説明

シールリング

【課題】低トルク化を図りつつ耐久性の向上を図ったシールリングを提供する。
【解決手段】軸20に設けられた環状溝21に装着され、ハウジング30の軸孔31の内周面と環状溝21の側面のそれぞれに摺動自在に接することで、相対的に回転する軸20とハウジング30間の環状隙間を封止するシールリング10において、外周面の軸方向の中央に、周方向に伸びるように設けられる第1溝12と、両側面に、環状溝21の側面に接した場合の接触範囲S0内において周方向に伸びるようにそれぞれ設けられる第2溝13,14と、両側面にそれぞれ設けられる第2溝13,14と第1溝12とを各々連通する複数の連通孔15,16と、を備えることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2部材間の環状隙間を封止するシールリングに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、軸の外周に設けられた環状溝に装着され、軸が挿通されるハウジングの軸孔の内周面と環状溝の側面のそれぞれに接することで、相対的に回転する軸とハウジングの軸孔との間の環状隙間を封止するシールリングが知られている。かかるシールリングは、例えば自動車用のAT・CVTなどの各種油圧機器に用いられる。
【0003】
近年、この種のシールリングにおいて、低トルク化や耐久性の向上が求められている。低トルク化を図るために、シールリングの断面形状をT字形状とすることで、環状溝の側面に対する摺動面積を低減させる技術も知られている(特許文献1,2参照)。
【0004】
しかしながら、外周面側における摺動抵抗によって低トルク化が不十分であったり、側面側において、局所的に面圧が高くなって摩耗が進行し易くなってしまったりするなど、未だ改善の余地がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−275052号公報
【特許文献2】特開2007−107547号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、低トルク化を図りつつ耐久性の向上を図ったシールリングを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記課題を解決するために以下の手段を採用した。
【0008】
すなわち、本発明のシールリングは、
2部材のうちの一方の部材に設けられた環状溝に装着され、他方の部材の周面と前記環状溝の側面のそれぞれに摺動自在に接することで、相対的に回転する2部材間の環状隙間を封止するシールリングにおいて、
前記他方の部材と摺動する周面の軸方向の中央に、周方向に伸びるように設けられる第1溝と、
両側面に、前記環状溝の側面に接した場合の接触範囲内において周方向に伸びるようにそれぞれ設けられる第2溝と、
両側面にそれぞれ設けられる第2溝と第1溝とを各々連通する複数の連通孔と、
を備えることを特徴とする。
【0009】
本発明によれば、密封領域内の流体圧力が高まった場合において、第1溝内の流体圧力によって、他方の部材と摺動する周面側における摺動抵抗を低減させることができ、かつ第2溝内の流体圧力によって、側面側における摺動抵抗を低減させることができる。
【0010】
また、第1溝は周面の軸方向の中央に設けられているので、軸方向の両側に摺動領域が確保される。従って、シールリングによる他方の部材と摺動する周面側の軸方向の面圧分
布の片寄りを抑制できる。
【0011】
更に、第2溝は環状溝の側面に接した場合の接触範囲内に設けられている。つまり、第2溝を介して外周側と内周側にそれぞれ摺動領域が確保される。従って、シールリングによる側面側の径方向の面圧分布の片寄りを抑制できる。
【0012】
周方向の1か所が切断された切断部を備えており、
第1溝及び第2溝は、前記切断部付近を除いた全周に亘って設けられているとよい。
【0013】
これにより、切断部付近を除く全周に亘って、摺動抵抗を低減させることができる。
【発明の効果】
【0014】
以上説明したように、本発明によれば、低トルク化を図りつつ耐久性の向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の実施例に係るシールリングの平面図である。
【図2】本発明の実施例に係るシールリングの切断部を示す図である。
【図3】本発明の実施例に係るシールリングの側面図である。
【図4】本発明の実施例に係るシールリングの模式的断面図である。
【図5】本発明の実施例に係るシールリングの使用状態を示す模式的断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に図面を参照して、この発明を実施するための形態を、実施例に基づいて例示的に詳しく説明する。ただし、この実施例に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対配置などは、特に特定的な記載がない限りは、この発明の範囲をそれらのみに限定する趣旨のものではない。
【0017】
(実施例)
図1〜図5を参照して、本発明の実施例に係るシールリングについて説明する。なお、本実施例に係るシールリングは、自動車用のAT・CVTなどの各種油圧機器に好適に用いることができる。
【0018】
<シールリングの構成>
特に、図1〜図4を参照して、本発明の実施例に係るシールリング10の構成について説明する。図1はシールリング10の平面図である。図2(a)はシールリング10における切断部(合口)11付近を示す一部破断斜視図であり、同図(b)は同図(a)中のBB断面で切断した断面図である。図3はシールリング10の側面図である。図4は図1中のAA断面図である。
【0019】
本実施例に係るシールリング10はPEEK,PPS,PTFE等の樹脂材から構成される。そして、本実施例に係るシールリング10は、周方向の1か所が切断された切断部(合口)11を備えている。本実施例における切断部11は、外周面及び両側面において切断形状がステップ形状となる特殊ステップカットを採用している。特殊ステップカットについては、公知技術であるので詳細は省略するが、周囲温度の変化によってシールリング10の周長が変化しても、シール性能の変化を抑制できる特長を有している。
【0020】
そして、本実施例に係るシールリング10は、その外周面の軸方向の中央に、周方向に伸びるように設けられる第1溝12が設けられている。この第1溝12は、切断部11付近を除いた全周に亘って設けられている。また、本実施例に係るシールリング10は、そ
の両側面に、第2溝13,14がそれぞれ設けられている。これらの第2溝13,14も、切断部11付近を除いた全周に亘って設けられている。更に、本実施例に係るシールリング10は、第1溝12と第2溝13とを連通する連通孔15と、第1溝12と第2溝14とを連通する連通孔16とがそれぞれ複数設けられている。
【0021】
<シールリングの動作>
特に、図5を参照して、本実施例に係るシールリング10の動作について説明する。本実施例に係るシールリング10は、軸20の外周に設けられた環状溝21に装着され、軸20が挿通されるハウジング30の軸孔31の内周面と環状溝21の側面のそれぞれに摺動自在に接触する。これにより、相対的に回転する軸20とハウジング30の軸孔31との間の環状隙間を封止する。
【0022】
図5に示す例においては、図中右側が高圧側(例えば、高圧になる油が密封されている側)Hで、図中左側が低圧側(例えば、大気側や低圧の流体が密封されている側)Lとなる。これにより、シールリング10は、環状溝21における低圧側Lの側面と、ハウジング30の軸孔31の内周面に対して、それぞれ摺動自在に接触する。なお、本実施例に係るシールリング10は、軸方向の中心面に対して対称的な構造をなしているので、図中左右のどちら側が高圧になっても同等の機能を発揮する。
【0023】
ここで、本実施例に係るシールリング10における第2溝13,14は、環状溝21の側面に接した場合の接触範囲内において周方向に伸びるようにそれぞれ設けられている。つまり、図5に示すように、環状溝21における図中左側の側面に対してシールリング10が接した場合、図中S0に示す範囲が接触範囲である。この接触範囲S0内において、第2溝14が周方向に伸びるように設けられている。これにより、第2溝14を介して外周側と内周側にそれぞれ摺動領域S1,S2が確保される。なお、第2溝13においても同様である。つまり、仮に、シールリング10が環状溝21における図中右側の側面に対して接触した場合に、その接触範囲内において、第2溝13が周方向に伸びるように設けられている。これにより、第2溝13を介して外周側と内周側にそれぞれ摺動領域が確保される。
【0024】
以上の構成により、第2溝13と第1溝12は連通孔15によって連通しており、かつ第1溝12と第2溝14は連通孔16によって連通しているので、第1溝12及び第2溝14内は密封領域内の流体が入り込んだ状態となる(図5中の矢印参照)。従って、第1溝12が設けられている範囲においては、内周面側と外周面側とで同一の圧力が作用し合い、圧力が相殺される。また、第2溝13,14が設けられている範囲においては、両側面側から同一の圧力が作用し合い、圧力が相殺される。
【0025】
<本実施例に係るシールリングの優れた点>
以上説明したように、本実施例に係るシールリング10によれば、第1溝12が設けられている範囲においては、内周面側と外周面側とで同一の圧力が作用し合い、圧力が相殺される。従って、シールリング10の外周面と、ハウジング30の軸孔31の内周面との摺動抵抗を低減させることができる。
【0026】
また、第2溝13,14が設けられている範囲においては、両側面側から同一の圧力が作用し合い、圧力が相殺される。従って、シールリング10の側面と環状溝21の側面との摺動抵抗を低減させることができる。
【0027】
以上のことから、シールリング10におけるシール面を形成する外周面と側面のいずれにおいても摺動抵抗を低減させることができ、低トルク化を図ることが可能となる。
【0028】
また、第1溝12は外周面の軸方向の中央に設けられているので、軸方向の両側に摺動領域が確保される。従って、シールリング10によるハウジング30の軸孔31の内周面に対する軸方向の面圧分布の片寄りを抑制できる。
【0029】
更に、第2溝13,14は環状溝21の側面に接した場合の接触範囲内に設けられている。つまり、第2溝13,14を介して外周側と内周側にそれぞれ摺動領域が確保される。従って、シールリング10による環状溝21の側面に対する径方向の面圧分布の片寄りを抑制できる。
【0030】
また、本実施例においては、第1溝12及び第2溝13,14は、切断部11付近を除いた全周に亘って設けられているので、略全周に亘って、摺動抵抗を低減させることができる。
【0031】
(その他)
上記実施例においては、切断部の一例として特殊ステップカットの場合を示したが、切断部の構造はこれに限られるものではない。
【0032】
また、本実施例では、軸側に環状溝を設けて、この環状溝内にシールリングを装着する場合を示したが、本発明においては、ハウジングの軸孔の内周面に設けられた環状溝内に装着されるシールリングにも適用可能である。なお、この場合には、シールリングの内周面と軸の外周面との間と、シールリングの側面と装着溝の側面との間にそれぞれ摺動面(シール面)が形成される。
【符号の説明】
【0033】
10 シールリング
11 切断部
12 第1溝
13,14 第2溝
15,16 連通孔
20 軸
21 環状溝
30 ハウジング
31 軸孔
H 高圧側
L 低圧側
S0 接触範囲
S1,S2 摺動領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
2部材のうちの一方の部材に設けられた環状溝に装着され、他方の部材の周面と前記環状溝の側面のそれぞれに摺動自在に接することで、相対的に回転する2部材間の環状隙間を封止するシールリングにおいて、
前記他方の部材と摺動する周面の軸方向の中央に、周方向に伸びるように設けられる第1溝と、
両側面に、前記環状溝の側面に接した場合の接触範囲内において周方向に伸びるようにそれぞれ設けられる第2溝と、
両側面にそれぞれ設けられる第2溝と第1溝とを各々連通する複数の連通孔と、
を備えることを特徴とするシールリング。
【請求項2】
周方向の1か所が切断された切断部を備えており、
第1溝及び第2溝は、前記切断部付近を除いた全周に亘って設けられていることを特徴とする請求項1に記載のシールリング。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−24400(P2013−24400A)
【公開日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−162932(P2011−162932)
【出願日】平成23年7月26日(2011.7.26)
【出願人】(000004385)NOK株式会社 (1,527)
【Fターム(参考)】