説明

ジアミノジフェニルエーテルの製造方法

【課題】アミノフェノール、またはニトロフェノールと、p−ハロニトロベンゼンをアルカリ金属存在下、蒸発潜熱の小さい極性溶媒中で縮合反応させ、固液分離した後、水素化触媒存在下で水素を使用して還元し、精製してジアミノジフェニルエーテルを経済的に製造する方法を提供することにある。
【解決手段】上記課題は、アミノフェノールまたはニトロフェノールと、p−ハロニトロベンゼンをアルカリ金属化合物存在下、極性溶媒中で縮合反応させ固液分離した後、固液分離後の液体成分に水素化触媒を投入し、極性溶媒中で水素を使用して還元反応を行うことを特徴とするジアミノジフェニルエーテルの製造方法によって解決することができる。
好ましくは蒸発潜熱が540kJ/kg以下である溶媒を用いることである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、機能性ポリアミドの原料に使用されるジアミノジフェニルエーテルの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ジアミノジフェニルエーテルを製造するにあたり、極性有機溶媒を使用するが、製造工程より回収し、精製することで再利用し、環境負荷を抑えることが必要になってくる。例えば低塩素ジアミノジフェニルエーテルの製造において、非プロトン性極性有機溶媒であり、蒸発潜熱の大きいジメチルスルホオキサイド(DMSO、550kJ/kg)を使用することで、製品中塩素濃度を10ppm以下にすることが可能と記載されている(例えば、特許文献1参照。)。機能性ポリアミド、例えばコーネックスといったアラミド繊維の製造においては、テレフタル酸クロライドとジアミノジフェニルエーテルを使用しており、塩素が他の原料より入ってくるため、ジアミノジフェニルエーテルの低塩素化が必須ではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第4473148号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、ジアミノジフェニルエーテルの製造において、溶媒の精製過程でのエネルギー消費の抑制方法を提案することにある。
更に詳細には、アミノフェノール、またはニトロフェノールと、p−ハロニトロベンゼンをアルカリ金属存在下、蒸発潜熱の小さい極性溶媒中で縮合反応させ、固液分離した後、水素化触媒存在下で水素を使用して還元し、精製してジアミノジフェニルエーテルを経済的に製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、上記課題の解決のため、鋭意検討した結果、アミノフェノールまたはニトロフェノールと、p−ハロニトロベンゼンをアルカリ金属化合物存在下、極性溶媒中で縮合反応させ固液分離した後、固液分離後の液体成分に水素化触媒を投入し、極性溶媒中で水素を使用して還元反応を行うことを特徴とするジアミノジフェニルエーテルの製造方法を見出した。好ましくは蒸発潜熱が540kJ/kg以下である溶媒を用いることである。
【発明の効果】
【0006】
縮合反応、及びそれに続く還元反応で溶媒を変更することなくそのまま使用し、また使用する溶媒を回収して再利用し、かつ蒸発潜熱の小さい溶媒を使用することで精製に必要なエネルギーを最小限にすることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】本願発明の製造方法を示したブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下に、好ましい実施の形態を挙げて、本発明の詳細を説明する。本発明の製造方法においては、アミノフェノールまたはニトロフェノールと、p−ハロニトロベンゼンをアルカリ金属化合物存在下、極性溶媒中で縮合反応させ固液分離した後、液体成分に水素化触媒を投入し、極性溶媒中で水素を使用して還元反応を行う。
【0009】
原料に使用するアミノフェノール、若しくはニトロフェノール(以下、アミノフェノール等という。)とはo−,m−,p−アミノフェノール、ニトロフェノールが挙げられ、p−ハロニトロベンゼンにおけるハロゲン原子はフッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子など特に限定しないが、原料の調達のしやすさ等から、p−クロロニトロベンゼンがより好ましい。またこれらの化合物の芳香族環の1つ又は2以上の水素原子は、後述する縮合反応、水素化反応に対して反応を阻害しない不活性な官能基に置換されていても良い。また、用いるアルカリ金属化合物はアルカリ金属炭酸塩、アルカリ金属炭酸水素塩が挙げられ、好ましくは炭酸セシウム、炭酸ルビジウム、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸リチウムが挙げられ、より好ましくは炭酸カリウム、炭酸ナトリウムが挙げられる。そのアルカリ金属化合物の縮合反応における使用量としては、アミノフェノール等1モルに対し1〜1.5モルであることが好ましい。
【0010】
また、縮合反応の際に使用する溶媒で具体的には、極性溶媒の有機溶媒である、DMSO(蒸発潜熱550kJ/kg)よりも蒸発潜熱の小さい極性有機溶媒、好ましくはピリジンやN,N−ジメチルアセトアミド、より好ましくはN,N−ジメチルホルムアミド(DMF;蒸発潜熱530kJ/kg)を使用することで、溶媒精製の際のエネルギー使用量を削減することが可能となる。好ましくは蒸発潜熱が540kJ/kg以下である極性溶媒を用いることが好ましい。その極性溶媒の投入量では、反応効率の点とエネルギー的観点からアミノフェノール100重量部に対し200〜300重量部であることが好ましい。縮合反応は常圧下、130〜170℃、反応時間は4〜12時間となる。蒸発潜熱が小さいので、溶媒の蒸発を伴う減圧による溶媒留去、蒸留精製などの単位操作におけるエネルギーが少なくて済むので、結果としてエネルギー使用量の削減が可能となる。このようにして縮合反応によりアミノフェノール等とp−ハロニトロベンゼンからジニトロジフェニルエーテルやp−ニトロフェニルアミノフェニルエーテル等を得ることができる。
【0011】
上記縮合反応後得られた縮合反応後の溶液は縮合反応時に生成する無機塩を含有するスラリー状態で得られるのが通常である。そのアルカリ金属と原料由来のハロゲン元素からなる無機塩を含む固体を固液分離する操作の後、反応液をそのまま水素を使用した還元反応に使用することが出来る。ここで必要であれば、溶媒を留去して新たに別の有機の極性溶媒を用いることも何ら問題なく実施することができる。その極性溶媒しては、反応生成物が溶解ないし分散されることが必要であるが、上述したピリジン、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミドを好ましく挙げることができる。水素を使用した還元反応に使用する水素化触媒とは、通常の水素による還元で使用する触媒でよく、例えば、ラネーニッケル、パラジウムカーボン、白金触媒、パラジウム触媒が挙げられる。反応は20〜160℃、より好ましくは50〜120℃で行われる。反応圧力は常圧〜5MPa、より好ましくは常圧〜2MPaであり、水素化の反応時間は1〜2時間である。このようにして水素化還元反応によりジニトロジフェニルエーテルやp−ニトロフェニルアミノフェニルエーテル等からジアミノジフェニルエーテルを得ることができる。
【0012】
還元反応後、水素化触媒を回収するための操作、例えばサイクロンなどの固液分離装置を用いて反応液と触媒を分離することが出来る。分離された反応液を溶媒と粗ジアミノジフェニルエーテルに分離する。分離方法は蒸留等で分離することが出来る。粗ジアミノジフェニルエーテルは250〜270℃、減圧下、−80kPa〜−100kPaで精製し、純度99%以上のジアミノジフェニルエーテルを得ることが出来る。
【0013】
また製造段階で溶媒は、縮合反応によるエーテル化反応の際の留去物、縮合反応後の固液分離後のケーク洗浄液、粗ジアミノジフェニルエーテルの精製段階の留去物として回収することが出来る。ケーク洗浄液については縮合生成物が含まれているので、縮合生成物とともに還元反応を行うことが可能である。エーテル化で留去される溶媒、粗ジアミノジフェニルエーテル精製段階で留去される溶媒を回収し、蒸留などにより精製することができる。回収された溶媒中には縮合反応で副生した水分が含まれるため、常圧下、100℃で水分を除去した後、常圧下、120〜160℃で溶媒を留去して、純度98%以上の溶媒を得ることが出来る。そしてその回収した溶媒を、再び上述した縮合反応の溶媒、水素化還元反応の溶媒及びケーク洗浄液として再利用することが可能である。上記方法にて得られたジアミノジフェニルエーテルは、高性能ポリアミド繊維等のモノマーとして好適に使用出来る。
【実施例】
【0014】
原料として、アミノフェノールにm−アミノフェノールを、p−ハロニトロベンゼンにp−クロロニトロベンゼンを、溶媒にDMFを使用しているが、異性体やハロゲン元素についてはこれらに限定するものではない。また、収率、純度を求める際にガスクロマトグラフィー(GC)によって組成を決定し、算出した。
【0015】
また、後述する使用エネルギー差の算出について、各溶媒の顕熱、及び潜熱を以下の参考文献値の数値データより算出した。
[参考文献]
・溶剤ポケットブック(社団法人 有機合成化学協会 編)及び15710の化学商品(化学工業日報社 編)
【0016】
[実施例1]
縮合反応器にm−アミノフェノールを43.0g(0.39mol)、p−クロロニトロベンゼンを65.6g(0.42mol)、炭酸カリウムを30.3g(0.22mol)仕込み、精製され回収されてきたDMFを120g(1.6mol)入れ、160℃、常圧下で4時間反応させた。上述の「精製され回収されてきたDMF」とはm−アミノフェノールとp−クロロニトロベンゼンの縮合後、縮合生成物を水素添加により還元反応を行い、還元反応に使用した溶媒を更に蒸留により精製したDMFを言う。主な生成物として3−アミノ−4’−ニトロジフェニルエーテルが88.9g(0.39mol)得られた。収率は97.8%であった。その他の不純物として、未反応原料の他に、原料中不純物であるo−アミノフェノール、m−クロロニトロベンゼンからなる2−アミノ−3’−ニトロジフェニルエーテルが固液分離後のGC組成で0.31%得られている。縮合反応で副生した塩化カリウムを濾過、濾過後のケークをDMF56gで洗浄後、洗浄液と濾液を混合した液体に、DMFでスラリー化させた5%パラジウムカーボンを1.1g加えた後、80℃、0.8MPaで40分反応させた。生成物として、3,4’−ジアミノジフェニルエーテル(DAPE)を含む液体が278g得られた。触媒を固液分離で回収した反応液を減圧下10kPa以下で、100〜120℃でDMFを留去し、粗DAPE124gと留去DMF154gを得た。留去DMFの他に、エーテル化で留出されたDMF、及び遠心分離でケークを洗浄した後のDMFを回収し、100℃で水分を飛ばした。続いて155〜165℃、常圧でDMFを精製し、純度99.5%のDMFを得た。
【0017】
[比較例1]
上記実施例で、溶媒をDMFからDMSOに変えて同様にDAPEを製造した。同じ条件で溶媒を精製した結果、必要エネルギーとして1.3〜1.6倍増加した。
【産業上の利用可能性】
【0018】
本発明により、ジアミノジフェニルエーテルの製造で、反応に使用する溶媒を低沸点であるDMFを使用することで溶媒精製に要するエネルギーの削減が可能となり、かつ再利用することで系外に排出する有機廃棄物の低減が可能となり、産業上利用する意義は大きい。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アミノフェノールまたはニトロフェノールと、p−ハロニトロベンゼンをアルカリ金属化合物存在下、極性溶媒中で縮合反応させ固液分離した後、固液分離後の液体成分に水素化触媒を投入し、極性溶媒中で水素を使用して還元反応を行うことを特徴とするジアミノジフェニルエーテルの製造方法。
【請求項2】
極性溶媒の蒸発潜熱が540kJ/kg以下であることを特徴とする請求項1記載のジアミノジフェニルエーテルの製造方法。
【請求項3】
還元反応後の極性溶媒を精製し、縮合反応に再利用することを特徴とする請求項1または2に記載のジアミノジフェニルエーテルの製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2012−82161(P2012−82161A)
【公開日】平成24年4月26日(2012.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−229665(P2010−229665)
【出願日】平成22年10月12日(2010.10.12)
【出願人】(000003001)帝人株式会社 (1,209)
【Fターム(参考)】