説明

シールチェーン

【課題】密閉性の高いシール機能を長期に亘って維持するとともに、シール機構並びに内プレート及び外プレート等の摩耗を抑制して優れたチェーン強度を発揮するシールチェーンを提供すること。
【解決手段】シール機構130が内プレート111に当接して設けられた第1シール部材131と、第1シール部材131と対向して配置され前記外プレート121に当接して設けられた第2シール部材132とを有し、第1シール部材131が前記第2シール部材132と対向する側の面に環状に形成された一対のリップ131aを有し、第2シール部材132が第1シール部材131と対向する側に第1シール部材131に形成された一対のリップ131aを当接させて摺動する摺動面132bを有するようにしたシールチェーン100。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内プレートと外プレートとの間にシール機構を介在させ、シール機構によりピンの外周面とブシュの内周面とで構成される軸受部に封入された潤滑剤(例えば、潤滑油、グリース、固体潤滑材など)が外部へ漏れ出すのを防止するとともに、外部から異物(例えば、粉塵等)が侵入するのを防止するシールチェーンに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、粉塵の多い雰囲気中において使用される伝動及び搬送手段として、内プレートと外プレートとの間にシール機構を配置して、ブシュの内周面とピンの外周面とで構成される軸受部に封入されたグリース等の潤滑剤が外部に漏れ出すのを防止するとともに外部から異物が侵入することを防止するようにしたシールチェーンが使用されている。
【0003】
そして、このようなシール機構としては従前Oリングのような環状の弾性シール部材が一般的に用いられているが、さらに、シール機能を改善するように、内プレート511と外プレート521とが対向する面の間に互いに対向して配置される一対の環状シール部材531、532を有し、該一対の環状シール部材531、532は互いに対向する面に環状のリップ状凸部531a、532aと環状の凹部531b、532bを有し、環状のリップ状凸部531a、532aの先端部は環状の凹部531b、532bの底部に一対の環状シール部材531、532の弾性により押圧されて当接し、シールチェーンの屈曲時に環状のリップ状凸部531a、532aの先端部と環状の凹部531b、532bの底部とが摺動するシール機構が提案されている(第1の従来技術、特許文献1参照)。
【0004】
また、ピン622に外嵌固定されて外プレート621の内側面に当接するとともにブシュ612の端面と外プレート621の内側面との間に介在するディスク状シール受け部632aと外周側に内プレート611に向けて膨出するリム状シール受け部632bとを有する鋼製の環状シール受け部材632と、内プレート611の外側面から一部突出したブシュ612の外周面に外嵌されて前記環状シール受け部材632と内プレート611との間に介在する第1弾性シールリング631と、環状シール受け部材632の外側に配置されて内プレート611の外側面に当接する鋼製シールリング633と、該鋼製シールリング633の内周面と環状シール受け部材632のリム状シール受け部632bの外周面との間で挟持されて介在する第2弾性シールリング634とから構成されているシール機構も提案されている(第2の従来技術、特許文献2参照)。
【特許文献1】特開2005−76681号公報
【特許文献2】特開2008−157423号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、上述した第1の従来技術のようなシール機構530は、部品点数が多く又リップ状凸部531a、532aを凹部531b、532bに挿入する際等一対の環状シール部材531、532相互の位置調整に手間がかかるため作業性が良くないという問題や、外周側に配置したシール部材の位置が安定せず封入されたグリース等の潤滑剤が漏れ出す虞れがあるというような問題があった。
【0006】
また、上述した第2の従来技術のようなシール機構は、環状シール受け部材632がOリング等の第2弾性シールリング634により押圧されることにより外プレート621の内側面に対し密着するように構成されているが、この第2弾性シールリング634と環状シール受け部材632あるいは鋼製シールリング633とが接着剤等により固定されていないため、例えば第2弾性シールリング634の周囲に潤滑剤が付着した場合等には第2弾性シールリング634と環状シール受け部材632あるいは鋼製シールリング633とが相互に摺動するので第2弾性シールリング634が摩耗してシール性能が低下するという問題があった。
さらに、鋼製の環状シール受け部材632を外プレート621の内側面に押圧した状態で摺動するため、外プレート621の内側面が摩耗する虞れがあり外プレート621の強度低下を招くという問題があった。
【0007】
本発明は上述したような従来技術の問題点を解決するものであって、本発明の技術的課題、すなわち本発明の目的は、密閉性の高いシール機能を長期に亘って維持するとともに、シール機構並びに内プレート及び外プレート等の摩耗を抑制して優れたチェーン強度を発揮するシールチェーンを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1に係る発明のシールチェーンは、一対のブシュの両端部を突出させて一対の内プレートに圧入してなる内リンクと、隣接した前後2つの内リンクの前記ブシュ内にそれぞれ遊嵌される2本のピンの両端部を一対の外プレートに圧入してなる外リンクと、前記内プレートと外プレートの間に配置されるシール機構とを有するシールチェーンにおいて、前記シール機構が、前記内プレートの外プレートと対向する外側面に当接して設けられた第1シール部材と該第1シール部材と対向して配置されて前記外プレートの内プレートと対向する内側面に当接して設けられた第2シール部材とを有し、前記第1シール部材が前記第2シール部材と対向する側の面に環状に形成された一対のリップを有し、前記第2シール部材が前記第1シール部材と対向する側に前記第1シール部材に形成された一対のリップを当接させて摺動する摺動面を有していることにより、前記課題を解決したものである。
【0009】
請求項2に係る発明のシールチェーンは、請求項1に記載の発明の構成に加えて、前記第1シール部材が前記内プレートと当接する面に第1環状溝を有し、前記第2シール部材が前記外プレートと当接する面に第2環状溝を有し、前記第1環状溝及び第2環状溝には潤滑剤が充填され、前記第1シール部材は前記内プレートの外側面に、前記第2シール部材は前記外プレートの内側面にそれぞれ密着されていることにより、前記課題を解決したものである。
【0010】
請求項3に係る発明のシールチェーンは、請求項1または請求項2に記載の発明の構成に加えて、前記第1シール部材又は前記第2シール部材が、弾性体の合成樹脂材料で形成されていることにより、前記課題を解決したものである。
【0011】
請求項4に係る発明のシールチェーンは、請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の発明の構成に加えて、前記第2シール部材が、外周部に前記外プレートと前記内プレートとの間にある隙間を略塞ぐ高さの環状壁を有していることにより、前記課題を解決したものである。
【0012】
請求項5に係る発明のシールチェーンは、請求項1乃至請求項4のいずれかに記載の発明の構成に加えて、前記第1シール部材が、前記ブシュの端部に圧入固定されていることにより、前記課題を解決したものである。
【0013】
請求項6に係る発明のシールチェーンは、請求項1乃至請求項5のいずれかに記載の発明の構成に加えて、前記第2シール部材の外周部に一体的に形成された環状のシールリングが、前記外プレートの内側面に設けた嵌合溝に圧入固定されていることにより、前記課題を解決したものである。
【0014】
請求項7に係る発明のシールチェーンは、請求項1乃至請求項6のいずれかに記載の発明の構成に加えて、前記第2シール部材の前記摺動面が前記第1シール部材に形成された前記一対のリップの間に対向して位置するよう環状に形成された突起を有しているとともに、前記シール機構が前記第1シール部材に形成された一対のリップと前記第2シール部材に形成された突起とでラビリンス構造を呈していることにより、前記課題を解決したものである。
【0015】
請求項8に係る発明のシールチェーンは、請求項1乃至請求項7のいずれかに記載の発明の構成に加えて、前記第1シール部材の外周側端面が、前記内プレートに接近するに従って大径となり前記内プレートの外側面と鋭角をなして当接していることにより、前記課題を解決したものである。
【0016】
請求項9に係る発明のシールチェーンは、請求項1乃至請求項8のいずれかに記載の発明の構成に加えて、前記第2シール部材の内周側端面が、前記外プレートに接近するに従って大径となり前記外プレートの内側面と鋭角をなして当接していることにより、前記課題を解決したものである。
【発明の効果】
【0017】
本発明のシールチェーンは、一対のブシュの両端部を突出させて一対の内プレートに圧入してなる内リンクと、隣接した前後2つの内リンクのブシュ内にそれぞれ遊嵌される2本のピンの両端部を一対の外プレートに圧入してなる外リンクと、内プレートと外プレートの間に配置されるシール機構とを有しているので、ブシュの内周面とピンの外周面とで構成される軸受部に封入された潤滑剤を封止できるとともに、以下のような本発明に特有の効果を奏するものである。
【0018】
すなわち、請求項1に係る発明のシールチェーンによれば、シール機構が、内プレートの外プレートと対向する外側面に当接して設けられた第1シール部材とこの第1シール部材と対向して配置されて外プレートの内プレートと対向する内側面に当接して設けられた第2シール部材とを有し、第1シール部材が第2シール部材と対向する側の面に環状に形成された一対のリップを有し、第2シール部材が第1シール部材と対向する側に第1シール部材に形成された一対のリップを当接させて摺動する摺動面を有していることにより、第1シール部材に形成されたリップと第2シール部材の摺動面とが摺動するのみで、内プレートと第1シール部材との間又は外プレートと第2シール部材との間において相互に摺動する可能性が大幅に減少し、外プレート及び内プレートの摩耗が著しく減少するため、チェーン強度の低下を招くこともなくなり、全体として長寿命化を図ることができる。
また、第1シール部材に形成された一対のリップが当接する箇所が、第1の従来技術のような溝ではなく第2シール部材に平面状に形成された摺動面となるので、第1シール部材と第2シール部材との位置合わせが容易となり組み立て時の作業性を向上することができる。
【0019】
請求項2に係る発明のシールチェーンによれば、請求項1に記載の発明が奏する効果に加えて、第1シール部材が内プレートと当接する面に第1環状溝を有し、第2シール部材が外プレートと当接する面に第2環状溝を有し、第1環状溝及び第2環状溝には潤滑剤が充填され、第1シール部材は内プレートの外側面に、第2シール部材は外プレートの内側面にそれぞれ密着されていることにより、これら2つの環状溝から気体が排除されて各プレートと各々のシール部材との密着性が向上し、内プレートと第1シール部材との間の摺動、もしくは外プレートと第2シール部材との間の摺動が生ずる可能性をさらに低減するため、内プレートまたは外プレートの摩耗をさらに軽減してチェーン強度の低下を防止することができる。
【0020】
請求項3に係る発明のシールチェーンによれば、請求項1または請求項2に記載の発明が奏する効果に加えて、第1シール部材又は第2シール部材が弾性体の合成樹脂材料で形成されていることにより、剛性のシール部材を使用する場合に比べ押圧部材を別に設ける必要がなくなるため、部品点数を減らすことができ作業性が向上するとともにコストを低減することができる。
【0021】
請求項4に係る発明のシールチェーンによれば、請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の発明が奏する効果に加えて、第2シール部材が外周部に外プレートと内プレートとの間にある隙間を略塞ぐ高さの環状壁を有していることにより、この環状壁によってもブシュの内周面とピンの外周面とで構成される軸受部に封入された潤滑剤が外部に漏れ出すことを防止できるとともに、外部から粒状物のような異物がシール機構の内部に侵入するのを阻止して内部に配置されている第1シール部材及び第2シール部材等が損傷することを防止できる。
【0022】
請求項5に係る発明のシールチェーンによれば、請求項1乃至請求項4のいずれかに記載の発明が奏する効果に加えて、第1シール部材がブシュの端部に圧入固定されていることにより、第1シール部材が内プレートの外側面に確実に固定されるとともに、ブシュに圧入固定されている内プレートと第1シール部材との間での相対運動が確実に防止されるため、内プレートの摩耗を防止できチェーン強度の低下が防止され、寿命を延ばすことができる。
【0023】
請求項6に係る発明のシールチェーンによれば、請求項1乃至請求項5のいずれかに記載の発明が奏する効果に加えて、第2シール部材の外周部に一体的に形成された環状のシールリングが外プレートの内側面に設けた嵌合溝に圧入固定されていることにより、第2シール部材が外プレートの内側面に確実に固定されるので、外プレートと第2シール部材との間での摺動が確実に防止されるため、外プレートの摩耗を防止できチェーン強度の低下が防止され、寿命を延ばすことができる。
【0024】
請求項7に係る発明のシールチェーンによれば、請求項1乃至請求項6のいずれかに記載の発明が奏する効果に加えて、第2シール部材の前記摺動面に、第1シール部材に形成された一対のリップの間に対向して位置するよう環状に形成された突起を有しているとともに、シール機構が第1シール部材に形成された一対のリップと第2シール部材に形成された突起とでラビリンス構造を呈していることにより、このラビリンス構造によってもブシュの内周面とピンの外周面とで構成される軸受部に封入された潤滑剤が外部に漏れ出すこと防止できるとともに、外部から異物がシール機構の内部に侵入することを防止できる。
【0025】
請求項8に係る発明のシールチェーンによれば、請求項1乃至請求項7のいずれかに記載の発明が奏する効果に加えて、第1シール部材の外周側端面が内プレートに接近するに従って大径となり内プレートの外側面と鋭角をなして当接していることにより、外部から侵入しようとした異物が第1シール部材の外周側端面を押圧すると第1シール部材の外周側端面が内プレートの外側面にさらに押圧されて密着するため、異物が第1シール部材の裏側に侵入することを防止できる。
【0026】
請求項9に係る発明のシールチェーンによれば、請求項1乃至請求項8のいずれかに記載の発明が奏する効果に加えて、第2シール部材の内周側端面が外プレートに接近するに従って大径となり前記外プレートの内側面と鋭角をなして当接していることにより、ブシュの内周面とピンの外周面とで構成される軸受部に封入された潤滑剤に何らかの力が作用し内圧が上昇した場合に、第2シール部材の内周側端面が外プレートの内側面にさらに押圧されて密着するため、潤滑剤が第2シール部材の裏側に侵入し、ここから外部に漏れ出すことを防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の第1実施例であるシールチェーンの概略図。
【図2】図1に示すシールチェーンの断面図。
【図3】図2に示すシールチェーンの要部拡大断面図。
【図4】本発明の第2実施例であるシールチェーンの要部拡大断面図。
【図5】第1の従来技術のシールチェーンの要部拡大断面図。
【図6】第2の従来技術のシールチェーンの要部拡大断面図。
【発明を実施するための形態】
【0028】
本発明は、一対のブシュの両端部を突出させて一対の内プレートに圧入してなる内リンクと、隣接した前後2つの内リンクの前記ブシュ内にそれぞれ遊嵌される2本のピンの両端部を一対の外プレートに圧入してなる外リンクと、内プレートと外プレートの間に配置されるシール機構とを有するシールチェーンにおいて、シール機構が、内プレートの外プレートと対向する外側面に当接して設けられた第1シール部材とこの第1シール部材と対向して配置されて外プレートの内プレートと対向する内側面に当接して設けられた第2シール部材とを有し、第1シール部材が第2シール部材と対向する側の面に環状に形成された一対のリップを有し、第2シール部材が第1シール部材と対向する側に第1シール部材に形成された一対のリップを当接させて摺動する摺動面を有し、密閉性の高いシール機能を長期に亘って維持するとともに、シール機構並びに内プレート及び外プレート等の摩耗を抑制して優れたチェーン強度を発揮するものであれば、その具体的な態様はいかなるものであってもよい。
【0029】
すなわち、シールチェーンを構成するチェーン自体は、内プレートと外プレートの間にシール機構を配置できれば、ローラをブシュに外嵌したローラチェーンであってもブシュチェーンであってもよい。
【0030】
第1シール部材に形成される第1環状溝及び第2シール部材に形成される第2環状溝は、それぞれ同心円状に複数形成されるが、その数は、シールチェーンのサイズ、充填される潤滑剤の性質等を考慮して適宜に決定すればよい。
【0031】
第1シール部材及び第2シール部材は弾性体の合成樹脂材料で成形され、合成樹脂材料としては、耐摩耗性、耐油性、耐熱性等の点から、ニトリルゴム(NBR)、ウレタンゴム(ポリウレタン)、クロロプレンゴム、フッ素ゴム(6フッ化プロピレン・フッ化ビニリデン共重合体)等のゴム類が好ましい。
また、リップの具体的形態については、種々の形状をとり得るが、第1シール部材に形成された摺動面に当接、摺動する先端部を鋭角とした三角形状の断面や円弧状の断面とすると耐久性とシール効果に優れるので好ましい。
また、耐摩耗を考慮すると、リップが形成される第1シール部材は、該リップが当接、摺動する第2シール部材に比べ相対的に硬質のウレタンゴム等の材料を採用し、摺動面を有する第2シール部材は相対的に軟質のNBRゴム等の材料を使用することが好ましい。
【0032】
環状のシールリングと第2シール部材とを一体に形成するに際しては、緩むことがなく強固に固着できる固着手段であれば如何なる手段を用いることもできるが、焼き付けや接着剤によるものが簡便で好ましい。
【実施例】
【0033】
以下、本発明の実施例について図1乃至図4を参照して説明する。図1は本発明の第1実施例であるシールチェーンの概略図を示すものであり、図2は図1に示すシールチェーンの断面図であり、図3は図2に示すシールチェーンの要部拡大断面図であり、図4は本発明の第2実施例であるシールチェーンの要部拡大断面図である。
【0034】
第1実施例のシールチェーン100は、図1乃至図3に示すように、チェーンの長手方向と直交する方向に離間する一対の内プレート111とこの内プレート111に両端部を突出させて圧入した一対の円筒状のブシュ112とこのブシュ112に遊嵌したローラ113とからなる内リンク110と、一対の内プレート111の外側でチェーンの長手方向と直交する方向に離間する一対の外プレート121とブシュ112内に遊嵌され一対の外プレート121に圧入したピン122とからなる外リンク120とが交互に連結され、また内プレート111と外プレート121との間、すなわち、内プレート111の外側面111aと外プレート121の内側面121aとの間にシール機構130が配置されている。
【0035】
そして、ピン122は、図2に示すように内部に油通路122a、122bを、外周面に油通路122bに連通する凹溝122cを備えており、ピン122の一方の端部122dから油通路122a、122b及び凹溝122cを経由してブシュ112の内周面とピン122の外周面とで構成される軸受部に潤滑剤(グリース、オイル等)が供給されるようになっている。
なお、ピン122の外周の凹溝122cはなくともよく、必要に応じて適宜設ければよい。
【0036】
また、前述したシール機構130は、図2に示すように、ブシュ112の端部に圧入して嵌着される第1シール部材131と、外プレート121の内側面121aに圧入固定されたシールリング133に焼き付けて一体化された第2シール部材132とで構成されている。
なお、このシールリング133は必ずしも必須ではなく、何らかの方法により第2シール部材132を外プレートの内側面121aに密着させることができるのであれば、他の方法を講じてもよい。
【0037】
さらに、前述した第1シール部材131が第2シール部材132と対向する面には、先端部が半径方向外方に向いた一対の三角形状をしたリップ131aが環状に形成されており、第1シール部材131が内プレート111と当接する面には、同心円状に2条の溝、すなわち第1環状溝131bが形成されている。
そして、第1シール部材131を装着する際には予め第1環状溝131bにグリース等の潤滑剤が充填される。
これにより、第1シール部材131をブシュ112に装着する際に、第1シール部材131の内周部をブシュ112に圧入するとともに第1シール部材131を内プレート111の外側面111aに押圧すると、第1環状溝131bに充填されたグリースの働きにより内プレート111と第1シール部材131との間から空気が排除され内プレート111と第1シール部材131とが密着性の高い状態で装着されるので、両者が摺動することが防止される。
【0038】
第2シール部材132が第1シール部材131と対向する面には、第1シール部材131に環状に形成されたリップ131aが当接、摺動する摺動面132bが形成されており、また、この摺動面132bには、第1シール部材側に突出して環状の突起132aが第1シール部材131に形成された一対のリップ131aの間に位置するように形成されている。
【0039】
また第2シール部材132が外プレート121と当接する面には、同心円状に2条の溝、すなわち第2環状溝132bが形成されている。
第2シール部材132を装着する際は、第2環状溝132bには第1環状溝131bの場合と同様に予めグリース等の潤滑剤が充填され、外プレート121の内側面121aに形成された嵌合溝121bにシールリング133を圧入するとともに、第2シール部材132を外プレート121の内側面121aに押圧する。
これにより、充填されたグリースの働きにより外プレート121と第2シール部材132との間から空気が排除され外プレート121と第2シール部材132とが密着性の高い状態で装着されるので、両者が摺動することが防止される。
【0040】
さらに、第2シール部材132の外周に内プレート111と外プレートとの間の隙間を塞ぐ程度の高さの環状壁132dが形成されている。この環状壁132dによっても、ブシュ112の内周面とピン122の外周面とで構成される軸受部に封入された潤滑剤が外部へ漏れ出すこと等が防止される。
【0041】
加えて、第1シール部材131としてポリウレタンシールを使用し、第2シール部材132としてはNBRを使用したが、所望の弾性、耐摩耗性を有する材料であればその他の合成樹脂材料を使用してもかまわない。
そして、これら弾性体のシール部材を使用すると、このシール機構を装着したとき2つのシール部材が押圧されてリップ131a等が変形し、弾性体のシール部材の変形により発生する反力により各シール部材が各プレートに押圧されるので、シール部材とプレートとの密着性が向上する。
【0042】
なお、第2シール部材132は環状壁132dの外側にあるシールリング133と焼き付けにより一体に形成されているが、このシールリング133を鋼のような硬質の材料で形成すると、周囲に粉塵等が存在するような環境においてチェーンを使用しても、粉塵がシールリング133により遮断され、シール機構130の内部に存在する各シール部材が粉塵により損傷されることが防止される。
【0043】
以上のようにして得られた本発明の第1実施例であるシールチェーン100によれば、内プレート111の外プレート121と対向する外側面111aに当接して設けられた第1シール部材131と、該第1シール部材131と対向して配置され外プレート121の内プレート111と対向する内側面121aに当接して設けられた第2シール部材132とを有し、第1シール部材131が第2シール部材132と対向する側の面に環状に形成された一対のリップ131aを有し、第2シール部材132が第1シール部材131と対向する側に第1シール部材131に形成された一対のリップ131aを当接させて摺動する摺動面132bを有していることにより、密閉性の高いシール機能を長期に亘って維持するとともに、シール機構130並びに内プレート111及び外プレート121等の摩耗を抑制して優れたチェーン強度を発揮することができる。
【0044】
また、第1シール部材131及び第2シール部材132の材料として弾性体を採用したことでシール性すなわち密閉性が向上し流動性の高い潤滑剤を使用することができるようになったため、第1シール部材131のリップ131aと第2シール部材132の摺動面132bとの間に油膜を形成した状態で摺動させることができ、その結果両シール部材の摩耗を減少させ、シール部材の寿命を延ばすことができる。
【0045】
さらに、第2シール部材132に形成された突起132aは、第1シール部材131に形成されたリップ131aとともにラビリンス構造を呈するものであり、このラビリンス構造はブシュ内周面とピン外周面とで構成される軸受部の封入された潤滑剤が外部に漏れ出すことを防止すること及び外部から異物が侵入することを防止することに役立つものであり、もし第1シール部材に形成されたリップが多少摩耗したとしても、このラビリンス構造により潤滑剤が漏れ出すことを防止でき、しかも簡単な構成のため生産性も高いなど、その効果は甚大である。
【0046】
次に、本発明の第2実施例について図4を参照して説明する。
第2実施例と前述した第1実施例とは、第1シール部材と第2シール部材の端部の形状のみが異なっており、その他の具体的な構成は同様であるから、第1実施例のシールチェーン100と同一の部材に対応して200番台の符号を付し、重複する説明は省略する。
【0047】
図4は、本発明の第2実施例を示したもので、第1実施例と同様に図1に示されるシールチェーンにおける要部拡大断面図である。
本実施例のシール機構230は、図4に示されるように、第1シール部材231の外周側の端部が内プレート211に接近するに従って大径となり、内プレート211の外側面211aと鋭角をなして当接すような外周側端面231cを形成している。
これにより、外部から侵入した異物がこの外周側端面231cに衝突すると、異物から外周側端面231cに印加される押圧力は第1シール部材231を内プレート211の外側面211aに押しつける方向に働くため、異物が侵入した場合に第1シール部材231と内プレート211の外側面211aとの密着性がさらに高められる。
【0048】
また、図4に示されるように第2シール部材232の内周側の端部が外プレート221に前記外プレート221に接近するに従って大径となり、外プレート221の内側面121aと鋭角をなして当接するような内周側端面232eを形成している。
これにより、ブシュ212の内周面とピン222の外周面とで構成される軸受部に封入された潤滑剤に何らかの力が作用し内圧が上昇した場合には、第2シール部材232の内周側端面232eが外プレート221の内側面221aに対してより強く押圧されて密着する。
【0049】
以上のようにして得られた本発明の第2実施例であるシールチェーン200によれば、内プレート211の外プレート221と対向する外側面に当接して設けられた第1シール部材231と、第1シール部材と対向して配置され外プレート221の内プレート211と対向する内側面221aに当接して設けられた第2シール部材232とを有し、第1シール部材231が第2シール部材232と対向する側の面に環状に形成された一対のリップ231aを有し、第2シール部材232が第1シール部材231と対向する側に前記第1シール部材231に形成された一対のリップ231aを当接させて摺動する摺動面232bを有していることにより、密閉性の高いシール機能を長期に亘って維持するとともに、シール機構230並びに内プレート211及び外プレート221等の摩耗を抑制して優れたチェーン強度を発揮するシールチェーン200を提供できる。
【0050】
また、外周端面231cの形状を上記のごとく形成したことにより、異物が侵入した場合に第1シール部材231と内プレート211の外側面211aとの密着性がさらに向上し異物が第1シール部材231と内プレート211の内側面211aとの間に侵入することが防止されるため、第1シール部材231の性能を長期にわたって維持できる。
さらに、第2シール部材232の内周側端面232eを上記のごとく形成したことにより、第2シール部材232の内周側端面232e外プレート221との密着性がさらに向上するため、ブシュの内周面とピン外周面とで構成される軸受部の潤滑性能が長期にわたって維持できるなど、その効果は甚大である。
【符号の説明】
【0051】
100、 200 ・・・ シールチェーン
110、 210 ・・・ 内リンク
111、 211 ・・・ 内プレート
111a、211a ・・・ 外側面
112、 212 ・・・ ブシュ
120、 220 ・・・ 外リンク
121、 221 ・・・ 外プレート
121a、221a ・・・ 内側面
121b、221b ・・・ 嵌合溝
122、 222 ・・・ ピン
121a、221a ・・・ 油通路
121b、221b ・・・ 油通路
121c、221c ・・・ 凹溝
121d、221d ・・・ 端部
130、 230 ・・・ シール機構
131、 231 ・・・ 第1シール部材
131a、231a ・・・ リップ
131b、231b ・・・ 第1環状溝
131c、231c ・・・ 外周側端面
132、 232 ・・・ 第2シール部材
132a、232a ・・・ 突起
132b、232b ・・・ 摺動面
132c、232c ・・・ 第2環状溝
132d、232d ・・・ 環状壁
132e、232e ・・・ 内周側端面
133、 233 ・・・ シールリング
511、 611 ・・・ 内プレート
512、 612 ・・・ ブシュ
521、 621 ・・・ 外プレート
522、 622 ・・・ ピン
531、 532 ・・・ 環状シール部材
531a、532a ・・・ リップ状凸部
531b、532b ・・・ 凹部
631 ・・・ 第1弾性シールリング
632 ・・・ 環状シール受け部材
632a ・・・ ディスク状シール受け部
632b ・・・ リム状シール受け部
633 ・・・ 鋼製シールリング
634 ・・・ 第2弾性シールリング

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対のブシュの両端部を突出させて一対の内プレートに圧入してなる内リンクと、隣接した前後2つの内リンクの前記ブシュ内にそれぞれ遊嵌される2本のピンの両端部を一対の外プレートに圧入してなる外リンクと、前記内プレートと外プレートの間に配置されるシール機構とを有するシールチェーンにおいて、
前記シール機構が、前記内プレートの外プレートと対向する外側面に当接して設けられた第1シール部材と該第1シール部材と対向して配置されて前記外プレートの内プレートと対向する内側面に当接して設けられた第2シール部材とを有し、
前記第1シール部材が前記第2シール部材と対向する側の面に環状に形成された一対のリップを有し、
前記第2シール部材が前記第1シール部材と対向する側に前記第1シール部材に形成された一対のリップを当接させて摺動する摺動面を有していることを特徴とするシールチェーン。
【請求項2】
前記第1シール部材が前記内プレートと当接する面に第1環状溝を有し、前記第2シール部材が前記外プレートと当接する面に第2環状溝を有し、前記第1環状溝及び第2環状溝には潤滑剤が充填され、前記第1シール部材は前記内プレートの外側面に、前記第2シール部材は前記外プレートの内側面にそれぞれ密着されていることを特徴とする請求項1に記載のシールチェーン。
【請求項3】
前記第1シール部材又は前記第2シール部材が、弾性体の合成樹脂材料で形成されていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のシールチェーン。
【請求項4】
前記第2シール部材が、外周部に前記外プレートと内プレートとの間にある隙間を略塞ぐ高さの環状壁を有していることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載のシールチェーン。
【請求項5】
前記第1シール部材が、前記ブシュの端部に圧入固定されていることを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれかに記載のシールチェーン。
【請求項6】
前記第2シール部材の外周部に一体的に形成された環状のシールリングが、前記外プレートの内側面に設けた嵌合溝に圧入固定されていることを特徴とする請求項1乃至請求項5のいずれかに記載のシールチェーン。
【請求項7】
前記第2シール部材の前記摺動面が前記第1シール部材に形成された前記一対のリップの間に対向して位置するように環状に形成された突起を有しているとともに、
前記シール機構が前記第1シール部材に形成された一対のリップと前記第2シール部材に形成された突起とでラビリンス構造を呈していることを特徴とする請求項1乃至請求項6のいずれかに記載のシールチェーン。
【請求項8】
前記第1シール部材の外周側端面が、前記内プレートに接近するに従って大径となり前記内プレートの外側面と鋭角をなして当接していることを特徴とする請求項1乃至請求項7のいずれかに記載のシールチェーン。
【請求項9】
前記第2シール部材の内周側端面が、前記外プレートに接近するに従って大径となり前記外プレートの内側面と鋭角をなして当接していることを特徴とする請求項1乃至請求項8のいずれかに記載のシールチェーン。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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