説明

シールドコネクタ

【課題】一括及び各芯シールドシェルが装着されるコネクタハウジングを共通化させることで、部品点数を低減させる。
【解決手段】弾性変形可能に設けられた弾性係止片25を有してなるコネクタハウジング20と、弾性係止片25と係止可能な一括側被係止部56が形成された一括シールドシェル50と、弾性係止片25と係止可能な各芯側被係止部38が形成された各芯シールドシェル30とを備えたシールドコネクタ10であって、一括シールドシェル50をコネクタハウジング20に装着する際には、弾性係止片25と一括側被係止部56とが係止され、各芯シールドシェル30をコネクタハウジング20に装着する際には、弾性係止片25と各芯側被係止部38とが係止されることで、一括または各芯シールドシェル50,30のどちらか一方がコネクタハウジング20に選択的に固定されるところに特徴を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シールドコネクタに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、複数の電線を一括してシールドする一括シールドコネクタとして、特許文献1に記載のものが知られており、複数の電線を個別にシールドする各芯用シールドコネクタとして、特許文献2に記載のものが知られている。
【0003】
一括シールドコネクタは、複数の電線が後方に引き出された一括用コネクタハウジングと、一括用コネクタハウジングの後方に組み付けられる一括シールドシェルとを備えて構成されている。一括シールドシェルには、前後方向に開口して複数の電線が内部に一括して挿通される一括挿通部が設けられており、この一括挿通部を編組線で覆うことで、一括用コネクタハウジングから後方に引き出された複数の電線が一括してシールドされるようになっている。また、一括用コネクタハウジングには、弾性変形可能な一対の弾性係止片が設けられており、この弾性係止片が前方から一括挿通部内に挿通されて、一括挿通部の後端開口縁部に後方から係止することで、一括用コネクタハウジングの後方に一括シールドシェルが組み付けられるようになっている。
【0004】
一方、各芯シールドコネクタは、複数の電線が後方に引き出された各芯用コネクタハウジングと、各芯用コネクタハウジングの後方に組み付けられる各芯シールドシェルとを備えて構成されている。各芯シールドシェルには、複数の電線を前後方向に個別に挿通する複数の各芯挿通部が設けられており、この各芯挿通部を編組線でそれぞれ覆うことで、各芯用コネクタハウジングから後方に引き出された各電線がそれぞれシールドされるようになっている。また、各芯シールドシェルには、各芯挿通部よりも前方に電線の引き出し方向と直交する方向に設けられた係止孔が形成されており、この係止孔の内周縁部に各芯用コネクタハウジングに設けられた一対の弾性係止片が係止することで、各芯用コネクタハウジングの後方に各芯シールドシェルが組み付けられるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−113910号公報
【特許文献2】特開2010−165512号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、上述のように一括用と各芯用の二種類のシールドコネクタがあると、コネクタハウジングおよびシールドシェルをそれぞれ二種類ずつ管理する必要があり、部品管理が非効率となる虞がある。
【0007】
本発明は上記のような事情に基づいて完成されたものであって、一括及び各芯シールドシェルが装着されるコネクタハウジングを共通化させることで、部品点数を低減させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するための手段として本発明は、複数の電線が引き出され、前記複数の電線が引き出された方向と交差する方向に弾性変形可能に設けられた弾性係止片を有してなる合成樹脂製のコネクタハウジングと、前記複数の電線が引き出された方向に開口して前記複数の電線が一括して挿通される一括シールド接続部を有し、この一括シールド接続部に前記弾性係止片と係止可能な一括側被係止部が形成された金属製の一括シールドシェルと、前記複数の電線の引き出し方向と交差する配置の壁部を有し、この壁部に前記電線の引き出し方向に開口した各芯シールド接続部を複数設けることで、前記複数の電線が前記各芯シールド接続部に個別に挿通され、前記壁部に前記弾性係止片と係止可能な各芯側被係止部が形成された金属製の各芯シールドシェルとを備えたシールドコネクタであって、前記一括シールドシェルを前記コネクタハウジングに装着する際には、弾性変形した前記弾性係止片が弾性復帰して、前記弾性係止片と前記一括側被係止部とが係止され、前記各芯シールドシェルを前記コネクタハウジングに装着する際には、弾性変形した前記弾性係止片が弾性復帰して、前記弾性係止片と前記各芯側被係止部とが係止されることで、前記一括シールドシェルまたは前記各芯シールドシェルのどちらか一方が前記コネクタハウジングに選択的に固定されるところに特徴を有する。
【0009】
このような構成のシールドコネクタによると、弾性係止片と一括シールドシェルの一括側被係止部もしくは各芯シールドシェルの各芯側被係止部とを係止させることで、コネクタハウジングに対して一括シールドシェルまたは各芯シールドシェルを選択的に組み付けることができる。すなわち、コネクタハウジングを一括シールドシェル及び各芯シールドシェルに対して共用することができる。これにより、部品点数を低減することができ、部品管理を容易にすることができる。
【0010】
本発明の実施の態様として、以下の構成が好ましい。
前記一括側被係止部は、前記一括シールド接続部の開口縁部であり、前記各芯側被係止部は、前記壁部を前記複数の電線の引き出し方向に貫通して設けられた貫通孔の開口縁部であって、前記コネクタハウジングは、金属製のケースに設けられた取付孔に嵌合可能に形成されており、前記一括シールドシェル及び各芯シールドシェルには、前記ケースに前記コネクタハウジングの嵌合方向と交差する方向にボルトを締め付けることで、前記シールドシェルを前記ケースに取り付ける取付片が形成されており、前記弾性係止片は、前記コネクタハウジングの嵌合方向及び前記ボルトの締め付け方向の双方と交差する方向に弾性変形可能に形成されている構成としてもよい。
【0011】
コネクタハウジングがケースの取付孔に嵌合されて、コネクタハウジングの挿入方向とボルトの締め付け方向とが異なる取付片によってそれぞれのシールドシェルがケースに固定される場合には、コネクタハウジング及びシールドシェルの製造公差やコネクタハウジングと取付片との間の組み付け公差などにより、例えばシールドシェルがボルトの締め付け方向に押圧されてシールドシェルがボルトの締め付け方向に僅かにずれた状態でケースに固定される虞がある。このような状態において、弾性係止片の弾性変形する方向とボルトの締め付け方向とが同一の場合には、弾性係止片と一括側被係止部及び各芯側被係止部との係止代が減少してしまう。ところが、上記のような構成によると、弾性係止片は、ボルトの締め付け方向と交差する方向に弾性変形可能に形成されていることから、弾性係止片と一括側被係止部及び各芯側被係止部との係止位置とが僅かにずれた場合においても、弾性係止片と一括側被係止部及び各芯側被係止部との係止代が減少することがない。これにより、弾性係止片の弾性変形する方向がボルトの締め付け方向と同一のものに比べて、両シールドシェルに対する弾性係止片の係止力が低下すること抑制することができる。
【0012】
前記一括シールド接続部の開口および前記貫通孔の開口は、前記弾性係止片よりも幅方向に大きく形成されている構成としてもよい。
このような構成によると、コネクタハウジングの挿入方向とボルトの締め付け方向とが異なる場合には、一括側被係止部及び各芯側被係止部に対して弾性係止片がボルトの締め付け方向にずれることで、製造公差やコネクタハウジングとシールドシェルとの間の組み付け公差を吸収することができる。これにより、各被係止部の幅寸法と弾性係止片の幅寸法とが同一のものに比べて、一括シールド接続部の開口縁部及び貫通孔の開口縁部と弾性係止片との間にボルトの締め付けによる応力がかかることを軽減することができる。
【0013】
前記弾性係止片は、前記複数の電線が引き出された電線引き出し部の両側に形成されている構成としてもよい。
このような構成によると、電線引き出し部の両側で両シールドシェルをバランスよく保持することができるので、両シールドシェルに対する弾性係止片の係止力を向上させることできる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、一括及び各芯シールドシェルが装着されるコネクタハウジングを共通化させることで、部品点数を低減させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】コネクタハウジングを斜め後上方から見た斜視図
【図2】コネクタハウジングの背面図
【図3】各芯シールドシェルを斜め後上方から見た斜視図
【図4】各芯シールドシェルの背面図
【図5】コネクタハウジングと各芯シールドシェルとを組み付ける前の状態を示す側面図
【図6】コネクタハウジングと各芯シールドシェルとを組み付けた状態を示す背面図
【図7】図6のVII−VII線断面図
【図8】シールドコネクタをケースに固定した状態を示す一部切欠平面図
【図9】一括シールドシェルを斜め後上方から見た斜視図
【図10】コネクタハウジングと一括シールドシェルとを組み付けた状態を示す断面図
【発明を実施するための形態】
【0016】
<実施形態>
本発明の実施形態について図1乃至図10を参照して説明する。
本実施形態は、図8に示すように、金属製のケースCに設けられた取付孔C1に嵌合されて、ボルト締結されることでケースCに固定されるシールドコネクタ10を例示している。
【0017】
シールドコネクタ10は、図7及び図10に示すように、合成樹脂製のコネクタハウジング20と、後方からコネクタハウジング20に選択的に組み付けられる金属製の各芯シールドシェル30及び金属製の一括シールドシェル50とを備えて構成されている。
【0018】
コネクタハウジング20は、図1及び図2に示すように、ケースCの取付孔C1に嵌合可能な嵌合部21と、この嵌合部21の後面から後方に延びて形成された電線保持部(本発明の「電線引き出し部」の一例)22とを備えて構成されている。嵌合部21は、略円筒形状をなし、嵌合部21の外周面にはゴムリング23が嵌着されている。ゴムリング23は、図8に示すように、嵌合部21がケースCの取付孔C1に嵌合されると、取付孔C1の内周面と嵌合部21の外周面とに密着して、嵌合部21と取付孔C1の内周面との間をシールするようになっている。
【0019】
電線保持部22は、嵌合部21よりも上下方向に小さく、嵌合部21よりも幅方向に横長な形態であって、前後方向に貫通した筒状に形成されている。電線保持部22の内部には、図7及び図10に示すように、上下両側から複数(本実施形態では、二本)の電線Wを上下方向両側から挟み込むことで両電線Wに外嵌される上下一対のホルダ24が保持されており、電線保持部22の後端開口からは二本の電線Wが後方に引き出されている。なお、電線保持部22の内部には、電線保持部22の内周面と電線Wの外周面とに密着する図示しないゴム栓が装着されており、このゴム栓によって電線保持部22と電線Wとの間がシールされるようになっている。
【0020】
各芯シールドシェル30は、導電性を有する金属板材を絞り加工するなどして形成されている。また、各芯シールドシェル30は、図3及び図4に示すように、筒状に形成されたシェル本体部31と、シェル本体部31の前端縁に形成されたフランジ部32と、シェル本体部31の後端部に形成された背面壁(本発明の「壁部」の一例)33と、背面壁33から後方に突出する一対の各芯シールド接続部34とを備えて構成されている。
【0021】
シェル本体部31は、断面長円形状をなし、幅方向に横長に形成されている。シェル本体部31の内部には、図7及び図8に示すように、コネクタハウジング20の電線保持部22が収容されている。
【0022】
フランジ部32は、図3、図7及び図8に示すように、シェル本体部31の前端縁から全周に亘って外方に張り出して形成されており、フランジ部32がコネクタハウジング20の嵌合部21の後面に後方から当接することで、各芯シールドシェル30が正規の位置よりも前方に位置ずれしないように前止めされている。また、フランジ部32は、コネクタハウジング20の嵌合部21及び電線保持部22の外周形状よりも大きく張り出した形態となっており、嵌合部21がケースCの取付孔C1に嵌合されると、フランジ部32が取付孔C1の外周縁部に面接触することで、フランジ部32とケースCとがシールド接続されるようになっている。フランジ部32の右側端縁には、前方に延びて形成された取付片35が形成されている。取付片35には、嵌合部21の嵌合方向と直交する幅方向に貫通するボルト挿通孔36が形成されており、ボルト挿通孔36にボルトBを挿通させて、ボルトBをケースCに対して幅方向に締め付けることで、各芯シールドシェル30がケースCに確実に固定されると共に、ケースCに確実にシールド接続されるようになっている。
【0023】
背面壁33は、電線保持部22から後方に引き出された電線Wの引き出し方向と交差する配置で形成されており、一対の各芯シールド接続部34は、背面壁33の後面に幅方向に二つ並んで形成されている。
【0024】
各芯シールド接続部34は、いずれも円筒形状をなし、前後方向に貫通して形成されている。各芯シールド接続部34の内部には、電線保持部22から後方に引き出された電線Wが個別に挿通されるようになっている。各芯シールド接続部34の外周面には、いずれも編組線HがかしめリングRによってかしめ付けられており、各芯シールド接続部34から後方に引き出された電線Wは編組線Hによって個別に覆われてシールドされている。
なお、図示しないが、各芯シールド接続部34から後方に引き出された全ての電線Wを編組線Hによって一括して覆い、その編組線Hを各芯シールドシェル30のシェル本体部31の外周面にかしめ付けることで、全ての電線Wを一括してシールドすることもできるようになっている。
【0025】
一括シールドシェル50は、各芯シールドシェル30と同様に、導電性を有する金属板材を絞り加工するなどして形成されている。また、一括シールドシェル50は、図9及び図10に示すように、筒状に形成された一括シールド接続部51と、一括シールド接続部51の前端縁に設けられたフランジ部52とを備えて構成されている。
【0026】
一括シールド接続部51は、前後方向に大きく開口した断面長円形状をなし、幅方向に横長に形成されている。一括シールド接続部51の内部には、コネクタハウジング20の電線保持部22が収容されている。一括シールド接続部51の後端開口は、電線保持部22から後方に引き出された全ての電線Wが一括して挿通される一括挿通孔53とされており、一括挿通孔53からは、電線保持部22から後方に引き出された全ての電線Wが後方に引き出されている。また、一括シールド接続部51の外周面には、編組線HがかしめリングRによってかしめ付けられており、一括挿通孔53から後方に引き出された全ての電線Wは編組線Hによって一括して覆われることでシールドされている。
【0027】
フランジ部52は、一括シールド接続部51の前端縁から全周に亘って外方に張り出して形成されており、フランジ部52がコネクタハウジング20の嵌合部21の後面に当接することで、一括シールドシェル50が正規の位置よりも前方に位置ずれしないように前止めされている。また、フランジ部52は、コネクタハウジング20の嵌合部21及び電線保持部22の外周形状よりも大きく張り出した形態となっており、嵌合部21がケースCの取付孔C1に嵌合されると、フランジ部52が取付孔C1の外周縁部と面接触することで、フランジ部52とケースCとがシールド接続されるようになっている。フランジ部52の右側端縁には、前方に延びて形成された取付片54が形成されている。取付片54には、嵌合部21の嵌合方向と直交する方向である幅方向に貫通するボルト挿通孔55が形成されており、ボルト挿通孔55にボルトBを挿通させてボルトBをケースCに対して幅方向に締め付けることで一括シールドシェル50がケースCに確実に固定されると共に、ケースCに確実にシールド接続されるようになっている。
【0028】
さて、コネクタハウジング20の電線保持部22の上下方向両側には、上下方向に弾性変形可能な一対の弾性係止片25が形成されている。各弾性係止片25は、図1及び図7に示すように、電線保持部22の外面から後方に向かって片持ち状に延びる形態をなしている。また、弾性係止片25は、幅方向に扁平な形態であって、弾性係止片25の前端部における幅方向両端部は、嵌合部21の後面から幅方向に対向した形態で延びる一対の補強壁26の後端部と一体に連結されて形成されている。また、各弾性係止片25の後端部には、外方に向かって突出する係止突起27が形成されている。係止突起27は、弾性係止片25の後端縁から前方に向かうほど電線保持部22から離れる傾斜面27Aを有し、傾斜面27Aの後端部から弾性係止片25に沿うように僅かに前方に延びて、その後端部から弾性係止片25に向かって鉛直方向に延びる係止面27Bを有した形態とされている。
【0029】
一方、各芯シールドシェル30の背面壁33には、弾性係止片25が挿通可能な上下一対の貫通孔37が形成されている。一対の貫通孔37は、背面壁33の幅方向略中央部に形成されており、背面壁33を前後方向に貫通して形成されている。また、貫通孔37の幅寸法は、弾性係止片25の幅寸法よりも大きく設定されており、貫通孔37に弾性係止片25が挿通されると、図6に示すように、弾性係止片25の幅方向両端部と貫通孔37の幅方向両側に位置する内面との間に公差吸収空間Sが形成されるようになっている。また、上側の貫通孔37における上側開口縁には、上側に位置する弾性係止片25の係止突起27と係止可能な各芯側被係止部38が上側開口縁の幅方向全体に亘って形成されており、下側の貫通孔37における下側開口縁には、下側に位置する弾性係止片25の係止突起27と係止可能な各芯側被係止部38が下側開口縁の幅方向全体に亘って形成されている。また、上側の各芯側被係止部38と下側の各芯側被係止部38間の距離である各芯側被係止部間距離D1は、図5及び図7に示すように、両弾性係止片25における係止突起27の突出端27C間の距離である弾性係止片間距離D2よりも小さく設定されている。つまり、弾性係止片間距離D2と各芯側被係止部間距離D1との差の半分の長さが弾性係止片25の係止突起27と各芯側被係止部38との係止代の大きさとなっている。これにより、各芯シールドシェル30をコネクタハウジング20に装着する際には、コネクタハウジング20の弾性係止片25が各芯シールドシェル30の貫通孔37にそれぞれ挿入され、係止突起27の傾斜面27Aが各芯側被係止部38と当接して電線保持部22側に押圧され、両弾性係止片25が電線保持部22側に弾性変形する。そして、係止突起27が貫通孔37に挿通されると、弾性係止片25が弾性復帰して、各芯側被係止部38が係止突起27の係止面27Bによって後方から係止されることで、各芯シールドシェル30がコネクタハウジング20に保持固定されるようになっている。
【0030】
また、一括シールドシェル50における一括挿通孔53の開口縁部の幅方向略中央部には、図9に示すように、弾性係止片25と係止可能な一対の一括側被係止部56が上下方向両側にそれぞれ形成されている。一括側被係止部56の幅寸法は、弾性係止片25の幅寸法よりも大きく設定されており、一括挿通孔53に弾性係止片25が挿通されると、弾性係止片25の幅方向両端部と一括挿通孔53の幅方向両側に位置する内面との間に公差吸収空間Sが形成されるようになっている。また、上側の一括側被係止部56と下側の一括側被係止部56と間の距離である一括側被係止部間距離D3は、図10に示すように、弾性係止片間距離D2の距離よりも小さく設定されている。つまり、弾性係止片間距離D2と一括側被係止部間距離D3との差の半分の長さが弾性係止片25の係止突起27と一括側被係止部56との係止代の大きさとなっている。これにより、一括シールドシェル50をコネクタハウジング20に装着する際には、各芯シールドシェル30と同様に、コネクタハウジング20の弾性係止片25が一括挿通孔53にそれぞれ挿入され、係止突起27の傾斜面27Aが一括側被係止部56と当接して電線保持部22側に押圧され、両弾性係止片25が電線保持部22側に弾性変形する。そして、係止突起27が一括挿通孔53に挿通されると、弾性係止片25が弾性復帰して、一括側被係止部56が係止突起27片の係止面27Bによって後方から係止されることで、一括シールドシェル50がコネクタハウジング20に保持固定されるようになっている。
【0031】
すなわち、両弾性係止片25を各芯シールドシェル30の両各芯側被係止部38及び一括シールドシェル50の両一括側被係止部56にそれぞれ係止させることで、コネクタハウジング20に対して一括シールドシェル50または各芯シールドシェル30を選択的に保持固定することができる。すなわち、コネクタハウジング20を一括シールドシェル50及び各芯シールドシェル30に対して共用することができる。これにより、各シールドシェルに対して専用のコネクタハウジングを備える場合に比べて、部品点数を低減することができ、部品管理を容易にすることができる。
【0032】
なお、両弾性係止片25の内側には両弾性係止片25が弾性変形することを許容する撓み空間25Aが設けられており、この撓み空間25Aよりもさらに内側の位置には、図1及び図2に示すように、過度撓み防止リブ28がそれぞれ形成されている。過度撓み防止リブ28は、例えばコネクタハウジング20に対して各芯シールドシェル30もしくは一括シールドシェル50が正規の組み付け姿勢と異なる姿勢で組み付けられ、弾性係止片25が過度に弾性変形しようとした際には、弾性係止片25に過度撓み防止リブ28が当接することで、弾性係止片25が過度撓みすることを規制するようになっている。また、過度撓み防止リブ28は、電線保持部22の幅方向中央から右側に偏心した位置に形成されている一方、貫通孔37の開口縁部における各芯側被係止部38とは反対側の位置には、過度撓み防止リブ28が挿通されるリブ挿通溝39が貫通孔37の幅方向中央から右側に偏心した位置に形成されている。これにより、コネクタハウジング20に対して各芯シールドシェル30が左右逆転して組み付けられると過度撓み防止リブ28をリブ挿通溝39に挿通させることが出来ず、コネクタハウジング20に対して各芯シールドシェル30を左右逆転させて組み付けることができないようになっている。
【0033】
本実施形態は以上のような構成であって、続いて各芯シールドシェル30が装着された状態のコネクタハウジング20をケースCの取付孔C1に取り付ける方法を簡単に説明すると共に、その作用・効果を説明する。なお、一括シールドシェル50が装着された状態のコネクタハウジング20をケースCの取付孔C1に取り付ける方法及びその作用・効果は、各芯シールドシェル30が装着された状態のコネクタハウジング20と同様であるため、説明を省略する。
【0034】
まず、コネクタハウジング20の嵌合部21の前端部をケースCの取付孔C1に嵌合させて、各芯シールドシェル30のフランジ部32がケースCの取付孔C1の外周縁部と面接触するまで嵌合部21を挿入し、嵌合部21を正規嵌合させる。これにより、各芯シールドシェル30のフランジ部32とケースCとがシールド接続される。また、嵌合部21が取付孔C1に正規嵌合されると、嵌合部21に外嵌されたゴムリング23と取付孔C1とが全周に亘って密着することで、嵌合部21と取付孔C1の内周面との間がシールされる。
【0035】
次に、取付片35のボルト挿通孔36にボルトBを挿通させて、ケースCの右側面に締め付けることで、各芯シールドシェル30がケースCに確実にシールド接続されると共に、ケースCに取り付け固定される。
【0036】
ところで、コネクタハウジング20や各芯シールドシェル30の製造公差やコネクタハウジング20と各芯シールドシェル30との間の組み付け公差の影響により、嵌合部21と取付片35との間の寸法が正規の寸法に比べて大きくなったり小さくなったりする場合がある。このため、各芯シールドシェル30をボルト締結すると、コネクタハウジング20に対して各芯シールドシェル30がボルトBの締め付け方向である幅方向のどちらかに僅かにずれた状態でケースCに固定される場合がある。このため、弾性係止片が弾性変形する方向がボルトの締め付け方向と同一方向の場合には、弾性係止片と各芯側被係止部との係止代の大きさが減少する虞がある。
【0037】
ところが、本実施形態によると、両弾性係止片25は、ボルトBの締め付け方向と交差する方向である上下方向に弾性変形可能に形成されていることから、両弾性係止片25と各芯側被係止部38との係止位置とが僅かに幅方向にずれた場合においても、弾性係止片25と各芯側被係止部38との係止代の大きさが減少することがない。すなわち、ボルトの締め付け方向である幅方向と同一方向に弾性変形可能な弾性係止片に比べて、弾性係止片25と各芯側被係止部38との係止代の大きさが減少することを抑制することができる。これにより、ボルトの締め付け方向と弾性係止片の弾性変形する方向とが同一のものに比べて、各芯シールドシェル30に対する弾性係止片25の係止力が低下すること抑制することができる。
【0038】
また、本実施形態によると、貫通孔37に挿通された弾性係止片25の幅方向両端部と貫通孔37の幅方向両側に位置する内面との間には、公差吸収空間Sが形成されているので、各芯側被係止部の幅寸法と弾性係止片の幅寸法とが同一の場合に比べて、貫通孔37の幅方向両側に位置する開口縁部と弾性係止片25の幅方向両端部との間にボルトの締め付けによる応力がかかることを軽減することができる。
【0039】
さらに、本実施形態によると、両弾性係止片25が複数の電線Wが引き出された電線保持部22の上下方向両側に形成されているので、各芯シールドシェル30を電線保持部22の上下方向両側でバランスよく保持することができる。これにより、各芯シールドシェル30に対する弾性係止片25の係止力を向上させることできる。
【0040】
<他の実施形態>
本発明は上記記述及び図面によって説明した実施形態に限定されるものではなく、例えば次のような実施形態も本発明の技術的範囲に含まれる。
(1)上記実施形態では、電線保持部22の上下両側に一対の弾性係止片25が形成された構成としたが、本発明はこのような態様に限定されるものではなく、例えば、電線保持部22の上下両側にそれぞれ二つ以上の弾性係止片が形成されてもよく、上下両側で弾性係止片の数が異なってもよい。
(2)上記実施形態では、各芯シールドシェル30のシェル本体部31の背面壁33に各芯シールド接続部34が形成された構成としたが、本発明はこのような態様に限定されるものではなく、例えば、フランジ部に各芯シールド接続部を直接形成してもよい。
(3)上記実施形態では、電線保持部22に二本の電線が保持され、各芯シールドシェル30の背面壁33に二つの各芯シールド接続部34が形成された構成としたが、本発明はこのような態様に限定されるものではなく、例えば、電線保持部に三本以上の電線が保持され、背面壁に三つ以上の各芯シールド接続部が形成された構成にしてもよい。
【符号の説明】
【0041】
20:コネクタハウジング
22:電線保持部(電線引き出し部)
25:弾性係止片
30:各芯シールドシェル
33:背面壁(壁部)
34:各芯シールド接続部
35,54:取付片
37:貫通孔
38:各芯側被係止部
50:一括シールドシェル
51:一括シールド接続部
56:一括側被係止部
B:ボルト
C:ケース
C1:取付孔
W:電線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の電線が引き出され、前記複数の電線が引き出された方向と交差する方向に弾性変形可能に設けられた弾性係止片を有してなる合成樹脂製のコネクタハウジングと、
前記複数の電線が引き出された方向に開口して前記複数の電線が一括して挿通される一括シールド接続部を有し、この一括シールド接続部に前記弾性係止片と係止可能な一括側被係止部が形成された金属製の一括シールドシェルと、
前記複数の電線の引き出し方向と交差する配置の壁部を有し、この壁部に前記電線の引き出し方向に開口した各芯シールド接続部を複数設けることで、前記複数の電線が前記各芯シールド接続部に個別に挿通され、前記壁部に前記弾性係止片と係止可能な各芯側被係止部が形成された金属製の各芯シールドシェルとを備えたシールドコネクタであって、
前記一括シールドシェルを前記コネクタハウジングに装着する際には、弾性変形した前記弾性係止片が弾性復帰して、前記弾性係止片と前記一括側被係止部とが係止され、
前記各芯シールドシェルを前記コネクタハウジングに装着する際には、弾性変形した前記弾性係止片が弾性復帰して、前記弾性係止片と前記各芯側被係止部とが係止されることで、前記一括シールドシェルまたは前記各芯シールドシェルのどちらか一方が前記コネクタハウジングに選択的に固定されることを特徴とするシールドコネクタ。
【請求項2】
前記一括側被係止部は、前記一括シールド接続部の開口縁部であり、
前記各芯側被係止部は、前記壁部を前記複数の電線の引き出し方向に貫通して設けられた貫通孔の開口縁部であって、
前記コネクタハウジングは、金属製のケースに設けられた取付孔に嵌合可能に形成されており、
前記一括シールドシェル及び各芯シールドシェルには、前記ケースに前記コネクタハウジングの嵌合方向と交差する方向にボルトを締め付けることで、前記シールドシェルを前記ケースに取り付ける取付片が形成されており、
前記弾性係止片は、前記コネクタハウジングの嵌合方向及び前記ボルトの締め付け方向の双方と交差する方向に弾性変形可能に形成されていることを特徴とする請求項1記載のシールドコネクタ。
【請求項3】
前記一括シールド接続部の開口および前記貫通孔の開口は、前記弾性係止片よりも幅方向に大きく形成されていることを特徴とする請求項2記載のシールドコネクタ。
【請求項4】
前記弾性係止片は、前記複数の電線が引き出された電線引き出し部の両側に形成されていることを特徴とする請求項1乃至請求項3の何れか一項に記載のシールドコネクタ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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