説明

シールドトンネル、シールドトンネルの壁体と坑口との接合方法及びセグメント

【課題】地震の際の、立坑のコンクリート土留め壁の振動モードとトンネル壁体の振動モードとの違いを免震層で吸収させる従来のシールドトンネルによれば、ゴム状止水部材や止水部を設ける作業が必要となり、作業が煩雑である。
【解決手段】立坑1の土留め壁2に形成された坑口3と、坑口3の内側に形成されたシールドトンネルの筒状の壁体(トンネル壁体6)と、坑口の内周面と壁体の外周面との間を塞ぐ弾性手段9とを備え、弾性手段9は、坑口の内周面と壁体の外周面と間に設置された袋12と、袋12内に充填された弾性材13とにより形成されたことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シールドトンネル、特に、シールドトンネルの壁体(以下、トンネル壁体という)と坑口との接合部の構造や接合方法、これらに用いるセグメントに関する。
【背景技術】
【0002】
立坑の坑口の内周面を形成するコンクリート面とコンクリート製のセグメントにより形成されたトンネル壁体とがコンクリートにより接合されている場合、地震の際の、立坑のコンクリート土留め壁の振動モードとトンネル壁体の振動モードとが異なるため、トンネル壁体が破損するという問題点があった。
上記問題点を解消するために、坑口の内側に位置するトンネル壁体の外周面と坑口の内周面との間に免震層を設け、地震の際の、立坑のコンクリート土留め壁の振動モードとトンネル壁体の振動モードとの違いを免震層で吸収させることによって、トンネル壁体の破損を防止したシールドトンネルが知られている。
【特許文献1】特許第3373776号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、従来のシールドトンネルによれば、トンネル壁体の外周面と坑口の内周面との間に免震材を注入するために、立坑の坑口における立坑側の開口の全周縁部に渡ってゴム状止水部材を設けて坑口の内周面とトンネル壁体の外周面との間を塞ぐ必要がある。また、坑口の内周面とトンネル壁体の外周面との間に注入される免震材によってゴム状止水部材の止水性が劣化することを補うために、立坑側にさらなる止水部を設ける必要がある。即ち、ゴム状止水部材や止水部を設ける作業が必要となり、作業が煩雑である。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明のシールドトンネルは、立坑の土留め壁に形成された坑口と、坑口の内側に形成されたシールドトンネルの筒状のトンネル壁体と、坑口の内周面とトンネル壁体の外周面との間を塞ぐ弾性手段とを備え、弾性手段は、坑口の内周面とトンネル壁体の外周面と間に設置された袋と、袋内に充填された弾性材とにより形成されたことを特徴とする。
トンネル壁体は、筒の中心軸を基準として坑口の内周面の方向に揺動可能なように、立坑側に位置する一端部が連結手段によって立坑の土留め壁に連結されたことも特徴とする。
連結手段が、トンネル壁体の揺動を可能とする弾性部材を備えたことも特徴とする。
連結手段が、トンネル壁体の揺動を可能とするヒンジを備えたことも特徴とする。
本発明のシールドトンネルのトンネル壁体と坑口との接合方法は、立坑の土留め壁に形成された坑口の内周面と坑口の内側に形成されたシールドトンネルの筒状のトンネル壁体の外周面との間に袋を設け、この袋内に弾性材を充填することによって坑口の内周面とトンネル壁体の外周面との間を弾性材の充填された袋で塞いだことを特徴とする。
坑口の内側に形成されたトンネル壁体の外周面を形成する複数のセグメントの外面に袋を取付けておき、袋付きの複数のセグメントによりトンネル壁体を形成した後に、トンネル壁体の外周面を形成する複数のセグメントの外面の袋内に弾性材を充填したことも特徴とする。
本発明のセグメントは、坑口の内側に形成されるシールドトンネルの筒状のトンネル壁体の外周面を形成する外面に弾性材を充填するための袋を備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0005】
本発明によれば、弾性手段が、弾性材の充填された袋により構成されたので、袋内に弾性材を充填するだけの簡単な施工によって、トンネル壁体の外周面と坑口の内周面とが弾性手段により弾性的に支持された構造、即ち、トンネル壁体の破損を防止できる構造が得られる。
トンネル壁体の立坑側に位置する一端部が連結手段によって立坑の土留め壁に連結されたので、トンネル壁体の破損防止効果に加え、トンネル壁体の坑口からの脱落を防止できる。
連結手段が、トンネル壁体の揺動を可能とする弾性部材を備えたことで、トンネル壁体の破損防止効果に加え、トンネル壁体の筒の中心軸に沿った方向への移動が許容されるとともにトンネル壁体の坑口からの脱落を防止できる。
連結手段が、トンネル壁体の揺動を可能とするヒンジを備えたので、簡単な構成の連結手段により、トンネル壁体の破損防止効果に加え、トンネル壁体の坑口からの脱落を防止できる。
本発明のシールドトンネルのトンネル壁体と坑口との接合方法によれば、トンネル壁体の外周面と坑口の内周面とが弾性手段により弾性的に支持されて、トンネル壁体の破損を防止できる構造を簡単な施工で得ることができる。
坑口の内側に形成されたトンネル壁体の外周面を形成する複数のセグメントの外面に予め袋を取付けておくことで、袋を設置する作業が不要とでき、施工をより簡単にできる。
本発明のセグメントによれば、トンネル壁体の外周面を形成する外面に弾性材を充填するための袋を備えたので、トンネル壁体の破損を防止できる構造を得るための施工を簡単にできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
最良の形態1
図1乃至図3は最良の形態1を示し、図1はトンネル壁体と坑口との接合部の構造を縦断面で示し、図2はトンネル壁体と坑口との接合部の構造を横断面で示し、図3はトンネル壁体を形成する袋付きのセグメントを示す。
【0007】
一般に、シールドトンネル工事は、地面より地中に向けて形成されたシールドマシンの発進用の立坑の土留め壁にシールドマシンの発進口となる坑口を形成し、坑口から到達用の立坑の坑口に向けてシールドマシンを推進させるとともにシールドマシンの後方にセグメントを組み立てていってシールドトンネルの円筒状のトンネル壁体を構築していく。
セグメントは、上記円筒状のトンネル壁体の中心線を基準として所定の角度間隔で分割した円筒周面の一部に相当する弧形状に形成された板状の所定厚さのコンクリート板材により形成される。
【0008】
図1を参照し、シールドトンネルの構造を説明する。
シールドトンネルは、シールドマシン(図示せず)の発進用の立坑1のコンクリート土留め壁2に形成された発進用の坑口3と、シールドマシンの到達用の立坑(図示せず)の土留め壁に形成された到達用の坑口と、発進用の坑口3より発進するシールドマシンの後方に複数のセグメント4が組み立てられていくことにより発進用の坑口3と到達用の坑口との間の地盤5を貫通して構築されるシールドトンネルの円筒状のトンネル壁体6と、坑口3の内側に構築されたコンクリートのトンネル壁体6の外周面7と坑口3のコンクリートの内周面8との間に設けられた弾性手段9とを備える。トンネル壁体6は、複数のセグメント4により形成されたセグメントリング10がシールドマシンの進行方向に沿って複数接合されて形成される。18は裏込材である。
【0009】
弾性手段9は、トンネル壁体6の外周面7を形成する複数のセグメント4のそれぞれの外面11に接着剤、固定具などで取付けられた袋12と、この袋12内に充填された弾性材13とにより形成される。
袋12の弾性材充填口14は、セグメント4の外面11と内面11aとに貫通する貫通孔に繋げられ、これにより、セグメントリング10の内側から袋12内に弾性材13を充填できる。
弾性材13は、例えば、ウレタン、シリコン、液状ゴム、固形ゴム、アスファルトである。
袋12は、伸縮性に優れ、破れにくい材料で形成される。例えば、袋12はゴム袋、布袋、樹脂袋により形成される。
【0010】
即ち、坑口3の内側に設置されるトンネル壁体6の外周面11を形成するセグメント4は、図3に示すように、外面11に弾性材充填用の袋12を備えた構成である。
袋12は、個々のセグメント4の外面11におけるトンネル壁体6の周方向に沿った長さ方向の一端15と他端16とに跨って延長する大きさである。
【0011】
最良の形態1では、坑口3の内側において複数のセグメント4により形成されたセグメントリング10によりトンネル壁体6の外周面7を構築した後に、セグメントリング10を形成した各セグメント4の外面11に設けられている袋12内に弾性材充填口14から弾性材13を充填することによって、袋12内に充填された弾性材13の圧力で坑口3の内周面8とに接触する袋12により坑口3の内周面8とトンネル壁体6の外周面7との間が塞がれる。
【0012】
即ち、図2に示すように、坑口3の内周面8と坑口3の内側に形成されたトンネル壁体6の外周面7との間に設置された袋12内に弾性材13が充填されたことによって坑口3の内周面8とトンネル壁体6の外周面7との間が弾性材13の充填された袋12で塞がれ、トンネル壁体6が弾性材13の充填された袋12により形成された弾性手段9によって、坑口3の内周面8に弾性的に支持されたトンネル壁体6と坑口3との接合構造が得られる。このような接合構造を備えたことにより、地震時における、立坑1のコンクリート土留め壁2の振動モードとトンネル壁体6の振動モードとの違いを弾性手段9によって吸収できるので、トンネル壁体6の破損を防止できる。
【0013】
最良の形態1によれば、坑口3の内側において複数のセグメント4により形成されたセグメントリング10によりトンネル壁体6の外周面7を構築した後に、セグメントリング10を形成した各セグメント4の外面11に設けられている袋12内に弾性材充填口14から弾性材13を充填するだけの簡単な施工によって、トンネル壁体6の外周面7と坑口3の内周面8とが弾性手段9により弾性的に支持された構造、即ち、トンネル壁体6の破損を防止できる構造が得られる。
【0014】
最良の形態1によれば、坑口3の内側に形成されたトンネル壁体6の外周面7を形成する複数のセグメント4の外面に袋12を個々に取付けておき、この袋12付きの複数のセグメント4によって坑口3の内側にトンネル壁体8を形成した後に、トンネル壁体6の外周面7を形成する複数のセグメント4の外面11に設けられた個々の袋12内に弾性材13を充填したので、袋12を設置する作業が不要となり、施工をより簡単にできる。
【0015】
最良の形態2
図4に示すように、最良の形態1の構成に加えて、トンネル壁体6が、トンネル壁体6の筒の中心軸を基準として坑口3の内周面8の方向に揺動可能なように、トンネル壁体6の立坑1側に位置する一端部と立坑1の土留め壁2の内面20とが弾性部材21を備えた連結手段25によって接続された構成のシールドトンネルとした。
最良の形態2のシールドトンネルにおける、トンネル壁体6の立坑1側に位置する一端部と立坑1の土留め壁2の内面20とを連結する連結手段25の具体的構成を図4を参照して説明する。
連結部25は、トンネル壁体6の内周径よりも大きい径の貫通孔26を備えてアンカーのような固定具27によって立坑1の内面20に固定された立坑側プレート28と、トンネル壁体6の立坑1側に位置するリング状の一端面29に図外のアンカーのような固定具によって固定されたリング状の壁体側プレート30と、壁体側プレート30の外面において周方向に沿って所定の間隔を隔てて設けられた複数の壁体側取付部31と、壁体側取付部31と対向するように立坑側プレート28の貫通孔26の周りの内面に設けられた複数の立坑側取付部32と、対応する1対の壁体側取付部31と立坑側取付部32とにより形成された弾性取付部33が複数個と、1つ1つの弾性取付部33に個々に取り付けられた弾性部材21が複数個とを備える。
弾性部材21は、例えば、ゴムやばねを使用すればよい。
最良の形態2のシールドトンネルによれば、最良の形態1で説明した効果に加え、トンネル壁体6の揺動を可能とする弾性部材21を備えた連結手段25によって、トンネル壁体6の立坑1側に位置する一端部と立坑1の土留め壁2の内面20とが連結されたことによって、トンネル壁体6の筒の中心軸に沿った方向への移動が許容されるとともにトンネル壁体6の坑口3からの脱落を防止できるという効果が得られる。
【0016】
最良の形態3
図5に示すように、最良の形態1の構成に加えて、トンネル壁体6が、トンネル壁体6の筒の中心軸を基準として坑口3の内周面8の方向に揺動可能なように、トンネル壁体6の立坑1側に位置する一端部と立坑1の土留め壁2の内面20とがヒンジ40を備えた連結手段35によって連結された構成のシールドトンネルとした。
最良の形態3のシールドトンネルにおける、トンネル壁体6の立坑1側に位置する一端部と立坑1の土留め壁2の内面20とを連結する連結手段35の具体的構成を図5を参照して説明する。
連結部35は、トンネル壁体6の内周径よりも大きい径の貫通孔26を備えてアンカーのような固定具27によって立坑1の内面20に固定された立坑側プレート28と、トンネル壁体6の立坑1側に位置するリング状の一端面29に図外のアンカーのような固定具によって固定されたリング状の壁体側プレート30と、壁体側プレート30の外面より突出するように設けられた揺動アーム41と、立坑側プレート28の内面より突出するように設けられた固定アーム42と、揺動アーム41を固定アーム42に対して回転可能に取付けるピン43とを備える。ピン43と、揺動アーム41が固定アーム42に対して回転可能なようにピン43が挿入された揺動アーム41と固定アーム42とに形成されたピン止め孔44とによってヒンジ40が構成される。
最良の形態3のシールドトンネルによれば、最良の形態1で説明した効果に加え、トンネル壁体6の揺動を可能とするヒンジ40を備えた連結手段35によって、トンネル壁体6の立坑1側に位置する一端部と立坑1の土留め壁2の内面20とが連結されたことによって、トンネル壁体6の坑口3からの脱落を防止できるという効果が得られる。
【産業上の利用可能性】
【0017】
立坑1の土留め壁2に形成された坑口3の内側に、袋12を備えないセグメント4を用いてトンネル壁体6を形成した後に、坑口3の内周面8のトンネル壁体6の外周面7との間に袋12を設置し、この袋12内に弾性材13を充填し、充填された弾性材13の圧力で袋12の外面を坑口3の内周面6とトンネル壁体6の外周面7とに接触させることによって弾性材13の充填された袋12で坑口3の内周面8とトンネル壁体6の外周面7との間を塞ぐようにしてもよい。このようにしても、坑口3の内周面8とトンネル壁体6の外周面7とを弾性材13の充填された袋12、即ち、弾性手段9で弾性的に支持でき、最良の形態1の効果を得ることができる。
トンネル壁体6が円筒状以外の筒状である場合でも本発明を適用できる。
トンネル壁体6が、トンネル壁体6の筒の中心軸を基準として坑口3の内周面8の方向に揺動可能なように、トンネル壁体6の立坑1側に位置する一端部と立坑1の土留め壁2の内面20とが自在継手を備えた連結手段によって連結された構成としてもよい。
尚、シールドマシンの発進用の立坑1の坑口2とトンネル壁体6との接合について説明したが、本発明によれば、シールドマシンの到達用の立坑の坑口とトンネル壁体との接合についても、同様に構成でき、同様な効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】トンネル壁体と坑口との接合部を示す縦断面(最良の形態1)。
【図2】トンネル壁体と坑口との接合部を示す横断面(最良の形態1)。
【図3】袋付きのセグメントを示す図(最良の形態1)。
【図4】トンネル壁体と坑口との接合部を示す縦断面(最良の形態2)。
【図5】トンネル壁体と坑口との接合部を示す縦断面(最良の形態3)。
【符号の説明】
【0019】
1 立坑、2 土留め壁、3 坑口、4 セグメント、
6 トンネル壁体(壁体)、7 トンネル壁体の外周面、8 坑口の内周面、
9 弾性手段、11 セグメントの外面、12 袋、13 弾性材、
21 弾性部材、25;35 連結手段、40 ヒンジ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
立坑の土留め壁に形成された坑口と、坑口の内側に形成されたシールドトンネルの筒状の壁体と、坑口の内周面と壁体の外周面との間を塞ぐ弾性手段とを備え、弾性手段は、坑口の内周面と壁体の外周面と間に設置された袋と、袋内に充填された弾性材とにより形成されたことを特徴とするシールドトンネル。
【請求項2】
壁体は、筒の中心軸を基準として坑口の内周面の方向に揺動可能なように、立坑側に位置する一端部が連結手段によって立坑の土留め壁に連結されたことを特徴とする請求項1に記載のシールドトンネル。
【請求項3】
連結手段が、壁体の揺動を可能とする弾性部材を備えたことを特徴とする請求項2に記載のシールドトンネル。
【請求項4】
連結手段が、壁体の揺動を可能とするヒンジを備えたことを特徴とする請求項2に記載のシールドトンネル。
【請求項5】
立坑の土留め壁に形成された坑口の内周面と坑口の内側に形成されたシールドトンネルの筒状の壁体の外周面との間に袋を設け、この袋内に弾性材を充填することによって坑口の内周面と壁体の外周面との間を弾性材の充填された袋で塞いだことを特徴とするシールドトンネルの壁体と坑口との接合方法。
【請求項6】
坑口の内側に形成された壁体の外周面を形成する複数のセグメントの外面に袋を取付けておき、袋付きの複数のセグメントにより壁体を形成した後に、壁体の外周面を形成する複数のセグメントの外面の袋内に弾性材を充填したことを特徴とする請求項5に記載のシールドトンネルの壁体と坑口との接合方法。
【請求項7】
坑口の内側に形成されるシールドトンネルの筒状の壁体の外周面を形成する外面に弾性材を充填するための袋を備えたことを特徴とするセグメント。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−138409(P2008−138409A)
【公開日】平成20年6月19日(2008.6.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−324435(P2006−324435)
【出願日】平成18年11月30日(2006.11.30)
【出願人】(000001317)株式会社熊谷組 (551)
【Fターム(参考)】