説明

シールド工法における添加材の注入方法

【課題】土圧分布に対応した均一な添加材の注入が可能なシールド工法における添加材注入方法を提供する。
【解決手段】シールド掘進機のチャンバー内土圧を圧力センサ32で検知し、該検出土圧に基づいてカッタースポーク上に設けた添加材注入口14からの添加材注入量を調節するに際し、該圧力センサ32をチャンバーの上端部近傍と中央部との少なくとも2箇所以上に複数配置し、該添加材注入口14の位置を該カッタースポークの回転角度から算出して、該注入口14の位置に応じて複数の該圧力センサ32の中から該注入口14に近接する圧力センサを選択して、該選択した圧力センサ32の検出土圧に基づいて該注入口14からの添加材注入量を調節する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、シールド工法における添加材の注入方法に係わり、特に、シールド掘進機のチャンバー内の土圧に応じて添加材の注入量を制御して、土圧分布に対応した均一な添加材の注入が行えるようにした技術に関する。
【背景技術】
【0002】
シールド工法は、例えば都市土木等において、地下水の存在する地盤や軟弱な地盤に対するトンネルの構築工法として一般に採用されるもので、シールド掘進機の後方にセグメントによってトンネルの掘削内周面を覆う覆工体を形成するとともに、形成した覆工体から推進反力を得ながらシールド掘進機によって掘進作業を行ってゆくものである。
【0003】
このシールド掘進機は多数のカッタービットが立設されたカッタースポークを回転させながら当該カッタースポークに対向する地山の被掘削土の切羽を切り崩し、その掘削土をカッタースポーク後方のチャンバー内に取り込んで、さらに当該チャンバの下部に設けたスクリューコンベアで後方に搬送排出しながら前進していく。
【0004】
ここで、このような土圧式シールド工法では、切羽の安定化と掘削土の止水性・流動性の向上、切羽圧の変動の抑制等を目的として、上記カッタースポークに設けた注入口から気泡やベントナイト、粘土等の添加剤を切羽およびチャンバー内に注入することが行われている。即ち、カッタースポークに沿って径方向に一直線上に並ぶ複数の添加材注入口を設けて、推進量に見合った排土量や排土状況に応じて設定される所定量の添加材を、チャンバーを区画形成するバルクヘッドのほぼマシン中心位置に取り付けられた圧力センサで検出した検出土圧に基づいて制御して上記注入口から注入するようにしている。
【0005】
また、上記チャンバー内の圧力を複数の圧力センサにより検出してその圧力勾配を求め、この圧力勾配と推定した地山圧力勾配との差に従って上記添加材の添加率を調整してチャンバーに向けてバルクヘッドの中心部に設けた注入口から注入するとともに、チャンバー内の土砂をチャンバー内圧力と推定した地山圧力との差に従って排出量を調整して掘進させるようにした技術が、下記特許文献1にて公知になっている。
【特許文献1】特許第2700411号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、シールド掘進機は中型のものであっても、その直径は5m程あり、大型のものになるとその直径は10mを超える。よって、中型のシールド掘進機であっても、チャンバー内の上端部と下端部とでは土圧差はかなりのものとなる。このため、注入口からの添加材注入量をチャンバー内の上端部と下端部とで同一に設定していると、土圧が高い下端部側ではその注入抵抗が大きくて不足気味になる一方、土圧が低い上端部側ではその注入抵抗が小さいため過剰となってしまい、チャンバー内に添加材を均一に注入し難いという課題があった。また、当該課題は、上記特許文献1に示されるようにチャンバーの中心部に設けた注入口から添加材を注入する様な構成のものではより顕著になる。
【0007】
そして、チャンバー内への添加材の注入量が不均一になると、掘削土砂の塑性流動性が悪くなり、チャンバー内やカッタースポークへの土砂の付着等が発生して、閉塞の原因ともなり得る虞がある。
【0008】
また、特に、直径が10mを超えるような大断面の大型のシールド掘進機になると、チャンバー内の上端部と下端部との土圧差は0.1MPaにもなって非常に大きくなるため、上記課題はより深刻なものとなる。
【0009】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、土圧分布に対応した均一な添加材の注入が可能なシールド工法における添加材注入方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の目的を達成するために本発明の請求項1に係る構成は、シールド掘進機のチャンバー内土圧を圧力センサで検知し、該検出土圧に基づいてカッタースポーク上に設けた添加材注入口からの添加材注入量を調節するに際し、該圧力センサをチャンバーの上端部近傍と中央部との少なくとも2箇所以上に複数配置し、該添加材注入口の位置を該カッタースポークの回転角度から算出して、該注入口の位置に応じて複数の該圧力センサの中から該注入口に近接する圧力センサを選択して、該選択した圧力センサの検出土圧に基づいて該注入口からの添加材注入量を調節することを特徴とする。
【0011】
ここで、請求項2に示すように、前記チャンバー内が周方向に沿って左右対称な上部制御領域と中間部制御領域と下部制御領域とに分けられるとともに、該中間部制御領域と該下部制御領域とにはそれぞれ左右対称に複数の圧力センサが配置され、前記添加剤注入口が該上部領域内にあるときには、チャンバー内の上端部近傍に設けられた圧力センサからの出力値を制御土圧とし、該中間部領域内と該下部制御領域内とにあるときには、それぞれの領域内にある複数の圧力センサのうち検出土圧が最も小さい圧力センサの出力値を制御土圧とする構成になし得る。
【発明の効果】
【0012】
上記のようにしてなる本発明のシールド工法における添加材注入方法によれば、断面に対して、土圧分布に対応した均一な気泡の注入が可能となる。このため、大断面であっても、ベアリング効果、塑性流動性の向上が図れ、カッタートルクの低減、閉塞防止が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下に、本発明に係るシールド工法における添加材注入方法の好適な一実施の形態について、添付図面に基づいて詳述する。
【0014】
図1は土圧式シールド工法に用いるシールド掘進機の一例を示す概略側断面図である。同図に示すように、シールド掘進機2は多数のカッタービット4が立設されたカッタースポーク6を回転させて、当該カッタースポーク6に対向する地山の被掘削土の切羽を切り崩し、その掘削土をカッタースポーク6後方のチャンバー7内に取り込んで、さらにスクリューコンベア8で後方に搬送排出しながら前進していくものであり、推進用のジャッキ10を反力受けに当接させた状態で伸長させることによって前進力を得るようになっている。この反力受けは、シールド掘進機2の後方に形成されるトンネルTの掘削内周面を覆って逐次セグメント12aで組み立てられて行くに覆工体12が利用される。
【0015】
そして、その掘進に際しては、切羽の安定化と掘削土の止水性・流動性の向上、切羽圧の変動の抑制等を目的として、カッタースポーク6に設けられた添加材注入口14から切羽に向けて添加材が注入されるようになっている。当該実施の形態では、添加材には気泡が用いられている。この気泡は起泡材に空気を混合発泡させてなるもので、起泡材は地上に設置された起泡材生成プラント16から立坑18を通じてシールド掘進機2後方のトンネルT内に供給されてくる。
【0016】
トンネルT内には、地上から送られてくる起泡材を貯留する起泡材坑内貯留槽20と、この貯留槽20内の起泡材を圧送する起泡材注入ポンプ22、起泡材に混合する空気を圧送するコンプレッサ24、起泡材の注入量と空気の混合量とを調節する注入ユニット26、この注入ユニット26の作動を制御する気泡注入制御装置28、及び発泡装置30等とからなる気泡材注入手段31が設けられている。上記注入ユニット26で調量された起泡材と空気とは、それぞれ独立したラインを通じてシールド掘進機2内のバルクヘッド7a後方に設けられている発泡装置30に送られて発泡された後、カッタースポーク6に設けられた注入口14から切羽に向けて発泡された気泡材が注入されるようになっている。また、コンプレッサ24及び気泡注入制御装置28は、中央制御装置からの指令信号によって作動制御されるようになっている。
【0017】
図2はシールド掘進機2の前端面を示す正面図であり、図3は図2中のIII−III線矢視部の断面図、図4は図3中のIV−IV線矢視部の断面図である。図2に詳しく示すように、この実施の形態にあっては、カッタースポーク6は、中心部から半径方向に60度間隔で放射状に延びるメインカッタースポーク6aと、これらのメインカッタースポーク6a間に位置されて、径方向の外周側に放射状に設けられた半径の約半分程の長さのサブカッタースポーク6bとからなっている。これらのカッタースポーク6を図示する12時の方向から逆時計回り方向に順次No.1〜No.12までの番号を付すと、気泡材の注入口14は回転中心部に1つ(14-1)と、No.3スポークに1つ(14-2)、No.7スポークに2つ(14−3,14−4)、No.11スポークに1つ(14-5)の合計5つが設けられており、これらの注入口14(1〜6)はマシン中心部からの距離が相互に異ならされている。
【0018】
また、図4に示すように、チャンバーの背面を画成するバルクヘッド7aには、9つの圧力センサー32が配置されている。これら圧力センサ32は交換可能な3つの交換型圧力センサ32a(1〜3)と、交換不可な6つの固定型圧力センサ32b(1〜6)とからなっている。即ち、交換型圧力センサ32aは、マシン中芯を通る縦軸上に上端部側に位置されて1つ(32a-1)と、横軸上にその径方向外側部寄りに位置されて左右に1つずつ(32a-2,32a-3)配置されている。また、固定型圧力センサ32bは、マシン中芯を通る縦軸を基準に上端と下端とからそれぞれ左右に50度回転した位置の径方向外側寄りに4つ(32b-1,32b-2,32b-3,32b-4)が配置され、マシン中芯を通る横軸上に半径の1/3程の箇所に位置して左右に2つ(32b-5,32b-6)が配置されている。なお、同図中に仮想線の引き出し線で14(1〜6)の符合を付してあるものは、図2に示してある注入口の位置を示している。
【0019】
図5は5つの注入口14(1〜5)のそれぞれに繋がれた気泡材注入手段31とその制御系を概略的に示すブロック図である。図示するように、各気泡材注入手段31の気泡注入制御装置28は起泡材注入ポンプ22のポンプ回転数を制御するとともに、注入ユニット26のエアーバルブ開度とを制御して、起泡材流量と空気流量とを調節するようになっており、その調節量は中央制御装置40からの指令信号に基づいて算出されるようになっている。即ち、中央制御装置40はシールド掘進機2の掘削スピードと土圧とに応じて気泡材の発泡倍率と注入率とを設定し、この設定値に基づいて空気流量と起泡材流量とを算出して気泡注入制御装置28に当該算出値を指令信号として送るようになっている。なお、気泡流量と空気流量及び起泡材流量は一般的に下式のようにして算出する。
気泡流量=断面積×(掘削速度/1000)×(注入率/100)×1000
空気流量=気泡流量×(発砲倍率−1)/発泡倍率×(1+制御土圧×10)
起泡材流量=気泡流量/発砲倍率
【0020】
ところで、中央制御装置40は各注入口からの気泡流量および当該気泡流量となすための空気流量と起泡材流量とを算出するに当たり、制御土圧を各々の注入口の位置により変更するようにしている。即ち、中央制御装置40は各添加材注入口14(14-1〜14-5)の位置をカッタースポーク6の回転角度から算出し、各々の注入口14(14-1〜14-5)の位置に応じて複数の圧力センサの中からそれぞれの注入口14(14-1〜14-5)に近接する圧力センサ32(32a-1〜32a-3、32b-1〜32b-6)を選択して、当該選択した圧力センサ14の検出土圧に基づいてそれぞれの注入口14(14-1〜14-5)からの添加材注入量を算出して、その算出値を各注入口に繋がれる気泡材注入手段31の気泡注入制御装置28に指令信号として送信し、気泡注入制御装置28はその算出値に応じて、起泡材注入ポンプ22のポンプ回転数を制御するとともに、注入ユニット26のエアーバルブ開度とを制御して、起泡材流量と空気流量とを調節するようになっている。
【0021】
即ち、当該実施の形態では図4に示すように、マシン中心を通る鉛直線を基準にして、上端位置(12時位置)から周方向に±50度の範囲を上部制御領域とし、下端位置(6時位置)から周方向に±50度の範囲を下部制御領域とし、これら上部制御領域と下部制御領域とに挟まれた範囲を中間部制御領域としている。そして、注入口14(14-2〜14-5)が設けられたカッタースポーク(No.3,No.7,No.11)6aが上部制御領域に入った場合には、当該カッタースポークに設けられた注入口14(14-2〜14-5)の制御土圧は、バルクヘッド7aの上端に設けれた圧力センサ32a−1からの出力値を選択して採用するようになっている。また、下部領域に入っている場合には、圧力センサ32b−3または32B−4からの出力値のいずれか低い方を制御土圧として採用するようになっている。さらに、左右の中間部制御領域に入っている場合には、それぞれ外周寄りの圧力センサ32a−2または32a−3からの出力値を制御土圧として採用するようになっている。
【0022】
つまり、前記チャンバー7内が周方向に沿って左右対称な上部制御領域と中間部制御領域と下部制御領域とに分けられるとともに、中間部制御領域と下部制御領域とにはそれぞれ左右対称に複数の圧力センサ32a−2,32a−3,32b−1,32b-2,32b−3,32b-4が配置される。
【0023】
ここで、前記添加剤注入口14が上部領域内にあるときには、チャンバー7内の上端部近傍に設けられた圧力センサ32a−1からの出力値を制御土圧とし、中間部領域内と下部制御領域内とにあるときには、それぞれの領域内にある複数の圧力センサ32a−2,32a−3,32b−1,32b-2,32b−3,32b-4のうち、検出土圧が最も小さい圧力センサの出力値を制御土圧としても良い。また、各領域内に設置されている複数のセンサの出力値を平均してこれを制御土圧として採用するようにしても良い。
【0024】
あるいは、注入口14(14-2〜14-5)が設けられているカッタースポーク(No.3,No.7,No.11)6aのそれぞれの回転角度に応じて、当該カッタースポーク(No.3,No.7,No.11)6aに設けられているそれぞれの注入口14(14-2〜14-5)に最も近接している圧力センサからの出力値を各々の注入口の制御土圧として採用する様にしても良い。
【0025】
なお、固定型圧力センサ32b−1,32b−2,32b−5,32b−6の4つが使用されていないが、これらは故障時のバックアップ用として、及び状況に応じてより適切な制御を行う際に適宜切替られて使用されるようになっている。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明を適用する土圧式シールド工法に用いるシールド掘進機の概略構成を示す側断面図である。
【図2】図2はシールド掘進機2の前端面を示す正面図である。
【図3】図2中のIII−III線矢視部の断面図である。
【図4】図3中のIV−IV線矢視部の断面図である。
【図5】気泡材注入手段とその制御系を概略的に示すブロック図である。
【符号の説明】
【0027】
2 シールド掘進機
6 カッタースポーク
7 チャンバー
8 スクリューコンベア
10 推進ジャッキ
12 覆工体
14 気泡注入口
16 起泡材生成プラント
20 起泡材坑内貯留槽
22 注入ポンプ
24 コンプレッサ
26 注入ユニット
28 気泡注入制御装置
31 気泡材注入手段
32 圧力センサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シールド掘進機のチャンバー内土圧を圧力センサで検知し、該検出土圧に基づいてカッタースポーク上に設けた添加材注入口からの添加材注入量を調節するに際し、
該圧力センサをチャンバーの上端部近傍と中央部近傍との少なくとも2箇所以上に複数配置し、該添加材注入口の位置を該カッタースポークの回転角度から算出して、該注入口の位置に応じて複数の該圧力センサの中から該注入口に近接する圧力センサを選択して、該選択した圧力センサの検出土圧に基づいて該注入口からの添加材注入量を調節することを特徴とするシールド工法における添加材の注入方法。
【請求項2】
前記チャンバー内が周方向に沿って左右対称な上部制御領域と中間部制御領域と下部制御領域とに分けられるとともに、該中間部制御領域と該下部制御領域とにはそれぞれ左右対称に複数の圧力センサが配置され、前記添加剤注入口が該上部領域内にあるときには、チャンバー内の上端部近傍に設けられた圧力センサからの出力値を制御土圧とし、該中間部領域内と該下部制御領域内とにあるときには、それぞれの領域内にある複数の圧力センサのうち検出土圧が最も小さい圧力センサの出力値を制御土圧とすることを特徴とする請求項1記載のシールド工法における添加材の注入方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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