説明

シート給送装置

【課題】
ステイプルやクリップ等の金属締結部材によって綴じられたシート束を給送すると、シートの破損や給送異常が発生する。従来の給送異常を検知する手法は、積載したシート束の下側から順に給送する構成の装置には適用できなかった。
【解決手段】
シート束のステイプルやクリップ等の検知を行う金属検知手段によって、シートの給送異常状態に伴って発生するシートの変形に起因する金属製可動部材の移動を検知することにより、シートの給送異常状態を間接的に検知する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シートを給送しシートに形成された画像を読み取る画像読取装置や画像読取機能を有する画像形成装置等に内蔵可能又は、それらと組み合わせて使用可能なシート給送装置に関する。
【背景技術】
【0002】
図25を参照しながら、従来のシート給送装置の異常給送検知手段を説明する。画像読取装置、画像形成装置等の装置本体に装備したシート給送装置は、シート積載台上203に積載してあるシートFを給送ローラ4によってシート積載台から送り出し、シートFが重なって送り出されたとき下流側の送りローラ6と、これに圧接している図示しない分離ローラとによってシートを1枚ずつに分離して装置本体内に給送するようになっている。図示しない分離ローラは、シートを上流側に戻そうとする回転力を、クラッチを介して常時受けており、シートが1枚のとき、シートの給送力を受けて空転するクラッチによって送りローラに追従回転を許容されて追従回転するが、シートが複数枚重なって給送されたのとき、給送方向とは逆の方向に回転して、下側のシートを上流側に押し戻すようになっている。
【0003】
このような従来のシート給送装置は、シート積載台203にシートを複数枚重ねて積載可能になっている。しかし、シート積載台に、ステイプル、クリップ、糊付け等によって束状に綴じられたシートが誤って積載された場合においても、シート給送装置は、このシート束Fの最も上のシートF1を1枚に分離して給送しようとする。このような場合、シート束Fの内、上記給送ローラ4によって給送される最も上のシートF1が綴じられた部分SP1を中心にめくれ上がるように回転して皺になったり、破れたり、或いはシート束F全体が回転して歪んだ異常形状になったりすることがある。また、シートFが束状に綴じられていない場合でも、静電気が発生してシートFを分離し難くなると、同様の給送不良の現象が生じていた。特許文献1には、このような給送不良を防止するために、図25のようにシート積載台上のシートFの面から一定の高さにおいてシートの異常形状状態を検知するシート異常形状検知手段を設けた構成が開示されている。
【0004】
このシート異常形状検知手段は、給送されるシートFの面に略平行で、かつシート給送方向に対して交差する光を発光する発光部SS1−aと、前記発光部の光を受光する受光部SS1−bを有しており、シートF1の給送により生じる跳ね上がり等の異常形状の発生により、シートF1が発光部と受光部との間の光路を遮る事を利用して、異常形状を検知している。
【0005】
綴じ原稿を検知する他の方法として、シート積載台の積載面等に、ステイプル、クリップ等を直接に検知する金属検知手段を設ける方法が提案されている(特許文献2参照)。この方法では、金属検知手段近傍を通過するステイプル、クリップを直接検知している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第4118135号公報
【特許文献2】特開平09−077282号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
図26に示すような、積載されたシートを1枚ずつ、最も下のシートより順次給送する構成のシート給送装置を備える画像読取装置201では、シート積載台203のシートFを、送りローラ206、分離ローラ207で分離給送し、画像読取センサ209、210で読み取り、排出シート積載部212に排出する。図25に例示したシート面に略平行に通した光束を利用した光学的なシート異常形状検知手段は、積載したシートの最も下側より順次給送する図26のようなシート給送装置に適用した場合、給送中のシートの上に積載されているシート束の重さで、図23に示す様に、シートFの異常形状は、僅かしか発生せず、シートの異常形状を正確に検知できない。また、給送が順次行われるにつれて積載しているシートの枚数が減少することに伴い、シート束の最上部の位置が変化する構成の装置に適用した場合、シート束の最上部と跳ね上がり検知センサとの距離が一定ではないため、正確な検知ができない。
【0008】
また、金属検知手段を用いてステイプルやクリップを検知する場合は、検知するステイプルやクリップが小さく、またシートの綴じられている部分もさまざまであり、これらの金属締結部材を広い範囲に渡って検知することが必要となるので非常に困難である。また、シート積載台や外部の何らかの金属部品等が接近することによる誤動作を防ぐため、金属検知手段の検知感度を上げることができない。このような事情があり、金属検知部の周辺の僅かな領域にあるステイプルやクリップしか検知できない。
【0009】
このような事情があり、金属検知手段でステイプルやクリップを直接検知できる位置までシートを長い距離にわたり給送すると、シートが破損する可能性が高まる。シート積載台の全面にわたり検知可能なように金属検知手段を多数配置する方法では、回路が複雑化し高価になり実用的ではない。また、締結部材が非金属部品である場合や、糊、テープ等によってシートを綴じた場合でも、金属検知手段では異常給送状態を検知できない。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明のシート給送装置は、前記課題を解決するために発明されたものであり、シートを積載するシート積載部と、該シート積載部からシートを1枚ずつ給送する分離給送部と、前記シート積載部に積載したシートの表面に接し、当該シートの姿勢を保持することが可能な可動部材と、前記可動部材の接近及び離間の少なくとも一方を検知可能な挙動検知手段を有し、該挙動検知手段の検知により、シートの給送異常を検知することを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、可動部材の挙動を検知する事で、給送時のわずかなシート異常形状も検知できる。従来では検知が難しかったシート束の下側から順次分離給送するシート給送装置においても、効果的な異常給送検知を行える。また紐状可動部材を用いてシートを押さえる構成では、特に図24に示すようなシート搬送装置の設置面積を少なくするためにシート搬送装置を立てて使用する場合に起こりやすい、積載したシートのカールや皺、折り目により、シート積載部からシートが垂れて落下する問題を防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の実施形態に係るシート給送装置の構成を示す図である。
【図2】本発明の実施形態に係るシート給送装置の構成を側面から示す図である。
【図3】本発明の実施形態に係るシート給送装置の非使用時の状態を示す図である。
【図4】本発明の実施形態に係るシート給送装置の給送部の構成を側面から見た図である。
【図5】本発明の実施形態に係るシート給送装置の給送部の構成を正面から見た図である。
【図6】コイル式金属検知回路の構成例の図である。
【図7】本発明の金属検知部の出力周波数の変化を示した図である。
【図8】本発明の金属検知出力値の変化を示した図である図である。
【図9】本発明の金属検知出力値の変化を示した図である。
【図10】本発明の金属検知出力値の変化を示した図である。
【図11】本発明の実施形態に係る異常給送状態を示す図である。
【図12】本発明の実施形態に係るシート給送装置の別の構成を示す図である。
【図13】本発明の実施形態に係るシート給送装置の別の構成を示す図である。
【図14】本発明の金属検知出力値の変化を示した図である。
【図15】本発明の金属検知出力値の差分変化を示した図である。
【図16】本発明の金属検知出力値の差分変化を示した図である。
【図17】本発明の実施形態に係る異常給送状態を示す図である。
【図18】本発明の実施形態に係るシート給送装置の別の構成を示す図である。
【図19】本発明の実施形態に係るシート給送装置の別の構成を示す図である。
【図20】図19の実施形態に係る給送異常検知部の構成例の図である。
【図21】本発明の実施形態に係るシート給送装置の別の構成例の図である。
【図22】本発明の実施形態に係る小サイズのシートを搭載した図である。
【図23】従来のシート給送装置での異常給送状態を示す図である。
【図24】従来のシート給送装置のシートの異常積載状態を示す図である。
【図25】従来の給送異常検知手段の構成を示す図である。
【図26】従来のシート給送装置の構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態である画像読取機能を有するシート給送装置について、図面を参照しながら説明する。
【実施例1】
【0014】
図1において、Fは原稿等のシート、100はシート給送装置、101はシート積載部、102は金属の紐状可動部材であり、シート積載部101に積載したシートFを押さえ、その姿勢を保持することを1つの機能とするものである。他の機能は後述する。シートFが左右に傾かない様にするためのシート規制板103は、シートの左右を押さえる位置に配置されている。シート規制板103はシートの幅に合わせるために可動とすることが好適である。シート給送装置の上部ユニット104には、シートを送る不図示の給送用ローラ対、搬送用ローラ対、及び、シート上の画像情報を読み取る不図示の画像読取部を備える。上部ユニット104に対向する対向部にもシートの反対面上の画像情報を読取る読取部を備える。スタートボタン105はシートの給送を開始する際に用いられる操作部である。
【0015】
図4は、図1のシート給送装置の給送口付近の拡大図である。シート検知センサ305−A,305−Bは、シート積載部101にシートFが積載されたことを検知するシート検知手段である。光学式センサを用いる方法や、レバー式検知センサなどがある。図4では、発光素子305−Aと受光素子305−Bを用いた構成を例示する。
【0016】
積載するシートの先端部に近いシート積載部の下流側端部又はその近傍には、金属検知手段110を配置する。例示した金属検知手段110において、シールド板304と検知コイル301を用いているが、外乱の少ない環境ではシールド板304を省略しても問題ない。金属検知手段110はコイル方式以外でもよく、金属の接近や離間に応じて出力信号や出力データ等の何らかの出力が変化するものなら使用可能である。
【0017】
なお、送りローラ206、分離ローラ207、搬送ローラ対208、211、シート上の画像を読取る画像読取センサ209、210を用いる点は、従来のシート給送装置を備えた画像読取装置と同じである。
【0018】
紐状可動部材102の端部を固定する固定部材107は、給送可能な最大のシートの外形に合わせて配置するか、または最大のシートの左右の端部よりも外側に配置するのが良い。または、固定部材107をシートの幅に合わせて移動可能にしてもよい。紐状可動部材102を有さないシート給送装置では、図24に示す様に、シートがカールしていたり、皺、折り目等が原因で、シート積載部101からシートが垂れて落下することがある。図2に示すように、この紐状可動部材102は、シート積載部101に積載したシートが浮き上がらないようにシート束の表面に接触し、シート束を押える事でシートの落下を防止できる。この紐状可動部材は金属製の鎖等で構成し、ある程度の重さがあるのが望ましい。また紐状可動部材102は、全体を金属製部品で構成しなくてもよく、少なくとも金属検知部周辺に金属部材を使用したものでもよい。また、紐状可動部材102は、図22に示す様に途中分岐する構成でも良い。
【0019】
また、シート積載部101の最上部又はその近傍の左右の位置に紐状可動部材を固定する固定部材107を配置し、シート積載部の最上部又はその近傍からシート積載部の下端部又はその近傍に至るまで紐状可動部材102が垂下するような長さになっている。このことによって、シートの大きさにかかわらずシートを押さえることができ、シートがシート積載部から落下するのを効果的に防止できる。また、図23に示す様に、小さなシートを積載した場合では、垂れ下がった紐状可動部材の下部がシートに接触し、シートがシート積載部から落下するのを効果的に防止できる。なお、紐状可動部材を固定する位置は最上部でなくてもよく、シート積載部101の中央部よりも上流側の任意の位置に、すなわち上流部に変更してもよい。
【0020】
また、図1に示す様に、シート積載部に搭載するシートの幅よりも外側に紐状可動部材を固定する固定部材107を配置した場合は、シート束をシート積載部に積載する際に邪魔にならない。また、前述の紐状可動部材は、図3に示す様に、シート給送装置を吊り下げる吊り紐(保持部材)としても使用することができる。これによりシート給送装置の持ち運びや、使用しない時の壁掛け保管が可能となる。なお紐状可動部材102を壁のフック等に掛けて壁掛けにした状態で、シート給送装置を使用可能とするように、紐状可動部材102を2本以上設けてもよい。
【0021】
金属検知手段110は、シート積載部において、分離給送部よりも給送方向上流の位置で且つ、シート積載部の下側端等のシート給送口又はその近傍の位置に配置されており、紐状可動部材102の接近又は離間又はその両方の検知を可能とする挙動検知手段の一例である。紐状可動部材102は、金属検知手段110の設置位置まで届く長さになっている。または、紐状可動部材102の長さや固定位置を、ユーザが変更できるようにしてもよい。この金属検知手段110としては、金属の接近や離間による検知コイルのインダクタンスやインピーダンスの変化により金属部材を検知するコイル方式を採用している。この他、磁性を有する金属を検知可能な方式として、フラックスゲート方式、磁気抵抗素子を用いた方式、ホール素子を用いた方式等がある。金属検知方法としては上記の他にも、容量変化を用いた方式等、多くの方式が考案されており、どの方式を採用してもよい。本実施例で検知しようとしているステイプル等の金属締結部材は非常に小さいものであり、簡易な手段でステイプルなどの小さな金属部材を検知することは難しいうえ、検出できる範囲は狭く、検出可能となるまでにかなり接近することが必要である。そのため、多数の金属検知手段を配置してシート積載部101の全面にわたり金属検知することはコストの面で採用は難しく、本実施例では図示の給送口近傍だけに設置している。
【0022】
前述したように、上記のどの金属検知手段を用いて金属を検知してもよく、それらを組み合わせてもよい。例えば、シート積載部に着磁用磁石とホール素子アレイを使用した金属検知センサを配置し、着磁用磁石により磁化したステイプルやクリップを検出してもよい。本実施例では、より広い範囲を検知できる方式である、金属の接近や離間でインダクタンスやインピーダンスが変化することによるコイル共振周波数の変化に基づくコイル方式を用いることにした。
【0023】
図6は、コイル共振周波数の変化に基づくコイル方式の金属検知回路の一例である。ここで、301は金属を検知したい部分に配置した検知コイルであり、302は金属検知回路の信号出力部である。信号出力部302から出力される信号の周波数は検知コイル301周辺に金属が有るか否か及び、検知コイル301周辺に存在する金属の量で変化する。周波数を周波数計測器303で計測し、周波数の変化量を不図示のマイクロコンピュータ等で算出する事で、周波数の変化量を算出するものとする。なお、ハードウエア回路で周波数の変化量を求めてもよい。また、不図示のマイクロコンピュータで周波数を計測してもよい。このようにして求められた周波数の変化量を用いて金属検知を行うための判定閾値の設定を予め行っておくことが好適である。または、周波数の変化量ではなく周波数そのものに対して判定閾値を設定しておいてもよい。図7は図6の信号出力部302の波形の一例である。金属が無い状態では、検知コイルのインダクタンスは小さく図7(b)の波形311の様に出力周波数は高くなる。ここで、金属が接近したと想定すると金属に誘起される誘導電流によりコイルのインダクタンスやインピーダンスが増加し、信号出力部302の出力信号の周波数は図7(a)の波形310の様に低くなる。このときの周波数の変化量よりも小さい周波数変化量を金属検知判定閾値として設定すれば金属部材の接近が検知できる。逆に金属が接近していた状態から金属が遠ざかる場合は出力周波数は低い状態から高い状態になる。このときの周波数の変化量から金属の離間が検出できる。
【0024】
また、図6の回路例では、給送されるシートとコイルとの間の浮遊容量の変化によっても出力周波数が変化する。この容量成分による出力周波数変化を低減するために、シートと検知コイルの間には、導電性フィルムや導電性塗料を塗布した部材等のシールド部材304を配置し、シールド部材304を回路基板のフレームGNDや金属製筐体等のような電位の安定した部位に接続するのが効果的である。金属検知手段としては、図6に例示した回路以外の周知の回路を用いても、同様の効果を得られる。
【0025】
図8は、上述の周波数変化を金属検知手段出力値として書き直した図である。横軸は経過時間を表すが、搬送開始後においては搬送量を表すものと考えてもよい。ここで321は、近傍の金属部品の有無で金属検知手段出力値が変化する様子である。図8において周波数が下がるほど金属検知手段出力値は上がるものとしており、322は金属検知手段出力値の上限閾値で、323は下限閾値である。324は金属検知手段出力値が上限閾値322を越えた時点であり、すなわちこの時点で例えばコイル式の金属検知部の周波数の低下が検知レベルに到達したことにより、金属部材の接近を検知したことを表している。
【0026】
図5において、120はシートを綴じたステイプルやクリップ等の金属部材である。給送されるシートが原稿束等であれば、四隅のいずれかがステイプルやクリップを用いて綴じられている場合が多い。特に積載するシートの先頭の端部はステイプルやクリップ等で綴じられている可能性が高い。このように綴じられたシート束を積載した時には、給送開始前や給送開始直後に検知コイル301の近傍にステイプルやクリップ等の金属締結部材が来るため、前述の金属検知手段110にてステイプルやクリップを直接検知できる。すなわち、積載時にステイプルやクリップが金属検知手段110に十分近付く位置にあるような場合には、綴じられたシート束をシート積載部に載置する前と後とで、図8のような変化が起こる。金属検知した時点324よりも前の状態は、例えばシートをシート積載部に載置する前に相当し、金属検知時点324よりも後の状態はステイプル120で綴じられたシート束をシート積載部に載置した後の状態に相当する。このような変化をとらえて直接金属部材を検知することで、綴じ原稿等のシート束の給送をある程度防止することができる。
【0027】
特に、積載したシートのうち最も下側のシートから順に給送する構成の装置であれば、給送するシートの破損等を引き起こす可能性のあるステイプルやクリップがあれば、すくなくとも綴じられたシート束の給送される前または給送開始後すみやかにシート積載部に接触するほどのステイプル等の接近が起こる。よって、当該シート束の給送開始前または給送開始後にステイプルやクリップ等と検知コイル301の間の距離が縮まった時点で、ステイプルやクリップを検知できる。
【0028】
上述のように、綴じられたシート束が給送される前または、給送開始後すみやかにステイプルやクリップを検知可能であり、シートを破損する恐れを低減できる。また、シート束の先頭部分以外を綴じているステイプルやクリップがある場合は、給送中に金属検知部110に接近した時点で検知可能となった時点で給送を停止すればよい。これにより、給送部よりも下流の搬送路に金属部材が進入するのを防止できる。上述のように、シート先端部が載置されるシート積載部の部分に検知コイル等を利用した金属検知部を配置することにより、金属の綴じ部材が微小なステイプル等であっても検知可能である。なお、積載したシートの最も下のシートから順に給送する分離給送部を備える構成にすることがより好適である。
【0029】
次に、前述の金属検知部による検知が容易な位置ではなく、それ以外の位置をステイプル120やクリップで綴じられたシート束の場合や、非金属のシート締結部材を用いている場合には、当該締結部材を直接検知できない。この状態でシートの給送を開始すると、図11に示す様に、給送される最も下側のシートと、分離ローラ等により給送を阻止される他のシートの間で歪が発生して、積載したシートが跳ね上がる。
【0030】
このようなシートの跳ね上がり等の異常形状を検知するため、本実施形態では図1に例示したように、載置されたシート束Fを押さえるための紐状可動部材102がシート束Fの前面に垂れ下がる構成を採用している。シートが跳ね上がるにつれて、紐状可動部材102がシート積載部から遠ざかり、金属検知部と紐状可動部材102との間の距離が変化する。図9にこの時の金属検知手段出力値の変化のグラフを示す。図9によると、シートの給送が進むにつれ、シートが跳ね上がり、紐状可動部材と金属検知部の距離が遠ざかるにつれ、例えばコイル式金属検知部の周波数が上がることにより、金属検知手段出力値が波形341のように低下する。やがて、下限閾値323を下回った時点344にて、異常給送状態と判断して、給送を停止する。
【0031】
なお、金属検知部は、小さなステイプル等の金属部材を検知可能とするために感度を上げている。そのため、ステイプル等の金属部材以外の要因(装置の内部や外部の金属部材、地磁気、浮遊容量等)による周波数変動で金属検知手段出力値が変化しやすい。そこで図10に示す用に、シート積載部のシート検知センサ305の出力349を併用するのがよい。シート検知センサ出力349が変化した時点347の金属検知レベル出力を基準に金属検知手段出力値範囲348を決定し、これに基づいて上限閾値322、下限閾値323を決定する。これにより、シートを載置した時点にて校正が行われた値としての、適切な金属検知手段出力値の判断閾値を設定できる。また、積載されたシートの多寡による、金属検知手段出力値の変化にも対応できる。
【0032】
紐状可動部材の全部又は少なくとも金属検知部に近い部分を十分な大きさの金属部材で構成すれば、積載されているシートに隔てられて紐状可動部材が金属検知部から離れていても、紐状可動部材の金属部分を検知できる。一般的に、ステイプルの針は0.02g程度で非常に小さい。これに比べ、数十グラム程度の金属部材で紐状可動部材を構成すれば、積載したシートが間に介在しても十分に紐状可動部材の動く状態を検知することができる。よって、シートの跳ね上がりによる紐状可動部材の移動を金属検知手段出力値の変化から検知することができる。
【0033】
このように、シートの給送異常による紐状可動部材の動きを検知した場合に、シートの給送を停止する機能を加える事で、シート束の先端部分以外のさまざまな部分が綴じられていても、また非金属の締結部材で綴じられていること等の原因による給送異常が生じた場合でも検知することができる。また、本実施例の構成では、シート積載部上に、出っ張りなどを設ける必要がなく、装置の小型化を妨げない。また、光学素子を使用していないので、外光の影響による誤動作を心配しなくてもよい。
【0034】
また、積載したシート束の下側のシートから順に正常に給送される際には、下部のシートが給送されて移動するだけで、最上部のシートの動きは少ない。よって積載したシート束の最上部に接しているシートを押える紐状可動部材動きも少なく、前述の金属検知手段出力値の変化は微小で、誤動作を起こすことはない。
【0035】
この実施例では、金属検知の為にコイル式検知方式を用いて説明しているが、コイル式金属検知手段の代わりにホール素子などを用いた磁気検出部を用いる方式により、金属検知部を構成することも可能である。この場合、例えば磁気検出部の前にステイプルやクリップ等の金属締結部材を磁化するための着磁部を設ければ、着磁部により磁化されたステイプルやクリップ等からの磁束を検出することが可能である。また、ホール素子などを用いた磁気検出部により金属締結部材の検知が可能な構成にした場合に、紐状可動部材の少なくとも一部に磁化した部材を用いるようにすれば、紐状可動部材の動きに伴う磁束の変化の検出により、シートの異常形状の発生を検知でき、例えば非磁性の締結部材により綴じられたシートの給送異常をも間接的に検知することができる。
【0036】
また、金属製の締結部材の直接検知機能を実装せず、シートを押さえる紐状可動部材をはじめとする何らかの可動部材の動きを検知することで、間接的に締結部材を検知する機能を実装することも可能である。例えば、可動部材に電波発振器、発光器、発音器等を実装した位置基準部を設け、この位置基準部の動きを検知するセンサ等の移動状態検知手段をシート積載部やその近隣に配置した構成において、位置基準部の動きを検知した際にシートの給送異常と判断してもよい。このような構成によっても、シートの給送異常を精度よく検知することが可能である。
【実施例2】
【0037】
本実施形態は実施例1の変形例である。実施例1で説明した金属検知部は、微小な金属部材を検知可能とするために、コイルや検知回路の個体差を吸収するための検知回路の感度調整を行う必要があった。また、微小な金属部材を検知できるように金属検出感度を高めているため、シート給送装置の外にある金属部材、例えば机や近傍にあるPC、ディスプレイ等に含まれる金属部材や、地磁気等の影響を受けやすくなっていた。
【0038】
特に、コイル方式の金属検知部は、金属の接近によって発生するコイルのインダクタンスやインピーダンスの変化を、共振回路の共振周波数の変化量を用いて測定しているので、外部からの影響を受けやすい。また、この方式では積載するシートとコイルの間にある浮遊容量の変化によっても共振周波数が若干変化する。よってコイル式金属検知部を一つ有する構成において、その金属検知部からの金属検知出力値の変化に基づく金属検知を行うと、シートとコイルの間にある浮遊容量の変化の影響や地磁気の影響等を考慮することが難しいため、金属検知感度が落ちる場合がある。
【0039】
これらの問題を解決するために、本実施形態ではシート積載部の下流側端部又はその近傍に複数の金属検知部を並べて配置し、それらの出力変化の相違から金属部材の接近や離間を検知するように構成した。図12は、シート積載部の下流側端部又はその近傍に2つの金属検知部をシート幅方向に並べて配置した場合の一例である。なお、金属検知部は3つ以上でもよい。ここで110−A、110−Bは、ほぼ同じ感度、特性をもつ金属検知部である。 シート積載部にシート束を積載した直後には、金属検知部110−A、110−Bの夫々に対してほぼ等距離の位置に紐状可動部材が垂れ下がるようになっている。シートの給送を開始する前に、金属検知部110−A、110−Bからのそれぞれの金属検知出力値を図示しない制御部内の記憶部に記憶しておく。
【0040】
次に、シートの給送を開始した後、金属検知部110−A、110−Bの出力値の変化を観測する。このとき、図14の左端部に例示するように金属検知部110−A、110−Bの金属検知出力値が同じように、相関のある変化を示した場合には、シートとコイルの間の浮遊容量変化や、外部の金属の接近等によるものであるとし、金属締結部品による変化でもなく、紐状可動部材の移動による変化でもないと判断する。逆に図14の中央部に例示するように、金属検知部110−A、110−Bの金属検知出力値351、352の差が、例えば差分値354から、差分値356に大きく変化した場合には、すなわち相関の少ない変化を示した場合には、どちらかの金属検知部が金属を検知したとして、シートの給送を中止する。この、金属検知出力値の差は上述の不図示のマイクロコンピュータ等で算出することが好適であるが、ハードウエア回路等で求めてもよい。
【0041】
図15、16は、金属検知出力値351、352の差361を表したグラフである。例えば、図5の様に、シート束の片側にステイプルやクリップの金属締結部材がある場合、金属検知部110−A、110−Bの金属検知出力値の差361が変化する。ここで金属検知出力値の差361が差分上限閾値362を越えたときに2つの金属検知部の一方が金属締結部材を検知したとして、以降の給送を停止する。逆に、他方の金属検知部が金属を検知した場合には、図16の様に金属検知出力値の差361が低下するので、差分下限閾値363を越えたときに金属締結部材を検知したとして、以降の給送を停止する。
【0042】
非金属締結部材によって綴じられたシート束や、金属検知部110−A、110−Bの検知範囲から外れる位置に金属締結部品がある場合については、実施例1と同様に、シートの跳ね上がりに起因する紐状可動部材の移動により検知できる。シートの跳ね上がりにより、紐状可動部材と金属検知部110−Aとの間の距離及び、紐状可動部材と金属検知部110−Bとの距離の少なくとも一方が変化するので、金属検知部110−A、110−Bの金属検知出力値の差が変化する。この変化を検知した時に異常給送状態と判断して、給送の停止を行う。
【0043】
また、図13に示す様に、シート給送方向に金属検知部110−A、110−Bを並べて配置することも効果的である。なお、3つ以上の金属検知部を配置してもよい。この構成では、例えば図17の様に締結部材によって締結されたシート束を給送し、シートの跳ね上がりが発生した場合には、シート給送方向下流側に配置する金属検知部110−Bと紐状可動部材の距離が先に拡大し、金属検知出力値が低下する。シート給送方向上流側に配置する金属検知部110−Aと紐状可動部材の距離は変化が少なく、金属検知出力値の変化も少ない。このような金属検知出力値の差の変化により給送異常と判断して、シートの給送を停止する。
【0044】
以上の様に、複数の金属検知部を並べて配置する事で、金属検知精度が向上し、より的確にステイプルやクリップ等の金属製締結部品の検知だけでなく、非金属締結部品等による給送異常についても効果的に検出することができる。
【実施例3】
【0045】
本実施形態では、図18に示す様に、シートの側部に接してシートを斜行しないように規制しながらガイドする、移動可能なシート規制板等のシート規制部103に金属検知部110−A、110−Bを設ける事を特徴としている。なお、シートの側部に接してシートをガイドするシート規制板等は位置が固定されていてもよい。
【0046】
一般にステープル等の金属締結部材は、シート束の前端部、後端部、左端部、右端部付近を綴じるために用いられることが多い。よって、金属検知部をシート積載部の左右にあるシート規制部に設ける事で、効果的に金属締結部材を検知することができる。また、紐状可動部材がシート束を押さえた状態にて、シート規制部近傍を通過するように構成した場合は、実施例1や2と同様の金属製紐状可動部材の移動検知による間接的な給送異常の検知が行える。また、紐状可動部材をシート規制部のいずれかの部分に取り付けて、金属検知部の近傍に金属製紐状可動部材が垂れ下がるような構成にしても良い。
【0047】
また、図18の本実施形態の金属製紐状可動部材の代わりに、図19、図20に示すような金属可動部材116を、金属検知部に接近可能な位置に設けてもよい。図20はシート規制部の拡大図である。この変形例ではシート規制部103に金属検知部110と、跳ね上がるシートにより押されると矢印方向に回動する、一部又は全て金属製の可動部材116を設ける。これにより、シートの左右に配置した可動部材116の回動を検知することでシートの給送異常によるシートの跳ね上がりを間接的に検知することができる。なお、シート束の表面に接するように可動部材116は重力により回動することが望ましい。またシート束の表面に接するように可動部材116をバネ等で付勢してもよい。
【符号の説明】
【0048】
F シート
100 シート給送装置
101 シート積載部
102 紐状可動部材
103 シート規制部(シート規制板)
104 上部ユニット
105 スタートボタン
107 固定部材
110 金属検知部
110−A 金属検知部
110−B 金属検知部
116 金属可動部材
120 金属製締結部材
201 画像読取装置
203 シート積載台
204 シート検知手段
206 送りローラ
207 分離ローラ
208、211 搬送ローラ対
209、210 画像読取センサ
301 検知コイル
302 信号出力部
303 周波数計測器
304 シールド部材
305 シート検知センサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シートを積載するシート積載部と、
該シート積載部からシートを1枚ずつ給送する分離給送部と、
前記シート積載部に積載したシートの表面に接し、当該シートの姿勢を保持することが可能な可動部材と、
前記可動部材の接近及び離間の少なくとも一方を検知可能な挙動検知手段を有し、
該挙動検知手段の検知により、シートの給送異常を検知することを特徴とするシート給送装置。
【請求項2】
シートを綴じる金属締結部材を検知可能な金属検知手段と、
該金属検知手段によって金属を検知した時にシートの給送を停止する手段を有し、
前記可動部材の少なくとも一部は金属で構成され、前記金属検知手段が前記挙動検知手段を兼ねることを特徴とする請求項1に記載のシート給送装置。
【請求項3】
前記金属検知手段をシート給送口又はその近傍に配置し、前記可動部材の一部が前記シート積載部の上流部より前記金属検知手段の設置位置又はその近傍に垂下する配置にしたことを特徴とする請求項2に記載のシート給送装置。
【請求項4】
前記シート積載部に積載したシートの側部に接しシートの位置を規制する規制部を有し、
前記金属検知手段を前記規制部に配置し、前記可動部材の少なくとも一部が前記金属検知手段の設置位置又はその近傍に接近可能な位置に、前記可動部材を配置したことを特徴とする請求項2に記載のシート給送装置。
【請求項5】
複数の前記金属検知手段を有し、該複数の金属検知手段の出力変化に基づいて、金属締結部材または、シートの給送異常を検知することを特徴とする請求項2又は3に記載のシート給送装置。
【請求項6】
前記可動部材は、前記シート給送装置の吊り下げ保持部材としての機能を持つことを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載のシート給送装置


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【公開番号】特開2012−51718(P2012−51718A)
【公開日】平成24年3月15日(2012.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−197553(P2010−197553)
【出願日】平成22年9月3日(2010.9.3)
【出願人】(000104652)キヤノン電子株式会社 (876)
【Fターム(参考)】