シール部材

【課題】潤滑剤の保持性、低摩耗化及び低摩擦化に優れ、ゴム摩耗粉や外部からの異物を捕捉してシール面の摩耗を低減させ得るゴム製のシール部材を提供する。
【解決手段】相手部材2に対して弾性的に相対摺接する摺接面4aを含むゴム基材70からなるシール部材7であって、前記ゴム基材の少なくとも前記摺接面4aを含む表面に、深さ3〜20μm、開口径5〜70μmの多数の小穴8…がレーザ加工によって形成され、該小穴が形成された領域における小穴の開口部が占める面積の割合が5〜50%とされていることを特徴とする。
【解決手段】相手部材2に対して弾性的に相対摺接する摺接面4aを含むゴム基材70からなるシール部材7であって、前記ゴム基材の少なくとも前記摺接面4aを含む表面に、深さ3〜20μm、開口径5〜70μmの多数の小穴8…がレーザ加工によって形成され、該小穴が形成された領域における小穴の開口部が占める面積の割合が5〜50%とされていることを特徴とする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゴム製のシール部材に関し、例えば、軸受のシールリングに組み込まれるゴム製シール部材に関する。
【背景技術】
【0002】
前記のような軸受のシールリングは、芯金に固着一体とされたゴム製シール部材を含み、相対回転する2部材(例えば、外輪と内輪)の間に介在される。当該シール部材は、前記2部材の一方の部材に前記芯金を介して嵌着され、そのシールリップ部が、前記2部材の他方の部材に直接若しくはスリンガを介して弾接するよう組み込まれる。前記2部材が相対回転する際に、シールリップ部が前記相手部材(前記他方の部材或いはスリンガ等)に弾性摺接して、軸受の軸受空間をシールするべく機能する。
【0003】
前記のようなシール部材を組み込んだシールリングにおいては、シール性を維持しながら相手部材との摺接抵抗を小さくする為に、前記シールリップ部の前記相手部材に対する摺接部分にグリース等の潤滑剤が施与される。そして、この潤滑剤の保持性を高め、低摩耗化及び低摩擦化を図る為に、シールリップ部の摺接部分に細かな凹凸加工(粗面化処理)を施すこともなされている。特許文献1乃至3には、このような粗面化処理が施されたシール部材が記載されている。また、特許文献4には、加硫ゴムの表面に紫外レーザを照射して、ゴムの表面に微細な凹凸構造を形成する加硫ゴムの表面処理方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−355740号公報
【特許文献2】特開2004−263738号公報
【特許文献3】特開2008−8455号公報
【特許文献4】特許第3380124号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来、ゴムの表面を粗面化する方法としては、ゴム基材を成型する為の金型の成型面にシボ加工等を行い、成型時にシボ加工面をゴム基材に転写する方法や、成型されたゴム基材の表面にブラストのショット処理或いは研磨処理を施す方法が実施されている。特許文献1には、オイルシールのゴム弾性体からなるシールリップにおける摺動面の粗面化が、梨地加工、ねじ突起或いは平行突起の形成、またはローレット加工によってなされることが記載されているが、その具体的な粗面化処理の方法については記載がない。また、特許文献2には、シールリングのゴム弾性体からなるシールリップにおける相手部材との接触面に、粗し加工面を形成することが記載されているが、その具体的な粗し加工処理の方法については記載がない。特許文献3には、成型金型の成型面に短パルスレーザの照射により微細な凹凸を形成し、この金型に樹脂を装填してシール部材を成型する際に、金型に形成された前記凹凸をシール部材に転写することにより、シール部材の内輪(相手部材)との接触面に微細な凹凸を形成することが記載されている。
【0006】
特許文献3に記載された方法を、ゴム基材の表面加工に適用せんとした場合、成型時の離型性が悪く、これによって、成型品としてのゴム基材の歩留まりが低くなり、安定的な量産化が困難であった。この場合、レーザ照射に代えて、切削加工、エッチング加工或いはショット処理によって金型の内面に微細な凹凸を形成することも実施されているが、凹凸の形成態様を任意に制御することができず、従って、シールポイントとなる平坦部を確保することが難しく、その為、シール部材に適用する場合にはシール性において信頼性が欠ける要因となることがあった。ましてや、穴径が小さく深さのある多数の小穴を間隔を開けて規則的に形成することは不可能であった。
【0007】
特許文献4には、前記の通り、加硫ゴムの表面に紫外レーザを照射して、ゴムの表面に微細な凹凸構造を形成する加硫ゴムの表面処理方法が記載されており、レーザ照射におけるフルエンスと単位時間当りの照射回数とを変化させることにより、前記凹凸構造の形態を制御し得る旨の記載がある。しかし、ここでの微細な凹凸構造の形成目的は、加硫ゴム製品同士の粘着防止、或いは摩擦係数のコントロール等のゴム製品のトライボロジ特性の改良であって、潤滑剤を介して相手部材と摺接する部分において、潤滑剤の保持性、或いは潤滑剤の濡れ性等を改善することを意図するものではない。また、凸部が存在する為、相互に摺接する部分をシールするシール部材に適用しようとすると、摺接時に摩耗粉が発生し、或いは凸部の存在がシール性を阻害する要因になることも予想される。
【0008】
本発明者等は、シール用のゴム基材表面に、レーザ加工によって多数のディンプル状小穴を形成し、相手部材との摺接部に介在される潤滑剤の保持性を高めることにより低摩耗化及び低摩擦化を図り得る小穴の最適な形成態様を見出すべく鋭意試行錯誤を繰り返した。その結果、レーザ加工によれば、その条件設定によって、小穴の深さ、開口径、小穴形成領域における小穴開口部の占有面積の割合について、前記最適な形成態様を再現性よく実現することができた。本発明は、このような知見に基づき、潤滑剤の保持性、低摩耗化及び低摩擦化に優れ、ゴム摩耗粉や外部からの異物を捕捉してシール面の摩耗を低減させ得るゴム製のシール部材を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係るシール部材は、相手部材に対して弾性的に相対摺接する摺接面を含むゴム基材からなるシール部材であって、前記ゴム基材の少なくとも前記摺接面を含む表面に、深さが3〜20μm、開口径が70μm以下の多数のディンプル状小穴がレーザ加工によって形成され、該小穴が形成された領域における小穴の開口部が占める面積の割合が5〜50%とされていることを特徴とする。
【0010】
本発明において、前記ゴム基材が芯金に固着されるベース部と、該ベース部より延出されたシールリップ部とを含み、該シールリップ部の先側に前記摺接面を有しているものとしても良い。また、前記小穴は、レーザの連続照射によってゴム基材の表層部を剥離した後に形成されたものであっても良い。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、相手部材に対して弾性的に相対摺接する前記ゴム基材の摺接面を含む表面に多数のディンプル状小穴を備えているから、相手部材との接触面積を軽減し、低摩擦のシール部材が得られる。従って、本シール部材を自動車の車輪軸受装置におけるシールリング等に適用すれば、回転トルクを低減し、低燃費化に寄与する。特に、前記小穴が形成された領域と前記相手部材との間に潤滑剤を介在させた状態で使用することにより、潤滑剤が小穴に保持され、小穴より潤滑剤が徐々に供給されて、摺接面における潤滑剤の枯渇を防止することができる。これによって、円滑な摺接性が維持され、本シール部材の低摩擦、低摩耗化が実現され、長寿命化が図られる。また、摺接時に発生するゴムの摩耗粉や外部から侵入する異物を小穴に捕捉することができ、摺接面に摩耗粉や異物の噛みこみによる摺接面の傷付き等の摩耗を低減させることができる。このような本発明のシール部材の特性は、小穴の深さを3〜20μm、小穴の開口径を70μm以下とし、該小穴が形成された領域における小穴の開口部が占める面積の割合(以下、占有面積率と言う)を5〜50%とすることにより、極めて好適に発現される。しかも、このように形状等が特定された小穴は、レーザ加工によって再現性良く形成され、品質の安定したシール部材を需要者に提供することができる。
【0012】
因みに、小穴の深さが3μm未満の場合、潤滑剤を介した相手部材との摺接摩擦抵抗の低減化効果が少なく且つ当該摺接摩擦抵抗のばらつきが大きくなる傾向となり、20μmを超えると、摺接摩擦抵抗のばらつきは小さくなるが、潤滑剤が小穴から摺接面に供給される量が少なくなり、これが原因で摺接摩擦抵抗が大きくなる傾向となる。また、小穴の開口径が70μmを超えると実質的なシールポイントが少なくなりシール性が低下する傾向となる。更に、前記占有面積率が5%未満の場合、前記摺接摩擦抵抗の低減化効果が少なく且つ当該摺接摩擦抵抗のばらつきが大きくなる傾向となり、50%を超えると実質的なシールポイントが少なくなりシール性が低下する傾向となる。
【0013】
本発明において、前記ゴム基材が芯金に固着されるベース部と、該ベース部より延出されたシールリップ部とを含み、該シールリップ部の先側に前記摺接面を有しているものとした場合、前記車輪軸受装置におけるシールリング等に好適に適用される。また、前記小穴が、レーザの連続照射によってゴム基材の表層部を剥離した後に形成されたものとした場合、ゴム基材の表層部がレーザ加工によって剥離されることで、潤滑剤に対する馴染性、親油性が得られる。従って、前記小穴形成による特性と相俟って、潤滑剤を介在させて使用されるシール部材としての適性が一層向上する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の一実施形態に係るシール部材を軸受装置に組み込まれるパックシールタイプのシールリングに適用した例を示す断面図である。
【図2】レーザ加工機によってゴム基材用試料に小穴を形成する要領を示す概念図である。
【図3】同ゴム基材用試料の作製条件をまとめた図である。
【図4】使用するレーザ加工機の詳細をまとめた図である。
【図5】f100レンズを用い、レーザの周波数、シャッター開時間及びレーザ出力を変化させてレーザ加工を行い、これら加工ファクターと得られた小穴の形状との関係をまとめた図である。
【図6】f160レンズを用い、レーザの周波数、シャッター開時間及びレーザ出力を変化させてレーザ加工を行い、これら加工ファクターと得られた小穴の形状との関係をまとめた図である。
【図7】f300レンズを用い、レーザの周波数、シャッター開時間及びレーザ出力を変化させてレーザ加工を行い、これら加工ファクターと得られた小穴の形状との関係をまとめた図である。
【図8】図5〜図7に示す結果を、ビーム・レンズ種による小穴形状制御可能範囲としてまとめた図である。
【図9】摩擦摩耗試験機を用いてゴム基材用試料の摩擦係数の測定試験を行う状態を概念的に示す図である。
【図10】摩擦係数の測定試験の条件をまとめた図である。
【図11】小穴の占有面積率を変化させた場合の摩擦係数の測定結果をまとめた図である。
【図12】同測定結果を小穴の占有面積率と摩擦係数との関係として概略的に示すグラフである。
【図13】同一試料について、溶剤(エタノール)拭き取り有無による摩擦係数の時間変化による違いを示すグラフである。
【図14】小穴の開口径を変化させた場合の摩擦係数の測定結果をまとめた図である。
【図15】同測定結果を小穴の開口径と摩擦係数との関係として概略的に示すグラフである。
【図16】小穴の深さを変化させた場合の摩擦係数の測定結果をまとめた図である。
【図17】同測定結果を小穴の深さと摩擦係数との関係として概略的に示すグラフである。
【図18】最適レーザ加工試料と未加工試料との摩擦係数の時間変化による違いを示すグラフである。
【図19】測定試験後の試料の観察結果をまとめた図である。
【図20】事前にレーザの連続照射によってゴム基材用試料の表層部を剥離した後にレーザ加工機によってゴム基材に小穴を形成する要領を示す概念図である。
【図21】レーザの連続照射によって表層部を剥離処理したゴム基材用試料表面の親水性及び新油性と照射レーザの周波数との関係を示すグラフであり、(a)は水を滴下した時のゴム基材用試料表面に対する水滴の接触角と照射レーザの周波数との関係を示し、(b)はヘキサデカンを滴下した時のゴム基材用試料表面に対するヘキサデカン滴の接触角と照射レーザの周波数との関係を示す。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に本発明の実施の形態について、図面に基づいて説明する。図1は、本発明に係るシール部材を、パックシールタイプのシールリングのシールリップ部に適用した場合の例を示している。図例のシールリング1は、例えば、自動車の車輪を回転自在に支持する軸受装置(不図示)に装着されるシールリングである。該シールリング1は、回転側となる内輪又はシャフト(いずれも不図示)に外嵌一体とされる金属製スリンガ(相手部材)2と、固定側となる外輪(不図示)に内嵌一体とされる芯金3と、該芯金3に固着一体とされ前記スリンガ2に弾性摺接するよう形成された3枚のシールリップ部4〜6を備えたゴム製のシール部材7とより構成される。図例のシール部材7は、シールリップ部として、スリンガ2のアキシャル面に弾接する2枚のサイド(アキシャル)リップ部4,5と、スリンガ2のラジアル面に弾接する1枚のグリース(ラジアル)リップ部6とを備えている。これらシールリップ部4〜6とスリンガ2との弾性摺接部にはグリースGが施与されている。図において、2点鎖線は、これらシールリップ部4〜6が弾性変形していない原形状の状態を示している。シール部材7はゴム基材70の成形体からなり、該ゴム基材70は、前記芯金3に固着されるベース部700と、該ベース部700より延出された前記3枚の環状シールリップ部4〜6とを含む。該シールリップ部4〜6の先側に前記スリンガ2に弾性摺接する摺接面4a〜6aを有している。
【0016】
サイドリップ部4,5及びグリースリップ部6のスリンガ(相手部材)2との摺接面4a〜6aを含む弾性摺接部の少なくとも1つの弾性摺接部には、後記するレーザ加工によって多数のディンプル状小穴8…が形成されている。図1における拡大部は、サイドリップ部4の摺接面4aを含む弾性摺接部を示している。シールリップ部4の摺接面4aを含む弾性摺接部には、多数の小穴8…が規則的或いはランダムな斑点状に形成されており、この摺接面4aを含む弾性摺接部及び小穴8…に前記施与されたグリースGが介在する。内輪或いはシャフトの回転により、スリンガ2と前記シールリップ部4〜6の各摺接面4a〜6aとは相対摺接する。この時、少なくとも摺接面4aには多数の小穴8…が形成されているから、スリンガ2との接触面積が少なく、その為、スリンガ2の回転トルクが小さくなる。しかも、相互の摺接部にはグリースGが介在するからこの潤滑作用によって、回転トルクの増大が抑制される。更に、多数の小穴8…によるグリース保持性と低摩耗性及び低摩擦性により、この低回転トルクが長く維持される。特に、小穴8…にグリースGを保持することによって、小穴8…より徐々にグリースGが供給され、これによって摺接部でのグリースGの枯渇を防止し、前記低摩耗性及び低摩擦性が長く持続される。また、摺接時に発生するゴムの摩耗粉や、外部から侵入する異物をこの小穴8…に捕捉することができ、これら異物等の噛み込みによる摺接部の傷付き等の摩耗を低減させることができ、シール部材7の長寿命化も図られる。このような特性は、後記する小穴8…の最適な形成態様によって実現される。
【0017】
次に、前記のような小穴8…をレーザ加工によって形成する方法と、最適形成態様の詳細について説明する。図2はレーザ加工機によってゴム基材70用としての試料(以下、ゴム基材用試料70と言う)に小穴を形成する要領を示す概念図である。図2に示すレーザ加工機9は、ミヤチテクノス株式会社製微細レーザ加工機(ML−7112AH,ML−7111A)であって、発振機9a、Qスイッチ9b、シャッター9c及びガルバノミラー9dを備え、連続波及びQスイッチパルス波でのレーザ発振が可能とされている。図2は、ゴム基材用試料70又はレーザ加工機9を走査(矢印a参照)させながら、ゴム基材用試料70の表面にレーザRを照射させて小穴8…を形成する(8´は形成過程の小穴を示す)状態を示している。このレーザ加工機9における、レーザ種はLD励起YVO4、発振波長は1064nm、Qスイッチパルス周波数は0.01〜199.9kHzである。
【0018】
図3は、前記レーザ加工機9によって小穴8…を加工形成する対象試料としてのシート状ゴム基材用試料70の作製条件を示している。ゴム材として未加硫NBRを用いているが、これに限らず、図1に示すようなシール部材7に多用されている他のゴム材、例えば、HNBR,ACM,FKM,EPDM,AEM,VMQ,FVMQ,BR,CR等も採用可能である。図4には、レーザ加工機9の詳細仕様を示している。
【0019】
レーザ仕様の最適化を行うため、レーザビーム種・レンズ種を変えて照射し、小穴の形状観察を行った。レーザ加工後のゴム基材用試料70の表面の観察にはノルマルスキー微分干渉計(ライカマイクロシステムズ株式会社製DM400M−4)を、断面の観察には超深度形状測定顕微鏡(株式会社キーエンス製VK−8500)を、それぞれ用いた。レンズはfθレンズを用いた。fθレンズとは、像高hと入射角との関係がh=fθになるよう設計されたレンズである。図5〜図7に、シングルモードにおける各レンズを用いて加工した時の小穴8…の開口径、深さの測定結果を示している。また、図8は、これらの結果を、ビーム・レンズ種による小穴形状制御可能範囲としてまとめたものである。図8において、WDはレンズと試料間の距離である。
【0020】
図5〜図8から、f160レンズで比較すると、マルチモードよりシングルモードの方が開口径が小さく、深い小穴の加工が可能であることが理解される。これは、パワーのピークがビームの中心一点に集中するシングルモードの特長によるものと考えられる。また、シングルモードにおいてレンズの違いで小穴の形状を比較すると、θが小さいレンズの加工の方が、開口径がより小さく、より深い小穴の加工が可能であることが理解される。シール製品の機能としてシール性の確保が必要となるので、シール表面(ゴム基材用試料70の表面)をより細かく制御する必要がある。そのため、より開口径の小さい小穴の加工が可能であることが望ましい。このような観点から、小穴加工のビーム品質としてシングルモードを選択し、レンズ種としてf100レンズを採用した。但し、深さが15μmより小さな小穴が求められる場合は、シングルモードでf160レンズを用いて加工するようにしても良い。
なお、図5〜図7において、15A、23A、31Aは、前記レーザ発振機9aにおける照射出力を、電流値(アンペア)で示したものである。
【0021】
図9は、小穴8の最適形状を特定するため、摩擦摩耗試験機を用いてゴム基材用試料70の摩擦係数の測定試験を行う状態を概念的に示す図である。図9に示す摩擦摩耗試験機10として、株式会社レスカ製FPR−2100を使用した。本摩擦摩耗試験機10は、ゴム基材用試料70の表面に、グリースを塗布し、この塗布面上を所定の荷重がかけられたボール10aを円形に転動させることによって、ボール10aとグリースを介したゴム基材用試料70の表面との摩擦係数を測定するものである。図10に摩擦試験条件を示す。図10におけるグリース塗布量は、前記ボール10aが転動する円形軌道10b(図9参照)に沿って塗布される量である。使用したグリースの粘度は、600[dPa・s](25℃)(ビスコテスター高粘度用にて測定)である。
【0022】
小穴8の最適な占有面積率の検討を行うため、レーザ照射ピッチにより占有面積率を変化させた試料について、摩擦試験を行った。ここで、小穴8の占有面積率とは、前記のように小穴8…が形成された領域(小穴形成帯の最外周部で囲まれる領域)における小穴8…の開口部の総面積が占める割合である。この場合のレーザ加工では、f100レンズを用い、シャッター開時間を0.01ms、照射出力を31A、レーザの周波数を1kHz、小穴の開口径を52μm、深さを14μmとした。また、エタノールで表面を拭き取り処理した試料(照射ピッチ100μmの試料)についても同様に摩擦試験を行った。図11及び図12は、この結果を未加工試料(小穴なし)での結果と共に示している。この結果によれば、占有面積率が5%を超えると(図12の白抜矢印参照)、ゴム基材用試料70の摩擦係数が未加工試料に比べて1/4〜1/5となり、またばらつきも少なくなっていることが理解される。図13は、エタノールによって拭き取り処理を行った試料(ロ)と行っていない試料(イ)についての摩擦係数の試験結果を示している。図11〜図13から、エタノールでの拭き取り処理を行った試料の場合、拭き取り処理を行っていない試料に比べて若干ではあるが、摩擦係数の低減が確認され、また摩擦のピンはね現象がなくなっていることが理解される。これにより、レーザ加工後は、アブレーションされた分解物が表面にわずかではあるが残っており、それを除くことで、摩擦のピンはね現象の抑制が可能であることが理解される。
【0023】
小穴8の最適な開口径の検討を行うため、レンズ種、シャッター開時間、レーザ出力、周波数を変えることにより、開口径の制御を行い、開口径に対する摩擦係数の影響を確認した。占有面積率を約10%に固定した。図14及び図15にこの検討結果を示す。この結果から、小穴の開口径が50〜90μmの場合、未加工のものに比べて大幅に摩擦係数が小さく、また、50〜90μmでは開口径の違いによる差は見られないことが理解される。
なお、開口径が40μm以下の小穴は、例示のレーザ加工機(特に、レンズ種)では加工できないため、フェムト秒レーザを用いてレーザ加工を行い、これについて別途評価を行った。この評価結果については後記する。
【0024】
小穴8の最適な深さの検討を行うため、レンズ種、シャッター開時間、レーザ出力、周波数を変えることにより、深さの制御を行い、深さに対する摩擦係数の影響を確認した。占有面積率を約10%に固定した。図16及び図17にこの検討結果を示す。図17より、小穴8の深さが16μm付近で摩擦係数が未加工試料より小さく、しかもばらつきが最も少ないことが理解される。また、深さが5μmより小さい場合は、未加工試料に比べて摩擦係数は低減するものの、ばらつきが大きいことも知見される。一方、深さが30μmより大きくなるにつれ、摩擦係数の上昇が見られ、これらにより小穴8の深さは3〜20μmが望ましく、最も望ましくは15μm程度とすることができる。
【0025】
以上によって、小穴8の最適な形成態様は、深さ3〜20μm、開口径70μm以下、開口部の面積占有率5〜50%とすることができる。図18は、最適レーザ加工試料(ゴム基材用試料70)と未加工試料との摩擦係数の時間変化による違いを示すグラフである。ここに、最適レーザ加工試料とは、小穴の開口径が50μm、深さが15μm、占有面積率10%(レーザ照射ピッチ140μm)となるようレーザ加工した試料である。これらの結果に基づき摩擦係数の低減効果が最も顕著であった試料は、図18に示すように、未加工試料に比べて摩擦係数が70%程度低減されたことが理解できる。図18において、矢印の上側が未加工試料(ハ)、下側が最適レーザ加工試料(ニ)を示している(いずれもn=2)。
【0026】
次に、摩擦係数が低減した要因の考察を行う。図19は、摩擦試験後の試料について小穴8及びその近傍部を前記の観察手法によって観察した結果を、摩擦試験前の状態と比較して示している。小穴の深さが16μmの試料の場合、摩擦試験後ではグリースが小穴8から小穴8に移動している跡が見られた(図19の矢印Aで示す部分参照)。これにより、小穴8の深さが最適であると、小穴8に溜まったグリースが小穴8から小穴8に移動するから、小穴8から相手部材との摺接面(図1参照)にグリースが供給され、摩擦係数の低減に繋がったと推測することができる。一方、小穴の深さが小さい場合(図19の深さ2μmの場合参照)、グリース溜りが生じず、小穴間のグリースの移動がないので、摺接面に介在するグリース量が不安定となり、摩擦係数のばらつきが大きくなったと推測される。また、深さが大きい場合(図19の深さ53μmの場合参照)、元の深さより摩擦試験後の深さが小さくなっている(図19の「断面形状」欄参照)ことにより、グリースが溜まっていることは確認できるが、グリースの移動跡は余り見られないことから、摺接面に介在するグリースの量が少なく、これによって、摩擦係数が上昇したものと推測される。
【0027】
前記のように、例示のレーザ加工機では、開口径が40μm以下の小穴加工ができないため、熱拡散がなくアブレーション加工により熱変質の影響を抑制することが可能であり、YVO4レーザより極端にパルス幅の小さいフェムト秒レーザによりレーザ加工を行った。使用したフェムト秒レーザによって加工することができた最も小さい小穴開口径は15μm、深さは3μmであった。また、摩擦特性上最適な深さとされる15μm程度の小穴を形成しようとすると開口径は26μmとなった。このフェムト秒レーザで小穴加工した試料(開口径26μm、深さ15μm、占有面積率8%)と、YVO4レーザで小穴加工した試料(開口径52μm、深さ14μm、占有面積率10%)について、前記と同様に摩擦特性の試験をしたところ、フェムト秒レーザによる試料は、YVO4レーザによる試料程の摩擦低減効果は得られなかった。しかし、フェムト秒レーザの条件を変えることにより、開口径を26μmより小さくすることは可能であり、また、グリースの粘度を下げることにより、小穴間のグリースの移動性を良くして摩擦低減効果を高めることも可能である。従って、YVO4レーザとフェムト秒レーザとを適宜使い分けることによって、開口径を5〜70μmに制御可能とし、この意味から、開口径の望ましい範囲を5〜70μmとすることができる。しかし、YVO4レーザのみを使用する場合は、開口径の望ましい範囲は40〜70μmが望ましい範囲とされる。ここでは、40μm以下の小穴加工に、フェムト秒レーザを用いたが、これに限らず、ピコ秒レーザを用いて加工を行っても良い。
【0028】
図20は、事前にレーザの連続照射によってゴム基材用試料70の表層部を剥離した後にレーザ加工機によってゴム基材用試料70に小穴を形成する要領を示す概念図である。図20における2点鎖線は、ゴム基材用試料70の表層部が事前に除去されていることを示している。このような表層部の除去は、連続(CW)モードで所定の速度で走査させながら照射することによってなされる。図21(a)(b)は、前記のようにレーザの連続照射によって表層部を除去したゴム基材用試料70の表面の親水性及び親油性について、加工処理時のレーザ照射の周波数との関係を調べた結果を示している。図21(a)は、各周波数のレーザ連続照射によって表層部を除去したゴム基材用試料70の表面に水の小滴を滴下し、水滴のゴム基材用試料70の表面上での接触角を測定した結果を示している。この結果から、レーザ照射の周波数を高める程、加工表面の親水性が悪くなり、撥水性が増すことが理解される。また、図21(b)は、各周波数のレーザ連続照射によって表層部を除去したゴム基材用試料70の表面にヘキサデカンの小滴を滴下し、ヘキサデカン滴のゴム基材用試料70の表面上での接触角を測定した結果を示している。この結果から、レーザ照射の周波数を高める程、加工表面の親油性が良くなり、20kHzを超えるとヘキサデカンがゴム基材用試料70の表面に馴染み、液滴形状が崩れ、ゴム基材用試料70の表面に広がるようになる。
【0029】
このように、レーザ照射の周波数を適宜設定することにより、ゴム基材の撥水性及び親油性を使用目的に応じて適正に制御することができる。特に、軸受のシールリング等のシールリップ部に使用する場合は、撥水性を高めることにより外部から軸受内部への泥水等の浸入阻止に有効であり、また、親油性を高めることにより、潤滑剤として用いられるグリース等との馴染み性が向上し、その潤滑効果がより顕著となる。これと小穴形成による前記特性とが相乗して、軸受用シール部材としての適性がより高められる。
【0030】
尚、図1では、本発明の加工処理が施されたゴム基材が、パックシールタイプのシールリング1を構成するシールリップ部4〜6を含むシール部材7である例を示しているが、これに限定されず、他の構成のシール部材に適用することも可能であり、これにより同様の効果を得ることができる。また、図1では、内輪側回転、外輪側固定の軸受に適用されるパックシールタイプのシールリングを例に採ったが、これらの回転・固定関係が逆の軸受に適用されるパックシールタイプのシールリングにも本発明が適用され得ることは言うまでもない。更に、潤滑剤としてグリースGを例示したが、その他の潤滑油を用いる場合にも、本発明のシール部材を適用することができる。
【符号の説明】
【0031】
2 スリンガ(相手部材)
3 芯金
7 シール部材
70 ゴム基材
700 ベース部
4〜6 シールリップ部
4a〜6a 摺接面
8 小穴
G グリース(潤滑剤)
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゴム製のシール部材に関し、例えば、軸受のシールリングに組み込まれるゴム製シール部材に関する。
【背景技術】
【0002】
前記のような軸受のシールリングは、芯金に固着一体とされたゴム製シール部材を含み、相対回転する2部材(例えば、外輪と内輪)の間に介在される。当該シール部材は、前記2部材の一方の部材に前記芯金を介して嵌着され、そのシールリップ部が、前記2部材の他方の部材に直接若しくはスリンガを介して弾接するよう組み込まれる。前記2部材が相対回転する際に、シールリップ部が前記相手部材(前記他方の部材或いはスリンガ等)に弾性摺接して、軸受の軸受空間をシールするべく機能する。
【0003】
前記のようなシール部材を組み込んだシールリングにおいては、シール性を維持しながら相手部材との摺接抵抗を小さくする為に、前記シールリップ部の前記相手部材に対する摺接部分にグリース等の潤滑剤が施与される。そして、この潤滑剤の保持性を高め、低摩耗化及び低摩擦化を図る為に、シールリップ部の摺接部分に細かな凹凸加工(粗面化処理)を施すこともなされている。特許文献1乃至3には、このような粗面化処理が施されたシール部材が記載されている。また、特許文献4には、加硫ゴムの表面に紫外レーザを照射して、ゴムの表面に微細な凹凸構造を形成する加硫ゴムの表面処理方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−355740号公報
【特許文献2】特開2004−263738号公報
【特許文献3】特開2008−8455号公報
【特許文献4】特許第3380124号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来、ゴムの表面を粗面化する方法としては、ゴム基材を成型する為の金型の成型面にシボ加工等を行い、成型時にシボ加工面をゴム基材に転写する方法や、成型されたゴム基材の表面にブラストのショット処理或いは研磨処理を施す方法が実施されている。特許文献1には、オイルシールのゴム弾性体からなるシールリップにおける摺動面の粗面化が、梨地加工、ねじ突起或いは平行突起の形成、またはローレット加工によってなされることが記載されているが、その具体的な粗面化処理の方法については記載がない。また、特許文献2には、シールリングのゴム弾性体からなるシールリップにおける相手部材との接触面に、粗し加工面を形成することが記載されているが、その具体的な粗し加工処理の方法については記載がない。特許文献3には、成型金型の成型面に短パルスレーザの照射により微細な凹凸を形成し、この金型に樹脂を装填してシール部材を成型する際に、金型に形成された前記凹凸をシール部材に転写することにより、シール部材の内輪(相手部材)との接触面に微細な凹凸を形成することが記載されている。
【0006】
特許文献3に記載された方法を、ゴム基材の表面加工に適用せんとした場合、成型時の離型性が悪く、これによって、成型品としてのゴム基材の歩留まりが低くなり、安定的な量産化が困難であった。この場合、レーザ照射に代えて、切削加工、エッチング加工或いはショット処理によって金型の内面に微細な凹凸を形成することも実施されているが、凹凸の形成態様を任意に制御することができず、従って、シールポイントとなる平坦部を確保することが難しく、その為、シール部材に適用する場合にはシール性において信頼性が欠ける要因となることがあった。ましてや、穴径が小さく深さのある多数の小穴を間隔を開けて規則的に形成することは不可能であった。
【0007】
特許文献4には、前記の通り、加硫ゴムの表面に紫外レーザを照射して、ゴムの表面に微細な凹凸構造を形成する加硫ゴムの表面処理方法が記載されており、レーザ照射におけるフルエンスと単位時間当りの照射回数とを変化させることにより、前記凹凸構造の形態を制御し得る旨の記載がある。しかし、ここでの微細な凹凸構造の形成目的は、加硫ゴム製品同士の粘着防止、或いは摩擦係数のコントロール等のゴム製品のトライボロジ特性の改良であって、潤滑剤を介して相手部材と摺接する部分において、潤滑剤の保持性、或いは潤滑剤の濡れ性等を改善することを意図するものではない。また、凸部が存在する為、相互に摺接する部分をシールするシール部材に適用しようとすると、摺接時に摩耗粉が発生し、或いは凸部の存在がシール性を阻害する要因になることも予想される。
【0008】
本発明者等は、シール用のゴム基材表面に、レーザ加工によって多数のディンプル状小穴を形成し、相手部材との摺接部に介在される潤滑剤の保持性を高めることにより低摩耗化及び低摩擦化を図り得る小穴の最適な形成態様を見出すべく鋭意試行錯誤を繰り返した。その結果、レーザ加工によれば、その条件設定によって、小穴の深さ、開口径、小穴形成領域における小穴開口部の占有面積の割合について、前記最適な形成態様を再現性よく実現することができた。本発明は、このような知見に基づき、潤滑剤の保持性、低摩耗化及び低摩擦化に優れ、ゴム摩耗粉や外部からの異物を捕捉してシール面の摩耗を低減させ得るゴム製のシール部材を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係るシール部材は、相手部材に対して弾性的に相対摺接する摺接面を含むゴム基材からなるシール部材であって、前記ゴム基材の少なくとも前記摺接面を含む表面に、深さが3〜20μm、開口径が70μm以下の多数のディンプル状小穴がレーザ加工によって形成され、該小穴が形成された領域における小穴の開口部が占める面積の割合が5〜50%とされていることを特徴とする。
【0010】
本発明において、前記ゴム基材が芯金に固着されるベース部と、該ベース部より延出されたシールリップ部とを含み、該シールリップ部の先側に前記摺接面を有しているものとしても良い。また、前記小穴は、レーザの連続照射によってゴム基材の表層部を剥離した後に形成されたものであっても良い。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、相手部材に対して弾性的に相対摺接する前記ゴム基材の摺接面を含む表面に多数のディンプル状小穴を備えているから、相手部材との接触面積を軽減し、低摩擦のシール部材が得られる。従って、本シール部材を自動車の車輪軸受装置におけるシールリング等に適用すれば、回転トルクを低減し、低燃費化に寄与する。特に、前記小穴が形成された領域と前記相手部材との間に潤滑剤を介在させた状態で使用することにより、潤滑剤が小穴に保持され、小穴より潤滑剤が徐々に供給されて、摺接面における潤滑剤の枯渇を防止することができる。これによって、円滑な摺接性が維持され、本シール部材の低摩擦、低摩耗化が実現され、長寿命化が図られる。また、摺接時に発生するゴムの摩耗粉や外部から侵入する異物を小穴に捕捉することができ、摺接面に摩耗粉や異物の噛みこみによる摺接面の傷付き等の摩耗を低減させることができる。このような本発明のシール部材の特性は、小穴の深さを3〜20μm、小穴の開口径を70μm以下とし、該小穴が形成された領域における小穴の開口部が占める面積の割合(以下、占有面積率と言う)を5〜50%とすることにより、極めて好適に発現される。しかも、このように形状等が特定された小穴は、レーザ加工によって再現性良く形成され、品質の安定したシール部材を需要者に提供することができる。
【0012】
因みに、小穴の深さが3μm未満の場合、潤滑剤を介した相手部材との摺接摩擦抵抗の低減化効果が少なく且つ当該摺接摩擦抵抗のばらつきが大きくなる傾向となり、20μmを超えると、摺接摩擦抵抗のばらつきは小さくなるが、潤滑剤が小穴から摺接面に供給される量が少なくなり、これが原因で摺接摩擦抵抗が大きくなる傾向となる。また、小穴の開口径が70μmを超えると実質的なシールポイントが少なくなりシール性が低下する傾向となる。更に、前記占有面積率が5%未満の場合、前記摺接摩擦抵抗の低減化効果が少なく且つ当該摺接摩擦抵抗のばらつきが大きくなる傾向となり、50%を超えると実質的なシールポイントが少なくなりシール性が低下する傾向となる。
【0013】
本発明において、前記ゴム基材が芯金に固着されるベース部と、該ベース部より延出されたシールリップ部とを含み、該シールリップ部の先側に前記摺接面を有しているものとした場合、前記車輪軸受装置におけるシールリング等に好適に適用される。また、前記小穴が、レーザの連続照射によってゴム基材の表層部を剥離した後に形成されたものとした場合、ゴム基材の表層部がレーザ加工によって剥離されることで、潤滑剤に対する馴染性、親油性が得られる。従って、前記小穴形成による特性と相俟って、潤滑剤を介在させて使用されるシール部材としての適性が一層向上する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の一実施形態に係るシール部材を軸受装置に組み込まれるパックシールタイプのシールリングに適用した例を示す断面図である。
【図2】レーザ加工機によってゴム基材用試料に小穴を形成する要領を示す概念図である。
【図3】同ゴム基材用試料の作製条件をまとめた図である。
【図4】使用するレーザ加工機の詳細をまとめた図である。
【図5】f100レンズを用い、レーザの周波数、シャッター開時間及びレーザ出力を変化させてレーザ加工を行い、これら加工ファクターと得られた小穴の形状との関係をまとめた図である。
【図6】f160レンズを用い、レーザの周波数、シャッター開時間及びレーザ出力を変化させてレーザ加工を行い、これら加工ファクターと得られた小穴の形状との関係をまとめた図である。
【図7】f300レンズを用い、レーザの周波数、シャッター開時間及びレーザ出力を変化させてレーザ加工を行い、これら加工ファクターと得られた小穴の形状との関係をまとめた図である。
【図8】図5〜図7に示す結果を、ビーム・レンズ種による小穴形状制御可能範囲としてまとめた図である。
【図9】摩擦摩耗試験機を用いてゴム基材用試料の摩擦係数の測定試験を行う状態を概念的に示す図である。
【図10】摩擦係数の測定試験の条件をまとめた図である。
【図11】小穴の占有面積率を変化させた場合の摩擦係数の測定結果をまとめた図である。
【図12】同測定結果を小穴の占有面積率と摩擦係数との関係として概略的に示すグラフである。
【図13】同一試料について、溶剤(エタノール)拭き取り有無による摩擦係数の時間変化による違いを示すグラフである。
【図14】小穴の開口径を変化させた場合の摩擦係数の測定結果をまとめた図である。
【図15】同測定結果を小穴の開口径と摩擦係数との関係として概略的に示すグラフである。
【図16】小穴の深さを変化させた場合の摩擦係数の測定結果をまとめた図である。
【図17】同測定結果を小穴の深さと摩擦係数との関係として概略的に示すグラフである。
【図18】最適レーザ加工試料と未加工試料との摩擦係数の時間変化による違いを示すグラフである。
【図19】測定試験後の試料の観察結果をまとめた図である。
【図20】事前にレーザの連続照射によってゴム基材用試料の表層部を剥離した後にレーザ加工機によってゴム基材に小穴を形成する要領を示す概念図である。
【図21】レーザの連続照射によって表層部を剥離処理したゴム基材用試料表面の親水性及び新油性と照射レーザの周波数との関係を示すグラフであり、(a)は水を滴下した時のゴム基材用試料表面に対する水滴の接触角と照射レーザの周波数との関係を示し、(b)はヘキサデカンを滴下した時のゴム基材用試料表面に対するヘキサデカン滴の接触角と照射レーザの周波数との関係を示す。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に本発明の実施の形態について、図面に基づいて説明する。図1は、本発明に係るシール部材を、パックシールタイプのシールリングのシールリップ部に適用した場合の例を示している。図例のシールリング1は、例えば、自動車の車輪を回転自在に支持する軸受装置(不図示)に装着されるシールリングである。該シールリング1は、回転側となる内輪又はシャフト(いずれも不図示)に外嵌一体とされる金属製スリンガ(相手部材)2と、固定側となる外輪(不図示)に内嵌一体とされる芯金3と、該芯金3に固着一体とされ前記スリンガ2に弾性摺接するよう形成された3枚のシールリップ部4〜6を備えたゴム製のシール部材7とより構成される。図例のシール部材7は、シールリップ部として、スリンガ2のアキシャル面に弾接する2枚のサイド(アキシャル)リップ部4,5と、スリンガ2のラジアル面に弾接する1枚のグリース(ラジアル)リップ部6とを備えている。これらシールリップ部4〜6とスリンガ2との弾性摺接部にはグリースGが施与されている。図において、2点鎖線は、これらシールリップ部4〜6が弾性変形していない原形状の状態を示している。シール部材7はゴム基材70の成形体からなり、該ゴム基材70は、前記芯金3に固着されるベース部700と、該ベース部700より延出された前記3枚の環状シールリップ部4〜6とを含む。該シールリップ部4〜6の先側に前記スリンガ2に弾性摺接する摺接面4a〜6aを有している。
【0016】
サイドリップ部4,5及びグリースリップ部6のスリンガ(相手部材)2との摺接面4a〜6aを含む弾性摺接部の少なくとも1つの弾性摺接部には、後記するレーザ加工によって多数のディンプル状小穴8…が形成されている。図1における拡大部は、サイドリップ部4の摺接面4aを含む弾性摺接部を示している。シールリップ部4の摺接面4aを含む弾性摺接部には、多数の小穴8…が規則的或いはランダムな斑点状に形成されており、この摺接面4aを含む弾性摺接部及び小穴8…に前記施与されたグリースGが介在する。内輪或いはシャフトの回転により、スリンガ2と前記シールリップ部4〜6の各摺接面4a〜6aとは相対摺接する。この時、少なくとも摺接面4aには多数の小穴8…が形成されているから、スリンガ2との接触面積が少なく、その為、スリンガ2の回転トルクが小さくなる。しかも、相互の摺接部にはグリースGが介在するからこの潤滑作用によって、回転トルクの増大が抑制される。更に、多数の小穴8…によるグリース保持性と低摩耗性及び低摩擦性により、この低回転トルクが長く維持される。特に、小穴8…にグリースGを保持することによって、小穴8…より徐々にグリースGが供給され、これによって摺接部でのグリースGの枯渇を防止し、前記低摩耗性及び低摩擦性が長く持続される。また、摺接時に発生するゴムの摩耗粉や、外部から侵入する異物をこの小穴8…に捕捉することができ、これら異物等の噛み込みによる摺接部の傷付き等の摩耗を低減させることができ、シール部材7の長寿命化も図られる。このような特性は、後記する小穴8…の最適な形成態様によって実現される。
【0017】
次に、前記のような小穴8…をレーザ加工によって形成する方法と、最適形成態様の詳細について説明する。図2はレーザ加工機によってゴム基材70用としての試料(以下、ゴム基材用試料70と言う)に小穴を形成する要領を示す概念図である。図2に示すレーザ加工機9は、ミヤチテクノス株式会社製微細レーザ加工機(ML−7112AH,ML−7111A)であって、発振機9a、Qスイッチ9b、シャッター9c及びガルバノミラー9dを備え、連続波及びQスイッチパルス波でのレーザ発振が可能とされている。図2は、ゴム基材用試料70又はレーザ加工機9を走査(矢印a参照)させながら、ゴム基材用試料70の表面にレーザRを照射させて小穴8…を形成する(8´は形成過程の小穴を示す)状態を示している。このレーザ加工機9における、レーザ種はLD励起YVO4、発振波長は1064nm、Qスイッチパルス周波数は0.01〜199.9kHzである。
【0018】
図3は、前記レーザ加工機9によって小穴8…を加工形成する対象試料としてのシート状ゴム基材用試料70の作製条件を示している。ゴム材として未加硫NBRを用いているが、これに限らず、図1に示すようなシール部材7に多用されている他のゴム材、例えば、HNBR,ACM,FKM,EPDM,AEM,VMQ,FVMQ,BR,CR等も採用可能である。図4には、レーザ加工機9の詳細仕様を示している。
【0019】
レーザ仕様の最適化を行うため、レーザビーム種・レンズ種を変えて照射し、小穴の形状観察を行った。レーザ加工後のゴム基材用試料70の表面の観察にはノルマルスキー微分干渉計(ライカマイクロシステムズ株式会社製DM400M−4)を、断面の観察には超深度形状測定顕微鏡(株式会社キーエンス製VK−8500)を、それぞれ用いた。レンズはfθレンズを用いた。fθレンズとは、像高hと入射角との関係がh=fθになるよう設計されたレンズである。図5〜図7に、シングルモードにおける各レンズを用いて加工した時の小穴8…の開口径、深さの測定結果を示している。また、図8は、これらの結果を、ビーム・レンズ種による小穴形状制御可能範囲としてまとめたものである。図8において、WDはレンズと試料間の距離である。
【0020】
図5〜図8から、f160レンズで比較すると、マルチモードよりシングルモードの方が開口径が小さく、深い小穴の加工が可能であることが理解される。これは、パワーのピークがビームの中心一点に集中するシングルモードの特長によるものと考えられる。また、シングルモードにおいてレンズの違いで小穴の形状を比較すると、θが小さいレンズの加工の方が、開口径がより小さく、より深い小穴の加工が可能であることが理解される。シール製品の機能としてシール性の確保が必要となるので、シール表面(ゴム基材用試料70の表面)をより細かく制御する必要がある。そのため、より開口径の小さい小穴の加工が可能であることが望ましい。このような観点から、小穴加工のビーム品質としてシングルモードを選択し、レンズ種としてf100レンズを採用した。但し、深さが15μmより小さな小穴が求められる場合は、シングルモードでf160レンズを用いて加工するようにしても良い。
なお、図5〜図7において、15A、23A、31Aは、前記レーザ発振機9aにおける照射出力を、電流値(アンペア)で示したものである。
【0021】
図9は、小穴8の最適形状を特定するため、摩擦摩耗試験機を用いてゴム基材用試料70の摩擦係数の測定試験を行う状態を概念的に示す図である。図9に示す摩擦摩耗試験機10として、株式会社レスカ製FPR−2100を使用した。本摩擦摩耗試験機10は、ゴム基材用試料70の表面に、グリースを塗布し、この塗布面上を所定の荷重がかけられたボール10aを円形に転動させることによって、ボール10aとグリースを介したゴム基材用試料70の表面との摩擦係数を測定するものである。図10に摩擦試験条件を示す。図10におけるグリース塗布量は、前記ボール10aが転動する円形軌道10b(図9参照)に沿って塗布される量である。使用したグリースの粘度は、600[dPa・s](25℃)(ビスコテスター高粘度用にて測定)である。
【0022】
小穴8の最適な占有面積率の検討を行うため、レーザ照射ピッチにより占有面積率を変化させた試料について、摩擦試験を行った。ここで、小穴8の占有面積率とは、前記のように小穴8…が形成された領域(小穴形成帯の最外周部で囲まれる領域)における小穴8…の開口部の総面積が占める割合である。この場合のレーザ加工では、f100レンズを用い、シャッター開時間を0.01ms、照射出力を31A、レーザの周波数を1kHz、小穴の開口径を52μm、深さを14μmとした。また、エタノールで表面を拭き取り処理した試料(照射ピッチ100μmの試料)についても同様に摩擦試験を行った。図11及び図12は、この結果を未加工試料(小穴なし)での結果と共に示している。この結果によれば、占有面積率が5%を超えると(図12の白抜矢印参照)、ゴム基材用試料70の摩擦係数が未加工試料に比べて1/4〜1/5となり、またばらつきも少なくなっていることが理解される。図13は、エタノールによって拭き取り処理を行った試料(ロ)と行っていない試料(イ)についての摩擦係数の試験結果を示している。図11〜図13から、エタノールでの拭き取り処理を行った試料の場合、拭き取り処理を行っていない試料に比べて若干ではあるが、摩擦係数の低減が確認され、また摩擦のピンはね現象がなくなっていることが理解される。これにより、レーザ加工後は、アブレーションされた分解物が表面にわずかではあるが残っており、それを除くことで、摩擦のピンはね現象の抑制が可能であることが理解される。
【0023】
小穴8の最適な開口径の検討を行うため、レンズ種、シャッター開時間、レーザ出力、周波数を変えることにより、開口径の制御を行い、開口径に対する摩擦係数の影響を確認した。占有面積率を約10%に固定した。図14及び図15にこの検討結果を示す。この結果から、小穴の開口径が50〜90μmの場合、未加工のものに比べて大幅に摩擦係数が小さく、また、50〜90μmでは開口径の違いによる差は見られないことが理解される。
なお、開口径が40μm以下の小穴は、例示のレーザ加工機(特に、レンズ種)では加工できないため、フェムト秒レーザを用いてレーザ加工を行い、これについて別途評価を行った。この評価結果については後記する。
【0024】
小穴8の最適な深さの検討を行うため、レンズ種、シャッター開時間、レーザ出力、周波数を変えることにより、深さの制御を行い、深さに対する摩擦係数の影響を確認した。占有面積率を約10%に固定した。図16及び図17にこの検討結果を示す。図17より、小穴8の深さが16μm付近で摩擦係数が未加工試料より小さく、しかもばらつきが最も少ないことが理解される。また、深さが5μmより小さい場合は、未加工試料に比べて摩擦係数は低減するものの、ばらつきが大きいことも知見される。一方、深さが30μmより大きくなるにつれ、摩擦係数の上昇が見られ、これらにより小穴8の深さは3〜20μmが望ましく、最も望ましくは15μm程度とすることができる。
【0025】
以上によって、小穴8の最適な形成態様は、深さ3〜20μm、開口径70μm以下、開口部の面積占有率5〜50%とすることができる。図18は、最適レーザ加工試料(ゴム基材用試料70)と未加工試料との摩擦係数の時間変化による違いを示すグラフである。ここに、最適レーザ加工試料とは、小穴の開口径が50μm、深さが15μm、占有面積率10%(レーザ照射ピッチ140μm)となるようレーザ加工した試料である。これらの結果に基づき摩擦係数の低減効果が最も顕著であった試料は、図18に示すように、未加工試料に比べて摩擦係数が70%程度低減されたことが理解できる。図18において、矢印の上側が未加工試料(ハ)、下側が最適レーザ加工試料(ニ)を示している(いずれもn=2)。
【0026】
次に、摩擦係数が低減した要因の考察を行う。図19は、摩擦試験後の試料について小穴8及びその近傍部を前記の観察手法によって観察した結果を、摩擦試験前の状態と比較して示している。小穴の深さが16μmの試料の場合、摩擦試験後ではグリースが小穴8から小穴8に移動している跡が見られた(図19の矢印Aで示す部分参照)。これにより、小穴8の深さが最適であると、小穴8に溜まったグリースが小穴8から小穴8に移動するから、小穴8から相手部材との摺接面(図1参照)にグリースが供給され、摩擦係数の低減に繋がったと推測することができる。一方、小穴の深さが小さい場合(図19の深さ2μmの場合参照)、グリース溜りが生じず、小穴間のグリースの移動がないので、摺接面に介在するグリース量が不安定となり、摩擦係数のばらつきが大きくなったと推測される。また、深さが大きい場合(図19の深さ53μmの場合参照)、元の深さより摩擦試験後の深さが小さくなっている(図19の「断面形状」欄参照)ことにより、グリースが溜まっていることは確認できるが、グリースの移動跡は余り見られないことから、摺接面に介在するグリースの量が少なく、これによって、摩擦係数が上昇したものと推測される。
【0027】
前記のように、例示のレーザ加工機では、開口径が40μm以下の小穴加工ができないため、熱拡散がなくアブレーション加工により熱変質の影響を抑制することが可能であり、YVO4レーザより極端にパルス幅の小さいフェムト秒レーザによりレーザ加工を行った。使用したフェムト秒レーザによって加工することができた最も小さい小穴開口径は15μm、深さは3μmであった。また、摩擦特性上最適な深さとされる15μm程度の小穴を形成しようとすると開口径は26μmとなった。このフェムト秒レーザで小穴加工した試料(開口径26μm、深さ15μm、占有面積率8%)と、YVO4レーザで小穴加工した試料(開口径52μm、深さ14μm、占有面積率10%)について、前記と同様に摩擦特性の試験をしたところ、フェムト秒レーザによる試料は、YVO4レーザによる試料程の摩擦低減効果は得られなかった。しかし、フェムト秒レーザの条件を変えることにより、開口径を26μmより小さくすることは可能であり、また、グリースの粘度を下げることにより、小穴間のグリースの移動性を良くして摩擦低減効果を高めることも可能である。従って、YVO4レーザとフェムト秒レーザとを適宜使い分けることによって、開口径を5〜70μmに制御可能とし、この意味から、開口径の望ましい範囲を5〜70μmとすることができる。しかし、YVO4レーザのみを使用する場合は、開口径の望ましい範囲は40〜70μmが望ましい範囲とされる。ここでは、40μm以下の小穴加工に、フェムト秒レーザを用いたが、これに限らず、ピコ秒レーザを用いて加工を行っても良い。
【0028】
図20は、事前にレーザの連続照射によってゴム基材用試料70の表層部を剥離した後にレーザ加工機によってゴム基材用試料70に小穴を形成する要領を示す概念図である。図20における2点鎖線は、ゴム基材用試料70の表層部が事前に除去されていることを示している。このような表層部の除去は、連続(CW)モードで所定の速度で走査させながら照射することによってなされる。図21(a)(b)は、前記のようにレーザの連続照射によって表層部を除去したゴム基材用試料70の表面の親水性及び親油性について、加工処理時のレーザ照射の周波数との関係を調べた結果を示している。図21(a)は、各周波数のレーザ連続照射によって表層部を除去したゴム基材用試料70の表面に水の小滴を滴下し、水滴のゴム基材用試料70の表面上での接触角を測定した結果を示している。この結果から、レーザ照射の周波数を高める程、加工表面の親水性が悪くなり、撥水性が増すことが理解される。また、図21(b)は、各周波数のレーザ連続照射によって表層部を除去したゴム基材用試料70の表面にヘキサデカンの小滴を滴下し、ヘキサデカン滴のゴム基材用試料70の表面上での接触角を測定した結果を示している。この結果から、レーザ照射の周波数を高める程、加工表面の親油性が良くなり、20kHzを超えるとヘキサデカンがゴム基材用試料70の表面に馴染み、液滴形状が崩れ、ゴム基材用試料70の表面に広がるようになる。
【0029】
このように、レーザ照射の周波数を適宜設定することにより、ゴム基材の撥水性及び親油性を使用目的に応じて適正に制御することができる。特に、軸受のシールリング等のシールリップ部に使用する場合は、撥水性を高めることにより外部から軸受内部への泥水等の浸入阻止に有効であり、また、親油性を高めることにより、潤滑剤として用いられるグリース等との馴染み性が向上し、その潤滑効果がより顕著となる。これと小穴形成による前記特性とが相乗して、軸受用シール部材としての適性がより高められる。
【0030】
尚、図1では、本発明の加工処理が施されたゴム基材が、パックシールタイプのシールリング1を構成するシールリップ部4〜6を含むシール部材7である例を示しているが、これに限定されず、他の構成のシール部材に適用することも可能であり、これにより同様の効果を得ることができる。また、図1では、内輪側回転、外輪側固定の軸受に適用されるパックシールタイプのシールリングを例に採ったが、これらの回転・固定関係が逆の軸受に適用されるパックシールタイプのシールリングにも本発明が適用され得ることは言うまでもない。更に、潤滑剤としてグリースGを例示したが、その他の潤滑油を用いる場合にも、本発明のシール部材を適用することができる。
【符号の説明】
【0031】
2 スリンガ(相手部材)
3 芯金
7 シール部材
70 ゴム基材
700 ベース部
4〜6 シールリップ部
4a〜6a 摺接面
8 小穴
G グリース(潤滑剤)
【特許請求の範囲】
【請求項1】
相手部材に対して弾性的に相対摺接する摺接面を含むゴム基材からなるシール部材であって、
前記ゴム基材の少なくとも前記摺接面を含む表面に、深さが3〜20μm、開口径が70μm以下の多数のディンプル状小穴がレーザ加工によって形成され、該小穴が形成された領域における小穴の開口部が占める面積の割合が5〜50%とされていることを特徴とするシール部材。
【請求項2】
請求項1に記載のシール部材において、
前記ゴム基材が芯金に固着されるベース部と、該ベース部より延出されたシールリップ部とを含み、該シールリップ部の先側に前記摺接面を有していることを特徴とするシール部材。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のシール部材において、
前記小穴は、レーザの連続照射によってゴム基材の表層部を剥離した後に形成されたものであることを特徴とするシール部材。
【請求項1】
相手部材に対して弾性的に相対摺接する摺接面を含むゴム基材からなるシール部材であって、
前記ゴム基材の少なくとも前記摺接面を含む表面に、深さが3〜20μm、開口径が70μm以下の多数のディンプル状小穴がレーザ加工によって形成され、該小穴が形成された領域における小穴の開口部が占める面積の割合が5〜50%とされていることを特徴とするシール部材。
【請求項2】
請求項1に記載のシール部材において、
前記ゴム基材が芯金に固着されるベース部と、該ベース部より延出されたシールリップ部とを含み、該シールリップ部の先側に前記摺接面を有していることを特徴とするシール部材。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のシール部材において、
前記小穴は、レーザの連続照射によってゴム基材の表層部を剥離した後に形成されたものであることを特徴とするシール部材。
【図1】


【図2】


【図3】


【図4】


【図5】


【図6】


【図7】


【図8】


【図9】


【図10】


【図11】


【図12】


【図13】


【図14】


【図15】


【図16】


【図17】


【図18】


【図19】


【図20】


【図21】




【図2】


【図3】


【図4】


【図5】


【図6】


【図7】


【図8】


【図9】


【図10】


【図11】


【図12】


【図13】


【図14】


【図15】


【図16】


【図17】


【図18】


【図19】


【図20】


【図21】


【公開番号】特開2012−246974(P2012−246974A)
【公開日】平成24年12月13日(2012.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−117989(P2011−117989)
【出願日】平成23年5月26日(2011.5.26)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の再委託研究の成果に係る特許出願(平成21、22年度経済産業省「地域イノベーション創出研究開発事業(組織制御したゴム材のレーザ光による先進的自動車部品の創生)」再委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願)
【出願人】(000225359)内山工業株式会社 (204)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年12月13日(2012.12.13)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年5月26日(2011.5.26)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の再委託研究の成果に係る特許出願(平成21、22年度経済産業省「地域イノベーション創出研究開発事業(組織制御したゴム材のレーザ光による先進的自動車部品の創生)」再委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願)
【出願人】(000225359)内山工業株式会社 (204)
【Fターム(参考)】
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