリアミド繊維などを用いることができる。また、2種類以上のポリエステル系重合体がサイドバイサイド型または偏心芯鞘型に接合された複合繊維からなる織編物を用いることは、皮革様シート状物に優れたストレッチ性とドレープ性を付与できるため好ましい。織物に前記サイドバイサイド型または偏心芯鞘型に接合された複合繊維をタテ糸またはヨコ糸のどちらか一方に使用し、他方には通常の繊維を使用するなども好ましい態様である。ここでいうポリエステル系重合体とは、例えばポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリトリメチレンテレフタレート(PTT)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)などのポリマーである。また、二以上のポリエステルとは、物理的および/または化学的性質を異にする2種以上のポリエステルを用いることを意味する。すなわち、二種以上のポリエステルがサイドバイサイド型または偏心芯鞘型に接合されたとは、物理的および/または化学的性質を異にする2種以上のポリエステルが、繊維長さ方向に沿ってサイドバイサイド型または偏心芯鞘型に接合されていることを意味する。これにより、物理的または化学的要因によって、複合繊維に捲縮を発現させることができる。捲縮発現が容易である点で、熱収縮性の異なるポリエステルを2種以上使用することが好ましい。これにより、前記複合繊維に熱処理して収縮させることにより、容易に捲縮を発現させることができる。複合繊維に捲縮を発現させることにより、ドレープ性と伸長率に優れる皮革様シート状物が得られる。熱収縮性の異なるポリエステルとしては、例えば、ポリマーの重合度が異なるもの、異なるポリマーをブレンドしたものなどが挙げられる。本発明においては、特にドレープ性と伸長率に優れる皮革様シート状物が得られる点で、極限粘度が0.35〜0.55の低粘度ポリエステルと極限粘度が0.65〜0.85の高粘度ポリエステルとが複合された複合繊維が好ましい。この場合、一般に高粘度ポリエステルの方が、低粘度ポリエステルよりも、熱収縮性が高くなる。低粘度ポリエステルの極限粘度が0.35未満であると紡糸安定性が低下するため好ましくない。また低粘度ポリエステルの極限粘度が0.55を超えると、皮革様シート状物の反発感が低下するため好ましくない。また高粘度ポリエステルの極限粘度が0.85を超えると紡糸安定性が低下するため好ましくない。高粘度ポリエステルの極限粘度が0.65未満であると、熱収縮性が近くなるため、複合繊維の捲縮が発現が弱く皮革様シート状物の伸長率が低下するため好ましくない。ドレープ性と伸長率に優れる皮革様シート状物を得るために、低粘度ポリエステルと高粘度ポリエステルの極限粘度差は、0.20〜0.40の範囲が好ましい。なお、極限粘度[η]は、温度25℃においてオルソクロロフェノール溶液として測定した値を用いた。
【0034】
また、2種以上のポリエステル系重合体の複合比率は、製糸性および捲縮を発現させた際の繊維長さ方向のコイルの寸法均質性の点で、高収縮成分:低収縮成分=75:25〜35:65(重量%)の範囲が好ましく、65:35〜45:55の範囲がより好ましい。
複合形態としては、サイドバイサイド型および偏心芯鞘型のいずれでもよいが、ストレッチ性とドレープ性の他に反発感に優れる皮革様シート状物が得られる点でサイドバイサイド型が好ましい。
【0035】
なお、このような複合繊維に撚りをかけずに使用した場合は、期待するストレッチ性やドレープ性が得られないため、撚りをかけた糸を用いることが好ましい。その際の撚係数Kは、7000〜20000であることが好ましく、9000〜17000であることがより好ましい。撚係数Kが7000未満では、複合繊維が収縮した際の捲縮発現が弱く、ストレッチ性が低下するため好ましくない。また、20000を超えると捲縮発現が抑制され、ストレッチ性の低下と、織編物の柔軟性が低下するためドレープ性も低下してしまうため好ましくない。
【0036】
ここで、撚係数Kは、
撚係数K=T×D1/2
ただし、T:糸長1mあたりの撚り数、D:トータル繊度(デシテックス)
で表されるものである。
【0037】
また、ニードルパンチ法により極細繊維を発生可能な短繊維と織編物を一体化させる製造工程を含む際は、撚係数Kが7000未満では、ニードルのバーブに引っかかり、単糸切れや損傷が発生しやすく、撚係数が20000を超えると、単糸切れや損傷を抑制できるものの、織編物の剛性が高くなり、得られる皮革様シート状物の柔軟性が低下するため好ましくない。
【0038】
織編物の目付としては、40〜170g/mであることが好ましく、50〜150g/mであることがより好ましく、60〜120g/mであることがさらに好ましい。目付が40g/m未満であると、ニードルパンチで不織布と織編物を一体化することによる伸び抑制効果が低下する傾向にあるため好ましくない。
【0039】
上述の方法で得られた極細繊維不織布は、高速流体処理により極細繊維同士を絡合させることが好ましい。極細繊維同士を絡合させることにより、緻密な表面感が得られ、強力や摩擦に対する耐久性などの物性が著しく向上するため、人工皮革の基布として用いた場合には繊維のバインダーとして用いるポリウレタンの使用量を減らすことができ、環境負荷の小さい人工皮革を得ることができる。高速流体処理方法としては、作業環境の点でウォータージェットパンチ装置を用いることが好ましい。
【0040】
ウォータージェットパンチ処理により、効率的な絡合および良好な表面品位の不織布を得るために、ノズルの直径は0.06〜0.15mm、間隔は5mm以下であることが好ましく、直径0.08〜0.14mm、間隔は1mm以下がより好ましい。ノズルの直径が0.15mmを超えると不織布の表面平滑性も低下するため好ましくない。ノズル直径は小さい方が好ましいが、0.06mm未満となるとノズル詰まりが発生しやすくなるため、水を高度に濾過する必要が生じ、製造コストが高くなり好ましくない。また、ノズル間隔が5mmを超えると、不織布に発生する筋が目立ちやすくなるため好ましくない。一方、ノズルの間隔が0.1mm以下の場合は隣り合うノズルから吐出される水流の干渉により、不織布表面に皺状の欠点ができやすくなるため好ましくない。良好な表面品位の不織布を得るために、ノズル間隔は0.2〜3mmとすることが好ましく、0.3〜1mmとすることがより好ましく、0.4〜0.8mmとすることがさらに好ましい。
【0041】
なお、厚さ方向に均一な交絡を達成する目的または不織布表面の平滑性を向上させる目的で、高速流体処理を複数回繰り返して行うことが好ましい。
【0042】
高速流体処理の流体の圧力は、処理する不織布の目付によって適宜決定すればよいが、高目付のものほど高圧力とすることが好ましい。さらに、極細繊維同士を高度に絡合させ、目的の引張強力、引裂強力、耐摩耗性などの物性を得るため、少なくとも1回は10MPa以上の圧力で処理することが好ましい。圧力は、15MPa以上であることがより好ましく、20MPa以上であることがさらに好ましい。また圧力が上昇するほどコストが高くなり、低目付不織布の場合は不織布が不均一になりやすく、繊維の切断により毛羽が発生する場合もあるため、好ましくは60MPa以下であり、より好ましくは50MPa以下である。
【0043】
なお、ここでいう1回の処理とは、複数のノズル孔を有するノズルプレートを含む1ノズルヘッド(1インジェクター)で1回処理することを意味する。連続的に複数のノズルヘッドで処理した場合は、その複数ノズルヘッド数の回数を処理したものとする。
【0044】
このようにして得られた不織布は、好適には皮革様シートとして用いることができる。皮革様シートとする場合には、適宜、染色、起毛、高分子弾性体や柔軟剤、各種堅牢度向上剤などの付与、などを行うことが好ましい。
【実施例】
【0045】
以下、実施例により、本発明をさらに具体的に説明する。ここで、部は重量部を意味する。なお、実施例中の物性値は以下に述べる方法で測定した。
【0046】
(1)繊維目付、繊維見掛け密度
繊維目付はJIS L 1096 8.4.2(1999)に記載された方法で測定した。また、厚みはダイヤルシックネスゲージ((株)尾崎製作所製、商品名“ピーコックH”)を用い、各サンプル10点測定した平均値とし、目付の値を厚みの値で割って繊維見掛け密度を求めた。
【0047】
(2)粘度
アルカリ溶液の粘度は、B型粘度計(東機産業(株)製、RB−80L)を用い、温度25℃、湿度60%の条件下において、JIS Z 8803 8(1991)に準じて測定した。
【0048】
(3)複合繊維の残留
複合繊維不織布をアルカリ溶液で処理した後の複合繊維の残留確認は、処理後の不織布において一辺3mmの正方形の観察区域を20箇所以上ランダムに選び、各観察区域の表面をSEMにより150〜500倍で観察した際に、完全に極細処理化されずにポリマーによって被覆されている部分が平均で3箇所以上確認できる場合、不織布中に複合繊維が残留しているものとした。なお、この平均値は確認できた全観察区域での被覆された部分の総数を観察区域数で除した算術平均値である。
【0049】
参考例1(アルカリ溶液の調整)
パディング浴に水酸化ナトリウムを固形分で130g/L、“ネオレートNA−30”(日華化学(株)製)を5g/L含む溶液となるように水で調整した。このアルカリ溶液の粘度は0.058ポアズであった。
【0050】
参考例2
水酸化ナトリウムを固形分で130g/L、“ニッカガム3A”(日華化学(株)製)を6g/L含む溶液となるように水で調整した。このアルカリ溶液の粘度は400ポアズであった。
[実施例1]
海成分として5−ナトリウムスルホイソフタル酸を全酸成分に対し8モル%含む共重合ポリエステル30部、島成分としてポリエチレンテレフタレート70部からなる平均単繊維繊度2.3デシテックス、36島、平均繊維長51mmの海島型複合短繊維をカード機及びクロスラッパーに通して目付が260g/mの短繊維ウェブを作製した。得られた短繊維ウェブを1バーブ型のニードルパンチ機を用いて、3000本/cmの打ち込み密度でニードルパンチ処理し、目付を280g/m、厚み1.3mm、繊維見掛け密度0.220g/cmの複合繊維不織布とした。次に、これを98℃の熱水に2分間浸漬して収縮させた後、100℃にて乾燥して水分を除去し、複合繊維不織布を得た。
この複合繊維不織布に、参考例1で調整したアルカリ溶液を用いて、ピックアップ率が110%となるようにパディングした。次いで、リバースコーターで、参考例2で調整したアルカリ溶液を用いて両面に0.15mmの厚さに均一に付着させた。
その後、スチームを吹き込んで105℃としたボックス内で5分間、加熱処理した。次いで、水洗・乾燥を行い、極細繊維不織布を得た。この不織布の表面をSEMで観察したところ、複合繊維は0.04デシテックスの繊維に極細化されており、海成分の残留は確認できなかった。
[実施例2]
極限粘度が0.66のPET成分を紡糸および延伸し、56デシテックス48フィラメントの繊維を得た。これをS撚りで2400T/m(撚係数17960)で撚りをかけ、75℃でスチームセットを行った。同様に、Z撚りで2400T/m(撚係数17960)で撚りをかけ、75℃でスチームセットを行った糸を作製した。タテ糸に、S撚りの糸とZ撚りの糸を交互に配し、ヨコ糸にS撚りの糸を用い、織組織を平織とし、93×64本/2.54cmの織密度で織物を作製し、60g/mの織物を製造した。さらに、海成分として5−ナトリウムスルホイソフタル酸を全酸成分に対し8モル%含む共重合ポリエステル43部、島成分としてポリエチレンテレフタレート57部からなる平均単繊維繊度4.3デシテックス、16島、平均繊維長51mmの海島型複合短繊維を、カード機及びクロスラッパーに通して目付が260g/mの短繊維ウェブを作製した。この短繊維ウェブの片面に織物を重ね、1バーブ型のニードルパンチ機を用いて、3000本/cmの打ち込み密度でニードルパンチ処理し、目付を355g/m、厚み1.3mm、繊維見掛け密度0.267g/cmとした。次に、これを98℃の熱水に2分間浸漬して収縮させた後、100℃にて乾燥して水分を除去し、複合繊維不織布を得た。
この複合繊維不織布に、参考例1で調整したアルカリ溶液を用いて、ピックアップ率が100%となるようにパディングした。次いで、リバースコーターで、参考例2で調整したアルカリ溶液を用いて両面に0.15mmの厚さに均一に付着させた。
その後、スチームを吹き込んで105℃としたボックス内で5分間、加熱処理した。次いで、水洗・乾燥を行い、極細繊維と織物が一体化された不織布を得た。この不織布の表面をSEMで観察したところ、0.15デシテックスの繊維に極細化されており、海成分の残留は確認できなかった。
[実施例3]
実施例2で得られた、極細繊維と織物が一体化された不織布をネットコンベア上で、0.12mmの直径で、0.6mm間隔のノズルプレートが挿入されたノズルヘッドを有するウォータージェットパンチ機にて、極細繊維不織布の面を17MPaの圧力で3回処理し、ついで、0.08mmの直径で、0.4mm間隔のノズルプレートが挿入されたノズルヘッドを有するウォータージェットパンチ機にて、不織布の面から同様に3回処理した。これを100℃にて乾燥して水分を除去し、次いで、株式会社菊川鉄工所製のワイドベルトサンダを用い、粒度が#180のサンドペーパーにてバフィングした後、水系ウレタン樹脂(“エバファノール AP12” 日華化学株式会社製)とマイグレーション防止剤(“ネオステッカー N”日華化学株式会社製)を含む水溶液に浸漬し、マングルで液を絞った後、130℃で2分間乾燥し、不織布重量の10%のウレタンを付着させた。その後、同サンドペーパーにて再度表面をバフィングを行った。
次いで、液流染色機にて染色し、皮革様シートを得た。得られた皮革様シートは、表面の立毛状態が緻密で高級感のある品位を有していた。
[比較例1]
実施例1の熱水処理後の複合繊維不織布に、参考例1で調整したアルカリ溶液を用いて、ピックアップ率が110%となるようにパディングした。
次いで、スチームを吹き込んで105℃としたボックス内で5分間、加熱処理した後、水洗・乾燥を行い、極細繊維不織布を得た。この不織布の表面をSEMで観察したところ、0.04デシテックスの極細繊維になっている箇所の他に、海成分が残留している箇所が多数見られ、複合繊維の状態で残留しているものであった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
極細繊維が発生可能な複合繊維を用いて製造した不織布に、粘度の異なるアルカリ溶液を複数回付与して熱処理することにより複合繊維の極細化処理を行う工程を含むことを特徴とするシート状物の製造方法。
【請求項2】
極細繊維の単繊維繊度が0.0001〜0.5デシテックス、極細繊維が発生可能な複合繊維の単繊維繊度が1〜10デシテックスであることを特徴とする請求項1に記載のシート状物の製造方法。
【請求項3】
不織布にアルカリ溶液Aを含浸した後、不織布の表面にアルカリ溶液Aよりも高粘度のアルカリ溶液Bを塗布することを特徴とする請求項1または2に記載のシート状物の製造方法。
【請求項4】
不織布にアルカリ溶液Aを含浸し熱処理した後、不織布表面にアルカリ溶液Aよりも高粘度のアルカリ溶液Bを塗布して再度熱処理を行うことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のシート状物の製造方法。
【請求項5】
不織布にアルカリ溶液Aを含浸し、引き続き、不織布表面にアルカリ溶液Aよりも高粘度のアルカリ溶液Bを塗布して熱処理を行うことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のシート状物の製造方法。
【請求項6】
熱処理が、スチーム雰囲気下における加熱処理であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載のシート状物の製造方法。
【請求項7】
織物または編物を一体化した不織布を用いることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載のシート状物の製造方法。
【請求項8】
極細化処理した不織布を高速流体処理することを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載のシート状物の製造方法。

【公開番号】特開2009−221610(P2009−221610A)
【公開日】平成21年10月1日(2009.10.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−63834(P2008−63834)
【出願日】平成20年3月13日(2008.3.13)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】