説明

シール材用注型ポリウレタン樹脂形成性組成物

【課題】 イソシアネート成分が低温での長期保存安定性に優れ、注型性に優れた、膜モジュールのシール材用注型ポリウレタン樹脂形成性組成物を提供する。
【解決手段】 下記(a1)〜(a3)を含むイソシアネート成分(A)とポリオール成分(B)を含有してなる、膜モジュールのシール材用注型ポリウレタン樹脂形成性組成物。
(a1)4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネートのみからなるポリイソシアネートとポリオールから形成されてなる末端イソシアネート基ウレタンプレポリマー
(a2)4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネートのウレトンイミンおよび/またはカルボジイミド変性体
(a3)2,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、膜モジュールの注型用ポリウレタン樹脂形成性組成物に関し、とくに血液処理器のシール材用として好適な膜モジュールの注型用ポリウレタン樹脂形成性組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
膜モジュールの注型用ポリウレタン樹脂形成性組成物は、従来から公知であり、イソシアネート成分としては、通常、機械特性や硬化特性に優れる4,4‘−ジフェニルメタンジイソシアネート(以下、4,4’−MDIと略記)とポリオール成分とから得られる末端イソシアネート基ウレタンプレポリマーが用いられる。しかし、4,4‘−MDIは強い結晶性のため得られるプレポリマーは低温下(−5〜10℃)では固化(結晶析出)しやすく、寒冷時における注型操作に当たっては加熱溶解させる必要があるという欠点があった。この欠点を改善するものとして、液状化ジフェニルメタンジイソシアネート(カルボジイミド変性した4,4’−MDI)とひまし油またはひまし油誘導体ポリオールとから得られる末端イソシアネート基ウレタンプレポリマー(例えば、特許文献1参照)等が提案されている。しかしながら、上記液状化ジフェニルメタンジイソシアネートから誘導される末端イソシアネート基ウレタンプレポリマーは低温(−5〜10℃)下では液状で低温安定性は改善され、固化の問題は解決できるものの、粘度が高く注型の点で問題点があった。この問題を改善するため、4,4‘−MDIとひまし油誘導体ポリオールから得られる末端イソシアネート基ウレタンプレポリマーと4,4’−MDIのウレトンイミン体および/またはカルボジイミド変性体からなるイソシアネート成分(特許文献2参照)が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特公昭59−33605号公報
【特許文献2】特開2008−214366号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記特許文献2のイソシアネート成分でも長期間低温(−5〜10℃)で放置すると沈殿が析出し、使用前に加熱溶解する必要があり、保存安定性が十分とは言えない。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記問題点を解決すべく鋭意検討した結果、本発明に到達した。すなわち、本発明は、4,4‘−ジフェニルメタンジイソシアネートのみからなるポリイソシアネートとポリオールから形成されてなる末端イソシアネート基ウレタンプレポリマー(a1)と4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネートのウレトンイミンおよび/またはカルボジイミド変性体(a2)と2,4‘−ジフェニルメタンジイソシアネート(a3)からなるイソシアネート成分(A)と、ポリオール成分(B)からなる、膜モジュールのシール材用注型ポリウレタン樹脂形成性組成物;該組成物から形成されてなる、膜モジュールのシール材用注型ポリウレタン樹脂;該注型ポリウレタン樹脂からなる、膜モジュールのシール材;該シール材を用いてなる膜モジュール;及び、該膜モジュールからなる中空糸型血液処理器;である。
【発明の効果】
【0006】
本発明の膜モジュールのシール材用注型ポリウレタン樹脂形成性組成物は下記の効果を奏する。
(1)反応性および硬化特性に優れる。
(2)粘度が低く注型性に優れる。
(3)イソシアネート成分が、低温(−5〜10℃)での長期保存安定性に優れ、沈殿物が生じたり固化することがなく、ハンドリング性が良好である。
(4)該組成物から形成されてなるポリウレタン樹脂は機械特性に優れ、膜モジュールの強靭なシール材を与える。
【発明を実施するための形態】
【0007】
本発明における末端イソシアネート基ウレタンプレポリマー(a1)を構成するポリオールとしては、通常、水酸基価(単位はmgKOH。以下数値のみを示す。)が20〜800(ポリウレタン樹脂の機械特性の観点から好ましくは40〜600)、官能基数が2〜8(ポリウレタン樹脂の機械特性の観点から好ましくは2〜4)のポリオール、例えばポリエーテルポリオール、ヒマシ油脂肪酸エステルポリオール、ポリエステルポリオール、および後述する低分子ポリオールが挙げられる。
【0008】
上記ポリエーテルポリオールとしては、低分子ポリオール[炭素数(以下Cと略記)2〜24、例えばエチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール(それぞれEG、DEG、PG、1,4−BD、1,6−HD、NPGと略記)、グリセリン、トリメチロールプロパン、ヘキサントリオール、ペンタエリスリトール、ソルビトール(それぞれ以下GR、TMP、HT、PE、SOと略記)、シュークローズおよび水添ビスフェノールA]の1種または2種以上の混合物を出発物質としたアルキレンオキシド(以下AOと略記)[C2〜12、例えばエチレンオキシド(以下EOと略記)、プロピレンオキシド(以下POと略記)、ブチレンオキシドおよびこれら2種類以上の混合物]付加物およびAOの開環(共)重合物が挙げられ、具体的にはポリエチレングリコール(以下PEGと略記)、ポリプロピレングリコール(以下PPGと略記)およびポリテトラメチレングリコール(以下PTMGと略記)等が挙げられる。ポリエーテルポリオールの数平均分子量[以下Mnと略記。測定はゲルパーミエイションクロマトグラフィー(GPC)法による。]は通常150〜4,000、ポリウレタン樹脂の機械特性の観点から好ましくは200〜3,000である。
【0009】
ヒマシ油脂肪酸エステルポリオールとしては、例えばヒマシ油、部分脱水ヒマシ油および上記低分子ポリオールもしくはポリエーテルポリオールとヒマシ油とのエステル交換反応あるいはヒマシ油脂肪酸とのエステル化反応により得られるヒマシ油脂肪酸エステル等が挙げられる。これらのうち本発明のシール材の機械特性の観点から好ましいのはヒマシ油、部分脱水ヒマシ油およびヒマシ油脂肪酸PPGエステルである。ヒマシ油脂肪酸エステルポリオールのMnは、通常300〜4,000、ポリウレタン樹脂の機械特性の観点から好ましくは500〜3,000である。
【0010】
ポリエステルポリオールとしては、ポリ(n=2〜3またはそれ以上)カルボン酸[脂肪族飽和および不飽和ポリカルボン酸(C2〜40、例えばシュウ酸、アジピン酸、アゼライン酸、ドデカン酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸および二量化リノール酸)芳香環含有ポリカルボン酸(C8〜15、例えばフタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸および2,6−ナフタレンジカルボン酸)、脂環含有ポリカルボン酸(C7〜15、例えば1,3−ペンタンジカルボン酸および1,4−ヘキサンジカルボン酸)等]と、ポリオール(前記の低分子ポリオールおよび/またはポリエーテルポリオール)から形成される線状または分岐状ポリエステルポリオール;ポリラクトンポリオール[例えば前記低分子ポリオール(2〜3価)の1種または2種以上の混合物を開始剤としてこれに(置換)カプロラクトン(C6〜10、例えばe―カプロラクトン、a−メチル−e−カプロラクトン、e−メチル−e−カプロラクトン)を触媒(有機金属化合物、金属キレート化合物、脂肪酸金属アシル化合物等)の存在下に付加重合させたポリオール(例えばポリカプロラクトンポリオール)];末端にカルボキシル基および/またはOH基を有するポリエステルにAO(EO、PO等)を付加重合させて得られるポリエーテルエステルポリオール;ポリカーボネートポリオール等が挙げられる。ポリエステルポリオールのMnは、通常150〜4,000、ポリウレタン樹脂の機械特性の観点から好ましくは200〜2,000である。
【0011】
低分子ポリオールとしては、前記ポリエーテルポリオールの出発物質として例示したものが挙げられる。
【0012】
上記ポリオールのうち(a1)の低粘度の観点から好ましいのはポリエーテルポリオールおよびヒマシ油脂肪酸エステルポリオールである。
【0013】
本発明における末端イソシアネート基ウレタンプレポリマー(a1)は、ポリイソシアネートとしての4,4‘−MDIと上記ポリオールとを反応させて得られる。ポリイソシアネートとして、4,4’−MDI以外のポリイソシアネートを使用、または4,4‘−MDIと4,4’−MDI以外のポリイソシアネートを併用すると、得られたプレポリマーと(a2)および(a3)を含むイソシアネート成分(A)の粘度が高くなるとともに低温での長期保存安定性が悪くなり、沈殿物が生じたりする。結果的に注型性も悪くなりやすい。4,4’−MDI以外のポリイソシアネートとしては、2,4‘−MDI、並びに4,4’−MDIのウレトンイミンおよび/またはカルボジイミド変性体などが挙げられる。即ち、プレポリマー(a1)の製造時に(a2)や(a3)を使用する、もしくは4,4‘−MDIと(a2)や(a3)を併用すると、得られるイソシアネート成分(A)の粘度が高くなるとともに低温での長期保存安定性が悪くなり、沈殿物が生じたりする。結果的に注型性も悪くなりやすい。
【0014】
4,4‘−MDIと上記ポリオールとの反応は、通常、当量比(NCO/OH)=1.1/1〜50/1で行われる。当量比が大きいほど粘度は低くなるが硬化時の収縮が大きくなることから当量比は好ましくは1.5/1〜30/1、さらに好ましくは2/1〜10/1である。なお、NCO基過剰系の反応であり、当量比にもよるが、(a1)は通常は未反応の4,4’−MDIを含有しない真性プレポリマーとして、または該真性プレポリマーと未反応の4,4‘−MDIとの混合物である擬プレポリマーとして得られ、擬プレポリマーの場合は混合物としてそのまま使用される。該混合物中の(a1)の重量比率は特に限定されないが、原料ポリオールの分子量が大きいほど、また反応の当量比が1に近いほど大きくなり、通常20%以上100%未満(以下、特に限定しない限り%は重量%を表す)であり、好ましいポリオールの分子量および当量比の観点から好ましくは30〜90%である。(a1)のMnは通常800〜10,000、ポリウレタン樹脂の機械特性から、好ましくは1,000〜4,000である。
【0015】
(a1)の製造方法としては特に限定されないが、4,4‘−MDIとポリオールとを反応容器中、窒素雰囲気下で反応させる公知の方法が挙げられる。プレポリマー化反応における反応温度は通常30〜140℃、反応性の観点および副反応防止の観点から好ましくは50〜120℃である。また、反応は通常は無溶剤下で行われるが、必要によりイソシアネート基と反応性を有しない不活性な溶剤[例えば芳香族炭化水素(トルエンおよびキシレン等)、ケトン(メチルエチルケトンおよびメチルイソブチルケトン等)およびこれら2種類以上の混合物]中で行われ、後にこれらの溶剤を蒸留によりとり除いてもよい。
【0016】
本発明における4,4‘−MDIのウレトンイミンおよび/またはカルボジイミド変性体(a2)は、通常は4,4’−MDIを触媒(例えば、3−メチル−1−フェニル−3−ホスホレン−1−オキシド等)の存在下で加熱(50〜110℃)することにより生成し、遊離の4,4‘−MDIとの混合物の形で得られる。(例えば特開平8−169930号公報参照)ため、通常は混合物としてそのまま使用される。該混合物の具体例としては、4,4’−MDIとの混合物である市販品[商品名「ミリオネートMTL」、日本ポリウレタン(株)製;商品名「ルプラネートMM−103」、BASF INOACポリウレタン(株)製等]が挙げられる。該混合物中の(a2)の重量比率は特に限定されないが、(A)中の(a2)の比率の調整し易さおよび入手し易さから通常10〜60%、好ましくは20〜40%である。
【0017】
上記(a2)の生成反応では、まずカルボジイミド基(−N=C=N−)が形成されるが、常温(10〜30℃)で放置することでさらにNCO基と反応してウレトンイミン基に変換される。該反応は可逆反応であり高温下(通常80℃以上)ではウレトンイミン基はカルボジイミド基とNCO基に解離する。
【0018】
従って、カルボジイミド基およびウレトンイミン基の存在比率は温度に依存し、常温ではほとんどウレトンイミン基として存在していることが知られている。本発明における(a2)は、ウレトンイミン変性体、カルボジイミド変性体またはこれらの混合物のいずれでもよく、ウレトンイミン基への変換が完結せずに、一部カルボジイミド基が含まれていてもよいし、逆に高温保存によりほとんどがカルボジイミド基の形で存在し、一部ウレトンイミン基が含まれていてもよい。なお、本発明における(a2)には、ウレトンイミンおよび/またはカルボジイミド変性した4,4‘−MDIと前記ポリオールとから形成される末端イソシアネート基ウレタンプレポリマーは含まれないものとする。
【0019】
(a3)は、通常はMDI異性体との混合物であり、該混合物の具体例としては、4,4‘−MDIとの混合物である市販品[商品名「ルプラネートMI」、BASF INOACポリウレタン(株)製等]が挙げられる。該混合物中の(a3)の重量比率は特に限定されないが、(A)中の(a3)の比率の調整し易さおよび入手し易さから通常1〜50%、好ましくは5〜30%である。
【0020】
イソシアネート成分(A)は、上記(a1)、(a2)および(a3)を含むが、上記のように通常は4,4‘−MDIをも含有する。(A)中の(a1)の含有量は、(A)の重量に基づいて、反応硬化時の収縮、ポリウレタン樹脂の機械特性および(A)の粘度の観点から好ましくは10〜70%、さらに好ましくは30〜70%、特に好ましくは45〜65%であり;(a2)および(a3)のそれぞれの含有量は、(A)の低温安定性、および粘度の観点から、(A)の重量に基づいて好ましくは0.5〜15%、さらに好ましくは1〜10%である。
【0021】
(A)中の4,4‘−MDIの含有量は、(A)の重量に基づいて、(A)の粘度およびポリウレタン樹脂の機械特性、低温安定性、反応時の硬化収縮の観点から好ましくは10〜80%、さらに好ましくは20〜60%である。
【0022】
本発明におけるポリオール成分(B)としては、前記末端イソシアネート基ウレタンプレポリマーに使用されるポリオール、およびアミンポリオール並びにこれらの2種類以上の混合物が挙げられる。
【0023】
上記アミンポリオールとしては、「ポリ(n=2〜6)」アルキレンポリ(n=2〜6)アミン(C2〜20)のAO付加物[C10以上かつMn2,000以下、例えばN,N,N‘,N“−テトラキス(2−ヒドロキシプロピル)エチレンジアミン、N,N,N’,N”−ペンタキス(2−ヒドロキシプロピル)ジエチレントリアミン];N,N,N’−ジアルキル(アルキル基はC1〜3)(ポリ)アルキレン(アルキレン基はC2〜3)ポリアミンのAO付加物(例えばN,N−ジメチルプロピレンジアミンのPO付加物);N−アミノアルキル(C2〜3)イミダゾールのAO付加物(例えば特願平10−156664号公報に記載のもの);アルカノールアミン(C4〜12、例えばジエタノールアミン、トリエタノールアミン)等が挙げられる。
【0024】
これらの(B)のうち粘度および反応性の観点から好ましいのは、ポリエーテルポリオール、ヒマシ油脂肪酸エステルポリオール、アミンポリオールおよびこれらの併用、さらに好ましいのはヒマシ油または部分脱水ヒマシ油とアミンポリオールとの併用、およびポリエーテルポリオールとアミンポリオールとの併用である。該併用する場合のヒマシ油、部分脱水ヒマシ油またはポリエーテルポリオールとアミンポリオールとの重量比は、反応性と粘度の観点から好ましくは95/5〜60/40、さらに好ましくは90/10〜70/30である。
【0025】
本発明のポリウレタン樹脂形成性組成物における(A)と(B)のNCO/OH当量比は、未反応物低減の観点から好ましくは0.5/1〜2.0/1、さらに好ましくは0.8〜1〜1.2/1である。
【0026】
本発明の膜モジュールのシール材用注型ポリウレタン樹脂形成性組成物は、通常、上記イソシアネート成分(A)とポリオール成分(B)を混合することにより得られる。具体的には、(A)および(B)の二液を使用時に各々所定量計量後、スタティックミキサーまたはメカニカルミキサー等で混合させることにより製造することができ、通常は、混合とほぼ同時に反応が開始し、硬化して本発明の膜モジュールのシール材用注型ポリウレタン樹脂となる。上記混合、反応させて流動性がなくなるまでの時間は通常3〜60分であり、完全硬化には室温(20〜30℃)で12〜240時間の養生を要し、ポリウレタン樹脂の硬度に変化が認められなくなった時点を完全硬化とする。なお、ポリウレタン樹脂の実使用上は必ずしも完全硬化させる必要はないが、後述する硬度範囲となるまでは養生する。また、養生温度を高く(例えば40〜60℃)することにより養生時間を短縮することも可能である。
【0027】
上記(A)および(B)からなる混合液(組成物)の粘度(注型前の粘度)は、硬化性および注型性の観点から好ましくは50〜10,000mPa・s、さらに好ましくは100〜5,000mPa・s、とくに好ましくは200〜2,000mPa・sである。
【0028】
(A)と(B)とを反応させて得られる硬化後のポリウレタン樹脂の硬度(ショア−D:瞬間値)はシール材として具備すべき機械強度および切断性(後述する、ポリウレタン樹脂で結束された中空糸膜の切断性)の観点から好ましくは20〜100、さらに好ましくは30〜80である。
【0029】
本発明の上記ポリウレタン樹脂は、膜モジュールのシール材として好適に使用される。該膜モジュールは中空糸型血液処理器を構成するものである。対象となる血液処理器としては、例えば中空糸型の人工臓器(人工腎臓等)用血液処理器が挙げられる。該シール材は、また、中空糸型の浄水器用膜モジュールのシール材としても使用することができる。
【0030】
本発明の組成物を中空糸型血液処理器用膜モジュールのシール材に適用する場合の具体的使用法の一例を下記に示す。まず、イソシアネート成分(A)およびポリオール成分(B)を個別に減圧脱泡(0.1mmHg×2時間)する。この二液を所定量計量して攪拌混合後、遠心成型法により中空糸をセットした容器に投入し、中空糸を容器に固定する。該遠心成型法の例えは例えば特公昭57−58963号公報に記載されている。中空糸の素材としては一般に、セルロース、アクリル、ポリビニルアルコール、ポリアミドおよびポリスルホン等が使用される。上記容器としては一般に、ポリカーボネート製、ABS製またはポリスチレン等のものが使用される。該二液混合液は注入から3〜60分後には流動性がなくなり、膜モジュールを成型機から取り出すことができる。ついで室温(20〜30℃)〜60℃で養生を行い硬化させた後、ポリウレタン樹脂で結束された中空糸膜を回転式カッターなどで切断して中空糸膜端部の開口部を得る。その後、オートクレーブを使用して120℃で1時間の蒸気過熱により滅菌処理を行い製品化する。滅菌処理は蒸気過熱以外の方法、例えばγ線照射等によっても実施することができる。
【実施例】
【0031】
以下、実施例により本発明をさらに説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。以下において部は重量部を、%は重量%を示す。
【0032】
原料として使用したものの商品名およびその組成は以下の通りである。
【0033】
「URIC H−53」;
ヒマシ油脂肪酸とPPGとのヒマシ油脂肪酸エステルポリオール[伊藤製油(株)製、水酸基価84]
【0034】
「TOYOACE P−110F」;
部分脱水ヒマシ油[(株)東化研製、水酸基価120]
【0035】
「ELA−DR」;
ヒマシ油[豊国製油(株)製、水酸基価160]
【0036】
「ミリオネートMT」;
4,4’−MDI[日本ポリウレタン(株)整 ]
【0037】
「ルプラネートMM−103」;
変性4,4’−MDI[BASF INOACポリウレタン(株)製、NCO含量29.5%、4,4’−MDIのウレトンイミンおよび/またはカルボジイミド変性体を約25%含み、4,4’−MDIを約75%含む]
【0038】
「ルプラネートMI」;
2,4’−MDIと4,4’−MDIとの混合物[BASF INOACポリウレタン(株)製、重量比50:50]
【0039】
「ルプラネートXTB−3003」;
2,4’−MDIと4,4’−MDIとの混合物の変性体[BASF INOACポリウレタン(株)製、NCO含量28%、2,4’−MDI:4,4’−MDI:変性体=11:59:30(重量比)]
【0040】
以下の製造例1〜3に、イソシアネート成分(A)の製造例を、また比較製造例1〜3に比較のイソシアネート成分の製造例を示す。
【0041】
製造例1
攪拌機、温度計および窒素導入管を付した4つ口フラスコに、「URIC H−53」38部と「ミリオネートMT」21部を仕込み窒素気流下攪拌しながら70〜80℃に加熱し、4時間反応させて、末端イソシアネート基ウレタンプレポリマーを得た。反応後、「ルプラネートMM−103」23部および「ルプラネートMI」18部を加え、30分間攪拌し均一に混合し、イソシアネート成分(A−1)を得た。(A−1)のNCO含量は17.5%、粘度は770mPa・s/25℃であった。(A−1)は4,4’−MDIを約33%、4,4’−MDIのウレトンイミンおよび/またはカルボジイミド変性体を約6%、2,4’−MDIを約9%含む。
【0042】
製造例2
製造例1と同様の反応容器に、「TOYOACE P−110F」33部と「ミリオネートMT」34部を仕込み窒素気流下攪拌しながら70〜80℃に加熱し、4時間反応させて、末端イソシアネート基ウレタンプレポリマーを得た。反応後、「ルプラネートMM−103」23部及び「ルプラネートMI」10部を加え、30分間攪拌し均一に混合し、イソシアネート成分(A−2)を得た。(A−2)のNCO含量は18.6%、粘度は570mPa・s/25℃であった。(A−2)は4,4’−MDIを約39%、4,4’−MDIのウレトンイミンおよび/またはカルボジイミド変性体を約6%、2,4’−MDIを約5%含む。
【0043】
製造例3
製造例1と同様の反応容器に、PPG(Mw=1,000)31部と「ミリオネートMT」23部を仕込み窒素気流下攪拌しながら70〜80℃に加熱し、4時間反応させて、末端イソシアネート基ウレタンプレポリマーを得た。反応後、「ルプラネートMM−103」24部及び「ルプラネートMI」22部を加え、30分間攪拌し均一に混合し、イソシアネート成分(A−3)を得た。(A−3)のNCO含量は19.6%、粘度は600mPa・s/25℃であった。(A−3)は4,4’−MDIを約37%、4,4’−MDIのウレトンイミンおよび/またはカルボジイミド変性体を約6%、2,4’−MDIを約11%含む。
【0044】
比較製造例1[イソシアネート成分として(a3)を含まない]
製造例1と同様の反応容器に、「URIC H−53」40部と「ミリオネートMT」38部を仕込み窒素気流下攪拌しながら70〜80℃に加熱し、4時間反応させて、末端イソシアネート基ウレタンプレポリマーを得た。反応後、「ルプラネートMM−103」22部を加え、30分間攪拌し均一に混合し、イソシアネート成分(X−1)を得た。(X−1)のNCO含量は16.7%、粘度は1,080mPa・s/25℃であった。(X−1)は4,4‘−MDIを約40%、4,4’−MDIのウレトンイミンおよび/またはカルボジイミド変性体を約5%含む。
【0045】
比較製造例2[プレポリマー(a1)の製造に4,4’−MDI以外を併用]
製造例1と同様の反応容器に、「TOYOACE P−110F」38部と「ルプラネートMI」38部を仕込み、窒素気流下攪拌しながら70〜80℃に加熱し、4時間反応させて、末端イソシアネート基ウレタンプレポリマーを得た。反応後、「ルプラネートMM−103」24部を加え、30分間攪拌し均一に混合し、イソシアネート成分(X−2)を得た。(X−2)のNCO含量は16.4%、粘度は1,200mPa・s/25℃であった。(X−2)は4,4‘−MDIを約27%、4,4’−MDIのウレトンイミンおよび/またはカルボジイミド変性体を約6%、2,4‘−MDIを約9%含む。
【0046】
比較製造例3[プレポリマー(a1)の製造に4,4’−MDI以外を併用]
製造例1と同様の反応容器に、「URIC H−53」35部と「ルプラネートXTB−3003」65部を仕込み、窒素気流下攪拌しながら70〜80℃に加熱し、4時間反応させて、イソシアネート成分(X−3)を得た。(X−3)のNCO含量は16.0%、粘度は2,000mPa・s/25℃であった。(X−3)は4,4’−MDIを約25%、4,4’−MDIのウレトンイミンおよび/またはカルボジイミド変性体を約13%、2,4’−MDIを約5%含む。
【0047】
上記のイソシアネート成分の低温安定性を評価した結果を表1に示す。低温安定性の評価は、イソシアネート成分100部を容積140mlのガラス容器に入れ、密栓をして−5℃の低温槽に貯蔵後、沈殿物の有無等の状態を1ヶ月毎に目視にて観察した。
【0048】
【表1】

【0049】
表1の結果から、本願発明におけるイソシアネート成分(製造例1〜3のもの)は、粘度が低く、かつ低温安定性が良好であることがわかる。
【0050】
以下の製造例4〜5にポリオール成分(B)の製造例を示す。
【0051】
製造例4
製造例1と同様の反応容器に、「TOYOACE P−110F」81部とN,N,N‘,N“−テトラキス(2−ヒドロキシプロピル)エチレンジアミン19部を仕込み、窒素気流下40〜50℃で1時間攪拌混合し、ポリオール成分(B−1)を得た。(B−1)の水酸基価は240、粘度は750mPa・s/25℃であった。
【0052】
製造例5
製造例1と同様の反応容器に、「ELA−DR」80部とN,N,N‘,N“−テトラキス(2−ヒドロキシプロピル)エチレンジアミン20部を仕込み、窒素気流下40〜50℃で1時間攪拌混合し、ポリオール成分(B−2)を得た。(B−2)の水酸基価は282、粘度は1,100mPa・s/25℃であった。
【0053】
以下の実施例1〜6および比較例1〜6に、ポリウレタン樹脂形成性組成物、ポリウレタン樹脂およびシール材としての実施例および比較例を示す。ポリウレタン樹脂形成性組成物、ポリウレタン樹脂およびシール材としての評価試験方法は下記の通りであり、使用したイソシアネート成分とポリオール成分の組み合わせ、並びに評価結果は表2および表3に示した。
【0054】
<評価試験方法>
(1)混合液の注型前粘度
イソシアネート成分およびポリオール成分を40℃で温調後、NCO/OH当量比=1/1となる配合比で合計100部を秤り取り、回転式プロペラ羽根付き攪拌機で30秒間攪拌混合し、混合終了して30秒後の粘度(mPa・s)を回転式粘度計(B型粘度計)で測定した。
(2)混合液の流動停止時間
イソシアネート成分およびポリオール成分を液温40℃で温調後、NCO/OH当量比=1/1となるように100部秤り取り、回転式プロペラ羽根付き攪拌機で30秒間攪拌混合後、遠心脱泡した。その後容積150mlのポリカップに該混合液を20部秤り取り、一定時間毎に高さが約2cmとなるようにカップを傾けて、流動性が消失するまでの時間を測定した。測定は、室温(20〜30℃)でおこなった。
(3)樹脂硬度
イソシアネート成分およびポリオール成分を40℃で温調後、NCO/OH当量比=1/1となる配合比で合計100部秤り取り、回転式プロペラ羽根付き攪拌機で30秒間攪拌混合後、遠心脱泡した。容積150mlのポリカップに該混合液を30部秤り取り、30℃で48時間養生後、カップから取り出し、さらに25℃に温調された室で1時間静置後硬度[ショア−D:瞬間値[ショアーD硬度計、高分子計器(株)製]]を測定した。
(4)膜モジュールにおける樹脂充填性
両末端に注型キャップを装着した、内径40mm、長さ300mmのポリカーボネイト製円筒容器に、ポリスルホン製中空糸(長さ320mm、外径280μm、膜厚40μm)10,000本を平行に並べて装填し、中空糸の両端部が各注型キャップ内におさまるようにセットした。次にイソシアネート成分(A)およびポリオール成分(B)を25℃でそれぞれ減圧脱泡(0.1mmHg×2時間)した。NCO/OH当量比=1/1となる配合比で合計100部を秤り取り、回転式プロペラ羽根付き攪拌機で30秒間攪拌混合し該混合液60部を注入し、遠心成型機を用いて成型した。成型して20分後に成型品を取り出し、室温(20〜30℃)で48時間養生をいった。両端の各注型キャップを取り外し、ポリウレタン樹脂で中空糸が結束された部分を、中空糸の並び方向と垂直に約2mm毎の層状にカッターで4層スライスし、各層で未充填部分の有無を目視で観察した。
【0055】
【表2】

【0056】
【表3】

【0057】
表1、表2および表3の結果から、本発明のポリウレタン樹脂形成性組成物はイソシアネート成分の低温での長期保存安定性が良好で、かつ、注型性[イソシアネート成分(A)の粘度および混合液の注型前粘度が低い]に優れ、形成されるポリウレタン樹脂は、シール材として備えるべき機械特性(硬度)を満足しており、低温での長期保存安定性と注型性の両立ができることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明の膜モジュールのシール材用注型ポリウレタン樹脂型性組成物は、低温での長期保存安定性に優れ、形成されるポリウレタン樹脂の機械特性にも優れることから、膜モジュール用の幅広い用途(血液処理器、浄水器等)、とくに人工臓器用の中空糸型血液処理器等の用途に極めて有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(a1)〜(a3)を含むイソシアネート成分(A)とポリオール成分(B)を含有してなる、膜モジュールのシール材用注型ポリウレタン樹脂形成性組成物。
(a1)4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネートのみからなるポリイソシアネートとポリオールから形成されてなる末端イソシアネート基ウレタンプレポリマー
(a2)4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネートのウレトンイミンおよび/またはカルボジイミド変性体
(a3)2,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート
【請求項2】
前記(a2)と(a3)の含有量が、前記(A)の重量に基づいてそれぞれ0.5〜15%である請求項1記載の組成物。
【請求項3】
請求項1または2記載の組成物から形成されてなる、膜モジュールのシール材用注型ポリウレタン樹脂。
【請求項4】
請求項3記載の注型ポリウレタン樹脂からなる、膜モジュールのシール材。
【請求項5】
請求項4記載のシール材を用いてなる膜モジュール。
【請求項6】
請求項5記載の膜モジュールからなる中空糸型血液処理器。

【公開番号】特開2011−63645(P2011−63645A)
【公開日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−213084(P2009−213084)
【出願日】平成21年9月15日(2009.9.15)
【出願人】(000002288)三洋化成工業株式会社 (1,719)
【Fターム(参考)】