説明

シール構成部材を形成する方法及び固体電解質型燃料電池モジュールの製造方法

【課題】焼結温度を低温化して空気極と同時に焼結させた場合であっても、所望の密着性を示す接着性向上膜を形成することができるシール構成部材を形成する方法、及び、固体電解質型燃料電池モジュールの製造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】基体管21と、基体管21上に形成された複数の単電池膜と、リード膜26と、気密膜27と、を備えたセルチューブの気密膜27上に設けられるシール構成部材28の形成方法であって、所定の焼結温度よりも低い温度で加熱されることにより分解されて二酸化炭素を放出するアルカリ土類金属炭酸塩を含む化合物の粉体と、チタニアの粉体と、を所定の割合で混合して未合成の混合粉体を調製し、該混合粉体をスラリー化させて気密膜27上に塗布した後、所定の焼結温度で熱処理することによって一般式ATiOで表されるペロブスカイト型酸化物及びチタニアからなるシール構成部材28を形成する方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、円筒横縞型固体電解質型燃料電池または円筒横縞型高温水蒸気電解セルに適用されるシール構成部材を形成する方法及び固体電解質型燃料電池モジュールの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
固体電解質型燃料電池(SOFC)は、燃料極に燃料ガスを、空気極に酸素を含む流体(空気)を供給することで発電がなされる電池である。
【0003】
図1に、円筒横縞型SOFCのセルチューブの概略図を例示する。円筒横縞型SOFCのセルチューブは、多孔質の基体管を有し、該基体管の外周面上に、燃料極、固体電解質及び空気極が順に積層された単電池膜を備える。単電池膜は、基体管の長手方向に沿って複数形成され、隣接する単電池膜同士は、インターコネクタを介して電気的に接続されている。
【0004】
図2に、セルチューブ端部の概略図を示す。基体管長手方向の一方の端部の外周面上には、連結された単電池膜の最終端部に接続されるようリード膜が成膜されている。このリード膜の他端には集電部材が設けられており、単電池膜で発電された電力が集電されるようになっている。リード膜の上面にはリード膜を電子及び酸素ガスから保護するための気密膜が成膜されている。
【0005】
上記のような構成を備えた円筒横縞型SOFCでは、基体管の内部に燃料ガス、基体管の外側に配置された空気極に空気を供給して発電させる。図1において、セルチューブは管板に貫通された状態で保持され、燃料ガス及び空気を供給する空間は互いに隔離されている。管板とセルチューブとの間、及びセルチューブの一端部には、供給した燃料ガスと空気とが混合しないようシール部材を配置させている。
【0006】
シール部材は、通常、無機系の接着剤を介してセルチューブ上の気密膜と接着させる。しかしながら、気密膜とシール部材とを直接無機系接着剤で接着させた場合、接着強度が低いため、セルチューブの自重を支えきれなくなる場合がある。また、昇降温時の熱応力等によって発生する力でセルチューブのシール性が低下してしまうこともある。
【0007】
上記問題を解決するため、特許文献1では、Alからなる気密膜の表面に接着性向上膜を設け、該接着性向上膜の表面に無機系接着剤を塗布してシール部材を密着させた燃料電池用セルチューブのシール構造が開示されている。
【0008】
接着性向上膜の材質は、予め粉体合成されたカルシウムチタネート(CaTiO)、CSZ(カルシア安定化ジルコニア)、YSZ(イットリア安定化ジルコニア)、あるいはこれらの混合物とされる。上記混合物は、スラリー化されて気密膜上に塗布された後、焼結される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2009−181854号公報(段落[0030]及び[0031])
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
接着性向上膜は、空気極焼結時、燃料極及び固体電解質の共焼結時、または空気極と燃料極及び固体電解質との共焼結時のいずれかのタイミングで、同時に焼結法により成形される。特に、接着性向上膜は、空気極焼結時に同時に焼結されることが多い。
【0011】
従来、空気極を焼結させる際の焼結温度は1300℃とされてきたが、近年、耐久性向上の観点から、空気極の焼結温度の低温化が検討されており、空気極を1100℃程度の温度で焼結することが主流となりつつある。
【0012】
しかしながら、焼結温度を低温化した条件、すなわち1100℃程度の温度で空気極及び接着性向上膜を同時に焼結させた場合、接着性向上膜の焼結性が低下して、気密膜との接着性を十分に得られなくなる。
【0013】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであって、焼結温度を低温化して空気極と同時に焼結させた場合であっても、所望の密着性を示す接着性向上膜を形成することができるシール構成部材を形成する方法、及び、そのようなシール構成部材を備えた固体電解質型燃料電池モジュールの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題を解決するために、本発明は、多孔質材料からなる基体管と、該基体管の外周面上に燃料極と固体電解質と空気極とが順に積層されてなる複数の単電池膜と、前記複数の単電池膜の最端部に電気的に接続された導電性のリード膜と、該リード膜の表面に形成された気密性の高い気密膜と、を備えたセルチューブの前記気密膜上に設けられるシール構成部材の形成方法であって、所定の焼結温度よりも低い温度で加熱されることにより分解されて二酸化炭素を放出するアルカリ土類金属炭酸塩を含む化合物の粉体と、チタニアの粉体と、を所定の割合で混合して未合成の混合粉体を調製し、該混合粉体をスラリー化させて前記気密膜上に塗布した後、前記所定の焼結温度で熱処理することによって一般式ATiOで表されるペロブスカイト型酸化物及びチタニアからなるシール構成部材を形成する方法を提供する。
【0015】
加熱により二酸化炭素を放出した直後の化合物の分解生成物は、とても反応性が高い状態となる。そのため、アルカリ土類金属炭酸塩の粉末とチタニアの粉末とを未合成の状態で混合して所定の焼結温度で熱処理することで、分解生成物とチタニアとの合成反応を促進させることができる。分解生成物とチタニアとが合成されると一般式ATiOで表されるペロブスカイト型酸化物が生成される。また、混合粉体を所定の焼結温度で熱処理すると、上記合成反応とともに、構成粒子(チタニア及び合成されたペロブスカイト型酸化物)同士が焼結して膜状のシール構成部材が形成される。上記発明によれば、形成されたシール構成部材は、焼結による収縮がほとんど起こらない。また、上記発明によれば、分解生成物とチタニアとが合成される際に十分に拡散が進むため、構成粒子間の密着性が強固となり、健全な膜質のシール構成部材を形成することができる。
【0016】
上記発明の一態様において、前記化合物を炭酸カルシウムとし、前記炭酸カルシウムの粉体及び前記チタニアの粉体の混合モル比が、チタニア10モルに対して炭酸カルシウムが3モル以上8モル以下となるよう混合粉体を調製しても良い。
【0017】
炭酸カルシウムは潮解性を示さないため、気密膜上に塗布する際の取り扱いが容易である。また、炭酸カルシウムは加熱することで二酸化炭素を放出しやすい特性を有するため、チタニアとの合成反応を進めやすい。炭酸カルシウムの分解開始温度は約600℃である。上記発明の一態様によれば、チタニアを、炭酸カルシウムに対して過剰量添加する。これによって、1100℃程度の低温で熱処理した場合であっても、未反応の炭酸カルシウムを残留させずに、チタン酸カルシウムを合成しつつ、構成粒子(チタニア及びチタン酸カルシウム)を焼結させることができる。
【0018】
上記発明の一態様によれば、炭酸カルシウムの粉体及びチタニアの粉体を上記混合モル比で混合することで、混合粉体の線膨張係数をYSZの線膨張係数に近い値とすることができる。このような材料でシール構成部材を形成することで、固体電解質型燃料電池の部材として適したものとなる。
【0019】
上記発明の一態様において、前記化合物を炭酸ストロンチウムとし、前記炭酸ストロンチウムの粉体及び前記チタニアの粉体の混合モル比が、チタニア10モルに対して炭酸ストロンチウムが4モル以上8モル以下となるよう混合して混合粉体を調製しても良い。
【0020】
炭酸ストロンチウムは潮解性を示さないため、気密膜上に塗布する際の取り扱いが容易である。炭酸ストロンチウムは、加熱することで二酸化炭素を放出する特性を有するため、チタニアとの合成反応を進めやすい。炭酸ストロンチウムの分解開始温度は約900℃である。上記発明の一態様によれば、チタニアを、炭酸ストロンチウムに対して過剰量添加する。これによって、1100℃程度の低温で熱処理した場合であっても、未反応の炭酸ストロンチウムを残留させずに、チタン酸ストロンチウムを合成しつつ、構成粒子(チタニア及びチタン酸ストロンチウム)同士を焼結させることができる。
【0021】
上記発明の一態様によれば、炭酸ストロンチウムの粉体及びチタニアの粉体を上記混合モル比で混合することで、混合粉体の線膨張係数をYSZの線膨張係数に近い値とすることができる。このような材料でシール構成部材を形成することで、固体電解質型燃料電池の部材として適したものとなる。
【0022】
また、本発明は、多孔質材料からなる基体管と、該基体管の外周面上に燃料極と固体電解質と空気極とが順に積層されてなる複数の単電池膜と、前記複数の単電池膜の最端部に電気的に接続された導電性のリード膜と、該リード膜の表面に形成された気密性の高い気密膜と、を備えたセルチューブを有する固体電解質型燃料電池モジュールであって、前記セルチューブの前記気密膜上に、所定の焼結温度よりも低い温度で加熱されることにより分解されて二酸化炭素を放出するアルカリ土類金属炭酸塩を含む化合物の粉体と、チタニアの粉体と、を所定の割合で混合して未合成の混合粉体を調製し、該混合粉体をスラリー化させて前記気密膜上に塗布した後、前記所定の焼結温度で熱処理することによって一般式ATiOで表されるペロブスカイト型酸化物及びチタニアからなるシール構成部材を形成する固体電解質型燃料電池モジュールの製造方法を提供する。
【0023】
加熱により二酸化炭素を放出した直後の化合物の分解生成物は、とても反応性が高い状態となる。そのため、このような化合物の粉末とチタニアの粉末とを未合成の状態で混合して所定の焼結温度で熱処理することで、分解生成物とチタニアとの合成反応を促進させることができる。分解生成物とチタニアとが合成されると一般式ATiOで表されるペロブスカイト型酸化物が生成される。また、混合粉体を所定の焼結温度で熱処理すると、上記合成反応とともに、構成粒子(チタニア及び合成されたペロブスカイト型酸化物)同士が焼結して膜状のシール構成部材が形成される。上記発明によれば、形成されたシール構成部材は、焼結による収縮がほとんど起こらない。また、上記発明によれば、分解生成物とチタニアとが合成される際に十分に拡散が進むため、構成粒子間の密着性が強固となり、健全な膜質のシール構成部材を形成することができる。また、上記発明によれば、セルチューブのシール性を高めることができるため、燃料ガスのリーク率を大幅に低減させた固体電解質燃料電池モジュールを製造することができる。
【0024】
上記発明の一態様において、前記化合物を炭酸カルシウムとし、前記炭酸カルシウムの粉体及び前記チタニアの粉体の混合モル比が、チタニア10モルに対して炭酸カルシウムが3モル以上8モル以下となるよう混合粉体を調製しても良い。
【0025】
上記発明の一態様において、前記化合物を炭酸ストロンチウムとし、前記炭酸ストロンチウムの粉体及び前記チタニアの粉体の混合モル比が、チタニア10モルに対して炭酸ストロンチウムが4モル以上8モル以下となるよう混合して混合粉体を調製しても良い。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、所定の化合物とチタニアを混合させた混合粉体を未合成の状態で気密膜上に塗布し、所定の焼結温度で熱処理することで、焼結による収縮がほとんどなく、且つ、構成粒子間の密着性が強固で健全な膜質の接着性向上膜(シール構成部材)を形成することができる。所定の化合物を炭酸カルシウムまたは炭酸ストロンチウムとすることで、所定の焼結温度が1100℃程度であった場合でも、剥離し難い接着性向上膜を形成することができる。
【0027】
また、本発明によれば、燃料リークが低減された信頼性の高い固体電解質型燃料電池モジュールを製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】第1実施形態に係る製造方法で製造した固体電解質燃料電池モジュールの概略構造を説明する図である。
【図2】第1実施形態における円筒横縞型SOFCのセルチューブの概略図である。
【図3】第1実施形態におけるセルチューブの下端部分の概略図である。
【図4】第1実施形態におけるシール部分の膜構成を示す説明図である。
【図5】焼結体の粉末X線回折結果を示す図である。
【図6】スクラッチ試験の結果を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下に、本発明に係るシール構成部材を形成する方法、及び、固体電解質型燃料電池モジュールの製造方法の一実施形態について、図面を参照して説明する。
【0030】
〔第1実施形態〕
図1に、本実施形態に係る製造方法で製造した固体電解質燃料電池モジュール1の概略構造を示す。
固体電解質燃料電池モジュール1は、天板2、上部管板3、下部管板4、及び複数のセルチューブ5から構成されている。固体電解質燃料電池モジュール1は、断熱材で包囲されている。
【0031】
固体電解質燃料電池モジュール(モジュール本体)1内に、天板2、上部管板3及び下部管板4が配設されている。下部管板4の下方には、電池室6が形成されている。天板2と上部管板3との間には、燃料供給室7が形成されている。上部管板3と下部管板4との間には、燃料排出室8が形成されている。
【0032】
天板2及びモジュール本体1には、燃料供給室7とモジュール本体1の外部とを連通する外側管9が貫通して連結されている。外側管9の内側には、燃料排出室8とモジュール本体1の外部とを連通するように上部管板3を貫通する内側管10が配設されている。
【0033】
下部管板4には、複数のセルチューブ5が、上端を燃料排出室8に位置させると共に、下方寄りをモジュール本体1の電池室6内に位置させるようにして貫通支持されている。
セルチューブ5の内側には、セルチューブ5の内部下方側と燃料供給室7とを連通させるように上部管板3を貫通する燃料供給管11が配設されている。
【0034】
燃料供給管11の内側には、上端を燃料供給室7に位置させると共に、下端をセルチューブ5の下端近傍に位置させた集電棒12が配設されている。集電棒12の下端は、単電池膜と電気的に接続すると共に、セルチューブ5の下端を閉塞する集電部材13に連結されている。集電棒12の上端は、ニッケル製の集電部材13および導電棒14を介してモジュール本体1の外部へ電気的に接続されている。
【0035】
セルチューブ5の上端には、単電池膜と電気的に接続する集電コネクタ15が取り付けられている。集電コネクタ15は、他のセルチューブ5と集電コネクタ15を介して直列的に電気接続されている。
【0036】
モジュール本体1の電池室6の下部には、多孔質のセラミック製の仕切板16が設けられている。仕切板16の下方には、仕切板16を介して電池室6と連通する空気予熱室17が設けられている。空気予熱室17には、モジュール本体1の外部と連通する空気供給管18が接続されている。
モジュール本体1の電池室6の内部には、空気排出管19の一端側が配置されている。空気排出管19は、他端側がモジュール本体1の外側に位置し、中程部分が空気予熱室17の内部を通過するように配設されて、熱交換されている。
【0037】
図2に、円筒横縞型SOFCのセルチューブ5の概略図を例示する。
セルチューブ5の外周面上には、長手方向に沿って複数の単電池膜20が形成されている。セルチューブ5を吊るす側部分、及びセルチューブ5の下端部分には、シール部分が設けられている。
セルチューブ5の単電池膜20が設けられた部分の外周面は、酸素を含む気体雰囲気となっている。本実施形態において酸素を含む気体とは、空気を意味する。固体電解質型燃料電池モジュール1を稼働する際には、セルチューブ5の内周側に燃料ガス(水素)が供給される。
【0038】
図3に、セルチューブ5の下端部分の概略図を例示する。
セルチューブ5は、多孔質材料からなる基体管21上に、複数の単電池膜20が形成された構成とされる。単電池膜20は、基体管21側から順に燃料極22、固体電解質23、空気極24が積層された構成とされる。隣接する単電池膜同士は、インターコネクタ25で電気的に直列に連結されている。連結された単電池膜20の最終端部の空気極24には、インターコネクタ25を介してリード膜26が接続されている。リード膜26の上面、言い換えるとリード膜26の基体管側とは逆の面上には、リード膜26を保護するための気密性の高い気密膜27が設けられている。
【0039】
気密膜27の上には、シール部分が設けられている。図4に、シール部分の膜構成を示す。シール部分は、気密膜27上に形成されたシール構成部材としての接着性向上膜28と、該接着性向上膜28に無機系接着剤29を介して接着されたキャップ状のシール部材30と、で構成されている。
なお、セルチューブ5を吊るす側部分も同様の構成のシール部分を有している。
【0040】
本実施形態において、基体管21は多孔質材料からなり、カルシア安定化ジルコニア(CSZ)などとされる。
燃料極22は、ニッケル(Ni)とジルコニア系電解質材料との複合材で構成され、例えば、Ni/イットリア安定化ジルコニア(YSZ)が用いられる。
【0041】
固体電解質23は、電子絶縁性であり、ガスを通さない気密性と高温での高いイオン透過性とを有することが求められる。そのため、固体電解質23には、主としてYSZが用いられる。
【0042】
空気極24は、ランタンストロンチウム系の材料で形成され、空気から酸素イオンを生成するものである。
インターコネクタ25は、チタン酸ストロンチウム系などのM1−xTiO(Mはアルカリ土類金属元素、Lはランタノイド元素)で表される導電性ペロブスカイト型酸化物から構成され、燃料ガスと空気とが混合しないように緻密な膜となっている。
【0043】
リード膜26は、Ni/YSZ等のNiとジルコニア系電解質材料との複合材、またはNi/Alなどで構成されている。リード膜26は、連結された単電池膜で発電された電力を集電する役割をする膜である。
気密膜27には、アルミナ(Al)、またはYSZなどを用いることができる。
【0044】
シール構成部材(接着性向上膜)28は、一般式ATiOで表されるペロブスカイト型酸化物及びチタニア(TiO)からなる。シール構成部材の材料としては、所定の焼結温度よりも低い温度で加熱されることにより分解されて二酸化炭素を放出するアルカリ土類金属炭酸塩を含む化合物の粉体と、チタニアの粉体と、を所定の割合で混合した混合粉体を用いることができる。
一般式ATiOの「A」は、アルカリ土類金属などの陽イオンとされ、毒性を示さないものが好ましい。所定の焼結温度よりも低い温度で加熱されることにより分解されて二酸化炭素を放出するアルカリ土類金属炭酸塩を含む化合物は、潮解性を示さないことが好ましく、具体的には、炭酸カルシウム(CaCO)、炭酸ストロンチウム(SrCO)などが好ましい。
【0045】
混合粉体中のチタニア量(mol)は、上記化合物の量(mol)に対して過剰となるように配合する。「過剰となる」とは、少なくとも理論上すべての上記化合物をチタニアと反応させることのできる量を超える量を意味する。
【0046】
所定の割合は、混合粉体の線膨張係数が、固体電解質(本実施形態ではYSZ)の線膨張係数と近しくなるように適宜設定されると良い。
例えば、上記化合物として炭酸カルシウムを用いる場合、チタニア10molに対して炭酸カルシウムが3mol以上8mol以下となるような割合で混合させると良い。
例えば、上記化合物として炭酸ストロンチウムを用いる場合、チタニア10molに対して炭酸ストロンチウムが4mol以上8mol以下となるような割合で混合させると良い。
【0047】
無機系接着剤29としては、東亞合成株式会社から入手可能なアロンセラミックなどの一液加熱硬化型の耐熱性無機接着剤などが用いられる。
シール部材30は、ハステロイX、SUS310などの金属製とされる。
【0048】
以下、固体電解質型燃料電池モジュールの製造方法について説明する。
まず、カルシア安定化ジルコニア(CSZ)などを主とする多孔質材料を、押出成形法により管状に成形し、乾燥させたものを基体管21とする。
【0049】
次いで、燃料極22の材質として、例えば、NiO及びYSZを所定の混合比で混合させた混合粉末に、溶媒を添加して、3本ローラを用いて混合しスラリー化する。また、固体電解質23、インターコネクタ25、リード膜26、及び気密膜27の材質として、各材料を同様にスラリー化する。
スクリーンプリント法により各スラリーを基体管21上に順次成膜した後に、電気炉などを用いて所定の焼結条件で熱処理する。
【0050】
次いで、空気極24の材料を燃料極22のなどの材質と同様にスラリー化する。また、接着性向上膜28の材料、例えば、炭酸カルシウムの粉体とチタニアの粉体とを所定の割合で混合し、ボールミルを用いて混合粉体とする。得られた混合粉体に溶媒を適量添加し、スラリー化させる。このとき、接着性向上膜28の材質は、2種類の粉体が未合成の状態で混合されていることを特徴とする。
【0051】
空気極24用のスラリーを、固体電解質23及びインターコネクタ25を覆うように塗布する。塗布は、スクーン印刷法によって行われる。
また、接着性向上膜28用のスラリーを、気密膜27上に塗布する。塗布は、スクーン印刷法によって行われ、所望の膜厚に応じて数回実施しても良い。
【0052】
上記で塗布した空気極24及び接着性向上膜28用の各スラリーを乾燥させた後、電気炉によって所定の焼結温度で基体管21を熱処理する。「所定の焼結温度」は、空気極24の材質などに応じて適宜設定される。
【0053】
本実施形態に係る製造方法で製造した円筒型固体電解質燃料電池モジュールの作用について説明する。モジュール本体1の電池室6内を作動温度(約900〜1000℃)に加熱し、外側管9から水素などの燃料ガス31を供給すると共に、空気供給管18から酸化剤ガスである空気32を供給する。
外側管9を介して供給された燃料ガス31は、燃料供給室7から燃料供給管11を介してセルチューブ5の下端側まで流入する。
空気予熱室17を介して仕切16を通過した空気32は、電池室6内に流入する。
【0054】
燃料ガス31が多孔質性の基体管21を透過して単電池膜20の燃料極22に供給される。空気(酸素)32が空気極24に接触すると、該単電池膜20が水素と空気(酸素)とを電気化学的に反応させて電力を発生させ、当該電力が集電部材13、導電棒14を介して外部へ送り出されるようになっている。
【0055】
なお、発電に供された後の残燃料ガス33は、セルチューブ5の上端から燃料排出室8に流入し、内側管10を介して外部へ排出され、再利用される。一方、発電に供された後の残空気34は、空気排出管19を介して外部へ排出される。
【0056】
(ペレット試験)
CaCO粉体として、平均粒径3μmを使用した。
TiO粉体として、平均粒径2μmを使用した。
CaCO粉体及びTiO粉体を所定の割合(試験組成:CaCO/TiO=0/10〜9/10)で混合し、該混合した粉体をφ20mmの金型を用いた1軸プレス成形(プレス圧力:300kg/mm)によってペレットに成形して、1100℃で2時間焼結させた。次に、得られた焼結体の収縮率を算出した。収縮率は、焼結前後のペレットの大きさを比較して算出した。ペレットの大きさとしては、ペレットの直径を約60度毎に3箇所をノギスで計測し、平均値を算出した値を採用した。
【0057】
計測された収縮率を表1に示す。
【表1】

【0058】
表1によれば、CaCO無添加(0mol)の試料の収縮率は、13.3%であった。一方、TiOにCaCOを添加した試料の収縮率は、いずれも5%以下であった。また、収縮率はCaCOの添加量の増加にともなって小さくなり、そのうちほとんど収縮しなくなった。
【0059】
上記結果から、CaCO粉体及びTiO粉体を所定の割合で混合させた混合粉体を焼結した場合に、焼結後の収縮を抑制できることが確認された。これは、2種類の粉体を未合成の状態で気密膜上に塗布して、合成・焼結させたことで、予め合成した場合と比べて粒径の大きなペロブスカイト型酸化物が生成され、焼結が進みにくくなったために収縮率が低下したものと考えられる。
これによって、成膜後の乾燥時ならびに熱処理時に収縮割れが発生しにくくなるため、接着性向上膜の膜厚の制限が緩和される。
【0060】
(X線回折)
上記ペレット試験で用いたCaCO粉体及びTiO粉体を、ボールミルにて混合した後、乾燥させ、混合粉体とした。CaCO粉体及びTiO粉体の混合量は、それぞれ0.5mol及び1molとした。混合粉体25gに対してスキージオイルを18gの割合で添加し、スラリー化した。調製したスラリーを基材上に塗布して乾燥後、1100℃で2時間焼結させた。焼結後の厚さは、約100μmとした。
【0061】
CaCO粉体及びTiO粉体を混合させた状態で焼結させると、式(1)及び式(2)の反応が生じる。得られた焼結体の構成結晶相は、CaTiO及びTiOであると予測される。
CaCO → CaO +CO↑・・・(1)
CaO+TiO →CaTiO ・・・(2)
【0062】
得られた焼結体を粉末X線回折装置によって分析した。分析結果を図5に示す。同図において、横軸が2θ[°]、縦軸が強度[cps]である。図5において、○がCaTiOに由来するピーク、△がTiOに由来するピークであり、得られた焼結体の構成結晶相が、CaTiO及びTiOであることが確認された。
焼結体に未反応のCaOが残存している場合、横軸43.7°の位置にCaOの最強線が出現する。図5によれば、上記で得られた焼結体中に、未反応のCaOの存在はみとめられなかった。
【0063】
CaOは水和されやすいため、CaOが焼結体に残留すると接着性向上膜の損傷させる原因となる可能性がある。よって、CaOが焼結体に残留する場合は、X線回折でCaOの有無を検証する必要がある。上記結果によれば、焼結体に未反応のCaOが残留しないため、接着性向上膜を形成後にX線回折でCaOの有無を検証する工程を省略することができる。
【0064】
(焼結体の線膨張係数)
焼結体の線膨張係数は、CaTiOとTiOの混合物のそれに等しい。CaTiOの線膨張係数は約12×10−6/Kであり、TiOの線膨張係数は約8×10−6/Kである(参照:素木洋一,焼結セラミック詳論4 ファインセラミックス 出版社 技報堂 551p,553p)。したがって、CaTiO及びTiOの存在比率とCaTiO及びTiOの各線膨張係数とから、混合物の線膨張係数を算出した。結果を表2に示す。
【表2】

【0065】
表2によれば、焼結体の推定線膨張係数は、CaCOをTiOに添加することで上昇する。これは、CaCOの添加量に依存してCaTiOの生成量が変化するためである。すなわち、CaCOの添加量が少ないとCaTiOの生成量が少なく、線膨張係数は低くなる。逆に、CaCOの添加量が多いとCaTiOの生成量が多くなり、線膨張係数は高くなる。
【0066】
単電池膜に用いられる材料は、通常、昇降温時に剥離や割れを生じさせないよう、使用される固体電解質の線膨張係数に近い線膨張係数を有するものが選択される。固体電解質として主に用いられるYSZの線膨張係数は、9.7×10−6/Kである。よって、固体電解質としてYSZを用いた場合、線膨張係数が9.7×10−6/Kより低すぎても、高すぎても、剥離や割れの原因となる。以上より、CaCOとTiOとの混合割合は、TiO10molに対してCaCO3mol以上8mol以下とすることが好ましく、3mol以上6mol以下とすることがより好ましい。
【0067】
また、SrCOとTiOとを所定の割合で混合した場合の線膨張係数を算出した。SrTiOの線膨張係数は約11.3×10−6/Kである(参照:素木洋一,焼結セラミック詳論4 ファインセラミックス 出版社 技報堂 553p)。結果を表3に示す。
【表3】

【0068】
表3から、SrCOとTiOとの混合割合は、TiO10molに対してSrCO3mol以上8mol以下とすることが好ましく、4mol以上6mol以下とすることがより好ましい。
【0069】
(気密膜上への成膜試験)
上記ペレット試験で用いたCaCO粉体及びTiO粉体を、ボールミルで混合した後、乾燥させ、混合粉体とした。CaCO粉体及びTiO粉体の混合割合は、それぞれ0.5mol及び1molとした。混合粉体にスキージオイルを適量添加し、スラリー化した。調製したスラリーを気密膜(10mol%Y−ZrO、厚さ約100μm、成膜方法:ディピング成膜)上に塗布して乾燥後、1100℃で2時間焼結させて接着性向上膜(厚さ約50μm)を形成させ、試料とした。
【0070】
焼結させた後の気密膜は、外観上の割れや剥離はなく、健全な状態であった。
上記試料について、グリッド試験を実施した。詳細には、気密膜上に塗布して焼結させた接着性向上膜を鋭利な刃物で素地に達するように一定の格子状(碁盤の目)に切断し、その接着性向上膜の表面に粘着テープをローラで強く押し付ける。その後、迅速にテープの端を垂直に引きはがし、接着性向上膜の密着性を外観目視によって評価した。
図6は、上記試料の表面を切り欠く前後の写真である。図6(a)が切り欠く前、図6(b)が切り欠いた後の接着性向上膜の表面である。図6によれば、切り欠いた後、膜が剥がれ落ちることは殆どなかった。
一方、予め粉体合成された混合物をスラリー化して気密膜上に塗布された後、1100℃で2時間焼結させて形成した接着性向上膜は、密着性が弱く、粉を固めただけのような状態であり、指で触るだけでも膜が壊れてしまうような状態であった。
【0071】
以上より、本発明に係るシール構成部材を形成する方法によれば、焼結収縮をほとんど起こさず、且つ、密着性の高いシール構成部材を形成することができる。
【符号の説明】
【0072】
1 固体電解質型燃料電池モジュール(モジュール本体)
2 天板
3 上部管板
4 下部管板
5 セルチューブ
6 電池室
7 燃料供給室
8 燃料排出室
9 外側管
10 内側管
11 燃料供給管
12 集電棒
13 集電部材
14 導電棒
15 集電コネクタ
16 仕切板
17 空気予熱室
18 空気供給管
19 空気排出管
20 単電池膜
21 基体管
22 燃料極
23 固体電解質
24 空気極
25 インターコネクタ
26 リード膜
27 気密膜
28 接着性向上膜(シール構成部材)
29 無機系接着剤
30 シール部材
31 燃料ガス
32 空気
33 残燃料ガス
34 残空気


【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔質材料からなる基体管と、該基体管の外周面上に燃料極と固体電解質と空気極とが順に積層されてなる複数の単電池膜と、前記複数の単電池膜の最端部に電気的に接続された導電性のリード膜と、該リード膜の表面に形成された気密性の高い気密膜と、を備えたセルチューブの前記気密膜上に設けられるシール構成部材の形成方法であって、
所定の焼結温度よりも低い温度で加熱されることにより分解されて二酸化炭素を放出するアルカリ土類金属炭酸塩を含む化合物の粉体と、チタニアの粉体と、を所定の割合で混合して未合成の混合粉体を調製し、該混合粉体をスラリー化させて前記気密膜上に塗布した後、前記所定の焼結温度で熱処理することによって一般式ATiOで表されるペロブスカイト型酸化物及びチタニアからなるシール構成部材を形成する方法。
【請求項2】
前記アルカリ土類金属炭酸塩を炭酸カルシウムとし、
前記炭酸カルシウムの粉体及び前記チタニアの粉体の混合モル比が、チタニア10モルに対して炭酸カルシウムが3モル以上8モル以下となるよう混合粉体を調製する請求項1に記載のシール構成部材を形成する方法。
【請求項3】
前記アルカリ土類金属炭酸塩を炭酸ストロンチウムとし、
前記炭酸ストロンチウムの粉体及び前記チタニアの粉体の混合モル比が、チタニア10モルに対して炭酸ストロンチウムが4モル以上8モル以下となるよう混合粉体を調製する請求項1に記載のシール構成部材を形成する方法。
【請求項4】
多孔質材料からなる基体管と、該基体管の外周面上に燃料極と固体電解質と空気極とが順に積層されてなる複数の単電池膜と、前記複数の単電池膜の最端部に電気的に接続された導電性のリード膜と、該リード膜の表面に形成された気密性の高い気密膜と、を備えたセルチューブを有する固体電解質型燃料電池モジュールであって、
前記セルチューブの前記気密膜上に、
所定の焼結温度よりも低い温度で加熱されることにより分解されて二酸化炭素を放出するアルカリ土類金属炭酸塩を含む化合物の粉体と、チタニアの粉体と、を所定の割合で混合して未合成の混合粉体を調製し、該混合粉体をスラリー化させて前記気密膜上に塗布した後、前記所定の焼結温度で熱処理することによって一般式ATiOで表されるペロブスカイト型酸化物及びチタニアからなるシール構成部材を形成する固体電解質型燃料電池モジュールの製造方法。
【請求項5】
前記アルカリ土類金属炭酸塩を炭酸カルシウムとし、
前記炭酸カルシウムの粉体及び前記チタニアの粉体の混合モル比が、チタニア10モルに対して炭酸カルシウムが3モル以上8モル以下となるよう混合粉体を調製する請求項4に記載の固体電解質型燃料電池モジュールの製造方法。
【請求項6】
前記アルカリ土類金属炭酸塩を炭酸ストロンチウムとし、
前記炭酸ストロンチウムの粉体及び前記チタニアの粉体の混合モル比が、チタニア10モルに対して炭酸ストロンチウムが4モル以上8モル以下となるよう混合して混合粉体を調製する請求項4に記載の固体電解質型燃料電池モジュールの製造方法。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−129165(P2012−129165A)
【公開日】平成24年7月5日(2012.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−282258(P2010−282258)
【出願日】平成22年12月17日(2010.12.17)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成20年度〜平成22年度 独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「固体酸化物形燃料電池システム要素技術開発 実用性向上のための技術開発 超効率運転のための高圧運転技術」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】