説明

シート状細胞培養物剥離システム

【課題】
本発明は、ヒト及び動物の疾病、傷病の治療に用いるシート状の細胞培養物を、皺、破れ、破損などを生じることなく、容易に剥離させることができるシステムを提供する。
【解決手段】
シート状細胞培養物を培養容器から剥離するためのシステムであって、シート状細胞培養物を培養する培養容器を収納する収納部、前記シート状細胞培養物に対し1または2以上のノズルにより液体を噴射するノズル部、培養容器におけるシート状細胞培養物の剥離状態を計測するセンサー部、前記センサー部において計測された値に基づき、剥離の均一性を判断する解析部、ならびに前記解析部での判断に基づきノズルの位置および/または液体の噴射量を制御する制御部を含む、前記システム、該システムを用いた剥離方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シート状の細胞培養物を培養容器から剥離するためのシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年の心臓病に対する治療の革新的進歩にかかわらず、重症心不全に対する治療体系は未だ確立されていない。心不全の治療法としては、βブロッカーやACE阻害剤による内科治療が行われるが、これらの治療が奏功しないほど重症化した心不全には、補助人工心臓や心臓移植などの置換型治療、つまり外科治療が行われる。
【0003】
このような外科治療の対象となる重症心不全には、進行した弁膜症や高度の心筋虚血に起因するもの、急性心筋梗塞やその合併症、急性心筋炎、虚血性心筋症(ICM)、拡張型心筋症(DCM)などによる慢性心不全やその急性憎悪など、多種多様の原因がある。
これらの原因と重症度に応じて弁形成術や置換術、冠動脈バイパス術、左室形成術、機械的補助循環などが適用される。
【0004】
この中で、ICMやDCMによる高度の左室機能低下から心不全を来たしたものについては、心臓移植や人工心臓による置換型治療のみが有効な治療法とされてきた。しかしながら、これら重症心不全患者に対する置換型治療は、慢性的なドナー不足、継続的な免疫抑制の必要性、合併症の発症など解決すべき問題が多く、すべての重症心不全に対する普遍的な治療法とは言い難い。
【0005】
このような心臓移植の厳しい状況から、一時期、バチスタ手術などの他の外科治療が試みられるようになり、心臓移植の代替治療として大いに注目されるようになったが、最近ではこれらの手術の限界も次第に明らかにされるようになり、手術法の改良や適応の確立に努力が続けられている。
【0006】
その一方、最近、重症心不全治療の解決策として新しい再生型治療法の展開が不可欠と考えられている。
重症心筋梗塞等においては、心筋細胞が機能不全に陥り、さらに線維芽細胞の増殖、間質の線維化が進行し心不全を呈するようになる。心不全の進行に伴い、心筋細胞は傷害されてアポトーシスに陥るが、心筋細胞は殆ど細胞分裂をおこさないため、心筋細胞数は減少し心機能の低下もさらに進む。
このような重症心不全患者に対する心機能回復には細胞移植法が有用とされ、既に自己骨格筋芽細胞による臨床応用が欧米で開始されている。
【0007】
しかし、実際に細胞移植法により臨床的に心機能を十分に向上させるためには、直接心筋内注入による方法では移植細胞の70〜80%が失われその効果を十分に発揮できない点や、不整脈等の副作用の問題、大量且つ安全な細胞源の確保などの問題点の解決が不可欠であるうえ、細胞注入局所へ炎症を惹起するとともに局所的な細胞移植しか行えないため、例えば拡張型心筋症のように心臓全体の心機能が低下した場合に限界がある。
【0008】
近年、これらの問題に対し、組織工学を応用した温度応答性培養皿を用いることによって、成体の心筋以外の部分に由来する細胞を含む心臓に適用可能な三次元に構成された細胞培養物と、その製造方法が提供された(特許文献1)。
【0009】
このような細胞培養物を、目的とする患部(移植部位)に移植するには、例えば、細胞培養物の端部をピンセット等で摘んで、細胞培養物を包装容器から取り出し、患部まで移送し、その患部に移植(貼付)するといった一連の操作が必要となるが、細胞培養物は、絶対的な物理的強度が低く、皺、破れ、破損などが生じ易いことから、この一連の操作には高度な技術が要求され、かつ細心の注意を払う必要がある。
【0010】
特許文献1に記載の温度応答性培養皿は、培養皿からの細胞培養物の剥離を容易にしたものの、細胞種や由来動物種によっては、剥離工程におけるコンタミネーションや皺、破れ、破損などが課題となっている。
【0011】
一方、細胞を培養容器から剥離する際に、培養容器内の輝度情報を測定し、かかる輝度情報に基づいてその剥離状態を判定する装置も提供された(特許文献2)。このような装置は、細胞培養容器内に、剥離のためにトリプシンを添加し、細胞を剥離させる系において用いられるものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2007−528755号公報
【特許文献2】WO2007/136073
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明の目的は、ヒト及び動物の疾病、傷病の治療に用いるシート状の細胞培養物を、皺、破れ、破損などを生じることなく、容易に剥離させることができるシステムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者は、シート状細胞培養物の剥離の際に、剥離した部分がシートの中心方向に向かって収縮し、不均一に剥離するとシートにかかる応力に差が生じる結果、シートが破れやすくなることを見出し、さらに鋭意研究を進めた結果、本発明を完成させるに至った。
【0015】
すなわち本発明は、シート状細胞培養物を培養容器から剥離するためのシステムであって、シート状細胞培養物を培養する培養容器を収納する収納部、前記シート状細胞培養物に対し1または2以上のノズルにより液体を噴射するノズル部、培養容器におけるシート状細胞培養物の剥離状態を計測するセンサー部、前記センサー部において計測された値に基づき、剥離の均一性を判断する解析部、ならびに前記解析部での判断に基づきノズルの位置および/または液体の噴射量を制御する制御部を含む、前記システムに関する。
【0016】
本発明はまた、ノズルからの液体噴射が、シート状細胞培養物の接着縁に対しなされる、上記のシステムに関する。
本発明はさらに、センサー部が、シート状細胞培養物の中心から任意の接着縁までの接着距離を、2点以上において計測し、解析部が、該接着距離の最大値と最小値との差により、剥離の均一性を判断することを特徴とする、上記のシステムに関する。
本発明はさらにまた、接着距離がより大きい箇所に、単位時間当たりにより多くの噴射量を与える信号が制御部に与えられる、上記のシステムに関する。
【0017】
また、本発明は、接着距離の最大値と最小値との差の閾値を予め設定し、最大値と最小値との差が閾値を超えた場合に不均一であると判断する、上記のシステムに関する。
さらに、本発明は、解析部が、設定値を入力するための入力部を有する、上記のシステムに関する。
さらにまた、本発明は、ノズルの噴出口が、シート状細胞培養物の接着縁に略沿って相対的に可動である、上記のシステムに関する。
本発明はまた、制御部が、温度制御部を含み、培養容器周辺の温度を一定に保つことができる、上記のシステムに関する。
【0018】
本発明はさらに、ノズルから噴射される液体が、培養容器中の培養液である、上記のシステムに関する。
本発明はさらにまた、培養容器内のシート状細胞培養物に対して液体を噴射してシート状細胞培養物を均一に剥離する方法であって、前記シート状細胞培養物の剥離状態を培養容器とシート状細胞培養物との接着距離に基づいて計測し、計測された値に基づき、噴射量および/または噴射位置を調節して剥離を均一に剥離させることを含む、前記方法に関する。
【発明の効果】
【0019】
本発明のシステムによれば、ヒト及び動物の疾病、傷病の治療に用いるシート状の細胞培養物を、皺、破れ、破損などを生じることなく、容易に剥離させることができる。また、ピペッティングなどによるコンタミネーションの危険性も低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】図1は剥離動作中のノズル部および培養容器の様子を表した模式図である。黒矢印で示された部分を、本発明において「接着縁」と称する。ノズルは接着縁に水流が届くように、径方向に動くことができる。
【図2】図2は本発明の一態様における、ノズル部およびトレーの上面図および側面図である。
【図3】図3は本発明の一態様における、ノズル部およびトレーの上面図および側面図である。
【図4】図4は本発明の一態様における、剥離処理のフロー図を表す。
【図5】図5は、本発明の1つの態様における温度管理のフロー図を示す。
【図6】図6は、本発明の1つの態様における、解析サブルーチンのフロー図を示す。
【図7】図7は、本発明の1つの態様におけるブロック図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0021】
すなわち本発明は、シート状細胞培養物を培養容器から剥離するためのシステムであって、シート状細胞培養物を培養する培養容器を収納する収納部、前記シート状細胞培養物に対し1または2以上のノズルにより液体を噴射するノズル部、培養容器におけるシート状細胞培養物の剥離状態を計測するセンサー部、前記センサー部において計測された値に基づき、剥離の均一性を判断する解析部、ならびに前記解析部での判断に基づきノズルの位置および/または液体の噴射量を制御する制御部を含む、前記システムに関する。
【0022】
本発明のシステムにより剥離されるシート状細胞培養物には、シート状細胞培養物を形成し得る任意の細胞が含まれる。かかる細胞の例としては、限定されずに、筋芽細胞(例えば、骨格筋芽細胞)、心筋細胞、線維芽細胞、滑膜細胞、上皮細胞、内皮細胞などが含まれる。これらのうち、本発明においては、単層の細胞培養物を形成するもの、例えば、筋芽細胞が好ましい。細胞は、細胞培養物による治療が可能な任意の生物に由来し得る。かかる生物には、限定されずに、例えば、ヒト、非ヒト霊長類、イヌ、ネコ、ブタ、ウマ、ヤギ、ヒツジなどが含まれる。また、シート状細胞培養物の形成に用いる細胞は1種類のみであってもよいが、2種類以上の細胞を用いることもできる。本発明の好ましい態様において、細胞培養物を形成する細胞が2種類以上ある場合、最も多い細胞の比率(純度)は、細胞培養物製造終了時において、65%以上、好ましくは70%以上、より好ましくは75%以上である。
【0023】
本発明において、「シート状細胞培養物」は、細胞が互いに連結してシート状になったものをいい、典型的には1の細胞層からなるものであるが、2以上の細胞層から構成されるものも含む。細胞同士は、直接および/または介在物質を介して、互いに連結していてもよい。介在物質としては、細胞同士を少なくとも機械的に連結し得る物質であれば特に限定されないが、例えば、細胞外マトリックスなどが挙げられる。介在物質は、好ましくは細胞由来のもの、特に、細胞培養物を構成する細胞に由来するものである。細胞は少なくとも機械的に連結されるが、さらに機能的、例えば、化学的、電気的に連結されてもよい。
【0024】
本発明において、シート状細胞培養物は、好ましくはスキャフォールド(支持体)を含まない。スキャフォールドは、その表面上および/またはその内部に細胞を付着させ、細胞培養物の物理的一体性を維持するために当該技術分野において用いられることがあり、例えば、ポリビニリデンジフルオリド(PVDF)製の膜のような合成ポリマーのスキャフォールド等が知られているが、本発明の細胞培養物は、かかるスキャフォールドがなくともその物理的一体性を維持することができる。また、本発明における細胞培養物は、好ましくは、細胞培養物を構成する細胞由来の物質のみからなり、それら以外の物質を含まない。
【0025】
本発明において、「培養基材」は、細胞がその上で細胞培養物を形成し得るものであれば特に限定されず、例えば、種々の材質の容器、容器中の固形もしくは半固形の表面などを含む。容器は、培養液などの液体を透過させない構造・材料が好ましい。かかる材料としては、限定することなく、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、テフロン(登録商標)、ポリエチレンテレフタレート、ポリメチルメタクリレート、ナイロン6,6、ポリビニルアルコール、セルロース、シリコン、ポリスチレン、ガラス、ポリアクリルアミド、ポリジメチルアクリルアミド、金属(例えば、鉄、ステンレス、アルミニウム、銅、真鍮)等が挙げられる。また、容器は、少なくとも1つの平坦な面を有することが好ましい。かかる容器の例としては、限定することなく、例えば、細胞培養皿、細胞培養ボトルなどが挙げられる。また、容器は、その内部に固形もしくは半固形の表面を有してもよい。固形の表面としては、上記のごとき種々の材料のプレートや容器などが、半固形の表面としては、ゲル、軟質のポリマーマトリクスなどが挙げられる。培養基材は、上記材料を用いて作製してもよいし、市販のものを利用してもよい。好ましい培養基材としては、限定することなく、例えば、シート状細胞培養物の形成に適した、接着性の表面を有する基材が挙げられる。具体的には、親水性の表面を有する基材、例えば、コロナ放電処理したポリスチレン、コラーゲンゲルや親水性ポリマーなどの親水性化合物を該表面にコーティングした基材、さらには、コラーゲン、フィブロネクチン、ラミニン、ビトロネクチン、プロテオグリカン、グリコサミノグリカンなどの細胞外マトリックスや、カドヘリンファミリー、セレクチンファミリー、インテグリンファミリーなどの細胞接着因子などを表面にコーティングした基材などが挙げられる。また、かかる基材は市販されている(例えば、Corning(R) TC-Treated Culture Dish、Corning製)。
【0026】
培養基材は、刺激、例えば、温度や光に応答して物性が変化する材料で表面が被覆されていてもよい。かかる材料としては、限定されずに、例えば、(メタ)アクリルアミド化合物、N−アルキル置換(メタ)アクリルアミド誘導体(例えば、N−エチルアクリルアミド、N−n−プロピルアクリルアミド、N−n−プロピルメタクリルアミド、N−イソプロピルアクリルアミド、N−イソプロピルメタクリルアミド、N−シクロプロピルアクリルアミド、N−シクロプロピルメタクリルアミド、N−エトキシエチルアクリルアミド、N−エトキシエチルメタクリルアミド、N−テトラヒドロフルフリルアクリルアミド、N−テトラヒドロフルフリルメタクリルアミド等)、N,N−ジアルキル置換(メタ)アクリルアミド誘導体(例えば、N,N−ジメチル(メタ)アクリルアミド、N,N−エチルメチルアクリルアミド、N,N−ジエチルアクリルアミド等)、環状基を有する(メタ)アクリルアミド誘導体(例えば、1−(1−オキソ−2−プロペニル)−ピロリジン、1−(1−オキソ−2−プロペニル)−ピペリジン、4−(1−オキソ−2−プロペニル)−モルホリン、1−(1−オキソ−2−メチル−2−プロペニル)−ピロリジン、1−(1−オキソ−2−メチル−2−プロペニル)−ピペリジン、4−(1−オキソ−2−メチル−2−プロペニル)−モルホリン等)、またはビニルエーテル誘導体(例えば、メチルビニルエーテル)のホモポリマーまたはコポリマーからなる温度応答性材料、アゾベンゼン基を有する光吸収性高分子、トリフェニルメタンロイコハイドロオキシドのビニル誘導体とアクリルアミド系単量体との共重合体、および、スピロベンゾピランを含むN−イソプロピルアクリルアミドゲル等の光応答性材料などの公知のものを用いることができる(例えば、特開平2-211865、特開2003-33177参照)。これらの材料に所定の刺激を与えることによりその物性、例えば、親水性や疎水性を変化させ、同材料上に付着した細胞培養物の剥離を促進することができる。
上記培養基材は、種々の形状であってもよいが、平坦であることが好ましい。また、その面積は特に限定されないが、典型的には、1〜200cm、好ましくは2〜100cm、より好ましくは3〜50cmである。
【0027】
培養基材は血清でコート(被覆またはコーティング)されていてもよい。血清でコートされた培養基材を用いることにより、より高密度のシート状細胞培養物を形成することができる。「血清でコートされている」とは、培養基材の表面に血清成分が付着している状態を意味する。かかる状態は、限定されずに、例えば、培養基材を血清と共にインキュベートすることにより得ることができる。インキュベートとは、血清を培養基材に接触させることを含む。血清としては、異種血清および同種血清を用いることができる。異種血清は、細胞培養物を移植に用いる場合、そのレシピエントとは異なる種の生物に由来する血清を意味する。例えば、レシピエントがヒトである場合、ウシやウマに由来する血清、例えば、ウシ胎仔血清(FBS、FCS)、仔ウシ血清(CS)、ウマ血清(HS)などが異種血清に該当する。また、「同種血清」は、レシピエントと同一の種の生物に由来する血清を意味する。例えば、レシピエントがヒトである場合、ヒト血清が同種血清に該当する。同種血清は、自己血清、すなわち、レシピエントに由来する血清、およびレシピエント以外の同種個体に由来する同種他家血清を含む。なお、本明細書中で、自己血清以外の血清、すなわち、異種血清と同種他家血清を非自己血清と総称することもある。
培養基材をコートするための血清は、市販されているか、または、所望の生物から採取した血液から定法により調製することができる。具体的には、例えば、採取した血液を室温で20〜60分程度放置して凝固させ、これを1000〜1200×g程度で遠心分離し、上清を採取する方法などが挙げられる。
【0028】
培養基材上でインキュベートする場合、血清は原液で用いても、希釈して用いてもよい。希釈は、任意の媒体、例えば、限定することなく、水、生理食塩水、種々の緩衝液(例えば、PBS、HBSなど)、種々の液体培地(例えば、DMEM、MEM、F12、DME、RPMI1640、MCDB(MCDB102、104、107、131、153、199など)、L15、SkBM、RITC80−7、DMEM/F12など)等で行うことができる。希釈濃度は、血清成分が培養基材上に付着することができれば特に限定されず、例えば、0.5〜90%(v/v)、好ましくは1〜60%(v/v)、より好ましくは5〜40%(v/v)である。
インキュベート時間も、血清成分が培養基材上に付着することができれば特に限定されず、例えば、1〜72時間、好ましくは4〜48時間、より好ましくは5〜24時間、さらに好ましくは6〜12時間である。インキュベート温度も、血清成分が培養基材上に付着することができれば特に限定されず、例えば、0〜60℃、好ましくは4〜45℃、より好ましくは室温〜40℃である。
【0029】
インキュベート後に血清を廃棄してもよい。血清の廃棄手法としては、ピペットなどによる吸引や、デカンテーションなどの慣用の液体廃棄手法を用いることができる。本発明の好ましい態様においては、血清廃棄後に、培養基材を無血清洗浄液で洗浄してもよい。無血清洗浄液としては、血清を含まず、培養基材に付着した血清成分に悪影響を与えない液体媒体であれば特に限定されず、例えば、限定することなく、水、生理食塩水、種々の緩衝液(例えば、PBS、HBSなど)、種々の液体培地(例えば、DMEM、MEM、F12、DME、RPMI1640、MCDB(MCDB102、104、107、131、153、199など)、L15、SkBM、RITC80−7、DMEM/F12など)等で行うことができる。洗浄手法としては、慣用の培養基材洗浄手法、例えば、限定することなく、培養基材上に無血清洗浄液を加えて所定時間(例えば、5〜60秒間)撹拌後、廃棄する手法などを用いることができる。
【0030】
本発明において、培養基材を、成長因子でコートしてもよい。ここで、「成長因子」は、細胞の増殖を、それがない場合に比べて促進する任意の物質を意味し、例えば、上皮細胞成長因子(EGF)、血管内皮成長因子(VEGF)、線維芽細胞成長因子(FGF)などを含む。成長因子による培養基材のコート手法、廃棄手法および洗浄手法は、インキュベーション時の希釈濃度が、例えば、0.0001μg/mL〜1μg/mL、好ましくは0.0005μg/mL〜0.05μg/mL、より好ましくは0.001μg/mL〜0.01μg/mLである以外は、基本的に血清と同じである。
【0031】
本発明において、培養基材を、ステロイド剤でコートしてもよい。ここで「ステロイド剤成分」は、ステロイド核を有する化合物のうち、生体に、副腎皮質機能不全、クッシング症候群などの悪影響を及ぼし得るものをいう。かかる化合物としては、限定されずに、例えば、コルチゾール、プレドニゾロン、トリアムシノロン、デキサメタゾン、ベタメタゾン等が含まれる。ステロイド剤による培養基材のコート手法、廃棄手法および洗浄手法は、インキュベーション時の希釈濃度が、デキサメタゾンとして、例えば、0.1μg/mL〜100μg/mL、好ましくは0.4μg/mL〜40μg/mL、より好ましくは1μg/mL〜10μg/mLである以外は、基本的に血清と同じである。
【0032】
培養基材は、血清、成長因子およびステロイド剤のいずれか1つでコートしても、これらの任意の組合わせ、すなわち、血清と成長因子、血清とステロイド剤、血清と成長因子とステロイド剤、または、成長因子とステロイド剤の組合わせでコートしてもよい。複数の成分でコートする場合、これらの成分を混合して同時にコートしてもよいし、別々の工程でコートしてもよい。
【0033】
培養基材は、血清等でコートした後直ちに細胞を播種してもよいし、コートした後に保存しておき、その後細胞を播種することもできる。コートした基材は、例えば4℃以下、好ましくは−20℃以下、より好ましくは−80℃以下に保つことにより長期間保存することができる。
【0034】
培養容器の収納部の形状は限定されず、例えば倉庫状のものであってもよく、培養容器を振動台に固定するだけのものであってもよい。倉庫状とは収納部として温度や湿度を制御可能な密閉された空間に一つ以上の配置用棚部材を設け、各棚部材の上に一つ以上の培養容器を配置できることを意味する。
【0035】
ノズル部は、1または2以上のノズルを有する。かかるノズルは、シート状細胞培養物に対して液体を噴射することによる水流によって、シート状細胞培養物を培養容器から剥離することができる。ノズルから噴射される液体の種類は限定されないが、シート状細胞培養物にダメージを与えないものが好ましい。具体的な例としては、これに限定されるものではないが、剥離するシート状細胞培養物を培養するのに好適な液体培地、ハンクス平衡塩、PBSなどが挙げられる。操作の簡便性などの観点から、より好ましくは剥離するシート状細胞培養物を培養するのに好適な液体培地、ハンクス平衡塩、特に好ましくは、剥離するシート状細胞培養物を培養するのに好適な液体培地である。
【0036】
ノズルによって液体が噴射される位置は、シート状細胞培養物を水流によって剥離することができ、かつシート状細胞培養物にダメージを与えない位置であればいずれであってもよい。好ましくはシート状細胞培養物の接着縁である。剥離が進むにつれて、噴射される位置が変化してもよい。したがって好ましくは、ノズルの噴射口が可動である。
【0037】
本発明において使用される場合、「接着縁」という語は、培養容器とシート状細胞培養物との接着面の縁を意味する。本発明において、典型的には、シート状細胞培養物は接着縁から中心に向かって徐々に剥離されていき、剥離が進むにつれて接着縁が中心に向かって移動していくことになる(図1)。シート状細胞培養物は通常二次元に広がった形状がほぼ円形であるため、その円の中心がシート状細胞培養物の中心となる。シート状細胞培養物の形状が円形ではない場合はそのおおよその中心位置をシート状細胞培養物の中心として設定することができる。この接着縁がシートの中心を中心とした円に近いほど、すなわち剥離が均一であるほど、シートにかかる応力の歪みが小さくなるため、シートの破損の可能性が低くなる。したがって、特に限定がない限り、本発明において使用される「剥離の均一性」とは、培養容器とシート状細胞培養物との接着面の形状がどれだけ円形に近いかをいう。
【0038】
ノズルから噴射される液流の強さは、剥離速度に影響すると考えられる。液流が強ければ強いほど剥離速度は速くなると考えられるが、液流が強すぎるとシート状細胞培養物を破損する可能性が高まる。したがって、単位時間当たりの液体噴射量は0.01ml/s〜1ml/sであることが好ましい。ノズルからの単位時間当たりの液体噴射量は、制御部によって調節され得る。噴流はシート状細胞培養物の剥離が始まったばかりの状態ではシート状細胞培養物の縁に直接当てず培養基材の側壁に当てて間接的にシート状細胞培養物の剥離を促すことができる。またシート状細胞培養物の剥離が進行した状態では噴流を培養基材の底面に当てて間接的にシート状細胞培養物の剥離を促してもよいし、直接シート状細胞培養物の縁付近に噴射してもよい。
【0039】
ノズル部の形状は、液体を噴出できる形状であればどんな形状であってもよい。ノズルの個数は1以上であればいくつであってもよい。ノズルは各々独立して噴射量を調節できることが好ましい。ノズルの個数が少ない場合、ノズルが移動することにより、液体を噴射する位置を変えることができる。
【0040】
センサー部によって計測される「剥離状態」は、これに限定するものではないが、例えば、シート状細胞培養物の中心から接着縁までの距離(以後「接着距離」という)、接着縁の形状などが挙げられる。センサー部による計測は、例えば接着距離を測定するなど、直接的な測定による計測であってもよいし、例えば、培養容器外周からシート状細胞培養物の外縁までの距離を測定し、その値から接着距離を計算するなどの間接的な方法で計測してもよい。したがって、センサーによって測定される値は、これに限定されるものではないが、例えば接着距離、センサーとシート上細胞培養物との距離、屈折率、透過率、反射率、シート状細胞培養物の画像データなどが挙げられる。後述する解析部における判断における利用の簡便さの観点から、センサー部は接着距離を計測することが好ましい。センサー部による計測は、常時計測していてもよいし、一定時間の噴射後、計測するというサイクルを繰り返してもよい。
【0041】
センサー部は複数のセンサーを有していてもよい。センサーは全ておなじものを測定してもよいし、例えば画像データと距離など、異なるものを測定してもよい。
前記計測値は、解析部によって解析される前に、解析部内の記録媒体に記録され得る。したがって解析部は、記録部を有していてもよい。記録部としては、例えば磁気テープ、磁気ディスク、光ディスク、光磁気ディスク、フラッシュメモリなど、電気的に記録されるものであってもよいし、例えば紙、写真など、物理的に記録されるものであってもよい。
【0042】
解析部は、前記センサー部によって計測された値に基づいて、剥離の均一性を判断する。剥離の均一性は、前述のように、接着面の形状がどれだけ円形に近いかをいい、円形に近いほど均一であると判断する。解析の方法としては、これに限定するものではないが、例えば画像データを円と比較して歪みを算出してもよいし、測定または計測された接着距離の最大値と最小値との差から判断してもよい。判断の基準となる基準値は、使用の形態に応じて入力される任意の値であってもよいし、あらかじめ上記記録部に記録された値でもよい。したがって解析部は入力部を備えていてよい。入力部の形態は、例えばキーボード、センサー(該センサーはセンサー部のセンサーと同一のものであってもよい)、タッチパネルなど、当業者に知られたあらゆる入力部が用いられ得る。また、剥離の均一性の判断には、接着縁のうちどの箇所において剥離が遅れているかの判断が含まれてもよい。
【0043】
本発明の好ましい態様において、センサー部は接着距離を接着縁上の2点以上において計測する。解析部において、計測された接着距離のうち、最大値と最小値との差が求められ、その差が基準値(閾値)と比較される。最大値と最小値の差が基準値以下である場合、計測された全ての点において、最小値との差は基準値以下であるので、剥離が均一であると判断される。最大値と最小値との差が基準値以上である場合、少なくとも1箇所以上において差が基準値以下ではないため、剥離が不均一であると判断され、接着距離の大きな箇所を剥離が遅れている箇所であると判断する。
【0044】
解析部において、好ましくはセンサーの測定値、センサー部の計測値、または剥離の進捗の度合いなどが、情報として外部に出力される。したがって解析部は、該情報の出力部を備えていてよい。情報の出力手段としては、例えば外部モニター、ランプ、ブザー、予め登録された携帯電話やインターネットメールアドレスへの送信など、剥離完了の情報を操作する人間に知らせるものであってもよいし、プリンタなど、記録部に出力されるものであってもよい。好ましくは、剥離が不均一であると判断した場合に、解析部から制御部へ剥離が均一となるように信号が出力される。また、該情報は、例えば外部モニターおよび制御部など、複数の箇所へ同時に出力されてもよい。
【0045】
制御部は、前記解析部での判断に基づいて、ノズルの位置および/または液体の噴射量を制御することができる。例えば上記解析部が剥離が遅れていると判断した箇所に対して液体の噴射量を増加させたり、剥離が遅れていると判断した箇所に液体を噴射するノズルの数を増やしたりすることができる。したがって、制御部はノズル部に対して信号を出力することが可能である。制御部はノズル部と一体となって形成されてもよい。また、制御部は、解析部から信号を入力される。したがって、制御部はまた、解析部と一体となって形成されてもよい。
【0046】
上記の接着距離を計測する態様においては、解析部において、接着距離がより大きい箇所がより剥離が遅れている箇所であると判断される。したがって、より剥離が遅れている箇所に、単位時間当たりにより多くの噴射量を与えるように、制御部に信号が入力される。制御の仕方としては、例えば剥離が遅れている箇所の単位時間当たりの噴射量を増やしてもよいし、剥離が進んでいる箇所の単位時間当たりの噴射量を減らしてもよい。このとき、噴射量が各箇所における剥離の進み方にしたがって、より剥離が遅れている箇所に、単位時間当たりにより多くの噴射量を与えられれば、剥離が進んでいる点に液体を噴射しても噴射しなくてもよい。
【0047】
また、制御部は、ノズルの位置を制御することもできる。ノズルの位置はあらゆる方向に可動であってよく、シート状細胞培養物に対して相対的に可動であればよい。「相対的に可動」とは、ノズル位置が、シート状細胞培養物に対して相対的に移動することができることをいう。したがって、ノズル自体が移動してもよいし、培養容器を載置したステージの回転などによって、シート状細胞培養物が移動してもよいし、それらを組み合わせてもよい。剥離効率の観点から、好ましくはノズルの噴射口がシート状細胞培養物の接着縁に略沿って相対的に可動である。
【0048】
制御部はまた、収納部の周辺環境を制御してもよい。したがって、制御部は、収納部と一体となって形成されてもよい。周辺環境とは、これに限定されるものではないが、例えば温度、圧力、湿度、CO濃度などが挙げられる。したがって制御部は、制御すべき設定を入力する入力部や、設定値を記録しておく記録部、現在の周辺環境の状態を測定する測定部、測定部にて測定した情報などを出力する出力部などを有していてよい。また、制御部は、解析部とCPU、入力部、出力部および/または記録部を共有していてもよい。例えば、本発明の1つの態様において、培養容器として前述の温度応答性培養皿を用いることができ、培養容器周辺の温度を剥離に適した範囲に制御することで、剥離効率を上げることが可能となる。
【0049】
本発明の1つの態様において、収納部は、培養容器周辺を細胞培養に適した環境に保つことが可能である。したがって、かかる態様における収納部は、細胞培養インキュベーターとして機能することができる。この態様において、収納部をインキュベーターとして用いて細胞を培養し、培養完了後、細胞培養物を剥離するステップへとそのまま移行することも可能である。
【0050】
ノズルから噴射される液体は、噴射された後培養容器中に残存してしまうため、収納部は、培養容器から液体を排出する排液部を備えていてもよい。排液部によって排出された液体は、そのまま廃棄されてもよいし、再度ノズル部から噴射される液体として利用されてもよい。また、排液部を備えない態様において、ノズル部が培養容器内に存在する液体を一旦吸い込み、該吸い込んだ液体を噴射してもよい。経済性や利便性の観点から、好ましくはノズルから噴射される液体が、培養容器中の培養液である。
【0051】
本発明のシステムにおいて、剥離が完了したと判断された場合、液体の噴射は停止する。剥離完了の判断は、これに限定するものではないが、例えば全ての箇所において接着距離が0になった場合や予め決められた値に到達した場合などが挙げられる。
シート状細胞培養物に液体を噴射して、シート状細胞培養物を均一に剥離する方法もまた、本発明に包含される。前記方法は、具体的には、前記シート状細胞培養物の剥離状態を培養容器とシート状細胞培養物との接着距離に基づいて計測し、計測された値に基づき、噴射量および/または噴射位置を調節して剥離を均一に剥離させることを含む。
【0052】
以下に本発明の具体的な態様を列挙するが、本発明はこれらの具体例に限定されるものではない。
【0053】
図2は収納部内のトレーが回転せず、多数のノズルを有する態様の、ノズル部およびトレーの模式図である。この態様において、ノズルは培養容器の径方向に可動である。ノズル部は回転してノズルを移動できてもよい。本態様においては、主に噴射量の調節によって単位時間当たりの液体噴射量を制御する。
図3は、収納部内のトレーが回転式トレーであり、少数のノズルを有する態様の、ノズル部およびトレーの模式図である。この態様においても、ノズルが培養容器の径方向に可動であってもよい。トレーが回転することで、噴射位置を調節することができる。さらにノズル部が回転してノズルを移動できてもよい。本態様においては、主に噴射位置の調節によって単位時間当たりの液体噴射量を制御する。
【0054】
図4には、本発明の1つの態様における処理のフローチャートを例示する。この例において、収納部は温度制御部を備えた倉庫状の収納部であり、収納部内の温度をTに制御するように設定されている。そしてセンサー部は距離を測定するセンサーを備えている。解析部には、温度制御部のものと共通する入力部を有し、該入力部によって庫内設定温度や剥離の均一性判断のための基準値および剥離持続時間などを入力することが可能である。
本発明のシステムがシート状細胞培養物の剥離開始指示を受けると、制御部がまず収納部内の温度を測定し、設定温度Tに温度調節する(調温サブルーチン)。温度調節が終了すると、剥離完了インジケータが点灯しているか否かを判断する(<H001>)。
【0055】
完了インジケータが点灯している場合、剥離工程の停止指示があるか否かを判断し、指示があれば終了、無ければ調温サブルーチンへと処理が戻り、停止指示を受けるまでTに温度を保つ。
完了インジケータが点灯していない場合、距離センサーによって、複数の箇所における細胞シートの接着距離が測定される(<H002>)。
次に測定した接着距離が全ての点において0であるか否かを確認する(<H003>)。全ての点で0であれば、剥離が完了していると判断され、ノズルからの液体噴射を停止し、剥離完了インジケータを点灯させる。
【0056】
剥離完了インジケータが点灯していなければ、剥離作業中と判断し、剥離の均一性判断に移る(<H0004>)。測定した接着距離のうち、最大値と最小値との差が基準値以下である場合、剥離は均一であると判断し、各ノズルから均一に液体を噴射する(<H005>)。前記最大値と最小値との差が基準値以上である場合は、接着距離の大きい箇所に液体を噴射する(<H006>)。この例においては接着距離の小さい箇所には液体噴射を行わないが、剥離時間短縮のため、接着距離の大きさにしたがって、例えば接着距離の大きさに比例して、噴射する液体の量を多くするようにしてもよい。均一性の判断がどちらであった場合も、一定時間t経過後、制御部に噴射停止のシグナルを出力し、調温サブルーチンへと戻る。
【0057】
この態様において、調温サブルーチンは噴射が止まっている間にのみ作動することとなる。しかしながら、調温サブルーチンは剥離動作とは独立して作動してもよい。例えば剥離動作のルートとは独立して、常に容器の周辺温度を設定温度Tに保つように、剥離動作中も作動していてもよい。
この態様において、解析サブルーチンもまた、噴射が停止している間に作動する。しかしながら、解析サブルーチンもまた剥離動作とは独立して作動してもよい。例えば、噴射中に常に剥離状態をモニタするように作動してもよい。この場合は、シート剥離完了インジケータ点灯と並列して、制御部に噴射停止シグナルを出力する処理が行われる。
【0058】
図中、Tは培養容器周辺の一定に保ちたい温度であり、任意に設定が可能である。一定時間tは剥離動作持続時間であり、これも任意に設定が可能である。またある態様においては、細胞シートの剥離状態を判断するための基準値もまた任意に設定可能である。これら任意に設定可能な値を入力する工程も任意に含み得る。入力工程を含む場合、あらゆる設定値は、その設定値が参照される時までに入力されていればよいが、好ましくは開始指示後、庫内温度が測定されるまでの間に入力される。
【0059】
本発明の収納部は制御部と一体となって形成されてもよいため、その一態様において剥離前および/または剥離後の細胞シートを一定温度で保存しておくことが可能である。図5は、保存のために培養容器周辺を一定温度に保つ工程のフロー図を示す。これは、図4における調温サブルーチンに対応するフロー図である。したがって、上記のように調温サブルーチンが剥離作業と独立して作動する態様においては、図5のフロー図に基づいて調温サブルーチンが作動する。かかる態様における停止指示は、図4の態様における停止指示と同一のシグナルでもよいし、異なるシグナルであってもよい。
【0060】
図6は、独立して作動する態様における、解析サブルーチンのフロー図を示す。該サブルーチンにおいて、全ての点において接着距離が0である場合、シート剥離完了インジケータの点灯後または点灯と同時に制御部に噴射停止シグナルを出力し、サブルーチンが終了する。いずれか1点でも接着距離が0ではない場合、一定時間t経過後、再び細胞シート剥離状態を測定する。時間tは任意に設定することができ、解析部が有する入力部から入力されてよい。例えばtを0に設定することによって、待機時間なしで連続的に剥離状態を監視することもできる。
【0061】
図7には本発明の1つの態様におけるブロック図が描かれている。本態様において、収納部は保温庫となっている。保温庫内部にはトレーが置かれ、該トレーには制御部の測定部である温度センサーおよび温度制御部のペルチェ素子が付属している。センサー部は距離センサーになっており、トレーと細胞シートとの距離を複数箇所で測定することができる。該距離センサーにて測定された情報は、解析部であるCPUへと入力され、接着距離が算出される。温度センサーおよびペルチェ素子は収納部と一体となって形成された制御部を構成する要素であり、前記CPU、すなわち解析部ともまた一体となって形成されており、温度センサーによって庫内温度を管理し、ペルチェ素子によって調温する。
【0062】
CPUはまた、センサーからの入力情報を基に接着距離を算出し、剥離の均一性を判断し、それらの情報を出力する。このための出力部として機能する表示部と連結していると共に、ノズル部にも連動し、前記情報を表示部とノズル部とに出力している。また、解析部および制御部における入力部として、操作部が設けられている。
本態様において、ノズル部にはピストンポンプが備え付けられており、ノズル部が培養容器内の培養液を吸い、それを噴射する。それぞれのノズルに吸い込まれ、噴射される培養液の量は分配器によって制御されている。したがって、本態様においては、制御部とノズル部も一体となって形成されている。
【0063】
以上、本発明におけるシステムを説明したが、各部について、様々な形態を考えることができる。したがって、本発明の目的を達成する範囲において、本発明の改変した態様もまた本発明の範囲に包含され、かかる改変は当業者にとっては容易に理解可能である。
【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明のシステムによれば、今まで採取が難しかった強度の低いシート状細胞培養物であっても、皺、破れ、破損することなく、短時間で容易に採取することが可能となる。
【符号の説明】
【0065】
1 シート状細胞培養物
2 ノズル
3 培養容器
4 回転式ステージ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シート状細胞培養物を培養容器から剥離するためのシステムであって、シート状細胞培養物を培養する培養容器を収納する収納部、前記シート状細胞培養物に対し1または2以上のノズルにより液体を噴射するノズル部、培養容器におけるシート状細胞培養物の剥離状態を計測するセンサー部、前記センサー部において計測された値に基づき、剥離の均一性を判断する解析部、ならびに前記解析部での判断に基づきノズルの位置および/または液体の噴射量を制御する制御部を含む、前記システム。
【請求項2】
ノズルからの液体噴射が、シート状細胞培養物の接着縁に対しなされる、請求項1に記載のシステム。
【請求項3】
センサー部が、シート状細胞培養物の中心から任意の接着縁までの接着距離を、2点以上において計測し、解析部が、該接着距離の最大値と最小値との差により、剥離の均一性を判断することを特徴とする、請求項1または2に記載のシステム。
【請求項4】
接着距離がより大きい箇所に、単位時間当たりにより多くの噴射量を与える信号が制御部に与えられる、請求項3に記載のシステム。
【請求項5】
接着距離の最大値と最小値との差の基準値を予め設定し、最大値と最小値との差が基準値を超えた場合に不均一であると判断する、請求項3または4に記載のシステム。
【請求項6】
解析部が、設定値を入力するための入力部を有する、請求項1〜5のいずれかに記載のシステム。
【請求項7】
ノズルの噴射口が、シート状細胞培養物の接着縁に略沿って相対的に可動である、請求項1〜6のいずれかに記載のシステム。
【請求項8】
制御部が、温度制御部を含み、培養容器周辺の温度を一定に保つことができる、請求項1〜7のいずれかに記載のシステム。
【請求項9】
ノズルから噴射される液体が、培養容器中の培養液である、請求項1〜8のいずれかに記載のシステム。
【請求項10】
培養容器内のシート状細胞培養物に対して液体を噴射してシート状細胞培養物を均一に剥離する方法であって、前記シート状細胞培養物の剥離状態を培養容器とシート状細胞培養物との接着距離に基づいて計測し、計測された値に基づき、噴射量および/または噴射位置を調節して剥離を均一に剥離させることを含む、前記方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2011−155869(P2011−155869A)
【公開日】平成23年8月18日(2011.8.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−18845(P2010−18845)
【出願日】平成22年1月29日(2010.1.29)
【出願人】(000109543)テルモ株式会社 (2,232)
【Fターム(参考)】