説明

シールド掘進機のバックリング防止装置

【課題】特定のシールドジャッキのみを収縮させる際、他のシールドジャッキの収縮を略完全に防止でき、掘進機本体のバックリングを防止する。
【解決手段】特定のシールドジャッキ1aを伸長させるとき、押引切換弁12を押しモードとし、押し側選択弁8aのみを開き他の押し側選択弁8、8bを閉じ、ジャッキ1aを収縮させるとき、押引切換弁12を引きモードとし、押側選択弁8aのみを開き他の押し側選択弁8、8bを閉じるシステムにおいて、各引き側油圧ライン10の幾つかを纏めた纏めライン22に、引き側選択弁23を夫々開閉可能に設け、ジャッキ1aを収縮させるとき、纏めライン22aの引き側選択弁23aのみを開き他の引き側選択弁23を閉じ、他の引き側選択弁23が設けられた纏めライン22に接続されたジャッキ1の引き側室4に、加圧オイルが加わることを回避した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シールドジャッキをセグメント等の反力受け部材に押し当てることで推進反力を得て掘進機本体を前進させるシールド掘進機に係り、特に、特定のシールドジャッキのみを収縮させる際、他のシールドジャッキの収縮を回避して掘進機本体の後退を防止したバックリング防止装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のシールド掘進機のシールドジャッキの油圧回路を図2に示す。
【0003】
シールドジャッキ1は、切羽を切削するカッタを備えた掘進機本体内に複数配設されている。これらシールドジャッキ1は、掘進機本体内に取り付けられたシリンダ2と、シリンダ2内に収容されシリンダ2内を押し側室3と引き側室4とに仕切るピストン5と、一端がピストン5に接続され他端がシリンダ2から突出したロッド6とを有し、ロッド6の端部に設けられたシューをセグメント等の反力受け部材に押し当てることで推進反力を得て、掘進機本体を前進させるものである。
【0004】
各シールドジャッキ1の押し側室3には、押し側油圧ライン(管、ホース等)7が夫々接続されており、各押し側油圧ライン7には、押し側選択弁8が夫々開閉可能に設けられている。これら押し側油圧ライン7は、押し側集合ライン9に集合されている。また、各シールドジャッキ1の引き側室4には、引き側油圧ライン10が夫々接続されており、これら引き側油圧ライン10は、引き側集合ライン11に集合されている。
【0005】
押し側集合ライン9と引き側集合ライン11とには、押引切換弁12を介して、オイルポンプにより加圧されたオイルが供給されるオイル供給ライン13と、オイルをオイルタンクに戻すためのオイル戻しライン14とが、接続されている。押引切換弁12は、加圧されたオイルを押し側集合ライン9に導入して引き側集合ライン11から排出されるオイルをオイルタンクに戻す押しモードと、加圧されたオイルを引き側集合ライン11に導入して押し側集合ライン9から排出されるオイルをオイルタンクに戻す引きモードとを切り替える機能を有する。
【0006】
全てのシールドジャッキ1を伸長させるときには、押引切換弁12を押しモードとし、全ての押し側選択弁8を開く。これにより、オイル供給ライン13内の加圧されたオイルが全てのシールドジャッキ1の押し側室3に導入されて各ロッド6が突出され、各引き側室4から押し出されたオイルがオイル戻しライン14に排出される。
【0007】
全てのシールドジャッキ1を収縮させるときには、押引切換弁12を引きモードとし、全ての押し側選択弁8を開く。これにより、オイル供給ライン13内の加圧されたオイルが全てのシールドジャッキ1の引き側室4に導入されて各ロッド6が没入され、各押し側室3から押し出されたオイルがオイル戻しライン14に排出される。
【0008】
この油圧回路と関連する油圧回路として、特許文献1等に記載されたものが知られている。
【0009】
【特許文献1】特許第3093163号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ところで、掘進機本体内にてセグメントをリング状に組み立てる場合等には、特定のシールドジャッキ1のみを伸長させ或いは収縮させる必要が生じる。
【0011】
特定のシールドジャッキ1(例えば図2の左端のシールドジャッキ1a)のみを伸長させる場合、押引切換弁12を押しモードとし、伸長すべき特定のシールドジャッキ1aの押し側室3aに接続された押し側油圧ライン7aの押し側選択弁8aのみを開き、他の押し側選択弁8を閉じる。これにより、オイル供給ライン13内の加圧されたオイルが特定のシールドジャッキ1aの押し側室3aにのみ導入され、特定のシールドジャッキ1aのピストン5aのみが図2の上方に移動されてそのロッド6aが突出され、その引き側室4aから押し出されたオイルがオイル戻しライン14に排出される。
【0012】
特定のシールドジャッキ1(例えば図2の左端のシールドジャッキ1a)のみを収縮させる場合、押引切換弁12を引きモードとし、収縮すべき特定のシールドジャッキ1aの押し側室3aに接続された押し側油圧ライン7aの押し側選択弁8aのみを開き、他の押し側選択弁8を閉じる。これにより、オイル供給ライン13内の加圧されたオイルが、全てのシールドジャッキ1、1aの引き側室4、4aに油圧として作用するものの、特定のシールドジャッキ1aの押し側室3aに連通された押し側選択弁8aのみが開かれてその押し側室3aからのオイルの排出が許容され、他のシールドジャッキ1の押し側室3に連通された押し側選択弁8が閉じられて油圧ロックされた状態となっているので、特定のシールドジャッキ1aのピストン5aのみが図2の下方に移動されてそのロッド6aが没入され、その押し側室3aから押し出されたオイルがオイル戻しライン14に排出される。
【0013】
すなわち、従来は、特定のシールドジャッキ1aのみを収縮させる場合、収縮させるシールドジャッキ1aの引き側室4aのみならず、他のシールドジャッキ1の引き側室4にも、オイル供給ライン13内の加圧されたオイル(加圧オイル)を油圧として作用させ、特定のシールドジャッキ1aの押し側室3aに連通する押し側選択弁8aのみを開いて背圧フリーとし、他のシールドジャッキ1の押し側室3に連通する押し側選択弁8を閉じて油圧ロックとしていた。このため、全てのシールドジャッキ1、1aの引き側室4、4aに加圧オイルの圧力が作用することになる。よって、収縮させる意図のない他のシールドジャッキ1の押し側室3とその押し側室3に連通する押し側選択弁8(閉状態)との間の押し側油圧ライン7内のオイルが、加圧オイルによって圧縮力を受けて僅かに収縮し、収縮させる意図のないシールドジャッキ1のロッド6が全て僅かに没入し、掘進機本体が後退(バックリング)してしまう。
【0014】
特に、図3に示すように、掘進機本体15が、発進用の立坑16の底部に配置され、後続台車17が、立坑16の近傍の地上18に配置された発進初期(所謂仮発進時)には、掘進機本体15のバックリングが顕著となる。何故なら、図2に示す押し側選択弁8は、設置スペースの都合等から掘進機本体15内ではなく地上18の後続台車17に設けられているため、それら押し側選択弁8と掘進機本体15内に配設されたシールドジャッキ1の押し側室3とを接続する押し側油圧ライン7が、立坑16の深さに応じて長くなる。このため、押し側油圧ライン7内のオイルの容量が増え、オイルの圧縮量が大きくなるからである。なお、仮発進終了後、掘進機本体15が或る程度掘進した後は、後続台車17が立坑16の底部に降ろされて掘進機本体15の後部に連結される。
【0015】
また、掘進機本体15の径が大きい所謂大口径シールドや掘進深さが深い所謂大深度シールドの場合、切羽19から掘進機本体15の正面に加わる力も大きくなるのでそれに対抗する掘進力(ジャッキ1の油圧力)を得るべく、押し側油圧ライン7が太くなる。この場合も、押し側油圧ライン7内のオイルの容量が増え、オイルの圧縮量が大きくなるので、掘進機本体15のバックリングが顕著となる。
【0016】
掘進機本体15がバックリングすると、切羽19と掘進機本体15との間に空間が形成され、その空間に切羽19の土砂が崩れると、地上18にて地盤沈下が生じる可能性が生じる。また、既存のトンネルの下方にシールド工法によって新たなトンネルを構築する場合、掘進機本体15がバックリングすると、地盤沈下によって既存のトンネルが損傷する可能性があるので、バックリングを略完全に防止する必要がある。
【0017】
以上の事情を考慮して創案された本発明の目的は、特定のシールドジャッキのみを収縮させる際、他のシールドジャッキの収縮を略完全に防止でき、掘進機本体のバックリングを防止できるシールド掘進機のバックリング防止装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0018】
上記目的を達成するために本発明は、掘進機本体内に複数設けられ、セグメント等の反力受け部材に反力を取って上記掘進機本体を前進させるシールドジャッキを有し、該シールドジャッキは、内部がピストンによって押し側室と引き側室とに仕切られたシリンダを有し、加えて、各シールドジャッキの押し側室に夫々接続された押し側油圧ラインを集合させた押し側集合ラインと、各シールドジャッキの引き側室に夫々接続された引き側油圧ラインを集合させた引き側集合ラインと、加圧されたオイルを上記押し側集合ラインに導入して上記引き側集合ラインから排出されるオイルをオイルタンクに戻す押しモードと、加圧されたオイルを上記引き側集合ラインに導入して上記押し側集合ラインから排出されるオイルをオイルタンクに戻す引きモードとを切り替え可能な押引切換弁と、各押し側油圧ラインに夫々開閉可能に設けられた押し側選択弁とを備え、
特定のシールドジャッキを伸長させるとき、上記押引切換弁を押しモードとし、特定のシールドジャッキに接続された押し側油圧ラインの押し側選択弁のみを開き他の押し側選択弁を閉じ、特定のシールドジャッキを収縮させるとき、上記押引切換弁を引きモードとし、特定のシールドジャッキに接続された押し側油圧ラインの押側選択弁のみを開き他の押し側選択弁を閉じるシールド掘進機のバックリング防止装置であって、
上記各引き側油圧ラインの幾つかを纏めた纏めライン又は各引き側油圧ラインに、引き側選択弁を夫々開閉可能に設け、特定のシールドジャッキを収縮させるとき、その特定のシールドジャッキの引き側室に接続された纏めライン又は引き側油圧ラインに設けられた特定の引き側選択弁のみを開き他の引き側選択弁を閉じ、他の引き側選択弁が設けられた纏めライン又は引き側油圧ラインに接続されたシールドジャッキの引き側室に、加圧されたオイルの圧力が加わることを回避したものである。
【0019】
上記引き側選択弁が、上記掘進機本体内に設けられ、上記押し側選択弁及び上記押引切換弁が、上記掘進機本体の後続台車に設けられてもよい。
【0020】
上記掘進機本体が、発進用の立坑の底部に配置され、上記後続台車が、上記立坑の近傍の地上に配置され、上記押し側油圧ラインが、上記立坑の底部に配置された上記掘進機本体と、上記地上に配置された上記後続台車とを接続するものであってもよい。
【0021】
なお、上記押し側選択弁、引き側選択弁は、電磁切換弁であってもよい。
【発明の効果】
【0022】
本発明に係るシールド掘進機のバックリング防止装置によれば、特定のシールドジャッキのみを収縮させる際、他のシールドジャッキの収縮を略完全に防止でき、掘進機本体のバックリングを防止できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
本発明の好適実施形態を添付図面に基づいて説明する。
【0024】
図1は、本実施形態に係るシールド掘進機のバックリング防止装置を備えたシールドジャッキ1の油圧回路の概略図である。本実施形態に係るバックリング防止装置の油圧回路は、図2を用いて既述した油圧回路と同一の部分を有するので、その同一の部分については簡単に述べ、相違する部分について詳述する。
【0025】
本実施形態に係るバックリング防止装置が具備されたシールド掘進機は、切羽19(図3参照)を切削するカッタを有する掘進機本体15と、掘進機本体15内に設けられ、セグメント等の反力受け部材20に反力を取って掘進機本体15を前進させる複数のシールドジャッキ1とを有する。
【0026】
図1、図3に示すように、これらシールドジャッキ1は、掘進機本体15内に取り付けられたシリンダ2と、シリンダ2内に収容されシリンダ2内を押し側室3と引き側室4とに仕切るピストン5と、一端がピストン5に接続され他端がシリンダ2から突出したロッド6とを有し、ロッド6の端部に設けられたシュー21をセグメント等の反力受け部材20に押し当てることで推進反力を得て、掘進機本体15を前進させる。
【0027】
本実施形態に係るバックリング防止装置の油圧回路は、各シールドジャッキ1の押し側室3に夫々接続された押し側油圧ライン7と、各押し側油圧ライン7に夫々開閉可能設けられた押し側選択弁8と、全ての押し側油圧ライン7を集合させた押し側集合ライン9と、各シールドジャッキ1の引き側室4に夫々接続された引き側油圧ライン10と、これら引き側油圧ライン10を最終的に集合させた引き側集合ライン11とを備えている。なお、押し側選択弁8は、電磁切換弁であってもよい。
【0028】
また、この油圧回路は、オイルポンプにより加圧されたオイルが供給されるオイル供給ライン13と、オイルをオイルタンクに戻すためのオイル戻しライン14と、押引切換弁12とを備えている。押引切換弁12は、並列されたオイル供給ライン13及びオイル戻しライン14の端部と、並列された押し側集合ライン9及び引き側集合ライン11の端部との間に、介設されている。
【0029】
押引切換弁12は、オイル供給ライン13を押し側集合ライン9に接続すると共に引き側集合ライン11をオイル戻しライン14に接続する押しモードと、オイル供給ライン13を引き側集合ライン11に接続すると共に押し側集合ライン9をオイル戻しライン14に接続する引きモードとを切り替えることが可能な電磁切換弁からなる。
【0030】
本実施形態の特徴とするところは、各シールドジャッキ1の引き側油圧ライン10とそれらを最終的に集合する引き側集合ライン11との間に、各引き側油圧ライン10の幾つか(本実施形態では2本)を纏めた纏めライン22を設け、その纏めライン22に、引き側選択弁23を夫々開閉可能に設けた点にある。なお、押し側選択弁23は、電磁切換弁であってもよい。
【0031】
引き側選択弁23は、2本の引き側油圧ライン10に対して1個設けられるので、各押し側油圧ライン7に1個ずつ設けられる押し側選択弁8の半数で済む。このため、引き側選択弁23の設置スペースは、押し側選択弁8の設置スペースの半分となる。これを利用して、引き側選択弁23を狭隘な掘進機本体15(図3参照)の内部に設け、押し側選択弁8を設置スペースの広い後続台車17に設けている。また、押引切換弁12も後続台車17に設けている。
【0032】
図3に示す所謂仮発進時には、掘進機本体15が、発進用の立坑16の底部に配置され、後続台車17が、立坑16の近傍の地上18に配置された状態となっている。よって、掘進機本体15に設けられたシールドジャッキ1の押し側室3と、後続台車17に設けられた押し側選択弁8とを接続する押し側油圧ライン7は、立坑16の深さに応じて長くなる。
【0033】
なお、説明の便宜上、図1の左端のシールドジャッキ1及びそれに接続された部品の符号には添え字aを付加し、その隣のシールドジャッキ1及びそれに接続された部品の符号には添え字bを付加する。
【0034】
本実施形態の作用を述べる。
【0035】
図1に示す全てのシールドジャッキ1、1a、1bを伸長させる(押し作動させる)ときには、押引切換弁12を押しモードとし、全ての押し側選択弁8、8a、8b及び全ての引き側選択弁23、23aを開く。これにより、オイル供給ライン13内の加圧されたオイルが全てのシールドジャッキ1の押し側室3、3a、3bに導入されて各シールドジャッキ1、1a、1bのロッド6、6a、6bが突出され、各シールドジャッキ1、1a、1bの引き側室4、4a、4bから押し出されたオイルがオイル戻しライン14に排出される。
【0036】
全てのシールドジャッキ1、1a、1bを収縮させる(引き作動させる)ときには、押引切換弁12を引きモードとし、全ての引き側選択弁23、23a及び全ての押し側選択弁8、8a、8bを開く。これにより、オイル供給ライン13内の加圧されたオイルが全てのシールドジャッキ1、1a、1bの引き側室4、4a、4bに導入されて各シールドジャッキ1、1a、1bのロッド6、6a、6bが没入され、各シールドジャッキ1、1a、1bの押し側室3、3a、3bから押し出されたオイルがオイル戻しライン14に排出される。
【0037】
特定のシールドジャッキ1(例えば図1の左端のシールドジャッキ1a)のみを伸長させる場合、押引切換弁12を押しモードとし、伸長させるべき特定のシールドジャッキ1aの押し側室3aに接続された押し側油圧ライン7aの押し側選択弁8aのみを開き、他の押し側選択弁8、8bを閉じ、全ての引き側選択弁23、23aを開く。なお、伸長させるシールドジャッキ1aが接続された纏めライン22a以外の纏めライン22に設けられた引き側選択弁23は、閉じても構わない。
【0038】
これにより、オイル供給ライン13内の加圧されたオイルが特定のシールドジャッキ1aの押し側室3aにのみ導入され、特定のシールドジャッキ1aのピストン5aのみが図1の上方に移動されてそのシールドジャッキ1aのロッド6aが突出され、そのシールドジャッキ1aの引き側室4aから押し出されたオイルがオイル戻しライン14に排出される。
【0039】
特定のシールドジャッキ1(例えば図1の左端のシールドジャッキ1a)のみを収縮させる場合、押引切換弁12を引きモードとし、収縮させるべき特定のシールドジャッキ1aの引き側室4aに接続された纏めライン22aの引き側選択弁23aのみを開き、他の引き側選択弁23を閉じ、特定のシールドジャッキ1aの押し側室3aに接続された押し側油圧ライン7aの押し側選択弁8aのみを開き、他の押し側選択弁8、8bを閉じる。
【0040】
これにより、オイル供給ライン13内の加圧されたオイルは、引き側選択弁23aが開かれた纏めライン22aに接続された特定のシールドジャッキ1aの引き側室4a及びその隣のシールドジャッキ1bの引き側室4bに油圧として作用し、引き側選択弁23が閉じられた纏めライン22に接続された他のシールドジャッキ1の引き側室4には作用しない。そして、隣のシールドジャッキ1bの押し側選択弁8bは閉じられているので、特定のシールドジャッキ1aのピストン5aのみが図1の下方に移動されてそのロッド6aが没入され、その押し側室3aから押し出されたオイルがオイル戻しライン14に排出される。
【0041】
このように、シールドジャッキ1、1a、1bの引き側油圧ライン10、10a、10bに繋がる纏めライン22、22aに引き側選択弁23、23aを設け、引きを選択したシールドジャッキ1aの引き側室4aに繋がる引き側選択弁23aのみを開き、他の引き側選択弁23を閉じることで、引きを選択したシールドジャッキ1a及びその隣のシールドジャッキ1b以外のシールドジャッキ1の引き側室4には、ジャッキ1を引くための加圧オイルの圧力が加わらない。
【0042】
よって、シールドジャッキ1a、1b以外のシールドジャッキ1のピストン5が図1の下方に移動する油圧を受けることはなく、シールドジャッキ1の押し側室3とその押し側室3に連通する押し側選択弁8(閉状態)との間の押し側油圧ライン7内のオイルが、上記加圧オイルによる圧縮力を受けて収縮することはない。従って、シールドジャッキ1のロッド6は、上記加圧オイルによって没入されることはなく、掘進機本体15のバックリングを略完全に防止できる。
【0043】
ところで、本実施形態では、図3に示すように、掘進機本体15が発進用の立坑16の底部に配置され、後続台車17が地上の配置された所謂仮発進状態となっているので、掘進機本体15内に設けられたシールドジャッキ1と、後続台車17に設けられた押し側選択弁8とを接続する押し側油圧ライン7は、立坑16の深さに応じて長くなり、押し側油圧ライン7内のオイルの容量が増える。
【0044】
このように押し側油圧ライン7内のオイルの容量が増えると、図2に示す従来タイプ(特定のシールドジャッキ1aを収縮させる場合に、全てのシールドジャッキ1の引き側室4、4aに加圧オイルが作用するタイプ)においては、上記加圧オイルによって圧縮力を受ける押し側油圧ライン7内のオイルの圧縮量が大きくなり、シールドジャッキ1a以外のシールドジャッキ1が全て僅かに収縮し、掘進機本体15のバックリングが無視できなくなるケースも有り得た。本実施形態では、押し側油圧ライン7がいくら長くなっても、その押し側油圧ライン7内のオイルは上記加圧オイルによる圧縮力を受けないので、掘進機本体15に、引き圧が作用することによるバックリングが生じることはない。
【0045】
また、本実施形態では、図1に示すように、2本のシールドジャッキ1を纏めた纏めライン22に引き側選択弁23を1個設けているので、それら2本のシールドジャッキ1の内の1本のみを収縮させる場合には、2本のシールドジャッキ1(例えば図1のシールドジャッキ1a、1b)の纏めライン22aの引き側選択弁23aを開き、2本の内の収縮させるシールドジャッキ1aの押し側選択弁8aを開き、2本の内の収縮させないシールドジャッキ1bの押し側選択弁8bを閉じることになる。この場合、2本の内の収縮させないシールドジャッキ1bの押し側油圧ライン7b内のオイルは、上記加圧オイルによる圧縮力を受けて多少圧縮されるため、そのシールドジャッキ1bは、多少収縮することになるが、1本のみであるので、他のシールドジャッキ1によって掘進機本体15はバックリングしないように支えられ、掘進機本体15がバックリングする事態には至らない。
【0046】
なお、このように掘進機本体15がバックリングする事態には至らないことを確保できるのであれば、纏めライン22を、図2に示す実施形態のように2本のシールドジャッキ1を纏めるものではなく、3本又は4本のシールドジャッキ1を纏めるものとしてもよい。
【0047】
また、纏めライン22を省略して、各引き側油圧ライン10に直接引き側集合11を繋ぐようにし、各引き側油圧ライン10に夫々引き側選択弁23を設けてもよい。こうすれば、収縮させるシールドジャッキ1の引き側選択弁23のみを開き、他の引き側選択弁23を閉じることで、他のシールドジャッキ1には引き圧が加わらなくなるので、他のシールドジャッキ1の収縮を完全に回避できる。
【0048】
また、特定のシールドジャッキ1を引き動作させるときに、図1の纏めライン22により纏められた複数のシールドジャッキ1を一群としてその一群のシールドジャッキ1を全て収縮させることにすれば、上記問題は生じない。
【0049】
以上述べたように、本実施形態に係るシールド掘進機のバックリング防止装置によれば、特定のシールドジャッキ1aのみを収縮させる際、他のシールドジャッキ1の収縮を略完全に防止でき、掘進機本体15のバックリングを略完全に防止できる。
【0050】
本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。
【0051】
例えば、本実施形態は、図3に示す所謂仮発進状態のシールド掘進機に本発明を適用したものを示したが、所謂仮発進が終了し、掘進機本体15の後部に後続台車17が連結された通常掘進状態のシールド掘進機に、本発明を適用してもよい。
【0052】
また、掘進機本体15の径が大きい大口径シールドや掘進深さが深い大深度シールドの場合、切羽19から掘進機本体15の正面に加わる力が大きくなり、この力に対抗する推進油圧を得るため、押し側油圧ライン7が太くなって押し側油圧ライン7内のオイルの容量が増え、その圧縮の影響が大きくなる。よって、大口径シールドや大深度シールドに、引きを選択したシールドジャッキ以外のシールドジャッキには原則として引き圧が掛からない本発明を適用することが好ましい。
【0053】
また、既存のトンネルの下方にシールド工法によって新たなトンネルを構築する場合、掘進機本体15がバックリングすると、地盤沈下によって既存のトンネルが損傷する可能性があるので、そのシールド工法に使用されるシールド掘進機に、バックリングを略完全に防止できる本発明を適用することが好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】本発明の一実施形態に係るシールド掘進機のバックリング防止装置を備えたシールドジャッキの油圧回路の概略図である。
【図2】従来例に係るシールド掘進機のシールドジャッキの油圧回路の概略図である。
【図3】掘進機本体が発進初期(所謂仮発進)の様子を示す立坑の断面図である。
【符号の説明】
【0055】
1 シールドジャッキ
1a 特定のシールドジャッキ
2 シリンダ
3 押し側室
4 引き側室
5 ピストン
7 押し側油圧ライン
8 押し側選択弁
9 押し側集合ライン
10 引き側油圧ライン
11 引き側集合ライン
12 押引切換弁
15 掘進機本体
16 立坑
17 後続台車
18 地上
20 反力受け部材
22 纏めライン
23 引き側選択弁
23a 特定の引き側選択弁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
掘進機本体内に複数設けられ、セグメント等の反力受け部材に反力を取って上記掘進機本体を前進させるシールドジャッキを有し、
該シールドジャッキは、内部がピストンによって押し側室と引き側室とに仕切られたシリンダを有し、加えて
各シールドジャッキの押し側室に夫々接続された押し側油圧ラインを集合させた押し側集合ラインと、
各シールドジャッキの引き側室に夫々接続された引き側油圧ラインを集合させた引き側集合ラインと、
加圧されたオイルを上記押し側集合ラインに導入して上記引き側集合ラインから排出されるオイルをオイルタンクに戻す押しモードと、加圧されたオイルを上記引き側集合ラインに導入して上記押し側集合ラインから排出されるオイルをオイルタンクに戻す引きモードとを切り替え可能な押引切換弁と、
各押し側油圧ラインに夫々開閉可能に設けられた押し側選択弁とを備え、
特定のシールドジャッキを伸長させるとき、上記押引切換弁を押しモードとし、特定のシールドジャッキに接続された押し側油圧ラインの押し側選択弁のみを開き他の押し側選択弁を閉じ、
特定のシールドジャッキを収縮させるとき、上記押引切換弁を引きモードとし、特定のシールドジャッキに接続された押し側油圧ラインの押側選択弁のみを開き他の押し側選択弁を閉じるシールド掘進機のバックリング防止装置であって、
上記各引き側油圧ラインの幾つかを纏めた纏めライン又は各引き側油圧ラインに、引き側選択弁を夫々開閉可能に設け、
特定のシールドジャッキを収縮させるとき、その特定のシールドジャッキの引き側室に接続された纏めライン又は引き側油圧ラインに設けられた特定の引き側選択弁のみを開き他の引き側選択弁を閉じ、
他の引き側選択弁が設けられた纏めライン又は引き側油圧ラインに接続されたシールドジャッキの引き側室に、加圧されたオイルの圧力が加わることを回避したことを特徴とするシールド掘進機のバックリング防止装置。
【請求項2】
上記引き側選択弁が、上記掘進機本体内に設けられ、
上記押し側選択弁及び上記押引切換弁が、上記掘進機本体の後続台車に設けられた
請求項1に記載のシールド掘進機のバックリング防止装置。
【請求項3】
上記掘進機本体が、発進用の立坑の底部に配置され、
上記後続台車が、上記立坑の近傍の地上に配置され、
上記押し側油圧ラインが、上記立坑の底部に配置された上記掘進機本体と、上記地上に配置された上記後続台車とを接続するものである
請求項2に記載のシールド掘進機のバックリング防止装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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