説明

シールド付き極細線対撚りケーブル

【課題】対撚りケーブルのシールドを円形に保つことができ、シールド性に優れ且つ耐屈曲性に優れ、しかも軽量で容易に製造できるシールド付き極細線対撚りケーブルを提供すること。
【解決手段】中心部に存在する1本の低誘電率樹脂の線状体、該中心部の線状体に接触しているが相互に接触していない2本の導電性線状体、及び該中心部の線状体に接触している複数本の低誘電率樹脂の線状体を有し、該2本の導電性線状体及び該複数本の低誘電率樹脂の線状体は相互に接触して該1本の低誘電率樹脂の線状体を取り囲んで撚り合わせられており、該撚り合わせられた該2本の導電性線状体及び該複数本の低誘電率樹脂の線状体の全体の外周には低誘電率の絶縁被覆層が設けられており、該絶縁被覆層の外周にはめっきシールドが設けられており、該シールドの外周には保護被覆層が設けられているシールド付き極細線対撚りケーブル。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はシールド付き極細線対撚りケーブルに関し、より詳しくは、シールド性に優れ且つ耐屈曲性に優れ、しかも軽量で容易に製造できる高周波用シールド付き極細線対撚りケーブルに関する。
【背景技術】
【0002】
信号にノイズが混入するのは、信号を伝える導線に外から電磁波が届くことが原因である。導線を横切る磁力線が増えたり減ったりすると、起電力と呼ばれる力が発生する。この起電力のせいで導線ペアに余計な電流が流れ、これが伝えたい信号に混入するノイズになる。
【0003】
ノイズを防ぐ一つの方法が、外からの電磁波が入り込まないように導線の周りを導電体でぐるっと覆うシールドである(例えば、特許文献1及び2参照。)。起電力を導線ペアの外で発生させて、逃がしてしまうわけである。
【0004】
これに対し対撚りケーブルは、1対の導線を撚り合わせることで電磁波の影響を打ち消している(例えば、特許文献3参照。)。導線を半回転させると、電磁波の影響は半回転前の部分と逆向きに働く。導線を撚っていけば、少し位置がずれた部分で発生した起電力と相殺されるので余計な電流が流れず、ノイズが発生しにくくなる。
【0005】
さらに、対撚りケーブルは隣の信号線から発生する電磁波がノイズ源となる「漏話」と呼ばれる現象を防ぐ効果もある。漏話は、導線に電流が流れると周りに磁力線が発生することで起こる。しかし、導線のペアが撚り合わせてあれば、発生する磁力線の方向が半回転ごとに逆になり、打ち消し合うため、外に出る磁力線が減る。この結果、漏話が起こりにくくなる。
【0006】
対撚りケーブルの周りに更にシールドを施すことによりノイズの発生を更に抑制する技術も提案されている(例えば、特許文献4参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2001−195924号公報
【特許文献2】特開2008−004275号公報
【特許文献3】特許第3918067号公報
【特許文献4】特表2003−508882号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、対撚りケーブルをシールドすると撚りに沿ってシールドが楕円状態となる。このように撚りに沿ってシールドが楕円状態となると高周波信号に対する減衰量が大きくなるという欠点がある。
【0009】
本発明の目的は、対撚りケーブルのシールドを円形に保つことができ、シールド性に優れ且つ耐屈曲性に優れ、しかも軽量で容易に製造できる高周波用シールド付き極細線対撚りケーブルを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、中心となる低誘電率樹脂の線状体の周りに2本の導電性線状体及び複数本の低誘電率樹脂の線状体を同心撚りすることにより上記の目的が達成されることを見出し、本発明を完成した。
【0011】
即ち、本発明のシールド付き極細線対撚りケーブルは、中心部に存在する1本の低誘電率樹脂の線状体(1)、該中心部の線状体(1)に接触しているが相互に接触していない2本の導電性線状体(2)、及び該中心部の線状体(1)に接触している複数本の低誘電率樹脂の線状体(3)を有し、該2本の導電性線状体(2)及び該複数本の低誘電率樹脂の線状体(3)は相互に接触して該1本の低誘電率樹脂の線状体(1)を取り囲んで撚り合わせられており、該撚り合わせられた該2本の導電性線状体(2)及び該複数本の低誘電率樹脂の線状体(3)の外周には低誘電率の絶縁被覆層(4)が設けられており、該絶縁被覆層の外周にはめっきシールド(5)が設けられており、該シールドの外周には保護被覆層(6)が設けられていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明のシールド付き極細線対撚りケーブルは対撚りケーブルのシールドを円形に保つことができ、シールド性に優れ且つ耐屈曲性に優れ、しかも軽量で容易に製造できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明のシールド付き極細線対撚りケーブルの概略断面図である。
【図2】本発明のシールド付き極細線対撚りケーブルを説明するための線状体部分のみの概略説明図である。
【図3】本発明のシールド付き極細線対撚りケーブルの別の態様を示す概略断面図である。
【図4】本発明のシールド付き極細線対撚りケーブルの更に別の態様を示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
図面に従って本発明の実施の形態を説明する。
図1は本発明のシールド付き極細線対撚りケーブルの一例を示す概略断面図であり、図2は図1に示すシールド付き極細線対撚りケーブルの線状体部分のみを示す概略説明図である。図1に示す態様の本発明のシールド付き極細線対撚りケーブルにおいては、中心部に存在する1本の低誘電率樹脂の線状体(1)、該中心部の線状体(1)に接触しているが相互に接触していない2本の導電性線状体(2)、及び該中心部の線状体(1)に接触している4本の低誘電率樹脂の線状体(3)を有し、図2に示すように該2本の導電性線状体(2)及び該4本の低誘電率樹脂の線状体(3)は相互に接触して該1本の低誘電率樹脂の線状体(1)を取り囲んで同心状態で撚り合わせられており、該撚り合わせられた該2本の導電性線状体(2)及び該複数本の低誘電率樹脂の線状体(3)の全体の外周には低誘電率の絶縁被覆層(4)が設けられており、該絶縁被覆層の外周にはめっきシールド(5)が設けられており、該シールドの外周には保護被覆層(6)が設けられている。
【0015】
本発明のシールド付き極細線対撚りケーブルは、中心となる低誘電率樹脂の線状体の周りに2本の導電性線状体及び4本の低誘電率樹脂の線状体が図1及び図2に示すように配置されていても、或いは、中心となる低誘電率樹脂の線状体の周りに2本の導電性線状体及び3本の低誘電率樹脂の線状体が図3に示すように配置されていても、中心となる低誘電率樹脂の線状体の周りに2本の導電性線状体及び6本の低誘電率樹脂の線状体が図4に示すように配置されていてもよく、更に多くの低誘電率樹脂の線状体を用いてもよい。
【0016】
本発明のシールド付き極細線対撚りケーブルを構成する低誘電率樹脂の線状体として、例えば、フッ素系樹脂製の線状体を用いることができる。フッ素系樹脂としては、エチレンテトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)、テトラフルオロエチレンパーフルオロアルコキシエチレン共重合体(PFA)、フルオロエチレンヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)などを挙げることができる。これは耐屈曲性の点で最も優れている。
【0017】
本発明のシールド付き極細線対撚りケーブルを構成する導電性線状体の材質については導電性の高いものであれば特に限定されず、例えば、銅、銀又はそれらの合金、錫含有銅合金、クロム−ジルコニウム含有銅合金、その場金属繊維強化銅合金等からなるものを挙げることができ、耐屈曲性の点では、その場金属繊維強化銅合金からなる内部導体が特に好ましい。また、これらの材質からなる導電性線状体の表面に銀、金、錫などをめっきした導電性線状体を用いることができ、導電性の点では金や銀をめっきしたものが好ましい。導電性線状体は単線からなるものであっても、複数本(例えば、7本、19本)の単線を撚り合わせたものであってもよい。
【0018】
ここで、その場金属繊維強化銅合金からなる導電性線状体(導線)とは、金属繊維で強化された銅マトリックスであり、特に、その場で、即ち、線材を形成する工程で線材中に金属繊維を形成した線材をいう。例えば、銅マトリックス中に、最大径が2.5μm以下で平均径が1.0μm以下のその場形成繊維状銀を含む線材等をいう。
【0019】
かかるその場金属繊維強化銅合金からなる導線は、例えば、銀含有率が1〜25質量%で残部が実質的に銅からなる合金材料を、必要に応じてスエージ加工し、次いで第1の冷間伸線加工を施し、次いで溶体化処理し、しかる後に第2の冷間伸線加工を施すことにより、銅マトリックス中に繊維状銀をその場形成して線材を得、該線材を少なくとも一本用いて導線を形成することにより得られる。なお、合金材料としては、上記した合金に限定されず、例えば、銀含有率が1〜25質量%で、ジルコニウム含有率が0.01〜8質量%で、残部が実質的に銅からなる合金材料も用いることができる。
【0020】
本発明のシールド付き極細線対撚りケーブルにおいては、例えば図2に示すように、2本の導電性線状体(2)及び4本の低誘電率樹脂の線状体(3)は相互に接触して1本の低誘電率樹脂の線状体(1)を取り囲んで同心状態で撚り合わせられているが、このような撚り合わせ体及び撚り合わせ体の製造方法は周知であり、本発明においてはS撚りでもZ撚りでもよく、周知の方法で撚り合わせたものを用いる。
【0021】
本発明のシールド付き極細線対撚りケーブルにおいては、撚り合わせられた2本の導電性線状体(2)及び複数本の低誘電率樹脂の線状体(3)の全体(以下、撚り合わせ体と記載する)の外周には低誘電率の絶縁被覆層(4)が設けられている。この絶縁被覆層としては、例えば、ポリエステル系樹脂、フッ素系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリオレフィン系樹脂などによるコーティング層を挙げることができ、また、エナメルコーティングなどを挙げることができる。しかながら、低誘電率で細径化に好ましく且つ耐屈曲性の点ではフッ素系樹脂又はポリエチレンが好適である。
【0022】
本発明のシールド付き極細線対撚りケーブルにおいては、ポリアミドとABS樹脂とのポリマーアロイからなる絶縁被覆層を設けることが好ましい。このポリアミドとABS樹脂とのポリマーアロイ(以下、ポリマーアロイと略記する)としては、撚り合わせ体の外周に押し出し成形によって所定の厚さの絶縁被覆層を形成することができれば、ポリマーアロイを構成するポリアミド及びABS樹脂のそれぞれの種類、配合割合等は特に限定されるものではない。しかし、撚り合わせ体の外周に押し出し成形によって所定の厚さの絶縁被覆層を容易に形成し得るためには、ASTM D1238、温度:220±0.2℃、荷重:2160g、試料:ペレット約10g、試験装置:メルトインデキサー、オリフィス:0.9φ×8L(mm)の条件下で測定したメルトフローレート(MFR)が10g/10min以上であることが好ましい(本発明においては、MFRは全てこの条件下で測定した値である)。MFRの上限値については、押し出し成形の可能性の点では制限はないが、入手できるポリアミド、ABS樹脂、ポリマーアロイ等を考慮すると、60g/10min程度である。従って、本発明においては、ポリマーアロイのMFRが10〜60g/10min程度であることが好ましい。
【0023】
絶縁被覆層を、例えば、水平方向への押し出し成形によって形成する場合には、比較的低流動性のポリマーアロイ、例えば、MFRが30g/10min以下のポリマーアロイを用いることが好ましく、MFRが20g/10min以下のポリマーアロイを用いることが一層好ましい。一方、高流動性のポリマーアロイを使用する場合には、絶縁被覆層を水平方向への押し出し成形によって形成すると、樹脂ダレに起因して絶縁被覆層の厚さが外周方向で部分的に変化する虞があるので、絶縁被覆層を鉛直方向下方への押し出し成形によって形成することが望ましい。この場合には、高流動性のポリマーアロイ、例えば、MFRが20〜60g/10minのポリマーアロイを用いることが好ましく、MFRが25〜50g/10minのポリマーアロイを用いることがより好ましく、MFRが30〜40g/10minのポリマーアロイを用いることが最も好ましい。但し、外径が300μm以下のシールド付き極細線対撚りケーブルを製造する場合には、絶縁被覆層の樹脂自体が軽くなるので、絶縁被覆層を水平方向への押し出し成形によって形成しても、樹脂ダレに起因して絶縁被覆層の厚さが外周方向で部分的に変化する虞はない。
【0024】
ポリマーアロイを構成するポリアミドとして、ジアミンとジカルボン酸とから形成されるポリアミド及びそれらの共重合体を用いることができる。例えば、ナイロン66、ポリヘキサメチレンセバカミド(ナイロン6・10)、ポリヘキサメチレンドデカナミド(ナイロン6・12)、ポリドデカメチレンドデカナミド(ナイロン1212)、ポリメタキシリレンアジパミド(ナイロンMXD6)、ポリテトラメチレンアジパミド(ナイロン46)及びこれらの混合物や共重合体を用いることができる。更に、環状ラクタムの開環重合物、アミノカルボン酸の重縮合物及びこれらの成分からなる共重合体、具体的には、ナイロン6、ポリ−ω−ウンデカナミド(ナイロン11)、ポリ−ω−ドデカナミド(ナイロン12)等の脂肪族ポリアミド樹脂及びこれらの共重合体、ジアミン、ジカルボン酸とからなるポリアミドとの共重合体、具体的にはナイロン6T/6、ナイロン6T/11、ナイロン6T/12、ナイロン6T/6I/12、ナイロン6T/6I/610/12等及びこれらの混合物を用いることもできる。
【0025】
ポリマーアロイを構成するABS樹脂については、種々のタイプ、種々のグレードのABS樹脂が市販されているので、ポリマーアロイのMFRが上記の範囲内になるように、適切に選択して使用する。一般的にはポリアミドのMFRは低いので、MFRの比較的高いABS樹脂を用いる。
【0026】
なお、本発明のシールド付き極細線対撚りケーブルにおいては、絶縁被覆層を上記のポリマーアロイ単独で用いてもよいが、このポリマーアロイに、例えば、各種の樹脂、具体的にはポリスチレン(PS)、ポリカーボネート(PC)等を加えたものを用いてもよい。
【0027】
本発明のシールド付き極細線対撚りケーブルにおいては、絶縁被覆層の外周にはめっきシールド(5)が設けられている。
【0028】
なお、無電解めっきによって形成される薄膜シールド層の密着強度を高めるため、絶縁被覆層を構成するポリマーアロイが水溶性物質、界面活性剤、凝固剤、リン系化合物等を含有することが好ましい。
【0029】
上記の水溶性物質とは、溶解度は問わず、水に可溶な物質を意味する。このような水溶性物質として、デンプン、デキストリン、プルラン、ヒアルロン酸、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、エチルセルロース又はこれらの塩等の多糖類;プロピレングリコール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、ネオペンチルグリコール、ブタンジオール、ペンタンジオール、ポリオキシエチレングリコール、ポリオキシプロピレングリコール、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、グリセリン等の多価アルコール;ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸、ポリマレイン酸、ポリアクリルアミド、ポリビニルピロリドン、ポリエチレンオキシド、アクリル酸−無水マレイン酸コポリマー、無水マレイン酸−ジイソブチレンコポリマー、無水マレイン酸−酢酸ビニルコポリマー、ナフタレンスルホン酸塩ホルマリン縮合物及びこれらの塩等を挙げることができる。これらの中でも、水に可溶であるが溶解度の小さなものが好ましく、具体的には、水への溶解度(25℃)が300g/100g以下のものが好ましく、100g/100g以下のものがより好ましく、10g/100g以下のものが更に好ましい。このような水溶性物質として、ペンタエリスリトール(7.2g/100g)、ジペンタエリスリトール(0.1g/100g以下)がある。ポリマーアロイと水溶性物質との含有割合は、ポリマーアロイ100質量部に対して、水溶性物質が0.01〜50質量部であることが好ましく、0.01〜30質量部であることがより好ましく、0.01〜15質量部であることが更に好ましい。
【0030】
界面活性剤として、アニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤、両性界面活性剤の何れも使用できる。これらの界面活性剤として、脂肪酸塩、ロジン酸塩、アルキル硫酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルジフェニルエーテルスルホン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩、スルホコハク酸ジエステル塩、α−オレフィン硫酸エステル塩、α−オレフィンスルホン酸塩等のアニオン界面活性剤;モノもしくはジアルキルアミン又はそのポリオキシエチレン付加物、モノ又はジ長鎖アルキル第4級アンモニウム塩等のカチオン界面活性剤;アルキルグルコシド、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、蔗糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンプロピレンブロックコポリマー、脂肪酸モノグリセリド、アミンオキシド等のノニオン界面活性剤;カルボベタイン、スルホベタイン、ヒドロキシスルホベタイン等の両性界面活性剤を挙げることができる。ポリマーアロイ中の界面活性剤の含有割合は、ポリマーアロイ100質量部に対して、界面活性剤が0.01〜10質量部であることが好ましく、0.01〜5質量部であることがより好ましく、0.01〜2質量部であることが更に好ましい。
【0031】
リン系化合物として、トリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、トリキシレニルホスフェート、トリス(イソプロピルフェニル)ホスフェート、トリス(o−又はp−フェニルフェニル)ホスフェート、トリナフチルホスフェート、クレジルジフェニルホスフェート、キシレニルジフェニルホスフェート、ジフェニル(2−エチルヘキシル)ホスフェート、ジ(イソプロピルフェニル)フェニルホスフェート、o−フェニルフェニルジクレジルホスフェート、トリス(2,6−ジメチルフェニル)ホスフェート、テトラフェニル−m−フェニレンジホスフェート、テトラフェニル−p−フェニレンジホスフェート、フェニルレゾルシン・ポリホスフェート、ビスフェノールA−ビス(ジフェニルホスフェート)、ビスフェノールA・ポリフェニルホスフェート、ジピロカテコールハイポジホスフェート等の縮合系リン酸エステル;ジフェニル(2−エチルヘキシル)ホスフェート、ジフェニル−2−アクリロイルオキシエチルホスフェート、ジフェニル−2−メタクリロイルオキシエチルホスフェート、ジフェニルネオペンチルホスフェート、ペンタエリスリトールジフェニルジホスフェート、エチルピロカテコールホスフェート等の正リン酸エステル等の脂肪酸・芳香族リン酸エステル;ポリリン酸メラミン、トリポリリン酸、ピロリン酸、オルソリン酸、ヘキサメタリン酸等のアルカリ金属塩、フィチン酸等のリン酸系化合物又はこれらのアルカリ金属塩もしくはアルカノールアミン塩等を挙げることができ、それらのリン系化合物から選ばれる1種又は2種以上を用いることができる。更に、上記以外のリン系化合物として、公知の樹脂用の難燃剤及び酸化防止剤として使用されているリン系化合物を用いることができる。このように、本発明においては、リン系化合物には難燃剤、酸化防止剤として汎用されているものも使用することができるが、これらのリン系化合物は、ポリマーアロイ絶縁被覆層に対するめっき層の密着強度を高める成分として機能する。
【0032】
本発明のシールド付き極細線対撚りケーブルを製造する際に、必要に応じて脱脂処理を行う。脱脂処理は、例えば、水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウム等のアルカリ又は硫酸、炭酸等の酸を含有する界面活性剤水溶液を用いて行うことができる。
【0033】
従来、ABS樹脂の成形体にめっきを施す場合、ABS樹脂成形体とめっき層との密着強度を高めるため、脱脂処理の後にABS樹脂成形体を粗面化するエッチング工程が必須であった。例えば、脱脂処理の後に、クロム酸浴(三酸化クロム及び硫酸の混液)を用い、65〜70℃、10〜15分でエッチング処理する必要があり、廃水には有毒な6価のクロム酸イオンが含まれていた。このため、6価のクロム酸イオンを3価のイオンに還元した後に中和沈殿させる処理が必須となり、廃水処理時の問題があった。このように現場での作業時の安全性や廃水による環境への影響を考慮すると、クロム浴を使用したエッチング処理をしないことが望ましいが、その場合には、ABS樹脂から得られる成形体へのめっき層の密着強度を高めることができないという問題がある。
【0034】
絶縁被覆層がポリアミドとABS樹脂とのポリマーアロイからなるものである場合には、絶縁被覆層の表面を塩酸、リン酸、硫酸又は有機酸でエッチング処理することによりポリアミド成分がエッチングされる。ポリマーアロイが水溶性物質を含有している場合には、エッチング処理においてこの水溶性物質が溶質して、絶縁被覆層の該表面が多孔質となり、めっき層の密着強度が更に改善される。これらの酸として低濃度(好ましくは4規定未満であり、より好ましくは3.5規定以下であり、更に好ましくは3.0規定以下である)のものを用いることが好ましい。このようなエッチング処理により、めっき層の密着強度を向上させることができるほか、高濃度の酸を用いた場合に比べて、作業時の安全性が高く、廃液処理も容易になるという優れた効果が得られる。
【0035】
上記の酸によるエッチング処理工程の後、例えば、水洗工程、触媒付与液で処理する工程、水洗工程、活性化液で処理する工程(活性化工程)及び水洗工程を行うことができる。なお、触媒付与液で処理する工程と活性化液で処理する工程とを同時に行うことができる。
【0036】
触媒付与液による処理は、例えば、塩化錫(20〜40g/L)の35%塩酸溶液(10〜20mg/L)中、室温で1〜5分程度浸漬して行う。活性化液による処理は、塩化パラジウム(0.1〜0.3g/L)の35%塩酸溶液(3〜5m/L)中、室温で1〜2分程度浸漬して行う。
【0037】
その後、必要に応じて1回又は2回以上の無電解めっきを行って薄膜シールド層を形成する。めっき浴として、ニッケル、銅、コバルト、ニッケル−コバルト合金、銀、金等と、ホルマリン、次亜リン酸塩等の還元剤を含むものを用いることができる。めっき浴のpHや温度は、使用するめっき浴の種類に応じて選択する。無電解めっき後に更にめっき処理をする場合、酸又はアルカリによる活性化処理の後、銅等による電気めっき工程を付加することもできる。
【0038】
本発明のシールド付き極細線対撚りケーブルにおいては、薄膜シールド層の外側に保護被覆層(シース)を設ける。保護被覆層の材料として、フッ素系樹脂、オレフィン系樹脂、ポリエステル、ポリウレタン、ABS樹脂、ポリイミド等を挙げることができる。保護被覆層の材料としてポリウレタンを用いることで、例えば、シールド付き極細線対撚りケーブルの端部から内部導体を露出させる際のレーザ加工時において、保護被覆層の表面に焦げ(変色)の発生を有効に防止することができる。
【0039】
ポリウレタンからなる保護被覆層を形成する方法として、例えば、ディッピング等を挙げることができるが、本発明では、ポリウレタンが収容されたポリウレタン槽内からダイスを介して、外周に薄膜シールド層が形成された被覆電線を引き出す、いわゆるダイス仕上げによって形成するのが好ましい。また、被覆電線を例えば、鉛直方向に向かって引き出して保護被覆層を形成することで、ダイスを内部導体の軸中心にセットし易くなり、ダイス仕上げによって保護被覆層を略均一な膜厚で形成することができる。
【0040】
本発明のシールド付き極細線対撚りケーブルにおいて、ポリアミドとABS樹脂とのポリマーアロイからなる絶縁被覆層の厚さは、比較的薄く形成することが好ましく、例えば、90μm以下、さらに好ましくは、30μm以下とすることが好ましい。その理由は、絶縁被覆層を比較的厚く形成してしまうと、ケーブルを屈曲させた際に、ケーブル(絶縁被覆層)の表面が白化し、その白化した部分からケーブルが破断し易くなるためである。
【0041】
本発明のシールド付き極細線対撚りケーブルにおいては、薄膜シールド層として、金属めっき層を形成することが好ましい。かかる金属めっき層として、銅、銀、ニッケル、金、錫など、又はこれらの複合めっきや合金めっきを挙げることができる。さらに、金属めっき層の厚さは、好ましくは4μm以下、さらに好ましくは2μm以下である。これより厚いと、耐屈曲性の面で問題となることがある。
【0042】
本発明のシールド付き極細線対撚りケーブルにおいては、絶縁被覆層の厚さを90μm以下とし且つ薄膜シールド層の厚さを4μm以下とすることが好ましく、絶縁被覆層の厚さを30μm以下とし且つ薄膜シールド層の厚さを2μm以下とすることが更に好ましい。このことにより、絶縁被覆層及び薄膜シールド層の耐屈曲性がそれぞれ高められ、その結果、ケーブルの耐屈曲性をさらに高めることができる。
【0043】
実施例1
直径が0.016mmである銀めっき銀合金線7本を、中心の1本の周りに6本を配置した状態で撚り合わせた外径が0.048mmの撚り線2本と、直径が0.05mmであるFEP製フィラメント5本とを図1及び図2に示す配置で撚り合わせて外径約0.15mmの撚り合わせ体を作製した。絶縁被覆層の材料としてMFRが40g/10minのポリマーアロイ(ポリアミドとABS樹脂)を用い、押し出し成形装置を用いて外径が0.20mm(絶縁被覆層の標準厚さは0.025mmである)の被覆電線を製造した。このようにして形成された被覆電線の外周面を塩酸でエッチング処理し、触媒を付与し、活性化処理し、その外周面に無電解めっきにより銅からなる厚さ0.002mmの薄膜シールド層(金属めっき層)を形成した。薄膜シールド層が形成された被覆電線の外周に、ダイス仕上げによってポリウレタンからなる保護被覆層(標準厚さは0.01mm)を形成し、外径が約0.224mmのシールド付き極細線対撚りケーブルを得た。得られたシールド付き極細線対撚りケーブルの特性インピーダンスは64Ωであり、伝送ロス(60MHz)は3.9dBであった。
【符号の説明】
【0044】
1 中心部に存在する低誘電率樹脂の線状体
2 導電性線状体
3 低誘電率樹脂の線状体
4 低誘電率の絶縁被覆層
5 めっきシールド
6 保護被覆層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シールド付き極細線対撚りケーブルであって、中心部に存在する1本の低誘電率樹脂の線状体(1)、該中心部の線状体(1)に接触しているが相互に接触していない2本の導電性線状体(2)、及び該中心部の線状体(1)に接触している複数本の低誘電率樹脂の線状体(3)を有し、該2本の導電性線状体(2)及び該複数本の低誘電率樹脂の線状体(3)は相互に接触して該1本の低誘電率樹脂の線状体(1)を取り囲んで撚り合わせられており、該撚り合わせられた該2本の導電性線状体(2)及び該複数本の低誘電率樹脂の線状体(3)の全体の外周には低誘電率の絶縁被覆層(4)が設けられており、該絶縁被覆層の外周にはめっきシールド(5)が設けられており、該シールドの外周には保護被覆層(6)が設けられていることを特徴とするシールド付き極細線対撚りケーブル。
【請求項2】
低誘電率樹脂の線状体(1)及び(3)がフッ素系ポリマー製である請求項1記載のシールド付き極細線対撚りケーブル。
【請求項3】
導電性線状体(2)が撚り線からなる請求項1又は2記載のシールド付き極細線対撚りケーブル。
【請求項4】
中心部の線状体(1)の太さ、導電性線状体(2)の太さ及び撚り合わされている複数本の線状体(3)の太さは同一であり、撚り合わされている複数本の線状体(3)の合計数は4本であり、導電性線状体(2)の間には撚り合わされている2本の線状体(3)が存在している請求項1、2又は3記載のシールド付き極細線対撚りケーブル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−282943(P2010−282943A)
【公開日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−137690(P2009−137690)
【出願日】平成21年6月8日(2009.6.8)
【出願人】(592106007)吉野川電線株式会社 (8)
【Fターム(参考)】