シール前端部保護構造
【課題】推進時のトンネルの揺動に対応しつつ弾性シール部材の前端部を保護することができるシール前端部保護構造を提供することを課題とする。
【解決手段】隣り合う先行トンネル10bと後行トンネル10aの間に推進方向に沿って設けられた弾性シール部材30の前端部を保護する保護構造W2であって、弾性シール部材30の前端部を収容する収容キャップ部材50と、この収容キャップ部材50の前方に設けられる排土部材70とを備えており、弾性シール部材30は、後行トンネル10aの、先行トンネル10bに対向する面に設けられ、収容キャップ部材50は、弾性シール部材30の前端部を縮めた状態で収容する収容部51を備え、排土部材70は、先行トンネル10bと後行トンネル10aの間で弾性シール部材30が通過する位置の土砂を排除する。
【解決手段】隣り合う先行トンネル10bと後行トンネル10aの間に推進方向に沿って設けられた弾性シール部材30の前端部を保護する保護構造W2であって、弾性シール部材30の前端部を収容する収容キャップ部材50と、この収容キャップ部材50の前方に設けられる排土部材70とを備えており、弾性シール部材30は、後行トンネル10aの、先行トンネル10bに対向する面に設けられ、収容キャップ部材50は、弾性シール部材30の前端部を縮めた状態で収容する収容部51を備え、排土部材70は、先行トンネル10bと後行トンネル10aの間で弾性シール部材30が通過する位置の土砂を排除する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、推進工法によって並設された複数本のトンネルを利用して築造する大断面トンネルの内部と外部との間を止水するために隣り合う先行トンネルと後行トンネルの間に推進方向に沿って設けられた弾性シール部材の前端部を保護するシール前端部保護構造に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、複数本の小断面トンネルを構築した後に、各トンネルの不要な覆工を撤去して大きな空間を形成しつつ、各トンネルの残置された覆工を利用して本設の頂底版や側壁などを形成することにより大断面トンネルを築造する技術が知られている。なお、複数の小断面トンネルは、時間差をもって順次に構築され、後行のトンネルは、先行のトンネルの隣りに構築される。また、各トンネルは、例えば、推進工法によって構築される。
【0003】
ここで、推進工法とは、トンネルの覆工となる筒状の推進函体(トンネル函体)を坑口から順次地中に圧入してトンネルを構築する工法である。なお、推進函体の先端には、刃口や掘進機などが取り付けられている。推進工法の掘進機は、推進函体に反力をとって自ら掘進するもの(つまり、推進ジャッキを装備しているもの)でもよいし、推進函体を介して伝達された元押しジャッキの推力により掘進するものであってもよい。
【0004】
ところで、推進工法で小断面トンネルを構築する場合、特に、トンネルの後方から元押しジャッキで推進函体を押し出す場合には、後行トンネルが、先行トンネルに対して平行に推進しないことがある。したがって、先行トンネルを後行トンネルに沿って平行に推進させるために、隣り合う二つのトンネルのうち、一方のトンネルには、他方のトンネル側に開口するガイド溝がトンネル軸方向に沿って形成され、他方のトンネルには、一方のトンネルのガイド溝に遊嵌する突条が形成された大断面トンネルが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
このような構成の大断面トンネルでは、突条とガイド溝との間に止水材を充填することで、隣り合うトンネル間の隙間をシールするようになっている。しかしながら、前記の大断面トンネルでは、ガイド溝を洗浄してその内部に詰まった裏込材を除去した後に止水材を充填するため、施工に多くの手間と時間を要してしまう問題があった。
【0006】
そこで本発明者らは、前記の問題を解決すべく施工が容易な止水構造を開発した(特許文献2参照)。この止水構造は、隣り合う二つのトンネルのうち、一方のトンネルの他方のトンネルに対向する外表面に推進方向に沿って設けられる直線状の弾性シール部材を備え、弾性シール部材は、一方のトンネルの外表面に固定されるベース部と、このベース部と一体的に形成され先端が大断面トンネルの外側に向いたリップ部とを備えてなり、リップ部は、大断面トンネルの外側の圧力によって他方のトンネルの外表面に向かって弾性的に付勢されるように構成されているものである。
【0007】
このような構成の止水構造によれば、トンネルの外表面に弾性シール部材を設けてトンネルを推進させるだけで止水施工を行うことができるので、施工の手間と時間を短縮でき、施工が容易になる。さらに、弾性シール部材は、大断面トンネルの外側の地山の圧力によって隣り合う他方のトンネルの外表面に向かって弾性的に付勢されるリップ部を有しているので、他方のトンネルとの密着性が高くなり、止水性を高めることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2006−90098号公報
【特許文献2】特開2010−133100号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献2のような止水構造では、トンネルの推進時に、弾性シール部材の推進方向前端部に地山の土圧がかかるので、その前端部を保護する構成が必要となる。特許文献2には、図10に示すように、弾性シール部材101の推進方向前端部に先導カバー102を設けた構成が記載されている。この先導カバー102は、弾性シール部材101の前端面を覆うように設けられる部材であって、硬質樹脂あるいは鋼製の部材にて形成されている。先導カバー102は、前端から後方に向かうに連れて厚くなるように傾斜して形成されており、トンネル100の推進時に前方の地山の土砂を弾性シール部材101が通過する位置から押し退けるようになっている。ところで、推進時に後行のトンネルが揺動すると、トンネル間の距離が変動するが、前記の先導カバー102は弾性を有していないので、この変動に対して追従するのが困難であった。
【0010】
このような観点から、本発明は、推進時のトンネルの揺動に対応しつつ弾性シール部材の前端部を保護することができるシール前端部保護構造を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
このような課題を解決するために創案された本発明は、推進工法によって並設された複数本のトンネルを利用して築造する大断面トンネルの内部と外部との間を止水するために隣り合う先行トンネルと後行トンネルの間に推進方向に沿って設けられた弾性シール部材の前端部を保護する保護構造であって、前記弾性シール部材の前端部を収容する収容キャップ部材と、この収容キャップ部材の前方に設けられる排土部材とを備えており、前記弾性シール部材は、前記後行トンネルの、前記先行トンネルに対向する面に設けられ、前記収容キャップ部材は、前記弾性シール部材の前端部を縮めた状態で収容する収容部を備え、前記排土部材は、前記先行トンネルと前記後行トンネルの間で前記弾性シール部材が通過する位置の土砂を排除することを特徴とするシール前端部保護構造である。
【0012】
このような構成によれば、収容キャップ部材は弾性シール部材を縮めた状態で収容するように構成されているので高さが低くなる。したがって、隣り合う二つのトンネルは互いに近接することが可能である。さらに、排土部材を設けたことによって、弾性シール部材が土砂に接触するのを抑制できるので、弾性シール部材の保護性能が高くなる。
【0013】
また、前記弾性シール部材は、前記後行トンネルの外表面に固定されるベース部と、このベース部と一体的に形成されたリップ部とを備えてなり、前記リップ部は、基端が前記ベース部に接続されるともに先端が前記大断面トンネルの外側に向いており、前記弾性シール部材の前端部分は、前記リップ部が前記ベース部側に寄せられた状態で前記収容キャップ部材に収容されるものが好ましい。このような構成によれば、弾性シール部材が変形しやすいので、圧縮した状態で収容キャップ部材に収容する作業を行いやすい。また、リップ部が、大断面トンネルの外側の圧力によって他方のトンネルの外表面に向かって弾性的に付勢されるので、止水性能が高い。
【0014】
さらに、後行トンネルには、推進方向に沿って延在するシール収容溝が形成されており、前記シール収容溝に、前記排土部材、前記収容キャップ部材および前記弾性シール部材が収容されているものが好ましい。このような構成によれば、排土部材、収容キャップ部材および弾性シール部材の地山に接触する部分を低減することができるので、各部材の磨耗を抑えることとなり保護性能を高めることができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明のシール前端部保護構造によれば、推進時のトンネルの揺動に対応しつつ弾性シール部材の前端部を保護することができるといった優れた効果を発揮する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の実施形態に係るシール前端部保護構造を示した側面図であって、(a)は隣り合うトンネル間の距離が大きい場合の図、(b)はトンネル間の距離が小さい場合の図である。
【図2】本発明の実施形態に係るシール前端部保護構造の収容キャップ部材を示した斜視図であって、(a)はトンネルの推進方向前側から見た図、(b)は、推進方向後側から見た図である。
【図3】本発明の実施形態に係るシール前端部保護構造の適用時の弾性シール部材の推進方向前端部を示した斜視図である。
【図4】図1のa−a線断面図である。
【図5】本発明の実施形態に係るシール前端部保護構造の排土部材を示した斜視図である。
【図6】図1のb−b線断面図である。
【図7】本発明の実施形態に係るシール前端部保護構造の排土部材の変形例を示した斜視図である。
【図8】大断面トンネルを示した断面図である。
【図9】図8のX1部分を示した拡大断面図である。
【図10】(a)および(b)は、従来の止水構造の前端部を示した斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を実施するための形態を、添付した図面を参照しながら詳細に説明する。なお、本実施形態において、前後方向は、トンネルを構成するトンネル函体の推進方向の前後を示す。
【0018】
図8に示すように、止水構造W1は、推進工法によって並設された複数本のトンネル10を利用して築造する大断面トンネル1の内部(内空部)と外部(地山部)との間を止水する構造である。大断面トンネル1は、その横断面の全てを実質的に含むように並設された複数本(本実施形態では六本)のトンネル10,10,…を利用して築造したものであり、頂版1A、底版1Bおよび側壁1C,1Cを備えている。各トンネル10は、軸方向に連接されたトンネル函体によって構成されている。
【0019】
図9に示すように、隣り合う二つのトンネル10,10のうち、先行トンネル10bには、後行トンネル10a側に開口するガイド溝D1がトンネル軸方向(図9において紙面垂直方向)に沿って形成されており、後行トンネル10aには、先行トンネル10bのガイド溝D1に遊嵌する突条P1が形成されている。なお、以下では、ガイド溝D1と突条P1を合わせて、単に「継手J1」と称することがある。そして、この継手J1よりも大断面トンネル1の外側(地山側)に、止水構造W1が形成されている。つまり、継手J1と止水構造W1とが別個に設けられている。
【0020】
図1に示すように、止水構造W1は、弾性シール部材30を備えてなる。また、この止水構造W1の前端部を保護するシール前端部保護構造W2は、収容キャップ部材50と排土部材70とを備えている。止水構造W1は、推進方向に沿って後行トンネル10aの全長に亘って設けられており、シール前端部保護構造W2は、後行トンネル10aの先頭のトンネル函体に設けられている。
弾性シール部材30は、後行トンネル10aの外周面に形成されたシール収容溝15(図9参照)に収容されている。なお、図1乃至図7においては、後行トンネル10aが下側になるように図示している。
【0021】
弾性シール部材30は、図9に示すように、隣り合う二つのトンネル10,10の間に推進方向に沿って設けられた部材である。弾性シール部材30は、一方のトンネル10(後行トンネル10a)の表面のうち、他方のトンネル10(先行トンネル10b)に対向する部分に設けられている。弾性シール部材30は、例えば、耐摩耗性を備えた硬質ゴムやウレタン等の材料にて構成されている。弾性シール部材30は、推進方向に連続して設けられている。弾性シール部材30は、ベース部31とリップ部32とを備えてなる。
【0022】
ベース部31は、後行トンネル10aの外表面に固定される部分であって、長尺の板状に形成されて、推進方向に延在している。ベース部31は、例えば、ボルトBや接着剤等の固定手段によって、後行トンネル10aの外表面(後記するシール収容溝15の底面)に固定されている。ベース部31には、推進方向に長い長孔(図3参照)にて構成されたボルト貫通孔35が形成されており、固定位置の調整が可能になっている。シール収容溝15の底面には、接着材を塗布してなる接着層(図示せず)が形成されている。つまり、ベース部31は、接着層を介してシール収容溝15の底面に密着しており、接着層により後行トンネル10aの外表面とベース部31とのシール性が確保されている。
【0023】
リップ部32は、ベース部31と一体的に形成されている。リップ部32は、ベース部31の表面から先行トンネル10bに向かって斜めに立ち上がっており、ベース部31とリップ部32とで、断面が略V字状を呈している。リップ部32は、ベース部31に対して弾性的に傾倒変形可能な部位である。リップ部32は、後行トンネル10aと先行トンネル10bとに挟まれていて、初期状態(図9中、二点鎖線にて示す)よりも傾倒した状態で、先行トンネル10bの外表面に接触する。このとき、リップ部32は、復元しようとする力によって、先行トンネル10bに向かって弾性的に付勢する。
【0024】
さらに、弾性シール部材30は、リップ部32の先端が大断面トンネル1の外側に向くように配置されている。つまり、ベース部31とリップ部32とにより形成される断面略V字状の溝条が、大断面トンネル1の外側に向いて開くように配置されている。これによって、弾性シール部材30の断面略V字状の溝条部分に、大断面トンネル1の外側の圧力(水圧)が作用するようになっている。すなわち、リップ部32は、大断面トンネル1の外側の圧力(水圧)によって、先行トンネル10bの外表面に押圧されて、先行トンネル10bに密着する。
【0025】
シール収容溝15は、後行トンネル10aの表面のうち、先行トンネル10bに対向する部分に形成され、推進方向に沿って延在している。シール収容溝15は、矩形断面を呈しており、トンネル10の表面のスキンプレート11に形成された開口部11aの内側に、溶接固定された側板16a,16aと底板16bとで区画されている。シール収容溝15は、弾性シール部材30を収容できるように、弾性シール部材30の幅寸法より僅かに大きい幅寸法を有している。図1に示すように、シール収容溝15は、ベース部31の厚さ寸法より大きく、弾性シール部材30全体の厚さ寸法より小さい深さ寸法を有しており、弾性シール部材30をシール収容溝15に収容したときにリップ部32の先端側(ベース部31につながる基端側の逆側)の一部が、シール収容溝15の開放端から突出するようになっている。シール収容溝15には、弾性シール部材30の他にも、収容キャップ部材50と排土部材70が収容される。これらの部材は、推進方向前方から排土部材70、収容キャップ部材50、弾性シール部材30の順でシール収容溝15内に収容されている。
【0026】
なお、弾性シール部材30は、本実施形態では、断面略V字状に形成されているが、弾性シール部材30の断面形状を限定する趣旨ではない。例えば、断面U字状、L字状、T字状等、他の形状であってもよい。
【0027】
収容キャップ部材50は、図1に示すように、弾性シール部材の前端部(トンネル10の推進方向の前端部)を収容する部材である。収容キャップ部材50は、金属等の耐摩耗性に優れた材質にて構成されている。収容キャップ部材50は、前方に向かうに連れて薄くなっている。収容キャップ部材50の前端部は、シール収容溝15の深さ寸法よりも小さい厚さ寸法となっていて、後端部は、シール収容溝15の深さ寸法よりも大きい厚さ寸法となっている。この後端部の厚さ寸法は、トンネル10の鋼殻表面からの収容キャップ部材50の突出寸法(収容キャップ部材50の厚さ寸法からシール収容溝15の深さ寸法を減算した値)が、隣り合うトンネル10,10間の最小離隔寸法(例えば10mm)より小さくなるように設定される。収容キャップ部材50が前方に向かうに連れて薄くなるのに応じて、その内部の収容部51も前方に向かうに連れて薄くなっている。
【0028】
図2に示すように、収容キャップ部材50は、幅方向の中間部が厚い凸形状を呈している。収容キャップ部材50は、後方が開口する収容部51を備えている。図4に示すように、収容キャップ部材50の後端における収容部51の断面形状は、弾性シール部材30のリップ部32がベース部31側に傾倒した状態で収容できるように形成されている。つまり、後端の収容部51は、ベース部31を収容する幅広部51aと、リップ部32を収容する幅狭部51bとで構成されている。幅広部51aと幅狭部51bは、連続して一体的に形成されている。
【0029】
図1に示すように、収容キャップ部材50の前端における収容部51の厚さは、後端における収容部51の厚さよりも薄くなっている。前端の収容部51も後端と同様に、幅広部51aと幅狭部51bとで構成されているが、幅広部51aは、後端から前端にかけて同じ形状である。幅狭部51bは、後端から前端にかけて厚さ寸法が小さくなる。
【0030】
図2に示すように、幅狭部51bの幅方向外方で、幅広部51aの上方(シール収容溝15の開口端側)に位置する部分には、ボルト貫通孔52が形成されている。ボルト貫通孔52は、収容部51に挿入される弾性シール部材30のボルト孔34に相当する位置に形成されている。ボルト貫通孔52は、推進方向に長い長孔にて構成されており、固定位置の調整が可能になっている。図4に示すように、シール収容溝15の底板16bの収容キャップ部材50が固定される位置には、貫通孔77が形成されその下部にネジ孔を備えたボス部76が溶接固定されている。ボルトBを、収容キャップ部材50のボルト貫通孔52から、弾性シール部材30のボルト孔34、シール収容溝15の貫通孔77へと貫通させて、ボス部76に螺合させることで、弾性シール部材30と収容キャップ部材50がシール収容溝15に固定される。
【0031】
図1および図3に示すように、弾性シール部材30のリップ部32の前端部は、前方に向かうに連れて肉厚が徐々に薄くなっている。リップ部32の前端部の薄肉部は、その表面を前方に向かうほど、より多く削ることで、薄く形成されている。このようにすると、弾性シール部材30の前端部に傾斜面が形成され、この傾斜面が弾性シール部材30内への挿入時のガイドとなるので、前端部が薄くなっている収容部51に弾性シール部材30を挿入し易くなる。
【0032】
また、ベース部31のうち、収容部51に収容される部分には、縮小部33が形成されている。この縮小部33は、ベース部31の幅方向両側面と底面を所定厚さ削って切除することで形成されており、その他の部分のベース部31と比較して幅が狭く且つ薄くなっている。切除する部分の厚さは、収容キャップ部材50の幅広部51aの幅方向両側と底部に位置する壁部53(図2および図4参照)と同等の厚さとなっている。つまり、縮小部33の断面は、収容部51の幅広部51aの断面と同等の形状を呈している。したがって、弾性シール部材30の縮小部33を収容キャップ部材50の収容部51に挿入したときに、縮小部33を除いた後方の弾性シール部材30の側面および底面が、収容キャップ部材50の側面および底面とそれぞれ面一となってそれぞれの面同士が連続的につながる。これによって、シール収容溝15に、収容キャップ部材50と弾性シール部材30を収容したときに、シール収容溝15の内周面に隙間が発生せず、止水性能を高めることができる。
【0033】
以上のような構成の弾性シール部材30は、図4に示すように、収容部51に挿入されると、リップ部32がベース部31に対して弾性的に傾倒した状態となるので、復元しようとする力によって収容部51の内周面を押圧することとなる。これによって、収容キャップ部材50と弾性シール部材30とが固定されて一体化する。
【0034】
排土部材70は、図1に示すように、収容キャップ部材50の前方に設けられ、弾性シール部材30の推進方向前方にある土砂を、弾性シール部材30の通過経路から押し退ける部材である。排土部材70は、板バネ71に囲われたワイヤブラシ72を取付台座73に固定して構成されている。取付台座73は、硬質ゴムやウレタン等からなる板材にて構成されている。図5および図6に示すように、取付台座73は、シール収容溝15内に収容可能なように、シール収容溝15の幅寸法より僅かに小さい幅寸法(弾性シール部材30および収容キャップ部材50と同等の幅寸法)を有している。取付台座73は、シール収容溝15の深さ寸法より小さい厚さ寸法を有しており、その全体がシール収容溝15内に収容される。取付台座73には、ボルト孔74a,74bが形成されている。
【0035】
図1に示すように、バネ71は、例えば金属板を折り曲げて形成されている。板バネ71は、推進方向前方から、ワイヤブラシ72の底側(シール収容溝15の底部側)と上側(先行トンネル10b側)を囲うように配置されており、ワイヤブラシ72の保護機能も備えている。板バネ71は、取付台座73の表面と平行な平行部71aと、平行部71aの後方で先行トンネル10b側に屈曲した傾斜部71bとを備えている。平行部71aの前方には取付部71cが固定されている。取付部71cには、複数のボルト貫通孔75(図6参照)が形成されており、板バネ71の基端部は、ボルトB等の固定手段によって、取付台座73に固定されている。幅方向両端部に位置する取付台座73のボルト孔74aは、貫通して形成されており、幅方向両端に位置するボルトBが、シール収容溝15の底板16bの下方まで貫通して、ネジ孔を備えたボス部76に螺合している。ボス部76は、底板16bの貫通孔77の下部に溶接固定されている。このような構成によって、排土部材70が、シール収容溝15に固定される。また、幅方向中央に位置する取付台座73のボルト孔74bは、ネジ溝を有しており、取付部71cに挿通されたボルトBが螺合することで、板バネ71と取付台座73が固定される。
【0036】
傾斜部71bは、シール収容溝15に排土部材70が固定されたときに、後方に向かうに連れて後行トンネル10aから離れるように傾斜している。そして、傾斜部71bの後端側が、後行トンネル10aの鋼殻表面から先行トンネル10b側に向かって突出する。傾斜部71bは、後方ほど先行トンネル10bに近接する。傾斜部71bの突出寸法(後端の突出寸法)は、隣り合うトンネル10,10間の最大離隔寸法(例えば40mm)より大きくなるように設定されている。つまり、傾斜部71bは、常に先行トンネル10bに押し付けられていることとなり、その復元力によって、傾斜部71bが先行トンネル10bの鋼殻表面に接触している。傾斜部71bは、後端が取付台座73よりも後方に位置しており、後行トンネル10a側に押し付けられたときに、収容キャップ部材50の表面を覆うようになる。
【0037】
図1に示すように、ワイヤブラシ72は、前端側から上面と下面が板バネ71に囲われており、ボルトBを介して、板バネ71と一体的に取付台座73に固定されている。ワイヤブラシ72の後端側は、側方から見て斜め後方に向かって広がっており、その一部が先行トンネル10bの鋼殻表面に当接して摺動している。ワイヤブラシ72は、厚さ方向に三層構造に形成されており、各層の間には仕切板が設けられている。ワイヤブラシ72内の隙間にはグリスまたは発泡ウレタンが充填されている。ワイヤブラシ72と板バネ71は、取付台座73と同等の幅寸法を備えており、シール収容溝15の幅全体に亘って配置されている。
【0038】
以上のような構成のシール前端部保護構造W2によれば、弾性シール部材30の前端部を収容キャップ部材50に挿入しているので、弾性シール部材30の前端部を保護することができる。これによって、弾性シール部材30の前端部の剥がれを防止できる。そして、この収容キャップ部材50は弾性シール部材30を圧縮した状態で収容するように構成されているので、後行トンネル10aの表面からの突出量が少なくて済む。これによって、隣り合う二つのトンネル10,10間は互いに近接することが可能である。具体的には、収容キャップ部材50は、トンネル10の鋼殻表面からの突出寸法が、隣り合うトンネル10,10間の最小離隔寸法より小さくなるように設定されているので、図1の(b)に示すように、後行トンネル10aは、先行トンネル10bに対して、最小離隔寸法まで近接することができる。
【0039】
さらに、収容キャップ部材50の前方に排土部材70が設けられているので、弾性シール部材30の通過経路から、土砂を排除することができる。これによって、弾性シール部材30が土砂に接触するのを抑えることができ、弾性シール部材30の保護性能を高めることができる。また、排土部材70は、先行トンネル10b側に延在するとともに、先行トンネル10bと後行トンネル10aとの離間距離に応じて変形可能に構成された板バネ71を備えているので、隣り合う二つのトンネル10,10が互いに近接または離間しても、排土部材70は、常時先行トンネル10bの表面に接触している。したがって、図1の(a)に示すように、後行トンネル10aが先行トンネル10bに対して、最大離隔寸法まで離間しても、排土部材70は、常に排土機能を発揮することができ、弾性シール部材30の保護性能を確保できる。
【0040】
以上のように、シール前端部保護構造W2によれば、トンネル10の推進時の揺動に対応できるとともに、弾性シール部材30の前端部を保護することができるといった優れた効果を発揮する。
【0041】
また、本実施形態では、弾性シール部材30が、ベース部31とリップ部32とを備えているので、弾性シール部材30が変形しやすい。したがって、圧縮した状態で収容キャップ部材50に収容する作業を行いやすい。さらに、リップ部32が、大断面トンネル1の外側の圧力によって先行トンネル10bの外表面に向かって弾性的に接触するので、止水性能が高い。
【0042】
さらに、後行トンネル10aには、シール収容溝15が形成され、シール収容溝15に、推進方向前方から排土部材70、収容キャップ部材50および弾性シール部材30が順次収容されているので、これらの部材の地山に接触する部分を低減することができる。したがって、各部材の磨耗を抑えることとなり保護性能を高めることができる。
【0043】
以上、本発明を実施するための形態について説明したが、本発明は前記実施形態に限定されず、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜設計変更が可能である。例えば、前記実施形態に係る排土部材70は、ワイヤブラシ72を備えて構成されているが、このような構成に限定されるものではない。例えば、図7に示すように、排土部材を、弾性シール部材30と同様の材質で構成してもよい。この場合、排土部材78は、ベース部78aと立上り部78bを備えている。立上り部78bは、推進方向に直交する方向に延在しており、ベース部78aの表面から推進方向後方に傾斜して立ち上がっている。ベース部78aの、立上り部78bの前後に位置する部分には、ボルト用の貫通孔79が形成されている。この貫通孔79にボルトを挿通させて、排土部材78を取付台座73に固定する。また、前記実施形態では、排土部材70,78は、取付台座73を介してトンネル10に固定しているが、シール収容溝15の底部に直接固定するようにしてもよい。
【符号の説明】
【0044】
W1 止水構造
W2 シール前端部保護構造
1 大断面トンネル
10 トンネル
10a 後行トンネル
10b 先行トンネル
15 シール収容溝
30 弾性シール部材
31 ベース部
32 リップ部
50 収容キャップ部材
70 排土部材
【技術分野】
【0001】
本発明は、推進工法によって並設された複数本のトンネルを利用して築造する大断面トンネルの内部と外部との間を止水するために隣り合う先行トンネルと後行トンネルの間に推進方向に沿って設けられた弾性シール部材の前端部を保護するシール前端部保護構造に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、複数本の小断面トンネルを構築した後に、各トンネルの不要な覆工を撤去して大きな空間を形成しつつ、各トンネルの残置された覆工を利用して本設の頂底版や側壁などを形成することにより大断面トンネルを築造する技術が知られている。なお、複数の小断面トンネルは、時間差をもって順次に構築され、後行のトンネルは、先行のトンネルの隣りに構築される。また、各トンネルは、例えば、推進工法によって構築される。
【0003】
ここで、推進工法とは、トンネルの覆工となる筒状の推進函体(トンネル函体)を坑口から順次地中に圧入してトンネルを構築する工法である。なお、推進函体の先端には、刃口や掘進機などが取り付けられている。推進工法の掘進機は、推進函体に反力をとって自ら掘進するもの(つまり、推進ジャッキを装備しているもの)でもよいし、推進函体を介して伝達された元押しジャッキの推力により掘進するものであってもよい。
【0004】
ところで、推進工法で小断面トンネルを構築する場合、特に、トンネルの後方から元押しジャッキで推進函体を押し出す場合には、後行トンネルが、先行トンネルに対して平行に推進しないことがある。したがって、先行トンネルを後行トンネルに沿って平行に推進させるために、隣り合う二つのトンネルのうち、一方のトンネルには、他方のトンネル側に開口するガイド溝がトンネル軸方向に沿って形成され、他方のトンネルには、一方のトンネルのガイド溝に遊嵌する突条が形成された大断面トンネルが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
このような構成の大断面トンネルでは、突条とガイド溝との間に止水材を充填することで、隣り合うトンネル間の隙間をシールするようになっている。しかしながら、前記の大断面トンネルでは、ガイド溝を洗浄してその内部に詰まった裏込材を除去した後に止水材を充填するため、施工に多くの手間と時間を要してしまう問題があった。
【0006】
そこで本発明者らは、前記の問題を解決すべく施工が容易な止水構造を開発した(特許文献2参照)。この止水構造は、隣り合う二つのトンネルのうち、一方のトンネルの他方のトンネルに対向する外表面に推進方向に沿って設けられる直線状の弾性シール部材を備え、弾性シール部材は、一方のトンネルの外表面に固定されるベース部と、このベース部と一体的に形成され先端が大断面トンネルの外側に向いたリップ部とを備えてなり、リップ部は、大断面トンネルの外側の圧力によって他方のトンネルの外表面に向かって弾性的に付勢されるように構成されているものである。
【0007】
このような構成の止水構造によれば、トンネルの外表面に弾性シール部材を設けてトンネルを推進させるだけで止水施工を行うことができるので、施工の手間と時間を短縮でき、施工が容易になる。さらに、弾性シール部材は、大断面トンネルの外側の地山の圧力によって隣り合う他方のトンネルの外表面に向かって弾性的に付勢されるリップ部を有しているので、他方のトンネルとの密着性が高くなり、止水性を高めることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2006−90098号公報
【特許文献2】特開2010−133100号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献2のような止水構造では、トンネルの推進時に、弾性シール部材の推進方向前端部に地山の土圧がかかるので、その前端部を保護する構成が必要となる。特許文献2には、図10に示すように、弾性シール部材101の推進方向前端部に先導カバー102を設けた構成が記載されている。この先導カバー102は、弾性シール部材101の前端面を覆うように設けられる部材であって、硬質樹脂あるいは鋼製の部材にて形成されている。先導カバー102は、前端から後方に向かうに連れて厚くなるように傾斜して形成されており、トンネル100の推進時に前方の地山の土砂を弾性シール部材101が通過する位置から押し退けるようになっている。ところで、推進時に後行のトンネルが揺動すると、トンネル間の距離が変動するが、前記の先導カバー102は弾性を有していないので、この変動に対して追従するのが困難であった。
【0010】
このような観点から、本発明は、推進時のトンネルの揺動に対応しつつ弾性シール部材の前端部を保護することができるシール前端部保護構造を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
このような課題を解決するために創案された本発明は、推進工法によって並設された複数本のトンネルを利用して築造する大断面トンネルの内部と外部との間を止水するために隣り合う先行トンネルと後行トンネルの間に推進方向に沿って設けられた弾性シール部材の前端部を保護する保護構造であって、前記弾性シール部材の前端部を収容する収容キャップ部材と、この収容キャップ部材の前方に設けられる排土部材とを備えており、前記弾性シール部材は、前記後行トンネルの、前記先行トンネルに対向する面に設けられ、前記収容キャップ部材は、前記弾性シール部材の前端部を縮めた状態で収容する収容部を備え、前記排土部材は、前記先行トンネルと前記後行トンネルの間で前記弾性シール部材が通過する位置の土砂を排除することを特徴とするシール前端部保護構造である。
【0012】
このような構成によれば、収容キャップ部材は弾性シール部材を縮めた状態で収容するように構成されているので高さが低くなる。したがって、隣り合う二つのトンネルは互いに近接することが可能である。さらに、排土部材を設けたことによって、弾性シール部材が土砂に接触するのを抑制できるので、弾性シール部材の保護性能が高くなる。
【0013】
また、前記弾性シール部材は、前記後行トンネルの外表面に固定されるベース部と、このベース部と一体的に形成されたリップ部とを備えてなり、前記リップ部は、基端が前記ベース部に接続されるともに先端が前記大断面トンネルの外側に向いており、前記弾性シール部材の前端部分は、前記リップ部が前記ベース部側に寄せられた状態で前記収容キャップ部材に収容されるものが好ましい。このような構成によれば、弾性シール部材が変形しやすいので、圧縮した状態で収容キャップ部材に収容する作業を行いやすい。また、リップ部が、大断面トンネルの外側の圧力によって他方のトンネルの外表面に向かって弾性的に付勢されるので、止水性能が高い。
【0014】
さらに、後行トンネルには、推進方向に沿って延在するシール収容溝が形成されており、前記シール収容溝に、前記排土部材、前記収容キャップ部材および前記弾性シール部材が収容されているものが好ましい。このような構成によれば、排土部材、収容キャップ部材および弾性シール部材の地山に接触する部分を低減することができるので、各部材の磨耗を抑えることとなり保護性能を高めることができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明のシール前端部保護構造によれば、推進時のトンネルの揺動に対応しつつ弾性シール部材の前端部を保護することができるといった優れた効果を発揮する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の実施形態に係るシール前端部保護構造を示した側面図であって、(a)は隣り合うトンネル間の距離が大きい場合の図、(b)はトンネル間の距離が小さい場合の図である。
【図2】本発明の実施形態に係るシール前端部保護構造の収容キャップ部材を示した斜視図であって、(a)はトンネルの推進方向前側から見た図、(b)は、推進方向後側から見た図である。
【図3】本発明の実施形態に係るシール前端部保護構造の適用時の弾性シール部材の推進方向前端部を示した斜視図である。
【図4】図1のa−a線断面図である。
【図5】本発明の実施形態に係るシール前端部保護構造の排土部材を示した斜視図である。
【図6】図1のb−b線断面図である。
【図7】本発明の実施形態に係るシール前端部保護構造の排土部材の変形例を示した斜視図である。
【図8】大断面トンネルを示した断面図である。
【図9】図8のX1部分を示した拡大断面図である。
【図10】(a)および(b)は、従来の止水構造の前端部を示した斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を実施するための形態を、添付した図面を参照しながら詳細に説明する。なお、本実施形態において、前後方向は、トンネルを構成するトンネル函体の推進方向の前後を示す。
【0018】
図8に示すように、止水構造W1は、推進工法によって並設された複数本のトンネル10を利用して築造する大断面トンネル1の内部(内空部)と外部(地山部)との間を止水する構造である。大断面トンネル1は、その横断面の全てを実質的に含むように並設された複数本(本実施形態では六本)のトンネル10,10,…を利用して築造したものであり、頂版1A、底版1Bおよび側壁1C,1Cを備えている。各トンネル10は、軸方向に連接されたトンネル函体によって構成されている。
【0019】
図9に示すように、隣り合う二つのトンネル10,10のうち、先行トンネル10bには、後行トンネル10a側に開口するガイド溝D1がトンネル軸方向(図9において紙面垂直方向)に沿って形成されており、後行トンネル10aには、先行トンネル10bのガイド溝D1に遊嵌する突条P1が形成されている。なお、以下では、ガイド溝D1と突条P1を合わせて、単に「継手J1」と称することがある。そして、この継手J1よりも大断面トンネル1の外側(地山側)に、止水構造W1が形成されている。つまり、継手J1と止水構造W1とが別個に設けられている。
【0020】
図1に示すように、止水構造W1は、弾性シール部材30を備えてなる。また、この止水構造W1の前端部を保護するシール前端部保護構造W2は、収容キャップ部材50と排土部材70とを備えている。止水構造W1は、推進方向に沿って後行トンネル10aの全長に亘って設けられており、シール前端部保護構造W2は、後行トンネル10aの先頭のトンネル函体に設けられている。
弾性シール部材30は、後行トンネル10aの外周面に形成されたシール収容溝15(図9参照)に収容されている。なお、図1乃至図7においては、後行トンネル10aが下側になるように図示している。
【0021】
弾性シール部材30は、図9に示すように、隣り合う二つのトンネル10,10の間に推進方向に沿って設けられた部材である。弾性シール部材30は、一方のトンネル10(後行トンネル10a)の表面のうち、他方のトンネル10(先行トンネル10b)に対向する部分に設けられている。弾性シール部材30は、例えば、耐摩耗性を備えた硬質ゴムやウレタン等の材料にて構成されている。弾性シール部材30は、推進方向に連続して設けられている。弾性シール部材30は、ベース部31とリップ部32とを備えてなる。
【0022】
ベース部31は、後行トンネル10aの外表面に固定される部分であって、長尺の板状に形成されて、推進方向に延在している。ベース部31は、例えば、ボルトBや接着剤等の固定手段によって、後行トンネル10aの外表面(後記するシール収容溝15の底面)に固定されている。ベース部31には、推進方向に長い長孔(図3参照)にて構成されたボルト貫通孔35が形成されており、固定位置の調整が可能になっている。シール収容溝15の底面には、接着材を塗布してなる接着層(図示せず)が形成されている。つまり、ベース部31は、接着層を介してシール収容溝15の底面に密着しており、接着層により後行トンネル10aの外表面とベース部31とのシール性が確保されている。
【0023】
リップ部32は、ベース部31と一体的に形成されている。リップ部32は、ベース部31の表面から先行トンネル10bに向かって斜めに立ち上がっており、ベース部31とリップ部32とで、断面が略V字状を呈している。リップ部32は、ベース部31に対して弾性的に傾倒変形可能な部位である。リップ部32は、後行トンネル10aと先行トンネル10bとに挟まれていて、初期状態(図9中、二点鎖線にて示す)よりも傾倒した状態で、先行トンネル10bの外表面に接触する。このとき、リップ部32は、復元しようとする力によって、先行トンネル10bに向かって弾性的に付勢する。
【0024】
さらに、弾性シール部材30は、リップ部32の先端が大断面トンネル1の外側に向くように配置されている。つまり、ベース部31とリップ部32とにより形成される断面略V字状の溝条が、大断面トンネル1の外側に向いて開くように配置されている。これによって、弾性シール部材30の断面略V字状の溝条部分に、大断面トンネル1の外側の圧力(水圧)が作用するようになっている。すなわち、リップ部32は、大断面トンネル1の外側の圧力(水圧)によって、先行トンネル10bの外表面に押圧されて、先行トンネル10bに密着する。
【0025】
シール収容溝15は、後行トンネル10aの表面のうち、先行トンネル10bに対向する部分に形成され、推進方向に沿って延在している。シール収容溝15は、矩形断面を呈しており、トンネル10の表面のスキンプレート11に形成された開口部11aの内側に、溶接固定された側板16a,16aと底板16bとで区画されている。シール収容溝15は、弾性シール部材30を収容できるように、弾性シール部材30の幅寸法より僅かに大きい幅寸法を有している。図1に示すように、シール収容溝15は、ベース部31の厚さ寸法より大きく、弾性シール部材30全体の厚さ寸法より小さい深さ寸法を有しており、弾性シール部材30をシール収容溝15に収容したときにリップ部32の先端側(ベース部31につながる基端側の逆側)の一部が、シール収容溝15の開放端から突出するようになっている。シール収容溝15には、弾性シール部材30の他にも、収容キャップ部材50と排土部材70が収容される。これらの部材は、推進方向前方から排土部材70、収容キャップ部材50、弾性シール部材30の順でシール収容溝15内に収容されている。
【0026】
なお、弾性シール部材30は、本実施形態では、断面略V字状に形成されているが、弾性シール部材30の断面形状を限定する趣旨ではない。例えば、断面U字状、L字状、T字状等、他の形状であってもよい。
【0027】
収容キャップ部材50は、図1に示すように、弾性シール部材の前端部(トンネル10の推進方向の前端部)を収容する部材である。収容キャップ部材50は、金属等の耐摩耗性に優れた材質にて構成されている。収容キャップ部材50は、前方に向かうに連れて薄くなっている。収容キャップ部材50の前端部は、シール収容溝15の深さ寸法よりも小さい厚さ寸法となっていて、後端部は、シール収容溝15の深さ寸法よりも大きい厚さ寸法となっている。この後端部の厚さ寸法は、トンネル10の鋼殻表面からの収容キャップ部材50の突出寸法(収容キャップ部材50の厚さ寸法からシール収容溝15の深さ寸法を減算した値)が、隣り合うトンネル10,10間の最小離隔寸法(例えば10mm)より小さくなるように設定される。収容キャップ部材50が前方に向かうに連れて薄くなるのに応じて、その内部の収容部51も前方に向かうに連れて薄くなっている。
【0028】
図2に示すように、収容キャップ部材50は、幅方向の中間部が厚い凸形状を呈している。収容キャップ部材50は、後方が開口する収容部51を備えている。図4に示すように、収容キャップ部材50の後端における収容部51の断面形状は、弾性シール部材30のリップ部32がベース部31側に傾倒した状態で収容できるように形成されている。つまり、後端の収容部51は、ベース部31を収容する幅広部51aと、リップ部32を収容する幅狭部51bとで構成されている。幅広部51aと幅狭部51bは、連続して一体的に形成されている。
【0029】
図1に示すように、収容キャップ部材50の前端における収容部51の厚さは、後端における収容部51の厚さよりも薄くなっている。前端の収容部51も後端と同様に、幅広部51aと幅狭部51bとで構成されているが、幅広部51aは、後端から前端にかけて同じ形状である。幅狭部51bは、後端から前端にかけて厚さ寸法が小さくなる。
【0030】
図2に示すように、幅狭部51bの幅方向外方で、幅広部51aの上方(シール収容溝15の開口端側)に位置する部分には、ボルト貫通孔52が形成されている。ボルト貫通孔52は、収容部51に挿入される弾性シール部材30のボルト孔34に相当する位置に形成されている。ボルト貫通孔52は、推進方向に長い長孔にて構成されており、固定位置の調整が可能になっている。図4に示すように、シール収容溝15の底板16bの収容キャップ部材50が固定される位置には、貫通孔77が形成されその下部にネジ孔を備えたボス部76が溶接固定されている。ボルトBを、収容キャップ部材50のボルト貫通孔52から、弾性シール部材30のボルト孔34、シール収容溝15の貫通孔77へと貫通させて、ボス部76に螺合させることで、弾性シール部材30と収容キャップ部材50がシール収容溝15に固定される。
【0031】
図1および図3に示すように、弾性シール部材30のリップ部32の前端部は、前方に向かうに連れて肉厚が徐々に薄くなっている。リップ部32の前端部の薄肉部は、その表面を前方に向かうほど、より多く削ることで、薄く形成されている。このようにすると、弾性シール部材30の前端部に傾斜面が形成され、この傾斜面が弾性シール部材30内への挿入時のガイドとなるので、前端部が薄くなっている収容部51に弾性シール部材30を挿入し易くなる。
【0032】
また、ベース部31のうち、収容部51に収容される部分には、縮小部33が形成されている。この縮小部33は、ベース部31の幅方向両側面と底面を所定厚さ削って切除することで形成されており、その他の部分のベース部31と比較して幅が狭く且つ薄くなっている。切除する部分の厚さは、収容キャップ部材50の幅広部51aの幅方向両側と底部に位置する壁部53(図2および図4参照)と同等の厚さとなっている。つまり、縮小部33の断面は、収容部51の幅広部51aの断面と同等の形状を呈している。したがって、弾性シール部材30の縮小部33を収容キャップ部材50の収容部51に挿入したときに、縮小部33を除いた後方の弾性シール部材30の側面および底面が、収容キャップ部材50の側面および底面とそれぞれ面一となってそれぞれの面同士が連続的につながる。これによって、シール収容溝15に、収容キャップ部材50と弾性シール部材30を収容したときに、シール収容溝15の内周面に隙間が発生せず、止水性能を高めることができる。
【0033】
以上のような構成の弾性シール部材30は、図4に示すように、収容部51に挿入されると、リップ部32がベース部31に対して弾性的に傾倒した状態となるので、復元しようとする力によって収容部51の内周面を押圧することとなる。これによって、収容キャップ部材50と弾性シール部材30とが固定されて一体化する。
【0034】
排土部材70は、図1に示すように、収容キャップ部材50の前方に設けられ、弾性シール部材30の推進方向前方にある土砂を、弾性シール部材30の通過経路から押し退ける部材である。排土部材70は、板バネ71に囲われたワイヤブラシ72を取付台座73に固定して構成されている。取付台座73は、硬質ゴムやウレタン等からなる板材にて構成されている。図5および図6に示すように、取付台座73は、シール収容溝15内に収容可能なように、シール収容溝15の幅寸法より僅かに小さい幅寸法(弾性シール部材30および収容キャップ部材50と同等の幅寸法)を有している。取付台座73は、シール収容溝15の深さ寸法より小さい厚さ寸法を有しており、その全体がシール収容溝15内に収容される。取付台座73には、ボルト孔74a,74bが形成されている。
【0035】
図1に示すように、バネ71は、例えば金属板を折り曲げて形成されている。板バネ71は、推進方向前方から、ワイヤブラシ72の底側(シール収容溝15の底部側)と上側(先行トンネル10b側)を囲うように配置されており、ワイヤブラシ72の保護機能も備えている。板バネ71は、取付台座73の表面と平行な平行部71aと、平行部71aの後方で先行トンネル10b側に屈曲した傾斜部71bとを備えている。平行部71aの前方には取付部71cが固定されている。取付部71cには、複数のボルト貫通孔75(図6参照)が形成されており、板バネ71の基端部は、ボルトB等の固定手段によって、取付台座73に固定されている。幅方向両端部に位置する取付台座73のボルト孔74aは、貫通して形成されており、幅方向両端に位置するボルトBが、シール収容溝15の底板16bの下方まで貫通して、ネジ孔を備えたボス部76に螺合している。ボス部76は、底板16bの貫通孔77の下部に溶接固定されている。このような構成によって、排土部材70が、シール収容溝15に固定される。また、幅方向中央に位置する取付台座73のボルト孔74bは、ネジ溝を有しており、取付部71cに挿通されたボルトBが螺合することで、板バネ71と取付台座73が固定される。
【0036】
傾斜部71bは、シール収容溝15に排土部材70が固定されたときに、後方に向かうに連れて後行トンネル10aから離れるように傾斜している。そして、傾斜部71bの後端側が、後行トンネル10aの鋼殻表面から先行トンネル10b側に向かって突出する。傾斜部71bは、後方ほど先行トンネル10bに近接する。傾斜部71bの突出寸法(後端の突出寸法)は、隣り合うトンネル10,10間の最大離隔寸法(例えば40mm)より大きくなるように設定されている。つまり、傾斜部71bは、常に先行トンネル10bに押し付けられていることとなり、その復元力によって、傾斜部71bが先行トンネル10bの鋼殻表面に接触している。傾斜部71bは、後端が取付台座73よりも後方に位置しており、後行トンネル10a側に押し付けられたときに、収容キャップ部材50の表面を覆うようになる。
【0037】
図1に示すように、ワイヤブラシ72は、前端側から上面と下面が板バネ71に囲われており、ボルトBを介して、板バネ71と一体的に取付台座73に固定されている。ワイヤブラシ72の後端側は、側方から見て斜め後方に向かって広がっており、その一部が先行トンネル10bの鋼殻表面に当接して摺動している。ワイヤブラシ72は、厚さ方向に三層構造に形成されており、各層の間には仕切板が設けられている。ワイヤブラシ72内の隙間にはグリスまたは発泡ウレタンが充填されている。ワイヤブラシ72と板バネ71は、取付台座73と同等の幅寸法を備えており、シール収容溝15の幅全体に亘って配置されている。
【0038】
以上のような構成のシール前端部保護構造W2によれば、弾性シール部材30の前端部を収容キャップ部材50に挿入しているので、弾性シール部材30の前端部を保護することができる。これによって、弾性シール部材30の前端部の剥がれを防止できる。そして、この収容キャップ部材50は弾性シール部材30を圧縮した状態で収容するように構成されているので、後行トンネル10aの表面からの突出量が少なくて済む。これによって、隣り合う二つのトンネル10,10間は互いに近接することが可能である。具体的には、収容キャップ部材50は、トンネル10の鋼殻表面からの突出寸法が、隣り合うトンネル10,10間の最小離隔寸法より小さくなるように設定されているので、図1の(b)に示すように、後行トンネル10aは、先行トンネル10bに対して、最小離隔寸法まで近接することができる。
【0039】
さらに、収容キャップ部材50の前方に排土部材70が設けられているので、弾性シール部材30の通過経路から、土砂を排除することができる。これによって、弾性シール部材30が土砂に接触するのを抑えることができ、弾性シール部材30の保護性能を高めることができる。また、排土部材70は、先行トンネル10b側に延在するとともに、先行トンネル10bと後行トンネル10aとの離間距離に応じて変形可能に構成された板バネ71を備えているので、隣り合う二つのトンネル10,10が互いに近接または離間しても、排土部材70は、常時先行トンネル10bの表面に接触している。したがって、図1の(a)に示すように、後行トンネル10aが先行トンネル10bに対して、最大離隔寸法まで離間しても、排土部材70は、常に排土機能を発揮することができ、弾性シール部材30の保護性能を確保できる。
【0040】
以上のように、シール前端部保護構造W2によれば、トンネル10の推進時の揺動に対応できるとともに、弾性シール部材30の前端部を保護することができるといった優れた効果を発揮する。
【0041】
また、本実施形態では、弾性シール部材30が、ベース部31とリップ部32とを備えているので、弾性シール部材30が変形しやすい。したがって、圧縮した状態で収容キャップ部材50に収容する作業を行いやすい。さらに、リップ部32が、大断面トンネル1の外側の圧力によって先行トンネル10bの外表面に向かって弾性的に接触するので、止水性能が高い。
【0042】
さらに、後行トンネル10aには、シール収容溝15が形成され、シール収容溝15に、推進方向前方から排土部材70、収容キャップ部材50および弾性シール部材30が順次収容されているので、これらの部材の地山に接触する部分を低減することができる。したがって、各部材の磨耗を抑えることとなり保護性能を高めることができる。
【0043】
以上、本発明を実施するための形態について説明したが、本発明は前記実施形態に限定されず、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜設計変更が可能である。例えば、前記実施形態に係る排土部材70は、ワイヤブラシ72を備えて構成されているが、このような構成に限定されるものではない。例えば、図7に示すように、排土部材を、弾性シール部材30と同様の材質で構成してもよい。この場合、排土部材78は、ベース部78aと立上り部78bを備えている。立上り部78bは、推進方向に直交する方向に延在しており、ベース部78aの表面から推進方向後方に傾斜して立ち上がっている。ベース部78aの、立上り部78bの前後に位置する部分には、ボルト用の貫通孔79が形成されている。この貫通孔79にボルトを挿通させて、排土部材78を取付台座73に固定する。また、前記実施形態では、排土部材70,78は、取付台座73を介してトンネル10に固定しているが、シール収容溝15の底部に直接固定するようにしてもよい。
【符号の説明】
【0044】
W1 止水構造
W2 シール前端部保護構造
1 大断面トンネル
10 トンネル
10a 後行トンネル
10b 先行トンネル
15 シール収容溝
30 弾性シール部材
31 ベース部
32 リップ部
50 収容キャップ部材
70 排土部材
【特許請求の範囲】
【請求項1】
推進工法によって並設された複数本のトンネルを利用して築造する大断面トンネルの内部と外部との間を止水するために隣り合う先行トンネルと後行トンネルの間に推進方向に沿って設けられた弾性シール部材の前端部を保護する保護構造であって、
前記弾性シール部材の前端部を収容する収容キャップ部材と、この収容キャップ部材の前方に設けられる排土部材とを備えており、
前記弾性シール部材は、前記後行トンネルの、前記先行トンネルに対向する面に設けられ、
前記収容キャップ部材は、前記弾性シール部材の前端部を縮めた状態で収容する収容部を備え、
前記排土部材は、前記先行トンネルと前記後行トンネルの間で前記弾性シール部材が通過する位置の土砂を排除する
ことを特徴とするシール前端部保護構造。
【請求項2】
前記弾性シール部材は、前記後行トンネルの外表面に固定されるベース部と、このベース部と一体的に形成されたリップ部とを備えてなり、前記リップ部は、基端が前記ベース部に接続されるともに先端が前記大断面トンネルの外側に向いており、
前記弾性シール部材の前端部分は、前記リップ部が前記ベース部側に寄せられた状態で前記収容キャップ部材に収容される
ことを特徴とする請求項1に記載のシール前端部保護構造。
【請求項3】
前記後行トンネルには、推進方向に沿って延在するシール収容溝が形成されており、
前記シール収容溝に、前記排土部材、前記収容キャップ部材および前記弾性シール部材が収容されている
ことを特徴とする請求項1または請求項2に記載のシール前端部保護構造。
【請求項1】
推進工法によって並設された複数本のトンネルを利用して築造する大断面トンネルの内部と外部との間を止水するために隣り合う先行トンネルと後行トンネルの間に推進方向に沿って設けられた弾性シール部材の前端部を保護する保護構造であって、
前記弾性シール部材の前端部を収容する収容キャップ部材と、この収容キャップ部材の前方に設けられる排土部材とを備えており、
前記弾性シール部材は、前記後行トンネルの、前記先行トンネルに対向する面に設けられ、
前記収容キャップ部材は、前記弾性シール部材の前端部を縮めた状態で収容する収容部を備え、
前記排土部材は、前記先行トンネルと前記後行トンネルの間で前記弾性シール部材が通過する位置の土砂を排除する
ことを特徴とするシール前端部保護構造。
【請求項2】
前記弾性シール部材は、前記後行トンネルの外表面に固定されるベース部と、このベース部と一体的に形成されたリップ部とを備えてなり、前記リップ部は、基端が前記ベース部に接続されるともに先端が前記大断面トンネルの外側に向いており、
前記弾性シール部材の前端部分は、前記リップ部が前記ベース部側に寄せられた状態で前記収容キャップ部材に収容される
ことを特徴とする請求項1に記載のシール前端部保護構造。
【請求項3】
前記後行トンネルには、推進方向に沿って延在するシール収容溝が形成されており、
前記シール収容溝に、前記排土部材、前記収容キャップ部材および前記弾性シール部材が収容されている
ことを特徴とする請求項1または請求項2に記載のシール前端部保護構造。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【公開番号】特開2012−41684(P2012−41684A)
【公開日】平成24年3月1日(2012.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−181567(P2010−181567)
【出願日】平成22年8月16日(2010.8.16)
【出願人】(000206211)大成建設株式会社 (1,602)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年3月1日(2012.3.1)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年8月16日(2010.8.16)
【出願人】(000206211)大成建設株式会社 (1,602)
【Fターム(参考)】
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