説明

シーリングシステム

【課題】耐久性の向上を図ったシーリングシステムを提供する。
【解決手段】ダストシールが、第1ダストシール100と、この第1ダストシール100よりも大気側に設けられる第2ダストシール200とから構成され、これら第1ダストシール100及び第2ダストシール200は、いずれも軸の外周面に摺動自在に構成されたシールリップを有するシーリングシステムにおいて、第1ダストシール100のシールリップ121,122はウレタンゴムから構成されており、第2ダストシール200におけるシールリップ221は、ウレタンゴムよりも柔軟性の高いゴムから構成され、かつ大気側に向かって伸びるシールリップ221のみから構成されていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ダストシールを備えるシーリングシステムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば、建設機械用の油圧シリンダにおいては、シリンダ(ハウジング)とピストン(軸)との間の環状隙間を封止するために、複数のシールから構成されるシーリングシステムが用いられる。かかるシーリングシステムは、油などの密封対象流体の漏れを防ぐメインシールと、ダストが密封領域内に侵入するのを防ぐダストシールとを備えている。一般的には、ダストシールはウレタンゴム製のものが大気側に1つだけ配置される。
【0003】
しかしながら、非常に過酷な環境下で利用される場合には、ダストシールが2つ並べて用いられる。なお、非常に過酷な環境下で利用される場合の例として、鉄鉱石の採掘場にて用いられ、ダストとして、粉塵以外に、氷結した物質,ピストン表面に固着する物質、及び泥土などが含まれるような場合がある。
【0004】
このような従来例に係るシーリングシステムについて、図8及び図9を参照して説明する。図8は従来例に係るシーリングシステムの使用状態を示す模式的断面図である。図9は従来例に係るシーリングシステムにおける第2ダストシールを模式的に示す平面図である。
【0005】
図示の従来例に係るシーリングシステムは、ハウジング500に設けられた軸孔の内周面と、該軸孔に挿通される軸300の外周面との間の環状隙間を封止するために用いられるものである。そして、この従来例に係るシーリングシステムは、密封対象流体が大気側(A)に漏れるのを防ぐメインシール600と、ダストが密封対象流体側(O)に侵入するのを防ぐダストシール700とを備えている。この従来例では、ダストシール700は、メインシール600側に設けられる第1ダストシール710と、この第1ダストシール710よりも大気側に設けられる第2ダストシール720から構成されている。
【0006】
ここで、ハウジング500は、ハウジング本体510と、このハウジング本体510に対して、ボルトなどによって締結及び締結解除自在に構成される被締結部材520とから構成される。
【0007】
ハウジング本体510の軸孔の内周面には、環状溝511が設けられている。この環状溝511内に、メインシール600が装着される。なお、この従来例においては、メインシール600は、断面がU字形状のU字パッキン610と、U字パッキン610における大気側(A)の内周端縁を保護するためのバックアップリング620とから構成される。
【0008】
また、ハウジング本体510の軸孔の大気側(A)の開口端部には、段差を形成する環状凹部512が設けられている。この環状凹部512内に、第1ダストシール710が装着される。第1ダストシール710は、金属環711と、この金属環711に一体的に設けられるシール本体712とから構成される。この第1ダストシール710は、被締結部材520が締結されることにより、軸方向に位置決めされた状態で固定される。
【0009】
また、被締結部材520の軸孔の大気側(A)の開口端部には、段差を形成する環状凹部521が設けられている。この環状凹部521内に、第2ダストシール720が装着される。第2ダストシール720は、第1ダストシール710と同様に、金属環721と、この金属環721に一体的に設けられるシール本体722とから構成される。この第2ダ
ストシール720は、被締結部材520の軸孔の内周面に設けられた環状溝に、止め輪530が嵌め込まれることにより、軸方向に位置決めされた状態で固定される。
【0010】
このように、この従来例に係るシーリングシステムにおいては、ダストシールが2つ並べて用いられる。したがって、ダストシールが1つだけの場合に比べて、密封対象流体側(O)にダストが侵入してしまうことを、より確実に防ぐことができる。
【0011】
ここで、第1ダストシール710に関しては、一般的なダストシールと同様に、周方向に対して切断された部分はない。そのため、組立時においては、軸300の端部側から第1ダストシール710を嵌めていく、あるいは、第1ダストシール710に対して軸300を挿入する作業が必要となる。
【0012】
これに対して、第2ダストシール720に関しては、大気に曝されるため、非常に過酷な環境下で利用される場合には、劣化の進行が激しい。例えば、シール本体722に泥水等が付着してこびりついてしまったり、シール本体722に付着した泥水等が氷結してしまったりし、その状態でシール本体722と軸300が摺動することによって、シール本体722のシールリップの摩耗が促進されてしまう。
【0013】
このように、第2ダストシール720は、劣化してしまい易いため、簡単に交換できるように構成されている。より具体的には、第2ダストシール720は、2つに分割された構成となっている。すなわち、図9に示すように、上面側から見て円形のものを2つに切断し、半円形状の2つの部材で構成するようにしている。これにより、分割された各部材を軸300の外周側から着脱できるため、被締結部材520をハウジング本体から外して、劣化したものを取り外し、新しいものを付けた状態で再び被締結部材520を締結させるだけで第2ダストシール720を簡単に交換することができる。
【0014】
しかしながら、第2ダストシール720は、製造上、まず上面側から見て円形のものを作成した後に、切断によって2つに分割される。そして、第2ダストシール720は金属環721を備えているため、金属環721の部分を切断するために、ある程度の厚みを有する刃によって切断しなければならない。なお、一般的には、グラインダーなどによって切断する。
【0015】
そのため、切断によって、金属環721の一部とシール本体722の一部は、削り取られることになる(図9中のC1とC2は削り取られる部分を示している)。従って、2つに分割されたものを合わせても完全な円にはならず、ハウジング500に装着した状態で、切断端部同士の間に隙間が生じることを避けることができない。具体的には、最大で2.5mm程度の隙間が発生している。そのため、この隙間からのダストの侵入を防止することができない。
【0016】
この対策として、本願の出願人は、第2ダストシールとして、ウレタンゴムのみからなりかつ削り代を不要とする程度の薄い刃によって、周方向の1箇所のみ切断したものを採用した技術に関して既に出願している(特願2007−63531)。
【0017】
しかし、この技術の場合においても、切断部を有するため、特に微細なダストの侵入を十分に防止するのは難しい。第2ダストシールから一旦ダストが侵入すると、リップの摩耗が促進され、ダストの侵入を助長してしまう。
【0018】
第2ダストシールから侵入したダストは、第1ダストシールによって、メインシール側への侵入は阻止される。しかしながら、第1ダストシールと第2ダストシールとの間の密閉領域に、ダストが堆積していく。この密閉領域に堆積したダストは、第1ダストシール
と第2ダストシールによって封止された状態になるため、この密閉領域から逃げることができない。従って、堆積量が所定量を超えると、第1ダストシールと第2ダストシールに対して負荷(堆積したダストによる圧力)がかかる。そして、この負荷によって、第1ダストシールや第2ダストシールが破損するおそれがある。
【0019】
ダストの堆積は、氷結した物質や泥土よりも、粉塵などの微細なダスト(粒径10μm以下のダスト)の場合に起こり易い。そして、このような微細なダストは、第2ダストシールがウレタンゴムのように比較的硬質の材料で構成される場合には、切断部からだけでなく、リップの先端側からも侵入してしまう。
【0020】
このように、第2ダストシールから侵入して堆積したダストが、第1ダストシールや第2ダストシールを破損させる原因となり、これらのダストシールの寿命を短くする原因となっていた。
【0021】
なお、関連する技術としては、特許文献1〜4に開示されたものがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0022】
【特許文献1】実公平5−14050号公報
【特許文献2】特開2001−355739号公報
【特許文献3】実開昭59−22360号公報
【特許文献4】実開平5−83410号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0023】
本発明の目的は、耐久性の向上を図ったシーリングシステムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0024】
本発明は、上記課題を解決するために以下の手段を採用した。
【0025】
すなわち、本発明のシーリングシステムは、
ハウジングに設けられた軸孔の内周面と、該軸孔に挿通され、かつ該ハウジングに対して相対的に往復移動する軸の外周面との間の環状隙間を封止するシーリングシステムであって、
密封対象流体が大気側に漏れるのを防ぐメインシールと、
該メインシールよりも大気側に配置されて、ダストが密封対象流体側に侵入するのを防ぐダストシールと、
を備え、
ダストシールが、第1ダストシールと、この第1ダストシールよりも大気側に設けられる第2ダストシールとから構成され、これら第1ダストシール及び第2ダストシールは、いずれも前記軸の外周面に摺動自在に構成されたシールリップを有するシーリングシステムにおいて、
第1ダストシールのシールリップはウレタンゴムから構成されており、
第2ダストシールにおけるシールリップは、前記ウレタンゴムよりも柔軟性の高いゴムから構成され、かつ大気側に向かって伸びるシールリップのみから構成されていることを特徴とする。
【0026】
ここで、ウレタンゴムから構成されるシールリップは、軸の外周表面に固着したダストを掻き落とす機能に優れている。一方、ウレタンゴムよりも柔軟性の高いゴム(例えば、NBR)で構成されるシールリップは、微細なダストの侵入を抑制する機能に優れている

【0027】
本発明においては、上記の通り、大気側に、シールリップがウレタンゴムよりも柔軟性の高いゴムから構成された第2ダストシールが設けられている。従って、この第2ダストシールによって、微細なダストの侵入を抑制することができる。また、第2ダストシールから侵入し、軸の外周表面に固着したダストは、シールリップがウレタンゴムから構成された第1ダストシールによって掻き落とされる。そして、第2ダストシールにおけるシールリップは、大気側に向かって伸びるシールリップのみから構成されているため、第1ダストシールによって掻き落とされたダストは、第2ダストシールにおけるシールリップ先端側から大気側に排出される。従って、第1ダストシールと第2ダストシールとの間の密閉領域にダストが堆積してしまい、これらのダストシールに対して負荷がかかることを抑制できる。
【発明の効果】
【0028】
以上説明したように、本発明によれば、耐久性の向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】図1は本発明の実施例に係るシーリングシステムの模式的断面図である。
【図2】図2は本発明の実施例1に係る第1ダストシール及び第2ダストシールの模式的断面図である。
【図3】図3は本発明の実施例2に係る第1ダストシール及び第2ダストシールの模式的断面図である。
【図4】図4は本発明の実施例3に係る第1ダストシール及び第2ダストシールの模式的断面図である。
【図5】図5は本発明の実施例4に係る第1ダストシール及び第2ダストシールの模式的断面図である。
【図6】図6は本発明の実施例5に係る第1ダストシール及び第2ダストシールの模式的断面図である。
【図7】図7は本発明の実施例6に係る第1ダストシール及び第2ダストシールの模式的断面図である。
【図8】図8は従来例に係るシーリングシステムの使用状態を示す模式的断面図である。
【図9】図9は従来例に係るシーリングシステムにおける第2ダストシールを模式的に示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下に図面を参照して、この発明を実施するための形態を、実施形態及び実施例に基づいて例示的に詳しく説明する。ただし、この実施形態及び実施例に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対配置などは、特に特定的な記載がない限りは、この発明の範囲をそれらのみに限定する趣旨のものではない。
【0031】
(実施形態)
図1を参照して、本発明の実施形態に係るシーリングシステムについて説明する。図1は本発明の実施例に係るシーリングシステムの模式的断面図である。
【0032】
<シーリングシステム>
本実施形態に係るシーリングシステムは、ハウジング500に設けられた軸孔の内周面と、該軸孔に挿通される軸300の外周面との間の環状隙間を封止するために用いられるものである。より具体的な例としては、建設機械用の油圧シリンダなどに用いられる。油圧シリンダの場合には、シリンダがハウジング500に相当し、ピストンが軸300に相
当し、ハウジング500内において、軸300が往復移動する。
【0033】
そして、本実施形態に係るシーリングシステムは、密封対象流体(例えばオイル)の圧力を緩衝するバッファリング400と、密封対象流体が大気側(A)に漏れるのを防ぐメインシール600と、ダストが密封対象流体側(O)に侵入するのを防ぐ第1ダストシール100及び第2ダストシール200とを備えている。
【0034】
ここで、ハウジング500は、ハウジング本体510と、このハウジング本体510に対して、ボルトなどによって締結及び締結解除自在に構成される被締結部材520とから構成される。
【0035】
ハウジング本体510の軸孔の内周面には、第1環状溝511及び第2環状溝514が設けられている。そして、第1環状溝511にバッファリング400が装着され、第2環状溝514にメインシール600が装着される。なお、本実施例においては、メインシール600は、断面がU字形状のU字パッキン610と、U字パッキン610における大気側(A)の端縁を保護するためのバックアップリング620とから構成される。U字パッキン610は、軸300に対して摺動するシールリップを備えている。
【0036】
そして、ハウジング本体510の軸孔の大気側(A)の開口端部には、段差を形成する環状凹部513が設けられている。この環状凹部513内に、第1ダストシール100が装着される。また、被締結部材520の大気側(A)の開口端部には、段差を形成する環状凹部521が設けられている。この環状凹部521内に、第2ダストシール200が装着される。
【0037】
<ダストシール>
第1ダストシール100は、メインシール600側に設けられ、第2ダストシール200は、この第1ダストシール100よりも大気側に設けられる。また、第1ダストシール100及び第2ダストシール200は、周方向のいずれの箇所にも切断部は設けられていない。
【0038】
本実施形態に係るシーリングシステムは、鉄鉱石採掘場などの非常に過酷な環境下において用いられることも想定されている。そのため、ダストシールによって侵入を防ぐ対象となるダストには、粉塵などの微細なダストの他、氷結した物質,泥土、及び鉄鉱石の粒など、軸300の表面に固着し易いものやある程度大きく硬いものも含まれる。
【0039】
第1ダストシール100は、軸300の外周面に摺動自在に構成されたシールリップを有している。また、この第1ダストシール100におけるシールリップはウレタンゴムから構成されている。
【0040】
第2ダストシール200は、軸300の外周面に摺動自在に構成されたシールリップを有している。そして、この第2ダストシール200におけるシールリップは、ウレタンゴムよりも柔軟性の高いゴム(例えば、NBR)から構成され、かつ大気側に向かって伸びるシールリップのみから構成されている。
【0041】
ここで、ウレタンゴムから構成されるシールリップは、軸300の外周表面に固着したダストを掻き落とす機能に優れている。一方、ウレタンゴムよりも柔軟性の高いゴムで構成されるシールリップは、微細なダストの侵入を抑制する機能に優れている。
【0042】
<本実施形態に係るシールシステムの優れた点>
本実施形態に係るシールシステムにおいては、大気側に、シールリップがウレタンゴム
よりも柔軟性の高いゴムから構成された第2ダストシール200が設けられている。従って、この第2ダストシール200によって、微細なダストの侵入を抑制することができる。
【0043】
また、第2ダストシール200から侵入し、軸の外周表面に固着したダストは、シールリップがウレタンゴムから構成された第1ダストシール100によって掻き落とされる。そして、第2ダストシール200におけるシールリップは、大気側(A)に向かって伸びるシールリップのみから構成されているため、第1ダストシール100によって掻き落とされたダストは、第2ダストシール200におけるシールリップ側から大気側(A)に排出される。従って、第1ダストシール100と第2ダストシール200との間の密閉領域にダストが堆積してしまい、これらのダストシールに対して負荷がかかることを抑制できる。
【0044】
<比較例>
以下、シールリップの構成や材料を変更した場合の比較例について説明する。
【0045】
<<比較例1>>
比較例1では、第1ダストシールとして、本実施例と同じものを採用する。そして、第2ダストシールとして、シールリップの材料は本実施例と同じゴム材料を用い、かつ大気側(A)に向かって伸びるシールリップの他に、密封対象流体側(O)に向かって伸びるシールリップを有するものを採用する。
【0046】
この比較例1においては、第2ダストシールとして、ウレタンゴムよりも柔軟性の高いゴムで構成されるシールリップを採用しているので、微細なダストの侵入を好適に防止することができる。
【0047】
しかしながら、微細なダストを完全に防ぐことができる訳ではないため、経時的に、第1ダストシールと第2ダストシールとの間の密閉領域に微細なダストが堆積する。そして、堆積したダストは、第1ダストシールと第2ダストシールによって封止された状態になるため、この密閉領域から逃げることができない。従って、第1ダストシールと第2ダストシールに対して負荷がかかり、第1ダストシールや第2ダストシールが破損してしまうおそれがある。
【0048】
<<比較例2>>
比較例2では、第2ダストシールとして、本実施例と同じものを採用する。そして、第1ダストシールとして、シールリップの材料をウレタンゴムよりも柔軟性の高いゴムとしたものを採用する。
【0049】
この比較例2においては、第1ダストシールも第2ダストシールもウレタンゴムよりも柔軟性の高いゴムから構成されたシールリップを備えているため、微細なダストの侵入を好適に防止することができる。しかしながら、このようなシールリップでは、軸300の外周表面に固着したダストを掻き落とすことができないため、かかるダストが、メインシール600側に侵入してしまう。従って、メインシール600のシール性が早期に損なわれてしまう。
【0050】
<<比較例3>>
比較例3では、第1ダストシールとして、本実施例と同じものを採用する。そして、第2ダストシールとして、シールリップの材料をウレタンゴムとしたものを採用する。
【0051】
この比較例3においては、第1ダストシールも第2ダストシールもウレタンゴムから構
成されたシールリップを備えているため、軸300の外周表面に固着したダストを、好適に掻き落とすことができる。しかしながら、これらのシールリップでは、微細なダストの侵入を抑制することができない。従って、各シールのシールリップ先端と軸300の外周表面との間に微細なダストが介在してしまうため、各シールリップは、早期に摩耗してしまう。
【0052】
<<比較例4>>
比較例4では、第1ダストシールとして、シールリップの材料をウレタンゴムよりも柔軟性の高いゴムとしたものを採用する。そして、第2ダストシールとして、シールリップの材料をウレタンゴムとしたものを採用する。
【0053】
この比較例4においては、大気側に設けられた第2ダストシールのシールリップはウレタンゴムで構成されているため、第2ダストシールによっては微細なダストの侵入をあまり抑制することができない。従って、第1ダストシールと第2ダストシールとの間の密閉領域に微細なダストが侵入してしまう。そして、第2ダストシールのシールリップは、大気側(A)に向かって伸びるシールリップのみから構成されているものの、ウレタンゴムは剛性が高いため、NBRなどのゴムで構成されたシールリップの場合のように、ダストを大気側(A)に効果的に排出させることはできない。むしろ、第1ダストシールにおける大気側の伸び、かつNBRなどのゴムで構成されたシールリップの方が、密封対象流体側(O)に変形してしまい、このシールリップが破損に至ってしまう。
【0054】
次に、第1ダストシール100と第2ダストシール200のより具体的な例をいくつか説明する。
【0055】
(実施例1)
図2を参照して、本発明の実施例1に係る第1ダストシール及び第2ダストシールについて説明する。図2は本発明の実施例1に係る第1ダストシール及び第2ダストシールの模式的断面図である。
【0056】
本実施例に係る第1ダストシール100は、断面L字形状の金属環110と、この金属環110に一体的に設けられるシール本体120とから構成される。このシール本体120はウレタンゴムにより構成されており、密封対象流体側(O)に伸びる第1シールリップ121と大気側(A)に伸びる第2シールリップ122とを備えている。これらの第1シールリップ121と第2シールリップ122はいずれも軸300に対して摺動する。
【0057】
第1シールリップ121は、メインシール600から漏れた密封対象流体が大気側(A)に漏れてしまうのを抑制する機能を発揮する。そして、第2シールリップ122は、軸300の外周表面に固着したダストを掻き落とす機能を発揮する。
【0058】
また、本実施例に係る第2ダストシール200は、断面L字形状の金属環210と、この金属環210に一体的に設けられるシール本体220とから構成される。このシール本体220はウレタンゴムよりも柔軟性の高いゴム(例えば、NBR)から構成されており、大気側(A)に伸びるシールリップ221を備えている。そして、第2ダストシール200は、微細なダストの侵入を抑制する機能を発揮する。また、第2ダストシール200におけるシールリップ221は、大気側(A)に伸びる構成であるため、大気側(A)に対しては比較的弱い力でも撓む。従って、第1ダストシール100と第2ダストシール200との間の密閉領域に溜まったダストは、シールリップ221の先端側から大気側(A)に排出される。従って、この密閉領域に堆積したダストの負荷が、第1ダストシール100や第2ダストシール200にかかってしまうことを抑制できる。
【0059】
(実施例2)
図3を参照して、本発明の実施例2に係る第1ダストシール及び第2ダストシールについて説明する。図3は本発明の実施例2に係る第1ダストシール及び第2ダストシールの模式的断面図である。
【0060】
本実施例に係る第1ダストシール100は、上記実施例1における第1ダストシールの場合と同一の構成である。そして、本実施例では、第2ダストシール200が2つ並べて設けられている。なお、各第2ダストシール200の構成は、いずれも実施例1における第2ダストシール200と同一の構成である。
【0061】
本実施例に係るダストシールによれば、実施例1の場合に比べて、微細なダストの侵入をより抑制することができる。
【0062】
(実施例3)
図4を参照して、本発明の実施例3に係る第1ダストシール及び第2ダストシールについて説明する。図4は本発明の実施例3に係る第1ダストシール及び第2ダストシールの模式的断面図である。
【0063】
本実施例に係る第2ダストシール200は、上記実施例1における第2ダストシールの場合と同一の構成である。そして、本実施例では、上記実施例1における第1ダストシール100と同一の構成のものの大気側(A)に、更に、これとは異なるように構成された第1ダストシール100aが並べて設けられている。
【0064】
この第1ダストシール100aは、断面L字形状の金属環110aと、この金属環110aに一体的に設けられるシール本体120aとから構成される。このシール本体120aもウレタンゴムにより構成されており、大気側(A)に伸びるシールリップ122aを備えている。この第1ダストシール100aが第1ダストシール100と異なる点は、密封対象流体側(O)に伸びるシールリップを備えていない点である。
【0065】
この第1ダストシール100aにおけるシールリップ122aも、軸300の外周表面に固着したダストを掻き落とす機能を発揮する。
【0066】
本実施例に係るダストシールによれば、実施例1の場合に比べて、軸300の外周表面に固着したダストをより掻き落とすことができる。なお、第1ダストシール100aには、密封対象流体側(O)に伸びるシールリップが備えられていないので、第1ダストシール100によって掻き落とされたダストは、第1ダストシール100aのシールリップ122aの先端側から大気側に排出される。
【0067】
(実施例4)
図5を参照して、本発明の実施例4に係る第1ダストシール及び第2ダストシールについて説明する。図5は本発明の実施例4に係る第1ダストシール及び第2ダストシールの模式的断面図である。
【0068】
本実施例に係る第1ダストシール100は、上記実施例1における第1ダストシールの場合と同一の構成である。そして、本実施例では、第2ダストシール200を3つ並べて設けている。なお、各第2ダストシール200の構成は、いずれも実施例1における第2ダストシール200と同一の構成である。
【0069】
本実施例に係るダストシールによれば、実施例2の場合に比べて、微細なダストの侵入をより抑制することができる。
【0070】
(実施例5)
図6を参照して、本発明の実施例5に係る第1ダストシール及び第2ダストシールについて説明する。図6は本発明の実施例5に係る第1ダストシール及び第2ダストシールの模式的断面図である。
【0071】
本実施例においては、第1ダストシールに関しては、上記実施例3と同様の構成を採用している。すなわち、第1シールリップ121と第2シールリップ122を備える第1ダストシール100と、大気側(A)に伸びるシールリップ122aのみを備える第1ダストシール100aが並べて配置される。
【0072】
そして、第2ダストシールに関しては、上記実施例2と同様の構成を採用している。すなわち、実施例1における第2ダストシール200と同一の構成のものが2つ並べて設けられている。
【0073】
本実施例に係るダストシールによれば、実施例1の場合に比べて、微細なダストの侵入をより抑制することができ、かつ軸300の外周表面に固着したダストをより掻き落とすことができる。
【0074】
(実施例6)
図7を参照して、本発明の実施例6に係る第1ダストシール及び第2ダストシールについて説明する。図7は本発明の実施例6に係る第1ダストシール及び第2ダストシールの模式的断面図である。
【0075】
本実施例に係る第2ダストシール200は、上記実施例1における第2ダストシールの場合と同一の構成である。そして、本実施例に係る第1ダストシール100aは、上記実施例3,5で示した大気側(A)に伸びるシールリップ122aのみを備えるものを採用している。
【0076】
本実施例に係るダストシールによれば、メインシール600から漏れた密封対象流体が大気側(A)に漏れてしまうのを抑制する機能を備えていないことを除いて、上記実施例1の場合と同様の効果を得ることができる。
【0077】
(その他)
上記実施形態では、ハウジング本体510に設けられた環状凹部513に第1ダストシール100が装着され、被締結部材520に設けられた環状凹部521に第2ダストシール200が装着される構成を示した。
【0078】
しかしながら、第1ダストシール100や第2ダストシール200が複数個用いられる場合には、必ずしも、環状凹部513に全ての第1ダストシール100を装着する必要はないし、環状凹部521に全ての第2ダストシール200を装着する必要はない。つまり、最も密封対象流体側(O)に配置される第1ダストシール100を環状凹部513に装着し、最も大気側(A)に配置される第2ダストシール200を環状凹部521に装着すれば、その他のダストシールは、どちらに装着しても構わない。
【符号の説明】
【0079】
100,100a 第1ダストシール
110,110a 金属環
120,120a シール本体
121 第1シールリップ
122 第2シールリップ
122a シールリップ
200 第2ダストシール
210 金属環
220 シール本体
221 シールリップ
300 軸
400 バッファリング
500 ハウジング
510 ハウジング本体
511 第1環状溝
513 環状凹部
514 第2環状溝
520 被締結部材
521 環状凹部
600 メインシール

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハウジングに設けられた軸孔の内周面と、該軸孔に挿通され、かつ該ハウジングに対して相対的に往復移動する軸の外周面との間の環状隙間を封止するシーリングシステムであって、
密封対象流体が大気側に漏れるのを防ぐメインシールと、
該メインシールよりも大気側に配置されて、ダストが密封対象流体側に侵入するのを防ぐダストシールと、
を備え、
ダストシールが、第1ダストシールと、この第1ダストシールよりも大気側に設けられる第2ダストシールとから構成され、これら第1ダストシール及び第2ダストシールは、いずれも前記軸の外周面に摺動自在に構成されたシールリップを有するシーリングシステムにおいて、
第1ダストシールのシールリップはウレタンゴムから構成されており、
第2ダストシールにおけるシールリップは、前記ウレタンゴムよりも柔軟性の高いゴムから構成され、かつ大気側に向かって伸びるシールリップのみから構成されていることを特徴とするシーリングシステム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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