説明

シールドガス供給装置及び供給方法

【課題】シールドガスの供給位置を予め設定された照準位置に短時間で精度良く調整することを可能とする。
【解決手段】シールドガス15を溶接部4に供給するシールドガス導入管6と、前記シールドガス導入管6の一端部に設けられた照準用レーザ光導入兼シールドガス継ぎ手7と、を備えたレーザ溶接装置のシールドガス供給装置であって、照準用レーザ光12を、前記照準用レーザ光導入兼シールドガス継ぎ手7を介して前記シールドガス導入管6に導入し当該シールドガス導入管6の内部を通過させて溶接部4に入射させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はレーザ溶接装置に用いられシールドガス供給装置及び供給方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般のレーザ溶接ではレーザ光の照射により溶接部の金属が溶融し溶融池やキーホールが形成される。この溶接部には大気からの遮蔽等のために不活性ガスからなるシールドガスが供給される。図3に示す従来のレーザ溶接装置では、レンズ3で集光された溶接用のレーザ光2が入射される母材1の溶接部4にフィラーワイヤ21を供給するワイヤトーチ20を備え、アルゴンガス等からなるシールドガス15がシールドガス導入管6から溶接部4に供給される。図3の例では、シールドガス導入管6は2つ設けられ、溶接方向前方と後方からシールドガス15を溶接部4に導入する構成となっている(非特許文献1)。
【0003】
このレーザ溶接装置では、フィラーワイヤ21が溶融池5に挿入されているが、フィラーワイヤ21を挿入しない場合にも溶接部を大気から遮蔽するためにシールドガス供給手段が設けられている。
【0004】
図3に示すシールドガス供給手段では、シールドガスの溶接部4への導入方向は母材1を水平0゜として、約45゜以内の角度としている。しかし、厚板の溶接においては、シールドガスの機能として溶融池5の大気からの遮蔽機能の外に、溶融池中の気泡発生防止、溶融池の盛り上がり防止、又はキーホール(図示せず)内部への溶融金属の流れ促進という副次的な機能が要求されている。このような機能を持たせるために、シールドガスの導入の方向を45゜以内とするのが一般的である。
【0005】
また、厚板のレーザ溶接においては、シールドガスの照準位置(狙い位置)が重要になる。シールドガスの照準位置は溶接用のレーザ光2の母材1上の照射位置とは異なる場合もある。例えば、レーザ光2の照射位置から数ミリメートル前方であったり、場合によっては数ミリメートル後方になる等、照射位置からオフセットを持たせた位置にシールドガスの照準を設定することがある。
【0006】
このように、予め定められたシールドガスの照準位置にシールドガスを高精度で供給することは、特に厚板のレーザ溶接において重要なプロセス因子となっている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】”高出力・高輝度レーザによる高張力鋼厚板のホットワイヤ併用突合せ溶接法” 溶接学会論文集 第29巻 第1号 p41-47、2011年2月
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述したように、シールドガスを予め設定された照準位置に高精度で供給することは、特に厚板のレーザ溶接においては重要なプロセス因子となっている。しかしながら、従来のシールドガス供給装置ではシールドガスの供給位置を予め設定された照準位置に短時間で精度良く調整することは非常に困難であった。例えば、シールドガスの供給位置を求めるために、溶接方向に対し垂直な方向からデジタルカメラ等を用いて写真撮影を行い、その写真をパソコン上に取り込み、画像処理ソフト等を用いて、シールドガス導入管の中心線を延長し、母材表面との交点を求め、該交点とレーザ照射位置との距離を写真上から読み取り、シールドガスの供給位置を調整する方法がある。
【0009】
しかしながら、この方法では、写真撮影→シールドガスの供給位置確認→予め設定された照準位置との偏差確認→シールドガス導入管の位置調整→写真撮影というルーチンを繰り返す必要があり、シールドガス導管を所望の位置に決定するまでに多大な作業負担と時間を要するという課題があった。
【0010】
本発明は上記課題を解決するためになされたもので、シールドガスの供給位置を予め設定された照準位置に短時間で精度良く調整することができるシールドガス供給装置及び供給方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は上記課題を解決するためになされたものであり、本発明に係るシールドガス供給装置は、シールドガスを溶接部に供給するシールドガス導入管と、前記シールドガス導入管の一端部に設けられた照準用レーザ光導入兼シールドガス継ぎ手と、を備えたレーザ溶接装置のシールドガス供給装置であって、照準用レーザ光を、前記照準用レーザ光導入兼シールドガス継ぎ手を介して前記シールドガス導入管に導入し当該シールドガス導入管の内部を通過させて溶接部に入射させることを特徴とする。
【0012】
また、本発明に係るシールドガス供給方法は、シールドガスを溶接部に供給するシールドガス導入管に照準用レーザ光を導入し、前記シールドガス導入管の内部を通過した照準用レーザ光を溶接部に入射させ、その反射点を目視又は光検出器で検出することにより、シールドガスの供給位置を予め定められた位置に調整することを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、シールドガスの供給位置を予め設定された照準位置に短時間で精度良く調整することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】第1の実施形態に係るシールドガス供給装置の構成図。
【図2】第2の実施形態に係るシールドガス供給装置の構成図。
【図3】従来のシールドガス供給装置の構成図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明に係るシールドガス供給装置及び供給方法の実施形態について、図面を参照して説明する。
【0016】
[第1の実施形態]
(構成)
第1の実施形態に係るシールドガス供給装置を図1により説明する。
本実施形態のシールドガス供給装置は、例えば内径が約10mmφ以下の金属パイプからなるシールドガス導入管6と、シールドガス導入管6の一端部に設けられた照準用レーザ光導入兼シールドガス継ぎ手7と、照準用レーザ光12を発生させるレーザ光源8と、レーザ光源8からの照準用レーザ光12を照準用レーザ光導入兼シールドガス継ぎ手7に導く光ファイバ9と、シールドガス容器10からのシールドガス15を照準用レーザ光導入兼シールドガス継ぎ手7に供給するシールドガス配管11と、から構成される。
【0017】
レーザ光源8としてヘリウム−ネオンの赤色レーザ発振器が用いられるが、これに限定されず、可視光に波長域を持つレーザ光源であって、JIS−C−6812におけるクラス1からクラス2Mの範囲に該当する出力が約1mV以下のレーザ光源も用いることができる。
【0018】
また、光ファイバーケーブル9を用いずに、照準用レーザ光源8を直接照準用レーザ光導入兼シールドガス継ぎ手7に取り付けるようにしてもよい。
さらに、光ファイバーケーブル9を必要に応じて照準用レーザ光導入兼シールドガス継ぎ手7から取り外し可能とし、その際、気密性を持った閉止栓(図示せず)によって照準用レーザ光導入兼シールドガス継ぎ手7の光ファイバ接続部(図示せず)を閉止するようにしてもよい。
【0019】
(作用)
このように構成されたシールドガス供給装置において、レーザ光源8からの可視領域の照準用レーザ光12を、光ファイバ9を介して照準用レーザ光導入兼シールドガス継ぎ手7に導入し、シールドガス導入管6内部のほぼ中心軸を通過させて母材1表面の溶接部4に入射させ、その入射位置における反射点を目視又は光検出器等(図示せず)により検出する。これによりシールドガス15の供給位置の中心は照準用レーザ光12の入射位置と同じになるので、照準用レーザ光12の反射点を確認することで、シールドガス15の供給位置を明確に同定することが可能となる。
【0020】
照準用レーザ光12の入射位置が予め設定された位置(照準位置)と異なる場合は、適宜、シールドガス導入管6の傾斜角度、位置等を修正し、照準用レーザ光12の入射位置が設定された位置となるように調整する。これによりシールドガス15を溶接部4の所望の位置に供給することができる。
【0021】
(効果)
本第1の実施形態によれば、溶接部に供給されるシールドガスのシールドガス導入管の略中心軸上を可視光の波長域にある照準用レーザ光を通過させて溶接部に入射させることにより、シールドガスの入射位置を予め定められた位置に短時間でかつ高精度で調整することができる。
【0022】
これにより、溶接加工の事前準備に要する時間の短縮化を図ることができるとともに、レーザ溶接装置を移設した場合や溶接ワークの入れ替え等でシールド治具等の再設定が必要な場合においても、シールドガスの供給位置を最適な位置に迅速に調整することができる。
【0023】
[第2の実施形態]
第2の実施形態に係るシールドガス供給装置を図2により説明する。
第2の実施形態ではシールドガス供給装置を複数設け、溶接部4の前後2つの方向からシールドガス15を溶接部4に供給する構成としているが、その際、レーザ光源8a、8bとしてレーザダイオード(LD)を用いるとともに、レーザ光源8a、8bから発生する照準用レーザ光12a、12bを異なる色としている。
【0024】
このように構成されたシールドガス供給装置において、溶接方向前方から溶接部前方の照準点に入射させるレーザ光源8aとして、例えば、600nm台の波長を持つ赤色のレーザを用い、溶接方向後方から溶接部後方の照準点に入射させるレーザ光源8bとして、例えば500nm台に波長を持つ緑色のレーザを用いる。
【0025】
これにより、シールドガス導入管6a、6bから溶接部4に入射する照準用レーザ光12a、12bの色が異なるため、位置調整の際に溶接部前方からのシールドガスの照準位置と、溶接線後方からのシールドガスの照準位置を混同する恐れがなくなる。
【0026】
なお、本第2の実施形態ではレーザダイオードからなるレーザ光源8a、8bはシールドガス導入管6a、6bの一方の端部に設置された照準用レーザ光導入兼シールドガス継ぎ手7a、7bに直接取り付けられているが、これに限定されず、第1の実施形態のように光ファイバーケーブル9によりレーザ光源8a、8bを照準用レーザ光兼シールドガス継ぎ手7a、7bに接続してもよい。
【0027】
また、本第2の実施形態では溶接部4の前後2つの方向からシールドガス15を供給する例を説明したが、側方も含め3以上の方向からシールドガス15を供給する場合にも適用可能であり、その際もそれぞれ色の異なる照準用レーザ光が用いられる。
【0028】
以上、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、組み合わせ、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0029】
1…母材、2…レーザ光、3…レンズ、4…溶接部、5…溶融池、6,6a,6b…シールドガス導入管、7,7a,7b…照準用レーザ光導入兼シールドガス継ぎ手、8,8a,8b…レーザ光源、9…光ファイバーケーブル、10…シールドガス容器、11…シールドガス配管、12,12a,12b…照準用レーザ光、15…シールドガス。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シールドガスを溶接部に供給するシールドガス導入管と、前記シールドガス導入管の一端部に設けられた照準用レーザ光導入兼シールドガス継ぎ手と、を備えたレーザ溶接装置のシールドガス供給装置であって、
照準用レーザ光を、前記照準用レーザ光導入兼シールドガス継ぎ手を介して前記シールドガス導入管に導入し当該シールドガス導入管の内部を通過させて溶接部に入射させることを特徴とするシールドガス供給装置。
【請求項2】
前記照準用レーザ光を発生するレーザ光源を前記照準用レーザ光導入兼シールドガス継ぎ手に直接取り付けるか、又は光ファイバーケーブルを介して前記照準用レーザ光導入兼シールドガス継ぎ手に接続することを特徴とする請求項1記載のシールドガス供給装置。
【請求項3】
前記シールドガス供給装置を複数備え、各シールドガス供給装置から色が異なる照準用レーザ光を溶接部に入射させることを特徴とする請求項1又は2記載のシールドガス供給装置。
【請求項4】
シールドガスを溶接部に供給するシールドガス導入管に照準用レーザ光を導入し、前記シールドガス導入管の内部を通過した照準用レーザ光を溶接部に入射させ、その反射点を目視又は光検出器で検出することにより、シールドガスの供給位置を予め定められた位置に調整することを特徴とするシールドガス供給方法。
【請求項5】
複数のシールドガス導入管から溶接部に入射する照準用レーザ光は、各シールドガス導入管毎に色が異なることを特徴とする請求項4記載のシールドガス供給方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−94831(P2013−94831A)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−241242(P2011−241242)
【出願日】平成23年11月2日(2011.11.2)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】